邪神様が見ているin米花町   作:亜希羅

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 青島君こと、服部君の参戦理由とそのシチュエーションについてです。
 少年探偵団をオミットさせちゃったから、もう少し扱いやすい人員がいたらいいなあ、知史君、体弱いからすぐリタイヤしちゃうし、となった挙句の抜擢もあるのですがね。
 ・・・あれ?平次君の利点って、頭脳以外なら剣道とバイクアクションだけど・・・幼児化したら、それ全部だめになっちゃうんじゃあ・・・?
 しかも、参入に合わせて用意した保護者を考えたら、いろいろ難しくならないか・・・?
 しょうがないか!ハードモードだし!その分頼れる大人が増員されてるし!
 ・・・それに伴って、風見さんの胃壁が蕩けそうな件について。
 胃壁が蕩けそうなのは、多分竜條寺さんも負けず劣らずじゃないかと。
 最後にちらっと某人物。番外編に登場してましたけど、何で日本にいるんでしょうねえ?


【#42】VS怪盗キッドを終えて。青島裕二君、小芝居を終えて。

 いつもニコニコ!ラブ&カオス!米花町の這い寄る混沌こと、私です。人間としては、手取ナイアと名乗らせていただいております。

 

 先日、怪盗キッドの予告絡みの事件が終わりました。

 

 うーん、私としてはいまいち物足りなかったのですがね。疑りあいはありましたけど、醜い人間模様や血みどろ・死臭がない当たり、いまいち消化不良というかなんというか・・・。

 

 コナン君は肌をつやつやさせて、満足げになさってましたけど、探偵には100点でも、邪神には30点ですよ?!怪盗キッド君!

 

 まあ、いいでしょう。次に彼が出てきたら、ぜひシナリオに参戦してもらいましょう、そうしましょう。

 

 

 

 

 

 さてさて皆様。口直しのデザートはいかがです?

 

 え?何のことって・・・いやですねえ、青島裕二君のことに決まってるじゃないですか!

 

 監督:竜條寺アイル、脚本:江戸川コナン、アドバイザー:湯川理央、出演:竜條寺アイル、浅井成実、協力:風見裕也という豪華キャストでお送りした小芝居の後日談ですよ。

 

 いやー、なかなか面白い劇場でしたね。長編漫才劇を見ている感じです。あれですよ、●本新喜劇的な。

 

 え?ちっとも笑えねんだよ、バーロォ?大体お前、前のコナン君の時と違い、今回は出歯亀するってどういう了見だ?

 

 そうですねえ・・・まあ、気まぐれというのが大きいのですが、実はですねえ・・・風見君の方で面白いことが起こってまして。竜條寺君が知ったら激怒ものの案件が起こっているんですよ♪

 

 竜條寺君、いろいろご自分や協力する手前、コナン君とその周囲に対して有利になるようにあれこれ動き回られているようなのですがね・・・まあ、端的に言うなれば、土台が腐ってたらどうしようもないってところですかね。

 

 いやー、彼も大変ですねえ!

 

 え?何他人事調子に言ってんだ?そりゃ、そうですよ。だって、他人じゃないですか♪

 

 加えて、私の本業かつ本質をお忘れですか?私は邪神、なんですよ?

 

 人間の七転八倒悪戦苦闘を眺めるのは、私の喜びであり、趣味のようなものです。

 

 それなりに根性や友愛だ何だを見せてくれたら考えないでもないですが、面白みにならなさそうな手助けなんて、御免被りますよ♪

 

 

 

 

 

 それでは、そろそろ本題に行きましょうか。

 

 青島君。君が降り立ったステージは、名誉だ正義だそんなキラキラしたまばゆいものなんて皆無ですよ?危険と殺意、悪意と憎悪に彩られた、泥まみれの釜底へ、ようこそ♪

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 ハッと裕二は気が付いた。

 

 そこは、裕二は今のところ保護者としている公安警察官の、マンションの一室――裕二の現在の住まいだった。

 

 まるでリビングで転寝していたかのように、ソファから起き上がる。

 

 夢だったのだろうかと、背もたれについた腕に視線を走らせ、裕二はゾッとした。その腕に走る、赤い跡。ビニールテープで縛り上げられた痕跡だ。

 

 夢でも何でもない、現実だ。じゃあ、あれはいったい何だったのだろうか。

 

 「気が付いたか」

 

 そんな裕二に、感情を感じさせない冷たい声がかけられる。

 

