アルジュナ(オルタ)夏休みSSまとめ   作:いざかひと

2 / 5
その19(+6)

目次
その19
アルジュナ(アーチャー)エンド
アシュヴァッターマンエンド
カーマエンド
ジャンヌダルク(オルタ)エンド
ラクシュミー・バーイーエンド
白と黒の剣エンド


夏休み特異点シーズン2アルジュナ(オルタ)ルート2

その19

 

2019/07/21

 

民宿の自室で眠っていたが、胸騒ぎを感じ、目を覚ましてしまった。

 

どうする?

コマンド?

もう一度目を閉じる

起き上がる←

 

深紅のカーテンを開けて窓の外を見ると、ぴかぴかと何かが光っていた。

……ひょっとして、誰かが外で戦っているのかもしれない。

 

自室を出て民宿ロビーに行きますか?

いいえ

はい←

 

ロビーには黒電話がある……。

誰かに連絡しますか?

はい

アルジュナ(アーチャー)

アシュヴァッターマン

カルナ

カーマ

ガネーシャ

パールヴァティー

ラクシュミー・バーイー

ラーマ

 

ジャンヌ・ダルク(オルタ)

 

いいえ←

 

……受話器を置いた。

一人で、向かうことにした。

 

光を頼りに歩くと、森にたどり着いた。

 

奥へ進みますか?

いいえ

はい←

 

見つけた。

……アルジュナ(オルタ)が、森の中でうずくまっている。

彼は何かを抱き抱えたまま、こちらをゆっくりと見た。

 

マスター。

 

『どうしたの?』

 

──見たな。

 

私の、顔を、見たな?

 

アルジュナ(オルタ)の腕の中に、ぼんやりと光る魔力の塊が見える……。

 

──は。

は、は。

ははは。

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

はっ……。

うう……ごほっ……こほっ……けほっ。

こほ……うぅっ……はぁ……はっ……。

──ああ。

もう、終わりですね、マスター。

私、見られてしまったから。

 

アルジュナ(オルタ)はゆっくりと立ち上がった。

……魔力の塊がべしゃりと地面に落ちる。

 

マスター。

私、願ったのに。

「一人で行動するのは止めてほしい」と。

でも、あぁ、ああ、ああ…………!

マスター、人は、死にます。

失われます。

傷つきます。

磨り減ります。

なぜか?

──人は、完全な存在ではないから。

 

彼は揺れながらこちらへ近づいてくる。

 

マスター。

 

アルジュナ(オルタ)の手が、伸ばされた。

首の後ろを、摘ままれ、簡単に持ち上げられた。

彼は口の端を上げると、笑んだ。

 

ずっと前に、こうすれば良かった。

 

地面が、どんどん離れていく。

 

これでもう、磨り減らない。

傷つかない。

失われない。

…………死なない。

 

彼が、すごく、大きく、見える。

 

マスター、マスター、マスター……。

 

いや──自分が小さくなったのか。

アルジュナ(オルタ)の、満面の笑みしか、視界に映すことが出来ない。

彼は、最後に言った。

 

大丈夫です、こういうの、得意なんですよ、私。

 

ぱく。

 

……ごくん。

 

……。

……。

 

アルジュナ(オルタ)ルートに入りました。

夏休み特異点のデータをセーブしますか?

(このセーブデータは他のデータに影響を及ぼしません)

 

〔ファイル1〕

2019/07/07 プレイ時間:??:??

うれしい!今年もやってきた!夏休み特異点!~シーズン2~

 

〔ファイル2〕

2019/07/09 プレイ時間:??:??

夏休み特異点3日目

 

〔ファイル3〕

2019/07/10 プレイ時間:??:??

夏休み特異点4日目

 

〔ファイル4〕

2019/07/15 プレイ時間:??:??

夏休み特異点9日目

 

〔ファイル5〕

セーブデータがありません

 

〔ファイル6〕

セーブデータがありません

 

〔ファイル7〕

セーブデータがありません

 

〔ファイル8〕

セーブデータがありません

 

〔ファイル4〕にセーブします、よろしいですか?

はい←

いいえ

 

セーブしています……

 

セーブが完了しました。 

お疲れ様でした。電源をお切りください。

 

 

 

 

アルジュナ(アーチャー)に電話をかけた場合

 

黒電話がある……。

誰かに連絡しますか?

はい←

アルジュナ(アーチャー)←

 

……アルジュナに、電話をかけた。

 

わかりました、マスター。すぐにそちらへ向かいます。

私が到着するまで、待っていてください。

 

玄関先で、アルジュナを待った。

 

お待たせしました。

 

インドマートでの制服とは違う、白の戦闘着に身を包んだアルジュナがやってきた。

唇は緊張で堅く結ばれ、張りつめたような雰囲気をまとっている。

 

……申し訳ありません。身を、清めていました。

誰が待ち受けているかは分かっています。行きましょう、マスター。

 

暗い森を、アルジュナを先頭に進んでいく……。

 

見つけたぞ、アルジュナ。

 

アルジュナ(オルタ)が、森の中に何かを抱えうずくまっているのが見えた。

 

貴方が何をしていたのかは知っている、こちらへ顔を向けろ。

 

「私を、知っている、と?」

 

アルジュナ(オルタ)はこちらを向いた。

顔はどろりとしたもので汚れている。

 

ひどい顔だ、それでも輝く王冠(キリーティ)とかつて呼ばれた者か。

……英雄としての誇りは、サーヴァントとしての教示はどこへやった。

 

「アルジュナ、あなたがそれを言うのですか?

未だ黒の声に心揺さぶられるあなたが。

役目は終わったと言わんばかりに全てを他者に預け、白い山へと去ったあなたが」

 

私は、アルジュナ。

神と人の狭間に立つ者にして、(ことわり)と人を守るもの。

人理を取り戻すために立ち上がった、マスターのサーヴァント。

……自らの人間性を恥じることはあれど、己の行動を恥じたことはない!

神に近しい私よ……貴方はマスターの、敵と、成ってしまったのですか。

 

「……私にとっては、この目に映る全てのサーヴァントがマスターの敵です。

なぜか分かりますね?アルジュナ」

 

人理という重すぎるものを、たった一人に預けているから

「人理という重すぎるものを、たった一人に預けているから」

 

全く同じ言葉と声に、アルジュナ(オルタ)は微笑んだ。

 

「素晴らしい正当です、胸がすく思いです。

流石はアルジュナ、神に愛されし者」

 

それ以上喋れば、私の矢があなたを射抜く。

 

「……出来ませんよ、アルジュナ。

正しき道を正しいまま歩んだあなたでは、無理だ」

 

マスター、これより戦闘に移ります。

……どうか、私より前には出ないでください。

私が倒されたなら……他のサーヴァントを、応援に呼んでください。

 

アルジュナが宝具……炎神から授かった弓、ガーンディーヴァを構える。

 

「弓兵のあなたでは、神には勝てない。──マスターを渡してくれますね?」

断る!

 

同じ存在でありながら、別の人生を歩んだ二人による、凄惨な戦いが始まった。

「これでよかったのか」という言葉が、頭の中でぐるぐる回っている。

 

はぁっ!

 

アルジュナの射る矢が扇状となって打ち出され、高速でオルタに迫るが、青い炎で出来た何頭もの馬が空間を回転しながら駆け抜け、それらを焼き尽くす。

オルタは以前微笑んだままで、その目はどこを見ているのかはっきりしない。

炎と雷が交差する戦いが、暗い森を焼いていく。

 

「第十の……」

させん!

 

青く燃える矢が魔力を凝縮させた宝玉にぶつかって反射し、常人では防げない複雑な軌道を描いてオルタへ迫る。

続けてアルジュナは、背後にゲートにも見える青い炎の輪を出現させ、そこから曲がる光線が生み出す。

それらは、暗い森の木々の間を流星のごとく飛んでいった。

アルジュナはオルタへ迫り、魔力を放出させた弓で矢と織り交ぜるように猛攻を加えるが、攻撃の全てが、オルタにこともなげにいなされた。

音速を超えた攻防が、何十秒も目の前で繰り広げられる。

マスターとして、分かってしまった。

オルタの方が、アルジュナに(まさ)っている。

白い破壊の力の奔流が、空間、地面から沸き立ち、立て続けにアルジュナを襲う。

アルジュナは白の布を翻し、かがみ、飛び、身を踊らせ、攻撃を紙一重でかわすが、徐々に霊衣や肌に傷が増えていく。

 

「──そこですね」

絶死の炎を避けようとアルジュナが後ろへ飛んだ瞬間、瞬きの中に距離を詰められ、竜のような強靭な尾が彼に襲いかかった。

攻撃を避けきることの出来なかった体は、森の中を真横に飛んで、巨木に叩きつけられる。

 

『アルジュナ!』

「はい、ここに」

 

アルジュナを無力化したオルタが、名を聞き、目の前にふわりと降り立った。

 

「マスター、大丈夫です、もう、大丈夫なんです」

 

彼は柔らかな笑みを浮かべたまま、こちらに手を伸ばし、そう言うが……。

 

『仲間を傷つけたあなたを、信用する事は出来ない』

 

そう彼に告げると、オルタの顔が、真っ黒な無表情で満たされた。

 

マスターに触れるな!!

