邪神様が見ているin米花町   作:亜希羅

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 毎度毎度冒涜的なことを考えるのも辛いんです。脳髄が啓蒙に浸食されつつある・・・。
 ということで、今回は恒例のあれはお休み。
 まあ、今回は邪神様視点はちょっとお休み。話があまり進まないので、17.5話としてあります。
 興味がないなら、すっ飛ばして#18に進まれても大丈夫です。一応、そういう風に書いたつもりですので。
 ・・・もはや群像劇化してきているなあ。コナン君と松井君の絡みが楽しかったからしょうがない。
 なお、例によって、名探偵の周囲の人たちの、名探偵に対する扱いが厳しい、かもしれません。



【#17.5】邪神の知らない世界、あるいは名探偵と探索者たち

 いつもニコニコ!ラブ&カオス!米花町の這い寄る混沌こと、私です。人間としては、手取ナイアと名乗らせていただいております。

 

 さて、先日のなんちゃって誘拐事件の後、正式に工藤夫妻から息子さんの養育を託されましてね。

 

 養育費も預かりましたし、取引のこともあります。まあ、元々どう転ぼうがさして問題にはしてませんでしたので、そのままコナン君の居候継続と相成りました。

 

 そんなコナン君、我が家に戻ってきた直後は落ち込んでいたと思ったのですが、それでも工藤夫妻への仕返しはきちんと果たされたようです。

 

 数日後に、有希子君から近況報告のお電話をもらった際に、新一君からの密告で各国編集者の皆様に飛行機の中まで押しかけられたことを聞いたときには、彼女たちには申wしw訳wなwいwながらも、腹を抱えて笑ってしまいました。

 

 NDK〈ねえどんな気持ち〉?NDK〈ねえどんな気持ち〉?と訊きたくなるのを必死に我慢しましたよ!

 

 おや、皆さん。このクソ邪神の、邪悪愉快犯め、ですか?そうやって煽って人の不幸を飯の種にすること以外考えないのか、ですか?

 

 まあまあ。この程度かわいいものでしょう?もし私がコナン君のお立場であれば、工藤ご夫妻は今頃飛行機ごと行方不明になっているか、警察が阿鼻叫喚の地獄絵図に叩き落されるような冒涜的事象に見舞われているでしょうから。

 

 ほう?その後のコナン君が気になりますか?

 

 確かに、ご帰宅なさってしばらく部屋に閉じこもって、翌日学校に行くにも落ち込みモードでしたからねえ。

 

 まあ、必要最低限のコミュニケーションなどは取ってくれましたが、なぜ落ち込んでいるのかさっぱりです。

 

 おや、聞かないのかですか?

 

 ご冗談を。私は邪神であって、カウンセラーではないんです。それとも、皆さんは、私が彼が精神的に弱っているところに付けいっていいとおっしゃるのですか?ならば、これからちょっと話をしに、

 

 おや、一斉に謝ってきて、やっぱなしで!とは、いい加減ですねえ。言動は一貫していただかねば困ります。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 その日は、学校が午前で終わったのもあり、コナンは家に帰宅後、お昼を取ってから、出かける準備をする。

 

 

 

 

 

 最近、仲良くなったクラスメートの、小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美の3人と遊ぶのではない。

 

 彼らと話をするのは悪くない。大抵のクラスメートがコナンの話は難しい、もういいと切って捨てるのに対し、よくわからなくてもわからないなりに一生懸命聞いてくれる彼らと一緒にいるのは、ある種の必要に近い。

 

 しかしながら、どんなに彼らがコナンに歩み寄ろうとしても、所詮彼らは小学校1年生の子供の中の子供なのだ。中身17歳の高校生には、どうしても物足りず、結果コナンは彼らに合わせることになり、一緒にいると必要以上に疲れるのだ。

 

 何が悲しくて、缶蹴りやらかくれんぼやら仮面ヤイバーごっこやら、高校生にもなってやらなければならないのだ。

 

