2018年6月13日 西東京市
園藤姫乃と服部渚は、フジモト生物科学研究所研究主任原口理栄が運転する車に乗っていた。
「間に合って良かった。このまま一般道通って、永野の観測施設に向かいます」
そんな原口の説明を聞きながら、後悔と罪悪感に苛まれた表情で後ろ見た……
銃声に包まれてしまった母校『鷺宮女子高等学校』を。
「携帯の電源は切っておいてください。追跡される恐れがありますから。ナビも消しておきましょう」
それに対して、渚が原口の頭頂部を鷲掴みにしながら質問する。
「おい。説明しろ。どうしてこんなに早く警察が動いた。しかも、奴ら、大して確かめもせず、『仲間』だろうがそうでなかろうが、無差別で撃ちまくってた」
そう、鷺宮女子高等学校を銃声で包んだのは、本来なら市民を守るべき警察なのだ。しかも、彼らは何かを国民に隠していたのだ。
「この日本でそんな簡単に人が殺せるもんかよ。どう考えても普通じゃないだろ。あいつら一体何考えてんだ」
そして、渚の舌先が、警察が国民に隠している“ある物”に触れた。
「てか、そもそも『蜂』ってのは、一体何なんだ!?」
原口は重々しく答えた。
「それはまだ解りません。ですが、確実に言えるのは、彼らは何より『女王』の力を欲しています」
それこそ、警察が鷺宮女子高等学校を銃声で包んだ本当の理由である。ただそれだけの為に警備部機動隊と特殊急襲部隊まで動員し、中にいた生徒達を無差別に射殺したのだ。
「『兵士』を生み出す『女王』の能力を科学的に解明し技術として抽出できるなら、軍事面・政治面での利用価値は計り知れません。そもそもの話、特務捜査課も研究所も、表向きは『蜂』に関する犯罪を収拾する為の組織です」
原口は、研究主任として『蜂』を調べていく内に、『蜂』に関する犯罪を収拾する為に組織された警視庁公安部特務捜査課の存在理由に疑問を膨らませていった。
そもそもの話、『蜂』や『女王』が特殊急襲部隊の手を煩わす程危険な存在なら、自然災害や逃走犯の様に事前に国民に公表して注意を促すのが普通であろう。なのに、警察は『蜂』について国民に詳しく説明した事など1度も無いのである。それはつまり……
「しかし、その本質的な存在意義は、『女王』を捕らえる事にあります」
少々不安がらせたと感じた原口は、安心させる様にこう続けた。
「でも大丈夫。私は内部の人間ですから、彼らの思考はおおよそ見当がつきます。『女王』には指1本触れさせません。だから、安心して―――」
だが、完全に罪悪感に飲まれてしまった姫乃が原口の言葉を遮った。
「すみません。『女王』はやめて下さい。好きでなった訳じゃないですから……」
2018年6月13日 フジモト生物化学研究所八ヶ岳自然環境観測所
そんな、罪悪感に完全に屈してしまった姫乃を奮い立たせたのは、少し前まで自身を虐待していた母親の存在であった。
姫乃を取り逃がした警察は、『鷺宮女子高銃撃テロ事件』と言う偽りの凶悪テロ事件をでっちあげ、姫乃を凶悪テロ事件の首謀者に祀り上げ、挙句の果てに姫乃の母親を逮捕したとテレビで報じたのだ。
「ママを助けに東京に帰ります」
それを聞いた渚と原口が慌てて説得するも、姫乃にとっては最早『天敵』でしかない警察をこれ以上野放しにする事は、道徳的にも良心的にも耐え難いものとなってしまっていたのだ。
「もう許さない。私の友達を殺して、楽園をぶち壊して、その上ママまで……もうこれ以上奪わせない」
そして……姫乃はとうとう日本の警察組織に宣戦布告するかの様な言葉を口にしてしまった。
