邪神様が見ているin米花町   作:亜希羅

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 小学校の話が大分長丁場になってしまったものの、ちょっぴり話し切れてなかった部分があるので、その補完もしておきます。
 まあ、本題は予告通り、竜條寺アイルさんについてなのですが。
 pixiv投稿済みの某シリーズの彼とはだいぶ性格が違いますが、世界線が違いますのでね。

 ちょっぴり疑問視。たま~に、逆行したアイリッシュさんがコナン君や新一君の手助けをしているのを見かけますが、映画では行動の原動力となったピスコに対する情が、あの手の作品では薄いように見えるんですよね。私の読む作品が偏っているせいでしょうかね?組織については尽くしたのにトカゲのしっぽ切りされたから、仕方ないにしても。
 なので、本シリーズではもうちょっとその辺に対し執着を持たせようかと。

 成り代わりとか、転生タグとかいりますかね?
 主人公じゃないから、今のところはつけないでおきますが、必要じゃない?と思ったらご指摘ください。


【#24.5】竜條寺アイルという男

 いつもニコニコ!ラブ&カオス!米花町の這い寄る混沌こと、私です。人間としては、手取ナイアと名乗らせていただいております。

 

 先日のセッションは、きっかけこそ大変不快なものでしたが、結果は上々、なかなか楽しく視聴することができました。

 

 新規参戦なさった探索者の橘鏡子君と、竜條寺アイル君のお二人の助力もあって、今回も無事乗り越えられてよかったですねえ。(いささか残念ではありますが)

 

 ま、今回は全員無傷とまでいかずと、相応に負傷とSANの摩耗を重ねてくださったので、良しとしましょう。

 

 

 

 

 

 さて今回は、後日談〈エピローグ〉を語ろうとしましょうか。

 

 まずは警察や帝丹小学校職員陣を中心としたものですね。

 

 ご存じの通り、発生した事件がHPL案件となり、警察による捜査は打ち切られました。ま、表向きはいまだに捜査しているという体裁は取られるのでしょうが、大部分の未解決事件同様、いずれ忘れ去られるのでしょう。

 

 セッション中に出てしまった新規犠牲者(独断捜査した警察官やクズ親ども)も、今度はMSOが隠蔽・情報操作して見せるでしょうしね。

 

 ま、マスコミがしばらく面白がって突き回るでしょうが、そのうち何も出ないことに飽いて別の事件に目移りしていくでしょうしね。

 

 

 

 

 

 帝丹小学校はといえば、それまでの夜間警備の状況を大きく見直されることになりました。

 

 むしろ今更すぎるだろ?というツッコミ、ありがとうございます。

 

 まず、今まで採用されていた飲んだくれ警備員君が懲戒免職〈クビ〉にされました。

 

 まあ、彼がきちんと仕事されてたら、事件が起きずに済んだかもしれませんしね。

 

 え?職務怠慢の見本のような給料泥棒で、今までやめさせられなかったのが不思議なくらいだ?そこまで私の知ったことではありませんよ。

 

 ともあれ、彼がクビにされるのと入れ替わりで、大手警備会社の警備を導入することになったそうです。

 

 具体的には動体センサー・監視カメラを設置、警報一つで警備員さんが集合!というようになったそうで。

 

 TVに出ていた訳知り顔の知識人が今更だろwwwとしたり顔で言ってたのが、思い出されますねえ。

 

 

 

 

 

 で、その後小学校の授業も無事再開されました。

 

 全校集会で、被害者一堂に黙祷!となったりしたようです。コナン君に至っては、好奇心に任せて突きまわされるか、あるいは腫れもの扱いで遠巻きにされるといったことになったようです。

 

 可哀そうに(ニチャァッ)。

 

 そうそう、一人生き残った歩美ちゃん、でしたか?彼女はご親戚が身元引受人になったようです。さらにまだ治療が必要、ということで入院中です。

 

 一度コナン君がお見舞いに行ってました(保護者の私同伴で)が、いやあ悲惨なもんでしたね。

 