 一緒にいるのは(他の小学校一年と比べると)悪くないが、四六時中遊び相手にしたいというほどではないのだ。

 

 

 

 

 

 閑話休題〈話を戻す〉。

 

 スマホ(工藤新一のものとは別に、江戸川コナン用のだ。子供用のフィルターやらはついてない)をポケットにねじ込み、変装を兼ねた追跡眼鏡に、蝶ネクタイ型変声機と、キック力増強シューズは当然として、新しく博士に作ってもらったターボジェットスケボーを手に取る。

 

 このスケボーはソーラー電池で動くとはいえ、その速度は下手なバイク以上に速い。幼児化する前からスノボもやって、バランス感覚に富んだコナンにとっては、最初こそそのスピードに圧倒されたが、今ではお手の物だ。

 

 内蔵されているセンサーだかで操縦者の姿勢を感知し、スピードの強弱をつけられるため、よほどの緊急事態でない限り、コナンも安全運転を心掛けている。軽車両でなかろうと、この手のスピードの出る乗り物は、一歩間違えればたやすく第三者に危害を加えるものになるからだ。

 

 

 

 

 

 最後に、コナンは机の中にしまっておいた、4つ折りに畳まれている硬い紙を取り出した。名刺である。SとDをモチーフにしたスタイリッシュなエンブレムは青で書かれているが、他は黒い明朝体の硬くしまりのある字体で、書かれていた。

 

 “槍田探偵事務所所長 槍田郁美”という名前を筆頭に、住所と電話番号に、事務所ホームページとメールアドレス。

 

 そして、それらに加え、明らかに後で書き足されたと思しき、ボールペンによる走り書き。

 

 “何かあるなら連絡しろ”

 

 落ち着いて書けない環境で書いたからか、非常に汚く歪んだ字であるが、どうにかそう読めた。

 

 この名刺は、両親が仕掛けてきたあの紛らわしい悪戯の直後、優作に言いくるめられた松井が、「じゃあな」と一言コナンの頭をなでるついでに、渡してきたものだ。

 

 本当に、さり気に渡してきたので、おそらくこれを渡されたとは、コナン本人以外は誰も気が付いてないだろう。

 

 コナンはそれを、ジャケットの内ポケットに、大事な物をそうするようにそっとしまいこんだ。

 

 

 

 

 

 見限られたとコナンは思った。

 

 今までそうだったのだ。自分は大人たちに助けを求めても、少しでも大人たちは奇妙だと思わなかったり、コナンの見つけた違和感に共感してくれなかったら、たちの悪い悪戯呼ばわりされて、見限られるのだ。

 

 『子供のくせに』『変なことばっかり言って』

 

 唯一の例外は父くらいだったが、その父も何から何までわかって無条件に味方してくれたわけではないのだ。

 

 松井や成実も、コナンのことを“いたずらに巻き込んだタチの悪い子供”と思ったに違いない。

 

 あの事件が、父によって仕組まれたものだと判明した瞬間、コナンは内心絶望したのだ。

 

 大人に頼っていいと思ったのに、その大人を裏切るような真相だった。

 

 せっかく、味方になってくれそうな人たちが、現れたのに。

 

 けれど、松井はコナンにこの名刺を残してくれた。本当にタチの悪い悪戯に巻き込まれて、怒っている大人がこんなものを残すだろうか。

 

 否。コナンが彼らの立場であれば、それこそ軽蔑の言葉の一つ言って、何も残さなかったに違いない。

 

 ・・・彼らは、こんなコナンに、それでも誠意を示して、残してくれたのだ。ならば、今度はコナンがそれに報いる番だ。

 

 例え言い訳だとなじられようと、あの時ドサクサまぎれに去られてしまい、コナンは何も言えずじまいに終わってしまった。

 

 せめて、礼の一つでも言うのだ。そんなつもりなかったけれど、騙すような形になってしまってごめんなさい。協力してくれてありがとう、と。

 

 

 

 

 

 「おい、ちょっと出かけてくるからな!

