不思議の墳墓のネム   作:まがお

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自分が書いた中で過去最高に綺麗に終わった――でも続きを書いた事に後悔はない。
ネムをメインに短編の続きを少しだけ書いてみました。
ナザリックも一緒に転移していますが、出来る限り現地人の目線のみで書いてみようとチャレンジしています。



異世界編
夢の外で再会したお友達


 私を抱きしめる姉が、後ろにいる()()を目にして怯えている。

 鎧に身を包んだ騎士さえも、剣の先が震える程に怯える()()が後ろにいる。

 襲ってきた騎士から目を離すのは怖い。それでも聞こえた声の正体が気になってしまう。

 

 ――あの声は、もしかしたら……

 

 姉の体から顔を離し、二人の視線を追うようにゆっくりと振り向いた――

 ――でもそこに立っていたのは、私にとってちっとも怖い存在なんかじゃなかった。

 

 

「――約束を果たしに来たぞ、友よ」

 

 

 私の目には、間違いなく()()が映っていた。

 夢の中でしか会えないと思っていた、家族にも教えていない私の秘密のお友達。

 

 

「モモンガ……」

 

「まさか本当に異世界の住人だったとはな。こうして再会出来た事と言い、ネムの教えてくれた可能性には驚かされるよ」

 

 

 闇色の豪華なローブを身に纏い、黄金の杖を持った背の高い骸骨。

 その眼窩には赤黒い光が灯り、お腹には謎の赤い球体が浮かんでいる。

 あの夢の終わりに――最後に会って約束をした時と全く同じ姿だ。

 

 

「モモンガ、なんだよね……」

 

「そうだぞ。便利な魔法が沢山使える特別なアンデッド…… ネムと友達になったモモンガだよ」

 

 

 震える声で名前を呼ぶと、私を気遣う優しい声が返ってきた。

 

 

「んっ、痛い…… 夢じゃ、ないんだよね……」

 

「もちろんこれは夢じゃない。だが『夢が覚めても、それで友達じゃなくなる訳じゃない』そうだろう?」

 

 

 姉に抱きついたまま、片手でほっぺを抓ると鈍い痛みが走った。

 それにあの言葉は、私があの時モモンガに言った言葉だ。

 

 

「幻じゃ、ないんだよね……」

 

「ああ、私はここにいるぞ」

 

 

 私の側にしゃがみ込み、モモンガは手を差し出してくれた。

 真っ白な骨の手だ。硬くて、温かくなくて――でも、とっても優しい友達の手。

 私が握りしめる手の中に、確かにそれはあった。

 夢でも幻でもない。モモンガが現実に来てくれたのだ。

 

 

「あ、あなた様は、一体……」

 

「ん? どことなくネムと似ているな…… ああ、なるほど。君が姉のエンリ・エモットだな?」

 

「はい、そうですけど…… どうして私の名前を? それにネムとはどういう――」

 

「すまないが細かい説明は後だ。むしろ私の方こそ確認したい事が山ほどあるくらいなのだが…… 一つ言えるのは、私は君達を助けに来た――君達の味方だ」

 

 

 モモンガはそう言って立ち上がると、私と姉を守るように一歩前に進み出た。

 やっぱりモモンガは凄い。

 さっきまであれだけ怖かったのに、その背中を見ただけで私はもう安心している。

 

 

「――ふぅ。感動の再会だというのに、余韻にすら浸れないとは…… 精神抑制も考えものだな」

 

「ば、化物……」

 

「どうした、その棒切れでかかってくるがいい。ここからは特別に私が相手をしてやろう」

 

「あ、ああっ、なんで、こんなっ、何故アンデッドが人間を庇って……」

 

「友を助けるのに理由がいるのか? くだらん問いかけだ…… 消えろ――〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉」

 

 

 モモンガが冷たい声で魔法を唱えると、騎士はビリビリとした光に包まれて崩れ落ちた。

 鎧に包まれた体から焼け焦げたように煙が立ち上り、あんなに怖かった騎士が起き上がってくる事は二度となかった。

 