 彼女、コナン君の顔を見るや、怯えて暴れまくるんですから。慌てて駆けつけた看護師さんに押さえつけられる始末で。

 

 「助けてくれなかった!!嘘つき!!」

 

 なんて叫ばれてましたよ。

 

 コナン君がそれを聞いてさらに落ち込んでいたのが印象的でしたねえ。いやあ、私からしても完全な逆恨みだってまるわかりなんですから。で、それを深刻に受け止めてしまっているのだから、もう爆笑案件ですよ。

 

 あっはっは!君たち、どこまで私を笑かす気なんですか~?人間なんて身勝手の塊みたいなものですが、本当、笑えるなんてレベルの話じゃないですよ~?

 

 ま、もう二度とこちらと関わり合いになることはないでしょう。何しろ、彼女、転校されるそうですから。

 

 ついでに言うなら、八つ当たりされたコナン君に、周囲の看護師さんがまるで見当はずれな慰めを口にされてましたね。

 

 「気にしちゃだめよ?君だけでも助かってよかったわ」

 

 「ちゃんとしたお姉さんと一緒に住んで、被害もなくてよかったって思うべきよ」

 

 云々と・・・。

 

 で、一連のそれらを引きつった顔で聞いたコナン君は、ほんの一瞬すごい目で私を睨んできました。もっとも、すぐにあどけない小学校1年生に戻しましたがね。

 

 

 

 

 

 さて。

 

 探索者たちの方へ視点を向けてみましょうか。

 

 皆さん、それぞれ推しやお気に入りという人物がいるでしょうが、今回は特にとある人物にスポットライトを当ててみましょうか。

 

 私もセッション中、ずっと?マークが止まりませんでしたからねえ。

 

 そう、今回新規参戦なさった竜條寺アイル君です。セッション中、彼が時々、意味深な言動を取られていたこと、忘れるわけがないじゃないですか!

 

 ゲルマン系というのは容姿から察しがつくんですが、他がわからないんですよ。

 

 何しろ、所属先がMSO――松井君のような訳ありだろうと戦力にカウントできるなら身元偽装して、手元に置くような連中の一員ですからねえ。

 

 え?竜條寺君の容姿の描写?してませんでしたっけ?

 

 ゲルマン系らしく、ガタイのいい体躯に、左目を隠すように伸ばした暗めの金髪と、彫りの深い顔立ちです。

 

 服に隠れてわからなかったのですが、実は左手が義手だったというのが前回セッションのラストで判明しました。

 

 ふうむ・・・四肢欠損の人間なんて、攻略本に乗ってましたかねえ?あるいは私が色々ちょっかいを出したせいで、またピタゴラスイッチ、あるいはバタフライエフェクトが作動したんでしょうかね?

 

 いい機会ですし、ちょっと伝手を使って調べ上げ・・・る必要はないかもしれませんね。少なくとも、私が直接色々することはないでしょう。

 

 何しろ、コナン君も気にかけているようで、松井君に仲介役を頼んで面会するように手配してましたのでね。

 

 これは出歯亀するしかないですよね!

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 喫茶『エーブリ・エタース』という、どこか冒涜的なにおいのする名前の看板を掲げた店は、名前を除けば、ごく普通の喫茶店だった。

 

 杯戸町にあって少々遠いが、十分コナンの移動距離圏内だ。何しろ、コナンにはターボジェットスケボーという、心強いアイテムがあるのだから。

 

 スケボーを片手に抱え、ベルを鳴らしながら入店したコナンは、きょろきょろと視線をさまよわせる。

 

 『人を伝言掲示板代わりに使うな!(。-`ω-)』という松井からの返信メッセージによると、この店が待ち合わせ先で間違いないはずだ。

 

 「おいおい、本当に来やがった。勘弁してくれ・・・」

 

 ぶつぶつ言いながら、いじっていたスマートフォンをポケットにしまい、竜條寺は視線を上げてコナンを手招きする。

 

 修理したのだろうか?義手のはずの左手はきちんとくっついている。

 

 コナンの視線に気が付いたか、竜條寺は「ん?」と小さく笑い、左手を振ってみせる。

 

