リーゼロッテの穏やかなる日々   作:風里

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「……まじょ?」

「ああ。それもとびきり凄腕の、な」

「ダドリーたちもお姉さんがやったの?」

「もちろん。まぁ、ただ眠らせただけだがね」

「……これで殴られずにすんだ!ありがとう!」

 

リーゼロッテは笑って言ったハリーの言葉に顔を顰めた。

明らかに栄養が足りておらずやせ細った体。薄汚い服はサイズが合っていないし、靴も何から何までハリーに合わせた物ではないのは確かだ。

しかも手足にはいくつかの痣。―――虐待であると確信するのは容易だった。

 

「なぁ、ハリー。君はダーズリーの家にいたいかい?」

「えっ、ぼく、でも……あの、えっと、その……」

「君があそこにいたいと言うのなら私はこのままこの場を去ろう。だがな、少しでも君があそこにいたくないと思うのなら聞かせてほしい。そうしたら私が全身全霊で(・・・・・)あらゆるものから君を守ろう」

「本当に……?……もう、いたいのは嫌だよ……、けて……たすけて……!」

「おいで」

 

ぽろぽろと涙をこぼした小さなハリーを怯えさせないようにゆっくり動くことを意識して近づき、抱きしめてそっと頭を撫でた。

最初は緊張して身を固くしていたハリーも次第に力を抜いてリーゼロッテに身を任せてさらに激しく泣き出した。大の大人ですら辟易とする環境はたった六歳の子供を置いておけるところではなかった。

たとえそれがハリーの母親が命を懸けてかけた魔法のためであっても、不当な扱いをされていないかきちんと監視すべきだったのだ。否、あの狸のことである。ハリーの置かれている環境を知っていて、尚ヴォルデモートを倒すための手駒にすべく放置していたのだろう。

己の命令に忠実で他者のために犠牲を厭わぬ英雄(・・)を作り上げるために。

それは正しくもあり、間違った道なのだろう。

他者が作った道を歩くことは容易で、本人にとっても悪いことではない。ましてやそれが栄光と名声へと繋がりうるならば万人多くは喜んでその道を進むだろう。

だが、それはハリー自身が決めることだ。

 

「ハリー、約束だ」

「やくそく?」

「ああ。君が私の庇護が必要なくなるその時まで、私は君を見守ろう。今言っていることを理解するのは難しいかもしれないが、覚えておいておくれ。今この時より、君が真の意味で危険になることはなくなったのだ」

 

ハリーは分からないなりにリーゼロッテの言葉を理解したらしく、こくりと頷いた。

 

そして、ダドリーとその子分たちをそのままにしておくのは防犯上よくないだろうと、家の前まで送り届け、リーゼロッテとハリーは非魔法界から姿をくらました。文字通り、魔法のように。

 

 

 

 

それからほどなくして、二人は霧の中を歩いていた。

正確にはハリーはリーゼロッテに抱かれているため、歩いているのはリーゼロッテだけだ。

 

しばらくリーゼロッテが無造作に歩いていると前方から人影が近づいてきた。

リーゼロッテの腕の中で体を固くしたハリーだったが、自分を庇護してくれる……絶対に危険な目には遭わせないと約束してくれた保護者が笑ったのを見て緊張を解いた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「お嬢様って歳でもないんだが。まぁ、とりあえずただいま。よく迎えに来てくれた。ハリー、これは私の従者を任せているヘレンだ。ヘレン、この子はハリー。今日この日より、私はこの子の保護者となった。以後、如何なる者も(・・・・・・)この子を傷つけることは許さん。周知徹底しろ」

「承知いたしました。全てのものに(・・・・・・)周知いたします」

 

リーゼロッテはヘレンに向かって手を振ると一瞬のうちにその姿を消した。

 

「消えちゃった?」

「その疑問はここでの生活が落ち着いてからゆっくりと解消しようか。さぁ、お前の新しい家であり、これから先帰る場所だ」

 

刹那、突風に目をつむった次の瞬間。目の前の霧は晴れ、荘厳な洋館が建っていた。

豪邸と言い換えてもいい。古く、けれども格式ある洋館はなんとなく懐かしさを覚えさせる雰囲気をしていた。……もちろん、ハリー自身にそんな感覚はまだ理解できていないのだが。

 

「わぁ……!」

「ハリー、この屋敷はあったり(・・・・)なかったり(・・・・・)する。帰ってくるときはヘレンを呼ぶようにしなさい」

「あったりなかったり……」

「ゆくゆくはヘレンをお前専任の従者にする予定だ」

「じゅうしゃ?」

「お前の世話係みたいなものだよ」

 

ハリーの小さな体を抱いたままリーゼロッテは屋敷に向かう。

やがてその姿も霧に包まれ見えなくなった。

 

 

 

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