邪神様が見ているin米花町   作:亜希羅

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 やっと終わった・・・事件自体は終わったけれど、いくつか語らなければならないことがあるので、それは後日談に回します。

 正月に実家に帰った時、弟とコナンについて話したのですが、『ゼロの執行人』について、彼がこんなことを言ってました。
 あれ、ぶっちゃけ、安室さんの報連相不足が原因じゃね?あの人がもっとしっかり関係者に通達してたら、あんなこと起こらなかったんじゃ?
 お、弟ぉぉ?!正論かもしれないけれど、なんということを!
 あと、もう一つ。彼はこんなことも言ってました。
 安室さんとかもカッコよかったけど、ぶっちゃけ犯人のあれこれ、橘さんのクソ身勝手ぶりに吹っ飛んだわ。
 せやな。まあ、橘さん、立場的に権力があるというわけでもないし、IOTテロや無人探査機落としみたいな大それた悪事働こうとすることもできず、唯一の嫌がらせじみた抵抗さえも無駄でしたってあざ笑われたようなもんだもんね。
 何もかも無駄って言い渡されたら、あとは泣き崩れるか、それでもプライドにすがって虚勢を張るかの二択になるんでしょうね。橘さんは後者。
 方向性違うかもしれないけど、強く生きようとする女は大好きです。
 橘さん、あの事件の後、小五郎さんに謝って、それなりに生活してくれてたらいいなあ。


【#24】スクールクエスト!事件は解決。私たちは亀裂。

 いつもニコニコ!ラブ&カオス!米花町の這い寄る混沌こと、私です。人間としては、手取ナイアと名乗らせていただいております。

 

 この度、この邪神ニャルラトホテプたる私に、久々に不快と怒りを与えてくださった塵芥の処分は無事、完了しました。

 

 いやな・・・事件でしたね(遠い目)。

 

 おや皆さん。実行犯が何をほざきやがる、ですか?

 

 実行犯とは聞こえの悪い。確かに私は、彼らの処分のために、赤井君用にとっておいた、シナリオを解禁しました。保管しておいた神話生物のランダム召喚呪文と補助アーティファクト付きのなんちゃって魔導書『不思議な幼虫さんの秘密☆』を再流出させて、クソガキどもの目につくところに放置しました。

 

 ですが、私がやったのはそれだけですよ?魔術を行使して、うっかり神話生物を召喚して、被害に遭ったのは自業自得でしょう?ほぉら、私だけのせいだけではないでしょう!お判りいただけましたか?!

 

 いやなら最初っから手を出さなければいいんですよ。あなた方人間はいつもそうだ。危険物に自分で手を突っ込んで大火傷したら、手を出したのは自分のくせに、自己責任は棚に上げて、危険物を放置した方を鬼の首を取ったかのように責め立てます。

 

 まったく。・・・まあ、そういうおバカなところも、愛しいのですがね。

 

 よく言うでしょう?痘痕も笑窪、とね。

 

 それに、そんな愚かな同族の尻拭いに奔走する探索者たちこそ、私が真に愛しいと思うような人間たちです。

 

 フフッ。がんばってくださいね♪

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 さぁて、皆さん!いよいよ事件の佳境ですよ?!盛り上がってまいりました!

 

 真夜中の小学校で神話生物に追い回されるという、地獄の釜の縁でタップダンスを踊る、イカれたメンバーを紹介するぜ!

 

 エントリーNo.1!我らが愛すべき同居人!元高校生探偵工藤新一君、改め小学生探偵江戸川コナン君!

 

 エントリーNo.2!冤罪で警察追われて、それでも俺は戦うぜ!松田陣平刑事改め、松井陣矢君!

 

 エントリーNo.3!女装は趣味じゃないよ!相手に親近感と安心感を与えるための工夫だよ!故郷は月影島の唯一ヒーラー!浅井成実君!

 

 エントリーNo.4!俺はこっそり知ってるぜ?お前が名探偵だってことをな!ミステリアスニューフェイス!竜條寺アイル君!

 

 エントリーNo.5!尊敬しているのは赤井さんです!公安はすっこんでろ!魔術も使える刀剣女子!橘鏡子君!

