「…山田は戦線上にある無人島の鎮守府、「孤島鎮守府」と名付けられた鎮守府に着任してもらう」
「…………は?」
沙原先生から告げられた言葉はあまりに飛躍していて、流石にうまく頭に入ってこなかった。
呆気にとられて、間の抜けた声が口から出てしまった。
反芻してよく考えてみる。
…えーと、つまり、俺だけ誰かの下につくとかじゃなくて着任…そのまま鎮守府を担う提督として就けってこと?
しかも、拡大中の戦線上にあるってことは一番危険…深海棲艦の攻撃が激しい所だろう。
そんなところに学校を卒業したての提督を送り込む…無謀にも程があるとも言いたいが…期待とも取れる。
「ふ…ふざけないで先生…冗談よね?」
同じく言葉の意味を理解した杏璃が沙原先生に問いかける。
嘘であって欲しいという、何かに縋るような表情に加え、声も震えている。
どうやら…杏璃はかなり悲観的な方向で捉えたようだ。
沙原先生は杏璃の心情を理解したのか、数瞬だけ瞼を落とした後、口を開いた。
「…この所属先については本営と提督たち、そして私達学校の職員が話し合って決めたことだ。最早決定は覆らな――――――」
「そういうことを聞いてるんじゃないわよ!分かってるんでしょ!?沙原先生!」
あ、まずい、杏璃がキレた。止めるべきか?
不思議と当事者である俺はそこまでパニックになっていなかった。それこそ、激昂している杏璃を止めようかと思うくらいには。
「まぁ、杏璃、落ち着きなよ」
「これが落ち着いて居られるかってのよ!洋!」
「怒る気持ちは分かるぜー、杏璃。敬のことが心配なんだろ?…それに、そんな大きな声出すと天理がビビっちまうぜ?」
「う…わかったわよ…」
…流石だな。俺が諌めようとするまでもなかった。洋が切り込んで、海士がうまく収めたな。いつもこれに助けられてたなぁ。
そして天理はやはり驚いた表情で固まっている。ぽかーんとした表情だ。
……不謹慎極まりないのは分かってるんだけど…可愛いな…
おっといけない、天理は男、天理は男…
ふぅ、落ち着いた。
と、俺がそんな自己暗示をかけているうちに、洋と海士が続いて口を開く。
表情を見ると…真剣なまなざしで砂原先生を見据えている。
どうやら2人も、砂原先生に言いたいことがあるようだ。
「なぁ、先生…説明できない理由でもあるのか?」
「それについては大体察しはつくけどね。」
海士が問いかけるやいなや、洋が結論を仮定して話す。
「恐らく…今は戦線が危うい状況にあって、少しでも戦力が欲しい。しかし、戦線を拡げるには提督が足りない。そこで今年、この学校を卒業する人数が5名。「ちょうど」1人、戦線拡大の人員が出たから山田をあてがったんだろうね…違うかな?沙原先生?」
「…その通りだ。山田には戦線拡大のファクターとしての働きが期待され、孤島鎮守府着任となった」
「で、でも、それってかなり危険な役割でもありますよね…いくら敬一朗くんでも、孤島で提督の方達からの指南も満足にないまま鎮守府運営となると…」
…というかさっきからみんなして俺を庇ってる?それにしても流石だな洋。あんな短い時間でそこまで察せるのか…。言い方にトゲがあったけど。天理からは純度100%の心配を感じる。癒し。
…あれ?もしかして当事者の俺置いてけぼりじゃね?
