不思議の墳墓のネム   作:まがお

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前回のあらすじ


「閉店セールです」
「凄く良いブラシだね」
「凄く気持ちの良いブラシでござるな」
「なるほど。そういうことでありんすか」


今回はネム待望の宝探しをするお話。
「TAS」ならぬ「NAS」による超展開で進みます。
もちろん「NAS」はNemu-Assisted Superplayの略です。




【NAS】骸骨と少女の宝探し

「ねぇ、モモンガ。宝探ししない?」

 

「よし、やろう」

 

 

 即断即決。

 ネムに誘われた後、モモンガの行動は早かった。

 

 

「すまないがちょっとだけ待っててくれ。道具を取ってくる」

 

「はーい」

 

 

 モモンガは声を弾ませ、詳しい理由も経緯も聞かず、すぐさまナザリックに戻っていった。

 ネムと会話を始めてから、ここまで僅か十秒。見事なとんぼ返りである。

 

 

「――待たせたな。これが探索&採取向けの装備一式と必要なアイテムセットだ」

 

 

 骸骨再臨。

 僅か数分で戻ってきたモモンガは、小さな山が出来るほどのアイテムを抱えていた。

 帽子、首飾り、腕輪、手袋、外套、ピッケルetc…。

 これらの多種多様な装備は全てユグドラシル産。やり過ぎである。

 

 

「ほい、こっちがネムの分だ」

 

「ありがとう、モモンガ」

 

 

 これから行うのは冒険者の仕事ではなく、単なる遊び。

 そのため、モモンガはネムに惜し気もなく高性能な装備を貸し出していた。

 控えめに言って、どれもこの世界では伝説になるレベルである。

 

 

「でも多くない?」

 

「そうか? 私が友人から教わった『誰でも楽々レアドロ術』だと、これでも必要最低限だぞ」

 

「宝探しって必要な道具が多いんだね」

 

「根気も必要だがな。レアドロップ目当てに課金アイテムでドロップ率を上昇させたり、面倒なクエストやボスを無限に周回したり…… 全然楽々じゃなかったな」

 

 

 モモンガが遠い目をしている隣で、ネムは黙々と装備を身につけ始めた。

 首飾りや腕輪など、普通に考えれば必要な物とは思えない装飾品も多い。

 それに『誰でも楽々レアドロ術』とやらも、ネムからすれば全く何か分からない。

 でも、モモンガが必要だと言うならきっとそうなのだろう。

 モモンガを信頼するネムにとっては、それくらいのゆるい認識であった。

 

 

「ホントあのクソ運営、確率絞りすぎだろ。欲しい時に出ない癖に、必要数が溜まってからはポンポン落としやがって。ギルド武器作る時だってどんだけ苦労したか――」

 

「モモンガ、もう準備できたよ?」

 

 

 準備を終えたネムにローブの裾を引っ張られ、モモンガは現実に引き戻された。

 一定レベル以下の物理攻撃と魔法の無効化。

 状態異常、行動阻害、精神干渉系など、あらゆる妨害に対する完全耐性。

 ここまで防御を固めておきながら、もはや必要なのか疑問のある生命力持続回復(リジェネ―ト)まで付与されていた。

 この世界では無敵状態と言っても過言ではない、トレジャーハンターネム・エモットの完成である。

 

 

「――っゴホン。すまない、つい昔の事を思い出してしまった。さぁ、行くか!!」

 

「うん!!」

 

 

 宝探しに相応しい服装に変わり、早くもテンションの上がったネムとモモンガ。

 二人は仲良く拳を突き上げながら、一歩目を同時に踏み出した。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……ところでネムよ」

 

「なぁに、モモンガ」

 

 

 しかし、そこからは一歩も先に進んでいない。

 互いに顔を見合わせる事もなく、まっすぐに前を向いたまま固まっていた。

 

 

「宝探しって、どこで何を探すんだ?」

 

「分かんない」

 

 

 いっそ清々しいネムの返答。

 言葉以上にその真っ直ぐな瞳が告げていた。

 最初に言った通り、『宝探し』がやりたかっただけなのだと。

 具体的な計画なんてある訳がない。

 

 

「流石に目標くらいは決めてから移動した方が良いと思うんだが」

 

「じゃあ、あっちの山でも探してみる?」

 

「確か、アゼルリシア山脈だったか。デミウルゴスの資料に名前があったような無かったような……」

 

「上手く掘ったら金塊が手に入るかもなって、前にラッチモンさんが言ってたよ」

 

