邪神様が見ているin米花町   作:亜希羅

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 当シリーズの主人公たるナイアさんも、一級フラグ建築士になればいいと思うんです。
 ただし、フラグはフラグでも、恋愛フラグじゃなくて死亡フラグです。
 今回の被害者は、原作主人公のライバルにして親友、映画に出たら成功間違いなしの服部平次君です。可哀そうに。
 まあ、そう簡単にくたばらせはしないので、ご安心を。
 そして、槍田探偵事務所の面子も、一緒に死亡フラグを抱えることになりました。コナン君と一蓮托生だぞ!やったね!



【#27】西の高校生探偵の登場!その裏側で☆

 いつもニコニコ!ラブ&カオス!米花町の這い寄る混沌こと、私です。人間としては、手取ナイアと名乗らせていただいております。

 

 さて、皆様!西の高校生探偵こと、服部平次君が満を持して登場ですよ?!

 

 いやあ、なかなか個性的な人ですねえ。咬ませ犬風味のツッコミ属性持ちとは、これ如何に。

 

 ホームグラウンドとされているのは大阪のはずなのに、なぜ東都くんだりまで来られたかといえば、うわさの高校生探偵、“平成のシャーロック・ホームズ”こと、工藤新一君とどちらが推理力が上か、対決したいということで。

 

 ・・・フフッ。彼とも仲良くなれそうですねえ。

 

 だって、彼、推理対決に来たのでしょう?もし、新一君が居合わせたうえで、ここで何か――例えば、殺人事件が起こってみなさい。

 

 「どっちが先に犯人を見つけるか勝負や!」などと言い出しかねませんよ?

 

 人が死んでいるというのに、それを材料に、推理ゲーム!

 

 フフッ。常識に則って言うならば、実に不謹慎ですよね?

 

 よかったですね、コナン君!お友達ができましたよ!

 

 え?お前が言うと、ちっともよく聞こえない?

 

 なぜです、こんなに祝福してあげてるというのに!(ニチャァッ)

 

 

 

 

 

 それでは、少々短いですが、冒頭邪神トークはこの辺りにしておきましょうか。

 

 ええ、現在、私は服部君と蘭君に二人がかりで尋問されているところです。

 

 何しろ、学校に休学届を出し、行方をくらませたはずの新一君が、なぜか私に自宅にいらっしゃったわけですからねえ!

 

 きちんと説明しなければ、納得していただけませんよねえ?!出るところ出られちゃいますよねえ!(ニヤニヤニヤ)

 

 え?おい馬鹿やめろ?

 

 そんな嫌がられたら、ますます燃えるじゃないですかヤダー!

 

 不幸中の幸い、私がコナン君と交わした約束は、コナン君の正体――つまり、工藤新一君と同一人物であることはばらさないということです。

 

 つまり、それさえ守れば、何をしゃべろうが結果オーライ!ですよ!

 

 ヒャッハー!唸れ、私の口腔器官と言語中枢!

 

 結果いかんでは、今後がさらに楽しく面白くなるんですから!

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 「私の家に来ていたということは、江戸川コナン君・・・いま預かっている男の子とも会いませんでしたか?」

 

 「あのちっこいボウズか?」

 

 「はい。蘭君はお気づきかもしれませんが、あの子、新一君に似てますよね?ご親戚らしいんです。あの子のご両親がお仕事の都合で海外へ行くことになって、治安の関係もあって日本に残るとなったそうで、最初、新一君のところに行く予定だったらしいんです。

 

 ところが・・・新一君、やたら慌てた様子で私のところにやってきたかと思ったら、『コナンを頼む』なんて言い出したんです。

 

 詳しいことを話している時間はない、オレのそばに置いておいたら危ない、このことはくれぐれも内密に、なんて言われてしまいまして」

 

 「危ない、やと?」

 

 鋭い目つきで、訊き返してきた服部君に、内心ニヤニヤしながら、表情は不安ながらも、思い出すように視線をさまよわせつつ、私は話を続けます。

 

 「ええ。オレは命を狙われるだろうから身を隠す、ともおっしゃられていました。

 

