その30
2019/08/01
夏休み特異点(アルジュナオルタルート)
セーブ中です……
乳海で痛む体を何とか動かしながら、真っ直ぐに前へ進んでいく。
そして、ようやくその姿を目に映せた。
──彼が、アルジュナ(オルタ)が、一面の赤の彼岸花の中にいた。
体は立ったまま、巨大な剣で胴体を斜めに貫くよう地面に縫い止められ、青い美しい炎が全身を覆っている。
角は伸び、ねじれ、輝く王冠のように彼の頭部を飾っていた。
どうする?
コマンド?
目を逸らす
声をかける←
『アルジュナ』と、彼の名を、距離があるので大声で呼んだ。
……何だか、この響きを口にするのが懐かしい。
だれ、だ。
彼が炎の中で顔を上げた。
思い、だせない、だしては、いけない……。
火の向こう側に見える、薄い黒色の瞳は虚ろだ……。
どうする?
コマンド?
目を逸らす
プレゼントをする←
何を贈る?
オウゴンオニクワガタ←
オウゴンオニクワガタを手のひらに乗せた
いつか捕まえた大切な思い出は、解き放たれ、飛んでいってしまった。
彼は首をわずかに動かし、それを目で追った。
もう一度名を呼ぶ←
『アルジュナ』と、彼の名を呼んだ。
瞳の焦点が離れた場所にいる自分に合うと、彼は唇を噛み、苦しげな表情を見せた。
マスター……ああ、どうして、なぜ。
猛毒と忘却の乳海は、誰にも越えられないはずなのに。
『踏み越えてきた』
そうか、耐毒、いや、私の、心の弱さか。
あなたにもう一度会いたいなどと……。
剣で……こうして記憶も何もかも焼いているのに、思い出してしまった。
消し去らなければ、この想い……。
アルジュナ(オルタ)は剣に貫かれながらうめいている。
どうする?
コマンド?
アルジュナの元へ←
……まだ、彼が遠い。
乳海で焼けた足を、彼岸花にくすぐられながら一歩ずつ近づいていく。
そして、再び声をかけた。
『君を、助けに来たんだ』
その言葉に、黒々とした瞳孔が一瞬だけ大きくなった。
マスター、あなたに私は救えない。
……人間だから。
『君に、会いに来たんだ』
私は、あなたに会いたくない……。
『どうして怯えているの?……何をそんなに恐れているの?』
あなたの……死だ……!
彼は目を見開き、声を荒げた。
死が、いずれ絶対に訪れる別離が、恐ろしくてたまらない!!
人は死ぬ……神ですら死ぬ……この世に失われぬ者などない……。
あなたは……それが怖くないのか……?
『怖くない』
……嘘だ。嘘だ!
『死んだって、全部なくなる訳じゃない』
死は隔絶だ!
塵すら残らぬ消滅だ!
それが恐ろしくない命など存在しない!!
『怖くない。……それに、死んだとしても、心はずっと大切な人と一緒にいる』
……そだ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁ!!
アルジュナは炎の剣に貫かれたまま、裂けそうな体で弓を構えた。
そう言ったものから死んでいった!私は知っている!
恐れないと言うのなら、この矢を受けてみろ!
太陽の神の子を殺した矢だ!
数多の人の命を奪った必殺の矢だ!
私を理解しようとした者を!ことごとく殺し尽くしてきた血濡れの矢だ!
これを前にしても恐怖を抱かないと?!
穿たれても死なないというのか!人が!!
『死なない、怖くない』
言った。
ぁ……ああ、ああああああああ!!!!!
矢が彼の手から放れ、空を飛んだ。
目の前に美しい矢がせまる……やけに時間が遅く感じる。
どうする?
コマンド?