 

彼の背後から、アルジュナの声と共に燃え盛る矢が飛んできた。

矢に気が取られているその瞬間、起き上がったアルジュナは、彼へ、魔力放出を併用した渾身の回し蹴りを放つ。

防御が間に合わず、オルタは黒の布を翻しながら地面を転がった。

 

悲劇を以て衆生を救わん……マスター、私の後ろに。

宝具をもって彼を……っ、殺します……。

 

アルジュナの声には、強い悲しみと戸惑いが込められていた。

しかし、彼は迷わずその感情に蓋をし、手に魔力を凝縮させていく。

オルタは糸で吊られた人形のような動きで、滑らかに起き上がった。

……その表情は伺えない。

 

「創世滅亡輪廻……善性なるものには生を、悪性たるものには裁きを……」

 

抑揚のない声で詠唱を謡うと、肩に浮かぶ宝具が合体し、真なる姿を見せた。

 

……このままでは、どちらかが確実に死ぬ。

 

どうする?

コマンド?

何もしない

令呪を使用する←

 

誰に?

アルジュナ

アルジュナ(オルタ)←

 

『令呪をもって、我がサーヴァントに命ず──』

 

『宝具の使用を、禁ずる』

 

ひびが入るような音と共に、廻剣が軋んだ。

オルタの目が、ゆっくりと見開かれ、アルジュナの後ろに立つ自分を見た。

 

「……マス、ター」

 

絞り出された声は、幼子のように震えていた。

 

……っ、弾けて墜ちよ!──破壊神の手翳(パーシュパタ)!!

 

真名と共に、アルジュナの手から放たれた創世の神の力の一端が、無慈悲にオルタへ向けられる。

だが──。

 

「ははは、はっ──う、お、おおおおぉぉぉ!!!!!」

 

オルタは両腕でそれを受け止めようとする。

アルジュナの破滅の白と、オルタの破壊の青の光が明滅し、空間を乱反射する。

 

っ!

 

「ははは!!アルジュナ!防ぎ切ったぞ、宝具を──」

 

両腕と引き換えに、宝具の熱を受け止めきったオルタが叫ぶ。

しかし、その言葉は最後まで続かなかった。

金色に輝く矢が、彼の首に突き刺さったからだ。

衝撃でのけぞったオルタの口と首から、赤い血があふれ出す。

 

「……なるほど、破壊神の手翳(パーシュパタ)は、目くらまし……本命は、こちら……」

 

オルタは体制を大きく崩したが、倒れることなく立て直した。

首は落ちず、矢が貫通したまま、こちらの方へ、緩慢な動きで歩いてくる。

 

「マスター、私、あなたの、こと……」

一言一言こぼす度に、こぼれる血で口が汚れていく。

金の飾りも、青いマントも、泥と血にまみれていた。

 

とどめを……。

 

次の矢を指の間に挟み、サーヴァントとしての責務を果たそうとするアルジュナを、手の動きだけで制した。

 

『もう、戦いは終わったから』

 

そう告げると、アルジュナは弓を置き、オルタに駆け寄った。

 

アルジュナ!

 

死を迎えようとしているオルタを抱き止めると、これ以上の苦痛がないよう、地面へ横たわらせ、頭を腕と片手で支える。

 

「やはり……あなたこそが、真なるアルジュナ、なのですね」

 

アルジュナ(オルタ)は最後にもう一度表情を動かした。

それは、討たれた者が浮かべるとは思えない、穏やかな笑みだった。

 

「……マスターを、頼みます」

っ……ええ……。

 

オルタの目から光が消え、瞳孔が黒く開く。首がゆっくりと落ちた。

神は粒子となって、夏の特異点に溶けていった。

 

『辛いことを、させた』

 

いえ、いいのです。

私は、あなたのサーヴァントとしての義務を、英雄としての義務をはたしただけ。

堕ちた神を殺すという、英雄の、義務を。

 

雨が、降ってきた。

アルジュナは震わせながら声を発する。

 

──彼がおかしくなった原因が、この特異点にあるはず。

せめてそれの解明だけはやり遂げねば。近しくも遠い、アルジュナとして。

このアルジュナ、今はインドマートに縛られている存在ですが、変わらず貴方のサーヴァント。

何かあれば、必ずや貴方を助けに行きましょう。

 

そう言ってこちらを見たアルジュナの瞳は、底の見えぬ井戸のような闇に満たされていた。

彼の白の服にべったりとついた血が、神の後を追うように金の粒子となって消えていく。

 

疲労の色濃いアルジュナと共に、民宿へ戻った。

──雨は、強くなるばかりだ。

 

 

バッドエンド

『君が見た神の終わり』

彼はなぜ、最後に微笑んだのだろう。

それだけが、永遠に胸の内に引っかかってしまったのだ。

 

 

 

 

アシュヴァッターマンに電話をかけた場合

 

黒電話がある……。

誰かに連絡しますか?

はい←

アシュヴァッターマン←

 

……アシュヴァッターマンに、電話をかけた。

 

……マスターか。

ぎりぎり間に合ったぜ。

カルナと俺が行く、アルジュナは連れていかない。それでいいな?

……民宿の玄関で待ってろ、絶対に一人で行くな。

 

アシュヴァッターマンと、尋常ならざる力を纏った赤いカルナがやってきた。

 

……ガネーシャ神、ラクシュミー・バーイー、ラーマ、パールバティ様やカーマ様のお力まで借りて、カルデアのデータ頼りになるだけ状況を再現したが、完璧じゃねぇ。

だから俺も来た。

 

マスター、オレもオレ自身に驚いている。

このような可能性の姿もあったとは……。

力をぶつける相手は、邪悪を許さぬアルジュナ、不足はない。

マスターの敵として、討つだけだ。

 

カルナ、アイツにお前が期待する人間味はねぇ。

 

そうかもしれない、だが、どうしても高ぶってしまう……。

悪い男だ、オレは。

 

……二人を連れて、焼けた森の中へ入っていった。

 

止まれ、カルナ、マスター。……アルジュナの野郎だ。

 

アルジュナ(オルタ)は地面から何かをかき集めている……。

 

アルジュナよ、何をしている。

「カルナ……か」

 

カルナに声をかけられたアルジュナ(オルタ)は、顔を上げた。

体は何かどろどろしたもので汚れている……。

 

「自己修復の、ための、魔力を……」

無駄だ、お前は壊れている。

それ以上その姿をマスターにさらすつもりなら、お前は一度消え去るべきだ。

 

「……はっ、お前に、殺された記憶がある」

そうか。オレはない。なので、実感がない。

 

カルナの赤い瞳が、獲物を見定めた獣のようにゆっくりと開いていく。

 

──今ここで、再現させろ、アルジュナ。

 

待て、カルナ!

 

カルナが弦から放たれた矢のような勢いで、オルタへ襲いかかる。

 

クッソ……マスター、前に出るなよ、俺とカルナでケリつける!

 

アシュヴァッターマンはチャクラムを担ぎ、カルナとオルタに引きずられるように、戦闘体制へ移った。

二人からほとばしる雷光と太陽の炎が、黒こげた森をさらに焼き尽くしていく。

 

アルジュナよ、どこを見ている、目の前の戦士以外に心乱すものがあるというのか。

 

「ある。マスターを、見ている」

 

……ならば仕方ない、この神の力託された我が槍で穿たれ、消えろ。

 

「それは出来ない」

 

そうか。

ならばオレを討ち、アシュヴァッターマンを倒し、その胸の内にある暗い望みを果たすがいい。

 

「お前は、私が殺したカルナではない」

 

ああ、オレはお前を殺したお前ではない。

サーヴァントの性だ、喚ばれる度に、我らは産まれる。

 

「……神は違う」

 

神とて同じだ。

 

「神は違う!」

 

同じだ、アルジュナ。連続性はない。

 

……当人達しか理解できない会話をしながら、神と神の力がぶつかり合う。

槍がオルタの肌を削れば、青い光波がカルナの体を焼く。

一度お互いに距離を取れば、眼力が凝縮されたような光線がカルナの目から放たれ、オルタがそれを指先ではじいて逸らす。

逸れた光線が空に浮かぶ雲に当たって穴が空き、上空の風に吹かれ散り散りとなっていく。

 

児戯か。

「ああ」

では、お前の全力を引き出そう。

 

カルナの身を包んでいる魔力が濃さを増していく。

それを阻止しようと閃光を手に溜めたオルタヘ、アシュヴァッターマンのチャクラムが迫る。

オルタはカルナへの攻撃を一時中断し、魔力放出をもって上空へ逃げる。

 

逃がさん、アルジュナ。

「消えるがいい、カルナ、アシュヴァッターマン」

 

空間に浮かぶオルタヘ魔力が収束し、頭上に世界を壊す廻剣が現れる。

 

分かってるよなぁ!カルナ!!