 今日は、たまたま近くによられたらしいんです。体調を崩されているようなので、少し休んでいかれてはいかがかと、家にお連れしてたんですが・・・。

 

 蘭君、何かご存じではないですか?幼馴染の君なら、新一君が自身の身が危ないと判断することを知っている可能性が一番あると思いまして」

 

 「え?・・・あっ」

 

 私の言葉に、蘭君は少し視線を伏せますが、すぐさまハッとした様子で顔を上げます。

 

 「トロピカルランドに行った日!新一、ジェットコースターで乗り合わせた黒ずくめの男の人たちを怖い顔で睨んでた・・・。

 

 帰りも、あの人たちの一人を見かけたと思ったら、そのあとをついてくように走り出してったし・・・」

 

 「黒ずくめ・・・」

 

 考え込むような服部君に、私は大きく頷いて見せました。

 

 「なるほど。新一君、ひょっとしたら、その黒ずくめの連中が何らかの犯罪を犯すのを目撃して、口封じに遭いそうになったところを、逃げ出したのかもしれませんね。

 

 このまま普通にしてたら、確実に殺される、とね」

 

 「ええ?!か、ナイアさん!新一は?!そんな大変なことになってたなんて、大丈夫なんですか?!」

 

 「可能性は十分あるな。ある日いきなり姿を隠すなんて、普通やないで」

 

 顎に手を当てて考え込むように言った服部君に、蘭君はアワアワしながら、ややあってハッとしたように言いました。

 

 「で、でもおかしいじゃないですか!新一ですよ?!

 

 目暮警部だって、新一のことは知ってるはずです!

 

 危ない目に遭いそうなら、事情を話して警察に匿ってもらえば!」

 

 「そんで、数日保護されて、何もなかったから帰れ言われて、ノコノコ帰ったところを殺されてでもしてみ?工藤はそれを予想したんとちゃうか?

 

 ストーカーとかの手口に多いで、そういうの」

 

 静かに言ってから、服部君は私を睨みつけてから続けました。

 

 「むしろ、あんたもそこまで推測できとったなら、何で警察に連絡せえへんかったんや。

 

 連絡するだけでも、だいぶ違とったと思うで?」

 

 「最初に言ったじゃないです。新一君からコナン君を任せられ、あの子を預かることになったと。

 

 つまり、私は現在、コナン君の保護者なんです。あの子が必要以上に危険にさらされるような真似は、避けるべきです。

 

 特に、警察と強力なコネクションがある新一君が、血相変えて逃げ出す犯罪者たちと、何のバックアップもなく対決なんて、御免です。

 

 私は、コナン君の帰る場所を守る、保護者なんですから。あの子の安全を優先する義務があります」

 

 とまあ、もっともらしく言ってみました♪

 

 おや皆さん。噴飯ものだといわんばかりの冷たい視線をこちらに向けてきて、いかがなさいました?

 

 「ナイアさん・・・!」

 

 感動した!と言わんばかりに目を潤ませる蘭君。

 

 フフッ。素直ないい子ですね。感心感心♪

 

 「なるほどな・・・しかし、黒ずくめの、犯罪者どもかいな・・・あの工藤が逃げ出すほどの・・・」

 

 顎に手を当てて、考え込む服部君ですが、ややあってその口元が不敵な笑みをかたどります。

 

 「ほんなら、オレがその犯罪者どもをとっ捕まえたら、工藤の上やな!」

 

 「お言葉ですが、危険なのでは?」

 

 「何言うとんねん!オレは西の高校生探偵、服部平次やぞ?

 

 こんな事件の匂いがする特大のネタ、放っておけるかい!

 

 そうと決まったら、さっそく捜査開始や!」

 

 ガバッと身をひるがえす、服部君。

 

 「あの!このことはくれぐれも・・・!」

 

 「内緒なんやろ!わかっとるわかっとる!」

 

 心配を装った私の言葉に、服部君はうなずいて、店から駆け出ていかれました。

 

 なぜでしょう?彼の内緒という言葉こそ、紙切れより薄っぺらい言葉に聞こえてしょうがないのは?

