不思議の墳墓のネム   作:まがお

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時系列としては幕間「悪魔の誓い」の後。
モモンガがネムの家族にプレゼンをする少し前です。



幕間2 忘却される護衛役

 ナザリック地下大墳墓の第九階層――ロイヤルスイート。

 ギルドメンバーの私室等が設置された階層であり、最高支配者のための執務室もそこにあった。

 執務室は高級な調度品が数多く備え付けられているが、一人で使うにはあまりにも広すぎる空間だ。本来ならメイドが一人控えていようが気にならない程度の広さである。

 だが、そんな広々とした場所にもかかわらず、この部屋の主は息が詰まりそうな状況に陥っていた。

 

 

(さて、どうする……)

 

 

 黒い革製の椅子に座った死の支配者(オーバーロード)は、出来るだけ冷静に思考を巡らせようとしていた。

 机を挟んで彼の向かいには、並々ならぬ熱意を漲らせた悪魔が立っている。正直なところ圧が凄い。物理的な熱気を感じてしまいそうなほどだ。

 

 

「ふむ、なるほど……」

 

 

 そんな部下の熱い視線を感じながら、モモンガは手に持った計画書をめくり続ける。

 余りに分厚すぎるそれは辞書のようで、まるで終わりが見えてこない。

 

 

(――ギルドの維持コスト削減案、防衛体制の見直し、ナザリックの戦力増強案、スクロール作成、採掘場、牧場、領地の取得、各種能力実験、ユグドラシル金貨の入手方法、G情報網の構築、偽ナザリック建設計画etc……)

 

 

 淀みなく優雅に読み進めるその姿は、まるでやり手の経営者。

 目の前で見ているデミウルゴスのみならず、こちらの様子を伺う一般メイドすらもその一挙手一投足に魅了されていた。上限だったはずの尊敬や忠誠心も爆上がりである。

 しかし、モモンガは優秀過ぎる部下が作った計画書を読んでいるフリをしながら、内心では頭を抱えていた。

 

 

 

(――駄目だ。書かれている計画が多すぎてサッパリ内容が頭に入らない…… 難しい単語だらけだし、概要だけで何ページあるんだよこれ)

 

 

 時折ページをめくりながら「ほぅ……」「これは……」などと呟き、内容に関心している演技もしていたが、時間稼ぎもそろそろ限界だろう。

 

 

「如何でしょうか。このデミウルゴス、全身全霊を以って作成させて頂きました」

 

「どれも素晴らしい計画だ。流石はナザリック一の知者と言えよう」

 

 

 ページをめくる手が止まる頃を見計らい、意見を求めてきた部下にとりあえず労いの言葉をかけた。モモンガの誤魔化しという名の戦いはここからが始まりだ。

 

 

「ありがとうございます。計画の立案にあたってナザリックのギミック、全NPC、傭兵モンスターの能力、及び保管された素材やアイテムなどの資源も確認済でございます」

 

「え、全部確認したのか?」

 

 

 部下の手際の良さに思わず素の声が出てしまったモモンガ。

 

 

「はい。後は外の情報を手に入れ、細部を調整するのみです。ご許可頂けるのであれば、即座に始めさせて頂きます」

 

「本当に凄いな、お前……」

 

 

 モモンガもナザリック内の事は粗方把握しているつもりだが、情報が多すぎて全てとは言い切れない。それを臆面もなく全て確認したと言い切るデミウルゴス。

 ナザリックが異世界に転移してから、まだ一週間も経っていないのにだ。

 感心を通り越して、もはやドン引きするレベルだった。

 

 

「ありがとうございます。ですがモモンガ様ならば、これ以上の計画を作る事も容易かと」

 

「ふふっ、謙遜はよせ。ところでデミウルゴスよ。お前は何を思いながらこの計画書を作った。お前自身の言葉で聞かせてくれないか?」

 

 

 モモンガは支配者らしい態度を維持しながら、頭を垂れるデミウルゴスに問いかけた。

 要約すると「この計画書の内容分かんないから説明してくれ」である。

 

 