…………ああ、オレに合わせてくれ、アシュヴァッターマン。

 

……オルタの力は圧倒的だ。このままではこの場にいる全員が死ぬ。

 

どうする?

コマンド?

令呪をつかう←

 

誰に?

カルナ←

アシュヴァッターマン

アルジュナ(オルタ)

 

『令呪をもって、我がサーヴァントに命ず──』

 

『力の全てを解放し、アルジュナを倒せ!!』

 

……委細承知、焼き尽くそう。

 

カルナの周りの空間が、強すぎる熱と魔力によって陽炎のように揺らめく。

 

天衣無縫、大胆不敵……。

神々の王の慈悲を知れ。絶滅とは是、この一刺し、インドラよ、刮目しろ。

 

「世界の歯車は壊れた……今こそ粛清の時、今こそ壊劫の時!」

 

詠唱が進むと共に魔力が膨張し、特異点が真昼のような光りに照らされていく。

 

マスター!

 

その光が放つ力に圧倒されていたら、アシュヴァッターマンに呼ばれた。

 

俺の後ろに来い!守ってやる!

 

両腕で魔力の熱波から顔をかばいながら、戦輪を抱えた彼の後ろに移動する。 

そして、両者の詠唱が終わった。

 

「我が廻剣は悪を断つ!──帰滅を裁定せし廻剣(マハー・プララヤ)!!!!」

 

焼き尽くせ──日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!!!

 

一つの世界を滅ぼしてもまだ足りない破壊の力が上空から、何神もの力を背負った太陽神の子の一撃が地上から、その中間点で破滅がぶつかり合う。

夜が終わり、森が消え、小川が蒸発し──時間すら、消し飛ばされた。

 

ハッ……来ると思ってたぜ!アルジュナァァ!!!!

 

宝具のぶつかり合いによって白に塗りつぶされた空間から、青い神が飛び出してくる。

目に、その姿がフラッシュのように焼き付く。

──彼の髪は灰のように白くなっており、角は、輝きながら天へ伸びていた。

 

この瞬間が、マスターに喰らいつくチャンスだもんなぁぁ!!

 

アシュヴァッターマンは戦輪を上空に投げ、両腕で神からの一撃を受け止める。

拳が、足が、鱗まとう尾が、青い炎が、アシュヴァッターマンに襲いかかるが、彼はその攻撃の一つ一つを、腕を振るい足を回し、的確に対処していく。

凄まじい威力の攻撃がぶつかり合う音が、幾度も白の空間に響く。

 

マスター、後少しだ!ぶっ倒れんなよ!

 

アシュヴァッターマンがそう告げると、彼は落ちてきた戦輪を蹴り飛ばす。

それを真正面から受け止めたオルタは、ほんの少し体勢を崩した。

 

戦士の誓いはとうに消え……我らは堕落した!

それでも俺は堕落を怒り、自分自身にも怒り続けよう!!!!

 

言葉が謡われ、アシュヴァッターマンから怒りと共に殺戮がほとばしる。

転輪よ、憤炎を巻き起こせ(スダルシャンチャクラ・ヤムラージ)ッ!!!!

 

オルタの両腕が、車輪と攻撃によってがりがりと削れていく。

 

「駄目……だ、それでは、私は、倒せない……」

分かってんだよ!!!!んなことはぁぁぁぁぁ!

 

アシュヴァッターマンが白い空を見る。

 

カルナァァァァァ!!!!

 

白が切り裂かれ、空が見えた。

薄い青に染まる、明け方の空。そこに、全力を解放した輝く太陽が浮かんでいた。

 

アルジュナ。

「カルナ……」

 

チャクラムを振りほどき、神が振り返ったときには全てが遅かった。

神の全力が乗った槍がオルタの胴体を貫き、封印するかのごとく、地面へ凄まじい勢いで突き刺さった。

衝撃で吹き飛ばされそうになった自分を、アシュヴァッターマンが掴んで助けてくれる。

 

「あぁぁぁぁぁ!!カルナ!カルナァァァァ!!!!」

 

オルタは首を振り、絶叫しながら、ぼろぼろの腕で槍を抜こうと試みたが、力は足りず。

そして……あきらめたのか、触れるような手つきで槍を撫でた。

地面に縫い止められたオルタが、こちらを見る。

 

「……マス、ター」

 

絞り出された声は、幼子のように震えていた。

 

喰われるぞ!マスター!!

 

アシュヴァッターマンの制止も聞かず、彼に駆け寄る。

 

「マスター、私、あなたを……」

最後の一言はいつまでたっても出てこず、彼は目を閉じる。

そして、槍で刺し貫かれているとは思えないほどの、穏やかな笑みを浮かべた。

がくりと首がうなだれ、神の体が粒子となってほどけ……朝焼けの中へ消えていった。

 

スーリヤよ。

 

カルナの声で我に返ると、彼は山の向こう側から昇ってくる朝日を見つめていた。

 

戦いを、観ていたのですか。

 

カルナの瞳は、勝利の後だというのにとても遠くを見ていた。

アシュヴァッターマンが肩を回す。

 

……インドマートに帰るぞ。

お前の姿を戻してやんないといけねぇし、アルジュナに説明する必要もある。

 

ああ。

 

カルナは朝日に背を向け、アシュヴァッターマンと共に帰っていく。

山に、一人取り残された。

「これでよかったのか」の言葉と、むなしさが胸の中を満たす。

ふと空を見上げると、金に輝くクワガタが茜色の空を飛んでいくのが見えた。

 

 

バッドエンド

『君が見た神の終わり』

彼はなぜ、最後に微笑んだのだろう。

それだけが、永遠に胸の内に引っかかってしまったのだ。

 

 

 

 

カーマに電話をかけた場合

 

黒電話がある……。

誰かに連絡しますか?

はい←

カーマ←

……カーマに、電話をかけた。

 

はーい。ちょっとおめかししてから行きますねー。

 

……民宿の玄関で、カーマを待った。

 

 

こんばんはマスター。月もない良い夜ですね。

はい?この姿?ええ、小さくてかわいいでしょう?

いいじゃないですか、それとも大きくします……?

冗談です、この姿だってお好きでしょう。知っていますよ。

それでは、暗い森へれっつごー!ごうごう!

 

少女の姿となっているカーマを先頭に、森へ足を運んだ……。

 

見つけました、アルジュナです。

 

アルジュナは地面を両手でかき混ぜている……。

 

……ふーん、そういうこと。すっごく非効率で自己満足な行為……。

ねぇ神様?本当に自己修復する気があるんです?そんなおままごとで。

 

アルジュナがカーマの声に反応し、顔をあげた。

……その瞳は、真夜中だというのに爛々と輝いている。

 

「カーマ……マスター……」

 

はいもうだめー。先に敵を認識してから獲物を確認しましたね?

それは、獣の所作です

マスター、下がって。もうあの神は味方でもアルジュナでもない。

 

金で飾られた弓が出現し、カーマがそれを構える。

 

……あなたを狙う、怪物です。

 

カーマが言った瞬間、軋むような音を立てながら、オルタの角が伸びていく。

天をついていた真っ直ぐなそれが、ばきばきとねじれ曲がっていく。

その形に、見覚えがあった。

第二の獣、ティアマト。第一の獣、ゲーティア。

愛故に変じ、愛故に人類を滅ぼす獣。

 

「マス、ター……」

 

オルタは、黒々とした瞳でこちらを見た。

 

はーい、殺しまーす。

 

角の成長を待たず、カーマの弓がオルタを狙う。

覇気のない声と同時に放たれた矢は、彼に容赦なく襲いかかったが、その体に届く前に、破滅の青を帯びた光によって消滅させられた。

 

……本当、めんどくさい。

 

カーマは地面を滑るように飛び、彼へ肉薄する。

黒の瞳と赤の瞳の視線が、吐息がかかるほどの距離で交差する。

 

かわいそう、たった一人の人間のせいで、獣になり果てようとしてる。

でも駄目、彼を愛する獣はこれ以上要らない。

 

冷徹な声で、カーマは黒き神へささやく。

オルタは答えず、両腕をもって小さな女神を叩き潰そうとした。

 

うふふ……怖い怖ーい!

 

カーマは舞う花びらのように、くるくるひらひらふわふわとその攻撃を避ける。

その姿は、大人の周りで声を上げて遊ぶ童女のよう。

 

分かります?マスター?彼、私をこーろーしーてー……。

 

オルタの瞳が輝きを増し……自分を捉えた。

 

あなた、食べてしまいたいのですって。

──そうでしょう?

