この戦争は負ける! 俺にはわかる!! 作:はせがわ
「もしもし、フナキ軍曹ですか? わたくしです、ノリコです」
「はっ! こちらフナキ軍曹であります。ご機嫌麗しゅう、女王陛下」
UC1943年。桜咲き乱れる美しいうどん国の春。
大うどん帝国女王であるノリコは、例の如く幼馴染であるフナキ軍曹へと無線で連絡を取っていた。
ちなみにUCとは“Udon Century“の略であり、“うどんの世紀“という意味。
偉大なるうどんがこの世に誕生してから1943年目ですよ、という事である。この国独自の物だ。
「……むぅ。フナキ軍曹はイジワルです……。
いつものようにノリコとお呼びください」
「はっ! それではフナキ軍曹、陛下の命を遂行致します。
……で、どうしたノリコ? 例によって俺は、
遠く南国の地で御国への奉公をしている所だが」
「…………」
いつもの事ながら、この緩急。緩急よ。
フナキ軍曹と連絡を取る時、いつもあまりにも冷淡で事務的な声で挨拶をされる物だから、「えっ、わたくし何か悪い事でもしたかな? 嫌われる事したかな?」と不安になってしまうノリコなのである。
後の砕けた口調や暖かな声色を聞けば、彼がノリコをからかっている(ノリコで遊んでいる)のは明らかなのであるが。
「関係ないですけど、本当にまた戦地へ行ったのですね軍曹……。
全治何か月という致命傷だらけだったというのに」
「あぁ、再びこの地を踏む事が出来、感無量といった心境だ。
引き続き立派に奉公してみせるぞ。期待しててくれノリコ」
前回、出来ればあまり使いたくないと思っている伝家の宝刀“大元帥命令“を発動してまで、ノリコは無理やり彼を本土に呼び戻した。
命令を受けたフナキは即座に浜辺へと繰り出し、本当に敵の軍艦に飛び乗り、船を強奪し、本土まで送らせて帰って来たのだ。
途中本土を目前とした所で船を敵潜水艦に撃沈されたそうだが、そこからは根性で泳いで帰って来たそうな。
単独での敵艦の強奪、撃破。そして敵乗員600名あまりを海の藻屑とした。それが此度のフナキの戦果である。
しかしながらフナキは本土の地を踏み「ふぅ」っと一息ついた後、その足で軍司令部に向かい、次の戦地への出兵を嘆願。光の速さで東南戦線への復帰を果たした。
彼は故郷の駅に到着後、売店でゴクゴクと牛乳を飲み、その1分たらずの時間を「故郷での休養」とし、再び戦場へトンボ帰りしていったのだそうな。
「えぇそうですか。どうぞ思う存分奉公してください軍曹。
よほど貴方は戦争がお好きなようですし。……わたくしの事より」
「……ノリコ」
一目もノリコに顔を見せる事なく、フナキは戦場へと戻っていった。
あれから一か月ほどの時が経つが、ノリコは未だにその事を根に持っている。
そしてその復讐では無いが、最近ノリコからの無線連絡の頻度が格段に増えているような気がする。
文句なんか言わせません。わたくしは貴方に怒っているのですと、自分に言い訳をしつつ彼に甘えている。
国の事、戦の事、そして彼の事。最近とてもうっ憤が貯まっているノリコなのであった。
「て……手柄を立てる。
今から100人くらいぶっ殺してくるから、それで機嫌を直してくれないか?」
「そういうのはいいです。ご自愛下さい。
……と言っても、貴方には無駄なのでしょうけれど」
脳筋、呆れるくらいの戦狂いだ彼は。
しかしながら、せっかく彼とお話をしているのだし、いつまでも困らせてばかりいるのは彼女の本意ではない。
ノリコだって、楽しくおしゃべりがしたい。恋する乙女なのだ。
「それはそれとして……実は今日、とても良い知らせがあったのです!
この腐ったヘドロのような人生の中……滅多に無い愉快な知らせです!」
「ノリコ」
日々の激務に疲れているのか、なにやら口調がおかしくなっているノリコ。精神が病んで来ているのだろうか。
「これはまるで、入道雲そびえ立つ夏の暑い盛り、
そこに突然出来た木陰の涼しさのような朗報なのです!