「やはり私如きの考えなど全てお見通しでしたか……」

 

 

 デミウルゴスは一瞬だけハッとした表情を見せた。

 しかし見通すも何も、モモンガは何も分かっていないし何も考えていない。

 

 

「モモンガ様のお考えの通り――」

 

 

 一体何を察したのかは不明だが、デミウルゴスはモモンガに自身の気持ちを語ってくれた。

 

 

「――ですので、舞台を整える事をお任せいただきたいのです。モモンガ様にはこの世界を存分に楽しんでいただければと……」

 

 

 ――これまでギルドの維持を任せていた事が申し訳なかった。我々にも手伝わせて欲しい。モモンガ様はどうかご自身のなさりたい事をやって欲しい。

 デミウルゴスの言葉をモモンガはゆっくりと噛みしめる。

 

 

(要するに……ナザリックを維持する手伝いがしたいから任せてくれって事なのか。でも世界を楽しむってどういう事だ? もしかして俺が冒険者になろうとしてるのがバレてたか……)

 

 

 その内容はモモンガにとって、ある意味悪魔の囁きだった。

 ギルドマスターとしてそんな無責任な事は出来ないが、思わず「任せた」と言ってしまいたくなる提案だ。

 

 

(うーん、でも案外アリじゃないか? 俺なんて元々ただのサラリーマンだし、トップで考えて指示するより優秀な部下の案を採用する方がいい気が……)

 

 

 だが、客観的に自身の能力を判断すると、モモンガはデミウルゴスの方が正しいように思えてきた。自分がするべき事は大きな方針だけ決めて、もしもの時に責任を取る事ではないだろうか。

 一度そう考えてしまうと、モモンガはデミウルゴスの提案がますます魅力的に見えてくる。

 

 

「良かろう。この件はデミウルゴス、お前に()()()()する」

 

「おぉ、私に()()を任せて頂けるとは……ありがたき幸せ」

 

「忙しくなるお前には必要になるだろう。これを受け取るがいい」

 

「これはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン!? このような至宝まで…… 必ずや世界を、御身にご満足いただける結果を献上させて頂きます!!」

 

 

 ギルドの指輪を渡されたせいか、デミウルゴスも非常にやる気になっている。

 

 

「ん、世界? ……まぁ良い。そう緊張するな」

 

 

 部下のモチベーションを維持し、能力を引き出す事こそ理想的な上司の役目だろう。

 モモンガはどこか認識の噛み合わなさを感じつつも、デミウルゴスの熱意を信じる事にした。

 

 

「いくつか私から条件、注意事項の様な物を付けさせてもらう。それから、計画の責任を取るのはあくまで私だからな」

 

「その様な配慮まで……畏まりました。どのような条件であれ、完璧にこなして見せましょう」

 

「期待しているぞ。条件だが――」

 

 

 ナザリックの敵対者を出来るだけ作らないようにする。

 弱そうな現地人でも未知の存在に油断しない。

 この地に来ているかもしれない他のプレイヤーにも注意する。

 モモンガは大雑把にこのような内容を伝えた。

 

 

「ナザリックとして表に出ることはないと」

 

「仲間を見つける手としては良いかもしれない。だが、我らの悪名はユグドラシルでは広まりすぎていた。いらぬ敵を作りかねないからな」

 

「ではその条件に合うように、計画を幾つか修正させて頂きます」

 

 

 ギルドの名を出すか出さないか。モモンガとしても非常に悩んだ。

 しかし、かつての仲間には会いたいが、守るべき存在が多いため危ない橋は極力渡りたくないのだ。

 それに自分も彼らも異形種だ。寿命という時間制限がない以上、もしこの世界に来ていればいずれ会える。モモンガはそう前向きに考える事にしていた。

 

 

「うむ、頼むぞ。あー、それとだな。計画には大きく関係していないが……私はこの世界で冒険者をやろうと思っている」

 

 

 話が一区切りついた所で、モモンガは冒険者になることを切り出した。

 反対される可能性も考慮していたので、微妙に歯切れが悪くなる。

 