「誰だそれ」

 

「たまにお肉をお裾分けしてくれるおじさん」

 

 

 信憑性皆無の情報。

 早く行こうと訴えるネムの表情。

 モモンガは一つの境地へ達した。

 

 

「モノは試しでやってみるか」

 

「うん、目指せお宝!!」

 

 

 ――楽しいならなんでもいいや。

 無計画、ここに極まる。

 

 

 

 

 失態だ。

 精神の沈静化までは起きていないが、自分はよほど浮かれていたらしい。

 モモンガは探索場所も目標も決めずに、つい先走ってしまった己を心の中で叱責していた。

 

 

(馬鹿だなぁ、俺。この世界とユグドラシルは違うってのに。ネムに何やってんだコイツとか思われてないと良いけど……)

 

 

 ユグドラシルと同じノリで準備もしてしまったが、この際それは置いておくとしよう。

 重要なのはネムと『宝探し』をするという事。

 次に、どうやってお宝を見つけるかだ。

 ネムが聞いたラッチモンなる人物の話など、どうせ冗談か夢物語に近いものだろう。

 とは言え、アゼルリシア山脈がもし鉱山であるならば、金や希少な鉱石を見つけられる可能性もゼロとは言えない。

 

 

「――〈上位幸運(グレーターラック)〉、〈超常直感(パラノーマル・イントゥイション)〉。これで良し」

 

「何にも変わってないよ?」

 

「まぁ、気休めだから問題ない」

 

 

 むしろ現状では一番マシな選択肢と言えるだろう。

 さらにモモンガは苦肉の策として、ネムに魔法をかけた。

 そしてデミウルゴスお手製の地図を、ネムの前に広げる。

 

 

「さぁ、ネム。山のここだと思う所に指を差してくれ」

 

 

 後はネムの直感に任せるのみ。

 要するに当てずっぽうだ。

 闇雲に探すよりはマシ程度の、本当に気休めにしかならない方法である。

 

 

「うーん、じゃあ――ここっ!!」

 

「えーと、だいたい山の中腹あたりか」

 

 

 気合の入った声と共にネムが指を差した場所は、王国側ではなく帝国側に寄っていた。

 アゼルリシア山脈の中心からすると、山の南東方面だ。

 

 

「とりあえず目的地周辺までは魔法で移動だな。そういえば、ハムスケは誘わなくて良かったのか?」

 

「ハムスケは筋肉痛だから、『しばらくはゆっくり休みたいでござる』って言ってたよ」

 

「あいつホントに賢王らしくないな」

 

 

 モモンガは〈全体飛行(マス・フライ)〉を使って、ネムが指を差した地点に向かって飛んだ。

 

 

(足を使って探すなんて、なんだか懐かしいなぁ。さて、内部に入れる洞窟か坑道でもあると良いんだが……)

 

 

 GPSなんて便利な物は存在しないので、あくまで感覚頼りではある。

 幸いデミウルゴスの作った地図が見やすい物だったので、モモンガもさほど迷う事なく目的の場所へ行く事が出来た。

 

 

「――あったな。入れそうな場所」

 

「あったね。洞窟、でいいのかな? なんだか裂け目みたい」

 

「まさかこんな簡単に見つかるとは……」

 

「やっぱりモモンガの魔法は凄いね」

 

「そ、そうか?」

 

 

 ネムと空の旅を楽しむこと数分。

 降り立った場所は岩だらけで、ゴツゴツとした山肌が露出していた。

 

 ――決定的成功(ネムティカル)

 

 さらに、ちょうど近くに山の中に繋がっていそうな裂け目も開いている。

 ネムの勘はドンピシャだったという事だろう。

 

 

(本当に魔法の効果が発揮された結果なのだろうか…… それとも元からネムの運が良かっただけか?)