 

 ともあれ。

 

 フフッ。これで仕込みは完了。

 

 あとは。

 

 「ところで、蘭君。ちょっといいですか?」

 

 「はい?ナイアさん。何ですか?」

 

 ポンと蘭君の肩に手を置いて、彼女が振り向いたと同時に、その額に指を添え、私はぼそりっと、呪文を唱えます。

 

 呪文≪記憶を曇らせる≫は、対象とした人物の該当記憶を思い出させなくするものです。

 

 この通り、いろいろ悪用ができるのですよ。

 

 グルんっと、蘭君は白目をむいて、足元をふらつかせますが、すぐさま首を振って、ハッとしたような顔になります。

 

 「う・・・あれ?ナイアさん?」

 

 「はい。大丈夫ですか?蘭君」

 

 「はい・・・あれ?私、何でここに来たんでしたっけ?」

 

 「しっかりしてくださいよ。コナン君が風邪を引いたからと、お見舞いに来てくれたんじゃないですか。肝心のコナン君が寝てて残念と落ち込んでたでしょう」

 

 「あ・・・そう、でしたね・・・」

 

 少しぼんやりした様子で、視線をさまよわせる蘭君。

 

 多少違和感は感じるでしょうが、思い出せない以上、私が口にした“事実”を受け入れるでしょうがね。

 

 そう。彼女の思い出させなくした記憶というのは、服部君が毛利探偵事務所に来てから、先ほどまでの会話の内容です。

 

 ふふっ。

 

 彼女が、今見聞きしたことをしゃべくりまくってくれたら、とても愉快なことになるでしょうが、物事には手順やステップというものが必要なんです。

 

 今はまだ、時期尚早に思えますので、なかったことにさせていただきましょう。

 

 

 

 

 

 フフッ。私と出会う少し前の、あの新一君と大差ない感じの服部君が、工藤新一への対抗心だけのために、たった一人で黒の組織を穿り回せばどうなるか。

 

 うふふふふふふ・・・。

 

 寝屋川に浮かぶ死体になるでしょうか?道頓堀に横たわる死体になるでしょうか?

 

 皆さんはどうなると思います?

 

 え?結局末路は死体一択じゃねーか、ですか?おや、あの組織の手口は、そんなもんでしょう?

 

 ちょっとばかり邪悪と冒涜が足りないようにも思えますが、万が一生き延びれば、その時にはあとから加算できますのでね。

 

 くどいようですが、人間は生かさず殺さず、遊ぶのが一番です。

 

 よほどのことがない限り、基本的に私はこの方針で行ってますのでね。

 

 

 

 

 

 首をひねりながら帰途に就いた蘭君を見送り、ショゴスさんにお客様の分の茶器を片付けてもらい、私は攻略本を眺めます。

 

 ふむふむ。

 

 服部平次君は大阪府警本部長のご子息で?しかも、コナン君の協力者の一人になる予定だったとか?大阪や京都を舞台にする事件は、彼が同行してくることが多い、あるいは依頼の持ち込みをしてくると?

 

 ・・・てへっ。やっちゃった♪(舌ペロ&セルフオデコこつん)

 

 まあ、いいでしょう。

 

 面白い方へ行ってくれるなら、そちらの方が大歓迎です♪

 

 

 

 

 

 おや、そういえば、逃亡した新一君はどうなったのでしょう?

 

 一時解毒ということですから、たぶんまたコナン君に戻っているのでしょうが・・・。

 

 うーん・・・下手に探しにいくわけにも・・・おや、電話。

 

 はい、古書店『九頭竜亭』でございます。

 

 おや松井君。どうなさいました?おや、コナン君を見つけた?熱でへとへとで道端に座り込んでた?

 

 ああ、すみません。変な人が勝手に家に上がり込んでて、その人に追い回されたんです。

 

 私がどうにかその人を捕まえて、事情を訊いた後に説得して、追い回すのをやめさせたんですが・・・え?何したって、お話だけですよ?