『真っ直ぐに彼を見つめる』←
『微笑む』
アルジュナ(オルタ)から放たれた矢は直前で首を逸れ、左腕に当たり……そしてちぎれた。
肩から関節ごとがっぽり外れた腕は転がって、後方へ。
彼岸花に埋もれながら、青く燃え尽きた。
衝撃で体のバランスが大きく崩れ、膝をついてしまう。
真っ赤な地面に、真っ赤な血がこぼれていく。
令呪のやどる右手で拳をつくり、叩きつけるように支えとして、脂汗をにじませながら立ち上がる。
痛みで下を向きそうになる顔を前方へ。
…………まだ、倒れるわけにはいかない。
例えこの体全て失ったとしても、彼に伝えるべき言葉がまだ心にあるのだから。
オウゴンオニクワガタを失いました
左手と左腕を失いました
(『夏休み帳』から確認できます)
オウゴンオニクワガタ
12000くらいの価値がありそうだ。
別れの言葉かける時も無く、飛んでいってしまった。
でも、またどこかで会えるはず。
左手と左腕
家族、友達……燃え盛る炎の中で出会った大切な人。
生まれてから今まで、本当に色んな人と手を繋ないできた。
手も腕も、きっと誰かと繋ぐためにあるのだ。
矢がせまる中微笑んだ場合
どうする?
コマンド?
『微笑む』←
金の矢が目の前にせまったが……臆せず微笑んだ。
──結果、首が飛んで、彼の言うとおり命を奪われた。
急回転する視界の中でも、涙をこぼすアルジュナ(オルタ)の顔が、はっきりと見えた。
……民宿の自室で目を覚ました。
悲しい夢でも見ていたのか目元が濡れている。
洗面所で顔を洗った後……なぜか、頭を触ってしまった。
部屋に戻り、今日の特異点探索の準備をする。
『夏休み帳』、筆記用具、塩アメ……アイスの当たり棒。
自分では当てた覚えがない、誰かに貰ったものだろうか?
引き換えに行こうと考え、立ち上がりインドマートへ向かった。
アイスの当たり棒
買ったお店へ持っていくと同じアイスと引き換えてもらえる。
次に当たる機会はもう無い。
バッドエンド
『君が見た神の涙』
あなたを心の中で殺した時、彼は泣いていた。
その涙の理由を、永遠にあなたは知ることはない。
空に輝く星が一つ消えたが、誰も気がつかなかった。
その31
2019/08/02
夏休み特異点(アルジュナオルタルート)
セーブ中です……
どうする?
コマンド?
背を向ける
真っ直ぐ進む←
片腕のない状態で、不安定に揺れながらアルジュナ(オルタ)に近づいた。
彼は首を振り、その歩みを拒絶する。
これ以上、近づけば、マスター、あなたを蒸発させます。
神の怒りをもって、瞬きのうちに。
『怖がらないで。君に、会いに来たんだ』
アルジュナ(オルタ)は、剣で縫い止められ、どこへも行けない体で告げる。
……マスター、乳海を渡り、帰って、下さい。
特異点に戻り、全て忘れて、過ごしてください。
このままではあなたを……私……!本当に殺してしまう……!
全てを諦め、燃え尽きようとしている彼の元から、輝く矢が次々に飛んでくるが、当たる寸前に迷い子のように曲がって逸れ、後ろへ飛んでいく。
着弾点にある無数の彼岸花が衝撃で舞い上がった。
散った花びらは赤い雪のようにふわふわと空から降り注ぎ、その中を歩く。
足取りは重いけれど、迷いはない。
……ようやく、アルジュナ(オルタ)の所までたどり着けた。
目の前に、彼がいる。
どうする?