 

 夕方には帰るようにするから!」

 

 スケボーを抱えたコナンは、古本屋の片隅で紅茶を嗜む美女、手取ナイアを見上げながら声をかける。

 

 銀縁眼鏡に、黒いベストとスラックスの極上の美女は、中身は最悪の邪神を称する化物の、ドSという言葉では片付かないほどの邪悪な性悪である。

 

 ・・・残念ながら、現在それを知っているのはおそらくコナンただ一人だろう。

 

 そして、そんな最悪最低な相手が、コナンの現保護者である。自分で選出した、自業自得に近いものがあるのだが、それでも納得しきれないものがある。

 

 しかし、相手は保護者で、コナンは(一般的には)責任能力が不十分な小学1年生であり、行先と帰宅時間の申告はしとかねばならない。

 

 ・・・前に無断で出かけようとした時に、凄味を感じる笑みとともに、「PTAと児相は嫌なんです」と前置きされた上、コナンが出かけた先で事件に巻き込まれた場合も考えろ、保護者への通達は常識だと言われ、ぐうの音も出なかった。

 

 コナンとて、好き好んで事件に巻き込まれているわけではない(少なくとも自覚はない)というのに。

 

 加えて、事件が起こって被害者と容疑者による醜い人間模様を腹抱えて笑いながら眺めている邪神にだけは、常識を説かれたくない。

 

 「ええ、わかりました。ちなみに、どちらへ?」

 

 「鳥矢町だよ。ちょっと友達に会いに行って来る」

 

 嘘は言ってない。事実全てではない。

 

 松井と成実たち、そしてコナンの関係はまだ友達と言えるほど親密なものではない。けれど、鳥矢町へ行くというのは嘘ではない。

 

 ちなみに、既に槍田探偵事務所の場所はネットで調べて、工藤新一の声でアポを取っているので、問題ない、はずだ。

 

 「わかりました。では、いってらっしゃい」

 

 もう少し根掘り葉掘りされるかと思いきや、ナイアはすんなりとコナンを解放した。

 

 まあ、藪を突いて蛇を出す必要もあるまい。まあ、この邪神の場合、藪を突いたら、嬉々として蛇では済まない冒涜的な化物を藪から放り出しかねないだろうが。

 

 ともあれ、コナンは了承は得られたと判断し、外に出るや早速スケボーにのって、出発した。行先は、鳥矢町の槍田探偵事務所だ。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 「うちは喫茶店じゃないって何度言ったらわかるのかしら?松井君」

 

 「しょうがねえだろ。落ち着いて話せそうなのが、とっさにここしか思い浮かばなかったんだよ」

 

 ところ変わって槍田探偵事務所。来客用のソファにバイク雑誌を片手に陣取るのは、松井陣矢。

 

 その向かいに苦笑しながらかけているのが浅井成実で、所長である槍田郁美と事務兼補佐の寺原麻里は、それぞれ定位置のデスクについている。

 

 「すみません、勝手な判断でご迷惑をかけてしまって」

 

 「所長、松井君はしょうがないにしても、そのコナン君って子の事情は理解できると思いませんか?少しくらいならいいじゃないですか」

 

 「それは、まあ・・・」

 

 成実の言葉に、同情したらしい寺原が助け舟を出し、それに槍田は少し困ったような顔をする。

 

 実際、彼らが係わりを持ってしまった分野に関しては、他人に話してもほとんどの人間が気味の悪い妄想と切って捨てるのがオチだ。

 

 ゆえにこそ、事情があっても話せない人間のことは、理解できるし無理強いしないというスタンスをとっているのだ。

 

 「ええと、念のため確認するけど、その子、以前あっち系の事件に巻き込まれたとき、共闘したんですって?」

 

 「ええ。美術館の時に。見た目は小さい・・・小学校低学年ほどなんですけど、すごい頭が切れるんですよ。私とか気が付かないこととか知らないことをずばずば言ってきて、先輩とも意気投合してて。後は、すごく動けるんです。すばしっこくて反射神経もあって。ねえ、先輩?」

