リーゼロッテの穏やかなる日々   作:風里

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キャラ崩壊は必須


06

 

ハリー・ポッターにとって幼いながらも人生は理不尽なものだと知っていた。ダーズリー一家ではおおよそ笑顔というものを向けられたこともなく、いつも怒声や罵声、ついでに言えば手や足を出されるのも日常茶飯事であった。

なんで、どうして、と疑問をぶつけたこともあった。その度に「質問はするな」とさらに激しく殴られたことがあってからはハリーは己の境遇やそれ以外の全てに対する質問をしなくなった。それでも自分の中で疑問は膨らむばかりだった。

どうして自分にはお父さんとお母さんがいないんだろう。どうして何もしていないのに殴られるんだろう。どうして僕だけこんな目に遭うんだろう。どうして、どうして、どうして。そんな疑問ばかりが浮かんでは消え、自問自答を繰り返すばかりの日々を送っていた。

そして親を見て育ったダドリーもまた、ハリーを虐げて良いものだと認識し始めたころ。外でダドリーとその友人たちに追い掛け回され、捕まれば怪我をさせられる。子供であったからかそこまでひどい怪我はなかったものの、同年代と比べ体が大きいダドリーに殴られれば小柄なハリーなんて簡単に吹っ飛ぶ。いつまでも、そう。いつまでもこんな毎日が続くのだと、続いていくのだとハリーの中では諦観が支配していた。仕方ないことだと必死に自分に言い聞かせた。叔父や叔母が漏らした自分の両親の死因についても、置かれている境遇についても。

幼いハリーにとってダーズリー一家で過ごす世界が全てであった。向けられる悪意に、小さなハリーの柔らかな心は擦り切れる寸前だった。

誰でもいいから助けてほしかった。この地獄のような場所から、救い上げてほしかった。けれど、自分の周りの人間は見て見ぬ振りをして通り過ぎていく。自分が親無し子だから。”異常”だから。

そして今日も変わることのない毎日(じごく)が始まるのだと―――そう思っていた。

 

いつもの様にダドリーに追いかけられていたハリーは疲労でもうへとへとだった。もう諦めてしまおうか。逃げ回ったって最後には捕まってボコボコにされて終わりじゃないか。……もう、疲れてしまった。どう足搔いても殴られるならばもういっそのことすべて投げ出してしまっても良いのではないかと、そんな思考が首を擡げたその時。

ドサリ。そんな音が背後から聞こえてきた。

……え?不思議に思い振り返ると、たった今の今まで自分を追いかけてきていたダドリーとその友人たちが地面に突っ伏しているではないか!辺りを見回すと少し離れたところに白銀の棒切れを持った銀髪の綺麗な女性が立っていた。

 

Who are you(あなたはだれ)?」

 

さらさらとした銀色の髪が太陽の光に反射してきらきらと輝いた。そして彼女は微笑んでこう言った。

 

I am a witch(わたしはまじょだよ)。―――君を迎えに来た」

 

その笑顔がとても綺麗で、ハリーは生まれて初めて美しいものを目にしたような気持になった。

それからの展開はとても早かった。

リーゼロッテと名乗った彼女はハリーの目を見つめてダーズリー家にいたいのかと問いかけてくれた。それはハリーにとって初めての質問で。自分はあの家にいる以外の選択肢があったと知った瞬間だった。

―――僕を見てくれる人がいてくれた。それが嬉しくて嬉しくて、

 

ハリーはずっと隠し続けていた願いをさらけ出した。助けてほしい。僕を、ここから連れ出してほしい。

そして彼女(まじょ)はいとも簡単にその願いを叶えて見せた。

 

ハリー・ポッターはこの日、生きながらにして死(じご)んでいるような日々()から救い出されたのだ。

 

 

 

 

―――窓から差し込む太陽の光に、パチリと目を開いた。

 

「……おはよう、ヘレン」

「おはようございます、ハリー様」

 

ハリーはベッドの傍らに佇んでいたメイド服の女性、ヘレンに挨拶をした。アーリーモーニング紅茶(ティー)ならぬアーリーモーニング珈琲(コーヒー)を受け取り、ハリーは数年前から一切容貌の変わらない彼女に向って笑った。

 

「懐かしい夢を見たんだ」「懐かしい、ですか?一体どんな夢を?」

「僕がリーゼに助けられた時の夢」

 

辛くて苦しくて、今思えば惨めでどうしようもなかったあの頃の自分。

あの頃は足も伸ばせないような狭い階段下の物置でボロボロの布団にくるまっていつもお腹を空かせて眠りについていた。叔母夫婦にはいないものとして扱われ、いとこには殴る蹴るの暴力を振るわれ。機嫌が悪い時は物や拳が飛んできたことも一度や二度ではない。

