ハリーを屋敷に連れ帰り、その日のうちにやってきたダンブルドアの遣い、セブルス・スネイプを追い返してからというもの、ひっきりなしにやってくる魔法省の役人やダンブルドア本人、さらにはハリー自身を狙うヴォルデモートに忠実な死喰い人も侵入しようとしているのが驚きだ(あれでも人望はあったらしい。一部のみには)。
そんな数多くの人間がハリーを囲っているリーゼロッテに会おうとあの手この手を使っている最中であった。
「ご主人様、魔法省とダンブルドアからフクロウ便が山ほど来ております」
「ハリーを返せとかその程度の内容だろう。暖炉に放り投げてしまえ」
「かしこまりました。それからたった今屋敷の防衛ライン第一陣が突破されました」
淡々と報告するヘレンだが、その目は虚空を見つめており目の前にいるリーゼロッテではなく別の何かが見えているように視線を走らせている。
「!……突破したのはやはりダンブルドアか?」
「はい。どうやらご主人様から返事がないから痺れを切らしてやって来ていたようですね。ダンブルドアの他にマッドアイ・ムーディと数名の闇祓いが確認できました」
「あの死にぞこないのくたばりぞこないか!うちの屋敷の敷居を跨げると思ったら大間違いだ。ヘレン、第二防衛ラインの警戒レベルを上げて
嫌悪感たっぷりのリーゼロッテ。
出来るならばあんな野蛮な男とハリーを近づけたくないし、何よりマッドアイとは自分が相性が悪い。闇の魔術をすべて悪だと決めつけ目の敵にしているのが気に食わないのだ。闇の魔術なしに魔法の発展などありもしないことを理解していないのだ。
「宜しいのですか?下手すると死人が出ますよ」
「……ハリー関係で死人が出るのは後に響くか。では意識を刈り取るだけにしてその後の転送先を屋敷の目の前に」
「かしこまりました」
ヘレンの言葉に少々冷静さを取り戻したリーゼロッテは獲物を甚振る猫のような獰猛な笑みを浮かべて言った。
「―――愚か者には誰の屋敷に侵入しようとしたのか痛みで解らせてやらねばな」
「クソッ、この屋敷はどうなっとる!ダンブルドア、あの女からの連絡はまだ来んのか!!」
「残念ながらまだじゃ!」
「あのろくでもない錬金術師のくそったれめ!今度ばかりは何としてでも連行してやる!!」
生き残った男の子失踪の件でやって来た凄腕の闇祓い、マッドアイ・ムーディが杖を振るいながら悪態をついていた。
屋敷へ向かう途中、森に入ったはいいがその瞬間から周囲から発せられた数多の殺気とトラップに対処し、途中でダンブルドアと合流したはいいもの、ある時を境に仕掛けられていたトラップが更にタチが悪くなり、その上最初に感じていた殺気の持ち主たちが少しずつ姿を現すようになっていた。
一歩足を踏み出せば横から飛んでくる失神呪文、それを避ければ今度は武装解除、さらに水が大量に降ってくるわ、妨害に特化した魔法が山ほど飛んでくる。
大量の魔法に追加して向けられただけで並みの魔法使いでは身を竦ませるような殺気を放つ強大な獣が数匹。それこそ神話に存在するような
爪は鋭く、牙や魔眼を持ち、M.O.M分類には存在しないような新種の生物までいる始末だ。厄介なことにそのどれもがあの
最初は二十人以上いた闇祓いも今では四人しか残っていない。しかも死んだか気絶したのかわからないがその体はどこかへ移動させられているようで血の跡すら見当たらない。
「この畜生どもめッ!アバダケダブラ!」
マッドアイは死の呪文を使用するが、相手はリーゼロッテ手製の生物である。