 「これは予備だ。普段よりは鈍いんだが、ないよりまし、ってとこだな」

 

 言われてみれば、確かに動きがぎこちないな、とコナンは思った。

 

 ともあれ、コナンはちょこんと、竜條寺の前にかける。

 

 「なんか飲むか?コーヒー代くらいなら出してやるぜ?」

 

 「えっと・・・それじゃあ、オレ」

 

 「オレンジジュースなんてガキっぽいものよりかはコーヒーのほうがいいんじゃないか?遠慮はいらないぜ?どうせここには俺くらいなもんだ。

 

 ここのマスターは口が堅い・・・というより、客のプライバシーに興味を持たないようにしているんでね」

 

 コナンの言動を先読みした竜條寺が笑っていった。

 

 ゆったりしたBGMの流れる店内、そのカウンターの奥では口ひげを蓄えた店主が雑誌をぱらぱらとめくり、我関せずの姿勢を強く物語っている。

 

 人によっては気に障りそうな職務態度ではあるが、壁に耳ありということわざとは真逆に、置物です耳などありませんというのを態度で示してくれるのは、一部の人間にとっては至極ありがたいものだ。

 

 例えば、今からコナンが目の前の人物と話そうとしている話題についてとか。

 

 ともあれ、コナンは猫を被る必要はなさそうだと判断し、コーヒーを注文してから、竜條寺に向き直った。

 

 コナンが来る前にすでに頼んでいたらしいコーヒーをすする男に、コナンは改めてどう話したものかと逡巡する。

 

 コナンが目の前の男を怪しいと思った理由は一つだ。

 

 「“元に戻る”って言ったよな?あの夜。あれ、どういう意味だ?」

 

 「あー・・・言ったか?そんなこと」

 

 「言った。オレ、あの時ちょっと動転してたけど、確かに聞いた」

 

 「動転どころのレベルじゃねえだろ」

 

 ツッコミを返し、竜條寺は視線をさまよわせながらモゴモゴと「まずった」「勘弁してくれ」などとうめいている。

 

 先日から連呼している「勘弁してくれ」というのは、彼の口癖なのだろうか。

 

 ややあって、彼は右手で頭をかきむしると、「変に突きまわされるよか、そっちのがいいか」と呟き、覚悟を決めたように口を開いた。

 

 「そんじゃあ、改めて自己紹介といこうか?」

 足を組みなおしながら背を伸ばして、ソファ席の背もたれにふんぞり返るような姿勢を取り、ふてぶてしい笑みを浮かべる竜條寺は、次の瞬間コナンを絶句させた。

 

 「初めまして、工藤新一君。俺は今は竜條寺アイルなんぞ名乗っちゃいるが、一昔前はアイリッシュって名乗ってた。もちろん、本名じゃねえ、コードネームだ。

 

 当時の同僚には酒の名前を持ってるやつが大勢いてな。

 

 ジンの周囲なんぞ嗅ぎまわるから、そんな目に遭うんだ。ちっとは懲りたかと思ったら、俺なんぞのところに単騎で突撃してきやがって。アホか」

 

 とっさにコナンは声が出なかった。

 

 ちょっとした不審行動の原因を探りに来た程度のつもりが、まさかこんな爆弾を落とされるとは思わなかったのだ。

 

 「な、なんのこ」

 

 「“オレの名前は工藤新一、高校生探偵だ。ある日、幼馴染の蘭と一緒に遊園地に行ったら、そこで黒ずくめの男たちの怪しげな取引を目撃。取引を見るのに夢中になっていたオレは、背後から迫るもう一人の黒ずくめに気付かず、怪しい薬を飲まされ、気が付いたら――体が縮んでいた!工藤新一が生きているのは、周りの人間にも危害が及ぶ、博士のアドバイスを受けた俺は、とっさに、江戸川コナンと名乗った”

 

 どうだ?大体あってるか?俺の夢の話なんだが」

 

 「ゆ、夢?!」

 

 ほとんど事実を言い当てられ、顔面蒼白のパニック状態のコナンは、バクバクという心臓の高鳴りを幻聴しながら、ふてぶてしい態度を崩さない竜條寺――否、アイリッシュを見やる。

