PARALLEL WHITE ALBUM2(仮題)   作:双葉寛之

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改訂と名付ける程じゃないですが、細かく気になった部分を訂正。
文章自体は特に変更はありません。


EPISODE:4として上げる事ができなかった後半部分です。

話は少しずつですが進展していきます。


EPISODE:4.5 Rev1.0

「本当に……すみませんでした……」

 

 まだ脛の痛みが引いてないのか、涙を堪える故にだみ声気味に謝る春希。

 そんな春希に対して「ちゃんとわかってるのか?」と、かずさはメニューを縦にして頭を叩き続ける。

 

 メモ紙を死守したものの、代償は大きかった。もっとも、あんなハプニングでもなければかずさの”すばらしき武器”を触る機会なぞありやしないと。春希はプラス思考に捉えること――とりあえずはラッキースケベの神様に感謝することにした。

 

 

「勇者じゃなくて英雄になっちまったなぁ」と武也は遠い目をする武也。

 

 

――いやいや、俺は少しだけ大人になったのだよ。

 

邪な考えが伝わったのだろうか、かずさのメニュー攻撃の勢いが更に強くなった。

 

 

「春希はおっぱいだったら誰にでも見境なく飛びつくんだね」

 

 あたしだけじゃなかったのね。と自分の胸を揉みながら千晶は「水沢さんも気をつけようね」と依緒にまで話を広げる。

 

 

「北原をそこの種馬と一緒にするな」

 

 何故かムキになるかずさと、何故かいわれのない誹謗を受ける武也。

 依緒の隣に座るかずさに「俺は公衆の面前でわいせつな事はしてないぞ」と反論しつつ目の前の千晶を見ながら話を続ける。

 

 

「そんなに春希を苛めるなよ瀬能。お前が本心からそう思ってるとは到底思ってはいないけどさ。そんな風に印象を悪いように持っていかれると、親友としては少し辛い。」

 

 武也の意外な反応に目を丸くする千晶とかずさ。

 

 彼女らは武也のことを――容姿の良い女性に対して誰かれ構わず声をかけ、また実際に存分に遊びまわる軽薄な男。つまりは人間関係全てにおいて軽薄なんだろう。何故春希は彼と友人関係を築いているのだろうか……。

 

 簡単に書くと上記のように思っていた。故に友達思いな一面に意外を感じていた。

 

 

「へぇ……。種馬だなんて決めつけてたのを修正するべきか……」

 

 

――友達思いの種馬だな。 

 

 もちろんかずさは口に出すことはしないが。

 

 

「意外と友達思いの種馬なんだね、飯塚君」

 

 躊躇いもなく口に出す千晶。依緒はたまらず笑い出す。「おい依緒」と抗議しようとする武也に依緒は「おい依緒はやめてよね。回文じゃないそれ!」と腕を抓った。

 

 

「意外といえば、どうして春希はギターと作詞を? まさか本当に飯塚君の言うとおりモテたかった?」

 

「……わ、悪いかよ……」

 

 

 出来れば避けたかった話題だろう。春希は戸惑いの表情を浮かべながら膝を擦るのをやめ、アイスコーヒーを一口啜ると、観念したように口を開く。

 

 

「そりゃ、俺にだって勉強だけじゃなくて何かしらの形を残したかったんだ。それが、モテたいからだと言われても否定は出来ないよ。現にこんな恋愛モノラブソングを書いてみたくらいだしな」

 

 そう、ギターなら。言葉ではなく音でなら。伝えることは出来なくても聴いてもらえたら……。

 ステージで格好良く決める自分の姿をかずさに見てもらえたら。まともに話してもウザがられて煙たがられても、音楽でなら。

 

 伝わるかもしれない。好きになってくれるかもしれない。そう思って手にとったギター。

 

 しかしその決意も、自分の少しも上達する気配がない腕前を実感してすぐに挫折しそうになる。

 

 そんな時に女子生徒がボーカルとして軽音楽同好会に加入すると聞いた時、最後の希望が見えた。

 

 

 もしギターがダメでも自分が作った詞を歌って届けてもらえたら。例えかずさが聞いてくれても自分のことに気付いてはくれないだろう。しかしどうにかして想いを伝えたかった。本人はわからないだろうが、自分のけじめとして折り合いは付けたかった。

 

 それに、もしその後話すときにライブの話題が出て、あの時の歌詞は俺が作ったと話すことができれば……あるいは。

 

 藁にすがる思いではあるが。今考えてみても中二病こじらせてるようなもんだが――あの時の春希はいたく真剣であった。

 

