ヒメノスピア×キリングバイツ   作:モッチー7

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栗原……この作品のサブタイトルをキャラクター名にしようと考えていましたが、第5話にしてもう行き詰まりまして、結果、セレナ・セルバンテスが「女王」である事を証明する為のかませ犬の名前まで引っ張り出さなくてはならない状況に陥ってしまいました。
で、当の栗原は、園藤姫乃政権を打破する為にデモ隊に参加した筈が逆にデモ隊壊滅の戦犯となって、そのまま物語の表舞台から消えるチョイ役です。


第5話:栗原

2019年6月19日 楽園都市(ヒメノスピア)鷺宮女子高等学校生徒会執務室

 

渚が、目の前で起こっている出来事に唖然としていた。

「―――それでは、貴女の出願を正式に受理し本校への編入を認めます。楽園都市(ヒメノスピア)の学生に相応しい品行方正な発言と行動に心がけ、清く正しい学校生活に勤しんで下さい。宜しいですね?」

相手が相手だけに、渚は呆然とせざるおえなかった。

「宇崎瞳さん」

「展開……早くね?」

瞳のツッコミに対して、姫乃は平然と答えた。

「いえ、突然の事で少し迷いましたが、『牙闘(キリングバイツ)』管理局の推薦状がありますから、とても無下には出来ません」

それを聞いた瞳が驚いた。

「祠堂さんが!?」

「相変わらず判り易いな!?」

渚のツッコミは無視された。

一方、姫乃は重そうなアタッシュケースをチラ見した。

「で、管理局の方が言っていました次の『牙闘(キリングバイツ)』は、いつ頃になるんでしょうか?」

「と言うか、一口1000万円って何だよ!?しかも、あの中身は、何度数えても1億円じゃねぇかよ!」

「何回数えたって変わりゃしねえよ。暇な奴だな」

渚が手を振りながら否定する。

「いやいやいやいや。こんな物騒な物を渡しておいて、今更平然とされても困るんだよ」

「『兵士』の割には、意外と肝が据わってねえな」

「お前の金銭感覚が可笑しいだけだろ!」

確かに、楽園都市(ヒメノスピア)側にとってはあらゆる意味でこのアタッシュケースが怖かった。

ちょっと動いただけで1000万円以上の金が易々と動き、必要とあらば1億円を惜しみなく一括払いで支払える……これだけでも、日本経済を支配する四大財閥が強大無比である事を裏付ける事実と言える。

渚が寒気を感じている中、瞳が転校生特有のありきたりな質問をした。

「で、私の教室は何処だ?」

姫乃がどのクラスかを伝えると、瞳はそそくさと退室した。

渚は、今回の出来事についての疑問を口にした。

「どういうつもり姫乃。あんな奴をこの学校に入れるなんて。どうかしてるよ」

無論、姫乃も無償で瞳を引き取った訳ではない。

「私達の強みは、『兵士』の1人1人が個性を失わず、それぞれの使命を全うする事です。いくら強固に見えても、個性の無い集団は、たった一手であっさり滅びてしまう。1年前のあの時の様に……」

それが、無数の生徒や教師を無差別に殺した『鷺宮女子高銃撃テロ事件』から学んだ事の1つである。

「だから、あえてあの人に、特別な役割を与えたいんです。私に肯定的な人間ばかりでなく、私に明確な害意を持っているという、強烈な個性を持った人間を、そのままの状態で側に置いて置きたいんです」

 

2019年6月19日 楽園都市(ヒメノスピア)鷺宮女子高等学校廊下

 

姫乃に言われた教室に向かう瞳は、川辺と遭遇する。

「やあ……所で、なんとお呼びすれば良い?宇崎さん?『蜜獾(ラーテル)』?それとも……瞳さんは流石に馴れ馴れしいか?」

川辺の質問に対し、瞳はあっけらかんとしていた。

「好きにしろ」

「いやいや、連れなくないか?」

だが、たまたま近くにいた乃塒押絵(のどぐろおしえ)が瞳を見て固まってしまった。

「乃塒さん?どうかした?」

乃塒の顔は赤く、目は瞳に一点集中していた。

「……この御方は……」

いつもとは違う乃塒の様子に、川辺が困惑しながら答えた。

「(多分)今日からこの学校に転校になった……」

瞳が何も答えないので、川辺が慌ててツッコんだ。

「ちょちょちょちょっとちょっと!貴女が答えるのが筋でしょ?」

仕方なく、川辺が答える。

「宇崎瞳さんです」

乃塒の顔は完全に恋する乙女であり、目がハートであった。

「ヒトミ……ちゃん……」

(まさか惚れ……『蜜獾(ラーテル)』だからな、それだけは無いに決まってるな!)