 

 寺原の問いにうなずいて、成実は松井を見やった。

 

 「ああ」

 

 頷いて、松井は煙草を咥えて、ライターで火をつける。ちなみに、槍田は事務所での喫煙を特に禁じていない。元の職場でスモーカーが多かったので、彼女自身がかなり理解があるのだ。

 

 深々と煙を吸い込み、吐き出しながら松井は言った。

 

 「いたずらと、工藤優作は言ってたがな。どうにも納得できねえんだよ」

 

 「・・・ですね。ものすごくショック受けた顔で、私たちを見てて、そんなはずじゃなかったって顔に大きく書かれてましたし」

 

 「どういうこと?」

 

 「実は・・・」

 

 イマイチ事情が分からない寺原に促されるままに、成実が先日起こったホテルでの一件を話す。

 

 ちなみに、この時ホテルに彼らが居合せたのは、仕事で依頼人に話を聞くためであったが、その仕事もすでに片付いている。

 

 話を聞くなり、寺原が眉をひそめる。

 

 「それ、いたずらじゃないの?

 

 だって、その・・・その子供が工藤優作のイタズラを本気にして、あなたたちを巻き込んだ、そうとしか思えないわ」

 

 「いたずらにしてはタチが悪い。そもそも何でそんな悪戯を仕掛けたんだ?もっとやりようがあっただろう。加えて、コナンの様子から、それを本気に受け取ってもしょうがない事情があったんじゃないかと思えてな」

 

 トントンと灰皿に灰を落とし、松井は煙草を咥え直す。

 

 「自分の訴えが周囲に信じてもらえないってのは、辛いもんだ」

 

 ポツリとそう付け加えられた言葉に、周囲の人間は誰もが黙した。

 

 

 

 

 

 確かに見たのだ。存在するのだ。そういう訴えが、無視され、一笑に付される。

 

 ここにいる4人は、だれしも多かれ少なかれ、そう言った経験がある。

 

 松井は、親友の発狂原因である魔導書とゾンビの存在、そして自身の無実を。

 

 成実は、家族の心中が何かの間違いであるということを。

 

 寺原は、怪物の目撃を。

 

 槍田も、似たり寄ったりの事情があった。

 

 人は見たいものだけ見て、信じたいものだけ信じる。否応なしに、それを悟らされたのだ、彼らは。

 

 自分がそういった経験をしたからこそ、他者にそう言った思いをさせたくないというのは、確かに彼らにあった。

 

 

 

 

 

 「だからまあ、少しくらい話を聞いてもいいんじゃないかと思ったんだ。

 

 あいつにその気があれば、だがな」

 

 「それで、うちに江戸川コナンの知り合いを名乗る電話が入ったら連絡よこすように言ったわけね」

 

 だからと言って、喫茶店扱いはいただけないが。

 

 第一ここは探偵事務所だ。その辺の探偵事務所のように浮気調査やペット探しもやるにはやるが、メインにしているのは刑事事件、不本意ながらサブでオカルト事件なのだ。その他が大体2割程度を占めている。

 

 そんな列記とした、神聖なる仕事場を喫茶店扱いとは、本当にいい度胸をしている。

 

 「けど、こちらにも知らせてくれましたよね?助かりました」

 

 「成実さんにはお世話になってるから・・・」

 

 成実の言葉に、寺原は笑みを返す。

 

 

 

 

 

 仕事以外にも、寺原と成実は休日に一緒に遊んだり食事したりする仲である。

 

 一応、成実は男性なので、恋愛沙汰と思われがちだが、残念ながら寺原には付き合っている男性がいるし、成実はヘタな女子より女子力があるため、そういった関係には発展していない。

 

 女友達、という言葉が一番適任だろう。くどいようだが、成実は男性だ。

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、呼び鈴が鳴らされる。

 

 「ちなみに、今回アポを取ってきたのは、あの有名な、工藤新一君よ?