 そちらに視線を向けると、裕二の現在の保護者――風見裕也と、その背後でもぐもぐ口を動かしている男が一人。ガムでも噛んでいるのだろうか。かすかなミント臭がする。

 

 外人らしいダークブロンドに彫りの深い顔立ちで、黒いコートを纏うその大男は、視線を動かして、裕二を見やる。風見に負けず劣らず、冷たい視線だ。

 

 もちろん、裕二はその外人男には見覚えがあった。

 

 「あんたは!」

 

 「ちっとは応えたかと思ったが、そんだけ元気があれば大丈夫か。

 

 風見、あとは任せたぜ」

 

 「・・・ああ。大事な話がある。向こうで待っててくれ」

 

 「りょーかい」

 

 裕二を無視して、男二人はそんなことを言い合うと、大男は右手をヒラッと振って、そのまま部屋を出ていく。

 

 「待たんかい!」

 

 叫んで裕二はソファから飛び降りて、男を追いかけようとした。

 

 だが、それよりも早く、風見がその目の前に立ちはだかり、肩を強く押さえつける。

 

 「何やねん、おっさん!邪魔せんといてや!」

 

 「まだわからないのか!お前がさっき体験したのは、このままお前が好き放題した場合の未来予想図だ!」

 

 振りほどこうとするが、子供の体では大人の膂力にかなわず、恨めしげに睨み上げるしかできない裕二に、風見が怒鳴りつける。

 

 「りゅ・・・さっきの男は、自分の知り合いだ。

 

 彼の知り合いの養い子から、お前の学校での様子を聞かせてもらったぞ。

 

 クラスメートを工藤新一呼ばわりするか!

 

 工藤新一君が、お前も被害に遭った例の組織の被害者で、潜伏していると知ってての行動か?!」

 

 「だったら何や!あいつも小さくなっとるんやぞ?!あいつとオレ、二人合わさったら」

 

 「愚か者!高校生探偵として名前が知られていようと、子供二人に世界が変えられると、本気で思っているのか!!」

 

 裕二の声を、風見は怒鳴りつけて遮る。

 

 この子供は、先日のあの騒動・・・工藤新一の偽物騒動を知らないのか。

 

 と考えかけて、風見は舌打ちした。

 

 

 

 

 

 そうだ、確か、あの騒動の直後に、大阪府警からの連絡があったのだ。

 

 ただでさえも、工藤新一に化けた青年、日原誠人は心身を壊し、組織の末端か少し上くらいの男が発狂して、双方ともに入院し、それらをマスコミから隠すべく適当な理由のでっち上げと後処理に苦心していたのだ。

 

 下手な理由で公表すれば、せっかく誤魔化した組織に勘づかれ、余計な被害が増えかねない。さらに、万が一に備えて、警備の手配や身元の誤魔化しなどもしなければならず。

 

 そんなクソ忙しいときにやってきた、面倒極まる子供。

 

 しかも、偶然事故のようなもので組織の情報を目の当たりにしたとかではなく、自分から首を突っ込みに行ったという。

 

 はい、馬鹿確定。

 

 忙しいときに、さらに仕事を増やして忙しくさせたバカガキなど、相手にするのもおざなりにするだろう。中身が高校生という、大人の一歩手前というならばなおのこと。

 

 加えて、情報漏洩防止のため、と称して子供には最近まで外部との連絡手段を取り上げていた。外部から隔離されていたら、無理もないか。

 

 ・・・だとしても、工藤新一にこだわりを持つなら、先の偽物騒動の概要と顛末(マスコミ向けの内容であろうと)くらいは知らないのだろうか?こちらに来たあとなら、いくらでも調べられるだろうに。連絡用に監視アプリを仕込んである端末は渡してあるというのに。

 

 いや、知っているならなおのこと、それらを組織と関わったことと組み合わせて考えられないのだろうか。

 

 仮にも高校生探偵を自称するのであれば。

 

 

 

 

 

 ため息をついて、納得できないとデカデカ顔に書いている裕二に、風見は小脇に抱えていたファイルから、書類を引っ張り出して裕也に差し出した。

 

 極秘、という赤い印字をされるだろう、本来なら持ち出し厳禁のそれを、風見は上層部の許可も得て、一部の事項を伏せて、裕二に見せることにした。

 

 「何やこれ?」

 

 「・・・読み終わってから、話したまえ。

 

 読めない漢字や意味の分からない語句の説明くらいならばしよう」

 

 「馬鹿にすんな!このくらい読めるわ!」

 

 カチンときたらしい裕二は、風見から書類をひったくるように受け取ると、目を通しだした。

 