聞いて下さいますか軍曹?」
「いや、もちろんそれは構わんが、少し落ち着くといい」
フナキに一度水でも飲む事を勧められ、時間を貰って「ゴクゴク、ぷはぁ」と一息つくノリコ。
それでも彼女の喜びは止まらない。溢れ出さんばかりの様子である。
それにしても敗戦続きの我が軍に、そんな朗報などあるのだろうか? 無線の向こう側でフナキは首を捻る。
最近聞いた西部戦線の情報では、我がうどん軍の兵が戦車を藁で偽装して隠したは良い物の、さぁ敵が来たのでいざ使おうとした時に、何故か動かなくなっていたという物があった。
よくよく調べてみると、どうやら藁を食べようと集まってきた“ネズミ“が原因のようで……。
ネズミに配線を齧られたうどん軍の戦車隊はその全部が故障し、それが原因で何も出来ずに全滅したのだそうだ。
この件は「ネズミにやられたうどん軍」として、世界各地でちょっとした話題になったらしい。
この地獄の釜の底のような戦場に、まるでそよ風のような爽やかさを持って、ひと時の笑いを届けた。
ノリコが言う朗報とは、それとはまた違う話なのだろうが……。
「実はですね? 以前から制作を依頼していた“うどん軍のうた“のサンプルが、
今日になってわたくしの元に届いたのですっ!
国を明るくするには、まずは人の心からです!」
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ヒゥイゴー ヒゥイゴー カモンカモン
ヒゥイゴー ヒゥイゴー カモンカモン
そんな軽快なノリで始まる、世界でも類を見ない程に愉快な国歌がうどん国にはあるのだが……、実の所あんまり好評では無かったりする。
あまりにもうどん国の国民性と乖離しすぎているのだ。なんやカモンカモンて。
「わたくしとしては、嫌いではないのですけれど……。
他の国々がこぞって栄えあれ、敵を殺せと歌う中、
我が国の国歌は“恋の歌“なのです。これはとても誇れる事だと思います」
「うむ。同感だ」
カモンカモンの冒頭部分はともかく、内容自体はすごく素晴らしい。この国の国民性を表すような、とても“粋“な歌なのである。
サビの途中で「ベイビー」とか言ったりもする。
しかしながらその声を受け、この度ノリコ女王陛下が発案したのは、「みんなに愛される歌を作ろう!」という物。
これはいわゆる戦時歌謡、もしくは“軍歌“というもので、うどん国民および兵士を鼓舞する為の歌だ。
「わたくしは軍事には疎いですから、自分に出来る方法で役に立てたらと思いまして。
“心“というのは全ての大本です。
歌によって戦意高揚や、国民の皆さんを勇気づける事が出来るのではないかと」
「いいじゃないか。何も銃を取るだけが戦いじゃない。
お前らしい戦い方だと思う」
……まぁうどん国の国民は、女王陛下とうどんの下、そんなの無くったって無駄に一致団結してはいるけれど。
これだけ敗戦続きなのに、微塵も暗い雰囲気にならない国というのもホント珍しいと思う。心の底からうどんと女王陛下が大好きなのだ。
「思ったのだが、これはかなり凄い事なんじゃないのか?
