「ええ、素晴らしい才能をお持ちだと思います」
「誰が何で作っても料理は料理だよね」
「部下が沢山増えたでありんす」
タイトル通りPとNの対決です。
世界最強の一角、白金の竜王。
ツアーことツァインドルクス=ヴァイシオンは、かつての仲間であるリグリットに集めてもらった情報を思い返していた。
(……リ・エスティーゼ王国、辺境の開拓村。ユグドラシルからぷれいやーを呼び寄せた少女、か)
――ぷれいやーと契約を交わし、こちらの世界に来るように誘った少女がいる。
信頼する彼女の言葉とはいえ、にわかには信じがたい内容である。
(眉唾だが、あのリグリットが集めてくれた情報だ。全くの無関係とも考えにくい)
ぷれいやーを誘ったということは、異世界であるユグドラシルに直接行ったか、少なくとも対象を観測して会話や文字を使い、意思のやり取りをしたということだ。
(……最悪の場合、揺り返し以上に危険な存在となるかもしれない)
異世界と繋がりを持つ力と聞き、思い起こされるのは竜帝と呼ばれた実の父親。
真に世界最強だった竜であり、ユグドラシルに関連する物事の全ての始まりとも言える――強大すぎる過ちの力を行使してしまった愚かな竜だ。
(父と似た力を持つ者。その力が振るわれるというのなら、その時は――)
ツアーは自身の傀儡となる白金の全身鎧に目をやり、決意と共に始原の魔法の力を込め始めた。
〈世界移動〉が往復で使用可能な分と、難度にして百五十相当の戦闘力が発揮できる程度の力を。
この世界における英雄級を超えて、逸脱者すら容易く屠れるだけの力を。
「――この世界は、私が守る」
ツアーには己の手を血で汚す覚悟があった。
既に親しかった存在すら手にかけてきた。
故に心痛はあれど躊躇いはない。
一国の軍隊を相手にできるほど力を、たった一人の少女に差し向ける準備が着々と進められた。
◆
「君があの世界とこの世界を繋いだ少女だね?」
「なんのこと?」
「えっ」
白金の全身鎧は遥か遠い地より、並々ならぬ決意やら覚悟やらと共にカルネ村にやって来た。
――
しかし、世界を汚す存在の確認、その排除に動いた初っ端から躓いていた。
「い、いや、確かにカルネ村に異常な力を持つ少女がいると聞いたんだが」
「きっと人違いだよ」
「ええっと…… 君の名前は、ネム・エモットであっているかな?」
出先で知り合いに声をかけたつもりが、全くの人違いだった時のような焦り。羞恥にも似た困惑。
わざわざ森の中で一人でいる時を狙ったのに、この展開はないだろう。
白金の全身鎧は気勢を削がれ、敵対に踏み切れない態度で少女に質問を投げかけるしかなかった。
「うん。そうだけど…… じゃあきっとネム違いです」
「なんて雑な誤魔化しを…… いや、本当に?」
――
返ってきた答えは限りなく黒に近い。
リグリットの情報にあった少女がこの子であるのなら、さっさと殺してしまうべきか。
しかし、最初の気の抜けたやり取りのせいで、もしかしたらという迷いが自身の中で渦巻いていた。
「もう行っていいですか?」
「すまない、まだ待ってくれ。……正直に答えて、ほしい。君は、こことは違う世界から何かを呼び出したかい?」
少女の目には珍しい物を見たという興奮と、不審な全身鎧を警戒する思いが混ざっている。
白金の全身鎧はこの場を仕切り直そうと、少女を威圧――し切れずに、微妙に優しく質問を続けた。
「違う世界? 夢の中とかってこと?」
「夢ではないんだが……」
――
今度の答えは限りなく白。
少なくとも表情や仕草から、少女が虚偽や誤魔化しを述べているようには見えなかった。
というか、別の大陸が存在することすら知らないであろう子供に、異世界の概念を伝えるのが難し過ぎる。
「じゃあ、何をどうやって呼び出すの?」
「どうと言われても…… 私には答えられないが……」
どうしよう。少女の疑問はもっともなのだが、自分からユグドラシルの情報を晒すわけにもいかない。
狙ってのことかは分からないが、この少女は質問の返し方が絶妙過ぎる。