 

「ふんっ、この程度で死ぬとはな。あまりにも弱すぎる。……ちっ、やはりただの人間だと一人、二人殺しても何も感じない――っうおっと!?」

 

「モモンガーっ!! 助けてくれてありがとう…… ごわがっだよぉぉ……」

 

 

 私を止めようとする姉の腕を振り切り、モモンガに思いっきり飛びついた。

 この場に敵はもういない。極限状態だった緊張が解けてしまい、溢れてくる感情を止められなかった。

 

 

「よしよし、遅くなってごめんな。もう大丈夫だぞ。ネム、これで涙を拭きなさい」

 

「うん……ありがとう」

 

「ネムっ!! ちょっと待って、その方は一体誰なの!? ああっ、助けていただいてありがとうございます。い、妹が無礼をっ!!」

 

「君もそんなに慌てる事はない。先程も言ったように私は味方だ。まぁこの顔では不安になるのも無理はないか。君達の村の事だが――」

 

 

 モモンガに渡された真っ白なハンカチで顔を拭いていると、後ろにあった闇――宙に浮いている、ぽっかりと空いた穴のような物――から何かが出てくるのが見えた。

 今まで気にする余裕がなかったけど、モモンガもアレから出て来たのだろうか。

 

 

「――モモンガ様、時間がかかってしまい申し訳ありません。敵勢力の排除、および村人の保護が完了いたしましたので、ご報告を」

 

「デミウルゴスか。ちょうど良いタイミングだ」

 

 

 現れたのは丸い眼鏡をかけた男の人。

 赤い服を着て、黒い髪をオールバックにしている。

 初めて見る人物にドキリとし、思わずモモンガのローブの裾を掴んで身構えた。

 

 

「――重ねてお詫び申し上げます。老爺八人、老婆二人、中年男性五人、中年女性四人、青年七人、子供四人――合計三十人の人間は治療が間に合わず……」

 

「そうか…… 私が気づいた時点で手遅れだったのだろう。お前が気に病むことではない」

 

 

 話している様子から、どうやらモモンガの知り合いらしいという事は分かった。

 一瞬こっちをチラリと見て表情が動いたような気がしたけど、この男の人は私の事を知っているのだろうか。

 

 

「ですが、モモンガ様の御命令を果たせなかったのは事実で御座います。どうか私に罰を……この命で償いをさせて頂きたく」

 

「――やめよ。無理な命令を出した私にも責はある。それよりも村の様子を聞かせてくれ」

 

「おぉ、なんと慈悲深い…… モモンガ様の恩情に深く感謝いたします。現在の村の様子ですが――」

 

 

 モモンガの友達、いや友達にしてはちょっと言葉が固い。それにこの男の人からはモモンガに対する凄く強い尊敬を感じる。

 

 

「――村人は広場の中央に集め、その周りをアルベド、セバス、アウラ、数名のプレアデスで固めております。村の周囲には高レベルの隠密部隊、伏兵としてマーレが率いる部隊を控えさせております。ナザリック側の防衛戦力と速やかに動ける者を考え、このようにさせて頂きました」

 

「お、おぅ……御苦労だったな」

 

「勿体なきお言葉です。ですが指揮を執った者として、完璧な結果をお見せする事が叶いませんでした……」

 

 

 そういえばモモンガは前に自分の事を"アインズ・ウール・ゴウンの長"とか"ナザリックの支配者"だって言ってた。

 きっとこの人はモモンガの部下なんだ。

 部下に応えるモモンガは堂々としていてカッコいい。まるで王様みたいだ――本物の王様は見た事ないけど。

 でも、どことなく引いている感じがする。何でだろう。

 

 

「救援対象は人間種の村。よって見た目の印象も考慮しメンバーを選別したのですが、敵との戦力差が余りにも酷く…… いえ、はっきりと申し上げますと、セバスを筆頭に少々やり過ぎました」

 

「村にいた主力部隊がそれ程までに弱かったと?」

 