なにせ他ならぬお前が発案した歌、女王陛下から賜った歌なんだ。
きっと皆に愛される特別な歌になる。恐らくは熱狂的な程に」
「あ……あの、その事についてなのですが……」
声色から感じる雰囲気で、無線の向こうにいるノリコがなにやらモジモジとしているのが分かった。
モジモジ、テレテレと、すごく言いづらそうな雰囲気だ。
「実はですね……? 作曲をお願いした方の提案で、
この曲はわたくしに歌わせたらどうか、という話が出ているのです」
「!?」
「彼が言うには“言い出しっぺの法則“という物があるそうでして……。
国民を勇気づけるなら、それが一番だと言われまして……」
現人神と崇められし、うどん国の女王。
そのノリコに歌わせるというのは、普通に考えたらもうとんでもない事。とんでもない不敬だと言われかねない。
しかしながら、もし仮にこれが実現したとするなら……、その効果はもう絶大な物となるだろう。
まさに空前絶後、古今東西で類を見ない程の衝撃をもって受け入れられるハズだ。
うどん国はおろか、その効果は世界中に及ぶだろう。間違いなく“歴史に残る“行為だ。
女王陛下に賜りし、女王陛下の歌声――――
よく分からないが、ノリコが歌うというそれだけで、なんか戦争勝てちゃうんじゃないかという気さえしてくる。すごい(小並感)
「なんと言うか……うどん国の国民性がなせる技だな……。
まさか現人神たる女王のお前に『一曲歌っておくれ』と頼むとは」
「え……。あっ、そういうのは気にしないのですけれどっ。
ただ、わたくしなどが歌っても良いものかと……少し悩んでいまして」
いつもわたくしは、守られるばかり――――
そういった想いを胸に秘める彼女にとって、たとえどんな形であろうと“皆の役に立てる“というのは、何物にも代えがたい程に嬉しい事なのだろう。
たからちょっと恥ずかしいけれど……みんなに喜んでもらえるのなら、歌う事なんて何でもない。
今はただただ「わたくしは歌手ではないし、ホントに歌ってもいいのかしらん?」と悩んでいるに過ぎないのだ。
「俺には政(まつりごと)は分からんし、何とも言えん。
だが……もしお前がやりたいのなら、やってみるべきだと思う」
「軍曹……」
「きっと皆、いままで見た事が無いくらいに喜ぶ。
少なくとも、俺はお前の歌声を聴いてみたいと思う。この上ない励みになるよ」
――――息が止まる。
心臓がトクンと跳ねるほど、ノリコは胸キュンする。
「それで、どんな歌なんだ?
今はあらかた敵兵を殺し終わって、手が空いているんだ。
良かったら聴かせてくれないか」
「――――ッ!! えっ……あ、はいっ! 少々お待ち下さいっ!」
頬を真っ赤に染めて放心していたノリコが、この場に意識を戻す。そして机の上をガサガサし、今朝届いた歌詞のサンプルを手繰り寄せた。
「えっとですねっ? ……実は軍曹と一緒に見ようと思い、
わたくしもまだ歌詞を読んでいないのです……」
「ん? そうなのか?」
初めては、貴方と一緒にと思って……。
そんな乙女のいじらしさを精一杯声に込めてみたが、どうやら彼には届かなかったらしい。
残念ながら、いつもどおりの平坦な口調だった。
「……歌詞の他、音源のサンプルも届いています。
まずはどちらからお聴きになりますか?」
「そうだな、ではまず音源の方から聴いてみるか」
落胆しつつも、これはいつもの事。ノリコは少しばかりため息をつきながら、自室にある蓄音機にレコードをセットする。
「まだ歌声は入っていませんが、曲の雰囲気は感じられるかと」
「そうか。確かこれは“うどん軍のうた“だったな?
ならば勇ましい感じの曲であれば良いな」
ノリコはソファーに腰掛け、フナキはヘッドフォンに耳を澄ませる。遠い距離に隔てられた二人だが、その表情からはお互いにワクワクしている様子が感じられた。
「あ、始まります軍曹!」
「うむ、どんな曲だろうな」
目を輝かせ、曲を感じる姿勢をとる二人。
やがて蓄音機から――――いわゆる
「…………」
「…………」
デケデケデケデケ! ジャーン! ドスドスドスドス!!
音速の速弾き、そしてメタル特有の速くて重いツーバスが皇居と戦地に響く。
空から重金属が落ちてきたかような――――正にその名の通り“ヘヴィメタル“の音色が二人を包む。
「…………えっ。あ、あれっ?」
「……………」
ギューン! ドゥクドゥクドゥク! ドゴゴゴゴゴ!!
恐らくコーラスなのであろう「ヴゥゥゥアアアアア!!」というデスボイスが、二人の耳に届いた。
「なるほど、メロスピか。
うどん国民は皆、ヘヴィメタルが大好きだからな」
「 なんでメロスピなんですかッッ!!
どこの世界にツーバスを踏む軍歌がありますかッ!!!! 」
解説をすると、メロディックスピードメタルとは、ハードロックのジャンルのひとつだ。
我々の世界で言う所の、ひと昔前に“ビジュアル系“として名を馳せたエッ〇スジャパンは、まごう事なくメロスピである。ああいった感じの音楽の事だ。
ちなみにであるが、うどん国民は皆ヘヴィメタルが大好きである。
本場に比べてバンドの数は少なく、まだまだメタル後進国の印象は拭えないものの、うどん国から発信される個性的なバンドは“うどんメタル“と呼ばれ、海外でも高い評価を受けている物も多いのだ!