 

 以上5名がプレイヤーメンバーです。

 

 

 

 

 

 彼らの置かれた状況は以下の通り。

 

 ●小学校1年生3名が被害に遭った怪奇事件の調査として、真夜中の帝丹小学校に潜入。

 

 ●時を同じく侵入していた被害児童の保護者達がうっかり召喚魔術の失敗で呼び出したニーハン・グリー君を目撃。

 

 ●コナン君が一時的狂気で健忘症となり、現在ニーハン・グリー君からの逃亡中。

 

 ●ニーハン・グリー君は長期顕現ができないと推測した上で、橘君の魔術により、そのCONを削り、なおかつDEXも下げたうえで、逃げ切りました。

 

 

 

 

 

 さて、視点を現在に戻しましょう。

 

 どこかの空き教室に逃げ込んだところで、成実君がコナン君に【精神分析】を試みてますね。

 

 念のため、【目星】【聞き耳】が高めの松井君と竜條寺君が入り口を見張り、この後どうする?的な相談に入りましたね。

 

 順当なところでは、ニーハン・グリー君が確実に消えているだろう、朝に出直すというのが一番なのでしょうがね。実際、橘君がそれを提案してきましたが、間もなく、松井君が舌打ちと同時の銃撃で、それを却下しました。

 

 

 

 

 

 おやまあ、追いつかれた・・・というわけではないようです。あれは、どうやら別のニーハン・グリー君です。

 

 その証拠に、橘君が≪手足の萎縮≫で削り取ったはずの触手が無事ですのでね。別個体と考えるべきでしょう。

 

 まさかまた誰かが召喚した?!と騒然となるほかのメンバー(もちろん再度SANチェックが入って今度は成実君が失敗してました。アイデアも失敗したようですが)に、少し考えた〈アイデアロールした〉橘君がノーと答えています。

 

 

 

 

 

 ううん・・・?

 

 ああ、なるほど。小学生3名の場合と今夜の場合では、魔術の使用に参加したメンバーが違いますからね。基礎魔力の量が違えば、使用に消費される魔力の量も違います。結果として、現れるニーハン・グリー君の数も違う・・・どころか、ふむぅ?

 

 そもそも、召喚魔術というのは、術者のいる“こちら側”と被召喚物のいる“あちら側”を空間に穴をあけて一時的につなげるものです。つながった穴を通って、召喚されたものは現れるわけです。

 

 穴は大体、召喚完了と同時に空間が元々持つ復元力によって消失するものですが、召喚魔術の行使中に、術者たちが全員行動不能、あるいは生き残りが正気を飛ばしてしまえば、その辺の制御が失われてしまうわけです。

 

 ・・・確か、あの補助アーティファクトがその辺の補助をしてたはずです。

 

 まあ、端的に言うなれば、今、召喚魔術を行使してたあの教室には、そういう穴が開きっぱなしというわけですね。で、穴が開いている限り、ニーハン・グリー君たちが入り込み放題、というわけです。

 

 穴がいつ閉じるかも不明・・・というより、生き残ってはいますが正気を飛ばしている方の魔力が尽きるまでですので、いつになるかははっきりと明言できない状態ですね。

 

 

 

 

 

 おや、鋭いですね、橘君。

 

 そのあたりの事情を、おおざっぱとはいえ見抜いた彼女は、教室に戻って魔術の行使に使われた魔法陣、あるいはアーティファクトの破壊の必要性を主張しました。

 

 「おいおい!どうやって戻るんだ?!来た道は化け物どもで通せんぼだぞ?!勘弁してくれ!」

 

 情けない声で喚いたのは竜條寺君ですね。ニーハン・グリー君Bを寄せ付けないように、松井君と二人係で銃撃を浴びせかけてますね。

 

 「一度1階に降りよう!回り道して・・・北校舎を迂回すれば!」

 

 ここで声を張り上げたのは、正気を取り戻したコナン君です。

 

 成実君の腕から飛び降り、しゃんと立った彼は、凛とした表情で言いました。

 

 「急がば回れだ!オレが案内する!」

 

 「オーケイ!頼むぜ!コナン!」

 

 迷っている暇はないと判断した松井君は即決で、指示を飛ばします。

 

 「俺が奴の動きを止める!成功したらここを出るぞ!橘!コナンと一緒に先頭だ!魔術云々に一番詳しいのはお前だからな!」

 

 「了解!遅れないでね、ボク!」

 

 「ああ!」

 

 橘君にコナン君がうなずいたと同時に、松井君が動きました、右手で銃を撃ち続けながら、左手でジャケットの懐から取り出した手榴弾のピンを歯で引き抜き、ニーハン・グリー君めがけて投げつけていました。

 