「はい。レベルで言えば大半が十にも満たない存在ばかりでした。ただ、モモンガ様からの御命令に、皆が張り切り過ぎていた事も一因かと」

 

「ぇぇ…… そうか」

 

 

 二人の話は難しくて私にはよく分からない。

 それでも何かの集団で村を助けに来てくれたという事だけは理解出来た。

 

 

(あ、尻尾がある…… でも、大丈夫だよね)

 

 

 たとえ人間ではなくても、彼はモモンガの仲間だ――それが分かると、不安で身構えていた私の緊張は解けていった。

 

 

「もちろんでございます。ナザリックでモモンガ様の御命令に奮起せぬ者などおりません」

 

「そうなのかぁ…… んんっ――報告を続けよ」

 

「はっ。敵の殲滅と村人の保護を優先した結果、村の建物にもそれなりに損害が出てしまい…… 申し訳ありません。モモンガ様の慈悲に救われておきながら、村人達は感謝と恐怖、半々くらいの感情を持っていると思われます」

 

「その程度の事を気にする必要はない。それにお前たちの考えも優先順位としては間違っていない。未知の敵を侮り、こちらが痛手を負うより遥かにマシだ。デミウルゴスよ、情報の少ない状況で良くやった。私はこの者達と村に向かう。隠密と伏兵だけ残して、残りは引き上げさせろ」

 

「ですが、それではモモンガ様の護衛が……」

 

「油断も慢心もするつもりはないが、村にいた敵は殲滅したのだろう? ……まさかとは思うが、私が村人に後れを取るとでも?」

 

 

 低い声を出している時のモモンガは凄い。

 モモンガの声に反応して、デミウルゴスの尻尾がびよんびよん伸びたり縮んだりしてる。

 

 

「いえ、至高の御方であるモモンガ様に対してそのような事は…… ですが、せめて即座に対応出来る形にして頂きたく」

 

「良かろう。ならば伏兵と合流させておけ。村の周囲の警戒も怠るな。何かあれば私に直接〈伝言(メッセージ)〉を寄越せ。デミウルゴスは引き続き全体の指揮を頼む」

 

「……畏まりました。私如きの意見を受け入れてくださり、感謝いたします」

 

 

 デミウルゴスはモモンガに深く頭を下げてから去っていった。

 でも去り際に私の顔を見たような気がする。やっぱり私の事を知ってたのだろうか。それとも顔に何か付いていたのだろうか。

 

 

「――はぁ……よく考えたら早過ぎないか? 俺が飛び出してから十分も経ってないような…… あいつらどんだけ本気出したんだよ。いや、俺も魔法が効かなかったら逃げようと思ってたし、初手は本気の即死魔法を使ったけどさ。でもこの弱さは予想外だった……」

 

 

 デミウルゴスが闇の中に消えていくのを見届けた後、モモンガはがっくりと肩を落とした。

 モモンガは疲れてるのかもしれない。

 それなら後で私が肩でも揉んであげようかな――でも骨だから意味がないかも。

 

 

「――チュートリアルのスライムかよ。そんな雑魚にレベル百のパーティ使うとか、オーバーキル過ぎる…… あぁ、確かに『村の者達を確実に助けられる部隊を出せ』って言ったの俺だけど……」

 

「モモンガ、大丈夫?」

 

「っあ、ああ!! 私は大丈夫だ。村の方は私の配下の者が既に助けてある。だが、全員は救えなかったようだ……」

 

 

 申し訳なさが滲んだモモンガの声。

 さっきの会話で村の人達が全員助かった訳じゃないのは分かっている。でもそれはモモンガが悪い訳じゃない。

 

 

「すまない。私がもう少し早く気がついていれば……」

 

「そんなっ、モモンガのせいじゃないよ」

 

「妹の言う通りです。妹を、村を助けてくださり本当にありがとうございます」

 

「気にするな。村を救ったのは私ではないが、配下には後で礼を伝えておこう。さて、そろそろ私達も行こうか。〈全体飛行(マス・フライ)〉」

 

 

