不思議の墳墓のネム   作:まがお

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前回のあらすじ

「盲点でござった」
「盲点だったな」
「戦わずに済むならそれがいいよね」

今回はナザリック内の福利厚生を考えるお話です。


福利厚生と偶像計画

 

 

「そういえば、あれからメイドさんたちの様子はどう? お仕事を休んで遊ぶ人もでてきた?」

 

「休み希望者はゼロ。みーんな朝から晩まで毎日楽しそうに働いてるよ」

 

 

 ナザリック内でネムと余暇を満喫していた時のこと。

 ふいにネムから一般メイドたちの様子を聞かれ、モモンガは深く息を吐くように答えた。

 

 

「彼女たちが満足してるならもういいかと放置してたけど、福利厚生を考えるのは社長の責務だよなぁ」

 

福利厚生(従業員利益)? よく分かんないけど、やっぱり支配者のお仕事って大変そうだね」

 

「支配者なんて息抜きがなければとてもじゃないがやってられないな。部下を労うためにもこっちからイベントを企画しないとダメそうだが、何が喜ばれるのやら……」

 

 

 現在のモモンガはあらゆる仕事をデミウルゴスを筆頭にNPCまかせにしているが、どれだけ有能でも彼らの立場は部下。ナザリックの社長、もとい支配者は自分である。

 思わずうなだれてしまったが、流石に福利厚生まで部下に投げる訳にはいかない。

 

 

「何か良い案はないか?」

 

「うーん、イベントかぁ……」

 

 

 しかし、部下に投げる訳にはいかないと思いつつも、頼れる友人には即座に投げた。もとい意見を聞いてみた。

 だって自分はギルド長ではあってもほぼ調整役に徹していたので、イベントの発案とかは正直向いていないのだ。

 

 

「そうだ、村だと収穫祭があるよ!!」

 

「収穫祭?」

 

「うん。いつもよりちょっといい物が食べられて、歌ったり踊ったりして楽しむ人もいるよ」

 

 

 ネムの楽しそうな語り口からすると、数少ない村を挙げての娯楽のようだ。

 文字通り農作物が収穫できた喜びを分かち合ったり、神に感謝する感じの祭りなのだろう。

 ネムは明らかに花より団子なようだが。

 

 

「食事という案はアリだな。一般メイドは種族ペナルティで常日頃からよく食べるし、普段食堂で出していない特別な料理を用意するのも良いかもしれない」

 

「ナザリックのご飯、すっごく美味しいもんね。料理長さんの特別な料理なら絶対喜んでくれると思う!!」

 

 

 リアルでは科学的に合成された栄養食しかロクに食べたことがなく、今の自分は飲食ができないアンデッド。

 そのせいか転移直後ならいざ知らず、食への関心など今のモモンガには皆無に近かった。

 しかしながら、ネムの案は中々良いところを突いているのではないかと感じた。

 

 

(この際ダグザの釜で高ランクの食材を出すか。いや、やり過ぎると一般メイドも畏れ多いとか言って遠慮するかも……)

 

 

 モモンガはネムのアイディアを発展させるように、さらに深く思案する。

 特別なコース料理、レア食材の使用、ギルドメンバー思い出の料理の提供……etc.

 報酬やアクティビティ的なことばかり考えていたが、美味しい物を振る舞うというのも部下への立派な労い方に違いない。

 

 

「歌と踊りは…… 誰がやるんだろうな?」

 

「モモンガが踊ったら盛り上がるんじゃない?」

 

「絶対慰労にならないだろ。上司の宴会芸ほど怖いものはないから却下だな」

 

 

 ネムは冗談ではなく本気で思ってそうだが、流石に自分が踊るのはごめん被りたい。熱狂の大盛り上がりが確定しているとしてもだ。

 センスのない自分が踊った日には、どこぞの邪教徒の儀式になってしまいそうだ。

 

 

「――なるほど。そういうことですか」

 

 

 そのままネムとああだこうだと話し合っていると、どこからか深読みの悪魔が生えてきた。

 ナザリック内では本当に神出鬼没な悪魔である。

 