 だが、その表情が徐々に青ざめていく。

 

 

 

 

 

 そうだろうとも。

 

 あの騒動の渦中、Twi●terやSNSに煽られて押し掛けた野次馬連中の中には、間違いなく組織の末端員は紛れ込んでいただろう。

 

 後日、騒動の鎮静化に伴い、工藤邸や毛利探偵事務所、果ては帝丹高校周辺からも野次馬が退散はした。だが、それだけだ。一度疑いだすと、すべてが怪しくなる。風見はそれを、よく知っている。

 

 裕二は、予想していなかったのだろう。

 

 まさか、あの騒動の後、工藤邸と毛利探偵事務所は、家主不在の際に不審人物に何度も上がりこまれているらしいなど。

 

 内部は荒らされてないようなのだが、これはおそらく偽装を兼ねている。

 

 工藤新一が不審を感じて戻ってきたときに、捕まえられるように。おそらく、監視カメラと盗聴器がてんこ盛りにされているだろう。

 

 

 

 

 

 「言ったように、先ほどのあれは、このままお前が好き勝手した場合の未来予想図だ」

 

 のろのろと書類から顔を上げた裕二から、風見はそれをひったくるように取り上げながら言った。

 

 「探偵ごっこがしたいなら好きにしたまえとは言った。だが、それで周囲に迷惑と危険をかぶせていい理由づけになるわけがないだろう」

 

 吐き捨てるように、風見は言う。

 

 「そもそも、高校生が二人力を合わせて、我々警察が長年にわたって全容を明らかにできない国際犯罪組織をとらえる?笑わせるな。

 

 ああ、我々が無能なのは認めよう。何をやっているのだ税金泥棒という誹りも甘んじて受けよう。

 

 だが、親のすねをかじる高校生に好き放題され、その尻拭いを我々がしなければならない道理もない。

 

 その代償が、君本人はおろか、その周囲の命であれば、なおのことな」

 

 青ざめて硬直したままの裕二に、風見は吐き捨てる。

 

 冷徹に。彼は、公安警察官だ。必要であれば手を汚してでも片付けるのを、是としている。

 

 10のために1を、100のために10を切り捨てる。日本という国家を、立ち行かせるために。

 

 「言っておくが、今の軽挙妄動を絵に描いたような君に、知る権利は存在しない。

 

 我々の捜査状況はおろか、先の彼も、工藤新一の居所についても。

 

 もちろん、調べたかったら好きにしたまえ。

 

 その場合、先のような警告は一切行わず、実行をもって排除させてもらう。

 

 被害が出てしまう、その前に」

 

 クイッと風見は眼鏡を押し上げる。

 

 「必要ならばそれができるのが我々公安であり、君はその庇護下にある。

 

 努々、忘れないように」

 

 「・・・工藤はどうなんや」

 

 「何?」

 

 小さくつぶやいた裕二に、風見は聞き返す。大体予想はついたが。

 

 「工藤新一や!あいつかて、同じように組織に毒薬飲まされて、小さくなっとるんや!

 

 オレを保護するゆうんなら、あいつも同じように保護せんとおかしいやろ!」

 

 すがるように、負け惜しみのように、彼は言った。

 

 ・・・もちろん、風見はそれに対する答えを持ち合わせている。

 

 「それは、君が散々付きまとった、江戸川コナンに対してかね?」

 

 「そうや!あいつは工藤や!オレはこの目で見たんや!」

 

 「・・・実際に、幼児化するところを?」

 

 「それは見とらんけど・・・状況的に、間違いないで!」

 

 静かに尋ね返す風見に、しりすぼみになりながらも、裕二は力強く言った。

 

 「本当に幼児化しているなら警察の保護も受けておらず・・・彼に戸籍はないだろうな」

 

 「せやせや!」

 

 「だが、江戸川コナンにはある」

 

 「え?」

 

 「江戸川コナンには、戸籍があるんだ。母親文代と、父親アランの分も合わせてな。

 

 本籍は、東都ではないが」

 

 「う、嘘や!ぎ、偽造や!犯罪や!」

 

 「偽造でも何でもない。れっきとした戸籍だ」

 

 狼狽する裕二に、風見は静かに言った。

 

 

 

 

 

 実は、東奥穂村の騒動の後、風見はひそかに竜條寺を問い詰めた。

 

 工藤新一が彼の庇護下にあるのならば、彼はどうしているのだ。上に報告はしないから、教えてほしいと。

 