 しかし、いよいよニーハン・グリー君の触手の有効射程に入ってしまい、身震いするような冷気が吹き付け始めました。せっかくの手榴弾も冷気の波に触れ、ニーハン・グリー君に炸裂する前に凍り付きました。

 

 ですが、その凍った手榴弾を、竜條寺君の銃撃が、打ち抜きました。

 

 轟音を伴った爆発と同時に、ビシャッと中身が降りかかりました。

 

 「?! ??!!!」

 

 直後、ニーハン・グリー君の不気味な触手の蠢きが、液体を被ったところを中心に急激に鈍くなりました。当の神話生物も、何が起こったか、複眼をきらめかせながら、動揺しているようです。

 

 とにかくめったやたらと触手を動かしますが、それでも動きが鈍くなっていき、最終的にうかつにも触れてしまった壁に引っ付くように完全に硬化してしまいました。さらに、その上に冷気による氷が分厚くのしかかっていきます。

 

 冷気の能力が、完全に裏目に出ましたね。

 

 ほほぉ?あれは・・・。

 

 「硬化ベークライト入りの炸裂弾だ!空気に触れりゃ、それだけで硬化するぜ!セメントよりも硬くな!お得意の氷で、何とかできるならやってみろよ!毛むくじゃら!」

 

 松井君がいささか得意げに言うのをよそに、教室のもう一つの出入り口から、コナン君と橘君を先頭に、探索者たちが駆け出していきます。

 

 しんがりを松井君が務め、彼は硬化してないいまだに何本か動いている触手に威嚇として何発か撃ち込み、彼も続けて出ていきます。

 

 

 

 

 

 なるほどなるほど。

 

 確かに、神話生物は殺すこと自体が困難な相手というのも珍しくありません。

 

 何しろ、大半が魔力装甲をまとっている上、既存生物とは隔絶する頑強さを持っていますのでね。

 

 そういった相手には、とにかく動きを封じて逃げの一手を取る、というのは有効でしょう。

 

 最終的に生き残れば勝ち、と人間はうそぶくことが多いですからね。

 

 

 

 

 

 「魔法陣の破壊って言ったよね?!具体的には?!」

 

 「床に描かれていた魔法陣を消します!ですが、図形そのものに魔力を帯びてしまってて、おそらく普通の墨やマジック程度では意味がないでしょう!」

 

 廊下を走りながらコナン君の質問に、橘君が答えています。

 

 「じゃあ、どうすれば?!」

 

 「魔法陣に込められている魔力を無効化します!私が何とかするので、援護を!」

 

 ほほう。橘君には何らかの策があるようです。

 

 わずかな月明かりの差し込む廊下を、探索者たちの激しい足音が響き渡ります。

 

 とにかくグズグズするのも惜しいとばかりに、彼らはコナン君の先導の下、校舎内を、階段を下り上り、別の校舎に移る形で大きく迂回し、再びオカルトクラブの元部室の教室まで駆け戻りました。

 

 ですが、彼らの足音を聞きつけたか、一番最初に彼らと遭遇し、触手を削ぎ取られたニーハン・グリー君が再び立ちはだかりました。

 

 「橘!名探偵!先行け!浅井!二人のフォローだ!行け!」

 

 走りながら銃のリロードを済ませておいたらしい竜條寺君が叫びました。

 

 同じくリロード済みの銃で、先制射撃をお見舞いする松井君が「こっちは任せろ!そっちを頼むぞ!」と叫ぶのに、やむなく残り三名はニーハン・グリー君の脇をすり抜ける格好で、教室内に駆け込むことになりました。

 

 一方の教室内部は・・・ふむ。これはひどい。

 

 ニーハン・グリー君の冷気や退化攻撃で、そこら中に凍った死体や、サル、ネズミ、魚らしき生き物が転がりまくり、わずかに生き残った人間が廃人状態で、座り込んでいます。

 

 ああー・・・廃人化しているくせに、魔力のパスはつながっているので、召喚魔術が発動しっぱなしという、一番面倒な状態になってますねえ。

 

 その証拠に、教室の中心に描かれた薄紫に発光中の魔法陣、その中心に置かれた、彫りかけの木彫り人形のように見えるアーティファクトの上の空間が、陽炎のように揺らめています。いまだに空間が不安定な証です。

 

 これは、本当にウカウカしていると、“猟犬”あたりが出てくるかもしれませんよ?早く何とかしないと、本格的にまずいでしょうねえ。

 

 駆け込むなり、橘君はブラウスの下につけていたペンダントを引きちぎるように外し、メダル状のペンダントヘッドを、魔法陣の中に投げ込もうとするように振りかぶります。

 