 

 

 軽く中を覗いてみると、どうやら自然に出来たもののようだが、問題なく進む事が出来そうだった。

 どこまで続いているのか分からないが、一度入ってみるのも一興だろう。

 そう思ったモモンガはあえて何も調べず、ネムと共に暗闇の中に足を踏み入れた。

 

 

「この頭の光るやつ、凄く明るいね!!」

 

「洞窟内を探検する時のお約束アイテムだ。あくまで飾りだったんだが、ちゃんと機能している様だな」

 

 

 自分達から発せられる音がよく響く、静かで真っ暗な自然の通路。

 帽子に取り付けられたヘッドライトが気に入ったのか、ネムは洞窟内に入ってからやたらと首を動かして周囲を照らしていた。

 科学技術が発達していないこの世界では、光る道具そのものが面白いのだろう。

 

 

(ネムには〈闇視(ダーク・ヴィジョン)〉よりこっちで正解だったな)

 

 

 流石にもうオッサンで死の支配者(オーバーロード)な自分に、そんな無邪気な感性は残っていない。

 だが、興奮するネムの気持ちは何となく理解出来た。

 押し入れや布団の中など、暗い所で懐中電灯などを使う。

 まだ自分が幼く、母親が生きていた頃は、ただそれだけで楽しかった記憶がある。

 

 

「家のランプよりずっと凄いよ。モモンガは使わないの?」

 

「私は元から種族特性で暗闇の中でもハッキリと見えるんだ。便利ではあるが、こういう時には情緒がなくて微妙に感じるぞ」

 

「そうかな? 私はいつも見える方が便利で良いと思うけどなぁ」

 

 

 洞窟内の探索は順調だった。

 虫除けくらいの気持ちで〈絶望のオーラ〉を垂れ流していたので、魔物とのエンカウントを心配する必要性は皆無。

 途中で道が分岐すれば、基本的にネムが進む先を決めた。

 時々気になった壁を、お互いテキトーにピッケルで削ってみたりもした。

 当然こんなやり方では、お宝どころか鉱石の一つも手に入らない。

 

 

(あぁ、楽しいなぁ)

 

 

 でも、モモンガは楽しかった。

 ネムとワイワイ喋りながら、自由気ままにピッケルを振り回して遊んでいるのが楽しかった。特に部下の視線もなく、重圧が全くないのが最高だった。

 宝探しの事など半ば頭から抜け落ちていたが、モモンガは既に満足したと言ってもいい。

 

 

「また分かれ道だな」

 

「じゃあ、次はこっちにしよ!!」

 

 

 何度目かの分岐点。

 暗い洞窟内にも慣れてきたのか、ネムの表情に緊張感はカケラも残っていない。

 そして、ネムが選んだのは今までと比べるとかなり細い道だった。地殻変動か何かの影響で出来たのか、道というより割れ目に近い。

 ネムくらい小柄ならまだ余裕もあるが、大人が二人同時には通れないだろう程度の幅しかなかった。

 

 

「あー、行き止まりになってる。あれ、でもこの壁……」

 

「残念、この道はハズレだったようだ。さっきの所まで戻るぞ」

 

 

 十メートルほど進む事は出来たが、そこまでだった。

 満足にピッケルも振れないような狭い空間まで辿り着き、引き返そうと思った時。

 何を思ったのか、ネムはピッケルで右側の壁を突きだした。

 

 

「ねぇモモンガ。この部分なんか硬いよ?」

 

「硬い?」

 

 

 ネムの「硬い」という言葉に、モモンガは疑問を抱く。

 ネムに持たせているピッケルは聖遺物級(レリック)のマジックアイテム。ただの岩程度なら、子供の力でも容易に削る事が出来る。

 現に今までの道中では、ネムもそこら中の壁を好きに削る事が出来ていた。

 

 

「確かに硬いな。ここだけ材質が違うのか? いや、何かの壁か?」

 

 

 狭い場所だがなんとかネムと入れ替わり、モモンガも壁に触れてみた。

 よくよく見れば、確かに周りの岩と質感も違う。

 まるで岩のメッキが剥がれたように、一部だけ硬い壁が露出しているようだった。

 

 

「掘ってみようよ!! もしかしたらお宝が埋まってるかも!!」

 

「そうしたいのは山々だが、狭すぎてピッケルが使いづらいな」

 

 

 この狭苦しい場所だと、モモンガに取れる手段はそれほど多くない。

 期待の視線を背中に浴びながら、モモンガは力業を選択する。

 

 

「ネム、ちょっと下がってくれ――〈魔法三重化(トリプレットマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)〉、〈魔法三重化(トリプレットマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)〉」

 

 

 モモンガの手から魔法の刃が放たれ、硬い壁をあっさりと切り裂いた。

 ただ破壊するだけならもっと効率の良い魔法もあるが、これなら周囲にあまり影響を与えないだろう。

 第十位階魔法の大盤振る舞いだが、爆発系を使って崩落が起こったら目も当てられない。

 

 

「うわぁ……」

 

「おおぉ……」

 

 