一匹に三度は致命的な呪文を当てねば動きは止まらず、マッドアイの脳内にいけ好かない女の「魂が一匹に一つだといつから勘違いしていた?(ドヤァ」という言葉と高笑いが響いた(気がした)。
「ムーディ!」
自分と同じように
「―――ッ!来るな!!」
先導していたダンブルドアから鋭い叫びがあがる。
だがそう言われた時にはすでに遅く、生き残った四名とムーディはダンブルドアが目にして叫びをあげた
ズルリと這うように姿を現したのは巨大な肉塊にいくつもの顔が浮かび、腐臭を漂わせる酷く醜悪な化け物だった。それについた顔のいくつかが喋りだす。
「「「我ガ主ニ」「歯向カウ愚カ者共ヨ」」、「己ガ罪ヲ「悔イルガ良イ」」」
何本も生えた腕を動かし移動する
腐臭に顔を歪めつつ杖を構え、先制を取ろうと魔法を放つが……。
「どういうことだ!?魔法が消滅するなどありえん!」
「ムーディ、あれは恐らくじゃが別の術者がおる。その者を倒さん限り、あれには魔法ではなく物理的な攻撃を当てる必要がありそうじゃ」
「別の術者だと?……だめだ、認識阻害魔法が展開されてるせいで探知できん」
魔法の義眼で術者を探知しようとするが
だんだんと強くなる腐臭に吐き気がこみあげているが、そんなことにかまっている時間をくれるほど
ダンブルドアよりも永く生き、見た目すら変わらない気味の悪い女。世間は智者だの賢者だのと持て囃しているが、これを見てみろ。そんなこと言ってられない、頭のおかしい奴だと認識を変えるはずだ。
来た道を引き返そうにもすでに茨で覆われ、茨の棘からは何やら毒々しい液体が煙を立てて滴り落ちている。文字通り毒を分泌しているらしく、無理に通ろうとすればあっという間にお陀仏だろう。
魔法を消している術者をなんとかしなくてはこちらの攻撃は効かず、向こうはこのまま近づいてくるだけで押し潰すか、背後の毒の茨にやられてしまう。
「あの根性曲がりの毒婦め……っ」
「酷い言い草じゃないか。こんなうら若き乙女に向かって」
苦し紛れに悪態をついたマッドアイの言葉にこの場にはそぐわない愉快そうな声が響いた。
「―――?!」
一同が振り返ったその先には、メイドを伴い茨の向こう側でニヤニヤと笑って手を振っているリーゼロッテの姿があった。
「やぁごきげんよう、諸君。楽しんでくれてるかな?」
「何をふざけたことを……」
「おんやぁ~?これはこれは凄腕(笑)の闇祓いマッドアイ・ムーディさんに生きる伝説(笑)と名高いダンブルドアさんじゃないですかぁ~。え、こんな簡単で可愛い生き物も倒せないんですか?」
「ッ、この……!!」
「久しいのぅ、リーゼロッテ。……ムーディ、落ち着くのじゃ」
マッドアイが額に血管を浮かばせてブチ切れる寸前、ダンブルドアが割って入った。
リーゼロッテには聞こえないようにマッドアイに落ち着くように言ってから、ダンブルドアはいまだにニヤニヤと意地の悪い笑みを向けてくるリーゼロッテに向き直った。
(主人がやって来たからか、背後の化け物は動きを止めている)
「熱烈な歓迎、痛み入るのぅ。老骨にはちと厳しいところじゃ」
「またまたご謙遜を。ご高名な歴戦の魔法戦士ともあろう方がこの程度の難事を切り抜けられないなんて馬鹿な事言いませんよねぇ?」
リーゼロッテの露骨な煽りにさすがのダンブルドアも顔を顰めて口を噤んだ。
「まぁ、でも流石にただの闇祓いに
パチン、とリーゼロッテが指を鳴らすとマッドアイと共にやって来ていた闇祓いの生き残りである四人の魔法使いは一瞬の内にリーゼロッテの足元に縄で簀巻きされた状態で転がっていた。
「さて、諸君らにはこのまま我が屋敷の前までご招待しよう。だが、そこのイカレ野郎と老害、テメーらはダメだ。来たきゃ自力で来な」