うどん国民いわく、「うどんを啜る音とデスボイスには、共通した何かを感じる」との事。
「とりあえず、勇ましさや雄々しさに関してはクリアしているな。
メロスピは比較的キャッチーだし、きっと皆にも愛される事だろう」
「 そんな勇ましさはいりません!!
わたくしが求めたのは、うどん国民の心の表現です!! 」
そうこうしている内に、おそらくは2番のサビが終わったのであろう楽曲が、約3分にも及ぶギターソロに入った。
メタルを名乗るなら、ギターソロというのは欠かせない要素なのだ。
「個人的な意見だが、メタルというのは“力を示す“音楽だ。
限界に挑み、技術と声を振り絞り、圧倒する。
……そんなメタルの精神は、意外と軍歌との相性が」
「 良くありません!! 」
我が国の軍歌を注文したら、ヘヴィメタルが来たでござる――――
衝撃にワナワナと身を震わせるノリコを置き去りにし、やがてサンプルの曲は終わり、辺りは静寂を取り戻す。
その瞬間、ノリコはふと「これを自分が歌う」という事実に、思い至った。
「えっ……ちょ! これをわたくしが歌うのですか?! ヘヴィメタルを?!?!」
いまフナキ軍曹の脳裏に、髪を逆立て顔を白くペイントしたノリコが、ライダースジャケットに身を包んでメロイックサインをしている姿が思い浮かんだ。
「かっ……歌詞ッ!! 歌詞は一体どうなっているのです?! この曲の歌詞はっ?!?!」
「ノリコ、落ち着くんだ」
ガサガサガサ! と音を立て、ノリコが急いで歌詞のプリントを手繰り寄せる。
「あぁもう……! 見るのが怖い! 見るのが怖いですわたくし!!」
「落ち着け、ノリコ」
手に持ったは良い物の、それを直視する勇気が持てず、中々目を開く事が出来ない。
なにやら「うーん!」とばかりに顔を背けて、出来るだけ顔から遠くにプリントを持つノリコさん。
「わかった、俺も一緒に確認する。
少しづつで良い。一行づつ、読んでみてくれるか」
「は、はいっ! 承知いたしましたっ! たいへん心強いです軍曹!」
持つべき物は、幼馴染。
衝撃と恐怖で崩れ落ちそうになった身体を立て直し、フナキに支えられている事を意識しながら、ノリコは歌詞と向かい合ってみるのだった。
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【うどん兵のうた 作詞作曲 マン ジョン次郎】
「誰だ、マンジョン次郎って。聞いた事があるような無いような」
「……えっと、聞く所によると、
外交官と作曲家という二足の草鞋を履いていらっしゃる方なのだそうです。
とても外国語が堪能なのだとか」
やがて覚悟を決め、恐る恐るといったように封筒からプリントをそっと出していくノリコ。すると一番最初に、この歌のタイトルや製作者が記述されていた。
「こいつがメロスピ風軍歌を作曲し、お前に『歌え』と言っていたワケだな」
「お恨み申し上げます、マンジョン次郎さん……」
経費削減なのか、身近な所に頼んだからのか、ノリコの人選には疑問を抱かざるをえない。
にこやかにサムズアップしながら「陛下なら歌えるヨーウ!」とか言っていたあの外人かぶれのオッサンの顔を思い返しながら、ノリコはプリントを持つ手に力を込める。
「まぁ作曲はともかく、タイトルはまともじゃないか。
歌詞の方に期待してみよう」
「そうですね……。では少しづつ読み上げていきます」
注文していた通りの、シンプルながらストライクな“うどん兵のうた“というタイトル。
それに僅かに希望を抱きながら、ノリコはプリントの歌詞を読み上げていった。
【Yeahhhhhhhhhhhhhhh~~~~!!!!】(※シャウト)
「あっ、もう駄目ですねコレ」
「最初にシャウトから入る感じか。メタルの王道だな」
一抹の不安はあった物の、見事にそれが的中してしまい、ノリコはガックリと肩を落とす。