 竜條寺は応えなかった。ただ、江戸川コナンが彼の親戚で、雲隠れの事情を知っており、今回は彼のわがままに事務所のメンバーで付き合う形になったのだと。

 

 今までも、何度かコナンが事件に遭遇していたのを知っていた風見は、この機にと、コナンのことを調べ上げた。

 

 間違いなく、戸籍があった。

 

 ・・・あとから違法にねじ込まれたものではなく、最初からそこにあったように。

 

 だが、風見は覚えていた。コナンの保護者が、竜條寺曰く“あっち側の関係者”たる手取ナイアであるということを。(自分の優秀さを、これほど恨んだことはない)

 

 あっち側は、何でもありだ。戸籍の追加も、その気になったら朝飯前に違いない。

 

 そして、風見は予告通り、江戸川コナン=工藤新一という結論を胸のうちにしまい込むことにしている。

 

 

 

 

 

 鳥肌が立ちそうになるのをこらえ、風見は狼狽しきりの裕二を見下ろす。

 

 「それで?別人を見当違いの推理で、工藤新一呼ばわりして、危険を周囲に呼び込もうとしたわけだが。

 

 ・・・それが、君の信じる探偵であり、大阪へ戻るために取るべき方法なのかね?」

 

 出来るだけ、風見は平たんな口調を意識して語った。

 

 ともすれば、激高しそうだった。

 

 お前はそれでも、大阪本部長の息子か!彼の顔にいくら泥を塗れば気が済むんだ!と。

 

 それをしないのは、あらかじめ竜條寺に釘を刺されていたからだ。

 

 “あのな、見た目あれでも中身高校生なんだろ?お前がそのくらいの年、父親と比べられたり、頭ごなしに怒鳴られて、反発せずにいられるか?

 

 ・・・俺も、ピスコの義理息子のくせに、って言われて頭にきたことがあるからなあ”

 

 苦笑するような、懐かしげにするような声で、竜條寺はそう言っていた。

 

 確かに、と風見はうなずいた。だから、あえて父親の名前は出さなかった。

 

 「・・・少しは頭がいいかと思ったが、期待外れだったな」

 

 ため息をついて、風見は踵を返した。

 

 びくっと裕二が体を震わせたのが分かったが、風見は振り向かなかった。

 

 「好きにしたまえ。

 

 もう一度言うが、このまま行動を改めないのであれば、周囲の安全を鑑みて、早々の処置を取らせてもらう。

 

 ありもしない問題行動をでっちあげ、施設へ送り込むなど、造作もない。

 

 必要ならば、手を汚してでも片付けるのが、我々公安だ」

 

 冷たく言い残して、風見は部屋を出た。

 

 青島裕二がどんな顔をしているかなど、わからなかった。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 「よ。お疲れさん」

 

 「・・・やはり自分にああいう役回りは向いていない」

 

 「そうか?あんたが一番、あいつが聞き入れそうだったから任せたんだがな」

 

 部屋を後にした風見がやってきたのは、裕二に芝居を見せたあの空のアパートの一室だった。

 

 ここは、公安が借り受けている賃貸の一つだ。清掃班が入って痕跡を片付けたばかりで、きれいなものだ。

 

 「今回は、こちらの不手際に巻き込んでしまった。助力、痛み入る」

 

 「あんたのせいじゃねえだろ」

 

 言いながら、竜條寺はまだ項垂れて落ち込んでいる黒服の女装姿に目を落とした。

 

 「まぁだ、落ち込んでんのか、カルーア」

 

 「やめてください!その呼び方!

 

 あんな人を人とも思わない台詞、できないって言ったのに・・・!

 

 コナン君までグルになって・・・!」

 

 涙目にすらなっている浅井成実に、風見は苦笑した。

 

 風見も盗聴器と監視カメラで、先の芝居は見せてもらったが、縛って転がされた裕二に近寄ったのは実際のところアイリッシュ――竜條寺のみだ。

 

 カルーア役の成実は離れたところでひたすら、話声を聞かせていたが、それもそのはず。

 

 縛られて転がされた裕二からは見えなかっただろう、成実は青ざめて嫌悪感に満ちた顔をしていたからだ。

 

 とても芝居向きには見えなかった。

 

 ・・・それは、カルーアが“臓器密売ルートを開拓した、イカれた女幹部”という役回りだったからだろう。目指して実現させた医者と正反対の役回りを演じるのは、成実にはきつかったらしい。

 

 何度も練習したものの、どうにも成実ではうまくいかず、最終的に成実は離れたところで姿を見せるだけ、声は胸元につけた阿笠博士謹製のボタン型スピーカー越しに変声機を当てたコナンが演じることになったのだ。