 何重にも重なった切れ目に負荷がかかり、壁はピシリと音を立てて崩れ落ちた。

 目の前の光景にネムは目を見開き、モモンガと揃って感嘆の声を漏らす。

 

 ――決定的成功(ネムティカル)

 

 魔法によって切り刻まれ、崩れ落ちた壁の向こうから――黄金の光が溢れ出していたのだ。

 

 

「凄い、これは凄いぞネム!!」

 

「凄い凄い凄い!! お宝だよ、モモンガ!!」

 

 

 地下遺跡の宝物庫でも掘り当てたのだろう。

 もしくは大昔の人が埋めた埋蔵金というやつかもしれない。

 意外と分厚かった壁の向こう側に足を踏み入れてみると、その空間は金銀財宝で埋め尽くされていた。

 ナザリックの宝物殿には遠く及ばないが、それでも莫大な量である。

 

 

「わぁ、金貨とか武器とか色々ある!! 金塊より凄いの見つけたね」

 

「ああ、ネムの幸運に感謝だな。ダンジョンを突破せず宝の部屋に直行なんて、運営が聞いたら卒倒してるぞ。さて、まずはどうするか……」

 

「ピカピカすっごーい!!」

 

「あ、ズルっ!!」

 

 

 もはや自分の言葉が届いていないのか、興奮を抑えきれず、ネムが叫びながら宝の山に飛び込んだ。

 金貨のクッションはあまり衝撃を吸収してしてくれなかったようで、膝をさすっている。

 でもその表情は笑顔のままだ。

 

 

「よーし、俺も!!」

 

 

 先程から精神の沈静化は繰り返されているが、この喜びは早々消える気配もない。

 自分もネムのように感情のまま、金貨の山に飛び込んでみた。

 予想通り貴金属の硬い感触しか返ってこなかったが、体で金貨を撒き散らすのは思いのほか達成感があった。

 

 

「あはは!! モモンガ、体の中に金貨が入ってるよ」

 

「ははは!! ネムこそ、頭にネックレスが引っかかってるぞ?」

 

 

 その後も二人はお宝を物色し続け、モモンガでも装備可能な不思議な剣を見つけたりもした。

 金貨の彫刻から宝物庫の正体を考察したり、どうやって持って帰ろうか相談したりもした。

 二人の『宝探し』は、大成功に終わったのだった。

 

 

「あーあー、でもこんなに沢山あると、家にも置いとけないね」

 

「置き場所が気になるなら、ネムの分はナザリックで預かろうか? いつでも取り出せるようにするし、もちろん宝は山分けだ」

 

「いいの? でもそんなにはいらないかな。ここに来れたのはモモンガのおかげだし」

 

「おいおい、遠慮しないでくれ。それを言ったら、ここを見つけられたのはネムのおかげだぞ?」

 

 

 ちなみに、これは古代の遺跡の一部などではない。

 もちろん貯めこまれた宝物は埋蔵金でもない。

 訳あって放置されている状態だが、実は現存する国の宝物庫である。

 

 

「宝探し、楽しかったね、モモンガ」

 

「ああ、またやろうな、ネム」

 

 

 ――とある国の宝物庫に、壁を壊して侵入していたのだと、少女と骸骨は最後まで気付く事はなかった。

 

 

 

 

「ふむ。財源の確保は今日も順調だね。この分だと、あと三日もあれば今月のノルマを達成できるだろう」

 

 

 誰よりも日々忙しく働いているナザリックの階層守護者、デミウルゴス。

 デミウルゴスは第九階層の廊下を歩きながら、部下から提出された資料に目を通していた。

 パンドラズ・アクターの協力によって、財源の確保は以前より一段と成果をあげているようだ。

 

 

(今日もモモンガ様に良い報告が出来そうですね)

 

 

 資料を脇に抱え直したところで、至高の御方の気配を感じて振り返る。

 どうやらネムとの冒険から帰ってきたのだろう。

 

 

「お帰りなさいませ、モモンガ様」

 

「おお、デミウルゴスか。ちょうど良かった。実はさっきネムと財宝を見つけてな、それを宝物殿に運ばせた」

 

「財宝、でございますか」

 

 

 今回も非常に満足げな様子だ。

 しかし、財宝とはいったいどういう事だろうか。

 これは何かの比喩表現なのか。確かに御方の働きによって得られた貨幣は、金額に関わらず財宝と言っても差し支えない価値がある。

 はたまた、冒険者の仕事先で実際に何かを見つけられたのか。

 

 