もう何も期待せずに見よう。そう固く決意を固めた。
【我今ここに 死ぬるのは うどんの為ぞ 君の為】
「ん? これはAメロの歌詞か?」
「!?」
「まともな母国語じゃないか。それにしっかりとうどん兵の心を歌っている」
「えっ!? ほ、ほんとに?!」
思わずプリントを二度見するも、そこに書かれているのはまごう事無く先の文章。うどん兵の信念を表す言葉だった。
「“君“というのは貴方ではなく、おそらく“君主“を表す言葉なのだろう」
「わたくし……の事ですか? まぁ!」
ヘヴィメタルシャウトから開始はしたものの、しっかりとした勇ましい文章。まさにうどん国の軍歌にふさわしい一文と言えた。
引き続き歌詞を追っていくノリコ&フナキ。
【この身護国の 鬼となり 敵のアバラを 砕くなり】
「なんでアバラですか! 普通に“討つ“で良いじゃないですか!」
前半部分は申し分ない。この国の兵士の心構えを書いた詩だ。しかし何故か攻撃箇所がアバラに限定されていた。
【古今無双の
「これはBメロだな。いいじゃないか、勇壮で力強い言葉だ」
【竹槍で突け 砂投げろ 今だ真空飛び膝蹴り】
「 なんで銃を使わないんですか!!
しかも砂投げてるじゃないですか! 卑怯ですよ!! 」
古今無双とか言いつつ、砂を掴んで投げていくスタイル。
しかも「今だ真空飛び膝蹴り」という部分が、どっかのヒーローアニメのようで無駄にカッコよかった。
「我が国でも、小銃くらい支給してます!!
いくら貧乏でも、ちゃんと一人一丁渡してるんです!!」
「ノリコ、肉体は不滅の武器だ。
最後に頼れるのは己が肉体だぞ」
フナキ軍曹が妙に歌詞に共感しているが、それを置き去りにして歌詞は一番の見せ場、サビへと突入していく。
【女王陛下の 旗の下 イエーイエー! 大うどん帝国
死ぬべき時は 今なるぞ イエーイエー! 大うどん帝国】
「 なんでそこでラッパーみたいになるんですか!! 大事な所ですよ?!?! 」
サビに入り、いきなりラッパーに豹変するうどん兵のうた。
ノリコのメロイックサインの指がラッパー的な形になる姿を、フナキは幻視した。
「ほう、これは“ミクスチャーロック“というヤツだな。
ヒップホップとロックの融合。新しいロックの形だ」
「 いいんですよそういうのは!!
時代の先端とか追わないで、ちゃんと軍歌してください!! 」
とりあえず今ので一番の歌詞が終わったワケだが、もうこれだけでグッタリしてきたノリコ。
いちいち順番に読むのを諦め、全体的な曲の構成を確認していく。
「二番の歌詞も、一番と似たり寄ったり……。
若干詩的な表現を入れてくる所に腹が立ちます……」
「歌詞は違えと、あのテンションで二番もやると言う事だな」
「あ……二番の後にギターソロの表記が……。3分……」
「先ほど聴いたヤツだな。あのギタリストは最高だ。ここは盛り上がるぞ」
盛り上がるのは良いのだが、ギターソロで3分は長すぎやしないだろうか?
メタルの常とはいえ、普通は長くとも1分半くらいだ。歌う方はヒマでしょうがない。
「3番は、いわゆる“ブリッジ“という構成ですね。
1番2番の時とは歌い方を変え、曲のテンポも転調しているようです……」
「なまじこだわってる感じが癪に障るな。ジョン次郎のドヤ顔が目に浮かぶ」
先ほどまでとは曲風を変え、聞き手に飽きさせない工夫をしている部分。名曲ともなればあれば定番の構成ではあるが、若干イラッとくるのは何故なんだろう。
「しかもこの部分……どこかで見た事があるような歌詞なんですよ……。
もしかしてジョン次郎氏……好き過ぎてパクってしまったのでは……」
「どうなんだろうな……? まぁ一語一句同じというワケでなければ、
なんとか言い訳も通じるんだろうが……」
「その後は1サビ、2サビの繰り返しですね。
最後はラップパートで締めて…………ってラップですか?!?!