 

 「松井だったらよかったかもなあ・・・けど、あいつは設楽の付き添い準備で、今日は参加できないって話だったからなあ」

 

 「? 何の話だ?」

 

 「クイーン・セリザベス号で鈴木財閥のパーティーがあるんだよ。

 

 で、設楽が招かれて、その付き添い兼ボディーガードで同行するんだと」

 

 「ああ・・・怪盗キッドが予告を出しているんだったな」

 

 「ま、大丈夫だろ。槍田とコナンもいるしな」

 

 むしろ戦力過多で、キッドの方が泣いて逃げそうだな、おい。

 

 そんなセルフツッコミを、かろうじて喉奥に押し込め、竜條寺は風見を見やった。

 

 慣れない子供への説教という点では、確かに彼も疲れているのだろう。まして、見た目は小学生、中身は高校生というアンバランスな人間が相手では、なおのこと。

 

 ちなみに、何もなければ竜條寺もクイーン・セリザベス号に敦子の付き添い兼ボディーガードとして同行したかったのだが、この芝居の予定のために取りやめにしたのだ。

 

 ・・・怪盗キッドと名探偵コナンの初対決、見たかったのに。

 

 「で?疲れているところ、やって来て何だ?

 

 成実が一緒に聞いていい話じゃねえなら、場所を移すか?」

 

 「いや。浅井、君は竜條寺が保護した子供の主治医を請け負っているという話だったな?

 

 この芝居に加担したということは、彼らの事情も当然知っているのだろう。

 

 であれば、決して無関係ではない」

 

 ふーッと風見は深々とため息を吐いた。

 

 ・・・これから話す話は、絶対表沙汰にはできない。

 

 そして、直属の上司たる降谷にすら助けを求められない。彼は上層部に心酔している節がある。風見のように、一度すべてを叩き壊され、疑心を持っているわけではないのだ。

 

 

 

 

 

 服部平次の幼児化は、トップシークレット扱いされている。

 

 知っているのは、大阪府警でもごく少数(服部本部長と数名の刑事くらいだ)、そして・・・彼から連絡を受けて保護に向かった風見のみだ。

 

 運がいいのか、悪いのか。

 風見は、事の重大性を鑑み――幼児化など、下手をすれば人体実験を顧みないその手の団体や、あるいは風見が関わってしまった分野の連中が見れば、垂涎ものだ――自分一人の胸のうちにしまい込むことにしたのだ。

 

 今の公安で、この情報を共有するのはリスクが大きすぎる。

 

 

 

 

 

 「いい話と悪い話があるが、どちらから聞きたい?」

 

 「好物は後回しにする。悪い話からで頼もう」

 

 しれっと言った竜條寺は、煙草を取り出しかけ、舌打ち交じりにガムに変える。

 

 「竜條寺さん、禁煙中ですか?」

 

 「ここは公安の保有物件だろ?臭い付けたら何言われるかわからんからな。

 

 口寂しいんだ。ガムくらいは勘弁してくれ」

 

 成実のツッコミに、竜條寺は口元をモゴつかせながら言った。

 

 「・・・以前、お前からのタレコミで、組織との接触者を保護したのを覚えているか?」

 

 「ああ。ま、トカゲのしっぽにも満たないだろうが、接触ルートなどがわかれば、多少の足しになるんじゃないかと思ってリークした、あいつらな。

 

 あとは、放っておいたら組織に消される可能性もあったしな。

 

 それがどうかしたか?」

 

 「・・・死亡した。二人とも」

 

 「はあ?!」

 

 ぎょっとしている竜條寺と、目を見開いて硬直している成実に、風見は改めて気が重くなったが、続ける。

 

 「場所も日付もばらばらだが、手口が同じだ。

 

 交通事故に見せかけられているが、端末がハッキングされて、呼び出しを受けたところまではつかめている。

 

 ・・・問題は、公安が支給している端末で監視アプリが内蔵されているにもかかわらず、ハッキングされたということだ」

 

 「それって・・・!」

 

 「・・・理央の保護、頼まなくて正解ってわけか」

 

 成実と竜條寺の青ざめて苦々し気な言葉に、風見は項垂れた。

 

 実に情けない。青島裕二には、ああも厳しく言い聞かせて見せたが、実のところ公安もどこかが腐って、連中とつながりのある可能性が高いなど。

 

 ・・・うすうす考えていた可能性が高くなってきた。

 