「うーん、もしかして召喚魔法のこと? でも私、魔法なんて使えないよ?」
「……その目、本気で言っているようだね。他人の空似? 名前が同じなだけ? そもそもが勘違いなのか? いやいや、そんなまさか」
この少女から、相手を謀ろうとする意思が全く感じられない。
警戒も初対面の大人から話しかけられたと思えば妥当な範囲だ。
これでは自分は子供相手に、ただ変な質問をしているだけの不審者になってしまう。
「ところで空飛ぶ鎧さん。お名前はなんていうんですか?」
「ああ、私のことはツアーと呼んでくれ。評議国の――しまっ!? くっ、調子が狂う。私は何を馬鹿正直に……」
純朴な少女の言動に意識が乱され、白金の全身鎧あらため、正体をバラしかけた不審者ならぬ不審竜ツアーは明らかに混乱し始めていた。
「ツアーさん、大丈夫?」
「っゴホン。問題ない」
挙げ句の果てに、抹殺しようとしていた少女から心配される始末。
バツが悪いなんて生優しいものではなかったが、ツアーは無意味な咳払いで誤魔化した。
「では君の身に着けている指輪、そのマジックアイテムはどうしたんだい?」
「これは友達に貰った物だよ」
「……怪しいね。普通は友人でもマジックアイテムなど易々と譲渡はしない。何故そんな物を持つ必要がある?」
ツアーは別方面から攻めることにした。
粗雑な服装とは不釣り合いな、ただならぬ魔力を秘めた指輪が少女の手にはある。
ユグドラシルのアイテムかどうかまでは判断できないが、高価なマジックアイテムを軽く渡してくる友人など、どう考えても警戒対象だ。
「そうなの? 友達は冒険者仲間だし、お守りだって言ってたけど」
「冒険者?」
「うん。私も冒険者だもん」
しかし、一瞬で警戒度が下がる。
冒険者がマジックアイテムを持つのは普通だ。
チーム内でアイテムを共有したり、仲間の装備を強化するために融通するのも一般的だろう。
「そ、そうだったのかい。いや、まだだ。もしや短期間で上位に上り詰めたり……」
だがまだ安心はできない。
もし仲間がぷれいやーなら、通常の冒険者の枠に収まらない活躍が可能となる。
ミスリル級やオリハルコン級はおろか、最上位のアダマンタイト級すら余裕で到達できるだろう。
「えっへん。今は
「なんだその程度か」
そう勘繰って尋ねたせいで、胸を張って答える少女に思わず失言がこぼれた。
「……頑張ってるのに、そんな言い方酷いです」
「ち、違うっ!! 申し訳ない。君の努力を笑ったわけではないんだ。予想と少し違ったものだから。では君は"ぷれいやー"という単語を――」
少女が明らかにショックを受けた表情になってしまい、ツアーはさらなる罪悪感に苛まれる。
しかし、世界を守るためにもここで立ち止まるわけにはいかない。
猜疑心を拭いきれないツアーは次々に質問を投げかけ、若干不貞腐れた少女はそれでも一つ一つ律儀に答えていくのだった。
――
――
――
――
――
――
――
「――分かった。君にはとんでもないタレントがある!! そうだろう?」
「あんまり人に言うことでもないけど…… たぶん私のタレントは、誰かと同じ夢を見たりとか、楽しい夢が時々見られることだよ」
これは自分の質問の仕方が悪いのだろうか。何を聞いても何故か核心に至れない。
寝ている時に夢を見るからなんだというのか。誰かと同じ夢を見るなんて、返答がメルヘン過ぎて意味がわからない。
しかも子供の言うことだ。本当にそれがタレントかどうかすら怪しい。
「……おかしい。何故だ。はぐらかされているのか? 段々頭が痛くなってきた。まるで世界そのものが君に味方しているような…… 君は何者なんだ?」
「冒険者もやってるけど、普通の村娘だよ?」
白黒どちらにしろ、ツアーが望むハッキリとした答えは一つも得られなかった。
頭を酷使し過ぎて"ネムティカル"という謎の幻聴すら頭の中で響いてきそうな勢いだ。
(どうする。今なら簡単にやれる。いっそのことこの場で……)
ツアーは世界を守るためなら、非道な行いも割り切って実行できる。
それ故、目の前の存在が怪しいから、とりあえず殺すという選択肢もあるにはある。