さらに天理に続いて、海士が口を開く。
「あー、危険だからこそ、だろ?敬はこの学校を首席で卒業したから、一番提督としての期待値が高く、現時点の能力でも即戦力に成りうる。世間に通す理由としては十分だよなぁ?「天才提督、戦線拡大へ向けて単身孤島へ着任」ってカタチにすれば、立派な英雄譚っぽく演出できるわけだ?」
「それにしても…ひどい仕打ちだと思います…期待しているという言葉で黒い部分を覆っている気がします」
捲し立てるように話す海士。諭すように話す天理。というか、先生、あまつさえ元帥と提督たちにもみんなは明らかに軽蔑を向けている。
これまた不謹慎だが…嬉しい。それほどまでに俺の身を案じてくれている。
…しかし同時にみんな、俺のことを侮りすぎではないか?
あと気持ちは分かるけど普通に失礼。先生達だってこれは苦渋の決断だったはずだ。先生達が悪役になって得することなど1つもないし、悪役へなってほしくもない。
これは少し…当事者の俺が言わないといけないことがあるな。
「まぁまぁ、みんな、要は沙原先生達は賭けたわけでしょ?…今の深海棲艦との闘いの状況は、お世辞にもいいとは言えないし」
「そうよ!それなのに戦いが激しい最前線の、しかも孤島に送られるのよ!?なんでアンタはそんな…冷静なのよ!!」
杏璃が捲し立てるように言う。言葉の言い方は人によってはキツイものがあるかもしれないが…その本質は「心配」だ。
アイコンタクトで杏璃に「ありがとう」という感情を込めて見つめる。
すると杏璃は察してくれたようで、そこからもう言葉を続けることはなかった。
そして、続けてみんなへ言葉を紡ぐ。
「苦しい戦況を変えるべく、戦線上の鎮守府に着任させ、戦果を挙げ、戦況を好転させるか…深海棲艦にやられて華々しく散るかの賭けって「だけ」だよ」
「だけって…そんな簡単に…受け入れられるの?」
杏璃が不安そうに俺を見る。
受け入れられるのか、というのは、死地に新米のまま送り込まれる…有り体に言えば、死ぬ可能性が高いところへ自分の命が賭けとして使われることを受け入れられるのかって話だ。
だから俺はこう答える。
「あぁ、もちろん受け入れられない。賭けで死ぬなんてまっぴらごめんだね。だから、死なないよう最善を尽くすよ」
そう言って俺は一歩前へ出て、左膝を地面につく形で座り、右手を左胸に当てる。
「不肖、山田 敬一朗、孤島鎮守府での戦線拡大任務、確と果たして見せましょう」
精一杯の覚悟を込めて、沙原先生と海原元帥、提督の方達に宣言する。
「…すまない、無茶をさせる。」
「やっと本心が出ましたね、沙原先生。やはり貴方には悪役は似合わない。貴方がそういう決断をしたのなら、少なくとも悪いだけの判断では無いのでしょう。最初から、「戦線が危険だからお前の力を貸してくれ」と命ずるだけで言い争いにはならなかったでしょうに」
ポリポリと気まずそうに頬をかく沙原先生。…案外、事態は良くないようだ。この先生だけじゃない、元帥や今の戦線を作った英雄たちが、やむなく人の命を賭けとしなくてはならない状況…なるほど、少し燃えてきたかも。
すっと立ち上がり反転してみんなの方を向く。
「心配しすぎだってみんな!そう簡単に死にはしないさ!なにも悪意だけで俺を最前線に送り込む訳ではないんだし!それに…俺だぜ?上手くやってみせるさ」
俺がそう言うと、みんなは呆れたような、安心したような…そんな雰囲気になった。
よし。
「はっ…相変わらずお前は…暢気なんだか自信家なんだか…」
「海士、俺はそのどっちもだな!俺が死ぬなんざあり得ない!」
「その自信は何処から湧いてくるんだ…ったく」
もちろんお前らと過ごしたこの2年間から自信が来るのだというのは、恥ずかしかったので口には出さなかった。
「敬一朗、頑張りなよ。俺たちもできることを全力でやる」
「あぁ、洋、お前の参謀っぷりを呉で存分に発揮してやれ!」
「もちろん」
静かな闘志を感じる。洋がここまで燃えるのは珍しいな。しかしかの英雄たちに期待されてるんだ。燃えないわけないか。
「敬一朗くん、無茶だけはしないでね。抱え込んじゃダメ…だよ?」
「…そうだな、天理。大丈夫、きちんと周りを頼るさ。天理こそ無茶はするなよ?」
「…うんっ!」
天理が満面の笑みを浮かべる。正直心臓が跳ねた。天使か?