 すなわち、公安が例の組織に潜り込ませ、NOCと判明してから行方不明になっている捜査官、諸伏景光の情報漏洩ルート、その大本に公安があるのではないのか、と。

 

 ゆえにこそ、風見は幼児化という最悪の爆弾情報を、報告しなかった。・・・できなかったのだ。

 

 「・・・すまない。こちらの落ち度だ」

 

 「何でさっさとこっちに言わなかった?!」

 

 「・・・」

 

 グッと、風見は両の拳を握りしめた。

 

 「言えなかったのだ。降谷さんが、お前からの協力をこれからも続けてもらうために、言うべきではないと。

 

 ・・・だが、裕二のことで借りを作ってしまった。これ以上、黙っていることなど自分にはできなかった」

 

 「クソがぁぁぁ!」

 

 頭を抱える竜條寺に、成実は思いっきり眉をしかめている。

 

 「・・・それが公安のやり口なわけ?」

 

 「違う!自分たちは、そんなこと・・・!

 

 ・・・いや、今の状況では言い訳にしかならないか」

 

 「お前、いい加減その降谷厨、何とかしろ!いや、降谷が言わなくても、他が言った可能性もあるにはあるが・・・とにかく!次はねえからな!」

 

 「・・・竜條寺さん。風見さん。

 

 私は医者です。だから、これだけは言わせてください」

 

 成実が鋭い目で、竜條寺と風見を交互に見据えてから言った。

 

 「それが誰であれ、何であれ、そうそう死んでいい命なんてない。

 

 もし、公安で守り切れる保証がないというのであれば、私はあなた方への協力を拒否します」

 

 「俺だってそうだっての。風見、もう一度言うが、次こんなことがあったら、手を切らせてもらう」

 

 「・・・胆に銘じておこう」

 

 二人から睨みつけられ、風見は重々しく頷いた。

 

 ・・・もっとも、風見一人にはできる範囲もある。

 

 早々に、公安内部の漏洩ルートと、腐敗部分の洗い出しをしなければならないのだ。

 

 「で?いい話というのは?」

 

 「・・・日原青年を拷問した男の家宅捜査をした。

 

 そこから、一部の幹部や情報ルートを特定した。

 

 お前が懸念していた、シェリーのデータ書き換えは、今のところその男が個人保有していた情報でしかなかったらしい。

 

 つまり、まだ組織の上層部は、知らない。その可能性が高い」

 

 「・・・そうか」

 

 「で?公安はそれを知ったわけで、工藤新一君が組織の被害に遭ってどこかに潜伏しているというのも筒抜けなんだ。

 

 証人二人も守れず、見殺しにするようにした、公安に」

 

 「・・・面目ない」

 

 少しほっとした様子の竜條寺だが、成実は容赦しなかった。

 

 要は、彼はこう言っているのだ。結局工藤新一が生きてるって、ばれかねないよね?!周囲が拷問喰らわされるかもしれないよね?!と。

 

 「・・・自分の方で、何とかするようにしてみる」

 

 「そう。期待せずに待っておくね。

 

 いい話なんだか、悪い話なんだか」

 

 「おい、そう、きつく当たるなって。実際、偽工藤新一の時は助かったんだし」

 

 まあまあ、となだめに入る竜條寺に、成実は溜息をつく。

 

 

 

 

 

 実際、成実の警察に対する信用はあまり高くない。

 

 何度も心中など間違いだといった彼を無視して、再捜査などしなかったのだから。

 

 あれには神話生物も絡んではいたが、家族の心中については別件で捜査できたはずだ。

 

 松井の事情を、のちに蓮希経由で聞いたこともある。

 

 やっぱ警察なんてクソだな!

 

 成実がそう思っても無理はないだろう。

 

 

 

 

 

 「・・・そうね。まあ、それとさっきのは帳消しになるかな。

 

 ・・・もし、工藤君のことが漏洩して、何らかの事件が起こったら、相応の対応を取るからね」

 

 「・・・ああ」

 

 成実の冷たい言葉に、風見は静かにうなずいた。

 

 風見が部外者でも、現状の公安は唾棄すべきものだとわかる。

 

 早々に何とかしなければならない。

 

 

 

 

 

 アパートの一室から去り、成実とも別れた竜條寺は、酒が飲みたくなってひいきにしている居酒屋へ足を向けたが、ふとその足を止めた。

 

 風見が、公安内部から組織に漏洩するだろう工藤新一の潜伏を何とかする?

