牙闘獣獄刹(キリングバイツ デストロイヤル)で、宇崎瞳を「え?このまま敗けるの?」って思ってしまう程追い詰めたのは、風間楓とこいつだけだった気がします。
ただ……最後は、宇崎暦の引き立て役に成り下がってしまったとの事……
2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』倉庫
姫乃が三門陽参の暗殺を目論んでいると勘違いしていた安達が、三門を裏切った青年に捕らえられていた。
(クソ……見誤ったぜ……)
自分がまだ生きている事を確信する安達。
(半殺しで済んでよかったぜ)
だが、問題が山積している事も自覚してしまった安達。
(でも、まだ何も解決してねえ。今一番の問題は、岩崎弥芯。あいつが敵だって事だ。何よりまずいのは、その事実を私以外誰も知らないっていう、絶望的な状況。このままだと、マジで危ねえんじゃねえか?三門財閥)
思い出すのは、黒居のあの言葉。
(園藤姫乃に三門陽参を救う力はねえ……か。あいつら、特定遺伝子組換改革法やアメリカに居る別の『女王』の事ばかり考えてるからな……多分気付いてねえだろうな……)
青年に打たれた麻酔薬が大分弱まったのか、他にも捕まっている者がいる事に気が付いた。
「園藤姫乃おぉーーーーー!こんな事をして
(あいつも……私と同じ園藤姫乃の敵らしいが、今回だけは、園藤姫乃のあずかり知らずなんだよ……と言うか、アンタがここにいる事を知ってるかどうかさえ怪しんだよ……)
既に両手と両足を縛られているため、這いつくばって移動するしかなかったが、三門を裏切った青年に協力的な『兵士』はそれすら許さなかった。
「あの檻の中は見ない方が良い。日本人としての誇りを捨てたくなければな」
安達は、日本の未来の行く先について見込みが甘かった事を自覚した。
(クソが!いつでも日本を意のままに動かせる位置にいたのは、園藤姫乃でも四大財閥でもねえって事かよ?つうか、岩崎弥芯を今の内になんとかしないと、
安達のそんな不安を知らず、園藤姫乃の謀略だと勘違いしている男の見当違いな叫びは続いた。
「これで勝ったと思うなよおぉーーーーー!貴様が気付いた時にはあぁーーーーー!我々の計画が貴様の首に喉元に銃を突き付けているうぅーーーーー!」
安達が男の見当違いに呆れた。
(違げえよバーカ)
2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島廃墟エリア
遂に出会ってしまった宇崎と大河が睨み合う。
だが、使用する技に反して戦闘にロマンを持ち込まない
(これで2対1。このまま一気に―――)
だが、余計な真似を考えている者は
(ケケケ!
なんと、大河に吹き飛ばされて真っ二つにされた筈の大沼が、いきなり大河と
コブラは、頭だけになっても死なない。
近年、中国広東省で料理人が食材として20分前に切り落としたコブラの頭部に噛み付かれて死亡するという事件があった。
これは、爬虫類の身体組織が、血液を阻害されても長時間機能する自律性を持つためであり、人類とは死に対する基準も概念も本質的に異なる。
特にヘビの場合、頭部切断から1時間以上経過しても生きていたという実例すらあるという。
「シャアアァ!」
だが、万全とは言い難い状況で戦いを挑むのはリスクが多過ぎた。
大沼の渾身の飛び付き噛み付きが大河に簡単に躱され、巻き込まれた宇崎が大沼を殴り倒した。
「ぶええッ!」
「ったく、頭だけのくせにしつけー奴だな」
宇崎は、何を思ったのか茂みに隠れていたカメラスタッフに声を掛けた。
「オイ。そこの隠れてる奴」
「え?」
宇崎が大沼を持ち上げると、
「ホレ。これ、持って帰れよ。急いで病院に連れてけば、千切れた下半身もくっつくんじゃねえの?爬虫類だし」
宇崎の提案に、一同が驚いた。
「しかしその……撮影もありますし、
カメラスタッフの意見は、完全に無視された。
「早くしろよ。殺すぞ」
このやり取りに、完全に呆れる
「ちょ……ちょっと……助けてどーすんの?あんた、角供の
それに対し、宇崎はあっけらかんと答えた。
「別にいいよ。そん時ゃ、また殺すから」
ラーテルという動物は、過酷な生存競争の中で生きる野生動物であるにも関わらず、わざわざ危険な領域に踏み込み命の危険を冒すなど、非合理とも言うべき判断の甘さを露呈する事がある。
だが、これはラーテルの弱さを示すものではなく、「絶対に負けない」という自負。食物連鎖の外にいる者のみが持ち得る、自然界の掟を逸脱した余裕の産物なのである。
それを聞いた大河が口を開く。
「それもいいだろう。あえて生かすも強者の特権。だが気付いているのか?」
「何が?」
「貴様も
「あ?何だそりゃ?」
大河は、まるで思い出に浸るかの様に語り出す。
「あの男は、昔からそうだった。獅子は兎を借る時も全力。そう嘯きながら、実際は手加減していた。誰もが相手でも一撃では仕留めず、全力を引き出してから全力で応えた」
そして、大河の目に宇崎への殺意が宿る。
「貴様は、その王者の嗜みを姑息な戦術で踏みにじっただけの事。貴様が