 

 そんな、化け物をけしかけたとか、あなたは何を言ってるんですか?!

 

 はあ・・・まあ、冗談ということにしておきますよ。

 

 え?コナン君は、熱が下がって動けるようになるまで預かるって・・・ですが、そちらもお仕事があるのでは?

 

 ああ・・・ご親戚でしたね。融通が利くとは、よい職場ですね!

 

 わかりました。そうまでおっしゃるなら、お預けします。必要なものがあるなら、ご用意いたしますが?

 

 はい・・・はい・・・わかりました。では、着替えとお薬をご用意いたしますので、お願いします。

 

 さて、通話終了です。聞いてましたね?ショゴスさん。

 

 松井君が取りに来られるそうなので、コナン君の着替えとお薬を大至急、ご用意お願いしますよ。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 詰んだな。

 

 大至急来い、とSNSで呼び出された竜條寺が槍田探偵事務所の扉をくぐった瞬間、彼は目の当たりにした光景と一緒に、そんなことを思いながら卒倒しかけた。

 

 が、無常なるかな、腐っても彼は犯罪組織の元幹部にして、現怪奇事件専門捜査官であり、すぐ「勘弁してくれ」と口走るものの、精神力と根性はあった。

 

 ゆえに、卒倒して意識を虚無に逃がすということは、自分で許さずにどうにかそれをこらえた。

 

 何しろ、槍田探偵事務所の瀟洒なソファの上には、だぶだぶの服を着たコナン(眼鏡なし)が仮眠用の毛布をかけられて、ぐったりと横たわっているのだ。

 

 そして、それを困惑した様子で眺める、槍田、寺原、成実。

 

 「さっきまでデカイ、高校生くらいの奴でな。

 

 道端でうずくまってたから、どうしたんだと声を掛けたら、俺のツラ見るなり、朦朧とした様子で松井さんって呼び掛けてきたんだよ」

 

 コナンの向かいのソファでタバコをふかしていた、松井がゆらりと立ち上がり、竜條寺を睨みつけながら口を開く。

 

 奔放な白髪、ずらしたサングラスと、くわえ煙草に、革のジャケットという格好に加え、剣呑な雰囲気をまとっているせいで、完全にチンピラにしか見えない。

 

 「それで、汗だくで呼吸も乱れてて、どう見たって熱もある感じでした。だからとりあえず病院に連れて行って休ませようとしたんです。

 

 そしたら、その・・・」

 

 松井から言葉を継いだ成実が言葉を濁す。

 

 その先をはっきりと言葉に直したのは、松井だった。

 

 「煙みたいなのを上げながら、縮んだんだ。さっきまで、高校生ほどの奴が、小学生低学年ほどにな。

 

 コイツ、どう見たってコナンだよな?」

 

 はい詰んだ!ロン!王手詰み!チェックメイト!

 

 内心大混乱状態ながら、竜條寺は表情には出さなかった。ただ、硬直はしていた。

 

 だが、一番の問題は。

 

 「道端で・・・ほ、他に縮んだところを目撃した奴はいるか?!」

 

 「いねえよ。人通りの少ない、裏通りだったからな。馴染みの情報屋で情報収集してた矢先の出来事だったんだよ。

 

 監視カメラもなかったから、安心しろ」

 

 唸るように言って、松井は剣呑な眼差しを竜條寺に向けながら言った。

 

 「どういうことだ。これは。

 

 わかるよう、説明しろ。お前、コナンの知り合いで、コイツのこと知ってるな?

 

 前のゴタゴタの時、“戻る”だ何だと変なこと口走ってたからな。

 

 そのあと、コナンに連絡とらされるのも予想していたようだったしな?」

 

 そうだった!松井〈こいつ〉もあの場にいたんだった!しかも連絡の仲介にしたのが完全に裏目に出やがった!