そしてリーゼに助けられて幸せだと言える今、ハリーは確信していた。

あの日、リーゼと出会っていなければ遠くないうちに自分は死んでいただろう。肉体(からだ)ではなく精神(こころ)が、だ。

リーゼはハリーにすべてを余すことなく伝えてくれた。

ハリーの両親が死んでしまったこと、その原因から何故ダーズリー一家に預けられたのか。そして預けられたことで自身に掛けられた守りの魔法のことも。

守りの魔法で餓死や大怪我は避けられても、作用するのは体だけ。精神(こころ)までは守られない。……守れない。

そして、ハリーはリーゼからすべてを聞いて――何度か同じことを聞いて(彼女は嫌な顔一つせずに繰り返してくれた)――理解した時、己がギリギリのところに立っていたことを知った。

 

「ヘレン、リーゼは今どこにいるの?」

「――今はテラスで休憩されてますね」

 

リーゼの居場所を尋ねれば一秒にも満たない間を置いてヘレンが答えた。

 

「よし、さっさと支度してリーゼのところに行ーこおっと」

 

紅茶を飲みほしたハリーはベッドから勢いよく飛び出し、ヘレンが用意してくれた服へと着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――リーゼ!」

 

自身の研究している植物に囲まれたテラスでお茶をしていると、ハリーが元気よく駆けてくる姿が見えた。

かつてとは違い、皮と骨だけではない子供らしくふっくらとした手足、焼き立てのパンのように柔らかそうな頬を染めてリーゼに抱き着いた。

 

「おっと。どうしたんだ?」

「リーゼに会いたくなっちゃって!」

「可愛いことを言ってくれる」

 

リーゼロッテはハリーを抱き上げて茶色の髪にそっと頬ずりした。

あれから三年。もう三年とも言えるし、まだ三年とも言える。そんな長いようで短い月日を共に過ごした二人は親子とも親友ともいえるような気やすさがあった。

 

「ハリー、今日は何をしたい?」

「うーん、久しぶりにドラコと遊びたいけどセブルスおじさんにも魔法薬学教えてもらいたいし、あ、でもリーゼと一緒に遊びに行きたい……」

 

やりたいことが多い……と頭を抱えている養い子を見てリーゼロッテはこっそりと笑みを浮かべた。

 

「ではドラコとセブルスをここに呼んだらどうだ?勉強が終わったらセブルスに遊んでもらったらいい」

 

可愛いハリーの要望を叶えるべくリーゼロッテが提案すれば当の本人は喜色満面で「やった!手紙出してくる!」と自分の部屋に駆けて行った。

その後ろ姿を見送ったヘレンが呆れた様子で口を開く。

 

「意地が悪い方ですね。スネイプ様がまたお怒りになりますよ」

「何、少しくらい構わんだろう。奴も満更でもないのだし」

「内心では喜んでいそうではありますが」

「ならなんの心配もないな。過去に縋って生きる男に文句言われる筋合いはない」「承知致しました」

 

ヘレンはお辞儀をしてその場を辞すと、自らが仕える小さな主人の元へと転移した。転移した先で、ハリーは浮足立った様子で郵送用の羊皮紙と羽ペンを手にアンティーク調の勉強机に向かっているところであった。

 

「ヘレン、フクロウ便の用意してくれる?セブルスおじさんとドラコに!」「かしこまりました。」

 

先ほどまでいなかったはずの従者が突然現れたことに驚きもせずにハリーはそう言うと羊皮紙に羽ペンを走らせた。

ドラコとはリーゼがルシウスさんに招待されたお茶会からずっと仲良くしているし、セブルスおじさんは初めて会った後、リーゼがお話したと言って(やけに服がボロボロだった)屋敷に来てから定期的に来ては勉強を教えてくれている。

 

最初は怖い人かと思っていたが、自分を見る目はダーズリーのような汚いものを見る目ではなかったし、自分と目を合わせた瞬間だけはとても柔らかくなっていることに気付いてからは怖くはなくなった。(理不尽なことしようとするとリーゼが飛んできておじさんに突っ込んでいく)おじさんよりもダドリーとかダーズリー一家の方が怖いと言った時には怒っているような泣きそうになっているような複雑そうな顔をしていた。

 

そんなことをとりとめもなく考えていたハリーはふと手を止めた。

そういえば、今までずっと一緒にいたからリーゼに手紙書いたことなかったなぁ。

 

「手紙書いたら喜んでくれるかな……」

 

ドラコとセブルスおじさんへの手紙を書いたら、リーゼ宛てに書いてみよう。喜んでくれるかな、と養い親の反応を想像したハリーは小さく笑いながら手紙の続きを書き始めた。

 

 

 

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