わたくしラップなんて出来ませんよ?!?!」
「軍歌にラップをねじこんでくるか。
俺の知る限りだが、他国では聞いた事が無いな」
シャウトに始まり、ワビサビを歌い、ラップで締める。
先進的、そして前衛的な軍歌に仕上がっていた。
「曲の終わりの部分で、思いっきりシャウト……。
みんなでシャウトという表記が……」
「ラスト皆で叫ぼう、という事か。胸が熱くなるな」
ツッコミ所は多々あれど、とりあえずは最後まで読んでみた二人。長い沈黙の時間が二人を包む。
「…………ノリコ」
「言わないで下さい軍曹……。わたくし、わたくし……」
もう見なくても、ノリコが両手で顔を覆っている姿がアリアリと想像出来る。絶望の淵にいる様子が見て取れた。
しかしながら――――――幼馴染としては、いつまでもそのような顔をさせておくワケにはいかない。
「ノリコ、さっき俺は言ったな?
俺はお前の歌声が聴きたいと」
「? 軍曹……?」
出来るだけ、出来るだけ優しい声が出せるように意識する。
今にも崩れ落ちてしまいそうな、大切な幼馴染。その何よりも大事な女の子を泣かせてしまわないようにと。涙が零れてしまわないようにと。
「どんな歌詞でも構わない。変でもカッコ悪くても構わないんだ。
別に録音しなくても、周りに公開などしなくても良い。だから……。
――――ノリコ、俺に歌ってくれないか」
フナキが頼み込む――――戦場にいる俺の為に、歌声を聴かせてくれないかと。
「一度だけで良い。今ここで、俺にだけ歌って欲しいんだ」
「軍……曹……」
「お前なら出来る。きっと歌えるさ。
俺達は幼馴染。俺になら、恥ずかしくないだろう? 声を聴かせてくれ」
戦場にいる想い人。いつ散るとも知れない命。
そんな彼の懇願は、絶望の淵に居た彼女を呼び戻す。
瞳に力が、心に火が灯っていく。
これは彼のお願いに見えて、その実は“彼からわたくしへのエール“なのだ。
お前なら出来る。お前ならやれると、背中を押してくれるエールなのだ。
ならばわたくしは、それを叶えよう。貴方の想いに答えよう――――
今ノリコが、静かに立ち上がる。
再び蓄音機の針を直し、一度だけ目を閉じて、大きく息を吸い込んだ――――――
………………………………………………
………………………………………………………………………………………………
「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!」
「……」
音楽と歌声が鳴りやみ、辺りは再び静寂を取り戻した。
「はぁっ……!はぁっ……! ど……どうでしたか軍曹? わたくしの歌声は?」
「……」
フリスビーを取って来たワンコのように、ノリコはフナキに問いかける。
貴方に勇気を届けられたかしら。貴方に想いは届いたかしら。そんな期待を込めて声を掛けた。
「……あ、うん。ありがとうノリコ」
「そ、それでどうでしたか? わたくしの歌は?」
想いの限りに歌い上げた。力の限りにシャウトした。ラップだってバッチリだ。
ノリコは期待を込め、再びフナキに問いかける。
「お、おう。とりあえず思ったのだが」
「何ですか軍曹? わたくしの声に何か?」
「いや……まぁアレだ。
お前はこの歌を歌うのを、
「 何でですかッッ!! 貴方がやれって言ったんじゃないですかッ!! 」
ブルシットとばかりにノリコの声が木霊する。対してフナキの声色は、もう冷や汗でも流さんばかりの雰囲気だ。
「あのな? 俺も歌えとは言ったがな?」
「はい! 言いましたよ軍曹! 貴方がやれって言ったんです!」
「だが俺もな? まさかお前が
「!?!?!?」
ノリコの頭上に〈ピシャーン!〉と雷が落ちる。
目を見開いて硬直するも、彼の残酷な批評は続いていく。
「完璧だ。シャウトもラップも完璧だったんだ。上手だった。
……けどなノリコ?