 

 どうあがいても絶望、というとあるゲームのキャッチコピーが脳内をよぎる竜條寺。

 

 どうにかポーカーフェイスを保ってはいるが、こめかみに冷や汗が浮かんでいるのを、松井が見逃すわけがない。

 

 「だんまりか?」

 

 「勘弁してくれ・・・見なかったことにしろ。

 

 その方が、お互いのためだ」

 

 一縷の望みにかけて懇願した竜條寺に、松井はふんと鼻を鳴らし、煙草をつまんで、灰皿に灰を落としてから咥えなおす。

 

 「それじゃ、こっちから言ってやろうか?」

 

 くるりと踵を返し、松井はソファにどっかり腰を下ろし、話し出す。

 

 「以前、俺たちはコナンからある頼まれごとをされた。

 

 何だったか覚えているか?」

 

 「確か、“黒ずくめの人たちを見かけたら、どこで何をしていたか教えてほしい。ただし、決して深追いはしないこと。特に、長い銀髪の大男と、サングラスをした小太りの男には絶対に近寄らないでほしい”でしたよね?」

 

 成実の言葉に、松井はうなずいて続ける。

 

 「ああ。その話を聞いて、俺と槍田――早い話、警察にいた経験がある人間は、ある噂を思い出した」

 

 「噂?」

 

 「都市伝説のような噂よ。

 

 “大規模なテロや事故、死因不明の死体の発見、その前後に、黒ずくめの格好をした連中がうろついていることがある”って。

 

 でも、都市伝説に落ち着いている」

 

 聞き返した寺原に、槍田が静かに言う。

 

 「ここからは、鑑識課の先輩から聞いた、非公式の話よ。噂の域を出ない話ね。

 

 その都市伝説の真実を探ろうとした人間は、片っ端から姿を消す。

 

 だから、黒ずくめの連中にはかかわるな、ということよ。

 

 黒一色の服装も、葬式でもないなら遠慮されるという話よ。

 

 くどいようだけど、あくまで噂の域を出ない話だけどね」

 

 「以上を統合して、推測した結果、俺はこう結論を出している」

 

 「おいやめろ」

 

 たまらず制止する竜條寺の声を無視し、松井は続ける。

 

 「黒ずくめの連中は実在している、犯罪組織の一員である」

 

 「だからやめろ」

 

 「コナンは、その連中の犯罪を目撃し、口封じに遭いそうになった。いや、すでに口封じに遭ったのか」

 

 「やめろっつってんだろ」

 

 「犯罪組織なら、未知の毒薬の研究とかもしてそうだな?それを飲まされて、副作用で、体が縮んで、こうなった。

 

 何か間違ってるか?」

 

 「っ~~~~~!!」

 

 正解だ。ほとんど正解だ。

 

 これだから、頭のいい〈アイデアの高い〉奴は!

 

 たまらず、竜條寺は直ったばかりの左の義手で、事務所の壁を叩く。

 

 「わかってんのか!それに気が付いたら、殺されても文句が言えねえんだぞ!そもそも、コナンの正体に感づいた時点で、抹殺だ!ああ、畜生!」

 

 「あれ?竜條寺さん、何でそのあたりの事情、知ってるんです?コナン君が話したとは思えませんけど」

 

 ふと気が付いたように、成実が口をはさむ。

 

 「さあな。だが、コイツの身のこなしや、訓練を受ける以前から銃火器の扱いを心得ていたことから、堅気の人間じゃないことは見当がついていた。

 

 ついでに言うなら、左手左目を欠損して、あれだけ動けるんだ。

 

 裏社会の知識も相当ある。

 

 併せて考えるなら、元々はその犯罪組織に在籍してて、何らかの事情で手を切ったってところか。

 

 こいつがMSO〈うち〉に所属した時期と、コナンが出てきた時期にはズレがあるが・・・以前からある程度知っていた、という感じか?」

 

 すらすらと述べる松井に、竜條寺は天井を仰いだ。

 

 ああ、さすがは元は警察学校の成績上位者だ。素行に問題があろうが、その頭の良さ、機転の良さはずば抜けている。

 

 竜條寺の素性まで見抜かれていたとは、想定外もいいところだ。

 

 「・・・大体あってはいる」

 

 「何だ、認めるのか」

 