いかんいかん……天理は男、天理は男……!!ダメだ…!動悸が…!
くっ、こういうときは……!
「ふぅ、落ち着く…」
「何故かしら、今無性にアンタを殴りたくなったんだけど」
「杏璃、鎮守府ではその凶器振り回しちゃダメだからね?」
杏璃のボディーブローはマジで効く。冗談抜きで凶器レベル。
「何が凶器よ!…ったく、冗談よ、じょーだん。……ホントに気を付けなさいよ、迂闊に行動して呆気なく負けたなんて、なんないでよね」
「最前線に出るんだ、慎重に、かつ大胆に行くさ。理想論だけどな」
…杏璃は結局、仲間思いで心配性なだけなのだ。荒めな言葉でも、根底を辿れば全て仲間への思慮に溢れている。感情任せになるところが珠に傷だが。
やれやれ、やっとみんな険しい顔を止めたな。そうそう、そうでなくっちゃね。
折角の門出なのに不満に思ってたんじゃ勿体ないよな。
「それでは沙原先生、続きをどうぞ?」
元の位置に戻ってそう促す。
「ああ。…では卒業したばかりのところ済まないが、各自の環境下において提督として十分に励むように。……頑張れよ、壁にぶつかったらここでの日々を思い出すんだぞ」
『はい!!!』
沙原先生は仰々しく定型文を言った後、ふっと笑って激励の言葉を口にし、それに対して俺たちは精一杯の返事をした。
話が続き、どうやらみんなは各々の提督の所へ用意した車で鎮守府へ行く。
みんなは各鎮守府の提督たちに、俺は港まで沙原先生の車での送りとなるようだ。
……あ、そういやアレやってないじゃん、卒業式終わったら学生がみんなする定番のアレを。
俺だけ歩みを止める。すると自然にみんなが振り向いて俺を見る形になる。
すぅ、と息を吸って心の準備をして。
「…みんな、記念写真撮ろうぜ」
言った。
そう。やっぱり門出の時といったらこれだろう。
みんなは振り向いた姿勢のまま、ぽかん、として。
そしてその後すぐに――――――
「ははっ、そういや、忘れてたな!」
「完全に車乗る流れだったね」
「そうだね…何だか卒業したって実感もないままだったし、撮ろう!写真!」
「色々あって頭から抜けてたわ…このまま別々になるのもあれよね。せっかくだから記念も残しておきたいし!」
――――――各々が良い表情で返事をした。どうやらみんなも頭から抜けていたようだ。
あと天理がふんふんしてテンション上がっている。可愛い。癒し。
「…沙原くん。君も並ぶんだ。私がこれで撮ろう」
「うお…一眼レフ…いいカメラっすね元帥。あとどっから出したんですか」
「無論、装束の裏からだが?」
「この際なんで服の裏にカメラを潜ませていたかは言及しないでおきますよ…」
「せんせーい!早くー!」
「あいよー!すぐ行く!」
何やら海原元帥と沙原先生が話しているようだったが、構わず沙原先生を呼ぶ。
こっちは撮る態勢に入ったんだ。早く来てもらわなければ。
「よし。それでは諸君、写真を撮るぞ、自然体でな。…では、3、2、1…」
パシャリ、と。
小気味いいシャッター音が響いた。
どんな表情でみんながこの日の写真に映っていたかは、もはや言うまでもないだろう。
2話目です。
なんとな~~~~く進めてみていますね、果たして続くのかどうか…
無理なくマイペースにやっていこうと思います!!!