 

 待てよ?公安から送り込まれたNOCがいたよな?凄腕の探り屋で、するりと日常に潜り込めそうな、スピンオフの主人公にまでなるトンデモ男が。

 

 例えば、潜伏先を特定するとでもいえば、時間稼ぎになるわけで。・・・彼の中の天秤次第では、竜條寺の命が危うくなりそうだが。

 

 「ヤッべ。バーボンが来る・・・」

 

 思わず足を止めてひきつった顔でうめいてしまった彼の予想は、このしばらく後に現実のものとなる。

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 「おはよー!」

 

 「おはよ!ファイナルクエスト6、どこまで行った?」

 

 「オレ、バリアスが仲間になったあたりー」

 

 「ダッセ!オレ、もうラスダン!エクスカイザーもとったし!」

 

 「スゲ!え?!何、エクスカイザーって?!」

 

 「主人公の最強武器だよ!知らねえの?!」

 

 朝から新作ゲームの攻略に花を咲かせるクラスメートをよそに、江戸川コナンは憂いに満ちた顔で、1年B組の自分の席についていつも通り窓を眺めていた。

 

 黒縁メガネが野暮ったいとはいえ、コナンの素の顔は、女優を母に持つだけあって線の細い美少年だ。そんな彼が、窓を眺めているだけで、一種の完成された芸術のようにも見える。

 

 実際、クラスメートの女子が、何人か頬を染めてコナンの方を見やっている。

 

 最近の小学生って早熟なのね。

 

 自身のことを棚上げして、理央は内心思う。

 

 ちなみに、理央は児童誌用のブックカバーを、ハードカバーにかけ替えて読む、という姑息な手段で読書に興じていた。

 

 そこで、がらりと引き戸が開いて、青島裕二が入ってきた。

 

 寝不足だろうか。目の下にクマができている。

 

 「あ、おはよう、青島君」

 

 「おう、おはようさん」

 

 クラスメートに挨拶を返しながら、青島はランドセルを担いだまま、コナンの座る机に向かっていった。

 

 

 

 

 

 『奥さんに伝えといてくれ。パーティー台無しにしちまって悪かったなって』

 

 苦笑気味に放るようにハンカチごと渡された“漆黒の星〈ブラック・スター〉”を、コナンはつかみ取った。

 

 設楽蓮希のたおやかな姿なのに怪盗の声で話されるのは、どうにも違和感がぬぐえなかったが、そんな些細なものは内心の高揚にかき消される。

 

 見たか。お前が、何もできない批評家風情と見下したものに、今お前は正体を暴かれたぞ。宝石だって取り返してやった。どうだ?これでもお前は自分を無能物呼ばわりするか?

 

 久々だった。

 

 緊張に満ちた推理。怪盗の手管を暴いて、追い詰める。

 

 ・・・やはり、自分は探偵だ。

 

 結局、怪盗には逃げられてしまったけれど、久々に充実した時間を過ごした。

 

 探偵の頭脳を満足させる謎、論理回路を適度に解きほぐす緊張、水を得た魚のようなひとときだった。

 

 気力は十分に満ちた。これでまた、悪意や憎悪が立ちはだかっても、大丈夫。

 

 今度会ったら、あの怪盗にはたっぷり礼をしよう。その両手に手錠をかけて、監獄行きにすることによって。

 

 頬杖をついて憂いたようなコナンの口元が、わずかに緩む。いつも通りの、不敵な探偵の笑みに。

 

 そこで、コナンは机のすぐそばに誰か立ったことに気が付いて、視線を向けた。

 

 そこには、青島裕二が、どこかきまり悪げな顔をして立っていた。目の下には、小学生らしからぬ濃いクマがある。

 

 「・・・おはよう」

 

 「・・・おはようさん」

 

 たいてい朝からハイテンションである小学1年生らしからぬ、静かなあいさつを交わす。

 

 いつの間にか、教室は静まり返り、じっと二人を注目していた。

 

 今にも起爆しそうな爆弾を前にしたような心地だった、と後にコナンの友人である知史は述懐している。

 

 理央からしてみれば、今まで散々険悪なところを見せていたあの二人が、さらに暴発するのでは?!と危惧しているようにしか見えなかった。

 

 「・・・その」

 

 「何だよ?」

 

 「今まで、すまんかったな。

 

 よう考えたら、お前が工藤と別人なんは、当然やったわ」

 

 スッと、青島が頭を下げた。

 

 コナンは少々面食らって、パチパチと目を瞬かせたが、すぐに小さく笑った。

 

 どうやら、例の小芝居は効果があったらしい。

 

 「わかりゃいいんだよ。オレは江戸川コナンだ。だから、今度からはちゃんとそう呼べよな」

 