 お母さんとお父さんは無事なのか、それを確認するのは怖い。でもいつまでもここで待っていても仕方がない。

 いつの間にか黄金の杖をどこかに仕舞い込んだモモンガに促され、魔法でふわりと浮かび上がった私達は村に向かった。

 

 

「――はぁ、命令丸投げしてこっちに来たのは不味かったかなぁ。でもネムがピンチだったんだから仕方ないじゃないか。見つけて直ぐに動いてなかったらもっと被害が出たかもしれないし……」

 

 

 村に戻るまでの間、モモンガは悩むようにずっと一人で小さく何かを呟いていた。

 さっきも独り言が多かったし、凄いアンデッドでも色々苦労しているんだろうな。

 

 

「――あぁ、俺たちの事、なんて説明すれば…… うっ、建物どれくらい壊したんだろう。村の人達に謝らないとなぁ…… お詫びにこっちで建て直すか? あっ、顔隠さないといけないんだった」

 

 

 助けてくれたのはモモンガで、悪い事なんて何もないのに。モモンガはとっても責任感が強い。

 村に着いたら私がみんなに説明してあげよう。モモンガは悪いアンデッドじゃないんだよって。

 

 

「ねぇ、ネム。結局この方は何者なの?」

 

「私の友達だよ。夢にあるお城に住んでて、とっても綺麗なんだよ。あっ、寝てる時にモモンガとは会ったんだ。あとね、モモンガは魔法が色々使えて――」

 

 

 モモンガが一人で思考に集中している中、困惑した表情の姉が小声で尋ねてくる。

 私はとりあえず村に着くまでの時間で、精一杯モモンガの良いところを姉に頑張って伝えてみた――

 

 

「――それで約束したら来てくれたんだよ。凄いでしょ?」

 

「あはは…… モモンガ様は凄いお方なんだね。うん、凄すぎて何言ってるのか理解しきれないけど……」

 

「あー、ネムよ。姉も困っているようだし、私の正体は秘密にしておこうか」

 

「うん、分かった……」

 

 

 ――でも、結局モモンガの正体がアンデッドだという事は、村のみんなには秘密にする事になった。

 ごめんね、モモンガ。私じゃお姉ちゃんにすら上手く伝えられなかったみたい。

 

 

 

 

 村に着いてから両親を探すと、奇跡的に二人とも生きていた。

 どちらも剣で刺されて死ぬ寸前だったらしいが、突然現れたメイドが治癒の魔法で助けてくれたそうだ。

 

 

「お母さん、お父さんっ!!」

 

「ああ、ネム、エンリ!! 二人とも無事だったか……」

 

「エンリ、ネム、本当に無事で良かったわ……」

 

 

 この村を直接助けた人達は既に帰っており、今は誰も残っていない。だけどモモンガの部下である事は告げていたらしい。

 仮面を着けたモモンガがさっきまでいた集団の主人だと名乗っても、それ程怪しまれる事はなかった。

 でもモモンガは村のみんなから少し怖がられていたように思う。

 村長の家で報酬の事とか色々話していたみたいだけど、モモンガ曰く「営利目的の集団と思われた方が向こうも安心するだろう」との事だった。

 

 

「なんでそんなに怖がるんだろう。モモンガは優しいのに……」

 

「ネム、モモンガ様は村の事を心配してくれているの。だから本当の事は言っちゃダメよ」

 

「うん、言わないよ……」

 

 

 モモンガ達は魔法の実験に失敗して、この辺りに集団転移してきた旅人の集団。

 そして偶然近くの村が襲われている事に気がつき助けに来た――という設定の作り話を村のみんなに伝えていた。

 私とモモンガが友達であるという事も、不自然だから周りには秘密のままだ。

 

 

(モルガーさん…… それにあの子も…… っ私は生きてる。だからしっかりしなくちゃ!!)

