今回は下準備部分となります。
リ・エスティーゼ王国、王都の最奥に建つロ・レンテ城。
王族が住まう居住地でもあるこの城に、真昼間から颯爽と一人の賊が現れた。
「――我は悪。悪の中の悪。古今を問わず。東西を問わず。老若男女を問わず。森羅万象に中指を突き立てる者……」
白金の全身鎧を身に纏い、身の丈ほどの白い大剣を手に持った巨漢の戦士。
侵入者には違いないが、行動から外見に至るまで隠れ潜む要素は皆無の派手さである。
「そして己が欲望でこの世の全てを塗り潰す者。そう、我が名は――リク・アガネイア!!」
リク・アガネイアと名乗る狂人は、実に堂々とした歩みで王城へ突入していた。
わざわざ門番のいる正面から入り、立ちはだかる全ての衛兵を薙ぎ倒しながら、城内を奥へ奥へと進んでいく。
「ヒャッハァーッ!! どけどけぇいっ!!」
「グァーッ!?」
まるで三下の雑魚のような奇声を発しているが、振るわれる一撃は紛れもなく強者のそれ。
一振りすれば兵が吹き飛び。
二振りすれば壁すら斬り崩す。
三振りする前にリクの前に立つ者は誰もいなくなっていた。
「な、なんだあいつは……」
「っ駄目だ、強過ぎる……」
かろうじて意識を保っていた兵士たちもいたが、身体だけでなく心も折られた兵士は皆一様に案山子の如く。
あまりにも規格外な敵の強さに、城を警備する誰もが諦めかけていた。
「――白昼堂々の侵入者よ、そこまでだ!!」
しかし、この場の誰もが知る力強い声が轟き、絶望していた兵士たちの目に希望が戻った。
「ここは王族の住まう地である。これ以上お前の蛮行を許すわけにはいかない」
周囲の兵士が口々にその男の名を口にした。
男が侵入者に突き付けたのは、青い水晶のように透き通る刀身を持つ剣。王国の秘宝の一つ――
平民の出ながら、王より秘宝を装備することが許された英雄。すなわち王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフが駆けつけたのだ。
「周辺国家最強との呼び声高い戦士長とやらですか。五宝物をフル装備してこないとは、舐められたものだ……」
「半端な格好で出迎えてしまって悪いな。事前に通達があれば、歓迎の準備をしたのだが」
「謝罪は結構ですよ。こちらも手土産はありませんので、マナー違反を責める資格はありません」
不敵に笑いかけるガゼフだったが、本当は余裕など微塵もなかった。
相手を認識した瞬間から、既に首元に刃を当てられているようなプレッシャーを感じていた。
「念のため告げておこう。お前は完全に包囲されている。諦めて投降しろ」
「貴様一人で包囲だと? 冗談のセンスはあるようですね。それともこの国では案山子を並べることを包囲というのかな?」
「彼らは王族を守護する盾であり、忠義に厚い尊敬すべき騎士たちである。微力ながら、そこに私も加わるのだ。賊一人には十分すぎる包囲だ」
失笑一つ、装備一つ、身動き一つが相手との実力差を告げている。
しかし、命を懸けて護るべき存在がこの城にはおり、自分は王の剣である。
その矜持がガゼフを奮い立たせていた。
「王国の金メダリスト風情が。プラチナ級の悪であるこの私、リク・アガネイアに勝てると思うなよ」
「褒められてるのか貶されているのか。なんとも喜び難い評価だ」
先ほどから相手は妙に名前を強調している気がする。
余程の有名人なのか、ただの目立ちたがりなのか。それすら判断できない自分の知識の無さが恨めしい。
相手の口調が安定していないことも気になってしまい、思考のノイズとなっていた。
(いや、相手の言動に惑わされるな。死中に活を求めよ…… 先手必勝、いやカウンターを狙うべきか? だが奴は何をしている?)