 

「びっくりしたぁ。デミウルゴスさん、いつからいたんですか?」

 

「たった今ですよ。御方のお話を盗み聞きするなど、不敬なことをする訳にはいかないからね」

 

 

 さっきのは絶対に今来たばかりの奴が言える台詞ではなかったと思うのだが、何故こいつはそんな自信ありげな顔でいられるのか。

 モモンガは純粋な驚きと素の自分がバレたのではという焦りから、軽く精神の鎮静化が起きていた。

 

 

「ごほんっ。それで、デミウルゴスよ。なるほど、とはどういうことだ?」

 

「ご歓談中に失礼いたしました。先ほどモモンガ様が慰労と宴をお望みとおっしゃられておりましたので、微力ながらお力になれればと」

 

「デミウルゴスさんも何か思いついたの?」

 

「はい。僭越ながら良い案がございます」

 

 

 忘年会や歓送迎会なんかで、こんな風に張り切る社員が会社に一人くらいはいた気がする。

 デミウルゴスは防衛時の指揮官が一応メインの役職のはずなのだが、この中間管理職モドキの悪魔はどこの立ち位置を目指しているのだろうか。

 

 

「モモンガ様。慰労一つに複数の利を含ませるその深謀遠慮と慈悲深いお心、恐れながら理解いたしました。どうかこのデミウルゴスにお任せください!! 身命を賭してやり遂げてみせましょう!!」

 

 

 ストライプの赤いスーツに負けないくらい、真っ赤に燃え盛る熱意が見える見える。

 お前は私の言動の行間を読み過ぎだ。むしろ本当に原作(私の話)を読んでいるのか。

 

 

「よ、よかろう。そこまで自信があるのなら、この件はお前に一任するとしよう」

 

「よく分かんないけどお仕事頑張ってね、デミウルゴスさん」

 

 

 なんて、全てお前の勘違いだと言えるわけもない。

 こうしてデミウルゴスの圧に負け、社長としての仕事も取られてしまうモモンガであった。

 

 

 

 

 第六階層に用意された特設ステージ。

 そして、数多の異形種でひしめき合う観客席。

 

 

「御方と皆に慰労を…… 至高の笑顔を届けるのは君だっ!! ナザリック大アイドル大会を開催いたします!!」

 

 

 デミウルゴスはマイクを握りしめ、熱のこもった声で開会の宣言をした。

 ――どうしてこうなった。

 いや、本当に食事の話とかどこに消えたんだろう。なんなら福利厚生の話すら原型をとどめていない気がする。

 やっぱりアイツ、本当に何も聞いてなかったんじゃなかろうか。

 

 

「くふふ…… この日のために準備してきたものを、とうとう御方にお見せできるようね」

 

「ふふふ…… わらわは秘策も万全。観客全員驚かせてあげるでありんす」

 

 

 服装を隠すためか、マントを羽織ったNPCが何人か見える。

 なんでみんな当たり前のように準備してるんだろう。

 ナザリック唯一の支配者であるはずの自分は何も知らないのに。

 

 

「ルールは至ってシンプルです。こちらのステージで自由にパフォーマンスを披露してもらい、三人の審査員の合計点で競ってもらいます。点数は審査員一人につき十点満点で評価していただきます」

 

 

 何はともあれ、始まったものは乗るしかない。

 幸い大会のルール自体は非常にシンプルだ。

 審査員となるのはコキュートス、デミウルゴス、アウラの三名。つまり最高得点は三人合わせて三十点ということ。

 

 

(こんな時までお前はオーバーワークなのか……)

 

 

 デミウルゴスだけ司会と審査員を兼任してるあたりが、この悪魔の普段の業務状態を想像させた。

 

 

「三人? モモンガ様を入れて四人ではなくて?」

 

「ソレダケデハナイ。モモンガ様ノ物ダケ、手元ノ札ガ我々ト違ウヨウダガ……」

 

「ああ、そのことかい?」

 

 

 なんとなく質問しづらかったモモンガは、周りが質問を投げてくれたことに安堵する。

 一人だけ一段高い審査員席に座るモモンガ自身も、アルベドやコキュートスと同様の疑問を抱いてはいたのだ。

 他の審査員は零点から十点までの札があるのに、自分の手元には両面に文字が書かれた一つの札しかないのだ。

 

 

「モモンガ様の札は『採点を許可する』と『失望した』の二択のみです」

 

 

 流石はデミウルゴス。やりやがった。

 自分の存在しない胃に負担をかけるルールを、いとも容易く編み出してくるとは。

 

 

(『失望した』って、俺にこんな札を挙げる勇気はないからな!!)