「一部のマジックアイテムは換金しないように言ってあるが、それでもそこそこの維持費にはなると思うぞ」

 

 

 デミウルゴスが思考を巡らせていると、モモンガは嬉しそうに一枚の紙を見せてくれた。

 おそらくパンドラズ・アクターが計算したであろうそれには、モモンガの手に入れた財宝の合計金額の見積もりが記載されていた。

 ご丁寧にエクスチェンジボックスを利用しない場合、人間社会での相場まで算出されている。

 

 

「流石はモモンガ様。一度の行動でこれ程の稼ぎを得られるとは、お見事でございます」

 

「今回は運が良かっただけだ。大体はネムのおかげだしな」

 

 

 デミウルゴスは並んだ数字を確認し、叫びそうになった気持ちを無理やり抑え込んだ。

 なんだこの金額は。明らかに桁がおかしい。

 パンドラズアクターがミスをするとは思えないが、本当に桁がおかしい。

 国一つ潰して回収してきたとしか思えないような、馬鹿げた金額だ。

 

 

 

「ああ、そうそう言い忘れていた。半分はネムの物だから、きっちり分けるようにパンドラズ・アクターに追加で伝えておいてくれ」

 

「畏まりました」

 

「うむ、頼んだぞ。それにしても、今日は本当によく遊んでしまったな」

 

 

 ――遊び。

 これ程の成果も、御方にとっては遊びでしかないと言うのか。

 

 

「時にデミウルゴスよ。仕事ばかりで疲れていないか? お前の忠勤にはもちろん感謝しているが、偶には休憩して、遊んで英気を養うことも大事だぞ」

 

「御心遣い感謝いたします」

 

 

 デミウルゴスは取り乱さないように歯を食いしばり、それを悟られぬよう恭しく頭を下げ続けていた。

 そして、モモンガの気配が完全に消えた後、デミウルゴスは膝から崩れ落ちた。

 

 

「馬鹿な!? たった一日で、いや、ネム様と出かけられていた時間は半日。実際に動かれた時間はそれ以下だ!!」

 

 

 もちろんナザリックの総力を発揮すれば、国の一つや二つ滅ぼす事は容易い。財宝でも国庫でも何でも回収出来るだろう。

 だが、モモンガとネムはたった二人で、誰にも気づかれる事なくこれを成し遂げたのだ。

 

 

「僅かな時間でこれ程の成果を上げるなど――御身の御力、改めて示していただき感謝致します」

 

 

 デミウルゴスは膝に活を入れて立ち上がった。

 これは御方からの激励だ。

 小さな成果を積み上げる事で僅かに緩んでいた自分に、更なる上を目指せと仰せなのだろう。

 

 

(モモンガ様のお言葉には他にも意味があるのでは? 深淵なる御意思の一端でも――思い出せ、そして考えるのですっ!!)

 

 

 思考を限界まで加速させる。

 創造主に与えられた知能の限界、その先へ。

 至高の領域に辿り着かんと、持ち得る全ての知識、経験、発想を爆発させる。

 ――財宝、仕事、遊び、ネム、財源、楽しい、パンドラズ・アクター、オーバーアクション、疲れ、英気、養う、人間、循環、搾取――

 

 

 

 

「モモンガ様。テーマパークを作り、人間達から財を回収するのは如何でしょうか?」

 

「……一度休暇を取りなさい、デミウルゴス」

 

 

 ――大失敗(ファンブル)

 

 心配したモモンガの一声で、デミウルゴスは強制的に休暇を取る事が決定した。

 

 

 

 

おまけ〜夜更かし大人体験〜

 

 

 淡い輝きを放つ天井のシャンデリアと、カウンターに設置されたお洒落な間接照明。

 それらの薄い明かりに照らされ、落ち着いた雰囲気を醸し出している大人の空間。

 ここはナザリックの第九階層――『ロイヤルスイート』に存在するショットバーである。

 

 

(シャルティア様とアルベド様が来られた際にお酒が随分と減ってしまいましたが、在庫の補充は問題ない様ですね。……不毛な争いを見るのはもう二度とゴメンですが)

 

 

 バーカウンターの奥で棚に陳列されたボトルの確認をしているのは、茸生物(マイコニド)の副料理長。

 とあるキノコにそっくりな見た目のため、周りから『ピッキー』という愛称で呼ばれているNPCだ。

 その胴体はスラリとして細長く、ボトルを握る手は三本の触手のようである。

 

 

(さて、今夜はどなたが来られますかね……)