圧倒的な格上との勝負は一瞬で決まる。
そう確信したガゼフは武技を使って自身を強化しつつ、底の見えない相手の出方を伺った。
だが、実際に相手がとった行動は予想外なものだった。
「ほぅ。改めて見ると、中々に興味深い剣をお持ちのようですね。データ量に反して素晴らしい効果だ」
リクの舐めるような視線が、自身の持つ剣に集中している。
自身の得物である大剣を地面に突き刺して、無防備かつ露骨に観察に徹している。
「惜しむらくは、武器としてはそこまで強くないことでしょうか」
「目利きは苦手なようだな。お前の大層な鎧も、この剣の前では枷にしかならんぞ」
「枷? どういう意味でしょう。……もしや、ご自分の剣の能力をご存じないのですか?」
この剣の真価は切れ味。鋼の鎧すらバターのように切り裂く、現実離れした切れ味のはずだ。
相手の言葉を全て鵜呑みにする訳ではないが、まるで自分よりこの剣の力を正確に知っているような物言いに、不気味さを感じずにはいられなかった。
「……全て知っているさ。悪いが――命の保証はしない!!」
地の利はこちらにあるが、いくら増援が増えても無駄だろう。
後の先を取るつもりだったが、相手が武器を手放している今以上の好機はない。
ガゼフは一息に間合いを詰め、上段からの渾身の一撃を放った。
「確かにそれはレベル差を無視して私にダメージを与えられる可能性がある。私を殺せる武器であることは認めましょう……」
極限の集中力により、リクの動きと自分の振るう剣がゆっくり動いている感覚に陥る。
剣を振り下ろしているその瞬間も、相手が武器を取ろうとする素振りはない。もはや回避も不可能な距離まで迫っている。
ガゼフは確実に敵を捉えたと、確信をもって剣を振り抜いた。
「なっ!?」
「――だがしかぁし!! 特殊な守りは貫けど、純粋な防御力を無視できる訳ではない!!」
確かに剣は当たった。しかし、攻撃を当てたガゼフはその結果に目を見開く。
これまで盾だろうが鎧だろうが、この剣はありとあらゆる物を両断してきた。
今回もそうなるはずが、剃刀の刃はリクの籠手に阻まれ、全く振り抜くことができなかった。
(っ動きが見えなかった。膂力も尋常ではないな、全く動かせないっ。いや、それ以前に何故切れない!?)
避けられた訳でもない。受け流されたり、膂力で弾かれた訳でもない。
真正面から直撃してなお傷一つついていないのだ。
いや、それだけではない。先程からガゼフは全力で押し込み続けているのに、剣を受け止めた相手の片腕は微動だにしない。
「国宝である五宝物とやらも名前負けですね」
「くっ、化け物かっ!!」
「すかさずの腹パン!!」
「がはっ!? む、無念……」
おざなりに放たれたリクの拳に反応できず、ガゼフは一撃で行動不能になった。
それでも自分が生きているその事実が、余計に屈辱を煽った。
「……王国では魔法が軽視されていると聞き及んでいましたが愚かなことです。私の名を誰も知らなかったことも悲しい。まあ剣以外は興味が沸かないので、命も見逃してあげましょう」
相手は得物である大剣を使わなかった。
本当に最初から最後まで剣にしか興味がなく、自分は敵として認識されていなかったのだろう。
「リク・アガネイア。己の不甲斐なさと共に、我が名だけでも覚えておくといい」
なんて自己主張の激しい悪人なんだ。
剃刀の刃を拾い上げ、こちらに一瞥もくれないリクの背中を睨みつけることしかできず、ガゼフはそのまま意識を失った。
◆
王国の王城がたった一人の賊に襲撃されるという大事件が起こった数時間後。
バハルス帝国の若き皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、眼下に広がる光景に目眩を覚えていた。
「弱し弱し弱しっ!! このリク・アガネイアに勝てる者はおらんのか? 何もできずに無様転がって、まるでゴミのようですねぇ!!」
――たった一人の賊に、自慢の騎士たちが蹂躙されている。
騎士たちの悲鳴と破壊音に呼ばれ、護衛と秘書を引き連れ城のバルコニーに出てみれば、地獄と言って差し支えない惨劇が広がっていたのだから。
(っ馬鹿な……!? まさか、このようなことが起こるとは)
今年は宝物庫の財を何者かに奪われ、泣く泣く王国への侵攻を諦めたばかりだというのに。
ここまで悪い事が続けて起こると、自分は呪われているんじゃないかとすら思えた。
恨みを買った覚えは数えきれない程あるので、そろそろ本格的にお祓いを検討するべきかもしれない。
(ええいっ、後悔も不満も全て後に回せ!!)