 ところが、陽炎のように揺らめいていた空間から、白い冷気をまとった、槍のように突き出た触手の束が、橘君の右手に命中しました。

 

 「きゃあああああっ?!」

 

 強烈な冷気と痛打に、橘君はたまらず、悲鳴とともにペンダントヘッドを手放してしまいました。

 

 明らかにおかしな方向に曲がった様子と、スーツの袖に吹いた霜からも、彼女の右腕が当分使用不能となったのは、誰の目にも明らかでしょう。

 

 そんな彼女をあざ笑うように、新たなニーハン・グリー君が、魔法陣の上に姿を現し、その複眼状の眼を向けてきました。

 

 しかし。彼女は一人ではありません。

 

 手放したペンダントヘッドを間一髪でつかみ取ったのコナン君で、「いっけえ!」とそのコントロール抜群のキック(増強シューズによる強化なし)で、魔法陣の中に蹴り込みました。

 

 ほほう・・・この短時間で、橘君の狙いを正確に見抜くとは、さすがですね。

 

 とっさに橘君の姿勢を支えたのは成実君で、ニーハン・グリー君の触手による2撃目の触手から、彼女をかばうように突き飛ばしました。

 

 床に転がった姿勢のまま、橘君は痛みをこらえながら、自由な左手で印を組みながら叫びました。

 

 「疾れ〈Blast〉!≪旧神の印≫〈ELDER SIGN〉!」

 

 その力強い忌々しい詠唱とともに、魔法陣の中に蹴りこまれたペンダントヘッドが金色に輝きました。

 

 メダル状のその表面に彫り込まれていたのは・・・あの紋様!

 

 ああ!あの五芒星と、その中心の瞳!忌々しい、秩序の番人気取りの、旧神どもの印!我らが邪悪な力を払う、守護の力!

 

 なるほど・・・魔法陣に込められた魔力を無効化する手段・・・そういうことでしたか。

 

 「あzsxcdfvgbhんjmk!!」

 

 ペンダントヘッドから放たれた光に触れるや、ニーハン・グリー君がもがくように触手をくねらせ、虚空に消えました。

 

 いえ、元いた次元に強制送還された、というところでしょうか。

 

 そして、魔法陣もまた、紫の光を一瞬明滅させ、その力を失いました。

 

 ・・・やってくれましたね。本当に。

 

 バシッという、何かがはじけるような音を立てて、召喚補助用のアーティファクトも、陣の真ん中から弾き飛ばされてしまいました。ころりと転がったそれを、橘君が痛みをこらえながら拾い上げました。

 

 もちろん、魔法陣の上にあった、陽炎のような空間の揺らめきも綺麗に消失しています。

 

 同時に、廊下のほうから聞こえていた銃声がやみました。

 

 ああ、どうやら、あちらのニーハン・グリー君も、元の次元に送還されたようです。

 

 それを察したのか、今にもそちらに駆け出そうとしていたコナン君が、安心したように足腰の力を緩めました。

 

 直後、神話生物に圧倒されて硬直していた野性とほぼ同等の、動物たちが騒ぎ出しました。

 

 銘々好き放題に喚き吠え鳴き、狭苦しい教室で暴れまわります。

 

 あ。虫の息だった魚(鰓呼吸ですから、当然でしょう)が、サルに捕食されました。

 

 「っ・・・コナン君!そこに転がっている本を持ってきて!逃げますよ!」

 

 負傷した右手を抑えながら言った橘君に、慌てながらもコナン君は、魔法陣のそばに転がっていた本――『不思議な幼虫さんの秘密☆』を拾い上げて、そのまま教室の扉に駆け寄りました。

 

 橘君を支える成実君のところに彼が駆け付けたところで、彼らは教室を出て、その引き戸を素早く締めました。

 

 その直後、引き戸がドシンッと大きく揺れ、のぞき窓にひびが入ります。

 

 おそらく、動物のいずれかが体当たりをしたのでしょうね。

 

 「用が済んだらとっとと退散。泣けるぜ」

 

 廊下にいた竜條寺君がそう言って、肩をすくめて見せます。

 

 纏っていたコートの左袖が白い霜に覆われ、空っぽとなってひらひらさせています。

 

 ヒュッと大きく息をのむコナン君に、竜條寺君は苦笑気味に、右手に持っていたものを軽く持ち上げて見せました。

 

 「驚いたか?義手なんだわ、俺。

 