(い……一体……何の話?今は
2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング
「六条さんって、随分エロい事を考えている方の割には、あまりロマンには興味が無いようですね?」
姫乃のその言葉に嫌そうな顔をしたのは、
宇崎は、戦闘に関して色々と悪癖の様なモノを持っているが、大河もまた、ある意味戦闘に関する悪癖の持ち主である。
だからこそ、大河がせっかくの2対1を台無しにするのではないのかと不安になるのだ。
そして、そんな品田の危惧が直ぐに現実になってしまった。
2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島廃墟エリア
漸く始まった宇崎VS大河!……なのだが……
大河の影身があまりにも早過ぎて、気付いた時には宇崎がふっ飛んでいた。
2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング
渚はビックリ仰天。川辺も頭を抱えた。
「強過ぎる……三門三連戦の傷が有る無しなんて関係無い。ラーテルの強固な背中による爪撃無力化をもってしてもあの威力だなんて……しかも、大河の動きがまるで見えない……どうやって勝てというんだ!?」
トラの攻撃は重い。
狩りにおいてトラが獲物を捕らえる際、巨大な掌をハンマーの如く叩き付ける。その威力は凄まじく、イノシシやヘラジカの骨を折り、スイギュウの頭蓋を破壊する。
この壮絶な破壊力の源は、新生代第三紀に栄えた
即ち、たとえクリーンヒットでなくとも、致命傷を与え得る。それが、2300万年に及ぶ進化の歴史に裏打ちされた、猫科最強の打撃なのである。
2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島廃墟エリア
が、戦いはまだ終わっていなかった。
「立て!今の一撃、かわした事は分かっている。もう一度だ。次は仕留める」
2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング
大河の台詞とは全く逆の台詞を叫ぶ渚と川辺。
「立つなああぁー!立ったら殺されるううぅうー!」
だが、大河に吹き飛ばされて廃墟に激突した筈の宇崎は、平然と立っていた。
「SHOWDOWN!
それを観た渚と川辺が愕然とした。
(あの馬鹿……終わったぁー……)
(さようなら宇崎瞳……迷わず成仏してくださいね……)
2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島廃墟エリア
渚と川辺が完全に諦めムードなのに対して、宇崎は相変わらず図々しかった。
「ゴチャゴチャうるせえ。御託はいいから、さっさと来いよ。牙の鋭い方が勝つ。ただそれだけ。それが『
宇崎のしぶとさと大河の必勝パターンの相性について独自の分析を行う
(凄まじい脚力で水平に跳躍して瞬時に死角に回り込む『跋虎』から相手の隙を捉えて放つ居合の一撃『虎砲』で仕留める……だが、これでは
宇崎と行動を共にしていた『兵士』達が
「やめろ!状況的には、協力して宇崎を倒して暴走しているワニちゃんに備える方が八菱の思惑通りだけど、あのトラちゃんの目は完全にイッてる!下手に関われば、アンタもトラちゃんに斃されるよ!」
「……!?」
2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング
やっぱり出てしまった大河の悪癖を観て困る品田。
「大河め、勝手な事を……せっかく2対1の状況を作ってやったのに、みすみす勝機を遠ざける様な真似を……何故だ!?」
2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』VIPルーム
全長が200m近くある豪華クルーズ『獣王』。
乗客を楽しませる為の施設がたっぷり用意され、スタッフやクルーの為の区画も存在するが、
「フフ……苛立ってるなあ、品田君。ここからならよぉーく観えるよ。君の動揺も駒の動きもゲームの流れも観客の興奮も、この、VIP専用の観戦室からなら……全てが手に取る様だ」
興奮気味な岩崎に着席を促す三門陽参。自身に関する様々な暗躍が巻き起こっている事にも気が付かずに……
「まあ座れ、岩崎君。知っての通り、今回の
岩崎が指を鳴らす。
「園藤姫乃があらゆる手を使って白紙撤回させた……特定遺伝子組換改革法。通称『獣化法』。表向きは作物の品種改良に関する規制緩和。だが、その実態は、獣化手術の合憲合法化。これは、獣化産業・獣化ビジネスの拡充に繋がり、莫大な経済効果を生み出す大改革。そこに生じる利権を、四財閥がどう配分するか……その決定権を勝者が握る。という事でしたかな?」
残り2人にも同意を求める陽参。
「うむ。他の2人も異存あるまいのう」
角供財閥総理事の角供雅が溜息を吐きながら告げる。
「はい。ウチはもう……敗けたも同然ですからな。勝者に従うのみですよ」