ジルクニフは現実逃避しかけた自分に喝をいれるべく、心の中で強く叫ぶ。
今は可能な限り観察に徹し、少しでも活路を見出さなければならない。
「フハハハッ!! 弱い、本当に弱いですね。帝国の騎士とはこの程度ですかぁ?」
自らの城である帝城の中庭を舞台に、派手な動きで暴れ回る白き狂人。
白金の全身鎧を身に纏った大柄な賊は、鎧と同じ色合いの大剣を軽々と操っている。
身の丈程の巨大な剣を一振りする度に、鎧を着込んだ帝国の騎士が何人も同時に宙を舞った。
「いい加減私を知る者がいてもいいと思うのですが…… こんなにも騎士がいるのに、このリク・アガネイアを誰も知らないんですか!!」
まるで闘技場の武王を思わせる剛力。いや、武王すらも凌駕していると確信させる圧倒的なパワー。
大声で喋り続けながら、どんどん被害が拡大している。ここまでくると出来の悪い演劇でも見せられている気分だ。
(精鋭の騎士たちをまるで子供のように…… これほどの人物、今までどこに潜んでいたのだ)
情報が全くないことへの焦り。
増え続ける自国の被害。
ジルクニフの顔から、常に心がけている薄い笑みが消え去る。
(補填を考えるだけで、頭が痛くなるな……)
白金の全身鎧の周囲には近衛兵を含め、城の警備に就いている騎士が既に五十人以上転がっていた。
自分が騒ぎに気づいてからここに来るまでの時間を計算すると、五分にも満たない僅かな時間であれだけの騎士を倒したのだろう。
その中には帝国の誇る最上位の武力、四騎士の一人である"不動"ナザミ・エネックまで交じっているのだから本当に笑えない。
「クックック、ハーッハッハッハァ!! 我が名はリク・アガネイア。強欲の権化。理性なき獣。この世全ての悪。天上天下唯我独尊!! 邪智暴虐の化身である!!」
主役は自分とばかりに、謎の襲撃者は大袈裟な身振りを添えて声を張り上げた。
一体何度名乗りをあげれば気が済むのか。
リク・アガネイア――自身の記憶を探ってみても、全く聞いた覚えのない名だ。
秘書官であるロウネ・ヴァミリネンの顔を一瞥したが、首を小さく横に振ったことから有名人ではないと思われる。
(奴はどこから城内に侵入した? 手引きした者がいるのか? いや、方法など今はどうでもいい。奴の狙いは、目的はなんだ。単独ではなく組織的な犯行か?)
しかし、これ程の強さを持ちながら無名というのは、まずありえない。
あの目立つ風貌で噂すらも耳にした覚えがない以上、偽名の上に姿も偽装している可能性すらある。
(残りの四騎士を同時にぶつけても勝算は皆無。四騎士を超える強さとなると、どう対処する。こちらに引き込むことは可能か? それとも――)
ジルクニフが脳内をフル回転させ、対応策を練ることに没頭していると、顔の見えないリクの視線がこちらを射抜いた。
竜を模した全身鎧に相応しい、まさにドラゴンのような圧倒的強者の覇気。
これだけ距離が離れているにも関わらず、ジルクニフが感じる圧は相当なものだ。
(奴め、こちらを見ているな……っ!?)
そして、直感ともいえる嫌な予想がジルクニフの頭をよぎると、それは即座に現実のものとなる。
「おや? もしや貴方はこの国の皇帝では?」
「なっ!?」
幼い頃から腹芸を仕込まれてきたジルクニフをして、驚愕を抑えきれない。
重たい全身鎧を装備しているはずのリクが、中庭から飛び上がり、壁を蹴るようにして自分のいるバルコニーまで一気に駆け上がって来たのだ。
(安全圏から直に観察して策を練るつもりだったが、もはや逃げ場はないということか……)
ジルクニフには〈
軽量化が施された鎧という線もあるが、それでも相手の純粋な身体能力は計り知れない。
この城のどこに逃げ込もうと、その気になれば壁を突き破ってでも追い詰められるだろう。
「そうだ。私がこの国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである」
自分の盾になろうとしたロウネを制し、ジルクニフはあえて一歩前に出る。
動揺を押し殺し、威厳ある皇帝の仮面を幾重にも重ねて相手を見据えた。
中庭の惨状を鑑みるに、護衛など無意味だ。時間稼ぎの肉壁にすらならないだろう。
忠誠心には感謝するが、それがロウネのような文官ならなおさらだ。
「随分と派手にやってくれたようだが、この城に何用かな?」
ならばこの状況で唯一残された守るべきものとは、王としての己のプライド。
ジルクニフは相手の目線に合わせ続ける。
バハルス帝国皇帝の威信にかけて、たった一人の賊に怯むような無様は晒せない。
「ちょっとした遊びですよ。掘り出し物はないかと…… 言わば宝探しです」
「遊びにしては少々度が過ぎているな」
こちらの騎士をあれだけ殺しておいて、リクは遊びと言い切った。
その悪辣さにジルクニフは怒りのまま叫びたくなったが、涼しい顔をして無理やり呑み込んだ。
(おのれ…… 我が国にこれだけの損害を与えておいて、遊びだと?)
自分はかつて帝国の未来を想い、腐った官僚たちを大量に処刑した。
磐石な体制で国を治めるため、皇后であった実の母を謀殺し、血の繋がった幼い兄弟すら手にかけている。
その大粛正の末に付いた呼び名こそが『鮮血帝』。そう呼称される自分に、命の尊さを説く資格はないだろう。
(騎士一人育てるのに、どれだけの税が使われていると思ってる。国を荒らす化け物め!!)