 

 

 副料理長の主な職務は、ナザリック内の食堂で料理長と共に料理を作る事である。

 料理と言っても彼自身はドリンクが専門であり、むしろドリンク系しか作る事は出来ない。

 また、利用者がそれ程多い訳ではないが、こうして週に何度かはバーのマスターとしても働いている。

 

 

(出来ればデミウルゴス様のように、落ち着いた方が来られるといいのですが)

 

 

 副料理長はグラスを磨きながら、常連の一人が優雅に酒を嗜んでいた姿を思い出す。

 肩書きは同じ守護者でも、すぐに喧嘩を始める女性陣とは立ち振る舞いに雲泥の差があった。あれこそ出来る大人の男というものだろう。

 そのまま静かに客の訪れを待っていると、店の扉がゆっくりと開く音がした。

 

 

「いらっしゃ――っ!?」

 

 

 客を出迎えるため、副料理長はカウンター内の定位置に素早く戻る。

 そして、入り口に向けていつもの様に声をかけようとした――が、入ってきた存在を認識して思わず息を呑んだ。

 

 

「驚かせてすまないな」

 

 

 神器級(ゴッズ)の豪奢な漆黒のローブではなく、洗練された黒いジャケットを身に纏った死の支配者(オーバーロード)

 シックな装いでバーの扉を開き、現れたのはナザリックの唯一にして絶対の支配者。

 至高の御方であるモモンガだ。

 

 

「っモモンガ様。お出迎えも出来ず、誠に申し訳ありません」

 

「よい。今の私はただの客として来ている。配下としての過度な気遣いは無用だ」

 

 

 たとえ服装が違えど、他を圧倒するその威光は微塵も衰えていない。

 副料理長はすぐに跪こうとしたが、モモンガに片手で制される。

 だがその際に視線を下げた事で、モモンガの気配に埋もれていた、隣の小さな存在にも気づくことが出来た。

 

 

「だから普段通りの姿で振る舞ってくれ、副料理長。いや、ここではマスターと呼ぶべきかな?」

 

「こんばんは、マスターさん」

 

 

 モモンガの連れは、寝巻きと思われる服の上から上着を一枚だけ羽織った少女。

 ナザリックに所属するシモベの中で、もはやその存在を知らぬ者はいない。

 モモンガの恩人にして友人、ネム・エモットだ。

 

 

「失礼いたしました。まさかモモンガ様がこちらにいらっしゃるとは…… 本日はネム様もご一緒のようで」

 

「なに、ちょっとした夜遊びだ。な?」

 

「うん。想像してたよりずっと凄い!!」

 

「ははは、そうだろう。ここも私の仲間達がこだわりを持って作った場所だからな」

 

「ネム様にも気に入って頂けたようで、私もバーのマスターとして鼻が高いです」

 

 

 モモンガとネムのやり取りからは、本当にただバーに遊びに来ただけのように感じられる。

 副料理長は急いで気を取り直し、御方の望み通りバーのマスターとして、畏まりすぎないように接客した。

 

 

「ナザリックってたくさん凄い場所があるし、モモンガの友達は凄い職人さんばっかりだね」

 

「ああ。確かにクリエイター系の仕事をしている人も多かったぞ。リアルでの職業聞いてマジかと思った人もいたが……」

 

 

 遊びに来ているという感覚が強いのか、モモンガの口調は普段より柔らかい。

 畏れ多くも親しみを覚えてしまうその姿は、個人的に非常に好ましかった。

 

 

「まぁ飲食が出来ない私と酒が飲めないネムでは、色々とこの場にそぐわないかもしれんが…… その辺は目を瞑ってくれ」

 

「とんでもありません。バーはお酒だけでなく、雰囲気や会話も楽しんで頂ける場所ですので。どうぞこちらのお席の方へ」

 

 

 確かにネムの年齢だとバーに来るには早いかもしれないが、人外魔境のナザリックにおいて年齢など然程重要ではない。

 至高の御方の意思が法であり全てである。

 そもそもモモンガのする事に文句を言うシモベなど、ナザリックにいる訳がないのだ。

 

 

(あぁ、なんという幸せっ!! アンデッドである御方に、マスターとして接客出来る日が来るとは……)

 

 

 副料理長は目の前の光景を脳裏に焼き付けながら、望外の幸福を噛み締めていた。

 見る者全てが惹きつけられる自然な動きで、華麗に椅子に座ったモモンガ。

 流石は至高の御方である。座る動作一つとっても高いカリスマを感じる。

 まるで何度も練習を重ねたかのような、スマートで淀みのない座り方だ。

 