 「おう・・・」

 

 コナンの言葉に、裕二がむっすり頷いた時だった。

 

 「失礼しまーす!江戸川君、いますか?!」

 

 おざなりなノックとともに、けたたましく引き戸が開かれる。

 

 戸口で周囲を見回すのは、体格などから、明らかに高学年だろう。

 

 「ボクが江戸川だけど、何か用?」

 

 対年上用の、おとなしめの言葉遣いに切り替えたコナンに、彼らは意気揚々と近寄ってきた。先頭の少女はメモ帳を片手に、少し離れたところの男子はスマホを持っているし、少々小柄な男子がそれに苦笑しながら付き添っている。

 

 「帝丹小学校新聞部の部長、6年A組秋本音暖〈アキモトノノ〉です!

 

 怪盗キッドとの対決について、取材させてください!」

 

 「どうだった?!怪盗キッド!かっこよかった?!」

 

 「違うでしょう!まず、シチュエーション!怪盗キッドが誰に変装して、どうやって宝石を盗んだのとか、それを見破った根拠とか、ちゃんと聞かないと!」

 

 わあわあとコナンの前で喚く新聞部のメンバーに、コナンは目を白黒させる。

 

 どうやって、コナンのことを訊きつけて・・・いや、この教室で裕二相手に売り言葉に買い言葉で言ったな、そういえば。

 

 ・・・少し前の自分で、相手がマスコミであれば得意げに取材を受けたのだろう。

 

 だが、今のコナンに、その必要はない。

 

 

 

 

 

 もともと、工藤新一がマスコミの取材を受けていたのは、目立ちたがりもあったが、それ以上に探偵としての伝手を作りたかったからだ。

 

 いかに高名な父母を持つといえど、新一個人は一介の高校生でしかない。

 

 警察に実力は認められたが、それ以上に難事件が持ち込まれるパイプラインを確保したかったのだ。

 

 その公算が崩れたのは、件の犯罪組織に関わりを持つようになって、さらに東奥穂村の事件があったからだ。

 

 マスコミに売れるのは、メリット以上にリスクが高い。下手をすれば自分以上に周囲にそれを科すことになる。

 

 

 

 

 

 だから、コナンはそれを目指さない。

 

 目立たせるのは、あくまで傀儡探偵役のナイアだけだ。

 

 江戸川コナンは、目立ってはいけない。それは、リスクでしかないのだから。

 

 「ごめんね、結局逃げられちゃったし、ボクはナイア姉ちゃんの指示を受けて動いただけだから、聞いても面白くないと思う」

 

 「それでいいから!」

 

 「そうそう!折角の号外なんだよ?!」

 

 「・・・あのね、探偵は、新聞に載らないものなんだよ?

 

 必要以上に名前や顔が売れたら、そこから犯罪とかにつながるかもしれないもの。

 

 依頼の話なら聞くけど、新聞の取材とかなら、断らせてもらうね」

 

 「「ええー?!」」

 

 つらつらといったコナンに、新聞部3人のうち2人が不満そうな声を上げた。

 

 「何で?!怪盗キッドの話、みんな聞きたがってるのに!

 

 自慢したくないの?!」

 

 そりゃあ、したいに決まってる。

 

 コナンはそう喉の奥でツッコミを返すが、ぐっとこらえて首を振った。

 

 朝のホームルームの予鈴が鳴ったのは、この時だった。

 

 「時間切れだね。早く戻ろう。笹沼先生に怒られるよ」

 

 少し離れたところにいた、小柄な少年が言った。

 

 彼は、すっとコナンに視線を向けてくる。日本人らしい黒目だが、どこか虚ろな目をしているように見える。

 

 ふいに、コナンの背中が粟立った。旨く言えないが、この少年は、何か、変だ。

 

 「ごめんね、江戸川君。いきなり押しかけて、びっくりさせちゃったね。

 

 ボクはヒ・・・沢田裕樹〈サワダヒロキ〉」

 

 ニコリッと裕樹と名乗った少年が笑った。

 

 「また会おうね」

 

 そう言って、彼は不満げにしている二人を押すように、1年B組の教室を出ていく。

 

 「何や、逃げられたんかいな」

 

 「ああ。大口叩いて情けねえけどな」

 

 コナンが苦笑したところで、小林先生が入ってきた。

 

 さて、そろそろまじめに小学生をしよう。

 

 

 

 

 

なっげぇんだよ、ホセ。

次回に続きます。

長すぎるので、いつものはなしです。

 

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