 触手に捕まっちまって、凍るか動物になるかって状態で、とっさに、な」

 

 それは、二の腕の中ほどから引きちぎれた様子の左手でした。ただし、袖の中にしまわれていたらしい、それは肌色ではなく鈍い鉄色をしており、その断面からは、筋繊維のようにも見えるコードの束と骨の代わりのねじれたような金属の芯が、血液のようなオイルに濡れているのが少々グロテスクでしたが、まぎれもなく作りものでした。

 

 しかし、それを聞くや血相を変えたのは成実君でした。

 

 「竜條寺先輩!左腕に冷気を受けたんですか?!」

 

 「いやしょうがなく・・・」

 

 「生きて五体満足、正気であるだけ儲けもんだろ?」

 

 モゴモゴと言う竜條寺君に、肩をすくめる松井君ですが、元医師は容赦してくれません。

 

 「義肢接合部は金属なんですよ?!凍傷確定じゃないですか!

 

 ああ!松井先輩も、右足が!

 

 コナン君、お湯のある場所、わかる?!」

 

 「家庭科室のほうが近いけど・・・たぶん、ガスの元栓、閉められてるから使えないかな。

 

 ちょっと距離があるけど、職員室近くの給湯室なら。

 

 こっち!」

 

 などと、コナン君が駆け足気味に歩き出しました。他の探索者たちが、負傷した体を引きずるようにそのあとに続きました。

 

 途中、コナン君のことを評価しなおしたらしい橘君がお礼を言って照れさせたりしましたが、これにてセッション終了、というところでしょうか。

 

 無事の生還おめでとうございます。

 

 私もなかなか楽しめましたのでね。バカの処分も完了です。これにてめでたし、ですね。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 朝というのは放射冷却で、どうしても多少の肌寒さを感じてしまうものです。

 

 さて。事件も解決したんです。そろそろコナン君も帰宅させないといけません。

 

 忘れてませんか?コナン君。君が何と取引をしたのか。どれほど嫌がろうと、一方的な破棄が許されると思ってるんですか?

 

 それに、おそらく今日あたり、学校から、先生が臨時の家庭訪問をしに来てもおかしくありません。特に、コナン君は事件の渦中にいましたし。自宅待機できてないとなると、いろいろ問題が生じてしまいますからね。

 

 早速、狩り立てる恐怖バイクで槍田探偵事務所まで迎えに行きました。

 

 ま、そこにいないのはわかっているんですがね。

 

 おそらく、今の彼はMSOに回収され、いろいろ手当てを受けて口裏合わせなどをしているところでしょう。

 

 一応、出かける前に迎えに行きますねー、とアポを入れておきました。

 

 今頃先方は大慌て、でしょうね。

 

 え?絶対不気味がってる?なぜです?こんなにまじめに保護者をやっているというのに!

 

 さて、迎えに行った先――槍田探偵事務所の玄関で、負傷を手当てした様子の探索者たちと、すがるように松井君にしがみつくコナン君が目につきました。

 

 ちなみに、橘君は右手を三角巾で釣って、竜條寺君は義手を外されているようで左袖をヒラヒラさせています。

 

 おや、送ってきてくれたんですか。助かります。

 

 「おはようございます。昨夜はコナン君を預かってくださり助かりました!

 

 さ、帰りますよ、コナン君」

 

 「だ、誰が!」

 

 「困りますねえ」

 

 気丈にこちらを睨みつけてくるコナン君に、私は口の端を歪め、嗤って見せました。

 

 「私とした、“取引”、忘れたわけではないでしょう?

 

 いつ止める、終わらせるといった約束を決めてない以上、継続中のはずです。

 

 君が言い出したことを、勝手に、一方的に、破るんですか?」

 

 途端に、さあっと顔色を白くするコナン君に、吹き出したくなりました。

 

 まったく!私が何なのか、何と取引したか、すっかり忘れてたんですね!かわいらしい、そして馬鹿な子だ!

 

 「となれば、相応のペナルティも必要ですよね?」

 

 「あ・・・あ・・・!」

 

 人差し指を頬に当て、どうしようか思案する私に、コナン君がわなわなと震えだしますが、そこに待ったをかけたものがいました。

 

 「待て。まだコナンはそれを破棄するとは言ってないはずだ」

 

 そういうや、彼は「ちょっと待ってろ」とコナン君を連れて少し離れたところに移動し、ひそひそと内緒話をしています。

 

 ふむ。【聞き耳】!