 

……オルタが地面を抉れるほどの強さで蹴り、最短距離でこちらに迫る。

それを邪魔するため、ジャンプをしたカーマは、上空から桜色のナイフのような魔力の塊を数本放った。

桜色の刃は地面へ刺さり、自分とオルタの間に柵を作る。

浮かびながら、カーマは神をあざ笑った。

 

殺してあげましょう、アルジュナ。

かつて全ての神の愛を喰らい、飲み干した者。

聞き分けのない神は殺さないと……ね?

 

柵の内側からの、『待って欲しい』なんて、甘い提案は受け入れられなかった。

 

カーマはオルタヘ立て続けに攻撃を加える。

サトウキビの弓矢から曲がる桜色の閃光を無数に放ち、黒い魔力の宝玉で相手を取り囲む。

しかし、桜色の光は破壊の白で壊され、黒の宝玉は虹色の宝玉とぶつかり対消滅させられた。

攻撃を捌ききったオルタは、足でカーマの頭を切り飛ばさんと音速で振り回す。彼女は背を逸らし最小の動きで避けた。

……だが、それすら読んでいたと言わんばかりに、オルタは竜の王を思わせる尾を彼女の胴体へ叩きつけようとする。

カーマは気だるげな表情を変えず、地面をころんと転がり、致命的な一撃を避けた。

両腕両足、閃光、宝玉、弓矢。

オルタの追撃は続くが、童女の姿をした神はこともなげにかわしていく。

彼の左手が真っ直ぐに空をついた時、ようやくカーマは表情を変えた。

 

はぁい、捕まえた。

 

オルタの左腕を、遅れて他の四肢を、何かがしゅるりと拘束する。

それは、この戦闘が始まってから一度も使っていなかった……青白い光を帯びた、黒の触手だった。

 

……本当に、かわいそうな依り代、こんなものとすら縁があるだなんて……。

でも、今はありがとう。

 

触手で拘束された腕を、カーマは白い小さな手で撫で回すと、金のヴァジュラを出現させ、オルタの左腕を躊躇無く切断した。

 

「あ、ああ、ああああああ!!!!」

 

切断面から、赤い血とともに、オルタの体と戦闘力を支える魔力が流出していく。

 

「マスター、マスターァァァァ!!!」

 

カーマは白い髪に血が付いたのが気にくわなかったのか、その姿を一段階成長させた。

幼さは消え失せ、成長期を迎えたしなやかな女性の体が戦場に現れる。

左手に弓を携え、カーマは片腕の神に挑みかかる。

 

「私は、マスター、を、お、おおおおおお!!!!」

 

オルタは全身から青い炎を吹き出し、触手を焼き尽くした。

髪はどんどん白く染まっていき、角は複雑な形へ成長していく。

カーマを見据える瞳は飢えた獣のような狂気をはらんでいた。

 

その炎……本当に嫌い……嫌い、だいっ嫌い!

 

カーマのヴァジュラは青白い炎をまとって円を描き、オルタの四肢を切り落とさんと迫る。

オルタは目の前の障害を消し飛ばさんと、残った右腕で絶死の閃光を放つ。

しかし、互いに攻撃が当たることはない。

熱波により、森の木々が灰も無く消滅させられていく。

手負いの獣のようながむしゃらな攻撃を、落ちる花弁のような軽やかさでカーマは避けながら、神をなじった。

 

かわいそう、本当にかわいそうなアルジュナ。

世界も尊厳も奪われて、今度は人間性と神性も捨ててしまおうとしている……。

──ですが、貴方は獣になれない。

 

地表を焼く宝玉の攻撃を、カーマは踊るようにすり抜けていく。

 

誰か一人だけを特別扱いする愛なんて、人の時も神の時も、いだけなかったでしょう?

貴方がもてる愛は……見返り求めぬ大きな大きな大我だけ。

 

宝具である弓矢の一撃がカーマを執拗に追うが、彼女は浮かんでくるりと回ってそれに相対し、小さな愛の矢を打って、撃墜する。

落ちた矢が大きく地面を砕いた。

 

湧き上がって、ドロドロして、見返りが欲しくてたまらない、熱くて、蕩けて、どうしようもない……そんな個人への愛、小我なんて、もてっこないんです。

 

獣であった女神が、獣と成りつつある神へ憐れむような微笑みを投げる。

彼女に髪に結ばれた、贈り物の赤いリボンが、戦闘の余波でひらひらとなびいた。

 

だってぇ……そんな「英雄(アルジュナ)」、誰も求めていないのですもの。

貴方が獣に成るためには、「英雄(アルジュナ)」ってラベルを、全身からべりべり剥がさないと。

でも、そんな英雄でも神でもない、灰のような存在で、あなたの欲望が果たせるとは思いませんが。

 

彼の動きが止まり、そして。

 

「……起動」

 

世界を滅ぼす青い剣が出現した。

 

かっこ悪い……まるで逆ギレじゃない。

 

じとりとした瞳のカーマが、桜色の柵の内側で呆然と見ていた自分へ声をかける。

 

マスター。

令呪、切っちゃってください。……誰に何を命ずるか、分かってますよね?

 

どうする?

コマンド?

何もしない

令呪を使用する←

 

誰に?

カーマ←

アルジュナ(オルタ)

 

『令呪をもって我がサーヴァントに命ずる──』

 

『アルジュナ(オルタ)を、倒せ……』

右手の甲から、赤い光が瞬き、消えた。

 

……すごく嬉しいです、マスター。

全力で、彼、殺しちゃいますね……。

 

カーマは淫靡な笑みを浮かべ、サトウキビの弓を構え直す。

 

さあ、情欲の矢を放ちましょう?

 

彼女の姿が残像のように増えていく。

宝具の発動に入り、素早く動けないオルタは、身動きせずにそれを見据えると、眼球を輝かせ──。

 

あっぶない……シヴァ系の得意技じゃないですか。

 

破壊の一瞥を放った。

閃光により、カーマの内、数体が跡形もなく消し飛ばされる。

 

でも、残念。

私にはマスターがついている。あなたにはマスターがついていない。

 

無数のカーマが獣を取り囲み、鏃を向け、その矢を放った。

 

愛もてかれるは恋無きなり(カーマ・サンモーハナ)

 

かつて破壊神へ撃たれた矢が、その力を継ぐオルタに突き刺さる。

 

「あ、が、くっ」

 

矢は腕に、胴体に、容赦なく突き刺さり、痛みと共にある感情を獣に引き起こす。それは。

 

「あぁ……」

 

恋慕の情。

生気を失っていた黒い瞳に、敵意のない光が灯っていく。

角と白い髪に隠されていた顔の内側が、覗く。

 

「マスター」

 

その声は、確かに人のものだった。思わず、桜色の柵の中から手を伸ばす。

 

ほだされないで、マスター。

 

カーマの声で、はっと我に帰る。

 

駄目です、あの姿をまだ保っているのは、貴方を油断させるため。

貴方さえ食べてしまえば、獣は鎖から解き放たれ、この特異点を蹂躙し、喰らう。

──そして、獣としてカルデアで羽化する。

 

切り捨てるような発言を終えると、カーマは目の前で姿を変成させた。

体は女性として熟れて膨らんでいく。

四肢も髪の先も青く透き通って煌めき、さながら銀河のよう。

服は、蓮の花を思わせる金の飾りに変わっていった。

カーマの手の内にあったサトウキビの弓はさらりと崩れ、彼女の体と同化していく。

 

我は身体無き者(アナンガ)、星海滅ぼす火をその身に受けたもの。

 

再びその手に収まるは、雷神が振るったと謡われるヴァジュラ。

 

我はマーラ、堕落を言祝ぐ、万物の敵対者。

 

オルタの顔は、灰のような色合いの髪で隠されていて見えない。

 

私の(アーバ)が、あなたを殺す!

 

彼女の手足から生み出される無数の閃光が、曲線を描きオルタヘ迫る。

左腕を無くし、宝具を途中で止められたアンバランスな霊基では防ぎきれず、彼の体にぶつかった。

 

私の愛は縦横無尽!ねぇ?!もう避けられないでしょう?ふふふ……!

 

平行してカーマはヴァジュラを遠隔で操作し、容赦なく彼を削っていく。

飛び散った神の血は炎にさらされ、白い灰になった。

 

どうする?

コマンド?

何もしない

令呪を使用する←

 

誰に?

