リーゼロッテの穏やかなる日々   作:風里

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久しぶりの投稿。


05

先日やってきたダンブルドアとマッド・アイたちに丁重にお引き取り願ってからおよそ三日後の出来事であった。

リーゼロッテの元に一羽のフクロウが豪華な装丁の手紙を一通運んできた。

蝋封の家紋を見てリーゼロッテは思わず笑みをこぼした。――その手紙は、ある人物からの招待状だった。

 

 

 

我が親愛なる智者、リーゼロッテへ

 

こうして手紙を書くのは随分と久しぶりだ。

最後に君と会ったのは二十年ほど前だろうか。

日刊預言者新聞で君の帰還を知らせる記事を読んで、シシーと二人で驚いたものだ。

それに、あの少年を引き取ったらしいじゃないか。

意外な展開ではあったが、君の性格を考えると極めて妥当な決定だと思ったよ。

魔法省もあの手この手で君に接触を図ろうとしているみたいでね、私の方にも依頼が来たが……。

そっちは断らせてもらおう。君とのせっかくの縁を利用されるのは私としても不本意だからね。それに面白い噂話も耳に届いている。是非ともその真偽を直接聞きたいものだ。

 

ところで話は変わるが、一週間後のお茶会に招待させてほしい。

最高級の紅茶と、君の好物を用意しておくのでぜひとも参加してもらいたい。

シシーが会いたがっていたよ。そうそう、私にも六歳の息子がいる。名前はドラコという。

子供同士、仲良くなれると思うので小さな英雄も連れて来てくれると嬉しい。

 

時間は午後14時、暖炉を繋げて待っていよう。

 

P.S.

セブルスがとんでもなく機嫌悪かったが君が何かしたのか?

おかげでお気に入りのソファーを新調する羽目になってしまった。

 

良い返事を待っている。

 

君の良き隣人 ルシウス・マルフォイ

 

 

 

 

「……ルシウスの奴め、何が招待だ」

「どうしたの?」

 

手紙を開ける前とは打って変わって忌々しげに顔を歪めて舌打ちした彼女に、アレン作のシフォンケーキとヘレンが淹れた紅茶(ミルクとシュガーたっぷり)に舌鼓を打っていたハリーは首を傾げて尋ねた。

 

「……少し難しいが、読んでごらん」

 

おいで、と手招きすれば小さな足音をさせてハリーがリーゼロッテのそばにやって来る。ひょいと抱き上げて膝の上に座らせて、先ほど届いたばかりのルシウスからの手紙を二人で覗き込む。

 

「おちゃかい……えっと、どらこ?っていう子がこのルシウスさんの息子なの?」

「あぁ。ハリーと同じ四歳だそうだ。お茶会を開くそうだからその内会えるぞ」

「うん……でも、仲良くできるかな」

「出来るさ。まぁ相手は貴族だから最初は大変かもしれんが、ハリーなら大丈夫だろう。それに何かあれば私に言いなさい」

「うん」

「それから、手紙を読んでみてどうだった?」

「うーん……、言い方がむずかしくてよく分からなかった」

「ハリーにもわかりやすく言うとな、この手紙のこの部分には『突然いなくなって心配していたのだから連絡くらい寄越せ』って意味で書かれている」

 

リーゼロッテはハリーにも分かりやすいように手紙の文章を指で追いながら言う。

 

「そしてその下のこの部分は『とんでもないことしてくれやがったな、おかげで魔法省からお前に取り次げと連絡がきて鬱陶しい』という意味だ。ついでに言うと、この部分は『お茶会に来るなら魔法省は静かにさせてやる。ついでにドラコもハリーに会いたいらしいから指定の日時にうちに来い』と書いてある。つまりは交換条件だな。魔法省を黙らせてやるからお茶会に来いってことだ」

 

まぁ、かなり曲解しているが似たようなものだな。とリーゼロッテが付け加えて説明するとハリーはきょとんとしながら子供なりに考えているのか、ふんふん?と頷いている。

 

「まぁ要するに子供(ドラコ)に強請られて親バカが発揮されたんだろうよ。ダドリーのワガママを叶えるようなもんだ。ダーズリー(あっち)とは違ってルシウスに権力があるからタチが悪いがな」