 

 最近とんと話を聞かなくなったと思ったんだけどね」

 

 どこか面白そうな顔をして付け加えた槍田に、寺原もうなずきながらデスクを立って、扉を開ける。

 

 ・・・ちなみにこの事務所の扉は毛利探偵事務所のような安っぽいアルミのドアではなく、重厚な樫のドアである。

 

 表の方には、槍田探偵事務所という看板が、どこぞの法律事務所よろしく取り付けられていたりする。

 

 「はい。ようこそ、槍田探偵事務所へ!あら?」

 

 「こんにちは!あの、松井のお兄ちゃんから話、聞いてない?」

 

 ドアを開けた寺原は一瞬誰もいないかと周囲を見回してしまったが、足元から聞こえた声に視線を落とす。

 

 そこにいたのは、野暮ったい黒縁眼鏡に、青いジャケットと赤い蝶ネクタイという坊ちゃんスタイルの、江戸川コナンである。ちなみに、スケボーは右手で抱えていた。

 

 

 

 

 

 毛利探偵事務所に、コナン――新一は何度か足を踏み込んだことがある。

 

 所長の毛利小五郎がヘビースモーカーであるうえ、真昼から酒をカッ食らっていることがあるため、煙草と酒の臭いが時折ひどい上、全体的に内装が安っぽい印象を受けた。

 

 それに対し、槍田探偵事務所の内装は違っていた。インテリアの配置などは毛利探偵事務所のそれとほぼ同じだが、落ち着いた絨毯の上の瀟洒なソファは座り心地抜群で、所長の槍田が陣取るデスクもアンティークものだと一目でわかる。つまり一言でいうならば、全体的におしゃれなのだ。

 

 本棚に収まるのは、数々の科学雑誌や論文書籍の数々に加え、槍田が解決してきた事件の数々をファイルしたものだろうが、鍵付の大きな棚がその隣に堂々と鎮座している。あの常軌を逸した事件を解決した松井や成実が堂々と出入りしていることを合わせて考えれば、その中身も推して知るべし、だろう。

 

 煙草の匂いはするが、それはコナンの正面に座る松井のせいだろう。

 

 「元気そうだな、コナン」

 

 「松井さんや成実さんも」

 

 ニッコリ笑ったコナンは、改めて自己紹介をする。

 

 それに応じて、槍田と寺原も自己紹介をした。

 

 一心地付いたところで、コナンは口を開く。

 

 「この前は、協力してくれてありがとう。

 

 ボクは知らなかったんだけど、いたずらに巻き込んじゃってごめんなさい」

 

 煙草を咥えながら言った松井に、コナンは深々と頭を下げた。

 

 「お前は知らなかったんだろう?俺は気にしてないから、お前もあんまり気にすんな」

 

 「でも・・・」

 

 「じゃあ、話してくれるのか?お前が、“悪戯”を本気にとらえざるを得なかった、事情ってやつを」

 

 ウッとコナンは言葉に詰まる。

 

 そう。普通の人間であれば、興味をもって問いたださないわけがないのだ。コナンの年齢以上の聡明さと行動力の源泉を。

 

 お前は何者だ?と。

 

 松井のサングラスが取り払われた、金縁の瞳がコナンを見据える。

 

 だが、コナンは答えられない。

 

 それは、ここにいるものたち全員危険という泥沼に引きずり込むことになるからだ。

 

 「・・・ごめんなさい。言えない」

 

 コナンは、申し訳なく思いつつ頭を下げた。

 

 「・・・俺たちが信じないと思うからか?」

 

 「違う!」

 

 松井の問いかけに、コナンは弾かれたように頭を上げて首を振った。

 

 それだけはない。きっと、松井たちは信じてくれる。それこそが、命とりなのだ。

 

 「知ったら、危険なんだ。巻き込むことになる。命を狙われて、死ぬまでつけ狙われることになるかもしれないんだ!」

 

 

 

 

 

 実際、ナイアの家に居候するようになってからしばらく後に、一度だけコナンは工藤邸に行ったことがある。

 