そして、石田に向かってチクリ。
「石田の駒が余計な事をしなければ、勝ち目はあったんだがね」
「う!」
石田財閥運営会総務で株式会社ソンバンク代表取締役社長の尊正義が汗だくになりながら釈明する。
「家内がどうにも、空気を読みませんで……」
岩崎が尊社長に助け舟を出した。
「いやいやいや。品田君の駒が殺られていたら、今度はウチが危なかった。
「は、はあ……」
雅は、これ以上口論しても意味が無いと判断して独白する。
(まあいいだろう。今回の
時間が経つにつれ、雅の猜疑心はどんどん膨らんで行った。
(奴らの本分は遺伝子産業。獣化製造に必要な遺伝子工学の研究施設や医療施設の全てを管理している。これから力を得るのは白明の理。祠堂は、その立場を利用し、三門や八菱に取り入り、発言力を強めている。若造めが……だが、手は打ってある。祠堂零一。貴様の野望など、木っ端微塵にしてくれるわ。クク……)
陽参暗殺計画といい雅の猜疑心といい、どうやら、姫乃が危惧する程四大財閥は一枚岩ではない様である。
2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島廃墟エリア
大河の2度目の『虎砲』が宇崎の分厚く柔軟性に富んだ背中に命中するが、それでもなお宇崎は戦意を失わないどころか更に増した。
だが、卑しくもスイギュウすら叩きのめせる程の一撃。宇崎は平然とは程遠い状況であった。
「がはッ!がッ!ぐえ……ゲエエッ!がはッ!」
「ちょっと宇崎!?アンタ今、血を吐かなかった!?」
(く……くそ……)
『兵士』達の動揺に反して、宇崎の戦意は増すばかりであった。
(確かに速いけど、タイミングはわかってきた。次で仕留めてやる)
だが、全く同じ手が3度通用するのは馬鹿のする事であり、大河もそれは心得ていた。
「俺の『虎砲』、2度凌いだのは
2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング
渚が白目を剥く程悩んだ。
(あの役立たず駄猫……あいつが言う程の強さを持ってたっけ……?)
2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島廃墟エリア
「認めよう。
大河の体勢が、いつもの『跋虎』とは明らかに違った。
「
2019年7月26日 フィリピン海豪華クルーズ船『獣王』メインダイニング
川辺が頭を抱えながら大声で叫んだ。
「かあぁーーー!終わったあぁーーーーー!」
一方の品田は、圧倒的優位のせいか余裕であった。
「やれやれ、大河の奴め、ようやく本気になったか。そこの『兵士』の言う通りだ。キミの駒は……もう死んだよ。『女王』陛下」
姫乃は何も言えなかった。
実は、『兵士』達への攻撃許可以外にも策は用意していたが、この位置では実行不可能だった。
かと言って、大河を殺すのにどれだけの『兵士』を消費するのか計り知れないのも事実。
つまり、もう打つ手はないのだ。
黙って……宇崎の末路を見守るしかない……誰もがそう思った。
だが!
2019年7月26日 フィリピン海炎蹄島廃墟エリア
全力の『絶爪』を繰り出そうと重心を屈めて爪を突き立てる。
その状態で繰り出す『虎砲』は神速の域であり、これを食らって死なない事は
なのだが、その前に椎名の尻尾が宇崎を捕らえて弾き飛ばしたのだ。
「邪魔だ……
横田が望まず来るなと祈った事態……椎名が宇崎VS大河に間に合ってしまったのだ。
それを見た大河は、全力を出す為にわざと下げていた重心を上げた。
(え?何で『絶爪』をやめてんのよ?)
目の前にいる狂い堕ちた卑怯者相手に本気を出すのは気が引けた大河であったが、攻撃しないとは一言も言ってはいなかった。
そして、いつもの『虎砲』が椎名を捉えた。
「不意打ちの返礼に不意打ちを食らわせたまで。文句はあるまい」
だが、大河にとっても
椎名が大河から受けた傷が、もう治りかけていたのだ。
ワニの血液には、
「誰にも俺は殺せねえ。だが、とりあえず、
一方、戦いが宇崎VS大河から大河VS椎名に移ったのを好機と感じた姫乃が、『兵士』達にある命令を下す。
「お言葉ですが姫乃様……プランCは、1度実行すればもう引き返せませんよ?」
だが、他に宇崎が大河に勝利する方法がないのだ。
『兵士』達が姫乃の指示を了承すると、椎名の尻尾による打撃によって倒れている宇崎に向かって何かを言っていた。
pixivに連載中の私の作品であるヒメノスピア×キリングバイツ(https://www.pixiv.net/novel/series/1143454)を、こちらでも掲載させて頂きます。
内容としましては、ヒメノスピア第11話(https://www.heros-web.com/comics/9784864685900/)以降の園藤姫乃がキリングバイツ第30話(https://www.heros-web.com/comics/9784864684729/)までの野本裕也の役割を担うが、無料では引き受けないぞ!的な内容です。