 「否定しても、もうどうしようもないレベルで確信してんだろうが」

 

 開き直った竜條寺は、ずかずかとテーブルに歩み寄る。

 

 「おい、ここで聞いた話は内密にしろ。関わり続ける勇気がねえなら、聞かなかったことにしろ。

 

 コナンの正体を知ったら、それだけでその人間は危うくなる。下手をすれば、家族や恋人にも危害が加えられる可能性も出る」

 

 「そんなにやばいの?竜條寺君が昔いた、その、犯罪組織」

 

 「ああ。あそこの連中は、ある程度の実力者――いわゆる幹部は、酒の名前のコードネームを授けられるんだよ。その中の約一名がな、とてつもなくヤバイ」

 

 戸惑ったような寺原の問いかけにこたえて、竜條寺は懐から煙草のパックを取り出し、一本咥えてライターで火をつける。

 

 松井ほどのヘビースモーカーではないが、彼も考え事や長丁場の話し合いなどの場合、ニコチンが欲しくなってしまうのだ。

 

 「“疑わしきは罰せよ”ってのをモットーにな。

 

 例えば、一人裏切り者がビルに逃げ込んだとする。ごく普通のまっとうな会社のビルだ。人がぎっしりで、裏切り者はそいつらに紛れ込んで見分けがつかなくなった。

 

 その場合、そいつが取る手段はこうだ」

 

 火をつけた煙草から、深く煙を吸って、軽く咳き込んでから、竜條寺は続けた。

 

 「ビルに爆薬仕掛けて、ガス爆発か何かに見せかけて、建物ごと消し飛ばすんだよ。

 

 あいつにとっちゃ、人命なんざ、最もお手軽なコストだ。

 

 “あのお方”と呼ばれる組織のボスのためなら、万人単位の虐殺も薄ら笑いしながらやってのけるんじゃねえか?」

 

 「何だそのサイコパス・・・」

 

 顔をひきつらせた松井に、竜條寺は苦虫を噛み潰したような顔で続ける。

 

 「だから、言っただろう。“見なかったことにしろ。その方が、お互いのためだ”ってな。

 

 コナンの正体がばれたら、あいつの口から、周囲に情報が拡散していると判断され、その根絶のために根こそぎ口封じされる可能性があるんだよ。

 

 ま、それを言うなら、俺も同じだけどな。

 

 今でこそ、俺も“竜條寺アイル”という人生を生きられているが、元幹部アイリッシュだったって経歴がばれたら、ヤベエだろうな」

 

 「コナン君・・・だから、言えなかったんだ・・・」

 

 ぽつりと、成実はつぶやいて、ソファに横たわるコナンを見やる。

 

 「知ったら、危険なんだって。巻き込むことになるって。命を狙われて、死ぬまでつけ狙われることになるかもしれないって、言ってた。

 

 そういうことだったんだ・・・」

 

 ややあって、彼はかぶりを振った。

 

 「・・・とにかく。

 

 今後のことは、彼が気が付いたら改めて考えよう。

 

 ひとまずのところは、」

 

 気分を切り替えたらしい。

 

 すっと顔を上げた彼は、すでに医者の顔になっていた。

 

 「松井先輩は、すぐに手取さんところに連絡してください。

 

 一応、彼女、今のところ擬態してますし、まじめに保護者もやってるようですから、連絡くらい入れておきましょう。

 

 どのくらい知ってるかわかりませんが、単純に拾ったぐらいでいいでしょう」

 

 「そういえば、縮んだとか犯罪組織とかのインパクトで吹っ飛んでたけど、この明らかに不調な様子で、街中うろついてるなんて、おかしいわよね?

 

 どういうことかしら」

 

 「知るかよ。一応訊いてみるがな」

 

 寺原の言葉に、スマホを取り出しながら松井が毒づく。

 

 「竜條寺さんは、スポーツ飲料を買ってきてもらえませんか?