 必死に詞を読みあさったり、作詞の参考書を見たりしながら。メモ紙にまずは気持ちを書いて、それからノートに整えて。

 

 もちろん、ギターの練習だってまじめに取り組んだつもりだ。

 

 武也はからかうことはあれど少しも教えてくれなくて諦めようとしたこともあったが。隣の教室――第二音楽室の顔も見たことがないエリートがピアノの音で語るように教えてくれて……。

 

 あれから火曜日木曜日の活動後、毎度の自主練が楽しく思えて……。それが作詞へのモチベーションへと繋がって……。

 

 

――あぁ、俺ってすごい健気だな。なんだか泣けてきそう。

 

 

「そうだそうだ、モテたくて何が悪いんだ、俺だってギターで目立ってるところを見てほしいくらい思う!歌で伝えたいと思って何が悪いんだよ」

 

話していながら当時考えてた秘めた思いがあふれてきた春希は、振りきって忘れようとせんばかりに

開き直ってることにした。

 

 

 

 

「いいや、悪くないよ」

 

 

 

 

思わぬところから春希を慰める声がかかる。向かいの席、かずさだ。

 

 

「女の子ってのは例えば――すこし悪ぶってていて怖い印象を与えても自分にだけ少し優しく接してくれる。……いや、あくまで例えばの話だぞ。そんな普段とは異なる意外な部分を見せられると、ついカッコイイって思ってしまうもんなんだよ」

 

 だから、普段真面目な北原が、カッコつけたいという意外な一面性を見せることは全然悪くない。と珍しく饒舌にかずさは語る。

 

 

「北原のギターが下手なままでも、詞をきちんと完成して文化祭で見せてくれよ。あたしはそれが見たい。応援する」

 

「冬馬……」

 

 向かい合う春希とかずさの間に何とも言えない雰囲気が醸し出される。甘酸っぱいような、青春の匂いのような……つまり。

 

「なんかクーラー効いてないんじゃねー!? すっげー暑いんですけどー!」

 

「武也、アイス追加で頼んで」

 

「おーおー、いいね依緒。俺もフロートにすっかなー」

 

 囃し立てて盛り上がる3人に必死に反論しようとするかずさ。やいのやいのと盛り上がる彼らを見ながら春希は一人、先程の会話に違和感を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、春希ってやっぱWHITE ALBUM好きなだけあるな。歌詞が森川由綺っぽいというか控えめというか後ろ向きな恋愛調というか。同年代の緒方理奈だと奪い取るような勝ち気で前向きの恋愛ソングが多いんだけどな。」

 

 そういやお前未だに部屋に遊びに行くと流れてるし。リマスター音源版揃えてるし。ケータイにも入れてるし。フロートを一口飲んだ武也はまだ話題を続けてきた。

 

 

「えー、そこがいいんじゃない。グイグイと前面に自分の気持ちを推し出すだけじゃない。どこか控えめではあるんだけど、内に秘めた切ない想いが伝わってくる。……そういうもどかしい、森川由綺のような歌詞を春希が書くことに意味があるんだよ」

 

 

 非常にこそばゆい意見をもって武也に異を唱える千晶。その恥ずかしさをぐっと堪えて、春希はいっそ平然とすることにした。

 

 

「古臭いっていうんだろ。好きなもんは仕方がないだろ。ホント、なんで突然引退したんだろうなぁ。」

 

 清純な出で立ちに、はにかむような表情。それでいて透き通るような声で綴られる冬の想い出の歌。

 

 昔、子供の頃、TVで見ていた。毎年春に行われる音楽祭。そこに一度だけ現れた当時人気を集めていたアイドル――森川由綺。

 

  同じ緒方プロに所属する当時ライバルと言われた緒方理奈との合作の、同名のアルバムタイトルをも飾った。冬の定番の今でも名曲と言われる”WHITE ALBUM”――彼女の最初で最後のアルバムだが、それを春希は生まれて初めて自分のお小遣いで買った事を今でも覚えているし。大切に保存していた。

 

 

「いや、いいけどさ。しかしこのままじゃそれが形になっても披露出来ないぞ」

 

 春希の手元にある歌詞ノートを指しながら大丈夫か? と指摘する武也。

 武也の危惧するその指摘――つまりは春希の果たして文化祭に間に合うかどうか疑問に思えるギターの腕前のことである。

 

 歌詞も作った。メロディも作った。しかし肝心な本人が碌に弾けないがためにステージに立てませんでした。それじゃ話にならないぞと武也は心配する。

 

 

「お前ちっとも教えてくれないのによく言うな」

 

 自分にギターを勧めておいて、まともに教えてくれないお前がそれをいうのかという表情を作りながら春希は言葉を続ける。

 