 

 

 モモンガは心の中で盛大に叫んだ。

 一人の意向と責任が重過ぎる。

 リアルのテレビ番組でやったら炎上不可避である。

 

 

「なるほど。至高の御方の評価が何より優先されるのは道理でありんすね」

 

「モモンガ様から合格をいただいた上で、貴方たちから点数をどれだけ取れるかということね」

 

「さあ、皆に理解してもらったところで、ここからは速やかに進めさせてもらおう」

 

 

 点数制の意味をぶち壊すルールの導入に誰も異議を唱えないところが、実にナザリックだ。

 モモンガは納得したと見せかけるために小さく頷き、考えることを放棄した。

 

 

「一番手は私よ」

 

 

 マントを脱ぎ捨ててステージの中央に立ち、踊り始める前から若干頬を上気させたアルベド。

 モモンガは先が読めた。

 

 

「愛する御方に捧げます…… さあ、じっくりとご覧になってください!! 私の愛と情熱の舞を――」

 

 予想を裏切らず、流れてきた音楽は妖艶でエキゾチックな曲だ。

 露出の高い踊り子のような衣装と激しい振り付け。どちらも自らのスタイルの良さを存分に活かしたもので、男の視線を惹きつける誘惑のダンスである。

 

 

(あの動き…… 魔法で浮いてる訳じゃないよな?)

 

 

 ポール無しでポールダンスに近い動きを可能としているのは翼があるからなのか、それとも並外れた筋力のおかげか。

 やたらとかち合う視線を無視しながら、モモンガは絶世の美女の踊りを一周回って冷静な視点で見ていた。

 そして、踊りが終われば運命の採点タイムである。

 

 

「バランス感覚、体幹、全テ一級品デハアル。六点ダ」

 

「技術は認めますが、アイドルにそぐわぬ振り付けですね。二点です」

 

「ダンス自体はそれなりだし、四点かな」

 

「貴方たち厳し過ぎないかしら!?」

 

 

 なんという進行の早さか。

 余韻に浸らせないどころか、観客の拍手が止むのすら待たない巻っぷり。

 審査員たちは悩むそぶりもなく、出場者に期待させる隙もない速攻の採点だ。

 つまりはモモンガにコメントを考える時間すら与えてくれなかった。

 

 

「あー、性的過ぎて失格とするのは勘弁するとして…… 踊りの内容以前に、私にばかりアピールするのはアイドルとしても企画の趣旨としても反してはいないか?」

 

 

 モモンガは悩みつつも、『失望した』と書かれた面を挙げなかった。

 さりとて『採点を許可する』と書かれた裏面を挙げるのもどうかと思い、札の側面を見せるという荒技を使った。

 これぞ奥義、どっちつかずお茶濁し。

 ナザリック唯一の支配者なので、これくらいやってもセーフである。

 

 

「そ、そんなぁ!?」

 

「おやおや。やはり賞味期限の切れたおばさんにアイドルは早かった――いえ、遅かったようでありんすねぇ」

 

 

 打ちひしがれるアルベドを見下ろすように、今度はシャルティアがステージに現れた。

 ペロロンチーノが用意していたであろうその衣装はフリルやリボンが多く、シャルティアの可憐な容姿と相まって正にアイドルそのもの。

 その堂々たる立ち姿に自信の程が伺える。

 

 

「真打ち登場。行くでありんすよ。吸血鬼の花嫁ヴァンパイア・ブライドA子、B子、ネム子!!」

 