 

 汗もかいてるみたいだし、水分と電解質を一緒に摂取するにはうってつけなんですよ、あれ。

 

 後は、消化によさそうなものも」

 

 そういいながら、成実も立ち上がり、コナンを抱き上げる。

 

 「ここでは体を冷やしそうです。仮眠室にベッドがありましたね?お借りします」

 

 「ええ・・・ここで看病する気?」

 

 「いけないでしょうか?」

 

 「いいえ。保護者のところに戻さないのね?」

 

 「一度診察した時も、だいぶしんどそうにしてたのに、その状態で街中に逃げるなんて、よほどのことがあったかと思います。

 

 それが解決しているか定かでない以上、戻すのもいかがなものかと。

 

 それに・・・」

 

 「それに?」

 

 「もし、松井先輩の言うとおり、未知の毒薬の影響を受けているなら、一度ちゃんと診ておいた方がいいと思いまして。

 

 今後のことも考えたら、私が専門医につくべきかと。

 

 一応、私の権限で、MSO傘下の病院の機材がある程度使えますし」

 

 なるほど、と槍田はうなずく。

 

 医師免許も持つ上、あちら側に対する耐性も持つ成実であれば、多少常識外の事態にも対応できるだろう。

 

 それに、コナンが本当に毒薬を飲まされているのであれば、幼児化以外にも何らかの副作用が出ていてもおかしくない。その確認・対応のためにも、しっかりした検査を受けさせるというのは正しいだろう。

 

 「・・・個人的に気になることですが、コナン君、今まで病院とかどうしてたんでしょう?

 

 病気をしてなかったなら、それでいいですけど、もし、毒薬の副作用でおかしな・・・例えば、万人に一人くらいの難病に罹患してたら、大変なんてものじゃすみませんでしたよ?

 

 病状が回復したら、すぐに検査させないと」

 

 ブツブツ言いながら、成実はコナンを連れて奥の仮眠室へ向かう。

 

 同時に、通話を終えたらしい、松井が舌打ち交じりに踵を返す。

 

 「コナンの荷物――着替えとか薬とか取りに行ってくる。いつまでもあのダブダブ服はねえだろ。汗かいてたしな。

 

 スポーツ飲料とかも、ついでに買ってくる」

 

 「わかったわ。気を付けて」

 

 と槍田がうなずいた。

 

 そのままサングラスをかけなおした松井がガチャリっと扉を上げると、ノックの姿勢のまま凍り付いている品のいい婦人がいた。

 

 「・・・失礼ですが、こちらは槍田探偵事務所であっておりますか?」

 

 いきなり出てきたのが、チンピラのような松井だったので、面食らったらしい。少し警戒するような口調で尋ねてきた婦人に、来客に気が付いた寺原が松井を押しのけて、営業スマイルを浮かべながら挨拶する。

 

 「はい!ようこそ槍田探偵事務所へ!

 

 うちの非正規職員が驚かせてしまったみたいで、すみません」

 

 「非正規職員?」

 

 「アルバイトのようなものですよ。当探偵事務所は、女性が経営しているということで、荒事には不向きではと不安がられる方もいるんです。

 

 そういう方には、彼のような人を同行させることで安心していただいてるんです」

 

 にこやかに笑いながら、寺原は婦人をソファに案内し、続いてお茶を入れるべく、給湯室へ向かう。

 

 「失礼します。先日お電話した、辻村公江ですわ。

 

 夫は外交官を務める、辻村勲です」

 

 「初めまして。所長の槍田郁美です。

 

 確認させていただきますが、ご子息のお付き合い相手について調査してほしいということでしたが?」

 

 「はい」

 

 うなずいて、語りだした夫人の話に、槍田は静かに耳を傾ける。

 

 その一方で、松井は静かに事務所を後にした。

 

 

 

 

 

 その後、依頼人の家に行くことになった槍田に、逃げ損ねた竜條寺が補佐として同行することになったが、そこで死体を発見し、彼が「そういやそんな事件あったじゃねえか!」とひそかに頭を抱えることになったのは全くの余談である。

 

 なお、その事件は、刑事の一人が証拠として仕掛けられていたフェイクに引っかかりそうになったものの、槍田が持ち前の冷静さと推理力で、無事に解き明かして見せたのは余談である。

 

 

 

 

 

囲んで続きでたたく!