 

 どうしよう。最悪、博士のところに駆け込んで、両親に連絡を取って、それから――。

 

 最悪の場合の行動指針を脳内に描きながら、コナンは落ち着けと自身に言い聞かせる。

 

 数なくとも、相手に話をする気はあるはずだ。コナンに危害を加えることも、ないはず。もし、それがあるなら先日の小学校の事件の際に、アクションを起こせていたのだ。それがないのだから、完全に信用、とまではいかずと様子見くらいには値するはず。

 

 「ああ、そうさ。夢だ」

 

 肩をすくめ、ふんぞり返った姿勢を戻し、彼は語りだした。

 

 

 

 

 

 竜條寺が言うには、彼は幼いころから、その奇妙な夢を見ていたという。

 

 その夢は、コナンが主人公で、幼児化をきっかけに幼馴染の毛利蘭の父・小五郎が営む探偵事務所に転がり込み、小五郎を隠れ蓑として様々な事件を解決させ、幼児化させた黒の組織を追っていく、というストーリー仕立ての内容だったという。

 

 そして、竜條寺自身は、その夢においては敵の組織の幹部として登場、一度はコナンを追い詰めるが、組織に裏切られて口封じ同然に射殺される。

 

 それを自身の未来と判断した竜條寺は、どうにか死亡を偽装し――左手はその代償同然に失われ、這う這うの体で組織を脱走。身元の保証される、今の仕事先に身を寄せたのだという。

 

 

 

 

 

 「恐喝人殺しもやる悪の組織の幹部と、化け物と殺し合いもする怪事件専門捜査官と、どっちがマシかね?

 

 ま、今のほうが個人的には充実してるがね」

 

 肩をすくめてコーヒーをすする竜條寺は、悪の組織の幹部というより、少し陰のあるワイルド系な男性という感じだろうか。

 

 正直、コナンはこの男の頭を大丈夫かと最初こそ思ったが、すぐに首を振って自分で否定した。

 

 証拠もない、信じられないことではあるが、真剣に信じていることを真っ向から否定するのはいかがなものか。

 

 

 

 

 

 それを言うなら、コナンの同居人が最低最悪の邪神であるのを真顔で主張しなければ、つり合いが取れないだろう。それとて、何も知らない人間からしてみれば、悪い冗談、あるいは気の狂った発言にしか聞こえないのだから。

 

 加えて、証拠がないといったが、完全に否定しきれることでもないのだ。

 

 何しろ。

 

 初対面であるはずの竜條寺が、コナンの正体と境遇を、知っていた。まるで見ていたかのように、滑らかに歌うように、諳んじて見せた。

 

 周囲の人間が、普段コナンが疑わないのは、常識というものが邪魔をしているからだ。

 

 “大人の体が、ある日突然小学生に縮むなんて、ありえない”と。

 

 多少、コナンの言動で怪しい、不思議だといぶかしむことはあっても、その最後の砦が邪魔をする。最近はコナン自身もそれを逆手にとって、子供の皮はかぶりつつ、さりげなく助言や矛盾点の指摘を送ったりしている。

 

 いくら、竜條寺がああいう怪奇事件の捜査を専門にする人間であったとしても、初対面のコナンを幼児化した工藤新一と短期に見抜くのは異常すぎるのだ。

 

 

 

 

 

 「予知夢と俺は解釈している。何から何までわかるとはいかないが、結構当てにできる。出先がテロに遭うかどうかとかな。謎は解けたか?名探偵」

 

 「・・・一応な」

 

 出来れば自分の手で解き明かしたかった、という不完全燃焼気味な思いを抱えながらうなずいたコナンに、竜條寺は満足げにうなずいた。

 

 「で、今度はこっちから聞かせろ」

 

 「何だよ?」

 

 正体がばれているなら子供ぶる必要もあるまいと、口調を本来の粗野なものに戻したコナンが尋ねると、竜條寺は眉を寄せながら問い返してきた。

 

 「この間のナイアとかって女、あれなんだ?あいつ」

 