 

 

 助からなかった人の中には近所に住んでいた人、一緒に遊んだ事のある友達――自分のよく知る人達も当然いた。

 家族を失った人は泣き崩れていたが、それでも今は立ち上がっている。

 亡くなった人達の葬儀も終わったばかりだが、それを悲しみ続けてもいられない。

 

 

「お姉ちゃん、こっちは終わったよ」

 

「ありがとう、ネム。次は村長さんの所にこれを届けてくれる?」

 

「うん、分かった」

 

 

 私に出来る事は少ないが、今は少しでも人手が必要とされている。子どもだからと自分だけ休んではいられない。村のみんなも一生懸命働いているのだ。

 荒れてしまった村の片づけを手伝っている途中、私はモモンガと村長が不安気に話しているのを見つけてしまった。

 

 

「どうかされましたか、村長殿」

 

「ああ、モモンガ様。実はこの村に騎士風の者達が近づいているようで」

 

「なるほど…… 分かりました、それでは――」

 

 

 村長とモモンガだけを広場に残して、村のみんなは村長の家に向かっている。

 私も家に行くように言われたが、少しだけモモンガと話がしたかった。

 

 

「モモンガ……何かあったの?」

 

「この村に何者かが向かって来ているらしい。でも大丈夫だ。きっとこの村を助けに来てくれた人達だよ」

 

「本当?」

 

「ああ。それにもし悪い人達だったら、私が魔法でやっつけるから安心しろ。さぁ、もう行きなさい」

 

「うん、また後でね…… モモンガも気をつけてね」

 

 

 家族をこれ以上待たせる訳にもいかない。私は家族と一緒に、村のみんなが集まっている村長の家へと急いで向かった。

 走りながら後ろを振り向くと、私に軽く手を振るモモンガの姿が見える。

 そしてその背後に、馬に乗った人が近づいて来ているのが見えた。

 

 

「――私はリ・エスティーゼ王国"王国戦士長"ガゼフ・ストロノーフ――」

 

 

 襲って来た騎士達とは違う格好だ。それでも鎧姿は嫌な記憶が蘇ってくる。

 何も出来ない私は心の中で祈った。

 どうかあの人が悪い人じゃありませんように――もしもの時はモモンガが負けませんように、と。

 

 

 

 

 ガゼフは数十人の部下を連れ――帝国の騎士と思しき集団に襲われているとの報告があった――辺境の村を救うべく行動していた。

 しかし、駆け付けた村は既にどれも壊滅状態。悲劇を食い止める事は出来なかった。

 

 

「この村もか……くそっ。周囲を警戒しつつ、生き残りを探せ!!」

 

「はっ。了解しました」

 

 

 焼け落ちた村で助けられたのは、息を潜めて地下の物置などに隠れていた数名のみ。その僅かな生存者のために、部隊から人を割いてエ・ランテルまでの護衛を用意した。

 そのため一つ、二つと襲われた村を見つける度、部隊の戦力は減り続けていった。

 

 

「ガゼフ戦士長、これは確実に罠です。戦士長もお気づきでしょう」

 

「だがここで退けば、それこそ確実に民は犠牲となる」

 

「ですがっ、貴族どものせいで明らかに戦力が足りていない…… 一度皆でエ・ランテルまで引き返すべきです。例え残りの村が犠牲になろうとも、最強の戦士である貴方を失う事に比べれば……」

 

 

 貴族の横槍が入り、ガゼフは本来の最強装備――王国の至宝を装備していない。

 そして王から出動を許可された人数もたったの五十名だけ。

 おそらくこれは罠に違いない。全て副長の言う通りだ。だが、それでも自分には退けない理由がある。

 平民であった自分を取り立ててくれた王に対する忠義のため。そして、この国を愛し、守護する者の一人として。

 

 

「私は平民出身だ。村の生活は死と隣り合わせ、モンスターに襲われる事も珍しくはない……」

 

「私も平民出身ですので、それは分かります。誰も助けに来てくれない事が当たり前でしたが……」

 

「そうだ。だが心のどこかで期待していただろう? 貴族や冒険者、力ある者が救いの手を差し伸べてくれないかと。だからこそ、我々が示そうではないか。危険を顧みず、弱き者を助ける――強き者の姿を」