「シャーッ!!」

 

「シャーッ!!」

 

「しゃーっ!!」

 

 

 さらに、威嚇のような掛け声を揃えて登場したのは、薄絹のドレスを纏ったヴァンパイア・ブライドたち。

 ――と、白いワンピースを着たネム。

 何故だか妙に掛け声が馴染んでいる。

 というか、外部の人間であるネムすらこのイベントを知ってる様子なのに、開催まで何も知らなかった自分ってなんなんだろう。

 

 

「ふっふっふ。ペロロンチーノ様が残してくださったこの衣装。そして魅力的なアイドルに必要不可欠なバックダンサーたちも用意した完璧な布陣でありんす!!」

 

「うっわ。あんた、ネムまで参加させて…… 露骨に得点伸ばしにきたね」

 

「う、うるさいわね、ちびすけ!! あくまでメインは私なんだからいいでしょ!!」

 

 

 ネムが出たからといって審査員は贔屓してくれないような気もするが、シャルティアの行動力には驚いた。

 そして、この魑魅魍魎たちの中に笑顔で混じれるネムの胆力にも改めてびっくりである。

 

 

「気を取り直して、ミュージックスタート!!――」

 

 

 適度に緩急をつけながら、ポップな音楽に合わせて飛び跳ねるように踊るシャルティア。

 それを引き立てるように、くるくると激しく回り続けながら、そこそこ揃った動きを見せるバックダンサーたち。

 

 

「――ふぅ。いかがでありんすか?」

 

 

 アルベドの失敗から学んだのか、モモンガ個人に対するアピールもさり気ないウィンク程度。

 他の観客である一般メイドたちに手を振ったりすることも忘れない。

 パフォーマンスの出来栄えもさることながら、ファンサービスも本物のアイドルさながらだ。

 決めポーズでフィニッシュしたシャルティアの顔にも、勝利を確信した笑みがのっている。

 

 

「間合イヲ読マセヌガ如ク、絶妙ニ緩急ノツイタ良イ動キダ。複数デノ連携ハ改良ノ余地モアルヨウダガ…… 六点ダ」

 

「ふむ。着眼点の良さを踏まえても、差し引き二点ですね」

 

「後ろの頑張りに免じて、四点かな」

 

「なんでよ!?」

 

 

 相変わらず審査員の判定が早い。

 しかも辛口で容赦がない。

 明確にやらかしたアルベドと同点という事実に、憤慨したシャルティアは審査員たちを睨みつけながら吠えた。

 

 

「ちょっと、デミウルゴス!! 私のパフォーマンスのどこにマイナスがあるのよ!!」

 

「はぁ、君はエンタメというものをまるで分かっていないね。特別なゲストを用意するという案そのものは悪くない。サプライズも大切な要素だからね」

 

「じゃあどうして……」

 

「コラボとしてゲストも最大限に活かすのであれば、バックダンサーではなくデュエット!! 二人でメインをするべきだったのではないかな?」

 

 

 しかし、怒りの視線もなんのその。

 やれやれと短いため息を吐き、無駄に鋭い指摘をする様は敏腕プロデューサーの如く。まさにデミPであった。

 

 

「っは!? そ、それは……」

 

「分かったかい。自分だけ魅力的に映れば良い、なんて自分勝手に考えるアイドルを、ファンは応援しないのだよ」

 

 

 いや、本当にどこでそんな知識を仕入れたんだろうか。カルマ値がマイナスに振り切った悪魔の台詞じゃないだろう。

 創造主の影響とも思えないので、この世界に来てから図書館で学んだのかもしれない。

 

 

「ぐっ…… 悔しいけど、デミウルゴスの言いたいことは分かったでありんす。でもなんでアウラまで低いのよ!!」

 

「シャルティア、後ろ見なさい」

 

「後ろ?」

 

 

 残念な子を見る目でシャルティアを見たアウラは、ぶっきらぼうにステージの後方に指を向けた。

 

 

「うぅ、目が回る〜 ……きゅう」

 

 