 

「畏まりました。近衛兵の編成は既に済んでおります」

 

「いや、出来れば護衛を連れるのは避けたい」

 

「お言葉ですが……流石に御身お一人では危険かと。最低でも一人以上は盾となる者がいなければ……」

 

 

 護衛の事は遠慮したいが想定の範囲内だ。だが、快適な冒険者ライフのためには何とか言いくるめなければならない。

 

 

「この冒険は一人ではなく、ネムを誘うつもりなのだ…… 理由は分かるな?」

 

 

 モモンガは威厳を感じさせる声でデミウルゴスに語りかける。まるで深い意味があると言わんばかりに。

 とんでもなく勿体つけているが「友達と遊ぶ姿を部下に監視されるのって恥ずかしいよね」と、モモンガは言いたいだけだ。

 

 

(頼む。察してくれ……)

 

 

 しかし、至高の支配者には似合わない理由のため、NPCに直球で言うのは躊躇われる。

 この優秀過ぎる部下なら伝わるだろうと、モモンガは遠回しにその意思を伝えた。

 

 

「……なるほど。そういう事ですか。モモンガ様の真意、理解いたしました」

 

 

 デミウルゴスは数秒ほど悩み、何かに気がついたようだ。

 そして表情を緩めると恭しく頭を下げた。

 

 

「話が早くて助かる。私はそれの準備に入るとしよう」

 

「畏まりました。それでは私も直ちに準備させて頂きます」

 

 

 デミウルゴスは深くお辞儀をすると、すぐに執務室を後にする。

 やはり出来る男は違うなと、モモンガはその後ろ姿を満足げに見送るのだった。

 

 

 

 

 ナザリック内の確認が終わり、モモンガがそろそろネムに会いに行こうと思った矢先の事。

 その日モモンガは「例の件の準備が整いました」とデミウルゴスから連絡を貰い、第六階層に向かっていた。

 

 

(計画書の事についてだったらどうしよう…… まだちゃんと読めてないんだが)

 

 

 さも分かっていた風に応えたが、当然モモンガは例の件が何の事か分かっていない。デミウルゴスに色々なことを一任してから、その後の確認もとれていなかった。

 

 

(もう少し報連相を徹底させるべきか。いや、でもなぁ……色々聞かれても、俺じゃ分かんないしなぁ)

 

 

 彼らの理想の支配者像を壊さないために、細かい内容を聞き返す事が出来なかったのだ。

 NPCの事が分かってきた今なら、多少の駄目な姿を曝け出しても忠誠心が落ちる事はないとほぼ確信している。しかし、それも今更だろう。

 モモンガ自身も彼らをガッカリさせたくないと思っているので、自業自得だが引くに引けない状況なのだ。

 

 

「ご足労頂きありがとうございます。モモンガ様」

 

「……うむ。今から例のアレをやるのだな?」

 

「はい。アレでございます」

 

「あー、あの時話していた件だな?」

 

「はい。あの時でございます」

 

 

 ――だからどれだよ!!

 

 モモンガは叫びたい気持ちをぐっと堪え、支配者らしく抑揚に頷いた。

 辺りを見ればこの場にいるのはデミウルゴスだけではない。

 ガルガンチュアとヴィクティムを除く階層守護者が全員揃っている。更にセバス、プレアデスから三人、領域守護者などのNPCに加え、高レベルの傭兵モンスター達が集まっていた。

 皆一様にやる気を漲らせているが、特にアルベドとシャルティアが凄い。

 やる気と言うより欲望だろうか。二人とも目が血走ってて正直かなり怖い。

 

 

「デミウルゴスよ。念のためこの企画の趣旨を、改めて皆にも説明してあげなさい」

 

「畏まりました。では始める前に、改めてこの企画の説明をしよう」

 

 

 モモンガは伝家の宝刀「デミウルゴスよ、説明してあげなさい」を発動した。

 後はデミウルゴスが仲間にする説明を、モモンガが理解すれば万事解決である。

 

 

「モモンガ様は冒険者として活動を開始されます。しかし、我々はそれに参加しません」

 