「何故答えが出てこない。質問は明瞭、すぐに分かるはずなんだ。何故私は迷っている。私は一体何と戦っているんだ?」
「さぁ?」
しかし、もう少し確信を得てからにしたいという良心に抗えなかった。
はっきり言ってツアーは甘いのだ。
最強格で長命種の竜としては異質なほど慎重派だが、背負うと決めたモノを思えば手ぬる過ぎる。良く言えば温厚で、悪く言えば詰めの甘い竜なのだ。
(殺す方が無難ではある。しかし、私はこの少女を殺すべきなのか? 後ほんの僅かでも、確信が持てれば……)
根っこの部分では善人であるツアーには、ユグドラシルのユの字も、ぷれいやーの影も形も見えない少女を殺す選択はできなかった。
「喉に骨が刺さったような感覚だよ。あとは何を質問すればっ……!!」
「えー、まだ質問があるんですか?」
あと少し、あとほんの少しだけ情報が欲しい。
いっそ諦められる理由が欲しいと、モヤモヤとした感覚に唸るツアー。
ただ、流石に少女にも飽きと疲れが出てきて、要領を得ない質問を繰り返すツアーを半眼で見ていた。
「……すまない。次で最後にする」
ツアーもここまでくれば、核心をつくにはこれしかないと考えた。
ずばり、ぷれいやーの存在の確認だ。
「君はぷれいやーに、神のような存在に会ったことがあるんじゃないのかい?」
「ないよ」
――
だが、縋るようなツアーの最後の問いに、少女はきっぱりと即答した。
「……申し訳ない。手間を取らせたね」
「ばいばーい」
「さっきから何が聞きたいの」と、言いたげな少女の瞳に、ついにツアーは諦めた。
恐らくこの少女は、ぷれいやーを呼び出していない。そう結論づけるしかなかった。
そして、少女を殺さずに済んだことで、ツアーは無意識に安堵していた。
(あの少女が嘘を言っているとは思えない。リグリットの勘違いだったのか……)
今も昔もツアーには人間の友がいる。
そして己の手は既に――の血に汚れ、償うことができない罪にも塗れている。
だからと言って、無意味な殺しを好む訳でも、許容したい訳でもない。
(無駄足だったが、世界を汚す存在がいなくて良かったと思うべきだね)
自分に向かってぶんぶんと手を振る少女に、ツアーは力なく手を振りかえし、その場を後にするのだった。
◆
(空飛ぶ鎧って初めて見たけど、凄かったなぁ。評議国に住んでるらしいけど・・・)
ハムスケの住処に向かいながら、ネムは聞かれた質問を思い返していた。
自分は友達の夢にお邪魔したことはあっても、世界そのものを繋げたことはない。
夢の世界の友達とまた会う約束はしたけど、別に自分が呼び出した訳じゃない。
"ぷれいやー"という単語はよく分からない。
友達は凄いアンデッドだけど、自分自身は特に凄い力は持ってない。
そして、凄い骸骨になら頻繁に会っているが、神様に会ったことは一度もない。
(でもあの人、結局何を知りたかったんだろう?)
だってモモンガは一方的に祈りを捧げる神様ではなく、普通に話しが通じるただの友達だ。
笑いもするし、失敗もするし、愚痴だってこぼす。
モモンガに凄い力があるのは確かだけど、神様みたいな完全無欠の存在なんかじゃない。
なんなら見えもしない神様なんかより、よっぽど信頼できる。
他の質問に関しても、少なくともネムの主観では微塵も嘘を言ったつもりはなかった。
(モモンガもあんな鎧持ってたりするのかな? また今度聞いてみよっと)
最初の質問で躓き、焦った結果『ユグドラシル』という単語を確認し忘れた優しくもポンコツなドラゴンの完敗である。
こうしてP(
◆
おまけ~村娘のクエスト参観~
「また指名してくれてありがとう!! でも、おばあちゃんが自分で薬草集めに行くのは久しぶりだよね?」
「そうじゃよ。だからよろしく頼むよ、三人とも」
本日の仕事の依頼人は、エ・ランテルでも有名な薬師であり、エモット家とも親交が深いリイジー・バレアレである。
それ故モモンガはともかく、ネムは村の人に接するような気安さで挨拶をしていた。