カーマ←

アルジュナ(オルタ)

 

……もう、見ていられなかった。

 

『令呪をもって命ずる……攻撃を、止めてくれ』

 

カーマはヴァジュラを止め、こちらを冷たく一瞥した。

 

なんですかそれ。私が悪いみたいな言い方……。

私、あなたのために、こんなにがんばっているのに。

 

桜色の柵を抜け、カーマの側に寄る。

 

『ありがとう……でも、もう、いいんだ』

 

……ふーん、じゃあ、後はお好きにどうぞ。

何があっても知りませんから、守ってあげませんから。

 

すねたような声を出すカーマの肩を、信頼の証として二、三度軽く叩いた。

そして、地面へ膝をついてうなだれているオルタの元へ駆け寄る。

 

「マスター」

『アルジュナ』

 

彼のねじれ曲がった角を撫で、長く伸びた白い髪をかき分ける。

顔には、しがみつくような人間性がにじみ出ていた。

悲しさ、寂しさ、悔しさ……慈愛。

 

「マスター、わたし、あなたを……」

 

それ以上、彼は言葉を続けようとせず……ただ、裏表のない、優しい微笑みを浮かべた。

──アルジュナ(オルタ)の首が落ちる。

それを行ったのは、彼が途中まで発動させていた宝具の刃であった。

獣と神の間の血が、全身にべったりとつく。

意志を失ったオルタの体が地面へ倒れ、粒子となって森へ消えていく。

空は、夜明けを期待させる茜色になっていた。

 

……はい、おしまいです、マスター。……一緒に帰りましょう。

 

カーマの手が自分の、二画の令呪が消えた右手を包んでくれた。

……彼の死に背を向け、カーマと共に民宿へ戻ることにした。

 

 

……カーマはマスターがこちらを見ていないことを確認してから、手をそっと開く。

 

本当に馬鹿な、人。

痛いよ辛いよ苦しいよって、早くぶちまけちゃえばよかったのに。

……泣き叫びながら、「助けてください」って言えば、誰かに助けてもらえたのにね。

 

カーマは手の内に残った金の粒子の一粒に語りかけた。

 

次に生まれるときは、もっと素直に、もっと弱く、生きられたなら……。

 

そして、それに優しく息を吹きかけ、明け方の空へ飛ばす。

粒子は輝く朝焼けに混じり、消えていった。

 

 

バッドエンド

『君が見た神の終わり』

彼はなぜ、最後に微笑んだのだろう。

それだけが、永遠に胸の内に引っかかってしまったのだ。

 

 

 

 

ジャンヌ・ダルク(オルタ)に電話をかけた場合

 

黒電話がある……。

誰かに連絡しますか?

はい←

ジャンヌ・ダルク(オルタ)

……ジャンヌ・ダルク(オルタ)に、電話をかけた。

 

そう。いえ、ちょっと意外だなと思っただけ。

民宿の玄関で待っていて。直ぐに準備すませて行くから。

 

真夜中の玄関先で待っていると、水着姿のジャンヌ・ダルク(オルタ)がやってきた。

 

なに?水着姿に不満が?

……別に、今から殺し合いに行くわけでもないでしょう、だからこの格好なの。

ほら、ボサッとせずについてくる。

 

暗い森を、彼女を先頭に歩いていく……。

 

いたわ、マスター。

 

……アルジュナ(オルタ)は、土に膝をつき、両手で何かをかき集めようとしている。

 

何をしているのかしら、黒い神様?

 

敵意の込められていない声をかけられ、アルジュナ(オルタ)は顔を上げた。

 

「魔力の……回収……」

 

視線はふらふらと揺れ、焦点がはっきりしない。

 

それ、カルデアとかマスターからもらう分では足りないの?

 

「足り……ない……」

 

鏡見た?早朝入稿が決定した時の私よりひっどい顔してるわよ。

 

「顔を……?ふっ、ははは……」

 

虚ろな瞳と顔のまま、アルジュナ(オルタ)は背を反らし、笑い始める。

 

「顔を?己の顔を?!!

こんな見苦しい……人の、顔を、私が!見たと!!!???」

 

その声は、まるで自らを裂かんばかりに悲痛な響きを含んでいた。

 

「見、た、見られて、見……いけないのに……ああ……」

 

彼の頭部の角と瞳が輝き始める、その光は銀河にも似ていた。

 

「…………マスター」

 

機械的な声と共に、アルジュナ(オルタ)の身にまとう魔力が一気に淀む。

 

ごめんなさいマスター、私コイツの地雷踏んだ。

……相当限界きてたのね。

 

ジャンヌ(オルタ)は腰に携えた日本刀を右手で引き抜く。

 

いいわ、ちょっと体動かせばガス欠になって大人しくなるでしょ。

マスターちゃんはそこで待機していて……大丈夫、絶対に殺さないから。

 

唐突にオルタの手から放たれた青白い光弾へ、彼女は指先を向けて赤黒い光弾をぶち当てる。

しかし、完全には勢いを殺せず、逸れた青の光が木に当たり、焼け焦げた丸い穴が空いた。

 

……すごい火力、灰すら残らないんだ。

 

冷静に判断するジャンヌ(オルタ)に、アルジュナの別側面が迫る。

彼女は焦らない。

彼の胴体から円状に帯のように発生した光波をかわし、その隙に喰らいつくかのように周りに発生した宝玉を、地面から噴出させた炎でどかす。

 

全部の行動先読みされてるみたいでゾッとするわ。

 

事実、彼女は防戦一方に見えるが、何より、彼女は全力を出していなかった。

薄い金の瞳が、気遣うようなそぶりで自分をちらりと見た。

 

『ジャンヌ(オルタ)』

分かってる。殺し合いに来たんじゃないの、私もアンタも。

 

短い意志疎通の後、視線が前方に戻される。

 

ねぇアルジュナのオルタ、何がしたいの?何がほしいの?

 

「……ほしくない、ただ、足りない、欠けていく、こぼれていく……」

 

……やっぱり、一度ゆっくり休んだ方がいいわ、アンタ。

 

豹のように身を屈め、飛び、ジャンヌ(オルタ)は二本の剣で打ちかかる。

しかし、彼に片手で右の刃を掴まれ、防がれてしまった。

右手を離し、左手に残る刃を続けて振るうが、それも片手で止められる。

剣を放棄し、空いた両手で打ち出した赤い炎弾は、彼の足元からあふれる光の柱に飲み込まれた。

攻撃の対処を終えると、オルタは無表情で異国の刃を手の内で砕き、燃やした。

……彼の両手から、鮮血が暗い地面へぽたぽたと垂れる

 

強情!

 

ジャンヌ(オルタ)は失った日本刀を魔力で再精製しながら、苦々しげに歯ぎしりをした。

 

 

──竜の魔女は思う。

(一手、一手足りない……!)

 

マスターの力があれば、殺すことは出来る。

けど、それはマスターの幸福には繋がらない。

 

(何かないの?!

こいつを殺さずにすんで、マスターだって守れる……そんな一手が……!)

 

 

──それは、野山を駆けていた。

故に、神は気にもとめなかった。

故に──。

 

ヘシアン!ロボ!

 

神の、虚をつけた。

 

 

飛び出してきた勢いのまま、マスターへ害をなそうとしている神の左腕に喰いつく。

 

「……!」

 

獣の牙で喰えぬなら、別の牙を振るうまで。

一度顎を離し、首なしの騎士へ次の攻撃を任せる。

異形と化した腕を、騎士は背上で振るうと、顎で噛んだ場所と同じ部分に、旋風のような傷を加える。

連撃は神の腕を少しずつ壊していく。

ぐらりと体勢を崩した神に全速力で襲いかかり──牙をもって、ぶつりと腕を奪い取った。

腕を加え駆けながら、白い女とマスターへ一瞥を投げた。

 

 

マスター!令呪を!

 

……その光景に圧倒されていたが、ジャンヌ(オルタ)の声で我に帰る。

 

どうする?

コマンド?

何もしない

令呪を使用する←

 

誰に?

ヘシアン・ロボ

ジャンヌ・ダルク(オルタ)←

アルジュナ(オルタ)

 

『令呪をもって、我がサーヴァントに命ず──』

 

『宝具を使用し、彼の異常を焼き尽くせ──!』

 

……ありがとう。修羅、いいえ、堕ちた聖女の本領を見せてあげる。

魔力、根こそぎ持っていくわよ!

 

彼女の宣言と共に、水着が火の粉となって消え、その下から漆黒の鎧を纏った四肢が現れる。

額には、救国の聖女と似た形の金属の飾りが。

上空へ投げた日本刀は、落ちる間に、茨の飾りがあしらわれた細身の西洋剣となり、再び彼女の手に収まった。

その白い腕も、流麗な作りの籠手に覆われる。

最後に現れた外套の上に、雲よりも白い髪が流れていく。

夜明け前の冷たい風が、彼女の髪を揺らし、頬を撫でた。

 

サーヴァント、ジャンヌ・ダルク。クラスはアヴェンジャー。

……令呪の命により、貴方を焼くわ。

 

浮かべた笑み、凛とした立ち姿は、さながら歌舞伎の大見栄。

ジャンヌ(オルタ)は両手に剣を携えると、片腕となった神へ挑む。

しかし、片腕になったとは言え神は神。

唇を喰い締めている彼女とは違い、無表情のまま、機械的に攻撃を軽くいなしていく。

金属と肉の打ち合う音が、夜の森に響き渡る。

 

ヘシアン!ロボ!飛び出してきたのなら最後までつき合いなさい!