 まさに"ばたんきゅー"という言葉がピッタリだろうか。

 シャルティアが振り返ると、あわあわとした様子でA子とB子が、目を回して倒れたネムを介抱していた。

 

「ああっ!? ちょっとネムっ、どうしたの!? なんで!? ぺ、ペストーニャっ、早く来て!! ルプスレギナでもいいから!!」

 

「このおバカ。レベル差考えなさいよ」

 

「なっ、確かに練習時間の足りなさは否めないけど、ちゃんと低レベルでも踊れるくらいの振り付けにしたでありんす!!」

 

 

 ワーワーと言い合う二人の姿は、まるでぶくぶく茶釜とペロロンチーノの姉弟喧嘩を見ているようで、モモンガは思わず微笑んだ。

 

 

「リハーサルはしたの?」

 

「うっ、通しではしてないけど…… でも大口ゴリラみたいな筋肉がなくてもできる普通の踊りだし、実際御方が残された資料でも人間が踊っていんした!!」

 

「……はぁ。低レベルって、それどうせアンデッドとか異形種の基準でしょ? それに御方が残すほどの資料にある人間が普通の人間なわけないじゃん。ネムは疲労無効の種族じゃないし、あんな激しいダンスは無茶でしょ。まっ、ギリギリまで頑張ってたとは思うけどね」

 

 

 アウラの指摘にシャルティアもぐうの音も出ないようだ。

 モモンガも大体予想はついていた。大方ペロロンチーノが残したアイドル系のアニメ映像でも見て、振り付けなどの参考にしたのではないだろうか。

 アニメならネムのような幼い少女が登場していてもおかしくはないし、誇張された表現もNPCなら再現可能なので疑うこともなかったのだろう。

 

 

「一応付け加えるなら、人間でも訓練を重ねた本職だから数分間以上全力で踊れるのであって、体力的にも普通の子供にはキツイと思うぞ」

 

「そんな落とし穴がっ!? あぁ、せっかく資料を残していただいたのに…… 申し訳ありません、ペロロンチーノ様。研究が、研究が足らなかったでありんす……」

 

 

 モモンガの指摘にトドメを刺され、膝から崩れ落ちたシャルティアは真っ白に燃え尽きた。

 一応ネムは魔法で完全復活したようだし、今回もモモンガは「失望した」の札は挙げていない。

 札の側面を見せる荒技その二である。

 

 

「あらあら、御方の御友人に協力を仰いでその程度なの、真打ちさん? 貴女のその知性の足りなさはネムでも埋められなかったみたいね。おーっほっほっほ!!」

 

「ぐぬぬ…… 人が失敗して元気になるんじゃないわよ、この発情期の性悪大口ゴリラがぁ!!」

 

「乱闘は評価対象外ですので次にいきます」

 

 

 アルベドの悪の女幹部のような笑いが、燃え滓となっていたシャルティアに火をつけた。

 しかし、慣れたものだとデミウルゴスは無視してテキパキと進行していった。

 

 

「……あ、あの。次は、ぼ、ボクです」

 

 

 業の深い姿で現れたのはマーレだ。

 どこから調達してきたのか予想はできるが、シャルティアに負けず劣らずのミニスカフリフリ衣装である。

 ――ぶくぶく茶釜さん。あなたならやると思ってました。

 

 

「じ、じゃあ、よろしくお願いします!!――」

 

 

 曲の雰囲気はシャルティアと同様の明るいアイドルソング。

 マーレのパフォーマンスからは、練習を重ねてきた努力の様子がありありと想像できた。

 庇護欲と応援欲を掻き立てる一生懸命な表情。

 必死ながらほんの少し粗が見える完成度の踊り。

 見えそうで見えない、揺れながらも鉄壁の防御を誇るスカートの動き。

 ――その姿こそ、真のアイドルであった。

 

 

「ウム。動キハ完璧トハ言イ難イ。ダガ、上手クハ言エナイガ惹キツケラレルヨウナ魅力ヲ感ジタ。八点ダ」

 