「どんな手を使ってでも、ママを取り戻します!」
2019年6月17日
その後、渚と原口の説得を振り切った姫乃は、1週間かけて母親を奪還を目的とした強固な人脈を作り上げ、自ら警視庁に乗り込んで母親の釈放を目的とした交渉を行い、母親奪還に失敗したと見るや『鷺宮女子高銃撃テロ事件』に関する真実をネットやテレビに流して空前絶後の警察不祥事を発生させ、西東京市をバチカン市国の様な独立した都市国家に変え、
「改めて、先程の犯行について、動機をお尋ねします。三門陽湖さん」
まるで大企業の会議室の様に並べられた長机とパイプ椅子に並んで座る『兵士』達に睨まれながら椅子に縛り付けられる陽湖。上座には姫乃が座っている。
まるで裁判の被告人の様な位置に座らされて自由を奪われる。それだけでも陽湖にとっては耐え難い屈辱であったが、その元凶が家庭内虐待の被害者でいじめられっ子の地味女だと思うとはらわたが煮えくり返って血液が沸騰する。
「あんた達……この私にこんな事をして……ただで済むと……思ってるの……」
陽湖は必死になって怒りを抑えようとした。そうでもしないと、怒りに語彙力を全て奪い尽くされそうだからである。
だが、陽湖から反省の意志を全く感じない渚が陽湖の頭頂部を鷲掴みにして陽湖の怒りの炎に油を注いでしまう。
「てめえ……調子付いてんじゃねえぞ。ドラ息子がぁ」
陽湖が怒りのあまり青筋を浮かべているが、渚も青筋を浮かべる程怒っていた。
「私は元よりここにいる全員が、てめえの何千何万倍もムカついて、てめえを今すぐブチ殺したくてウズウズしてんだよ。誰に頼まれた?公安か?人権団体か?吐け!」
陽湖が怒りに任せてついに暴走した。
「ふざけるな下郎!世界最古の歴史を誇る企業組織『三門財閥』の代表者である三門陽湖にこれだけの無礼をして、無事に済むと思うなよ愚民どもがぁ!」
「うるせえ。今度『虫』つったら殺すぞ」
「下郎の分際でこの私に命令だと?お前達愚民は、ただ跪いていれば良いのよ!」
姫乃が陽湖と渚の口論に割って入った。
「誰が……誰が好き好んで卑屈になるものですか。9歳の時、母が外出の折、母が連れ込んだ見知らぬ男に服を脱げと命令されました」
「姫乃?」
姫乃が自分の恥部を語り始めたので、渚が怒りを忘れてキョトンとする。それに引き換え、陽湖はいまだに激怒していた。
「従わねば叱られ母に嫌われると思った私は、泣き出したいのを堪え服を脱ぎました。そこに母が帰宅。裸のまま逃げ助けを求めた私に対し、母の取った行動は、肌を魅せ男を誘った罰として嫌がる私を無理矢理に押さえつけ、熱したアイロンを私の顔に押し当てました」
姫乃は眼鏡をはずし、右頬の火傷痕を見せた。
「これは、その時の
怒りが未だに収まらない筈の陽湖が、姫乃の威圧感に抑えられ何も言えなくなってしまった。
「何故なら、どんな酷い仕打ちを受けても、どんなに醜い傷を負っても、受け入れなければ生きていけない。それが私の人生だったからです」
格の違いを魅せ付ける為に姫乃の容姿に関する悪口を必死に紡ぎ出そうとする陽湖であったが、姫乃の威圧感に怒りを抑え付けられて言葉を発せなかった。
「親にも環境にも恵まれて、何不自由無く暮らして、勝手気ままに暴言を吐いて、これまでの人生、さぞや楽しかった事でしょうよ。そんなあなたに」
姫乃が『女王』の『針』を露出する。
「一体私の何が分かるっていうんですか」
怒りが未だに収まらない筈の陽湖が、一切暴言を吐けない自分に歯噛みした。
(何故私が何も言えないの?こんな四流学校に通うカス如きに!)