「バレアレさん自ら同行されるとは、やはりご自身の目で確かめられたいことがおありでしょうか?」
「馬鹿孫が家出しちまってるからね。ポーションの研究のためにも、偶にはわしが自分の手で薬草を採取しに行かなきゃならんのさ」
いつもと変わらない作業着姿のリイジーは、今どこにいるかも分からない孫を思ってぼやいたようだった。
やや不機嫌にも見えるが、その目には深い愛情と心配が透けている。
「仕入れた物だけじゃ限界があるんじゃよ。既存の物でも変異してたり、季節によって薬効が変わるものもある。自分の目で確かめることも時には大切でね。新種が見つかると研究も捗るんじゃが…… まあ、そこまで高望みはしとらんよ」
「となると、今回は普段の採取地とは違う、森の奥地などを探されるおつもりですか?」
「森の賢王がついてるネムちゃんとなら、そこらの冒険者に頼むよりよっぽど安全だろう?」
リイジーのニヤリとした笑みには、皺は多くとも年齢を感じさせない逞しさがあった。
ネムと知り合いだから贔屓にしているだけでなく、安全面や依頼料など打算的なこともちゃんと考えているのだろう。
モモンガ個人としては、こういう人間はビジネスの相手として信用できるため嫌いではなかった。
「うん。モモンとハムスケがいれば何も心配いらないよ。どんな怪物が出てきても絶対負けないもん」
「確かに護衛は問題ありませんが、薬草の採取がメインとなると少し不安がありますね」
「どうしてだい?」
「実は私、死ぬほど不器用でして」
ネムは誇るでもなく、ただ事実を述べるように安全性を伝えた。
一方で真面目なトーンでモモンガが懸念を伝えると、リイジーは怪訝な顔をした。
「採取にコツがいる薬草など、まともに採取できた試しがありません。どんな種類であれ、必ず、何があっても、絶対に、使い物にならなくなるくらい握り潰します」
「あんた、そんな自信満々に言われても……」
「その分薬草集めは私が頑張るから任せて!!」
切実を通り越して鬼気迫る勢いで不器用さを力説され、流石のリイジーもたじろいでいる。
これが自分たちの役割分担だと、逆にネムは胸を張ってやる気を見せていた。
「モモンは苦手なことはとことんできなかったりするよね? あんなに色々凄いことができるのに……」
「こればっかりは努力で越えられん壁というのがあってだな。もう呪いと言ってもいい縛りだけど…… ゴホン。そもそも私は薬草と雑草の見分けもほとんどつきません」
この世界の人間は職業レベルに関係なく行動できるのに、自分はユグドラシルの法則に縛られている。
慣れ親しんだゲーム通りの力が使えるのは強みだが、ユグドラシルのシステムを超えて強くはなれないということでもあり、中々厄介なものだ。
「ハムスケさんならどうじゃ?」
「多少傷がついてもいいなら大丈夫でござるが、某も草を摘むのはあまり得意ではないでござる」
自信なさげなハムスケが差し出した大きな手には鋭い爪もあり、お世辞にも繊細な作業に向いているようには見えなかった。
「なので私たちは護衛に専念し、薬草の採取はネムに任せることになるでしょう。そうなると人数の関係で、広範囲の採取には時間がかかるのではないかと」
「そうかい。判別ならわしが確認すればいいし、採取も手伝いはするが…… 歳だからね。それならもう一人くらいは人手が欲しいの」
リイジーはモモンガの説明にすんなりと納得した様子を見せている。
いくら健康でまだまだ現役の薬師とはいえ、リイジーは立派な高齢者だ。
自分の体力でどの程度動けるかは、正確に理解しているのだろう。
「今から急に薬草採取を手伝ってくれるような人が捕まりますかね? いや、いないこともないでしょうが……」
「雑に扱われたら困るからね。ちゃんと薬草の心得がある人じゃないと駄目じゃよ」
ソロで活動している適当な冒険者を追加で雇うか、妥協して行動範囲を狭めるか。
新人故にそこまで顔が広いわけではないので、モモンガたちにとって追加の人員を探すのは難しいところだ。
「薬草について知ってる人かぁ。うーん…… そうだ!! ねえねえ、採取するのはトブの大森林だし、こういうのはどう? これなら時間もかからないよ?」