「ふうん?じゃあこのP.S.は?」

「……『セブルスを怒らせたのはお前だろ、ソファーが壊されたから弁償しろ』ってところだな」

「あの黒いおじさん?」

「……ぶはっ、おじさん……クク、お、おじさん……っ」

 

よもやあの男もハリーからおじさんなどと呼ばれるとは思うまい。リーゼロッテが思わず吹き出したのを見てハリーは何かおかしなことを言っただろうかと首をかしげている。

 

「ふ、ふはは……いや、良いんだ。そうだな、今度会った時にでもそう呼んでやると良い。自己紹介されたわけじゃないからな、悪いのは向こうだ」

「ほんとにだいじょうぶかなぁ」

「怒られたら私に言え。説教し返してやる。自己紹介もしないお前が悪いってな」

 

リーゼロッテは愛した女の忘れ形見に振り回される男の姿を思い浮かべて至極愉快そうに笑うとハリーの頭を撫でた。

 

 

 

 

―――一週間後。

 

「ようこそ、我が家へ」

 

エメラルドグリーンの炎からリーゼロッテに抱えられたハリーを出迎えたのは、プラチナブロンドを横に流して緩く結っている長髪の紳士と、いかにも貴婦人といった様子の女性だった。

 

「お招きいただき感謝するよ、ルシウス、ナルシッサ」

「久しぶりね、リーゼ」

 

朗らかに答えたリーゼロッテにナルシッサが微笑んで挨拶をする。それに応えつつ、腕の中で大人しくしているハリーを降ろしてからルシウスとナルシッサを紹介すればハリーは緊張した面持ちでぺこりと頭を下げた。

 

「ああ、二十余年ぶりか?ハリー、こちらが今日のお茶会に招待してくれたルシウスとナルシッサだ」

「はじめまして、ハリー・ポッターです。おまねきいただきありがとうございます」

「ほう……」

 

ハリーの態度に感心の声をあげたのはルシウスだった。

事前に挨拶の仕方を教わっていたとはいえ、貴族でもない四歳の子供がきちんとそれなり(・・・・)の挨拶が出来たのだ。

これは思っていたより……とルシウスが細く笑みを浮かべていると、その胸中を察したリーゼロッテから冷たい視線が送られてきた。

 

「所詮ポッター家の子供と思っていたが、存外まともじゃないか」

「喧しいぞ、さっさと案内しろ」

「まったくもう、二人して大人げないわね。私はナルシッサ。シシーと呼んでちょうだいね。ハリーと呼んでも良いかしら?」

「は、はい。よろしくおねがいします!」

 

火花を散らす大人二人を呆れて見遣ってからナルシッサは膝をつき、緊張しているハリーと目線を合わせて安心させるようににっこりと微笑んだ。

リーゼロッテ以外の大人に好意的に受け入れられたおかげか、ハリーはぎこちないながらも笑顔で答えるともう一度しっかりと頭を下げる。そんな様子を改めて目にした夫妻はお互いに顔を見合わせて驚いていた。

 

「……とりあえず、ドラコも待ちくたびれているだろうから、庭に行こうか」

「そうね。リーゼ、ハリー、行きましょう」

 

夫妻に促されてようやく部屋を出た一行。

特にハリーは貴族の屋敷がとんでもない広さであることと、置いてある家具や装飾品の凄さに終始目を瞠り、きれいだなぁ、すごいなぁと内心では輝かせていた。

 

そうして長ったらしい廊下を歩いてしばらくすると、サンルームに繋がる扉の前でルシウスが自慢げに笑いながら振り返った。

 

「自慢の庭園だ」

 

ギィ……と少しばかり重い軋んだ音とともに開かれた扉の向こう側はおおよそハリーが見たことがない美しく咲き誇る花達に出迎えられた。ふわりと風に乗って漂う香りはあまり強くなく、数種類ある花がそれぞれ調和して華やかでありながら、くどくない爽やかな香りをしていた。

 

「う、わぁ……!」

 

思わずといった様子で声をあげたハリー。その後ろではリーゼロッテが「昔と変わらず良い場所だ」と先ほどの険悪な空気を消して褒めていた。

 