 「夢で見たんじゃねえのかよ?」

 

 「言ったろ、何から何までわかるわけじゃねえってな。

 

 さっきも言ったが、夢の中じゃお前は毛利探偵事務所に預けられていることになっているし、帝丹小学校であんな事件自体起こらねえんだよ。

 

 どうなってんだか。いや、それを言うなら、そもそも3年前の観覧車や月影島の件だってなあ・・・」

 

 コナンには意味の分からないことをぶつぶつという竜條寺。というよりこの男、どうもあの売れない探偵を知っているらしい。

 

 

 

 

 

 槍田のところに出入りするようになってから、コナンも毛利探偵のことを多少見直したものだ。

 

 事務所のビルの1階を貸店舗にしているので、そこからの収入は多少あるだろうが、それを抜きにしても男手一つで探偵事務所を立ち行かせ、娘を育て上げるのは、なかなかの重労働ではなかろうか。(少なくとも、高校生の新一であれば同じことはできない)

 

 一口に探偵事務所といっても、槍田や自分のように刑事事件をメインに売る探偵より、浮気調査やペットや人探しという地道な足を使った調査のほうが圧倒的に多い。そういった地道な調査で日銭を稼ぐのは、やはり元刑事ならではといったところがあるのだろう。

 

 同じ探偵といっても、フィールドが違うのだろう、とコナンは解釈している。

 

 ・・・そう、たとえ推理がへっぽこで、幼少の自分でもわかった違和感や矛盾を、子供の言うことなんて!と一顧だにせずに的外れな推理で別人を犯人に仕立て上げようとする、うかつに逮捕権持たせてはならない人間であろうとも。

 

 ともあれ、それも事件が絡まなければ、身内にやさしく思いやりから叱ることのできる、尊敬できる大人だろう。ダメなところ(閑古鳥が鳴いているからと昼間から酒とたばこを摂取しまくるのはいかがなものか)もあるにはあるが。

 

 

 

 

 

 ともあれ、そんな小さな探偵事務所の私立探偵の名を知っている時点で、竜條寺がコナンの周囲の人間をよく知っているらしいのは、コナンも理解できた。

 

 とりあえず、コナンは自分にわかる範囲で答える。

 

 「確かに、幼児化直後でおっちゃんのところに行った方がいいんじゃないかって話もあったけど、だめになった」

 

 「はあ?!なんで!」

 

 「おっちゃん、借金しているらしいんだ。それで、たぶん返済のためにいろいろしてて、過労で倒れて、入院しちまって。

 

 そんな人のところに、行けるわけねえだろ?」

 

 「おいおい、どうしてそうなった?バタフライエフェクトか?勘弁してくれ!」

 

 額を抑えて天を仰ぐ竜條寺に、コナンは最悪な追い打ちをかけることにした。

 

 ・・・正直、この情報は下手をすればいつだったかの槍田探偵事務所の二の舞になるのだが、この男には話しておいた方がいいだろう。

 

 竜條寺の“夢”は、うまくすればコナンの目的を果たすために有用に作用できそうだからだ。

 

 「それ、ひょっとしたら今のオレの保護者――あんたも気にしてた、ナイアが絡んでるかも。

 

 邪神なんだよ、あいつ。聞いたことないか?ニャルラトホテプって」

 

 聞かされた竜條寺の反応は劇的だった。

 

 ざあっと血の気を引かせるや、砂糖のポットを手に取り、明らかに許容量を超えた砂糖をコーヒーの中にドバドバと落とし込み、混ぜるのもおざなりにそのままグイっと一気に呷った。

 

 「くそまじぃ・・夢じゃねえのかよ、くそっ!

 

 ああ、あんなのが実在するなら、奴もいるよなあ!

 

 しかも思ったより身近にいやがった!そうなると、毛利探偵事務所や小学校の事件は奴の仕業、いや絡んでるとみるべきか?!畜生!くたばれバタフライエフェクト!」

 

 ガツンと、たたきつけるようにカップをソーサーに戻し、うつむいた竜條寺は毒づく。

 

 「とにかく!今日、俺がお前に遭いに来たのはほかでもない!警告しに来た!

