「どうしてこうなったのよ~~!?」
「ティ、ティアナさん、声を抑えて」
「見つかっちゃいますか・・・」
木の陰に隠れて今の状況に叫びそうになるティアナをエリオとキャロがなだめていると、“メキ”という音が近くから聞こえてき、4人が恐る恐る後ろを振り返ると
「み~~つ~~け~~た~~」
「「「「ひぃいいいい~~!?」」」」
身体に強制ギブスのようなアーマーを身に着けた悠斗がいた。顔全体は仮面で覆われているが眼の部分にある黒いゴーグルが黄色く発行しており、恐怖を与える
「本当にどうしてこうなったのよ~~!?」
事の発端は30分ほど前にさかのぼる
「さて、今日の朝の訓練だけど、ちょっと趣向を変えようと思います」
「なのはさん、それはここ(訓練場)にいる八神部隊長に関係あることなんですか?
「私は関係ないで」
「じゃあ、どうして?」
滅多に訓練場にいないはやてがここにいることが原因なのかとティアナが尋ねるが当の本人であるはやてがそれを否定する
「私がここにいるんわ。皆と同じで訓練をするためや」
「メンバーも全員揃ったことだし、今日の朝練の内容を教えます」
姿勢を正したFWメンバーは興味半々、恐々半々である
「今日の朝練は・・・鬼ごっごをします」
『・・・・・・は?』
なのはの言葉にその場にいる全員が間の抜けた声を上げた
「な、なのは、今なんて言ったの?」
「鬼ごっこって言ったよ」
フェイトの問いになのはが答える
「鬼役はあたしらの誰かってことか?」
「うんん、私達、隊長陣も逃げる側だよ」
「はぁ?じゃあ、誰が鬼役を・・・」
「鬼役をするのは俺だ」
金属がきしむ音と共に悠斗が朝霧の向こうから現れた
「おはよう悠斗君」
「おはようさん」
「所で、身体に身に着けているそれは何?」
「これか?強制ギプスみたいなものだ。身に着けると設定した分の重力が身体に掛かる」
「ちなみに今の設定は?」
「15だが?」
「それもう強制ギプスじゃないよね!?」
悠斗に掛かっている負荷を知ったなのはがツッコム
「っというかよく動けるな」
「鍛え方が違うんでな」
「ルールは皆も知ってるルールと同じだけど。攻撃、補助などの魔法は無し。目くらまし等の逃げるための魔法のみ許可します。それと時間内まで逃げ切れた人には今日のお昼に悠斗君が作った特製のデザートが食べれます」
『っ!?』
デザートという言葉に女性陣の目の色が変わる
「ちなみに今日作ったのはミルクレープだ」
「クレープを何層にも重ねたケーキやね」
勝者の景品に釣られ、何人かの女性は闘志を燃やす。そして、鬼ごっこが始まった
『HAHAHAHAHAHA!!』
「まるでホラー映画を見ているようね」
審判役を頼まれ、いつもより早く起きたアリサは映像越しで逃げるFW陣とそれを追いかける悠斗を見て、苦笑いする
「っていうか、あいつ本当に私達と同じ人間なのか疑っちゃうわね」
15倍の重力付加に加え、フェイスマスクによって通常より呼吸するのが難しく、心拍機能も低下しているというのに悠斗の動きはそれを全くと言っていいほど感じさせていなかった
「・・・トラウマにならないといいわね」
「ティ、ティア!?どうしよう!?」
「どうしようも何も、捕まるか、こっちの体力が尽きるかの2択しかないわよ!?」
『全員、目をつむって、耳をふさげ』
必死になって逃げるFW達だったが、体力も尽き掛け、掴まりそうになった時、念話で指示が出された。FW達はその指示に従い、目をつむり、耳をふさぐ。するとFW達と悠斗の間に何かが落ち、弾け、辺り一面を光と音が覆った
「これって、閃光魔法?」
『皆、そこから11時の方向に向かって走って』
『ぼやぼやしてると置いていくからな』
スバル達は互いの顔を見て頷き、耳をふさいだ状態で言われた方向へと走った
「皆、こっちだよ」
ふいに声をかけられ、振り向くと、なのはを含めた隊長陣が別れて木の陰に隠れていた
『口にすると悠斗君に悟られるからここからは念話で会話するよ。4人とも別れて木の陰に隠れて』
『はい』
なのはの指示に従い、4人は別れ、なのは達のように木の陰に隠れる
『ヴィータ、お疲れさん』
『言われるほど疲れてないけどな』
『エリオ、キャロ、大丈夫?』
『は、はい』
『何とか大丈夫です』
『サーチャーを使って様子をみとったけど15倍もの重力負荷がかかった状態の上に心拍機能も低下している状態であの動き、ほんまに人間かいな』
くしくもアリサと同じ考えに至ったはやてだが、その考えは的を得ていた。人外や、精霊、さらには自称神と名乗る物達との戦いととある魔法の力で、悠斗の肉体は人間としての限界を超えているのだ(早い話、史上最強の弟子の無敵超人のじいさん)
『っ!全員、動くな!』
ほかのメンバーが念話で会話している間も警戒を怠っていなかったシグナムが何かを感じ取り動かないように指示を出す
「・・・・・」
ゆっくりとした足取りで悠斗がなのは達のいる場所へとやってきた
『嘘だろ!?もう回復したっていうのかよ!?』
閃光と音によるスタン攻撃からの回復が想定以上に速いことにヴィータは驚く
「・・・・・・」
『全員、意地でも動いたり、声を出したらあかんで』
きょろきょろと当たりを見回す悠斗を見て、ほんの僅かな音によって相手のいる位置を探り当てることが出来る。それがはやてがサーチャー越しで得た情報をもとに導き出した結論だ
「・・・・・・」
ここにはいないと判断した悠斗は別の場所へと向かおうと進路を変える。見つからずに済んだそのことに安堵するなのは達。だが、
“きゅるるるる~~”
っという、この場に似合わない音が鳴る
『・・・・・』
『・・・あはは』
隠れている一同が音のなったほうに振り向くと、片手でお腹を押さえたスバルが罰がわるそう顔で後ろ頭を掻いていた。そして、全員が慌てて木の陰から顔を除くと、動こうとしていた悠斗の身体がこちらへと向き直り、ゆっくりと顔を上げると、ゴーグルが黄色く発光しており、足に力を込めると走り出した
「「スバル~~~!!」」
「ご、ごめんなさ~~い!?」
それと同時になのは達も駆け出し、ティアナとヴィータが音を出したスバルへと怒る。不本意だったとはいえ自分の出した音のせいで再び地獄の追いかけっこが始まってしまったためスバルは謝ることしかできなかった。その後、追いかけっこは朝練終了間際まで続き、終わった後、悠斗以外の全員は精魂尽き果てた様子だったと見ていたアリサは語った。鬼ごっこの勝敗?それは神のみぞ知る