しかし、そんな鮮血帝と呼ばれた自分であっても――否、帝国の皇帝であるからこそ、国の財産を潰されれば恨みごとの一つも言いたくなる。
「ちなみに誰も殺してませんよ?」
「なに?」
そんな自分の怒りを見透かしたかのようなタイミングで、リクは意外な言葉を告げた。
ジルクニフは視界の端で中庭の様子を窺うと、確かに倒れた人間が動く様子が見えた。
かなりの重症かもしれないが、貴重な人的資源である精鋭の騎士が死んでいないことに安堵する。
――同時に、死なないよう手加減した上で騎士たちを圧倒した目の前の存在に、底知れない恐怖を抱いた。
「なるほど。この城に無断で侵入したのはいただけないが、貴殿の技量には感服したよ」
「お褒めに与り恐悦至極。まっ、私は悪の代名詞であるリク・アガネイアですし? 殺さずの苦しみを与えるくらい、朝飯前ですよ」
大した情報もなく、強さの底が見えない相手を敵に回すのは愚か者のすることだ。
ジルクニフが最も信頼する者、人類最強の魔法詠唱者であるフールーダ・パラダインならばとも思うが、その手札を切るにはリスクが高すぎる。
そもそもフールーダが来る前に襲われたら終わりだ。
「どうだろう。貴殿のその素晴らしい力を讃えて提案がある。此度の無礼は全て不問としよう。その代わり、帝国に仕える気はないか?」
「え、嫌ですけど」
先程までの芝居がかった態度はどこへ消えたのか。リクはジルクニフの提案を即座に蹴った。
これは良い待遇を引き出そうとしてではなく、掛け値無しの本心ではないだろうか。
まるで生理的に受け付けないと言わんばかりに、差し出した手を払い除けられた気分だ。
「私の名も知らないような国に仕える気はありませんよ」
「っ待て!! まだ話を――」
もはやその声にこちらへの興味関心は感じられなかった。
リクはジルクニフの言葉に聞く耳を持たず、意味があるとは思えない謎のポーズを取りながら城から飛び降りる。
「さらばです!! 縁があればまたいつかお会いしましょう!!」
これまでの暴れっぷりが嘘のように、リクはその姿を消した。
まるで嵐。予測不能な災害のような存在だった。
防衛体制の見直し。情報収集。被害の補填。これからの資金繰りにetc……
当面の危機は去ったとはいえ、やることは山のようにある。
手始めに、ジルクニフは大きく息を吸い込んだ。
「二度と来るな!!」
バハルス帝国皇帝の魂の叫び。
思わず頭を掻きむしったジルクニフの頭皮から、数本の髪が散っていくのだった。
◆
バハルス帝国の財政と軍事力、おまけに若き皇帝の頭皮にもダメージが入ってから数日後。
帝国より遠く離れたローブル聖王国の地にて、建国始まって以来の大事件が勃発していた。
「カルカ様!? 貴様、何者だ!!」
「フハハハハッ!! 良い反応をありがとう、女聖騎士よ」
荒れた執務室に響き渡る芝居がかった声。
聖騎士団の団長であるレメディオス・カストディオは、悪鬼の如き視線で侵入者を睨みつけた。
普段ならば考えるより先に体が動くはずの彼女も、今回ばかりは腰に下げた剣の柄に手をかけるだけで動かない。
「ご覧の通り、聖王女カルカ・べサーレスは私の手の中です!!」
否、動けなかった。
何故ならレメディオスの大切な主は、今まさに目の前で捕えられているのだ。
「そう、この私…… 人の心を持たない超外道――リク・アガネイアのな!!」
城の壁をぶち破るという前代未聞の荒技で厳重な警備を突破し、突如として執務室に現れた襲撃者――リク・アガネイア。
手刀でカルカを気絶させた手際など、神業と言って差し支えない動きだった。
恐ろしく速い手刀と身のこなしだったため、自分以外は何が起こったのかすら把握できていないだろう。
「細い首で助かりました。片手でも実に持ちやすい…… こうしてみると、まるで白い棍棒のようですねぇ。王女の首を鷲掴みというのも、悪のシチュエーションとしては中々良いと思いませんか?」
リクは捕らえた獲物を見せびらかすような仕草を見せ、レメディオスの神経を酷く逆撫でしてくる。
「さぁ、聖王女を無傷で解放して欲しかったら、その聖剣を寄越しなさい!! さもなくば、代わりにコレをそのまま武器として振り回すかもしれませんねぇ」
「おのれ賊が。その薄汚い手を離せ、ンリク・アガネイア!!」
「失礼。ンリクじゃなくて、リクです。リク・アガネイア。知らないんですか?」
「お前のような悪党の名前など知るか!!」
レメディオスは己の迂闊さを呪った。
無理からぬことだが、城内だからと気を抜きすぎていた。リクによる一瞬の早技でカルカを人質を取られてから、レメディオスを含めた部屋の全員が動けなくなっている。
唯一の希望は、普段帯剣していない聖剣を今日は儀礼的な用事があり、今も装備していることだ。
(くそっ、力が完全に戻ってさえいれば!! いや、相手は完全に悪の存在だ。……いけるか?)