何たる極悪非道か!

 




【慈愛溢れる保護者面をして、内心では地獄への道を笑顔で舗装してあげるナイアさん】
 前回から引き続き、狂人女子高生と、KY関西高校生探偵とお話。
 内緒だよ!などと言いながら秘密を暴露するという、コナンあるあるな行動をとるが、その結果引き起こされるだろう、服部平次君の暴走を期待。
 なお、自分はコナン君の保護者だから、彼の安全が最優先!などともっともらしいことを言ってのけている。
 口先では、危険じゃない?内緒だよ!などと言っているが、もちろん口先だけ。
 目論見通り、平次君が暴走しだしたと確信するや、蘭ちゃんの記憶を魔術でいじくって、きれいに隠ぺいした。
 大体こいつのせい。平次君に極高の死亡フラグを立てやがりました。
 そのせいで、大阪や京都など、関西圏での事件への参加フラグも諸共へし折れたことに、攻略本を読んで気が付くが後の祭り。
 面白ければそれでいいので、特段気にしてはいない。
 松井さんからの電話に対応し、コナン君の着替えや薬を準備するよう、手配。
 松井さんたちに、コナン君の正体がばれたことにまで気が付いているかは定かではない。

【オレ、これが終わったら和葉に告白するんや!と言いそうな平次君】
 前回から引き続き、古書店の美人店主とお話。
 行方不明のはずの工藤を匿いおって!キリキリ吐かんかい!
 探偵であるだけあって、好奇心は強い。さらには内緒だよ!危ないよ!などと言われると、好奇心と冒険心がうずく。
 作者の偏見だが、10巻初登場時の咬ませ犬ぶりを見ていると、新一君に一度負けて、そこから交流を重ねることで頼り甲斐といい奴感を身につけていったようにも見える。
 本シリーズの彼は、新一君に負けることになる事件そのものにかかわらないので、咬ませ犬ぶりが抜けきらず、結果、邪神様の口車にまんまと乗せられる。乗り上げに行く。
 まだ見ぬ(正確には見ることは見た。見ただけ)ライバルに対抗心を燃やして、手を出したら滅茶苦茶やべぇ連中に手を出す決意をされる。
 紙切れよりも薄っぺらい内緒にするよ!宣言をして、『九頭竜亭』を飛び出す。
 もう何も怖くない、って言いそう。
 好物にパインサラダが追加されそう。

【秘密が爆裂したけど、とりあえず看病と依頼をこなす槍田探偵事務所一行】
 本シリーズではレギュラー化している、松井さん、成実さん、槍田さん、寺原さん、竜條寺さん。
 呼び出された竜條寺さんは、事務所の中でだぶだぶ服を着てぐったりしているコナン君を発見するなり、事態を把握して詰んだと嘆く。
 外回りをしていた松井さんと成実さんが、裏通りに座り込んでいた新一君を発見。声をかけた直後、再幼児化してコナン君になったところを目撃。
 放置するわけにもいかねえよなあ?!と、事務所に連れ帰る。
 松井さんが口にしている、「黒ずくめの連中を見かけたら教えてほしい」というコナンの頼み事というのは、♯17.5でのこと。
 元警察組の松井さん&槍田さんのお二人の間では、黒ずくめに関する都市伝説と、コナン君の様子からある程度推測がなされており、それが今回のことで、確信を得たという感じ。
 万が一の場合の被害を広げたくない竜條寺さんの無駄な抵抗をものともせず、確信をついてしまった。
 もう、この事務所の面子も後戻りできない。
 今後のことは、とりあえずコナン君が気が付いてから考えよう。
 成実さんと松井さんはコナン君の看病、残りの面子が事務所に持ち込まれた依頼に向かう。
 なお、依頼人の名前から察しがつくと思うが、最後の事件は原作コミックス10巻『外交官殺人事件』のこと。
 特段問題もなく、今回は槍田さんがほぼ独力で事件を解決した。
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