「表情――よし。ダンス――よし。立ち振る舞い――よし。確かに粗は少々目立ちますが、アイドルという要素、そして慰労の観点から見て君のソレは及第点以上だと思います。七点ですね」

 

「身内贔屓を抜いても、まあ前の二人より良かったんじゃない?でもあたしはもう少し元気にやってほしかったかな。六点で」

 

 

 前二人とは明確に違う、目を見張り感嘆するような審査員たちの反応。

 マーレは男の娘だが、そんなものは些事である。

 

 

「うむ。一生懸命な姿に皆も元気づけられたことだろう。今回の優勝はマーレだな」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「まさかマーレに持っていかれるなんて…」

 

「とんだダークホースでありんす……」

 

 

 優勝者が決まり、会場は声援と拍手で包まれた。

 

 

(結局、これは慰労になっていたのか? いや、盛り上がったからいいんだけどさ……)

 

 

 モモンガは最後までデミウルゴスの狙いが分からないまま、アイドル大会は大歓声と共に幕を下ろしたのであった。

 

 

 

 

おまけ〜秘密の親子〜

 

 

「改めまして…… 私こそがっ!! モモンガ様に創造された唯一無二の存在。パンドラズ・アクターでございます!!」

 

「こっちもあらためまして、ネム・エモットです!! 今日はよろしくお願いします。パンドラズ・アクターさん」

 

 

 唐突に始まった『ネムの部屋』。

 オーバーアクションのゲストに釣られてか、ネムも普段より高いテンションで挨拶を返していた。

 

 

「モモンガもよろしくね」

 

「ああ、お手柔らかに頼むよ。……本当に」

 

 

 普段はネムとNPCが一対一で話すことが多いのだが、今回はゲストであるパンドラズ・アクターに付き添いがいる。

 パンドラズ・アクターの暴走が怖くてついてきた創造主(父親)、モモンガである。

 

 

「じゃあ早速気になる質問から。パンドラズ・アクターさんって、モモンガの子供なんですか?」

 

「おや、やはりこの溢れ出る親子感で分かってしまいます?」

 

 

 いきなりそうきたか。流石に手慣れている。

 ピンポイントに痛いところを突き刺すキレキレの司会者っぷりに、モモンガは戦慄を覚えた。

 

 

「親子感かは分かんないけど、パンドラズ・アクターさんと話してる時のモモンガはいつもと違うよ。なんていうか、ナザリックの他の方たちより遠慮がないです」

 

「ほうほうほう。それはそれは……」

 

 

 パンドラズ・アクターの何一つ変わらない表情から「聞きましたか父上?」と、熱い視線と歓喜の思念が伝わってきた。

 シンプルに思う。辛い。

 

 

「モモンガに子供がいたなんて全然知らなかったよ。種族は全然違うけど、ナザリックではよくあることだもんね」

 

「いやぁ、子供というかなんというか、それはだな……」

 

「血の繋がりという意味ではありませんが、モモンガ様に生み出されたことは間違いないですよ。なんせ私は唯一!! オンリーワンの被造物でございます!!」

 

「被造物? ねえモモンガ、それって子供とどう違うの?」

 

「……降参だ。うん、まあ限りなく子供に近い存在だな」

 

 

 今日のネムはやけに攻撃力が高い。

 パンドラズ・アクターの勢いも強い。

 ナザリックの悪事がバレた記憶はないが、スキャンダルをすっぱ抜かれた有名人はこんな気分になるのだろう。

 

 

「なんで前に会った時に教えてくれなかったの? 一緒にゲームもしたし、コーラの実験も手伝ってもらったのに」

 

「うっ。紹介するには心の準備というか、私にも気合が必要だったというか……」

 

「フッフッフ…… 私の正体を明かせなかったのも仕方がないのですよ。他の方々への配慮という面もありますが、なにせ普段の私は超重要な職務を担当しておりますので」

 

 

 どう答えたものか悩んでいると、パンドラズ・アクターが助け舟を出してきた。

 これが泥舟でないことを祈るしかない。

 

 

「ナザリックの全てと言っても過言ではない、宝物殿の守護を任された領域っ、守護者っ!! なのですから!!」

 