 

 いいか!俺はようやく、あの忌々しい連中と手を切ったんだ!

 

 お前の正義ごっこに付き合うつもりは毛頭ねえ!やりたきゃお前ひとりでやれ!」

 

 「はあ?!ちょっと待てよ!」

 

 一方的に言い放たれ、コナンは目を白黒させる。

 

 ついで沸いたのは怒りだった。

 

 「正義ごっこってなんだよ?!オレの事情はともかく、あんたが連中の仲間だったってんなら、あいつらのやり口とか知ってるんだろ?!いいのかよ!警察とかに協力するべきだろ!」

 

 コナンとて、連中の情報は喉から手が出るほど欲しいが、竜條寺にまっとうな正義感や良識があるならば、まずは出るところに出るべきだ。警察だって無能ではない、話すべきことを話せば、保護だってしてくれるだろうに。

 

 「ふん。警察なんぞ、信用できるか。組織の手は多く、長い。壁に耳あり、障子に目あり。駆け込んだ翌日冷たい死体になってましたなんざ、俺はごめんだな」

 

 「スパイがいるのか?!警察に!」

 

 「そのくらい自分で考えやがれ。名探偵。

 

 とにかく、俺はごめんだ。こんだけ代償払ってやっとのことで逃げ出したんだ。潰すとなったら、今度は足も持ってかれそうだ」

 

 ひらりと左手を振って、竜條寺は続いてそのぎこちない手で左目を覆う長い前髪を払う。そこにあるべき眼球はなく、空っぽの眼窩の周囲を痛々しい火傷痕が彩っていた。

 

 ぐっと言葉に詰まるコナンをよそに、竜條寺はふんと鼻で笑う。

 

 「それに・・・子供は親には逆らえねえんだよ」

 

 「親?」

 

 「ガキの頃に、実の親同然に育ててくれた人が、あの組織の幹部でな。

 

 恩義もあって、ずるずると、な。あの組織には割とそういう奴、多いと思うぜ?」

 

 「子供だっていうなら、なおさら!」

 

 「お前、お前の両親を、自分の都合だけで組織に売ろうと思うか?お前が言ってるのは、俺にとってはそういうことだ」

 

 コナンは言葉を詰まらせた。

 

 “自分がされて嫌なことは、他人にしてはいけない”。

 

 いつだったか、松井に言われた言葉が、脳裏をよぎる。

 

 たとえ、犯罪者の悪人であろうと、竜條寺にとって、その人物は大事な、親なのだ。

 

 「間違ってる?臆病者?上等だ。

 

 俺は、どうしたらいいかわからない。だから逃げる。

 

 奴らは、しかるべき人間が、しかるべき時につぶすだろうさ。俺には、無理だ」

 

 静かに首を振った竜條寺は、次の瞬間悪役そのものなふてぶてしい笑みを口元に張り付け、言った。

 

 「わかったか?種は明かしてやった。

 

 この間のような、神話生物や魔術が絡んでる事件なら手は貸すが、組織との戦いは御免被る。やりたきゃやりたい奴でやれ。

 

 後、お前の保護者のことはこれっきりにしろ。俺まで目をつけられてたまるか。勘弁してくれ」

 

 「ま、待てよ!せめて、その、ヒントだけでも!」

 

 一方的に言い放ち、伝票をもって立ち上がる竜條寺に、コナンは慌ててすがるように叫んだ。

 

 せっかくの情報源、それもうまくすれば味方になりうる人間だというのに!