 ちょっとした思い付きだった。

 

 だが、すぐさまゾッとして、家から離れざるを得なかった。

 

 ナイアにあらかじめ死亡を確認されるだろうと指摘されてたからこそ、気づけたことであったともいえた。

 

 家のものの配置が、微妙に変わっていたのだ。

 

 新一が、蘭とトロピカルランドに出かける直前のものの配置から、微妙にずれている。閉めたはずの引き出しが微妙に閉まりきってなかったり、開け放ったままにしていた場所の扉が閉まっていたり。もっとも、それは新一のずば抜けた記憶力の賜物だ。常人であれば気が付かなかったに違いない。

 

 誰かが、家に入ってきていたのだ。誰が、何のために?ここを、どこだと知りながら?警察と太いパイプのある工藤の家だというのに。

 

 ナイアの指摘が正しかったのだ。件の犯罪組織は、工藤新一を殺し切ったか、ご丁寧に確認しに来たのだ。潜伏していないか、調べに来たのだ。

 

 

 

 

 

 工藤新一が生きていると知られたら、自分ばかりか、周囲の人間が危うくなる。

 

 それが、通りすがりに近い、最も親しみを覚えた大人であろうとも。

 

 だから、コナンは言えない。どんなに真実を語りたくても――それが、真実は明らかにしなければならないという、自身の信条とは真逆をいくことであると知りながらも、口を閉ざさざるを得ないのだ。

 

 

 

 

 

 蒼褪めて険しい顔になったコナンの叫びを静かに聞いた松井は、短くなった煙草を灰皿にグイッと押し付けた。

 

 なまじ松井は、自身が“かつて最悪の誘拐犯とされて自殺したとされる松田陣平であった”過去を持つがために、どうしても言えない秘密を抱える相手の気持ちは、理解できた。

 

 その言えない理由が、他者を思いやるためであれば、なおさらに。

 

 だから、松井は多くは訊かなかった。

 

 「あー・・・そんじゃあ、一つだけ聞かせろ」

 

 ぐっと身を乗り出し、松井はコナンの目を見据えながら尋ねた。

 

 「何か、手を貸してほしいことはあるか?」

 

 「え?」

 

 「この間のあれ、いたずらじゃなかったとしたら、相当尋常じゃないだろう。まあ、何だ。そういうことがあるっていうなら、その・・・放っておけねえからな。できることがあるなら、手を貸す」

 

 言葉を選びながら、松井は言う。

 

 前職が警察官で、その正義感に押されてなんてのは言えない。第一、小恥ずかしい。

 

 「い、いいよ。オレの事件なんだ。オレが一人で」

 

 「そうやって何でも抱え込んで、手が回りきらなくて、犠牲を出すのが、お前の正義か」

 

 コナンの言葉を遮り、下らねえ、と松井は吐き捨てて、新しく煙草を咥え、ライターで火を点ける。

 

 「一人でできることなんざ、限界があるぜ」

 

 自分〈松井〉がそうであったように。

 

 

 

 

 

 萩原〈親友〉の心神喪失の原因を調べるのに、4年かかった。しかし、あの事件の渦中は、知り合ったメンバーと手分けして、知恵を出し合って、力を合わせて、きわめて短期に事件を解決させることができた。

 

 松田一人であれば、どこかで引っかかるか、つまずいてもっと時間がかかって――下手をすれば、さらに犠牲が出ていたかもしれないのだ。

 

 誰かの力を借りるのは、悪いことではないのだ。むしろ、それこそが最も大事なことなのだ。

 

 警察学校時代から一匹狼気質であった松田は、皮肉にも警察を辞めるきっかけとなった事件で、ようやくそれを痛感したのだ。

 

 

 

 

 

 「それは・・・そうだけど・・・」

 

 コナンも力なくうつむく。

 

 

 

 

 

 件の誘拐事件は、結局悪戯だった。悪戯で済んだ。

 

 だが、もし悪戯でなかったら。もし、あそこにいたのが本当に黒の組織の一員で、コナンが一人で挑んでいたら。

 