(うんうん。流石デミウルゴスだ。俺の事をよく理解している。やっぱり気兼ねなく冒険したいからな。お供はいらないぞ)

 

 

 モモンガは彼らの事がもちろん嫌いではない。今はいないギルドメンバーの子供のような存在だと思っており、大切なナザリックの一員だと考えている。

 しかし、彼らは配下としての姿勢を貫き、モモンガに支配者としての姿を求めている。

 そうあれと生み出されたのだから、それはそれで構わない。

 だが、モモンガは遊びの一環――趣味として冒険者になりたいのだ。

 

 

「モモンガ様の大いなる計画のためには、冒険者としてのパートナーは現地人が望ましい。我々ナザリックの者ではない事に意味があるのだよ。そこで――」

 

(うんうん。四六時中支配者ロールをするのはちょっとしんど過ぎるからな――ん、計画?)

 

 

 だからそんなNPC達と一緒に冒険に行くのは、自分の求める物とはちょっと違うと思っている。プライベートは自由に楽しみたいのだ。

 そんな事を考えていると、デミウルゴスの説明の雲行きが怪しくなってきた。

 

 

「――モモンガ様に決して悟られず、護衛が出来る者を選抜したいと思います!!」

 

(どうしてそうなった!?)

 

 

 モモンガはツッコミを声に出すことなく何とか飲み込んだ。しかし、状況が好転するわけではない。

 モモンガは軽く考えていたが、忠誠心が天元突破しているNPCがそう簡単にモモンガを一人にするわけがない。

 特にデミウルゴスはモモンガ――自分達が仕えられる最後の支配者――がこの地を去らないか一番危惧していたNPCだ。

 例えモモンガに命令されたとしても、そう簡単に頷くわけがないのだ。

 

 

「これより『モモンガ様を護り抜くのは君だ!! 第一回ナザリック大、大、大、かくれんぼ大会』を開催いたします!!」

 

「「「うおぉぉおぉぉぉぉっ!!」」」

 

 

 デミウルゴスはいつの間にか握りしめていたマイクを使い、この場にいる者全員に向かって叫んでいた。

 悪魔の発した非常に耳障りの良い声。

 周りから上がる歓声。

 

 

「ぇぇ……」

 

 

 そしてかき消される骨の嘆き。

 デミウルゴスの声は心地よく耳に入ったが、モモンガは状況を理解出来なかった。例え多少の時間があっても理解は出来なかっただろう。

 

 ――お前、こんなキャラだったのか。

 

 NPCは程度に差はあれど、ギルドメンバーによって性格などが設定として書き込まれている。しかし、設定に書かれた文章が全てではないらしい。

 モモンガはNPCの新たな一面を知り、何とも言えない気分になった。

 

 

「ルールは簡単だ。まず事前に配ったリストバンドは――」

 

(うわぁ、準備万端。何故だ!? そこまで気遣いが出来るなら、何故その結論に至った!? 普通に一人で行かせてくれよ!!)

 

 

 モモンガの驚愕を他所に、デミウルゴスから今から行う大会のルール説明が行われる。

 一つ、モモンガから一定距離を離れない事。

 二つ、モモンガに気付かれない事。

 これらの条件に反すると魔法のリストバンドが壊れて自動的に失格となる。

 要は制限時間終了まで、モモンガに見つからずにストーキングすればいいのだ。

 少々変則的な部分もあるが、シンプルなルールと言えるだろう。

 

 

「そうそう、冒険者のパートナー役として私はモモンガ様と一緒に動きます。私に見つかっても当然失格だからね。……如何でしょうか、モモンガ様。一部の守護者を納得させるため、少々趣向を凝らしてみました」

 

「……誰もが納得する素晴らしい案だと思うぞ」

 

 

 ――俺は微妙に納得してないけどな。

 モモンガは心の中で愚痴りつつ、表情の変わらない骸骨になった事を感謝した。

 

 

「ありがとうございます。では、これからモモンガ様には森林内の所定の位置について頂きます。後はスタートと同時に自由に動き回っていただければ幸いです」

 