 

 「残念だが、これに関しては俺はお前を助けられない。悪いな」

 

 「・・・ううん。松井さんは悪くないよ。

 

 軽率に、あんな奴と取引なんかしたオレがいけないんだ。

 

 (ここで落ち着くように深呼吸して)大丈夫。なんとかする」

 

 「・・・できそうか?」

 

 「まず話をしてきた時点で、あいつに力づくって意思はない。なら、付け入るスキはある。

 

 それに・・・」

 

 「それに?」

 

 「あいつは、手掛かりも握ってるんだ。

 

 やられっぱなしでいられるか。人間舐めたら痛い目に遭うってわからせてやる」

 

 そう言ったコナン君の目。ああ。あの目。私の愛しい、人間の目。すばらしい。

 

 「そうか。なら、俺たちは共通の敵を持ってるってことだな。また連絡しろ。

 

 “その時”が来たら、俺も手を貸す。

 

 ・・・まあ、その前にぶっ飛ばせるなら、それに越したことはないんだろうがな」

 

 少し目元を緩め、そういった松井君は懐から取り出したサングラスで目元を覆い、こちらに向き直りました。

 

 ふむ。内緒話終了というところでしょうか。

 

 「おい。コナンの意思もあるからそっちに預けるが、変なことしてみろ。承知しねえからな」

 

 こちらに戻ってくるなり、とげとげしい口調で言った松井君に、「信用ないですねえ」と苦笑して見せます。

 

 フフッ。君たちのような人間こそ、私にとって好ましいタイプです。すばらしい。

 

 「・・・先輩曰くの、マダムババアの知り合いだそうですから、きつい物言いをしてしまったんだと思いますよ。気に障ったなら、すみません。

 

 ですが、私たちはコナン君を気に入っています。いくらあなたが保護者であろうと、先ほどの言動から、コナン君を虐待しようというかのようにも見えましたので。

 

 なので、釘を刺させていただきました」

 

 こちらも警戒するかのように言う成実君に、私は笑ってうなずいて見せました。

 

 別に、この程度の物言い、珍しくないことです。

 

 かえって好感が持てますよ?圧倒的実力差にへこまず、それでもなお諦めず食らいつこうという、雑草根性は人間の持ち味の一つですのでね。

 

 「すみませんね、誤解を招くような物言いをしてしまいまして。

 

 ですが、約束を破るのはだめですよ、コナン君」

 

 「ごめんなさ~い。帰ろう、ナイア姉ちゃん」

 

 てててっとこちらに駆け寄ってきたコナン君は、松井君たち振り返ってから頭を下げてにっこり笑う。

 

 「松井お兄ちゃん、成実お姉ちゃん、橘お姉ちゃん、竜條寺おじさん、またね!」

 

 「おう、またな」

 

 「またね、コナン君」

 

 「・・・ええ、また」

 

 ひらひらと手を振る松井君と成実君、コナン君の猫かぶりにちょっと面食らった様子の橘君と、「おじさん・・・おじさんかよ・・・」と一人ショックを受けている竜條寺君を背に、私たちは帰路につきました。

 

 「ねえ、ナイア姉ちゃん。ちょっと“取引”の条件について、追加でいろいろ話したいんだけど」

 

 「ええ、かまいませんよ。

 

 がんばった子には、ご褒美を上げないといけませんからね」

 狩り立てる恐怖バイクにまたがり、タンデムシートのコナン君の言葉に、私はうなずいた。

 

 

 

 

 

 生き残った探索者には、報酬が与えられるのはお決まりでしょう?

 

 今回、コナン君も頑張りましたのでね、相応の報酬として、“取引”の終了条件の取り決める、というのも悪くありません。

 

 おや?じゃあ、今回のことがなかったら、コナン君を一生“取引”相手として縛り付ける気だったのか?ですか?