 

 しょうがねえなと言うように一つ鼻を鳴らすと、竜條寺はぎこちない左手で、テーブルをコンコンッとたたいてみせる。

 

 「敵の敵ってな。探してみろよ。時間はかかるだろうがな」

 

 「何だそれ?!ヒントになってねえよ!」

 

 「残念だが、時間切れだ。俺はこの後、デートなんでな」

 

 「で?!」

 

 ぎょっとするコナンをよそに、今度こそ竜條寺はテーブルを離れる。

 

 慌ててコーヒーを飲み干し、スケボーを抱えてそのあとに続くコナンは、目をむいた。

 

 喫茶店のすぐ外に、よく言えば清楚、悪く言えば地味な女性がいる。おかっぱにした黒髪とそばかすに眼鏡をかけた小柄な女性だ。

 

 「よう、敦子。待たせたか?」

 

 「ううん。今来たところ」

 

 にっこり笑う女性に、コナンは竜條寺の言葉が嘘やいいわけではなく、事実だと悟る。

 

 ・・・さすがに、ここで邪魔できるほど、コナンは空気が読めないわけでも、図太くもなかった。

 

 「じゃあね!竜條寺おじちゃん!またね!」

 

 「誰がおじちゃんだ!俺はまだ20代だ!・・・ああ」

 

 言って、スケボーに乗ったコナンに、竜條寺は吐き捨てるが、決して“またね”と別れの言葉自体は否定しなかった。

 

 悪い人間ではないのだろう。意味は分からないが、別れ際にくれたヒントも、その証左だ。

 

 彼の考えを変えさせるきっかけを、コナンは作らなければならない。

 

 スケボーを米花町に向けて走らせながら、コナンは考えた。

 

 

 

 

 

 その頃。米花町の片隅で、「これはこれは・・・」とにんまりと笑う、古書店の女店主がいたのだが・・・彼女の話は後日に回す。

 

 

 

 

 

 

続きが!続きが出たじゃぁないですか!




【後日談を語って、ミステリアスガイな竜條寺さんに興味津々なナイアさん】
 前回セッション終了から、上機嫌。一応、彼女の目的であるクソガキとクズ親の処分は完了しているので、怒りも沈静化しておとなしくなってはいる。それも今のところという枕詞が付くのだが。
 一応、表向き小学校の事件はまだ沈静化はされてない、未解決事件の扱い。ただ、警察の捜査は実質打ち切られており、そのうち沈静化するし騒いでいるマスコミも他の事件に目移りしていくだろうと思われる。
 小学校の警備員さんはクビになり、新規に警備会社の警備システムが導入されました。これによって、夜間侵入が完全に不可能となり、いくつかの事件フラグがつぶれました。この関係で小学校の倉庫から死体が発見され、騒然となったりもしました。コナン君はこの事件のダメージが大きいのと竜條寺さんの方にかかりっきりで、この死体に関してはノータッチだったりします。(そして主人公が関わらないので迷宮入り確定だったりします)
 実は、セッション中に見せていた竜條寺さんの様々な言動に彼女も?マークをつけていた。
 ゆえに、今回コナン君が竜條寺さんと接触しそうというのを察知して、出歯亀した。
 彼女の反応は次回に。
 多分、ろくなことにならない。

【予知夢と称する原作知識持ち、実際は成り代わり転生者な竜條寺こと、元アイリッシュさん】
 登場してから、事情の説明が入るまで間が空いてしまってすみません。
 気が付いたらアイリッシュに成り代わっていた、オタク系転生者。具体的設定は彼が語らないので、各自のご想像にお任せします。
 コナンの知識はゴリゴリにあるので、自分がアイリッシュに成り代わっていると察した時点で、ジンに射殺されるなんて御免じゃあ!と脱走算段してた。
 ただ、やっぱり育ての親であるピスコには拾われてしまって、最初こそ警戒しまくるが、最終的にほだされて組織に入ってしまった。
 でもやっぱりまともな日本人的な感覚も捨てきれないので、脱走してやる絶対してやると目論んで、左手と左目を代償についに組織を脱退。この時のどさくさで神話事件とかかわり、MSOに所属することになった。
 脱走先では別の国に逃げて身分誤魔化そうくらいに思っていたので、渡りに船だくらいに思って、現在の所属については深くは気にしてない。(脱走したアイリッシュは左手をなくしている=隻腕なので、一見すると五体満足な竜條寺は関係あると思われないだろうと高をくくっている)
 転生者であるので当然CoCのTRPGは知っており、何でこんな要素があるんだ?!と混乱しつつも、転生者特有の適応力の高さで順応。ただし、思っていたより身近に面白がり屋のクソ邪神がいたことについては遺憾の意を表明。
 うっかりセッション中に口走ったことについては、あんな修羅場でそんなこと気にしている余裕がなかったと言っています。
 結果的にコナン君に目を付けられ、下手に言い訳や誤魔化ししたらそこからすべてを引っぺがされると確信していたので、原作知識を予知夢と言い換え、自分の昔の所属やら何やらをすべてばらす。
 ただし、本文中で本人も言っている通り、ピスコにほだされているのもあるので、組織との戦いに首を突っ込むつもりは毛頭ない。間違っているのは分かっているが、親同然の人に銃口向けるなんて、できない。
 もっとも、根っこの部分が相当なお人よしであるため、コナン君に非協力を表明しつつも、これからの関りを拒否はしていない。(つまり、これから先は分からない)
 どうでもいいが、今回や以前のセッション中にも散々口走っていたが、「勘弁してくれ」というのが口癖。
 組織離脱の際に巻き込まれた神話事件で知り合った敦子という女性とお付き合いもしている。割とリア充。
 外人特有の老け顔の割に、実年齢は若い。