口調を崩して思いっきり顔を歪めたリーゼロッテに向かってまたもマッドアイは杖を振り上げるのをダンブルドアに制止されていた。
「ご主人様、アレンから連絡です。お昼寝していたハリー様がご主人様の不在に気付いたみたいで寂しそうにしていると」
「それは大変だ。あの子は簡単に自分の感情をあらわにすることがないから分かりにくいが、結構な寂しがりだからな。早々に戻るとしよう」
「承知致しました。こちらの者達はいかがなさいますか?」
足元に転がっている闇祓いたちを見下ろしたヘレンにリーゼロッテはつまらなさそうに手を軽く振って言った。
「縄を解いて客間に通しておけ。招かれざる客だからランクは一番低いところでいい。茶菓子も忘れるなよ。いつ辿り着くか分らんからな。客人に飢え死にされても困る」
「かしこまりました。――ではお客様方、ヴィラン邸へご案内させていただきますね。抵抗されても構いませんが、万が一にでも転移が失敗してしまいますとバラけてしまいますのでお勧めは致しませんよ」
ヘレンの言葉にビクリと分かりやすく怯えた闇祓いたちはバラけないように全員が大人しくなったのを見届けた優秀なメイドは満足げに笑ってからリーゼロッテから教えられていた
「それでは、ご主人様。先に戻ってお茶の支度をしておきます」
「あぁ、頼む。すぐに私も向かう」
一度だけお辞儀をしてヘレンは闇祓いを連れ姿を消した。
魔法使いが使用している姿くらましのように鋭い音はせず、無音で初めからそこに何もなかったかのように消えたのだ。
「……
「ニコラス・フラメルより永く生きている私にそれを聞くかい?まぁ聞かれたところで答える義務などありはしないのだがね。あ、ここは姿くらましも姿あらわしもできないようになっているので救援は期待しない方がいい。
それじゃ、せいぜい頑張ってくれたまえ。
そんな言葉を残してリーゼロッテは一瞬の内に姿を消してしまった。
残されたダンブルドアは苦々しい表情でリーゼロッテがいた場所を見つめている。
そして、煽られまくったマッドアイは、と言えば。無言のまま振り返り、思いつくままに攻撃呪文を
ダンブルドアはこの苦境をどう乗り切るか、必死に頭を働かせた。
リーゼロッテがダンブルドアとマッドアイを置いて転移してからたっぷり二時間は経過していた。
お気に入りの紅茶の香りを堪能するリーゼロッテの膝の上ではすやすやと眠るハリーの柔らかい髪をそっと撫でていると、ヘレンがティータイムの後片付けをしながら問いかけた。
「宜しかったのですか?」
「何が?」
「マッドアイ・ムーディです。あの様子じゃ何か仕掛けてきそうですよ?」
「構うものか。どうせ何もできやしない。所詮魔法使いなんてそんなものだ」
「そういう貴女も魔法使いなのでは?」
ヘレンが呆れたように言うが、リーゼロッテはどこか小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「
「これは失礼致しました。古より続く神話の時代を識る唯一にして至高なる正統なる魔術師、リーゼロッテ・クレッセント・ウォン・ヴィラン様」
挑発的に笑いつつ深々とお辞儀をするヘレンを見てリーゼロッテは薄く笑った。
「久方ぶりに聞いたな。よく覚えているものだ」
「当たり前です。誰も届きえぬ魔の深淵に棲まう我が王よ。
「その言葉努々忘れるなよ」
「もちろんですとも。こんなにも面白――失礼しました。お仕え甲斐のあるお方がお二人もいるんですもの」
ヘレンの言葉が指すのは今まで仕えていたリーゼロッテはもちろんのこと、その膝を枕にして眠る幼子のことであった。