暑くもないのに額から大粒の汗が流れ、一秒一秒が異様に長く感じる。
妹がこの場にいればと思わずにはいられない。自身の頭でこれ以上考えるのは無意味だ。
そう悟ったレメディオスは、聖剣サファルリシアの柄を強く握り締める。
「知らないとは残念。では切り替えて。クックック…… 大切な聖王女がその剣一つで助かるのですから安いものでは? さぁさぁ、どうするんです?」
「これがそんなに欲しいのか……」
嘲笑う声を無視し、自分の不安すらも押し殺す。
これしか方法はない。自分に出来る最善のはずだ。
――聖剣は通じないかもしれない。
だが、自分がやろうとしていることを、自身の直感は否定する。
「だったらくれてやる――存分にその身で味わえっ!! だああぁぁぁっ!!」
「こ、これは!? なんという輝きなんだー!?」
レメディオスは無理やり迷いを捨て去り、抜刀と同時に聖剣の能力を発動。
悪の存在を眩ませる強い光を放ちながら、その刀身が形成された光で倍近くに伸びる。
リクは聖剣の光に怯み、ほんの僅かだがカルカを掴む手が緩んでいた。
「でやぁぁぁっ!!――〈極・聖撃〉!!」
一歩間違えば大切な人を傷つけるかもしれない。死を孕む緊張の中、極限の集中をもってレメディオスは踏み込む。
人質であるカルカを正確に避けながら、レメディオスは渾身の一刀を振り抜いた。
(……確実に捉えた。頼む、倒れろ!!)
袈裟懸けに斬られたリクはカルカを手放しこそしなかったが、たたらを踏むように後ろに下がる。
聖剣の一撃は確かに敵であるリクだけを切り裂いたはずだ。
己の内から来る感覚を否定し、懇願するようにレメディオスは敵を睨みつけた。
「……カルマ値が悪に偏った者に対する特効武器。残念ながら私には効かなかったようですね」
しかし、リクは体を逸らした状態でぴたりと動きを止めると、空いた方の腕で服の埃を払うような仕草をしてみせた。
そして、逸らした姿勢をゆっくりと戻す。
ダメージなど微塵も感じさせない落ち着いた所作だ。
「そんな馬鹿な!? 何故聖剣が効かない!? お前はどう考えても悪だろう!!」
「ええ、私は悪ですね。自他共に認めるベストオブ悪ですとも。となると、武器の性能ではなく、貴女が弱いのでは?」
レメディオスは目の前の事実を認められずに叫ぶ。
見ればリクの鎧には傷一つなく、演技ではなく本当に効いていないのだと思い知らされる。
「油断大敵ですよ」
「しまっ!?――」
瞬きすらしていないというのに、体を捻じった体勢のリクがいつの間にか間合いに入っていた。
考えるよりも先に本能が肉体を動かすも、咄嗟の防御すら間に合わない。
僅かに生じた意識の隙を突かれ、レメディオスは腹部に強烈な蹴りを喰らってしまう。
「一応目当ての物は手に入りましたし、これはもう用済みですね」
内臓が飛び出そうな勢いで壁に激突し、レメディオスは意識が朦朧とする。
頭に打ち込まれていたら確実に死んでいた。ただの蹴りだというのに、そう確信させるだけの重さがあった。
鎧のおかげでぎりぎり致命傷は避けられたが、もはや意識の方は保てそうになかった。
「く、あぁ……」
ぼやけた視界でカルカが床に投げ捨てられる姿を目にし、レメディオスは必死に空になった手を伸ばす。
(カルカ、様…… 申し訳、ございません)
しかし、震える手足で這いつくばっても、大股一歩分にも満たない距離を進むのが限界だった。
人質のカルカが解放された事により、慌てて動き出す周囲の人間の気配を感じる。
「フフ、ハハハッ、者どもよ!! この恐怖と屈辱と共に、我が名をその胸に刻むがいい。我こそが、リク・アガネイア!! 我が名こそが、悪である――」
意識を落とすレメディオスの最後の記憶は、聖剣を拾い上げて高笑いする"悪"の姿だった。
◆
竜王国の女王ドラウディロン・オーリウクルスは、世にも珍しい竜の血を引く人間だ。
今では代を重ねて薄まったとはいえ、竜の血は特別な能力を彼女に与えていた。
平たく言えば、自身の外見年齢を操作する能力である。
これにより本来スタイルの良い大人の女性である彼女は、万人受けする幼い少女の姿で毎日を過ごしていた。
――本人は全く望んでいないが。
『ビーストマンとの戦いで国庫も限界なんです。生き恥? 恥がなんです? 生きてるならいいじゃないですか。タダでできることくらいやりましょうよ?』
主にそうしろと
実際交渉ごとや兵士への激励などにあたって、庇護欲を掻き立てる姿は効果覿面なのだ。
その姿に欲情する変態アダマンタイト級冒険者まで釣れてしまうことが、彼女を悩ませ続ける問題の一つでもあった。
彼女のおおよその年齢を推測している帝国の皇帝からすれば、まごう事なき若作りババアである。
「……もう一度、言ってもらおうか」
しかし、そうやって長年少女の仕草が体に染み付いたドラウディロンが、低く神妙な声を執務室で発していた。
今は少女形態であるにも関わらず、少女のフリをする事すら忘れ、招かれざる客と言葉を交わしている。
「全てです。貴女の持つ『始原の魔法』の知識と力。その全てを差し出してもらいましょう」
執務室に突如として現れた来客は、赤いストライプのスーツを着用し、仮面で顔を隠した悪魔だった。
服装に見合った丁寧な物腰でありながら、手土産に持ってきたのは竜王国を襲っているビーストマンの首。
どれもドラウディロンですら知っているほど名のある強者であり、数々の兵士や冒険者を屠ってきた者たちだ。
――それが六つも床に並べられている。
(つい最近まで報告にあがっていたビーストマンの将や猛者ばかり…… 昨日今日でこの数を狩り殺してきたというのか!?)