「ほぅ、森林内がフィールドか。参加者はどの程度いるのだ。既に姿を隠している者もいるのだろう?」

 

「流石はモモンガ様。素晴らしい慧眼で御座います。レベルとしては五十以上の者が数十名ほど……ナザリック内に同種が複数いるモンスターや、傭兵モンスターは代表一体のみの参加となっております」

 

 

 細かい人数は不明だが、かなりの人数が参加していると見て間違いない。

 プレアデスの内シズとソリュシャンが見当たらなかったが、シズはレベル的に不参加のはずだ。

 一方で盗賊の職業を持つソリュシャンはレベルの条件も満たしているため、既に森に潜んでいると考えられる。

 傭兵モンスターで気をつけるべきは、高い隠密能力を持つ忍者系モンスターだろう。

 あとはここの階層守護者でもあるアウラとマーレが警戒すべき相手だ。

 あの二人にとってここは有利すぎる場所。能力的に考えても申し分ない。

 

 

「なるほどな…… 魔法などを使っても良いのか?」

 

「はい。転移と攻撃魔法以外でしたら、アイテムなどを使っても構いません」

 

「……分かった。折角の機会だ。私も少々本気を出させて貰おう」

 

 

 この世界に来てから生産の目処は立っていないが、少々スクロールも使わせてもらおう。モモンガはこれは初期投資だと、自身に言い訳を重ねる。

 

 

「それでは、スタートです!!」

 

 

 森林内の所定の位置につき、デミウルゴスの合図でゲームが始まった。

 モモンガは肺のない体で深呼吸を行い、冷静になりつつも気合を入れる。

 

 

(ネムとの冒険に水を差されるわけにはいかない。――どんな手を使っても全員見つけ出してやるからな!!)

 

 

 モモンガは大人気なく本気を出す事を決意した。

 すべてはネムとの楽しい冒険のために――

 

 

 

 

「――そこまで!! ここでタイムアップです」

 

 

 異形種達のかくれんぼ大会は苛烈を極め、そして今終わりを迎えた。

 ――御方の圧倒的な力を見せつけられるという結果で。

 

 

(まさかこれ程とは。私はまだ至高の御方の力を甘く見ていた……)

 

 

 パートナー役として常に側にいた自分は、至高の御方の妙技を思い出していた。

 

 

『――飛ぶぞデミウルゴス!!〈飛行(フライ)〉』

 

 

 参加者から距離を引き離すべく、自分を抱えたまま華麗なアクロバット飛行をしてみせたモモンガ様。

 

 

『えーと、ぷにっと萌えさん考案の探知術は――』

 

 

 数々の情報系魔法を使いこなし、次々と参加者を発見していったモモンガ様。

 

 

『目を増やすか。スキル〈下位アンデッド創造〉〈中位アンデッド創造〉〈上位アンデッド創造〉ふむ、これだと足りないか? おまけに〈不死の軍勢(アンデス・アーミー)〉っと』

 

 

 召喚魔法を使い、人海戦術を披露して下さったモモンガ様。

 そのお言葉と魔法で罠を張り巡らせ、凄まじいオーラを撒き散らし、数々のアイテムを湯水の如く使い――参加者の尽くが脱落していった。

 

 

(やはり私如きの作戦では、モモンガ様には通用しませんか)

 

 

 自分の策がほとんど通用しなかった。悔しいと思う反面、主人の偉大さに誇らしくもある。

 実を言えばこの大会は守護者だけでなく、モモンガ様に護衛の同行を納得して頂くための場でもあったのだ。

 そのため公平性に欠けるとは思ったが、大会のルールはモモンガ様に不利な仕様で作った。

 予め森林内での活動が得意なモンスターを用意し、チームとして動くように指示も出していた。

 自分というパートナーがいる事で、移動を制限される仕組みも用意していた。

 

 

(あらゆる想定はしていたつもりでしたが、私も精進しなくてはなりませんね)

 

 