 

 まあ、私が飽きるまで、という条件になるでしょうが。おや、悪辣で揚げ足取りだろとは言うじゃないですか?取引を持ち掛けてきたとき、コナン君は一切終了条件を言わなかったじゃないですか。なら、具体的終了条件はこちらで勝手に解釈していいと思うでしょう?ええ。

 

 

 

 

 

 その後、『九頭竜亭』の自宅にて、いくつか話を突き詰め、改めて取引について条件を煮詰めました。

 

 

 

 

 

 ●私(手取ナイア)は、事件において被害者・加害者による醜い人間模様を見せてもらう代わりに、コナン君の隠れ蓑として推理役を演じる。

 

 ●これに伴い、私はコナン君の保護者代理として、身回りの面倒を担う。養育費は工藤夫妻から託されているものを、使用。これらは基本的にコナン君本人が管理し、必要であれば私が表向きの責任者という形で使用。

 

 ●私は、江戸川コナン=工藤新一という情報を、自己判断で拡散してはならない。必要がある場合は、コナン君本人に必ず確認を取って行う。

 

 ●これらは江戸川コナンという存在が不要となった時点をもって終了とする。

 ざっとこんな感じになりました。

 

 

 

 

 

 まあ、コナン君ご本人は元の姿〈工藤新一君〉に戻られたがって、それを一番の目標としているようでしたが、どうも心境の変化でもあったか、最低最悪の場合(いわゆる死亡、あるいは元に戻れない場合)も想定されたようです。取引の終了条件を“工藤新一に戻れたら”ではなく、“江戸川コナンという存在が不要になったら”とするあたり、それが現れています。

 

 どうなさったんでしょうねえ?

 

 おや、皆さん。安心したように一斉にほっとされてどうしたんです?

 

 お前のような邪悪の化身のやばさを、あの子も学んだようだから、それで最悪のケースも想定して言ったんだろ、ですか?

 

 おや、失礼ですねえ。何も彼が元の姿に戻るのを邪魔しようなんて一言も言ってないのに。

 

 え?言ってなくても、黒の組織がお前の気に障ることしてきたら、壊滅なんて生易しい冒涜的所業に乗り出すかもしれないだろ、ですか?

 

 ・・・ああ。ありうるかもしれませんねえ。まあ、それはそれで、面白そうですねえ。まあ、基本私は傍観主義なので、ちょっかい出されない限り何もしませんよ?出されたら、その限りではありませんがね。今回のように。

 

 おや誰です?ジンニキ逃げて超逃げて!こいつに銃向けたらヤベエから!なんて喚いていらっしゃるのは。

 

 ふむ。攻略本によると・・・おや、赤井君も絡んでくる事件で、ジン君が毛利探偵にライフルを向けてますねえ。毛利探偵のポジションが現在私の位置するところなので・・・ほう?

 

 面白くなりそうですね!

 

 

 

 

 

 ところで、コナン君が私相手に猫かぶりして、まともに相手してくれなくなりました。

 

 ついこの間までたたいてくれた軽口一つ向けてくれなくて、冒涜的冗談を口にしても、顔を引きつらせるだけで「ボク子供だからわかんな~い」とそそくさと部屋に引き上げるようになりました。

 

 なぜでしょうねえ?

 

 

 

 

 

おまえは誰だ?!続きの中の続き~♪




【長丁場セッションを視聴し終え、コナン君にトドメ刺しに行ったナイアさん】
 前回から引き続き、真夜中の小学校探索セッションを出歯亀する。
 体勢を立て直し、回り道して発動しっぱなしの召喚魔術を潰しに行こうとする探索者たちを興味深く、そして邪悪に見守る。
 彼女も曲がりなりにも邪神なので、旧神は嫌い。なぜ彼女だけ封印されずに野放しにされているのやら。
 魔術による遠視越しであろうと、やっぱ嫌いなものは嫌い。旧神の印を目の当たりにさせられて、ちょっぴり不機嫌になる。
 まあ、汚物はまとめて消毒できたし、結果オーライかな?
 がんばった探索者たちに拍手。
 夜が明けてから、小学校からの連絡もあるだろうし、とコナン君を引き取りに行く。
 “取引”条件の粗については、実は最初から分かっていた。でも口にしなかったのは、土壇場で口にして、慌てふためくコナン君を面白おかしく眺める気満々だったため。今回、SANが削れて疲弊しているコナン君にトドメ刺すべく口にした。
 慌てるどころか、怯えるコナン君に、自業自得だよねえ!と嬉々とした笑顔を向ける。
 本文中で語っている通り、コナン君がセッションを頑張ったことに加え、腹立たしい連中はあらかた処分が終了したため機嫌がよく、このため“取引”の条件について詳細を詰めることに同意した。
 基本的に面白がり屋の傍観主義なので、自分が退屈で事件に飢えるか危害を加えられない限り、相手に本気で手を出そうとはしない。
 ・・・今回、やらかしたことが事なので、コナン君から距離を取られることになった。が、特に気にしていない。