その顔はどれも恐怖に歪められていた。
さらに生首は一つとして腐敗しておらず、鮮血を滴らせているのがより一層の恐怖を煽った。
「……始原の魔法を知ってどうするつもりだ。あれは本来なら真なる竜王にしか使えない。私は例外だ」
ドラウディロンは返答を遅らせ、少しでも悪魔の情報を探ろうとした。
衛兵たちを呼ぶ気はない。実際に対面して感じる強さと、集められた首から、武力でどうにかするのは不可能だと悟ったからだ。
仮に自国唯一のアダマンタイト級冒険者をこの場に呼べたとしても、一分と経たずに殺される未来しか見えない。
「たとえ強大な力を持つ悪魔でも、真似るのは不可能だぞ」
「心配は無用です。貴女はただ知識と力を差し出せば良い」
「何をさせる気だ。人体実験でもしようというのか?」
「なに、協力していただければ命を取ったりはしませんよ。苦痛を与えるつもりもありませんし、連れ去って監禁する気もございません」
圧倒的な強者が弱者に気を遣っている。
無理やり言うことを聞かせられるだけの力の差がありながら、それをしようとしない。
まるで形だけでも対等な相手に譲歩しようとしている姿勢に、かえって悍ましい企みを感じる。
「毎晩少しばかりこちらの指示に従ってくれるだけでいいのです。私が望むのはそれだけ――貴女が妙な気を起こさなければ、ですが」
「これまで聞いた中で、一番最低の口説き文句だ」
「始原の魔法の研究に協力するだけで、この国の国民全てが助かるのですよ。安いモノでしょう?」
「ふん。女の部屋にズカズカと不法侵入してくるような奴の"助かる"という言葉を信じろと?」
「……私との取り引きが信じられないのであれば、それも結構。穏便にいきたかったのですが――交渉はやめて脅迫にさせていただきます」
嘘くさい紳士の化けの皮が剥がれ、邪悪な強者の覇気がドラウディロンの肌を撫でた。
全身の毛穴が粟立ち、最初に感じた強さなどほんの一端でしかない事を理解させられる。
「協力しなさい。さもなくばビーストマンの侵攻を待たずして、私がこの国を滅ぼします」
残酷な二択を迫る割に、落ち着いたよく通る声だ。
これはハッタリではない。断れば次の瞬間には、ビーストマンではなく国民の首が目の前に並ぶことになる。
ドラウディロンは理屈ではなく、本能でそう悟った。
「私が協力したらこの国に一切手を出さんと誓え。それから始原の魔法は我々の切り札と言える代物だ。当然タダで協力はしない」
「ほぅ…… 何をお望みで?」
もはや選択肢は無いに等しい。
圧倒的な強者を前に、ドラウディロンは死ぬ覚悟で虚勢を張った。
「どうしてもと言うなら、見返りを用意しろ。我が国を襲うビーストマンをもっと大量に討伐してこい。それなら考えてやらんでもない」
「ふむ。そうですか……」
危険な賭けであることには違いない。
次の瞬間には自分の首が捻じ切られているかもしれない。
それでもこの無理難題を断るのか、あるいは達成するのにどの程度の期間がかかるのかで、ドラウディロンは悪魔の力を見極める腹積りだった。
「窓の外を見ていただけますか?」
「窓? ……お前、一体何をした!?」
目の前の脅威から目を離したくないと思いつつ、悪魔の誘惑を断ち切れない。
ドラウディロンは言われるがままに、ゆっくりと窓の側に近寄る。
――"赤"が広がっていた。
数えるのも馬鹿馬鹿しいほどのビーストマンの首が並び、芸術的に積み上げられ、地面の全てが血で染まっている。
まるで国一つを対象とした、巨大な墓標のようだ。
いつの間に、どうやって。そんな疑問の答えはなく、圧倒的な力の差だけを分からされた。
「対価が必要かと思い、あらかじめ用意しておいて良かったです。全部で一万体の首ですよ。城内を汚したのは謝罪いたしますが、多い分には構いませんよね?」
「い、一万だと……!?」
悪魔は実に楽しそうだ。
自分は初めから手のひらで転がされている。
既に国そのものを手中に収められたとすら思える敗北感だった。
「まだ足らないと仰るのであれば、あと一万でも二万でも積み上げますが? ああ、しかし困りましたね。私にとって下等な生物を見分けるのは非常に困難なもので…… これ以上は、人間の首も交ざってしまうかもしれませんね」