 モモンガ様が探索系の職業を修めていないのは承知している。その上で隠密に長けた者を参戦させていたのだ。

 更には転移と攻撃魔法を制限した以上、魔法詠唱者としての能力は十全に発揮出来ない。

 参加人数すらワザと正確には伝えなかった。

 これなら最低でも五人は残ると考えていた。

 考えていたのだが――

 

 

「中々楽しかったぞ、デミウルゴス。そろそろ私は行かせてもらうとしよう」

 

「はっ。ご協力ありがとうございました」

 

「あぁ、もし私が見つけられなかった者がいるのなら、そのままついて来るといい」

 

 

 ――最後の超位魔法は予想外だった。

 まさか〈天地改変(ザ・クリエイション)〉を使って大森林を一時的に作り変え、潜んでいた参加者を無理やり炙り出すとは思わなかった。

 こちらの作ったルールの穴を突いた見事な作戦の数々。まさに智謀の王。端倪すべからざる御方と言う他ない。

 

 

「どうするのよデミウルゴス!! このままじゃモモンガ様がお一人で行かれてしまうわ」

 

「そうでありんす!! ああっ、あの時アルベドが邪魔してなければ……」

 

「なんですって? それはこっちのセリフよ!!」

 

 

 アルベドとシャルティアが騒いでいるが、結果は結果として受け止めなければならない。というより、二人は勝手に自爆しただけだ。

 モモンガ様が装備を着替える瞬間を目に焼き付けようとして、二人してあっさりと見つかったのだから。

 二人の気持ちは分からないでもないが、あれ位は罠だと気がついて欲しい。

 そもそも隠密能力がない二人だから、最後まで残れるとも思っていなかったが。

 

 

「あー、後もうちょっとだったのになぁ……」

 

「お、惜しかったね、お姉ちゃん」

 

「アウラ、マーレ、二人ともお疲れ様。私も二人のコンビならいけると思っていたが……モモンガ様は我々の想像を容易く超えてしまわれたよ」

 

「流石はモモンガ様だよね。でもいいの? 本当にお一人で行かせて?」

 

 

 かなり悔しげだが、やり切った表情を見せるアウラに労いの言葉をかけた。

 事実この二人は本当に健闘してくれた。

 恐らく最後の超位魔法がなければ、樹々や地面に隠れ潜んだまま見つかる事はなかっただろう。

 

 

「問題はないさ…… お一人、ではないからね」

 

 

 念のための保険として用意していた最後の策。

 参加するように声をかけたのは自分だが、残ったのがその彼だけというのはかなり悔しい。

 

 

(モモンガ様の事を頼みましたよ)

 

 

 自分の感情はさておき、モモンガ様の護衛として信頼は出来る。

 まさか一人しか残らないとは思わなかったが、きっと彼なら大丈夫だろう。

 なにせ彼は――

 

 

 

 

 

 かくれんぼ大会を終え、ナザリックの地表部まで出て来たモモンガ。

 そこでモモンガは頭を抱えて自己嫌悪に陥っていた。

 自身の先ほどの所行を思い出し、精神抑制が三度ほど繰り返されている。

 その理由は単純――やり過ぎたである。

 

 

(うわぁぁ、やっちゃった……どうしよう。フィールドを更地にして見つけ出すとか、ないわぁ…… かくれんぼで隠れる場所を潰すとか、絶対ダメだろ……)

 

 

 ナザリックのシモベには見せられない情けない姿。

 しかし、そんなモモンガに近づく者がいた。

 

 

「モモンガ様!! 如何なさいましたか?」

 

 

 妙なイントネーション呼ばれた己の名前。

 その声を発した者の姿を見て、モモンガは顎が外れかけた。

 

 

「ぱ、パンドラズ・アクター!?」

 

 

 誰もいないと思っていたモモンガの目の前に現れたのは、黄色い軍服を着た二重の影(ドッペルゲンガー)――

 ――モモンガが創造したNPCだった。

 

 

「はい、貴方様に創造して頂いた唯一の存在…… 宝物殿の領域、守護者!!」

 

 