【セッション頑張ったのに、トドメ刺されかけて松井さんがいなかったら割とやばかったコナン君】
 健忘症の一時発狂から復帰間もなく、校舎内を神話生物と鬼ごっこする羽目になる。
 なお、相手は冷気によるデバフと一種の即死攻撃持ち。
 自分が付いていくと言い張った以上、できることはやり切ってみせる!
 橘さんの負傷による【投擲】失敗も、無事フォロー。何をする気か知らないけど、これをあそこに届かせたいんだな?任せろ!
 ちなみに、魔術を目の当たりにするともれなく目撃者にSANチェックを課す。今回は、偶然全員成功しただけ。
 無事、化け物どもを退け、ほっとしたのもつかの間、元人間の動物たちが暴れだしたので、退却。
 その後、給湯室にて応急手当てをし、MSOの後始末部隊に回収され、手当てとカウンセリングを受ける。
 なお、回収された召喚呪文の載っている本とアーティファクトは、MSOに引き渡された。
 ・・・そういえば、あの竜條寺って人、なんか訳知りっぽかったけど、どういう人だろ?今度松井さんに聞いてみようかな?
 で、朝飯食ってるところで槍田探偵事務所から「手取さんから連絡が!」と電話を受けて、大慌て。
 やっべ!あいつのこと完全に忘れてた!か、帰りたくない・・・!と、とりあえず会うだけ会おう!
 あってみたら、完全に意識外にしてた“取引”終了条件を口にされ、帰らざるを得ない状態になり、完全に腰が引ける。
 一方的に破棄したら、何してくるかわからないから。どっかの武将が“へ●げもの”だったかで言ってるが、「何考えてるかわからん奴が、何してくるかわからなくて一番怖い」。
 ビビッて腰が引けるが、松井さんが待ったをかけてくれる。・・・そうだった、オレは一人じゃない、頼っていい大人たちがいてくれてる。
 その後も、威嚇という援護射撃をしてくれる大人たちに、勇気と元気をもらって帰路へ。
 帰宅後に改めて、“取引”の終了条件を話し合い、落としどころを定める。・・・今回のことで、常に最悪の事態を想定するようになった。考えたくはないが、“工藤新一に戻れなかった場合”も想定して、条件とした。
 やっぱこいつは邪神だ。心を許すなんてもってのほか。
 セッションでもSANを削って、さらにSANが削れ兼ねない邪神宅の居候の、明日はどっちだ?

【今回結構苦戦した探索者の皆さん】
 参戦メンバーは、レギュラー化している松井さんと成実さん、新規参戦として竜條寺アイルさん、橘境子さんの合計4名。
 前回から引き続き、真夜中の小学校で神話生物との鬼ごっこシナリオに挑む。
 一度退却したものの、再び迫ってきたニーハン・グリー(別個体)に、このままではまずいと判断し、発動しっぱなしになっている召喚魔術を破棄するべく、行動。
 コナン君の先導の下、校舎内を遠回りして、再び召喚魔術を行使中の教室へ向かう。
 そこで二手に分かれて、ニーハン・グリーの足止めに松井&竜條寺、召喚魔術の阻止に橘&成実&コナンという編成になる。
 橘さんの使える魔術に、≪旧神の印≫を追加。この魔術は元々ある印の効果を引き出すというもので、橘さんはペンダントとして印自体を持ち運んでいた。
 コナン君の助力もあり、どうにか召喚魔術の破棄に成功。ニーハン・グリーも元の次元に引き戻されました。
 ただし、これまでとは異なり、全員無傷ではすまず、あちこち負傷してセッションを終了する。
 具体的被害は以下の通り。
 橘さん・・・右手を骨折&凍傷。
 竜條寺さん・・・劇中では省いたが実は退化攻撃受ける(失敗しているため無事)。加えて、触手から逃れるべく、左手の義手を強制切断の上凍傷を受ける。
 松井さん・・・右足に冷気を食らい、軽い凍傷を受ける。
 竜條寺さんの義手の理由や、彼の正体と事情などもそのうち語ります。(自分で自分の首を締め上げる)
 その後、コナン君の案内で給湯室に向かい、そこで成実さんによる応急手当てを受けたのち、MSOの後始末部隊により回収される。
 連絡を受けて、慌てるコナン君に、見送りに行く。
 事情を知る松井&成実ペアは、コナン君が邪神によって何らかの脅迫を受けていると判断し、遠回しな応援と威嚇をする。
 事情をよく知らない竜條寺&橘はいぶかしげにしつつも、ナイアさんが只者じゃないだろうなと薄々感じている。
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