 

「俺に親切に教えてくれるのは第二音楽室の主であるエリート君だけだよ。お陰で少しずつだが上達してるだろ。彼の教えを無駄にしないためにも間に合わせてみせるよ。

 ホント、会ったらいくらお礼をしてもしたらないよ」

 

「あぁ、前にお前が言ってた奴のことだな。

 お前、その第二音楽室の主が男でもさ、抱いて!とか言い出しそうだよなー」

 

 っつーかあれって3年H組音楽科の”松川君”なのか? からかう武也に春希はお前より人間的に素晴らしいのは確かみたいだな、と春希は平然と応酬する。

 

 え、なになに、何の話? 話の続きを促す千晶と依緒。

 新たな話題に盛り上がろうとする彼らを他所に。かずさの表情は止まっていた。

 

 

 

 

 

――ちょっと、待てよ。

 

――なにをいってるんだ、こいつら?

 

――何の話をしている?

 

――第二音楽室の主?

 

――エリート君?

 

――っていうか”松川君”って誰?

 

――会ったらお礼?

 

――もしかして、今まで……。

 

 

 

 

 

 

 

「あははははは!」

 

 

 

 

 

 

 突如、昼ドラか? と間違えるような。かずさとは思えない笑い声が響く。

 豹変したかのような声に驚き何事かと、どうしたのかと困惑する春希達。

 千晶だけは大女優の予感!? と違う意味で驚いていたが。

 

 春希達だけでなく近くに居た他の客も突然のことに一瞬だが注目を集めていた。

 

 

 

 一息ついたかずさは笑い終わって俯いた顔を上げ、春希を見つめた。

 

 

 

「北原、今までずっと、あたしが教えていたこと……。気付かなかったのか?」 

 

 

 

 予想をしていなかった突然の告白に口の中に乾きを覚える春希。

 

 

「え……冬馬。教えてくれていたのは……お前だったのか?」

 

 つぶやくことしか出来ない。

 

 

 先程感じていた違和感。『ギターが下手なままでも――』……そういう意味だったのか。と理解し始めていた。

 

 

 

 その言葉を聞いたかずさは再び俯き、身体を微かに震わしていた。

 

 

 こいつが、今まであたしが邪険にしながらも接してきたのは、委員長としての責務もあるだろうし、あたしが”音楽”を教えてあげてるから。そのお礼だというクソ真面目で”うざしつこい”義理感からだと思っていた。

 

 だってそうだろう? 1ヶ月以上もだよ。自分は春希に対して最低限の受け答えしかしない。うざいお説教を受けることが何度か続いては癇癪を起こすように激昂する。普通は愛想を尽かして相手になんかしない。現に1年も2年もそうだった。

 

 なのにこいつは……。春希はそんなことを関係なしにうざったらしく何度も何度も世話を焼いて。馬鹿みたいに面倒を見て。

 

そしてこいつらは春希からあたしのことを聞いてコネだのなんだの下心の為に接触してきたわけじゃなくて。

 

 そのくらい考えたっていいだろうに。馬鹿だからそんなことも思いつかずに。馬鹿みたいに騒ぎに来て……。

 

 たまにいう皮肉もプライドから来てるものかと思ったけど、本心からからかってきているだけで。

 

 ホント、馬鹿だなこいつら……。

 

 

 でも……、馬鹿だったのはあたしか……。

 

 

 ほんとに、もう……。

 

 

 

 

 くくく、と俯いたかずさからこらえるような笑い声が聞こえる。

 

 再び顔上げると、馬鹿だな北原は、と笑いながら、先ほどの春希が呟いた問いに答えた。

 

 

 

「そうだよ、あたしがアンタを教えていたんだよ」

 

 

 

 

――拓未、あんたがあたしの背中を押してくれたから。

 

――少しだけ受け入れて違う視野見ることが出来たから

 

――初めて仲間っていいなって、思えたよ。

 

――世界って、そう悪いものでもないんだな。

 

 

 かずさは嬉しかった。今までピアノを通してでしか接点が無かった春希。それに加えて今日――たった1日で放課後に遊びに出掛ける程の友達が出来たこと。

 1年生のときも、2年生になっても必要とは思わなかったし、到底つくろうとは思えなかった仲間。その絆を作るきっかけとなった拓未の後押しは、かずさにとって全く新しい世界を築こうとしていた。

 

 

 

 




かずさ視点でサブタイトルを決めるとすると「あたしが育てた」でしょうか。

雪菜ディスってるように見られてしまいがちですが、私は特別かずさ派ではないし。千晶が好きだし。何より小春に先輩と呼ばれたい人間です。
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