全員で色々な案を考えていると、ネムがポンと手を叩いて名案を口にしたのだった。
◆
「……ええっと、こういうのって本当にいいんでしょうか。モモン――さん?」
「現地の人に協力を求めて、それが偶然身内の姉だった、なんてこともあり得なくはないだろう。ギルドの規約にも引っかかっていないしな」
エンリはうっかり本名を口にしてしまいそうになりながら、鎧姿のモモンガに問いかけた。
困惑するのも無理はない。
冒険に行くからと今朝見送ったばかりの妹が、モモンガとリイジーを連れてあっさり家に戻って来たのだから。
(冒険者ってこういうものなのかな? でもおばあさんも納得してるみたいだし…)
時間についても気になったが、ハムスケが頑張って荷車を引いたらしいので、それは置いておこう。
困惑した一番の理由は、妹が口にした言葉だ。
あまりにも早い帰宅だったので忘れ物かと思いきや、「お姉ちゃん、一緒に薬草採取にいこうよ!!」と、お誘いされてしまったのだ。
「現地の人として協力してほしいとは言ったけど、もちろん報酬はきちんと山分けするので安心してくれ」
「まあ、今日は手が空いてるので、手伝うのはいいんですけど……」
自分が了承した時、ネムは喜びを分かち合うようにモモンガとハイタッチをしていた。
妹に合わせてくれるモモンガの優しさはありがたい限りだが、こんなにも活き活きとしたノリの良いアンデッドもそうはいないだろう。
――実はモモンガの精神年齢はネムと近いのでは?と、疑問に思ったことは内緒である。
(うん。ネムが普段どんな風にお仕事してるか見られる良い機会だし、細かいことは別にいっか)
こうして、骸骨と少女と魔獣のパーティに、老婆と村娘が加わり、薬草採取クエストが始まった。
◆
「……ふむ。陽の当たり方、湿度、どれも丁度いい場所だね。確認じゃがハムスケさんや、周囲に危ない気配はあるかい?」
「んー、特にないでござるな。近くに魔物が潜んでいる様子もないし、毒虫や蛇などにだけ気をつければ大丈夫でござろう」
「よし。じゃあこの辺りを探してもらおうかね」
四人が森へ入ってしばらくのこと。
リイジーの号令により、モモンガたちは軽く散開しながら薬草集めを始めることにした。
「さて、私とハムスケは護衛がメインだが、せっかくだから誰が一番凄い物を採取できるか競争といこう。不器用でも量を集めれば下手な鉄砲なんとやらだ」
「ふっふっふ…… モモン殿、この森は某の庭も同然。負けないでござるよ」
「私も採取なら負けないよ!!」
「あんたら競争にかまけて指定した薬草も忘れるんじゃないよ」
モモンガの提案はまるで子供の遊びのようだ。
普段からこんな調子なのだろうか。ネムもハムスケも乗り気であり、危険な森の中に見合わぬ緊張感にエンリは不安以上に心配を覚えた。
「もう、ネムったら…… 言い出したのはモモンさんだけど、大丈夫かな」
「エンリちゃんの心配はわかるが大丈夫さ。ネムちゃんも手を抜いたりはせんじゃろ」
「それは、もちろん、多分……」
「モモンさんも変わった人ではあるが、仕事は責任持ってやり遂げてくれる男じゃよ。……アレはそういう姿勢が染み着いとるな。中々の苦労を重ねてきたんじゃろう」
(そのモモンガさんが一番未知だなんて言えない…… 骸骨だし)
エンリの呟きにリイジーが年長者に相応しいどっしりした態度で応えてくれるが、それでもエンリの視線は妹を追わずにはいられなかった。
「よいしょっと。ハムスケ、次あそこの取りたいから運んでくれない?」
「了解でござる」
しかし、空気は緩く遊び半分かと思いきや、仕事となれば妹はキビキビと動いている。
薬草を目ざとく見つけ、来年も生えるように根っこは残しつつ、薬効のある根元に近い部分まではしっかりと採取している。
採取の基本を押さえた丁寧な仕事ぶりだ。
時にはハムスケの尻尾に巻かれて運ばれ、背の高い木々に生えた薬草まで採取しているのには驚いた。
(ネム、凄く真剣にやってる…… 私も頑張らないと!!)