剣を抜く←
迷いはなく、恐怖もない。
彼の眼前に立ち、胸を貫いている剣の柄を右手で握った。
……剣から青い炎が伝わり、右腕を登っていく。顔が火であぶられて熱い。
やめてくださいマスター……。
燃え立つ彼の瞳に、自分の姿が映っているのが見えた。
頭から角なんて生やして、全身は傷と泥にまみれ、ひどくぼろぼろになっている。
でも、その目には光が宿っていた。
あなたに、そんなことをして貰う価値なんて、私には……。
剣を、ゆっくりと引き抜いていく。
青い炎が、腕の次に胴体を燃やし始めた。
……幸いなことに、ちぎられた左腕の断面は炎であぶられて塞がった。
熱にも負けず、落ち着いて、冷静に、彼を苦しめている原因を体から引きずり出した。
赤い地面へ投げ捨てると、剣はあっという間に自身を燃やし尽くして灰となる。
……彼と自分を覆っていた青い炎は勢いを無くし、消え去った。
支えを失い、倒れようとする彼の体を、片腕だけで抱き止める。
彼の胴体は胸の辺りに穴が空き、のぞく内側は白く燃えてしまっていた。
王冠のような青い角に、彼岸花の花弁が降り積もり、光を通して輝いている。
……なぜ、そんな、姿になってまで、私を……。
息も絶え絶えな彼に、言葉を返す。
『大切な、友達だから』
そう、言った。
……私は、壊れてしまった、だから、自らを、処分……。
『体も心も、少しずつ治せばいい』
だが。
……起動。
頭上を見る。
花弁舞い散る赤々とした空に、巨大化した宝具の青い刀身が現れていた。
燃える剣
青く燃え立つ剣。何もかもを滅ぼす熱が込められている。
これに貫かれたものは、一切合切全てを失い灰となる。
誰であろうと、この熱のもたらす痛みと喪失感に耐えることは出来ない。
……よほど我慢強い者でない限りは。
その32
2019/08/03
夏休み特異点(アルジュナオルタルート)
セーブ中です……
……アルジュナ(オルタ)は、宝具によって自分自身を粛正しようとしている。
世界はひび割れながら縮小し、壊れ、果てが見え始めた。
──黒い、何の明かりもない暗闇だ。
地面が丸テーブルのように傾く。
凄まじい揺れによって、彼が、腕の中から離れていき、何の抵抗もしないまま滑り落ちていく。
とっさにアルジュナ(オルタ)の右手首を掴み、落ちないよう、崩壊を始めた世界の地面に足をめり込ませた。
世界はますます傾いていき、彼の体は闇へと近づいていく。
……手を離せば、彼は今にも底へ消えていってしまいそうだ。
どうしますか?
コマンド?
手を離す
手を離さない←
アルジュナ(オルタ)が黒い瞳に絶望を湛えてこちらを見る。
マスター、手を離してください……。
私こそが、あなたにとっての最大の邪悪……。
悪は、裁かれなければならない。
どうしますか?
コマンド?
手を離す
手を離さない←
左腕は無いので、アルジュナ(オルタ)を完全に引き上げることは出来ない。
レオニダスブートキャンプでもっと鍛えておけばよかった。
……手を握る力を強めた。
我は神の意思をつぎ、星の灯火は消え……私は、私自身を最たる邪悪として裁く。
背中から宝具の熱を感じる……。
どうしますか?
コマンド?
手を離す
令呪を使用する(残り三画)←
『令呪をもって、我がサーヴァントに命ずる──』
『宝具の使用を禁じる』
そう告げた瞬間、彼の表情が変わった。
目に光が宿り、焦りと疑問が顔に広がっていく。
…………宝具のエネルギーが高まっていくのを背中で感じる。
令呪一画で、私は止められない……!
もうだめ……なんです……!諦めて!手を離して!
あなたを殺したくない!マスター!!
どうしますか?
コマンド?
令呪を使用する(残り二画)←
『重ねて令呪をもって命ずる、宝具の使用を禁じる』
何故……!?私が死ねば、あなたは助かるのに……!
『一緒に、盆踊りをするって約束したじゃないか』
全身で彼をつなぎ止めながら言う。
私……もう、忘れてしまったんです、思い出せないんだっ……!
だから、マスターも、私を……。
忘れて、居なかったって、そうなってくれれば、辛くなんか……。
『彼岸花を見に行こうって、約束したじゃないか』
あの時の会話を繰り返す。
すごく、大切な記憶だった筈なのに、探しても、どこにもない……!
あったって、感覚があるのに、何も……!何も!
『何回だって、約束をすればいい。思い出は、また作ればいい』
あ、あ……。
『思い出せても、出せなくても、いい』
どうして……どうして、諦めてくれないんだ……。
『諦めない。だって──』
壊れていく世界の中で。
『君の姿が瞳に映ったとき、もう一度巡り会いたいと思ってしまったのだから』
言葉を伝えた。
……ひどく残酷で、傲慢なことを言っている自覚は、あった。
私は!俺は……!!