「……あ、」

 

色とりどりの花びらが風に舞う。綺麗にセットされた白いテーブルのそばに少年が立っている。

 

きらきらと太陽の光を反射して輝くプラチナブロンドにこちらを見つめる薄氷の瞳が印象的な少年だった。

結構様になっているな。そう思いリーゼロッテがあとでエレンに絵に起こさせようと密かに決心してそっとハリーへ視線を遣れば。

 

「……!」

 

庭園に押しを踏み入れた時以上に目を輝かせてその少年を見つめていた。

そんなハリーを歯牙にかける様子もなく、少年はタッと駆け出してハリーとリーゼロッテの後ろにいる夫妻に向かって行った。

 

「ちちうえ、ははうえ!おそいです!」

「あらあら、ごめんなさいね。リーゼ、この子が私たちの息子、ドラコよ。ドラコ、挨拶を」

「はじめまして!ドラコです、ちしゃさま。よろしくお願いします!」

「初めまして。智者様などと堅苦しい呼び方はしなくてもいい、リーゼロッテと呼んでくれ。それから……ハリー、挨拶を」

そっと背を押されて前に出たハリーは恥ずかしそうにしながらもドラコに挨拶をした。

「あの、はじめまして。ぼく、ハリー・ポッターっていうんだ」

「きみが、ハリー・ポッター?おもってたよりふつうだね、あてっ」

 

一瞬きょとんとした後、ドラコはさっきの上手な挨拶はどこへいったと言わんばかりに失礼な発言をしてナルシッサにペチンと叩かれて声を上げた。

「こら!ハリーはちゃんと挨拶したでしょう。しゃんとしなさい」

 

さすがに今のは自分が悪いことは自覚したドラコも今度はハリーを真っすぐ見て教わった通りに挨拶を返す。

「はじめまして、ぼくはドラコ・マルフォイ。これからよろしくね」

「よろしく……」

 

二人の天使の初々しいやり取りに大人組は揃って相好を崩しなごんでいた。あまり同年代の子供と縁のなかったドラコとダドリーに追い掛け回されたりといった経験しかなかったハリーはお互いすぐに打ち解け、ルシウス自慢の庭園を駆け回っていた。

そんな子供たちを眺めながら、ルシウス、ナルシッサ、リーゼロッテの三人は庭園の片隅に用意されたテーブルで優雅にティータイムを過ごしていた。

 

「それにしても、貴女が無事でよかったわ」

「無事も何も、あの時別れてからすぐに連絡は入れておいただろう?」

「何が連絡だ。あれは今わの際の最期の言葉と同じようなものだろうに」

「何も問題はない。心配するな、ってもうすぐ死ぬのを悟られたくない人間みたいなセリフよ」

 

二人に言われ、リーゼロッテは降参だとばかり両手を上げた。

 

「わかったわかった。()はきちんとこまめに連絡するよ」

「また同じようなことをするつもりなのかしら?」

「……もうしない(ようにする)よ」

「悠久の智者もナルシッサには勝てないらしい」

「オイ」

 

心底愉快そうに言ったルシウスにリーゼロッテは抗議の意を込めて視線を送るが歯牙にもかけない様子でルシウスは気品漂う動作で紅茶で喉を潤したのだった。

 

穏やかで優雅な時間はあっという間に過ぎ、日も暮れ始めたころ、ルシウスはリーゼロッテとハリーを夕食に誘ったが二人は断った。

 

「ドラコもまだ遊び足りないようだし、どうせなら泊っていけばいいのに」

「そうしたいのはやまやまだが、いかんせんハリーはまだ一般的な子供と同等の食事がとれなくてね。初めての場所ではあまり胃が受け付けないんだ」

 

離れたところで名残惜しそうに別れの挨拶を交わす二人の天使たちを見ながら子を持つ親として二人は痛ましげな表情を浮かべた。まだ幼少期、されど幼少期。体格差など無いに等しい幼児の今、よくよく見てみれば華奢な方だと思っていたドラコよりも一回り弱小さいハリーは明らかに栄養不足であった。それが育児放棄だったとも思える状態で育ったとはっきりと証明していた。