ネムの働きぶりに呆気にとられたが、妹に負けていられないと、エンリも気合を入れて薬草採取に取りかかった。
ちなみに横目でチラリと見えたモモンガとハムスケの惨状はスルーした。
(――だいぶ集まってきたわね。これならそこそこのお金になりそう。……ん? なんだろう)
そして、採取を始めてしばらく経ったころ。
少し離れた木の影から物音がして、エンリはなんとなく振り向いた。
その時、少し離れていたネムが音の鳴った方向に向けて、既にパチンコを構えているのが見えた。
ちなみにモモンガは後ろでせっせと雑草を引っこ抜いていた。
(ネム、いつもあんな風に頑張ってるんだね…… 凄いなぁ)
採取だけに集中している訳ではなく、周囲にも気を配っていたのだろう。
結果的に物音の正体はただの野ネズミだったが、妹は冒険者をやっているのだと改めて実感が湧いた。
エンリは一抹の寂しさを感じながら、妹の成長を嬉しく思うのだった。
ちなみにハムスケは隣でせっせと木の根をちぎり取っていた。
「――そこ!!」
「おお、見事な狙撃でござる。しかし、鳥がどうかしたのでござるか? もしやおやつ代わりでござるか?」
「え、普通の鳥だったの? 変な形に見えたから魔物だと思ったのに…… 何か運んでただけだったのかな? ちょっと見てくるね」
(……ネム、実はテキトーに撃ってるだけじゃないよね?)
その後、妹が誤射して人を傷つけたりしていないか、やっぱり心配になったエンリであった。
◆
おまけのおまけ〜採取勝負の結果発表〜
「バレアレさん、もしやこれは新種では?」
「いんや、ただの雑草だよ」
「目利きが甘いでござるな、モモン殿。こっちが新種の薬草でござる!!」
「ハムスケさん、それは葉先が枯れて形が変わっただけじゃよ」
「で、ではっ、こちらはレアな薬草では!?」
「雑草じゃ」
「こっちはどうでござるか!?」
「そりゃ骨じゃ」
モモンガとハムスケは山のように集めた
戦闘特化で不器用な二人は、今回の採取においては戦力外にも程がある活躍だったようだ。
「あはは…… 二人は今回運がなかったみたいだね。ネムは何か珍しいのを見つけた?」
「うん。私はきっとすごいの見つけたよ。ほら、美味しそうでしょ」
「ん? それは、何かの果実かい?」
そんな中、ネムが自慢げにエンリとリイジーに見せたのは、洋梨のような形の茶色い果実だった。
甘くて良い香りがしているが、エンリもこんな果実はこれまで見たことがない。
「……いや、この独特の甘い匂い。艶のある茶色の皮…… まさか長命の実じゃないか!? ネムちゃんや、どこでこれを見つけたんじゃ?」
「あっちで拾っただけだから、生えてる場所はわかんない。さっき間違えて撃っちゃった時に、鳥が落としていったみたい」
リイジーの真剣な反応からして、かなり珍しい物であることは確定だろう。
我が妹ながら、なんでそうなるんだと言いたくなる入手経緯だ。
密かに姉らしいところを見せようと思っていたエンリは、手元に用意していたそこそこ高価な薬草を無言でカゴに戻した。
「おお、流石はネム。ゲームでもないのにドロップアイテムを発生させるとは……」
「美味しそうな匂いだけど、食べられるやつかな?」
「某は昔食べたことがあるでござるよ。毒もないはずでござる。ただそれは匂いの割に渋くて、あんまり好きじゃないでござるなぁ」
「えー、こんな良い匂いなのに甘くないんだ……」
「いや、それは皮や種を煎じて飲むものなんじゃが…… 強い滋養強壮の作用があっての。高位の信仰系魔法に匹敵する効果のポーションも作れる、貴重な実じゃよ」
「そうなんだ!! じゃあ鳥が運んでたってことは、動物たちにも栄養がある実なのかな?」
「難しい質問だね。まあそれを食べる動物や魔物がいる可能性は否定できんの」
食べても美味しくないと聞き、ネムは少し残念そうにしていたが、貴重な物であると知るや否や顔を綻ばせていた。
「どう、お姉ちゃん。私も冒険者できてるでしょ」
「ネム…… うん、本当に凄いよ。よく頑張ったね!!」
「うん!!」
きっと自分の心配する視線に気づいていたのだろう。
エンリが頭を撫でて褒めてあげると、ネムはにんまりと誇らしげな笑顔を見せたのだった。
「ふっ。今回はネムに花を持たせる形になったな」
「試合に負けて勝負に勝つ、でござるな」
「いや、持たせる花すら摘めとらんじゃろ。あんたらは素であの子に負けとるよ」
一方で後方理解者面をしていた二人は、呆れたリイジーから辛辣な評価をもらうのであった。
あまりに遅い伏線回収だったので、リグリットのことがいつの話かわからなかった場合は「幕間 小話カルテット」をご覧ください。
今回はいつにも増して幸運値を盛っているので、ツアーがポンコツじゃないバージョンはifルートで書きます。