 

 

 ガゼフは危険を知りながらも諦めず、一人でも多くの人を助けるために次の村へと進み続けた。

 そして最後に辿り着いた辺境の村――カルネ村を目にした瞬間、ガゼフは驚きとともに自らの無力さを嘆いた。

 

 

「なんだこれはっ!? くっ、我々は間に合わなかったのか……」

 

 

 酷く飛び散った血痕。壁が粉々に破壊された家。焼け焦げた地面。深く抉れた大地。

 ――まるで怪物が暴れ回ったような有様だ。

 今まで見てきた他の村の様子とはかなり違ったが、襲撃を受けた後である事は明白だった。

 

 

「ガゼフ戦士長、前方に人の姿が」

 

「なにっ、生存者か?」

 

 

 村の中へ馬に乗ったまま駆け込むと、広場に二人の人物が立っていた。

 一人は四十代半ばだと思われる男性。どこの村にもいる普通の平民だろう。

 

 

(あれは……何者だ?)

 

 

 だが、もう一人は異様な格好をしていた。

 身に纏っているのは豪華な闇色のローブ。その手は無骨な籠手に包まれ、顔には仮面を着けている。

 どう見てもただの村人には見えない。

 

 

「――私はリ・エスティーゼ王国"王国戦士長"ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐するため、王の御命令を受け、村々を回っている者である」

 

「おお、王国戦士長様が……」

 

「この村の村長だな? 隣にいるのは一体誰なのか教えてもらいたい」

 

「はい、この方は――」

 

 

 村長に紹介され、彼こそがこの村を救った旅の魔法詠唱者(マジックキャスター)であると教えてもらった。

 正確には彼の指示を受けた部下達が、襲われていたこの村を助けたそうだ。

 彼ら自身も転移の事故というトラブルの最中だったというのに、村を襲った騎士達を一人残らず殲滅し、その上村人達の治療まで行ったのだと言う。

 

 

「モモンガ殿。この村を救っていただき、感謝の言葉もない」

 

「いえいえ。私達も偶然に通りがかっただけですから。それに報酬もいただいておりますしね」

 

 

 助けた理由を気軽に告げるその姿に、なんと人徳ある御仁なのだと思った。

 神殿の神官達に魔法で治療してもらう場合、かなりの大金が必要だ。それこそ普通の平民ではまず払えない金額だ。

 村を救った事も考えれば、きっと彼らは正当な額の報酬など受け取っていないだろう。しかし、それを不満に思っている様子もない。

 

 

「申し訳ない。緊急だと判断し、仲間達も少々手荒にやってしまいました。証拠となる死体や鎧も、あまり状態が良いものは残っていないのですが……」

 

「はははっ、村を救っていただいたのだ。モモンガ殿がそのような事までに気にされる必要はない」

 

 

 体格に似合わず謙虚な物言いに思わず苦笑してしまう。だが、その誠実さはガゼフ個人としては非常に好感が持てた。

 冒険者などが無償で治療する事は法で禁止されているが、それは言わずに目を瞑った。

 村を救った事に比べれば些細な事だが、今の自分に返せる事などこの程度しかない。

 

 

「よければどこか話せる場所を貸していただけないだろうか。詳しい状況を――」

 

「――っガゼフ戦士長!!」

 

 

 もう少し詳しい話を聞きたい所だったが、その時部下の一人が真剣な様子で駆け寄って来た。

 

 

「どうした。何があった」

 

「戦士長、周囲に複数の人影が。村を囲うように接近しつつあります。魔法詠唱者と思われる者達が最低でも三十人以上かと」

 

「なんだと!?」

 

「天使のようなモンスターを召喚しているのも確認しております。このままでは完全に包囲されるのも時間の問題です……」

 

「不味いな。至急皆を集めろ」

 

 

 ――魔法詠唱者による天使の召喚。

 そんな事が可能な魔法詠唱者を大量に用意出来るとなると、相手は恐らくスレイン法国に違いない。

 それも神官長直轄の特殊工作部隊――六色聖典のいずれかだろう。

 ガゼフは思わず歯噛みする。

 