 

「一体何をどうしたらあんな可愛い子を虐げようなんて思うのかしら」

「彼らの行いを肯定するわけではないがね。一番の原因はあの家に預けたダンブルドアの所業のせいだろう」

「何か知っているのか?」

「まぁ、端的に言えば脅しだ脅し。ハリーの母親の妹にね。大切な妻が赤子を見て怯えればその子に何かあると見て遠ざけ守ろうとするのが夫だろう?そして子供は親の行いを見て育つものさ」「なんてことを……」

「あの狸爺か。正義ためだのこれは大義だのと抜かしておきながら結局は脅迫(それ)か。愚かな……」

 

預けられた経緯を聞いた夫妻は憤慨した。ナルシッサを愛してやまないルシウスはダーズリー夫妻の、特にバーノンの気持ちは痛いほど理解できたことだろう。もしナルシッサに手紙が届き、怯えるようなことがあったならば、同じように彼女が恐れるすべてのことから遠ざけ排除しようとするだろう。そして恐らく、己を見て育つであろう息子(ドラコ)もまた同じように。

 

ナルシッサもまた、自身の過去が潔白とは言い難く。そこをネタに脅迫されれば、その原因から離れようと、関わりを断とうとするだろう。

 

「まったくだ。しかも赤子一人預けるのに金銭的援助もなしだ。ふざけてるとしか言えない。意図的にハリーを追い込んだも同じだ」

「……だから、あの子を誘拐同然に引き取ったのか」

「まぁ、な……」

 

ハリーを引き取ってから一度だけ、ダーズリー一家の家へと訪れたことがある。彼らはリーゼロッテを警戒しながらも客人として相応のもてなしをしてくれた。最初こそお互いにハリーのことで警戒と怒りを含ませてはいたが最終的にダンブルドアへの批判を口にできるほど打ち解けあっていた。途中、バーノンが席を外した際にペチュニアからハリーとともに置かれていた手紙について聞いたのだ。正義を謳いながらも脅迫という手段で無理矢理ハリーを引き取らせ、幸せであったはずの家庭をぶち壊した独善的で最低な老害である。

もし、ダンブルドアがきちんと誠意を見せてダーズリー一家と話をしていたならば、ダドリーと同じように愛され、本当の家族とまではいかなくとも。少なくとも使用人の様には扱われなかったはずだ。

 

「本当に……碌なことをしない……」

「厄介な狸爺にはさっさとご隠居願わねばならなくなったな」

「あぁ、だが今はまだ、その時ではない。ルシウス、それまでは色々と(・・・)堪えてくれよ?」

「承知した。悪巧みは智者様に(・・・・・・・・)頼るに限る(・・・・・)

「お前は私を何だと思っているんだ」

「ふふ、でも適材適所と言うもの。リーゼには参謀役が似合うわ」

 

先ほどの雰囲気とは一転、朗らかに和やかな様子でとんでもないことを話し合う大人たちから離れた場所で二人の子供はニコニコとお互いの保護者自慢をし合っていた。

 

「ハリーはリーゼさまといっしょに くらしてるんだろ?」

「うん、ぼくがダドリーにおいかけられてて、たすけてくれたんだ」

「ダドリーってだれ?いっしょにくらしてるのはリーゼさまだけなの?」

「ダドリーっていうのはぼくがあずけられてたいえのこどもで、ちからがつよくてすぐおこるんだ。ううん、ほかにもヘレンとレオンがいるんだ。ヘレンは紅茶をいれるのがじょうずで、レオンがつくるお菓子はとってもおいしいんだよ!」

「おいしいお菓子に紅茶かー、いいなぁ」

「そうだ!きょうのおれいにこんどはぼくがきみをしょうたいするよ!だいじょうぶかはリーゼにきかないとだけど……」

「ほんと?!じゃあリーゼさまにきいてみて!ふくろうびんまってるから!」

「うん!」

小さな天使たちは小さな約束を交わし、小指を絡ませて笑い合った。

 

―――こうして大人たちのダンブルドア退任追い込み計画の発足とともにハリーとマルフォイ一家の邂逅は終わったのだった。

 

 

 

 

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