リーゼロッテの穏やかなる日々   作:風里

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鬱蒼と覆い茂る森と草原の境界でセブルス・スネイプは立ち尽くしていた。

黒衣が風に揺れ、バサバサと音が鳴る。

 

「―――我、秘密を知る者なり」

 

バリトンボイスで合言葉を口にすると、木々の軋む音と共に森の一部に道が現れ一本道を作り出した。その先には古い洋館がある。

闇の魔術にも造詣の深いスネイプは一目見てその洋館に施された魔術を看破した。

 

「(なんだこれは……ぱっと見ただけでも数百、それも効果が重複しないようにかけられている。しかも古代魔法が大半……防音、過剰日光遮断、保温、保冷、侵入者防止、武装禁止、敵対者察知結界、対攻撃魔法反射、対物理攻撃反射、外敵排除、覗き見防止……他にも古代文字で構築された魔法が……)」

 

今では失われし魔法(ロスト・マジック)と呼ばれる洗練された美しい魔法にスネイプが目を奪われていると、気配もなく一人のメイドが姿を現した。

 

「ようこそお越しくださいました。セブルス・スネイプ様。主がお待ちになっております」

 

能面のように表情がなく、そう言ったメイドは一度だけ頭を下げるとすぐに洋館への道を歩き出す。

その後ろを慌てて着いて行くスネイプは一本道となっている両側に広がる森の中から数多の視線を感じていた。

 

十数……否百以上にも上るその視線はメイドではなくスネイプに向けられており、そのどれもが様子を伺うような、どこか探っている印象の視線だ。

時折獣の唸り声が聞こえていて、下手な真似をすれば一口でペロリ(・・・)といかれてしまいそうな雰囲気だ。

 

「ご安心を。この森にはリーゼロッテ様の命令に忠実なモノしかおりませんので」

 

全く安心出来る要素は皆無ではあったが、その言葉通り襲いかかるような気配はなく。スネイプは最低限の警戒をしながらメイドに着いて行った。

 

 

豪奢な飾りがあしらわれた両開きの扉を開くと、黒い装飾のホールが現れる。

絨毯だけがワインレッドで、照明以外が黒であった。

 

「応接間へご案内致します」

 

メイドは再び歩き出すと今度はこちらを振り向くことなく足を進める。

半円を描くような階段を上がり、廊下を右へ曲がる。

手前から二番目の部屋の扉をメイドが開き中へと招かれた。

 

「しばし、お待ちくださいませ。主とお客様をお連れ致しますので」

 

そう言ってメイドは退室した。

 

室内は落ち着いた内装で、貴族が好みそうな装飾が施されているようでスネイプはホグワーツのスリザリンの談話室を思い出した。

ここはとても似通っていて、学生時代を思い起こさせる。

スネイプが僅かに顔を顰めていると勢いよく扉が開きーーー。

 

「御機嫌よう、私はリーゼロッテ・ヴィラン。ようこそ、我が屋敷へ」

 

そう言って現れたのはこの館の主であり悠久の智者、リーゼロッテ・ヴィランだった。

ノックもなく部屋に飛び込んできた彼女の後ろには、セブルス・スネイプが憎んでも憎み切れない男の面影をした小さな男の子がいた。紹介されるまでもなく、ジェームズ・ポッターの、そして自身が唯一愛した女性リリー・エバンズの子供であるハリーだというのは一目見て分かった。

 

「Ms.ヴィラン。この度は突然の訪問申し訳ありませんでした。私はホグワーツ魔法魔術学校で魔法薬学教授を務めているセブルス・スネイプと申します」

「固いな。もっと気軽にリーゼと呼んでくれても構わんのだぞ?」

「御冗談を。それよりも……」

 

リーゼロッテの申し出を軽くかわしてから、そっとリーゼロッテの背後に隠れてこちらを伺う少年へと目を向ける。

自他ともに認める子供嫌いの自分が子供であるハリーに好かれるとは欠片も思ってはいないが、できるならリリーの子供には……という思いが無いわけではなかったが。如何せん、ハリーはジェームズに似すぎていた。

過去を思い出して思わず睨むような視線を送ってしまい、はっと我に返る。

 

「これ、ハリー。挨拶せねば」

「……あの、初めまして。ハリー、です」

 

リーゼロッテに背中を押されておっかなびっくりにではあったが、ハリーはスネイプに向かって挨拶をした。

母親と同じ、緑色の瞳が向けられてスネイプはほんの僅かに顔を顰めた。

 

「よく出来ました。ハリー、お前は偉いな」

「……えへへ」

 

さっとリーゼロッテの後ろに隠れてしまったハリーだったが、人見知りを堪えてスネイプ(知らない人)に挨拶できたのだ。褒めない訳にはいかない、とリーゼロッテは微笑んでハリーの頭を撫でると、ハリーは嬉しそうに笑った。

 

「それで、そちらの用件は?……まぁ、概ね見当はついてますが」

 

リーゼロッテはちらりと傍らの少年に目を遣る。

 

「ハリー、アレンに言っておやつを貰ってきなさい。さっきアップルパイを焼いていたから出来立てを貰えるはずだ」

「で、でも……ぼく、今日なにもしてないからもらえないよ……」

「ふむ。では先払いとしよう。食べ終わったら私の分を貰って運んでくれるかな?」

「うん、持ってくる!」

「急がなくていいぞ。Mr.スネイプと話が山ほどあるからな」

「わかった!」

 

ハリーはパタパタと足音を立てて走っていった。その足音は年齢を考慮してもだいぶ軽いものである。

 

「本題に入らせていただきますが……、校長からのフクロウ便は受け取っておりますかな?」

「あぁ、勿論だとも。そのうえで断らせていただく」

「……理由を伺っても?」

「あの年の子供が、何かの対価無しに与えられる物はないと理解している異常性に気づいていないのか?」

「魔法界は現在“生き残った男の子”が行方不明だと混乱に陥っているのですぞ」

「だからなんだ?子供に犠牲を強いてまで気にすることではないな。ダンブルドアに言っておけ、貴様の手駒になるために生き残ったのではない。その無駄に持っている権力でも使って黙らせろとな」

「っ!」

「そもそも、だ。貴様らは一体何様のつもりだ?子供がいなくなって魔法界が混乱してるんですぅ~なんて阿保みたいな用件で手紙まで寄越して。それに貴様も貴様だ。愛した女の忘れ形見である子供を易々と虐待なんぞされおって。これだからあの小僧は信用できんのだ」

「なっ……」

 

スネイプを置き去りにしてぶつぶつと文句を垂れ流すリーゼロッテ。

ハリーの母親を愛していたという、ダンブルドア以外既に知る者はほとんどいないはずの過去を言い当てられたスネイプは珍しく感情をあらわに動揺してしまった。

 

「さっさと帰りたまえ。そして先ほどの伝言を飼い主に伝えるといい」

「!待っ―――」

 

スネイプの言葉を待たずに霧散する洋館。気づけばスネイプは森の中にただ一人、立ち尽くしていた。

妖精の悪戯にでも遭ったような気持ちでその場を後にするのであった。

 

 

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