だが、瞳が自分の編入先のクラスと言うと、乃塒が物凄い表情をしながら絶叫した。

「神様ありがとおぉーーーーーうぅーーーーー!」

勿論教師にも聞かれてしまい、川辺は説明に四苦八苦した。

(何故……こうなる?)

 

2019年6月19日 楽園都市(ヒメノスピア)鷺宮女子高等学校正門

 

その日の夕方、楽園都市(ヒメノスピア)側の小さな悩みの種が今日もやって来た。

「性差別主義者は、この街から出ていけーーッ!」

「ヒメノスピア反対!」

「元の街に戻せー!」

「私達の街を返せー!」

朝の瞳と乃塒との遭遇が起こした騒ぎでうんざりしている川辺は、また来た楽園都市(ヒメノスピア)否定派デモを発見してうんざりした。

「また来たのか?一般生徒が巻き込まれる前に片付けないとな……」

とは言え、毎回の事とは言え物言いや判断がほぼ一方通行相手に生半端な説得は通用しない。川辺もそれは承知の事である故にうんざりしていた。

「……さて……今日はどう説得しようか?」

川辺がうじうじしている間に、乃塒が嬉々として瞳を連れてやって来た。

「え……」

蒼褪める川辺。生物学を趣味としている故の勝手な決めつけがその原因であった。

 

ラーテル。

イタチ科に属する小型の雑食性動物。体長は60~80㎝。その性質は荒く凶暴そのもの。

体格に大きく差のあるライオンや水牛等の大型動物にも臆することなく立ち向かうため、「世界一怖いもの知らずの動物」としてギネスブックに認定されている。

すなわち、ラーテルは地上最強の小型哺乳類なのである。

 

(拙い!このまま『蜜獾(ラーテル)』とデモ隊が激突すれば、デモ隊の敵愾心は更にエスカレートし、最悪、警察沙汰!?な……なんとかせねば!なんとか早急に終わらせねば!)

だが、焦れば焦る程冷静さを失われ、妙案から遠ざかり、無駄に時間を消費した。

そして、とうとう瞳と楽園都市(ヒメノスピア)否定派デモが対面した。

「何だお前等は!?この化物共め!」

(あー!やめろぉー!その『蜜獾(ラーテル)』に喧嘩を売るなぁーーーーー!)

現れた瞳と乃塒を見てエスカレートするデモ隊を掻き分け、1人のロングコートの女が正門に近づいて行った。

「あの、すいません、少しお時間を頂けませんか?」

「嫌だ」

瞳の即答に、エスカレートするデモ隊。

「無視した?無視したぞ!?」

「汚いぞ!」

「卑怯者ー!」

(やっぱりか?ああ……もうこれ以上刺激しないで……)

ロングコートの女が、瞳の意見を無視してロングコートを脱いだ。

「ちょっと、観て貰いたい物が……」

だが、ロングコートの下はパンティのみの上半身裸であった。

「これなんですけど♡」

露出狂痴女の出現に、流石のヒートアップし過ぎたデモ隊ですら無言で固まった。

「な……何をやってるんだね……」

 

一方の瞳は、露出狂痴女を無視してある者を指名した。

「栗原さん、いる?」

露出狂痴女の出現に困惑していた栗原は、突然の指名に困惑した。

「なっ!?……何よ……」

「お前の妹さん、姫乃に熱狂的なドルオタ状態に変えられたらしいな?」

瞳の他人事の様な言い回しに、無言で固まっていたデモ隊が猛抗議を再開した。

「そうよ!直美を、妹を返して欲しいだけよ!この高校に入学して以来、毎日毎日ヒメノ様ヒメノ様って、家じゅうにベタベタポスターを貼ったり、自分とヒメノ様の恋愛小説を書いたり……」