う、あ、ああああああ!!!!!
彼は、角を振り乱しながら絶叫する。
空間が軋む音がする。宝具はまだ止まりそうにない。
どうしますか?
コマンド?
令呪を使用する(残り一画)←
『宝具の使用を禁じる』
『君と一緒に、生きていきたいんだ』←
最後の一画にのせて、アルジュナ(オルタ)へ心からの言葉を贈った。
『君にもっと、笑っていてほしいんだ』
自分本位で、押しつけがましくて、身勝手かもしれないけれど……伝えた。
マス、ター。
私…………。
最後の令呪が、手の甲から赤い光を放ち、風に吹かれた砂絵のように消えていく。
アルジュナ(オルタ)の目から、涙がいくつもこぼれた。
呼応するように、彼のねじれ曲がった青い角も砕け、崩れていく。
涙は頬を伝い、雫の欠片と角の欠片、二種類の青が、闇の底へ輝きながら落ちていった。
どうしますか?
コマンド?
手を離さない←
宝具が、放たれた。
廻剣によって、凄まじい轟音とともに、世界は、アルジュナ(オルタ)の精神世界は両断され、続く爆発により粉々となった。
ステンドグラスのように輝く心の欠片と一緒に、光の見えない暗闇へ落ちていく。
彼を決して離さぬようにと、強く強く握りしめたまま。
こんな明け方にどうしました?ラクシュミー・バーイー。
パールヴァティー様!
それが……突然インドマートの警報用のブザーが誤作動して、勝利の鐘の音の様なものが店中に!ああ……これも私の不幸のせいか……?!
あらあら、これ、どうやって止めるのでしたっけ?
アルジュナー!カルナー!アシュヴァッターマーン!降りてきてくださーい!
ガネーシャもカーマも!寝てないで出てきなさーい!
大丈夫です!私一人で何とか!なっ……!近隣のサーヴァントや住人達も、こんな明け方に何事かと感じたのか集まってきてしまった……!
うう……しかし、私が不幸を招き寄せた分、どこかで誰かが幸せになっていると考えれば……うう……。
令呪を消費しました(残り0)
『???』→『君と彼の思い出』が解放されました
(『夏休み帳』から確認できます)
セーブ中です……
令呪
全部で三画ある、マスターの証。人によって形は違う。
カルデアの令呪は一日一画回復し、そこまで強い強制力を持つわけではない。
だが、多くのサーヴァント達は思うところがあるらしく、これを使用されれば、元気になったりやる気が出たり、成層圏から落ちてくる質量兵器を受け止められたりする。
『君と彼の思い出』
スイカ、買い物、魚釣り、潮干狩り、お見舞い、雨、影絵、映画、バードウォッチング、童話。
全部で10個。君は全てを取り戻し、大切な者の死に怯える彼の心を革命した。
さぁ、星の海を歩き、共に暁の空を見に行こう。
一回目と二回目に「手を離すか」を問われた際、放した場合
……彼の言うとおり、手を離した。
闇の底へ、彼は落ちていく。
マスター、それで、いいのです。
彼の黒い瞳の表面が潤み、涙があふれ出す。
──宝具は何の障害も受けずに放たれ、世界が白く壊れていった。
自室で目を覚ます。太陽はさんさんとした日差しを特異点に注いでいた。
黒い風鈴は揺れずに、軒先からぶら下がっていた。
起き上がり、窓辺の花瓶にさしてある白の彼岸花の水を換える。
……いつからあったものだろう?誰に貰ったものだろう?