普段儚げなお前がする絶唱は、聴く者を圧倒してしまう程のクォリティなんだ」
「…………」
「国民の誇りを示す前に、お前のメタルボーカルとしての力を示してしまっている。
出来たら、今後はやらない方が良い。
お前に対する国民のイメージが、大きく崩壊してしまう」
本職のメタルボーカルを圧倒する程の絶唱を見せたノリコ。想いの限りを込め、想い人に届けとばかりに張り上げたシャウト。
それこそが、フナキがダメ出しをする最大の要因であった。
「下手でも良かった。
たとえか弱い声でも、お前が心を込めて歌ってくれるだけで良かったんだ。
……だがなノリコ?
伸びのあるハイトーンボイス。キレのあるエッジボイス。デスボイス……。
これは軍歌の皮を被ったメタルなんだぞ。決して素人の女の子に歌えてはいけないんだ」
「…………」
がんばった。だが頑張り過ぎた。
自分でも知らなかった程の、ここまでの絶唱が出来たのも、普段女王としての鬱屈やストレスがあったせいなのかもしれない。
正直な話、声を出してる時
「――――大変ですノリコ陛下! ただいま兵器開発より緊急連絡がありまして!」
「ッ!?」
「あっちゃー。やっちったー」とノリコが猛省している時、突然部屋にお付きの使用人の姿が現れる。
なにやらとても焦っている様子だ。
「――――どうやら我がうどん国は、
「 マジですかチキショウッ!?!?! 」
椅子からひっくり返るノリコを余所に、使用人が“核爆弾“についての説明を行っていく。
フナキも口は出さないものの、何気なくその模様を無線で聴く。
「どうやら兵器開発部は、『うどん粉で何か作れないかな~』と遊んでいた所、
偶然にも核分裂の原理を発見してしまったようです!!」
「 何やってるんですか兵器開発部!! うどん粉で遊ばないで下さい!! 」
「これを我が国では“うどん爆弾“と名付け、
陛下の命あらば直ちに量産態勢に入りますが、如何致しますか?」
「 なんでうどん爆弾にしちゃうんですか!!
うどんの下に死ぬべきぞ……ってやかましいんですよ! 」
――――この兵器は、一発で都市を木っ端みじんに出来る破壊力がある。人類が手に入れた新たな力である。
まさかうどんから、こんな兵器が出来るとは。うどんは偉大ですね!
そんなうどん爆弾……いや核兵器についての説明を終えた後、お付きの使用人さんはフンスフンスと部屋を去って行った。
「えっと……お聞きになりましたか軍曹……?」
「あぁ、聞いていた。さして聞きたくもない事だったが」
「どうしましょう……軍曹……」
「どうしようか……ノリコ……」
突然降って沸いた、うどん粉による核という新兵器。
これがあれば我がうどん国は、この戦争を乗り切れる。勝てるかもしれない。
「でも、ダメですよね……。
こんなの使っちゃったら、人として終わりです」
「あぁ、同感だよノリコ。
こんな物に頼ったら、人間は終わりだ」
やがて二人はため息と共に、静かにうどん爆弾についての結論を下す。
「 ――――封印です! このうどん爆弾!!
うどん核の技術の一切を、闇に葬ります!! 」
「幸い、うどん粉で兵器を作ろうなんて馬鹿は、
後にも先にもこの国くらいだろう。
一度葬ってしまえば、再びこの技術が世に出る事は無い」
抑止力として持つという選択肢は、あったかもしれない。
だれも住まないような場所で密かに試し、それをもってうどん核の脅威を世界に知らしめ、戦争を優位に進める事も出来たかもしれない。
だが、一度この技術を余所に知られてしまえば
うどん国民の心意気、そして限りない人類愛を持って――――
今ノリコ女王とフナキ軍曹は、この“核“という技術を永遠に闇に葬る事に決めた。
「 核兵器がなんだって言うんですか!
そんなのが無くったって、うどん国民は戦えます! 」
「 そうだ! 肉体こそが我が武器ッ!
最低でもあと5年は戦ってみせる!! うどん国は不滅だ!! 」
方や皇居、方や南国の死体の山の上で、二人はやけくそになって拳を振り上げる。
この後、フナキ軍曹の言葉通り、大うどん帝国は5年という歳月も余裕で戦い抜く事となる。
女王陛下とうどんの下に戦う時、彼らに滅びの足音が聞こえてくる事は無い。
正直、もういい加減講和したいとか、女王辞めたいとかノリコは思ったりするのだが……、その願いが叶うのはまだまだ先になりそうだ。
女王陛下ばんざいなのであった。