「宝物殿…… すっごーい!! じゃあモモンガの宝物を守ってる方なんですね」

 

「その通り!! モモンガ様の大切なものを守る。それこそが我が使命です!!」

 

 

 どうやら屋形船だったようだ。

 沈みこそしなかったが、オーバーアクションが強過ぎて船酔いしそうだ。

 

 

「じゃあ、パンドラズ・アクターさんはどんなことが得意なんですか?」

 

「おっと、申し訳ありませんが私の能力はトップシークレットとさせていただきましょう」

 

「えー、秘密かぁ…… でも、あえて隠すのもなんだかモモンガみたい」

 

「おおっ、なんという褒め言葉でしょうか!! そうですねぇ、お伝えできる範囲ですと、財務やアイテム管理は得意分野です」

 

 

 口を尖らせたり盛り上がったりする二人を見て、モモンガは空気になりつつ思った。

 自分はいてもいなくても、同じだったのではないだろうか。

 

 

(なんというか心にくるものがあるな…… 普通にネムに受け入れられてる分、余計に後が怖い)

 

 

 自分は何故わざわざ赤信号の時だけ渡りに来たのだろう。完全に判断を間違えた。

 パンドラズ・アクターの奇行を目の前で見ている分、じわじわとしたダメージの喰らい損だ。

 

 

「特にマジックアイテムには一家言ございます。もしネム様が今後気になるアイテムを手に入れられましたら、私が鑑定させていただきますよ」

 

「うん、お宝を見つけたらお願いしますね」

 

「以前発見されたネム様の財宝もきちんと磨いて保管しておりますので、必要とあらばいつでもお申し付けください」

 

「ありがとうございます!! すっかり忘れてたけど今は使う予定もないから、これからも保管お願いします」

 

 

 本人に実感はないが、実はそこらの貴族より資産が多いプチ大富豪なネムである。

 

 

「――では、最後に一つ質問です。パンドラズ・アクターさんしか知らないモモンガの秘密ってありますか?」

 

「おいネム、本人がいる前でそれ聞くか?」

 

 

 しばらくの間、モモンガは悶えながらも二人の会話を聞いていたが、最後の最後でネムが爆弾を仕掛けてきた。

 これは絶対に阻止しないと不味い。

 

 

「ネム様の頼みとはいえ、創造主の秘密を軽々しく話すことはできませんが…… 私の自慢話としてなら一つございます!! 実はモモンガ様はですね――」

 

「おいやめろ馬鹿。仕方ないみたいな雰囲気出しながら何を話すつもりだ? 創造主命令だ、絶対話すんじゃないぞ」

 

「じゃあ私がジャンケンで勝ったら教えてね」

 

 

 負けました。

 

 

「では、快くモモンガ様からのご許可もいただけたところで。実はモモンガ様は…… 軍服を着て、私と同じポーズをとっていたことがあります!!」

 

「そんなところを掘り返すのかぁ……」

 

「宝物殿で二人お揃いのポーズをきめた思い出は、私の誇りであり宝物でございます!!」

 

 

 現在進行形の黒歴史から、過去の黒歴史の暴露。これはもはや謀反と言ってもいいのではないだろうか。

 ――あの頃の自分は若かったんだ。

 ――軍服がカッコいいから着てみたかっただけなんだ。

 ――ちょっと並んでポーズをとってみただけなんだ。

 血を吐くような羞恥に包まれたモモンガは、そんな言い訳を心の中で繰り返した。

 こうなったら一秒でも早くこの集まりを解散して、部屋に引き籠って忘れようとモモンガは決意する。

 

 

「モモンガとパンドラズ・アクターさん、お揃いの服を着てたの? 着てるとこ見てみたい!!」

 

「いーや、絶対に見せないぞ」

 

「じゃあジャンケンだね」

 

 

 見せました。

 

 

 




パンドラズ・アクターのことをちゃんと紹介する機会がなかったので、おまけに入れてみました。
ちなみにモモンガは軍服をその場で披露させられただけでなく、ポーズまでとらされました。
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