 

狼王は無言で疾駆する。

彼女が神の攻撃に圧されれば、すかさず間に入り、体勢を直すまでの時間を稼ぐ。

破滅の閃光が迫れば、まどろみの騎士が狼王から受け取った刃を使い、光の軌道を逸らす。

──狼は、群で生き、戦う生き物なのだと、その有り様だけで証明していた。

神が両者に手間取っていると、ジャンヌ(オルタ)から刃が飛んでくる。

彼女は魔力を使い、次から次へと黒の剣を量産し、素早く移動しながら彼へ投げつけていた。

それらは弾かれ、地面へ突き刺さり、無意味な行動にも見えたが……。

 

「……これは」

 

それすら、彼女の策の内だった。

神が気づいた時には、剣で作られた大きな丸い檻が完成していた。

 

ええ、ようやく気がついた?

 

聖女の写し身は、にたりと笑う。

 

私が、アンタを寝かしつけようとしてるってこと!

 

ジャンヌ(オルタ)の周りの空気が、放出された魔力の熱でゆがむ。

赤の炎の間に、白く柔らかな長髪が揺らめいた。

 

これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……。

 

神は檻を壊すより上空へ逃げた方が早いと判断したのか、全力で地面を蹴る。だが、狼王の刃と首なし騎士の異形の手がそれを阻んだ。

──神が、落ちる。

 

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!!!!

 

オルタの全身を、ジャンヌ(オルタ)の業火が焼いた。

夜の森が一瞬だけ真昼のように明るくなり……火は消えた。

 

「マ、ス、ター……」

 

宝具を受けた彼が、電源の落ちた機械のように停止する。

ジャンヌ(オルタ)は衣服を再び水着に戻すと、彼に近づき、倒れそうな体を抱き止めた。

狼王と騎士はその様子を見届けると、薄暗い森の中へ消えていく。

 

……全く、神様ってやつは……いいえ、サーヴァントってやつは、やっぱりマスターありきね。

迷惑かけて、かけられて……。

ともかく問題は解決。こいつ抱えてインドマート行きましょ。

インドのことはインドよ、後は知らない。

 

片腕も無くなり、ぼろぼろとなっているアルジュナ(オルタ)を肩に担いだ彼女が、金の瞳でこちらを見る。

 

……マスター、私、ちょっとホッとしてる。

こいつを殺す羽目にならなくてすんだって。

アンタも……同じみたいね。ジメッとしてた顔がマシになってる。

傷は治せる範囲に留められてる……といいんだけど、自信なくなってきた……。

もう直ぐ夜明けね……色々聞かれたりして、忙しい一日になりそうだわ……。

 

オレンジ色の空を眺めながら、ジャンヌ(オルタ)と一緒にインドマートへと向かった……。

 

 

エンド

『封印された神』

インドマートでの数時間の話し合い末、アルジュナ(オルタ)は封印されることとなった。

永久にではない、この特異点攻略が終わり、不調が治るまでの話だ。

冷たい棺の中、美しい神は目を閉じ眠っている。

……治らなければ、死者のごとく永遠に眠り続けるのだろう。

 

 

 

ラクシュミー・バーイーに電話をかけた場合

 

黒電話がある……。

誰かに連絡しますか?

はい←

ラクシュミー・バーイー←

……ラクシュミー・バーイーに、電話をかけた。

 

分かった、支度をする。しばし待て。

 

暗い民宿の玄関で彼女を待った。

 

待たせたなマスター。

……この姿か?何が起きるか分からぬ故、戦仕度を整えてきただけのこと。

では、行くぞ。

 

赤い衣装をまとった彼女と、森の中へ入っていく……。

 

──待て。マスター、誰かいる。

 

彼女は眼差しを鋭くし、辺りを素早く見回す。

 

そこだな、出てくるがいい。

 

銃を森の茂みに向けると……。

 

……ガネーシャ神か。

 

ありがたい石像な姿のガネーシャ神が、鎮座していた。

 

率先して外に出ようとしない貴殿がなぜここに?

 

…………黙秘権を行使。

 

どうする?

コマンド?

『理由を教えてくれないか?心配だから』←

 

……だって、尻尾つきアルジュナさんに続いてラクシュミーさんまで真夜中に外出ていったら、流石のガネーシャさんも気になるッスよ。

 

む……神に近しきアルジュナが真夜中に外へ?

 

うん、最近よく行ってるよ。理由聞いたら「魔獣退治」って答えてくれた。

アタシが寝落ちちゃってる日もあるから、確実なこと言えないけど、ほぼ毎日……かな?

 

ラクシュミーが眉間にシワを寄せる。

 

魔獣相手ともなれば一対多が基本となる。

非常に危険だ……ガネーシャ神よ、なぜ一人で行かせたのだ?

 

えっと、色んなこと聞く前に「ついてこなくても大丈夫ですよ」って言われちゃって……何だろ、顔も声も優しかったのに、ちょっと、怖くって。

 

石像はかたかた震えている。

 

……すまない、過剰に責めるような口調になってしまった、私の悪い部分だ……。

その、ガネーシャ神よ、マスターと私は、森の中に見えた謎の発光の正体を探っている最中なのだ。

その正体は一人で戦っているアルジュナかもしれない。

共に探してくれないか?

 

……高級アイス三個で。

 

甘やかすなとパールヴァティー様から言われている。

だが、こんな真夜中に共に来てくれるのだ、高級アイス一個を後で贈ろう。

その力を頼りにしているぞ、では行こう。

 

ガネーシャ神は石像からいそいそと出てくると、ぽちゃかわ系サーヴァントになった。

一人増え、三人で森の中を探索をする……。

 

ん?何だろ、空気の流れがよどんでるって言うか……。

 

濃度の高い魔力を感じるな。強大な魔獣かもしれない、慎重に行こう。 

 

奥へ進むほど、森の木々がなぎ倒されている……。

 

マスター、あれアルジュナさんじゃないッスか?

ほら!角と尻尾見えるッス!

 

ガネーシャ神の指差した方を見ると、アルジュナ(オルタ)がおり、背を屈め、地面から何かを拾い集めている……。

 

負傷しているのかもしれない。マスター、私が様子を確かめてこよう。

 

ラクシュミーが小走りでオルタに駆け寄った。

 

神に近しきアルジュナよ。戦っていたのは貴殿だったのだな。

心配したマスターが迎えに来てくれたぞ。

ガネーシャ神も一緒だ、共に帰ろう。

 

オルタが顔を上げる……どろりとした何が、顔の半分を覆い隠していた。

 

……貴殿、何だ……何をしていた……?

 

ラクシュミーの声がはりつめていく。

オルタは肩に浮かんでいる二対の宝具を合体させると、光のごとき矢を放った。

 

──っ。

 

その場にいた全員が息を飲んだ。

……後方からどさりと音がする。目を向けると、首の消滅した大蛇が落ちていた。

 

……私達を守ってくれたのか。

だが、一言欲しかった、戦場での誤射の危険性を知らぬ貴殿でもあるまい。

 

ほっとラクシュミーは息を吐いた。

 

さぁ、疲れているだろう。インドマートへ……。

 

オルタは彼女の声が聞こえていないのか、ふらふらと歩き、大蛇の側に寄る。

そして、死体に手を伸ばした。

 

ダメ!そんなことしちゃだめ!

 

ガネーシャ神が叫ぶ。

 

あれ……何でダメって思ったんだろ……ガネーシャさん……?

と、とにかく、何しようとしてるのか分かんないけど、やめて、アルジュナさん!

 

オルタは手を伸ばした姿勢のまま、黒い瞳をぐるんと動かし、ガネーシャ神を見た。

 

「処理、しないと」

 

アルジュナ(オルタ)が指先で触れると、死体は真っ白な光に包まれて消えた。

……その光景に、見覚えがある。

 

なるほど、魔獣の死体はそのようにしていたのか……。

落ち着いたか?

では帰ろう、汚れを落とすため、風呂桶に湯を貯めた方がいいか?

 

ラクシュミーは腰を屈めて、座り込んでいるオルタの手を取ろうとした。

 

「……っ」

 

ラクシュミーさん!

 

ガネーシャ神の悲鳴と同時に、白い光をまとった腕が空を裂く。

ラクシュミーにその光は届かず、帽子から下がった赤布の一部がかき消えた。

 

アルジュナ……!どうしたのだ!

 

オルタの両手両足から、青白い光が漏れ出していた。

 

「……どうして、なぜ……」

 

彼がこちらを見る。

 

「マス、ター……」

 

その声が何の感情を持って震えているのか、分からなかった。

 

力が制御出来ていないのか……?!

ガネーシャ神はマスターの側へ!私が前にでる!

 

オルタの腕が、足が、透き通っていく。

よく磨かれた青い宝石、いや、遠い銀河の煌めきのような。

 

マスター、これは私の見立てだが、彼の霊基が破損を始めている。

力の暴走はそのせいだろう。

手荒な方法になるが、戦闘をし、彼の意識を奪った後、治療を受けさせる。

……それでいいか?