 

「届かない……」

 

「ははは、ここはギルメンの男性陣を基準にして設計したからな。ネムだと身長が足らないのはしょうがない。ほら、手を」

 

「ありがとう、モモンガ。んー、よいしょっと」

 

 

 一方で子供のネムにとっては、このバーに置いてある椅子は少々高かったようだ。

 席に座るためにモモンガの手を借り、一生懸命よじ登ろうとしている。

 

 

(大人に憧れるネム様と、その手をそっと引いて差し上げるモモンガ様ですか――)

 

 

 副料理長は沈黙したまま思案した。

 自身の理想とするバーで飲む客の像は、デミウルゴスの様な知的で大人の男である。

 

 

(――アリですね)

 

 

 だが、二人の様子を静かに眺めながら、少女に火遊びを教える大人もアリなんじゃないかと思い始めた。

 ぶっちゃけナザリックのNPCからすれば、モモンガが何をしてもカッコよく映るのである。

 

 

「では、何になさいますか?」

 

「カクテルが飲みたいです!!」

 

「ふふっ、そういう訳だ。私もあまり詳しくはないが……」

 

 

 元気よく手を挙げて注文するネム。

 こちらにそっと目配せをするモモンガ。

 

 

「ネムでも飲める甘い物で、チョコレートやクリーム系より、果物を使ったサッパリした物を頼む。寝る前だからな」

 

「かしこまりました」

 

 

 ほんの僅かな会話だが、ネムが求めている事はおおよそ把握できた。

 ならばやる事は一つ。

 バーのマスターとして、全力で客に楽しんでもらうだけだ。

 

 

(腕の見せ所ですね)

 

 

 副料理長は素早くシェイカーを取り出し、林檎ジュースとレモン果汁、シロップを手際良く入れる。

 そして、ネムにもよく見える角度で、普段より少しだけ大袈裟な動作でシェイクを行った。

 氷を入れたグラスにシェイクした物と炭酸を注ぎ入れ、仕上げに軽くステアしてからネムの前にそっと置く。

 

 

「こちら、アップルフレーズルでございます」

 

「わぁ、本当にカクテルだ」

 

 

 普通にノンアルコールドリンクなのだが、カクテルを作る様子に釘付けだったネムの反応は上々だ。

 どうやら期待通りの品を出せたようである。

 しかし、ネムはグラスに手を伸ばしかけるも、中々飲もうとはしない。

 理由を察した副料理長は、モモンガにも声をかけた。

 

 

「モモンガ様も何か一杯いかがでしょうか?」

 

「そうだな…… では、香りが良い酒を頼む。種類などは任せるとしよう」

 

「かしこまりました」

 

 

 モモンガに酒を振る舞える機会など、もう二度と訪れないかもしれない。

 副料理長は平然と応えながら、心の中で燃えていた。

 

 

「――オリジナルカクテル『ナザリック』でございます」

 

「おぉ、これは凄いな」

 

 

 副料理長がモモンガに出したのは、ナザリック地下大墳墓をイメージしたオリジナルカクテル。

 少し背の高いグラスの中に、十種類のリキュールで色とりどりの美しい層が作り上げられている。

 さらに最後にバーナーでつけた青い炎が灯っており、特別性で渾身の逸品だ。

 

 

「すっごーい!! とっても綺麗…… しかも火がついてるよ、モモンガ!!」

 

「ああ、本当にな。それに良い香りだ」

 

 

 モモンガだけでなく、ネムにも喜んでもらえたようだ。

 一応騒いではいけない場所だと認識しているからだろう。先ほどから声を小さく潜めながらも、興奮を隠せていない姿は微笑ましい。

 ちなみにこのカクテルは、いつもなら火はつけずに提供している。

 目で見て楽しんで貰うのと、より香りを立たせる目的で、今回のみあえてそうしていた。

 

 

「楽しい夜に乾杯、だな」

 

「うん、乾杯!!」

 

 

 軽くぶつけられ、大小二つのグラスが小さく鳴った。

 バーでの乾杯は音を鳴らさず、グラスを傾ける動作だけで行う事が多いが、今はこれが相応しい。

 嬉しそうに笑う二人を見て、副料理長は不思議と何の疑問もなくそう思った。

 

 

「――さて、そろそろ帰らねばな。アンデッドの私と違って、早く寝ないとネムは明日に響くぞ?」

 