 コナンは返り討ちに遭い、阿笠博士と幼馴染を始めとした周囲の人間は残らず殺されていたに違いない。

 

 一人でできることなど、たかが知れる。

 

 巨大な犯罪組織に立ち向かうには、工藤新一のコネクションを封じられたコナンは、あまりに無力と悟らざるを得なかった。

 

 父には自分が解決すると啖呵を切って見せたが、実際にはわずかながら不安を感じ始めていたのだ。

 

 味方を作らなければならない。コナンの幼い姿に惑わされず、彼に手を貸してくれるコネクションを、一から築かねばならないのだ。

 

 

 

 

 

 「あのね、コナン君。君が何を抱えているかは、私たちには分からないわ」

 

 ここで声をかけたのは、成実だった。

 

 「けど、少なくとも、私と松井先輩はあなたの味方よ。ここにいる他の二人もね。

 

 加えて、私たち、全員ああいった事件を経験済みなの」

 

 くすっと成実は不敵な笑みを浮かべ、続ける。

 

 「命を狙われて、死ぬまで付け狙われる?上等じゃない。その程度、安いもんだわ。

 

 ああでも、確かにそうね。一番怖いのは、人間だわ。

 

 だって、ああいうのもそうだけど、事件というのは大概、人間が係わったことが起爆剤になるんですもの。

 

 そういう意味では、一番怖いのは人間ね」

 

 ギョッと目をむくコナンをよそに、成実はくすくすと笑う。

 

 「あきらめなさい、ボウヤ。ここにいるメンバーは、全員どこかおかしいけど、お節介焼きばかりですもの」

 

 肩をすくめ、槍田は言った。

 

 「ひどいですよ、所長!私は真っ当な人間ですよ!

 

 そりゃあ、変な事件や死体には慣れちゃいましたけど」

 

 「心配すんな、十分おかしい」

 

 ムッとした寺原の抗議に、松井は煙草を吹かしながらツッコミを返した。

 

 そんなにおかしいだろうかとコナンは首をひねった。

 

 幼少から事件現場に足を踏み込んでいた新一から知れ見れば、惨殺死体の一つや二つ、どうということはないのだが。

 

 ともあれ。

 

 どうやら、この人たちはコナンのことを、頭からただの子供と決めつけるということはないようだ。

 

 ならば、ナイアのところでは少々難しいかもしれない話だけでも、頼めないだろうか。

 

 そんな甘い誘惑が、コナンの脳裏をよぎる。自分で危険を口にしながらも、大丈夫そうだと判断して、ハードルが下がってしまったのかもしれない。

 

 だから、おずおずとコナンは口にした。

 

 「じゃあ、一つだけ・・・」

 

 コナンの頼みごとを、4人は快く受け入れてくれた。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 「ただいま~!」

 

 店じまいの最中に、コナン君が帰ってきました。

 

 スケボーから飛び降り、どこか明るく弾んだ調子の声ですね。

 

 「おや、お帰りなさい。今日のお夕飯は鮭のホイル焼きだそうですよ」

 

 「へー。ショゴスさんの晩飯、うまいからオレも楽しみ」

 

 おや?

 

 少々怪訝に思いましたよ。何しろ、私のこの手の会話に、今までコナン君は無反応や無視を決め込んでいましたもので。

 

 チラッと見下せば、「手伝ってやるよ」と、セールワゴンをお店の中に引き入れるのを手伝ってくれます。

 

 ・・・何か悪いものでも食べたのでしょうか?

 

 あるいは、イス人あたりでも彼に何かしたのでしょうか?

 

 思わず奇妙なものを見るような目で彼を見下していると、ややあって彼が見上げてきました。

 

 「・・・何かいいことでも?」

 

 「まあな♪」

 

 尋ねた私に短く答え、彼はそのままワゴンを入れてから、スケボーを自室に運んでいきました。

 

 調子っぱずれの鼻歌は、なかなかの破壊音を醸し出していますが、言わぬが花というものでしょう。

 

 何があったか、聞いてみるのも悪くありませんが・・・まあ、いいでしょう。

 

 

 

 

 

 ええ。お楽しみは、これからなんですから。

 

 

 

 

 

はい、続けます。

続けますから、その冒涜的な触手を私に向けないでください。

慈悲を。え?慈悲はない?ヒドイ!