 

ラクシュミーの提案に、肯定の意味を持って頷く。

 

ガネーシャ神よ、戦闘の余波がマスターへ届かぬよう、守ってやってほしい。

 

……了解。

マップ兵器みたいなアルジュナさんの攻撃から、ばっちりマスターを守るッス。

 

ガネーシャ神は、手にハルバートのようなポールウェポンを出現させる。

ラクシュミーは右手にライフル銃を、左手にややそりのある剣を握った。

 

……仲間に、銃と刃を向けることになるとはな。

 

彼女は悲しみを帯びた声でつぶやくと、輝きを増していくオルタヘ真っ直ぐに突っ込んでいった。

 

っ……!

 

煌めく四肢から、ラクシュミーへ青の閃光が放たれる。

彼女は速度を緩めることなく向かい、光に対し横から剣を滑らせるように沿わせ、角度をわずかに変える。

対象から外された青い光は空へ飛んでいき、分厚い夜の雲に大きな穴を作った。

次の攻撃も、彼女は足を止めることなく最小の動きで対処する。

弾かれた際、空へ向かうことの無かった光は森の中を真っ直ぐに進んでいき、当然こちらにもやってくるが。

 

よっ!ほっ!

 

ガネーシャ神が武器を数度振るい、守ってくれた。

 

『ありがとう……』

 

いいッスいいッス!こんなのリズムゲームみたいなもんだから!

……神パワーあっても、ワンミスで即死なんスけどね。

まぁ、マスターは気にせず、いつでも指示出来るように構えておいて!

 

ラクシュミーがオルタの元へたどり着く。

 

神の息吹き受け継ぎしアルジュナよ!しばし眠れ!

 

刃をくるりと回し、峰で彼に向け打ちかかるが、更に上段から落とされた足の一撃で武器は粉砕された。

ラクシュミーは瞳を動かし状況を見据え、右手に残された柄を素早く捨てる。

次に銃を左手から持ち替え、鈍器として使い、胴体を狙うが、片腕で防がれてしまった。

止められてしまった銃を地面へ発砲し、その反動でオルタを少しだけ退かせる。

一度大きく後方へ飛んで距離を取ったラクシュミーは、両手で銃を握り、オルタへ連続して射撃を行ったが、噴き上がる炎の壁に弾は全て溶かされた。

 

くっ……。

 

当然、距離が離れれば雲すら消滅させる光が襲いかかる。

ラクシュミーはこちらへ光線がいかぬよう駆け、自らの位置を調整した。

何本もの光の間を走り抜け、再び接近戦へ。

先ほどと同じ様に、剣の峰で打ちかかる。

オルタの足が同じ様に動き、剣を踏み砕く。

ラクシュミーは次の行動を変え、銃口を彼の頭部へ向けると、引き金を引いた。

一発の弾が飛んだが、それより速くオルタは動き、首を少し傾げるだけで攻撃を避ける。

そして、彼女が逃げるより先に、胴体……銃のそれを掴み、ぐにゅりと握り潰した。金属の部品がバラバラと地面へこぼれていく。

銃も剣も一瞬にして失った彼女は、次に放たれた音速の回し蹴りを、頭と腰をぐんと落としてかわした。

遅れて動いた白い髪の数本が、青い軌跡を残す攻撃にぶつかり、消滅する。

綱渡りのような攻防を、ガネーシャ神と自分はじっと観察していた。

 

……あのアルジュナさん、距離によって取る行動決めてる、だからあんなに正確に、かつ魔力消費少なく動けるんだ。

まるで対戦ゲームのCPU相手にしてるみたい。

 

ラクシュミーは無手のまま、近距離で戦いを続けるが、徐々に防戦一方になっていく。

褐色のなめらかな肌に、冷や汗がびっしり浮かんでいた。

それでも彼女が退かない。

……マスターである自分がいるからだ。

しかし、ひりつくような攻防は唐突に終わりを告げる。

 

「……破壊を」

 

彼の角が、両手が青の輝きを増していく。

そして──。

 

『……!』

 

死が、見えた。

 

マスター!

 

ラクシュミーの叫びの後に、流星の如き光が星空から降り注いでくる。

 

動いちゃダメ!

 

悲鳴に近い声を上げながら、ガネーシャ神は武器を振るい光を弾いてくれた。

 

大丈夫、アタシ、一人じゃない。

ガネーシャさんも、ラクシュミーさんも、マスターだってついてる……!

だからぁ!!

 

真っ白な閃光が目の前を埋め尽くす。

 

……ぁ。

 

その中で、放心したような声が聞こえた。

 

嘘だ。

 

ガネーシャ神の目の前に、瞳輝く神がいた。

……先程まで無傷だったラクシュミーが地面にうつ伏せになって、倒れていた。

体は、呼吸すらしていないように見える。

 

嘘、嘘!

 

神の両手が機械的に迫る。それをガネーシャ神は武器の柄で弾くが、状況は好転しない。

 

焦るな……大丈夫、まだ、大丈夫、ラクシュミーさんは、大丈夫!!

 

己を鼓舞する言葉を呟きながら、一撃一撃が消滅に繋がる連撃を受け止め、逸らす。

 

右、左、足、尻尾!……大丈夫、対応できてる!

落ち着け……落ち着け■■■=■■■■!!!!

 

どうしますか?

コマンド?

逃げる

令呪を使用する←

 

誰に?

ガネーシャ神

ラクシュミー・バーイー←

アルジュナ(オルタ)

 

倒れているラクシュミーの霊基を、令呪を使い修復する。

……指先がぴくりと動き、暗い土をかいた。

 

『ラクシュミーの怪我は治した!』

 

ガネーシャ神にそう伝えると、彼女は少し落ち着きを取り戻す。

 

どうしますか?

コマンド?

令呪を使用する←

 

誰に?

ガネーシャ神←

アルジュナ(オルタ)

 

『令呪をもって命ずる。宝具を解放し、アルジュナ(オルタ)を打ち倒せ!』

 

……分かった!マスター!

 

ガネーシャ神は石像を一瞬にして身にまとうと、オルタに全力を乗せた体当たりをする。

放たれた必殺の一撃を、交差させた両腕で鈍い音を響かせながら防いだが、強い衝撃を受け、両足を地面にこすらせながら後ずさる。

 

宝具、いくッス!

 

ガネーシャ神がいつの間にか増設していたロケットブースターを点火させ、上空へ浮かぶ。

それを目でとらえたアルジュナ(オルタ)は、四肢からこぼれていく光で刃を作り、音速以上の速さで飛ばした。

それを正面から受けたガネーシャ神は、あっさりと両断された。

 

『……っ』

 

──だが。

 

中の人などいない!

 

神によって両断されたガネーシャ神の石像の中は──空。

 

囮ッスよ!高火力ボス相手には定石!

 

真後ろから、本体が迫り来る。

 

くらぇぇぇぇぇぇぇ!!!!肉弾よ、翌日から本気であれ(ガーネッシュ・インパクト)

 

虚をつかれ、対処が遅れた神は、圧倒的質量に押しつぶされた。

 

……これじゃあ一手、足りないよね。

 

絶望と諦めを含んだガネーシャ神の声の後、へこんだ地面からオルタは体をぎくしゃくと起こした。

黒い髪は土で汚れ、灰色になっている。

……その髪に覆われた顔の内側にある眼孔が、強大な熱を秘めた魔力を集め始めた。

 

ラクシュミーさんと一緒に逃げて、マスター。

心配しないで。ガネーシャさんガチタンクだから、あんな攻撃へっちゃらッス

 

誰が聞いても分かるほどの、穏やかな声の、虚勢だった。

 

──足りないのであれば。

 

力を貯めつつある彼の背後にラクシュミーが一陣の風と共に立っている。

 

一手足せばいい。

 

そして、ぽこりと剣の峰で叩いた。

……がしゃんと、電池が切れたロボットのようにアルジュナ(オルタ)が地面へ倒れる。

 

終わった、な。

 

ラクシュミーとガネーシャ神、二人は同時に重たい息を吐いた。

 

……ガネーシャ神よ、感謝する。

マスターも、令呪の使用と方法が適切だった。

 

いやぁ……ヒーヒー言ってて、格好悪かったし。

 

ラクシュミーが膝をつき、オルタを抱き起こそうとしたが、痛みでうまく体が動かないようだ。

ガネーシャ神も戦闘での緊張が解けてしまったのか、ぺたんと腰が抜けてしまっている。

 

……あー……ムシカくーん。

 

ひょこっと、森の茂みから彼女の眷属である愛らしいネズミが出てきた。

 

誰かヘルプ呼んでき……えぇぇぇ!!??

 

それだけでなく、紫のゆったりとした豪華な衣装に身を包んだ、少女も出てきた。

 

マ、ママン!