「……うん、私もちょっと眠たくなってきたよ」

 

 

 他愛もない会話を楽しみながら、ネムは名残惜しそうにカクテルを飲み終える。

 時間にしてほんの二十分程度だ。

 副料理長にとっても貴重で至福だった時間は、あっという間に終わってしまった。

 

 

「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです!!」

 

「それは良かった。また来てくださいね」

 

 

 少し眠たげな目をしながらも、満面の笑みを見せるネム。

 若干目線がズレているのは、自分の顔の正面が分からないからだろう。

 

 

()()()()()()。素晴らしい一杯だったぞ、マスター」

 

「っ!? ……ありがとうございます。ご満足いただけたようで、何よりです」

 

 

 そして、モモンガからも告げられた「ごちそうさま」の言葉。

 御方からお褒めの言葉を賜ったNPCはそれなりにいるだろうが、これほど貴重な褒美が他にあるだろうか。

 副料理長は感動のあまり、危うく姿勢を崩すところだった。

 

 

「それと、今日は秘密の夜遊びなのでな。私達がここに来た事は、周りには内緒だぞ?」

 

「はい、モモンガ様のお望みとあらば。お客様のプライバシーを守る事も、マスターの務めですから」

 

 

 指を一本立てて、茶目っ気を見せるモモンガ。

 またしても非常にレアな姿である。

 今夜の事を誰にも自慢出来ないのは惜しいが、それを上回る満足感で自分は満たされていた。

 

 

「またのご来店を、心よりお待ちしております」

 

 

 副料理長は今の自分に出来る最大の気持ちを込めて、ネムとモモンガを見送った。

 バーの扉が閉まり、転移によって二人の気配が完全に消えるまで、副料理長はあくまでもマスターとして振る舞い続けたのだった。

 

 

 

 

おまけのおまけ〜ゆるせ、エクレア〜

 

 

「――やぁ、ピッキー」

 

「いらっしゃい」

 

 

 モモンガとネムが帰った直後、執事助手のエクレアが一人の部下を連れてやって来た。

 実はこのイワトビペンギンの姿をしたバードマンも、デミウルゴスと同じくバーの常連の一人である。

 部下の脇に抱えられて運んで貰っている事。

 足のつかない椅子に座りにくそうにしている事。

 どれもいつも見ている光景だ。

 

 

「今日もアレを――んっ? 私が一番乗りかと思っていたが、誰か先に来ていたのかな?」

 

 

 もはや聞き慣れた注文を口にするエクレア。

 その時、ふとエクレアの視線が、カウンターに置かれたままになっていたカクテルに止まる。

 

 

「いいえ、今夜はまだ誰も来ていませんよ」

 

「ならカクテルの練習でもしてたのかい? それに、いつもより随分と嬉しそうだが……」

 

「気のせいでしょう」

 

 

 副料理長は勘繰りの視線を受け流し、エクレアがいつも注文するカクテルを作り始めた。

 

 

「オリジナルカクテル『ナザリック』でございます」

 

「練習の成果が出ているのか、いつもより素晴らしい出来だね、ピッキー」

 

「いえ、先程の一杯の方が確実に良い出来でしたよ」

 

「え、それ言うの酷くない?」

 

 

 ドヤるペンギンを一刀両断。

 副料理長は悪いと思いつつ、これだけは譲る訳にはいかなかった。

 なにせアレは御方に直接「素晴らしい一杯だった」と評価された物なのだから。

 

 

「じゃあその練習作も飲ませてくれたまえ」

 

「ダメです」

 

「えぇ……」

 

 

 既に他の客に出した品を横流しするなど、マスターとしての矜持が許さない。

 特にモモンガに出した一品を誰かに渡すことなどもってのほかだ。

 

 

「の、飲みたい…… 一口だけダメ?」

 

「ダメです」

 

 

 エクレアの恨めしそうな視線は、カウンターに置かれた既に火が消えている『ナザリック』に注がれ続けたのだった。

 

 

 




ドワーフもクアゴアもフロストドラゴンも出てないけど、ドワーフ編完。
ぶっちゃけ宝を盗んだだけとも言える。

今回は超展開でかなりぶっとんだオチになりました。
でもネムの起こす奇跡をさんざん見ているので、デミウルゴスは不屈です。
アイドルのプロデュースとかデミPとかやるくらいだから、デミウルゴスはエンタメ的な事も普通に得意なのかもしれない。


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