「悪魔でも老眼になるのだな。それとも乱視か? ……ちっ、改めて問おう。我が国には手を出さないんだな?」
「ええ、お約束しますよ」
血の滲んだ床を眺め、諦めの混じった声でドラウディロンはほとんど意味のない確認をした。
誠意などあるはずもないが、仮面で見えない悪魔の顔は真剣なものになっている気がする。
こちらに伸ばされた腕も、転んだ人間に手を差し出すような動きに見えなくもない。
ドラウディロンは逡巡の末、奥歯を強く噛み締める。
「――さぁ、女王陛下。返答は?」
自らの力で国を守れなかった為政者の末路。
まさかこんな結末とは思ってもみなかった。
それでも民を守るため、地獄に落ちる覚悟をするしかない。
「城の敷地を汚した分、アフターケアも請求するからな」
「これは一本取られました。ええ、仕方ありません。それはこちらの落ち度ですから。そうそう、念のため確認ですが、リク・アガネイアという名前を貴女はご存知ですか――」
ドラウディロンは髪を振り乱す勢いで顔を上げると、握り潰さんとする意気込みで悪魔の手を取った。
何の痛痒も感じていない悪魔に、再度自らの力の無さを突きつけられながら。
◆
「貴方が各国で強盗を繰り返していたリク・アガネイアね」
「如何にも!! 我こそは悪の中の悪。泣く子も黙らす鬼畜外道のリク・アガネイアとは私のことだ!!」
リ・エスティーゼ王国の某所。
アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』の五人は、リク・アガネイアと名乗る不審者と対峙していた。
「情報通り。白金の全身鎧。武器は同系色の大剣。そしてうるさい」
「むしろ情報よりうるさい」
「へっ、心優しい姫さんからの依頼だ。降伏するなら今の内だぜ。盗んだ物を取り返せるなら、生死は問わないってよ。まっ、今死ななくても極刑は確定だろうがな」
繰り出されるリクのポーズの数々に、ラキュースの心は疼いていた。
個の強敵と戦う際のフォーメーションを維持しつつ、前衛のガガーラン、ティア、ティナはそれぞれ武器を構える。
「アダマンタイト級だろうがなんだろうが、私を捕まえようなど片腹痛い。その愚かさの対価として、お前たちの身ぐるみを全て剥ぎ取ってやろう!!」
リクもこちらの臨戦体勢に応え、今度は演舞のように大剣を振り回して威嚇してきた。
少しカッコいいと思ってしまったラキュースは、思わず自分も片目を隠すポーズで応戦したくなった。
「……言動の再現度はありえないほど低いが、見た目だけは完璧だな。まさかツアーそっくりの姿で暴れる奴がいるとは」
「イビルアイの予想通りだったわけね」
回復役として後衛のポジションに立つラキュースは、隣に陣取る仲間のため息を聞いた。
蒼の薔薇のメンバーの一人、イビルアイはこの鎧姿を知っていたのだ。
そして目の前の相手は、外見以外は似ても似付かぬ偽者だとハッキリと確信していた。
「コイツは完璧に偽物だ。関係者か何かは知らんが、一体どういうつもりだ?」
「んん?」
イビルアイは知人の操る傀儡とそっくりな全身鎧に、いつでも魔法を放てるように手を突きつけて詰問する。
どこか気の抜けた声だが、構えを解くほど油断はしていない。
「ツアー? そこの貴女、私を見てリク・アガネイアではなくツアーそっくりと言ったのですね?」
「知れたことを。それはあいつの鎧だろう。だが盗めるはずもない。大方どこかで見かけたのを真似て作ったか?」
「なっ!?」
核心をつくイビルアイに、相手は大きくたじろいだ。
やはり悩むまでもなく偽者のようだ。
強さも本物に近いはずもないので、さっさと拘束してしまおう。
先程から呆れて溜め息しかでないイビルアイは、集中を切らさないようにしながら魔法を放とうとし――
「……おぉ、おぉ!! これはこれは」
――突然、相手は顔を覆って震え出した。
雰囲気がガラリと変わり、蒼の薔薇のメンバー全員に緊張が走る。
この変化は偽者だと看破されたからではない。
自分たちアダマンタイト級冒険者と対峙し、逃走を諦めたようにも見えない。
「――ようやくアタリが釣れましたか」
腹の底から湧き上がる歓喜。
自分たちを通して見ている何者かへの凍えるような怒り。
その異様さを一番に感じ取ったイビルアイは、魔法を発動させると同時に仲間に注意を飛ばそうとする。