姫乃に仕える『兵士』である川辺にとっては、栗原の言い分は耐え難い見当違いに聞こえた。

「その事の何処が悪い!」

「気持ち悪いったらありゃしない!元の直美に戻してよ!」

「ふざけるな!それの何処が罪だ!」

「罪よ!と言うか、あんたに直美の何が分かるのよ!」

「そうだそうだ!」

「平和な街に戻るまで、断固として戦うぞ!」

「おー!」

「おおーッ!」

早々と無視された露出狂痴女が、予想外とばかりに困惑する。

一方、完全にデモ隊をヒートアップさせてしまった川辺が攻撃的になるが、意外にも瞳が制止した。

「待ちな。この話には、続きが有るんだよ」

「知るか!姫乃様に止められていたが、もう無理!ブチ殺してやる!」

「アホか?あいつ等、もっと図に乗るぜ?」

「ぐっ!?」

説得を受けて固まる川辺をよそに、瞳が栗原に語り掛ける。

「だからって、森田や大崎に純情をくれてやるって言うのは、筋違いじゃね?」

「え!?」

瞳の口から出た予想外の言葉に、デモ隊がまた固まる。

瞳に名指しされた大崎が慌てて反論した。

「騙されるな!あの女は『兵士』だ!園藤姫乃の手先だぞ!」

だが、その焦りがデモ隊の猜疑心を刺激してしまった。

「ちょっとあんた!言いがかりにしちゃ慌て過ぎなんじゃないの!?」

更に瞳がダメ押しのツッコミを入れた。

「何で栗原じゃなくて大崎が否定するんだ?」

これだけにとどまらず、瞳が言葉で畳みかける。

「そう言う永井だって、デモ隊から貰った金で合コン開いてるだろ?」

「何だと!?」

瞳に名指しされた永井が慌てて反論した。

「騙されるな!あの女は『兵士』だ!園藤姫乃の手先だぞ!」

だが、その焦りがデモ隊の猜疑心を刺激してしまった。

「どっちが正しいんだ!?それによっては大問題だぞ!?」

後は、デモ隊が見苦しい内紛を行うのを待つだけとなった。

「騙されるな!あの女は『兵士』だ!園藤姫乃の手先だぞ!」

「ちょっと待て!そう言えば、この前の会合の後、2人だけでどっか行ったよな!?」

「そういやあんた、関口さんと温泉行ってたよな?」

「俺達の金を勝手に遊びに使いやがって!」

「放せ!俺に借りた金を返してから言えよな!」

「これの何処が人権保護団体なのよ!?パワハラとセクハラの温床じゃないの!」

デモ隊の見苦しい内紛を行う中、乃塒が胸キュン。

(なんてクールなの……好き……♡)

一方、見苦しい内紛に巻き込まれた露出狂痴女が、予想外とばかりにキョロキョロと辺りを見回す。

その背後に、既に瞳が背中合わせに立っていた。

「やっぱりね。餌を1匹泳がせときゃ、間抜けな獣人(サカナ)が釣れるとは思ってたけど……こんなに簡単に背後を獲られるなんて、油断し過ぎじゃね?」

 

ラーテルは、意外にも頭のいい動物として知られる。

飼育下では、木の枝や石・スッコプ・タイヤなど、あらゆる「道具」を用い堀を乗り越え、爪を使って柵の鍵を開け脱出する等、鋭い機転と観察力を窺わせる事例もある。

恐れを知らず何にでも興味を持つ性質は、無謀な行動のみならず、時に、機知に富んだ戦略を生み出す。

 

(な……あのデモ隊が、完全に『蜜獾(ラーテル)』の手の平……)

だが、追い詰められている筈の露出狂痴女が邪な微笑みを浮かべた。

(なんだこの余裕……背中……ハッ!こいつまさか!?)

川辺は嫌な予感がした。

 




pixivに連載中の私の作品であるヒメノスピア×キリングバイツ(https://www.pixiv.net/novel/series/1143454)を、こちらでも掲載させて頂きます。

内容としましては、ヒメノスピア第11話(https://www.heros-web.com/comics/9784864685900/)以降の園藤姫乃がキリングバイツ第30話(https://www.heros-web.com/comics/9784864684729/)までの野本裕也の役割を担うが、無料では引き受けないぞ!的な内容です。
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