 

破壊の神シヴァの妻、女神パールヴァティーがこちらを凛と見ている。

 

ガネーシャ。

 

ひゃい……。

 

ラクシュミー。

 

はい。

 

マスター。

 

『はい……』

 

空気がぴんと引き締まる。

 

……致命的な怪我は無いようで、何よりです。

到着が遅くなってしまいごめんなさい。

 

パールヴァティーはそう言うと、腰を落とし、順番に肩を撫でてくれた。

 

……みんなで帰りましょう、インドマートへ。

カルナもアシュヴァッターマンも、無事を祈ってくれています。

 

ぽろりと、ガネーシャ神の目から涙がこぼれる。

 

……あ、あれ、なんでだろう、アタシ、変な感じ……。

 

頑張りましたね。ガネーシャ、■■■=■■■■。

 

パールヴァティーは泣き出した彼女を包容し、背を何回も手で撫でる。

ラクシュミーは、その光景を穏やかな眼差しで見つめていた。

 

……お互いを思い合う親子というのは、良いものだな。

 

そして、こちらを見る。

 

アルジュナのことは、来てくださったパールヴァティー様にお任せしよう。

帰ろうマスター、一緒に。

 

座り込んだまま差し出された彼女の手は、傷だらけだった。

その手を迷わず握り返し、頷く。

 

そんな顔をするな。アルジュナのことは、きっとうまくいく。

……この間みなで見た映画の受け売り、なのだがな。

 

山の向こうから太陽が顔を出し、一日の始まりを告げていた。

 

ノーマルエンド

『封印された神』

インドマートでの数時間の話し合い末、アルジュナ(オルタ)は封印されることとなった。

ずっとではない、この特異点攻略が終わり、不調が治るまでの話。

冷たい棺の中で、神は目を閉じ美しく眠っている。

……治らなければ、死者のように永遠に眠り続けるだろう。

 

 

 

 

白と黒の一対の剣を持って行った場合

 

ロビーには黒電話がある……。

誰かに連絡しますか?

いいえ←

 

……受話器を置いた。

荒野と剣の丘の夢、彼から、かつて剣であった彼から贈られた、白と黒の剣を強く握りしめる。ボロボロに見えるが、とても頼もしい。

覚悟を決め、一人で向かうことにした。

光を頼りに歩くと、森にたどり着く。

見つけた。

……アルジュナ(オルタ)が、森の中でうずくまっている。

彼は何かを抱き抱えたまま、こちらをゆっくりと見た。

 

マスター。

 

──見たな。

 

私の、顔を、見たな?

 

──は。

は、は。

ははは。

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

ははははははははははははははははは!!!!!!!!

はっ……。

うう……ごほっ……こほっ……けほっ。

こほ……うぅっ……はぁ……はっ……。

──ああ。

もう、終わりですね、マスター。

私、見られてしまったから。

 

アルジュナ(オルタ)はゆっくりと立ち上がった。

 

マスター。

私、願ったのに。

「一人で行動するのは止めてほしい」と。

でも、あぁ、ああ、ああ…………!

マスター、人は、死にます。

失われます。

傷つきます。

磨り減ります。

なぜか?

──人は、完全な存在ではないから。

 

彼は揺れながらこちらへ近づいてくる。

 

マスター。

 

深い響きの声と共に、アルジュナ(オルタ)の手が伸ばされたが──。

 

『……!』

 

それに反抗するように、自分は白と黒の剣を両手に持って構えた。

彼は首を若干傾ける。

 

……無理だ、それでは。

 

『自分は、そうは思わない』

 

返答の後、彼の黒々とした瞳の色が変わっていく。

 

マスター、私、あなたの、こと……。

 

言葉は最後まで告げられず、瞳孔が死者のごとく大きく開いた。

 

う、あ、あぁぁぁぁぁ!!!!

 

背を逸らしながら叫んだその咆哮は、断末魔と同意だった。

短かった筈の彼の角が輝きを放ちながら伸び、別れ、ねじれていく。

獣の、角だ。

深く息を吸い、臆することなく白と黒の剣を構える。

構えは、自然とこの剣を託してくれた人物と同じ形をとっていた。

着ている礼装の力を貸り、体から剣へと魔力を流していく。

目が燃えるように熱くなり、一度まぶたを閉じた。

──荒野が、見える。戦いが見える。

名前の付けられない無数の死と悲劇が見えた。

……圧倒的力によって燃え尽きていく日常も。

そして、深い闇に視界が包まれる。

一人、考える。

この光景は、誰かがたどった道、誰もがたどる可能性のある道。

……自分は、そんな道を誰かにたどらせるのは嫌だと思った。

でも、もし、たどる人が目の前にいたならば。

 

「──ついて、来れるか?」

 

せめて、ついて行きたいと。

目を開き、前を見る。

闇の中での思考の間に、アルジュナ(オルタ)の姿は変貌していた。

 

……マスター?

 

角は伸びてねじれ、銀河を内包しているかのような複雑な青の光を放ちながら冠のように彼の頭を飾っていた。

瞳からは、空気を焦がす七色の雷光を煌めかせている。

四肢は透き通って、その内側で青い炎が巡りながら燃えていた。

……そんなにも色にあふれているのに、彼の髪だけは、灰のように生気のない白を押しつけられていた。

 

……マスター。

 

ふわふわと、彼の足が地を離れていく。

 

……マスターァァァ!!

 

透けた青の手のひらがこちらに向けられ、光線が発射された。

 

『はぁ!』

 

両腕が勝手に動き、初段の光を切り飛ばす。

次の光は身をよじって避け、その勢いを利用して地面を転がる。

今まさに転がっている暗く湿った土が、熱を持ち始めた。

攻撃の予兆を体は感じ取ったのか、一秒も使わず起き上がって前方へ駆ける。

その足跡を追うように噴き出す炎の柱が出てきたが、その間を鹿のように跳ね飛んでいく。

 

『かっ、かはっ、こひゅ……』

 

当然、人が反応できる速度を超えていた。

たった数十秒の回避行動で全身からめりめりと音がし、目の前が暗くなったり明るくなったりを繰り返す。

それでも、止まるわけにはいかない。

アルジュナ(オルタ)は明らかにおかしくなっている。

治してあげたい、止めてあげたい。その一心が、体を動かし続ける。

限界以上に体を行使しながら、瞳を細かく動かし、彼を見る。

異変の原因を探る、探れ、探れ──!

 

『──観えた!』

 

黒いもやのようなものが、彼の心臓の辺りにわだかまっていた。

あれをえぐり取れば、アルジュナ(オルタ)は元に戻る!

逃げ回っていた足を、彼の方へ向けた。

 

『アルジュナァァァァァ!!!!』

……っ!マスターァァァァ!!!!

 

二振りの剣で光を切り払いながら突進する。

逸れた攻撃は大地を割り、森を消し飛ばし、夏の雲を散り散りにした。

それがもし自分に当たったら……何て、考えている暇はない。

一時的とはいえ、英霊の力を降ろした体が限界を迎え始めた。

筋繊維がみぢみぢと千切れていく、神経が焼けただれていく、どろりとした血が鼻と口からこぼれ出る。

構わない、関係ない。前へ、彼の元へ。

 

……!

 

雷光ほとばしる瞳の奥にある、彼の瞳孔が縮小する。

……そこに、泥と血にまみれた自分が映っていた。

 

どうする?

コマンド?

何もしない

剣を突き立てる←

 

……残った力を全てのせ、彼の心臓へ、白と、黒の剣を突き立てた。

アルジュナ(オルタ)の角が砕け散り、遅れて傷口から血が噴き出した。

二人とも力尽きて、どさりと地面に転がる。

 

『アル……ジュナ……』

 

倒れていた状態から頭を上げる。

視界の一部が黒くごっそりと欠けていて、よく見えない。

半端な闇の中で彼を捜すと、ぬるりとした血にまみれた彼の胴体に手が届いた。

 

どうする?

コマンド?

令呪を使用する←

 

誰に?

アルジュナ(オルタ)←

 

……令呪を使用し、彼の霊基を修復した。

ああ良かった、アルジュナ(オルタ)は助かった。

これできっとハッピーエンドだ。

 

『アルジュナ、もう、大丈夫、大丈夫、だから』

 

彼に声をかけ続ける。

そんな自分自身の声も、遠くなっていく。

体に触れていた土の感触も、鼻血のせいで鉄臭かった匂いも、アイスが溶けるみたいに消えていった。

全身をむしばんでいた痛みすら、何だか懐かしい。

 

『大丈夫だよ。大丈夫……』

 

何も見えず、聞こえないけれど、彼へ声をかけ続ける。

……上下すら分からぬ闇の中、ずっとそうしていた。

 

エンド

『しばしの休息』

少し疲れてしまった。暖かい闇の中、目を閉じよう。

目を開けた時、懐かしい景色と人々にもう一度会えることを信じて。

今は、少しだけ眠ろう。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。