 

(貴族派閥だけでなく、他国――スレイン法国にまで命を狙われるとは……)

 

 

 つまりこれまで帝国の騎士と思われていた謎の集団が、王国の村を襲っていたのはスレイン法国の偽装工作。自分を誘き寄せるために法国が仕掛けた作戦だったのだ。

 

 

「モモンガ殿、よければ雇われ――」

 

 

 今の自分たちの戦力では勝てない。だが、この村を救ったモモンガの仲間達がいれば、協力する事で何とかなるかもしれない。

 そう判断したガゼフは向き直って声をかけようとした――が、先程まで話していたモモンガの姿は綺麗さっぱり消えていた。

 

 

「――なっ!? ……村長殿、モモンガ殿はどちらに?」

 

「も、申し訳ありません。私も気づいたら隣にいたモモンガ様がおらず……」

 

 

 まさか逃げたのか。いや、これで彼を責めるのは間違っている。

 そもそも彼らはこの国の者ではないはずだ。無関係にもかかわらず、義憤によって賊を討伐し、村人に治療まで施してくれたのだ。

 既に一度村を救ってもらっておきながら、何の恩も返さずに再び命を懸けてくれなど、国に仕える兵士として恥ずべき事だ。

 

 

(私は王国戦士長。王を御守りし、国を害する敵を倒すための剣だ。今度こそ自らの手で民を救わなければならない)

 

 

 ガゼフは集まってきた部下の顔を見て、村を救うために囮になる決意を固める。

 

 

「村長殿、我々は今から敵の包囲網を突破します。出来るだけ敵を引き付けますので、その間に村の者達は反対側から脱出を」

 

「戦士長様…… 分かりました」

 

 

 村長は一度驚いたような顔をしたが、生きるための強い意思を持って頷いてくれた。

 そうだ。私はこのような者達を救うために来たのだ。何も迷う必要はない。

 

 

「お前達、我々は今から村を出て敵に突進攻撃を仕掛ける!! 包囲網を突き破り、全ての敵を村から引き離せ。然るのちにそのまま撤退だ。いいか、絶対に生きて――」

 

 

 ――突如として空気を震わせる轟音が響いた。

 

 

「――今のは一体なんだ!?」

 

 

 部下に激励していたガゼフは音の正体を探るべく、咄嗟に村の外へ顔を向けた。

 村の外に広がる草原。その遥か先で何かが光り、再び爆音が連続して轟く。

 音が静まり返ってからしばらくの間、ガゼフ達は動かずに様子を見ていた。

 

 

「――突然席を外してしまい申し訳ない。偵察に出ていた仲間から連絡があったもので」

 

「モモンガ殿!?」

 

 

 すると唐突にモモンガが目の前に現れた。

 先程消えたと思ったのは魔法で転移していたのだろう。この魔法がどれほど凄い事なのか、魔法に詳しくない自分では判断が出来ない。

 だが、この正体不明の仮面の御仁からは、底知れぬ何かを感じる。

 

 

「転移の魔法か…… モモンガ殿、貴方は一体何を……」

 

「不快な連中が村の外にいましたので――撃退してまいりました。いやぁ、実に手強い相手でした。仲間達と協力して戦ったのですが、残念ながら一部は逃げられてしまいました」

 

 

 ――逃げられたというのは嘘だ。

 この短時間で撃退したという事の方が信じられないはずなのだが、それ以上に敵は全滅していると戦士の勘が告げている。

 だが、そもそも村を包囲していたはずの敵をどうやって集めたのだろうか。それとも仲間とやらが各個撃破していったのか。

 どのような方法を使ったのか全く見当もつかない。

 

 

「倒した敵の死体や装備はそのままにしてあります。同じ事の繰り返しで申し訳ないが、原型を留めていない物が多いと思います。証拠になるかは分かりませんが、好きにしてください」

 