【予知夢なんてスピリチュアルなもん出てきたけど、それを言うならバケモンや魔術もあるしなあ、と納得せざるを得ないコナン君】
 事件解決後、再び『九頭竜亭』に居候。なお、ナイアさんに関しては完全に猫を被って対応するようになった。もう絶対友達は連れてこない。
 再開された学校でも、ねぎらってくれる友達もいれば、腫物や見世物扱いされたりと、散々だった。
 その一方で、少年探偵団の面子に関して、同情の声があまりないのを不思議に思って聞いてみたら、日ごろの行いからちょっと…という声も聞こえ、挙句の果てに「いつかなんか巻き込まれて痛い目見ると思った」という辛口コメントを聞かされ、虚無顔になりかけた。下手をしたら、自分もその一員に数えられるようになっていたのかもしれない。
 ・・・言動はどうあれ、江戸川コナンと仲良くしてくれようとして、助けられなかった子たちを、彼がどう思っているかは、彼の胸中に置いておく。
 以前のセッションにて、一時発狂していた割に、竜條寺さんの発言をきっちり覚えていた。彼の記憶力は、相当なもの(瞬間記憶術を生まれながらに習得しているのではないだろうか。でなければ、事件中の容疑者のちょっとした行動を、思い返すなんて無理)。
 松井さんにつなぎを取ってもらって、とある喫茶店で竜條寺さんと再会し、お話。
 どういうことだ?と怪訝に思ってたら、予知夢なんてスピリチュアルなもんが飛び出して、信じられない半面、そう多くの人間には広まってないだろう情報を知られているので、信じざるを得ない。
 ただ、竜條寺さんの予知夢と現実にはいろいろ落差があるらしいので、すべてを信じるわけにはいかないらしいというのは悟る。
 組織のこと知ってて、脱走したなら協力してくれたっていいじゃないか!と思うが、親同然の人は敵に回せないと聞いて複雑な気分に。
 身内だからこそ止めないといけないだろ?!とコナン君自身は思っているが、それはあくまでコナン君の視点からした出来事でしかないわけで。コナン君も自分でそれがわかっているので、あまり強く言えない。
 多分、幼児化した直後であれば、いろいろ文句をつけていただろうが、松井さんたちとの接触や邪神式他山の石型教育を受けた影響で、いろいろ考えるようになったためと思われる。
 竜條寺さんが彼女持ちだったことにびっくり。あんた彼女いたのかよ?!
 なお、竜條寺さんを完全に味方に引き入れることをあきらめたわけではないので、どうにか方法を模索するつもり。




 Q.竜條寺さんの名前と設定をどこかで聞いたんですが?
 A.ちょっとくらいリサイクルいいじゃないですか!まあ、某シリーズとは、世界線が違いますのでね。
 竜條寺さんの設定から、敦子という女性の正体を悟った方は、こちらでもお付き合いくださりありがとうございます。
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