 





【なんか主人公というよりストーリーテラーなナイアさん】
 ここ数話ほどはすっかり邪神ぶりは鳴りを潜めてしまった。どうしてこうなった。
 最低最悪な邪神のくせに、きっちり保護者はやる。一応、工藤夫妻にも依頼されてしまったこともある。
 なお、仕返しされて飛行機の中で阿鼻叫喚になった工藤夫妻の話を後日聞いて、笑いをこらえるのに苦労した。割と笑い上戸。ツボとしては他人の不幸と苦悩と死と狂気。ロクでもない。
 歩く事件バキュームなコナン君には、行先と帰る時間の告知はキッチリ義務付けている。(万が一、事件に巻き込まれて、警察から電話が来た際、行先知らなかった!となったらPTA案件であるため)
 現在、彼女の最悪な一面を理解しているのは、コナン君ただ一人である。(降谷さんと蘭ちゃんは神様であることは理解しているが、最悪な一面は理解できていないため)
 コナン君が、セッション外で松井さんたちと再会したことは確信まではできてない。

【鳥矢町にまで遠征し、探索者たちと再会したコナン君】
 前回より、両親主催の最悪ないたずらから数日後、こっそり松井さんから託されていた槍田探偵事務所の名刺を元に、連絡を取ることに成功。
 一応、工藤夫妻について弁護しておくなら、あえていたずらと片付けることで、黒の組織の情報拡散を防ぎ、彼らの命を守るということにもなっていたため。コナン君もそれがわかっているので、両親を非難することはできなかった。
 ただ、それでも落ち込みはする。実情はどうあれ、結果として騙すようなことになったんだし。
 ちなみに、劇場版お馴染みのスケボーが登場するのは本来はコミックス9巻。工藤夫妻によるタチ悪い悪戯がコミックス5~6巻の出来事なので、時系列が完全にばらけている。本作は割とこんな感じで好き放題にしていきます。
 半日授業の日を利用して、スケボーを飛ばして鳥矢町へ。フットワークが軽いですが、『漆黒の追跡者』辺りを見ていると、このくらい平然とやりかねない。
 訪れた槍田探偵事務所で、再会した大人組とお話。
 本当は、幼児化云々の事情も説明したいけど、出来ない。言ったらやばすぎるため。
 ちなみに、一度自宅に帰ったら家探し食らった痕跡発見して、SANチェック入ったというのは、本作独自の捏造。邪神様の影響で気づけた。逆を言うなら、邪神様が指摘してなかったら、気が付かないままだったと思われる。
 ・・・オレ、何にも言えない隠し事してる、怪しくて生意気なガキなのに、何で気にかけて協力してくれるなんて言ってくれるんだろ?
 本当は巻き込むのは危険だとわかってるけど、真剣に協力する!と言ってくれてるのに絆された。
 コナン君が彼らにした協力要請内容については、またおいおい。

【探索者らしくどこかおかしいけどお節介焼きな探索者一行】
 大体は本文中で描いている通り。
 最初は、予想してたより小さい・・・(by面識なかった槍田&寺原)となるが、すぐにいやこれ小学1年の言動じゃねーぞ!となる。
 この何でも自分でやろうとする姿勢って、立派だけど見てられないなあ。
 死ぬまで付け狙われるって・・・まあ、今まで似たような目に遭ってきたし、何とかなるでしょう!(本編中以外にも多数神話事件を経験済みのため)
 みんな大なり小なり正気度が削られている上、魅入られちゃっているので大なり小なりどこかおかしい。
 そして、そんな自覚はないが、あいつおかしくなってんなーくらいにはお互い思ってる。
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