 パンドラズ・アクターは肩にかけたコートをバサリとはためかせ、軍帽に手をかける。

 更にブーツの踵を打ちつけ音を鳴らし、つるりとした卵のような顔を斜めに傾けた。

 

 

「そして、今はモモンガ様専属の護衛!! パンドラズ・アクターでございます!!」

 

 

 おそらくキメ顔をしているのだろうが――顔の造形は黒い穴が三つ並んでいるだけ――その表情は全く変わらない。

 目の前で繰り広げられるオーバーアクションを前に、モモンガは先程よりも多く精神抑制が起こった。

 

 

「あー、久しぶりだな。元気だったか? というか、お前もさっきのに参加してたのか……」

 

「はい、元気にやらせて頂いております。先程の大会もデミウルゴス殿に誘われ、参加しておりました!!」

 

 

 モモンガが何とか気を取り戻すと、パンドラズ・アクターからテンションの高い応答が返ってくる。

 彼は宝物殿に引き篭もらせていたはずだが、デミウルゴスが呼び出したらしい。何気にこの世界に来てから会うのは初めてだったりもする。

 そこでモモンガは改めて気付いてしまった。

 

 

「お前が私の護衛なのか……」

 

「お任せ下さいモモンガ様!! ありとあらゆる手を尽くし、決して御身に気付かれずに、完璧に護衛して見せましょう。私は影となり空気となり、モモンガ様の冒険の邪魔には――」

 

「宝物殿の方は大丈夫なのか?」

 

「もちろんで御座います!! そちらの方の仕事も完璧ですとも」

 

 

 歌うように高らかに宣言し、大袈裟に両腕を広げ、くるりと半回転。

 そしてピタッと動きを止め、腕を交差し決めポーズをするパンドラズ・アクター。

 モモンガは全てのNPCの事をギルドメンバーの子供だと思っている。

 

 

「……任せるぞ。それから冒険中の出来事を他の者に細かく報告したりはするなよ?」

 

 

 しかし、自分が創造したコイツについては、どう接したら良いのか分からない。

 仮に創造主ではなくても、目の前で一人ミュージカルを繰り広げるような奴の接し方など分かるはずもないが。

 

 

我が神のお望みとあらば(Wenn es meines Gottes Wille)!!」

 

「……」

 

 

 突然のドイツ語に絶句するモモンガ。そして再び襲いかかる精神抑制。

 

 

(うぉぉぉっ……ドイツ語だったかぁぁぁ!? ――よし、さっさとネムに会いに行こう。前に話してた冒険の事覚えてるかなー)

 

 

 うん、取り敢えずコイツはいない者として扱おう。

 大丈夫だ。きっといつの間にか忘れているはずだ。気付かれない事が護衛の条件だしな。

 

 

「ではモモンガ様。一足先に先にカルネ村の様子を確認してまいります」

 

「分かった。少しだけ遅らせてから私も向かおう」

 

「現地の安全確保は完璧にして見せましょう。この先モモンガ様は私に決して気づくことなく、しかし私はその尊い雄姿を目に焼き付け、大いに冒険を――」

 

「はよ行け」

 

 

 モモンガは気持ちを切り替え、目の前の黒歴史から目を背ける。

 そして、パンドラズ・アクターが消えてから、少し間を空けて〈転移門(ゲート)〉を唱えた。

 闇を潜った先、最初に目に入るのは何でもない村の風景。

 

 

 

「――数日ぶりだな、ネム。元気にしていたか?」

 

 

 そして、何よりも待ち望んでいたもの――

 

 

「モモンガ!! 遊びに来てくれたの?」

 

 

 ――こちらに気がつき、花が咲いた様な笑顔を見せる、小さな友の姿だった。

 

 

 

 

 




ナザリックが一緒に転移している。つまりモモンガは一人になれないのでは?
しかし、原作通りナーベラルを護衛にすると冒険を楽しめないかもしれない……
と、いう事で考えた結果、護衛役はパンドラズ・アクターです。
彼ならきっと誰にも気づかれずに、尚且つ柔軟な対応をしながら見守ってくれる……はず。



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