陽湖は汗だくになりながら必死に上から目線的な視線を姫乃に向ける。
対して、言いたい事を言い切った姫乃は自分の席に戻り、渚も他の『兵士』達も完全に冷静さを取り戻していた。
「改めて、先程の犯行について、動機をお尋ねします。三門陽湖さん」
2019年6月17日
三門陽湖への尋問に参加しなかった『兵士』2人が、姫乃の命で何かを待っていた。だが、とある理由からスマホに夢中になるなど不真面目であった。
「と言うか、来ると思う?」
「私なら行かないわ。こんな劣悪な条件だと。ま、姫乃様の命令なら行っちゃいそうだけど」
そこへ、1人の女子高生がやって来た。
「鷺宮女子高等学校って、此処で良いのか?」
来るとは全く思っていなかった2人は、突然声を掛けられて驚いた。
「嘘!?来たの!?」
「わざわざ殺されに!?」
殺されると言われて不機嫌になる女子高生。
「人聞き悪いな。私が敗けるとでも思ったのか?」
正門で待っていた『兵士』の内の1人が、思い悩んだ表情で何かを促した。
「……悪い事は言わない。『
そう言われた女子高生は、悪人の様な微笑みを浮かべてこう述べた。
「好条件も悪条件も関係ねえ。牙の鋭い方が勝つ。それが『
2人の『兵士』が危うく『針』を露出させそうになった。
2019年6月17日
陽湖が汗だくで姫乃の圧倒的な威圧感に耐えながら必死に上から目線的な視線を姫乃に向ける。
其処へ、1人の『兵士』が入室した。
「姫乃様!来ました!例の女が!」
渚にとっては予想外の事であった。
「馬鹿な!?姫乃が出した条件を知ってて言っているのか!?」
「はい。当人は屁でも無いって言い張っていますが」
姫乃が再び立ち上がり退室しようとしていた。
「行きましょう。『
その言葉を合図に、渚や『兵士』達も次々と退室した。椅子に縛り付けられた陽湖と自主的に残った1人の『兵士』を残して。
姫乃の退室を確認した途端に汗が一気に引いた陽湖を診て、居残っていた『兵士』が図星を指した。
「……あんた、姫乃様に敗けたろ?」
精神的焦りを指摘されて慌てて弁明しようとする陽湖であったが、居残っていた『兵士』が完全に無視して寧ろ屈しきれなかった陽湖をわざとらしく称賛した。
「無理しなくて良いよ。貴女は頑張った方だよ」
言い返そうとする陽湖を無視して話を続ける。
「さっきも言った通り、貴女と姫乃様とでは、くぐり抜けた修羅場の数が違い過ぎるからね。本来なら、貴女の様なボンボンドラ息子なんてあっという間に屈するもんだよ。姫乃様と違って地獄を体験してないからね」
「私の生き様が軽いと言うの?」
「軽いよ」
自分の人生を全否定されて怒りを蘇らせる陽湖。
「こんな四流学校に通う愚民如きが―――」
「その時点でもう軽い。親の威を借るドラ息子ってね」
「三門財閥の代表者たる―――」
「それが貴女を軽くしているのよ。それに引き換え、姫乃様は失うに対する恐怖を知り尽くした。知り過ぎた」
完全論破された陽湖が沈黙を保つので精一杯になってしまった。
「さっきのお話しから察するに、姫乃様の父親は既にいないな?離婚か死別かは知りませんが。それに、『鷺宮女子高銃撃テロ事件』の真相を知っている者なら知ってると思いますが、姫乃様は1度楽園を失ってます」
「だから何?どうせクズなんだから―――」
居残っていた『兵士』が陽湖を睨んだ。
「あんたも何かを失ってみるか?そうすれば、あんたも少しは重くなるんじゃない」
「……これ以上、園藤姫乃は何を奪うって言うの?」
「逆に訊くけど、貴女は何を失ったの?」
暫く沈黙したのち、居残っていた『兵士』が照れ笑いした。
「ま、ブサイクって理由だけで働き蜂に降格した醜女が偉そうな事言うのも可笑しな話だけどね」
言われてみれば、居残っていた『兵士』の左目は右目より2倍近く大きかった。しかも、前歯(上顎中切歯)はビーバーの様に長く伸びていた。
「それより、『
「フン!そんなもの、実際に観れば良い話でしょ?」
「無駄だよ。今から校庭で行われる『
陽湖が黙ってしまった。
「それに対して、貴女が知っている『
居残っていた『兵士』が自己紹介を始めた。
「私は川辺のぞ美。園藤姫乃に仕える『兵士』で、趣味は生物学よ」
pixivに連載中の私の作品であるヒメノスピア×キリングバイツ(https://www.pixiv.net/novel/series/1143454)を、こちらでも掲載させて頂きます。
内容としましては、ヒメノスピア第11話(https://www.heros-web.com/comics/9784864685900/)以降の園藤姫乃がキリングバイツ第30話(https://www.heros-web.com/comics/9784864684729/)までの野本裕也の役割を担うが、無料では引き受けないぞ!的な内容です。