「っお前たち気を抜くな!! 最初から様子見なしの全力で一気に――」
その後、蒼の薔薇のメンバーは全員行方不明となった。
しかし、二週間程経った後、ふらりと王都に戻ってきた面々は、リク・アガネイアと名乗った賊は討伐したと組合に報告した。
激戦の末に勝利したがメンバー全員が深い傷を負ってしまい、それを癒していたため、帰還に時間がかかってしまったそうだ。
賊の死体と鎧という証拠も持ち帰っており、組合もそれ以上の詳細を追及することはなく、流石アダマンタイト級冒険者だと彼女たちを褒め称えた。
これ以降、当たり前だが各国を騒がせたリク・アガネイアは現れなくなり、人々の記憶からも徐々に薄れていった。
「――あの時の私の判断は私らしくない。蒼の薔薇を誘導しても、私が得られるメリットがない。……どうしてあんな依頼を?」
ただ一人、各国で起きた一連の事件に裏を感じていた王女がいたが、彼女は周囲にそれを語ることはなかった。
(まるで誰かにそうしろと決められたような…… 精神操作? 記憶を操る力がある? なら相手は蒼の薔薇の面々の記憶も操ったはず。どうして殺さずにそんなことを? あの悪魔とも関係が?それだけの力があるなら、直接――もしかして何かを探しての行動?)
彼女は異常な思考力により、頭の中でほぼ真相に近いところまで辿り着く。
(きっとこれは話すことも考えることも許されない。触れてはならないもの、ですね)
自分が魔法で操られていたかもしれない。
自分の記憶が改竄されたかもしれない。
常人なら耐えられない不安すらも、ラナーは容易く飲み干した。
「クライムとの記憶。クライムへの想いが何も変わっていないのですから、その他の記憶の変化など些細なことです」
黄金のお姫様は自らの足元の影をチラリと見ると、何事もなかったように能天気な顔を作って微笑んだ。
◆
異世界に干渉する未知の力を持つ少女。
その少女に呼び出されたと思しきぷれいやー、及び従属神との遭遇からしばらくのこと。
ツアーこと白金の竜王ツァインドルクス=ヴァイシオンは、自らの拠点でここ最近の出来事を反芻していた。
(私のフリをして盗人の真似とは…… 器が小さいというか、意外と小物だったね)
王国で冒険者をしている知り合いからの話では、自分が操る全身鎧のソックリさんが各国で暴れていたらしい。
タイミング的に十中八九彼らの仕業だろう。
(その程度の事しか出来ない連中なら、しばらく泳がせておいても問題はなさそうだ)
自分の評判を落とすつもりだったのかもしれないが、彼らに教えたのは自分の本名ではない。
そもそも自分は名声や他人の評価など気にもしていない。
『リク』の名前に関しては思うところがないわけでもないが、『リク・アガネイア』という人物自体は架空の存在だ。
あの鎧姿の悪評が流れようが、余程のことがなければ誰がやろうが放置していただろう。
(あの少女の方も世界を繋ぐ規模の力なら、最低でもあと十年は使えないはずだ。……そもそも六大神や八欲王と呼ばれた彼らのような大物は呼べないのかもしれないな。他の竜王たちに報告するのも次の集まりの時で十分だろう)
遠方から使用された〈
チームとしてはアダマンタイト級でも、彼女自身はその域を超える強さを持つ。
魔神との戦闘経験もある彼女なら、アレと同程度の従属神は苦戦したとしても倒せない事はないだろう。
(一応彼女にはまたお礼を言わないといけないね)
無理やり嘘を言わせられる存在もほぼいないだろうし、種族的に魔法などで操る事も不可能なので信憑性も高い。
もはや時間と共に消えるだけの噂を気にする必要性はほどんどあるまい。
(……この場所を拠点にしてから、随分と時が経ったものだ)
瞼を閉じようとした視界の隅に、黒光りする虫が通り過ぎるのが見えた。
しかしツアーは構わず微睡もうとする。
今の拠点は相当に古い建物だし、天井も無いに等しい造りをしている。虫の一匹や二匹が湧くこともあるだろう。
そもそもドラゴンであるツアーにとって小さな虫程度、至極どうでもいいのだ。
――たとえそれが、人間なら誰もが生理的に嫌悪せざるを得ない虫だったとしても。
次回でIFルートは最後です。
気づいた方もいるかもですが、イビルアイは完全なる狂騒で精神耐性を無効化して操りました。