「ああ…… 二度も村を救っていただき、感謝する……」

 

 

 この言葉の意味を真に理解するのは、ガゼフ達が村を出て帰路に就いた時だった。

 戦いが行われたであろう場所を見て、戦士団は全員絶句する。

 焼け焦げた地面。深く抉れた大地。バラバラに千切れた衣服鎧の切れ端。もはや肉片しか残っていない死体。

 ――まるで怪物が暴れ回ったような有様だ。

 

 

「モモンガ殿…… 本当に貴方は何者なのだ……」

 

 

 この村に来た時の違和感に答えは出たが、それ以上の謎は残ってしまう。

 かき集めても三人分程度にしかならなかった証拠を回収し、無傷の戦士団は王都に帰っていった。

 部下に犠牲が出なかったのは素直に嬉しい。だが、ガゼフはこの謎の魔法詠唱者の情報により、特大の疲労を抱える羽目になった。

 

 

 

 

 やっぱりモモンガは凄い。

 私達が村長の家に隠れている間に、モモンガとその仲間達が悪い人達を全部やっつけてくれたらしい。

 村はボロボロだし、やる事も沢山あるけど、とりあえず村のみんなもほっと一息つくことが出来た。

 

 

「モモンガ、もう行っちゃうの?」

 

「悪い人達はもういなくなったからな。そろそろ私も家に帰るよ」

 

「うん、分かった。モモンガ、今日はみんなを助けてくれて本当にありがとう。じゃあね……」

 

 

 家の前でちょっとだけ話をしていたが、とっくに夕日も沈んでいる。これ以上引き留めるのは私の我儘になるだろう。

 そう思って口にするのを我慢していたが、話したい事が顔に出ていたのだろうか。

 モモンガは黙っていた私に優しく声をかけてくれた。

 

 

「ネム、これからは夢の中じゃなく、この村に私から遊びに来てもいいか?」

 

「また来てくれるの?」

 

「もちろんだとも。お互いに今は忙しいだろうけど、落ち着いたら必ず来るよ」

 

「うんっ!! 待ってるね、約束だよ!!」

 

「ああ、すぐには来れないかもしれないが、約束だ」

 

「またね、モモンガ」

 

「またな、ネム――」

 

 

 あの時出来なかった指切りをしてから、モモンガは魔法で自分のお家に帰っていった。

 

 ――人じゃなくなった俺を、受け入れてくれてありがとう……

 

 魔法で姿が消える寸前、私に何か呟いていたような気がするけど、残念ながら声が小さすぎて聞き取れなかった。

 

 

「ネム、モモンガ様は帰られたの?」

 

「うん、今帰ったよ。また遊びに来てくれるって」

 

「そっか…… 色々びっくりしたけど、その時はまたお礼を言わないとね。ほら、そろそろ家の中に戻りなさい」

 

「はーい」

 

「……ネム、いつもみたいに早く眠りたいって、言わないの?」

 

「もう早く寝るのはいいかな」

 

「そうなの? うーん…… でも、もう少ししたら寝る時間だからね」

 

「うん、分かってるよ。そうだ、お姉ちゃんに前に見た夢の内容、教えてあげるね――」

 

 

 でも別に構わない。気になるけど、また次に会った時に聞けばいいのだ。

 絶対にモモンガはまた会いに来てくれる。

 だってモモンガは――夢が覚めても、私の()()だから。

 

 

 




虫「あの……セバスを見て私を思い出すシーンは? 精神の変化とか、仲間への執着とか、私の出番とか、結構大切な部分なんですが……」
鳥「え? 幼女がピンチなのに悩む必要ある?」
悪「回想で正義降臨出来なくて残念でしたねぇ」


転移前に友達認定しているので、異世界に転移してモモンガの精神が変化しても、ネムはもちろん友達枠に入ってます。
ギルドメンバーではないけど、友達がいる分モモンガの心労は少しだけ減る――かもしれない。
ナザリック側の活躍はカットしていますが、転移後はギルドの隠蔽だったりみんな結構働いていました。

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