全く思い出せないが、こうして世話をしていれば、いつか思い出せるかもしれない。
朝ご飯だと自分を呼ぶ声が聞こえ、部屋を出て食堂へ、一人で下りていった。
エンド
『君が見た彼岸花』
花瓶にさしてある白い彼岸花。とても美しい。
誰かから貰ったものだと思うのだが……はっきりと思い出せない。
どれほど丁寧に世話をしても、既に手折られた花はその内枯れる。
故に、誰かにプレゼントすることは出来ない。
令呪使用を問われた際に、彼の手を離した場合
令呪の使用も考えたが……彼の望んだとおり、手を離した。
……もっと早く、こうしてくださればよかったのに、マスター。
彼はそう言うと、深淵へ落ちていった。
その意味を考える間もなく、宝具は発動した。
……アルジュナ(オルタ)の精神世界が、白く壊れていく。
次に自身へ襲いかかってくる衝撃に備え、目をぎゅっとつむった。
……。……。……。……。……?
何も、起こらない、恐る恐る目を開けてみた。
闇の中に自分だけ、取り残されたかのようにぽつんと浮かんでいる。
何も、起こらない。
死も、再生も、何も、起こらない。
叫んでみたが、何も、聞こえない。
目も耳も、あれほど痛んでいた空っぽな左肩も、何の感覚もない。
……闇の中で絶叫した。頭を、かきむしった。
…………これにもいつか馴れて、心が凍り付き、ただの機械のようになるだろう。
──それに成るのに、いつまでかかる?
バッドエンド
『君が来た神の暗闇』
何もない何もない何もない何もない。
何もない闇の中、全てある闇の中、ずっとここで一人ぼっち。
世界に一人だけ残されたのなら、必然的に、世界で一番の罪人になってしまうのだろう。
その33
2019/08/04
夏休み特異点(アルジュナオルタルート)
セーブ中です……
どこまでもどこまでも、彼と手を繋いだまま落ちていく。
神様の心が、こんなにも深いだなんて思わなかった。
マスター、私の声、聞こえていますか?
『聞こえているよ』
……見えるでしょう。下に広がる黒い海は、私の深淵。
表してはいけない感情を、英雄アルジュナが抱いてもいけない感情を、全て、この「黒」に押し付け、閉じこめていました。
『知っている』
アルジュナは、ここまであなたにさらけ出していたのですね。
……何千年という時の経過によって、「黒」は人の形を保てなくなってしまった。
擬似人格は停止し、私の歯車の一つになっていました。
故に、私は善でもあり、悪でもある。
落下速度が穏やかになった。
上を見てください。
彼に言われ、顔を向ける。
きらきらと輝く欠片が上空に無数にあり、ふわふわと落ちていく自分達を追い越して、黒い地面に埋没していく。
私の精神世界……記憶の断片が、「黒」に沈んでいきます。
『すごくきれい、銀河みたい』
……そうですね、まるで銀河。
地面が迫り、二人手を繋いだ状態でゆっくりと着地した。
アルジュナ(オルタ)の体を見る。
ぽっかりと胸に空いていた穴は、いつの間にか塞がっていた。
あなたと同じ時を過ごせば、いつか「黒」も人の形を取り戻すかもしれません。
……私が、そうであったように。
辺りを見渡す。
下は無限に広がる星の海、上は星雲煌めく星の空。
……昔、教科書で見た宇宙望遠鏡からの写真を思い出した。
マスター、ひどい怪我だ。
『気にしないで』
……少し歩いて、休める場所を探しましょう。
声をかけられ、アルジュナ(オルタ)に肩を貸してもらう。
並んで歩く度に、薄く水が張っているのか、地面からちゃぷちゃぷ音がする。
お互いしばらく無言で星の上を歩いていると、アルジュナ(オルタ)は、憑き物が落ちたような穏やかな口調で話し始めた。
……私は、あなたを失うのが恐ろしくて、あなたを神へ堕とそうとした。
口を開けて……あなたを一飲みに……。
空の星雲は、
…………でも、そんな必要はなかったのですね。
神は人に堕ちてもいけない。
人は神に成ってもいけない。
あなたはあなたのままで。
私は私のままでよかったんだ。
一面の黒の地面にぞくぞく記憶が降り注いで、穏やかな波が立ち、きらきらとした光を放っては沈んでいく。
宇宙に底があったら、こんな感じなのだろうか。
……何か……石があります。ここに座りましょう。
マスターも隣に。
促されるまま、隣へ座った。
風がどこからか吹いてきて、腰掛ける彼のマントと髪をなびかせる。
彼の向こう側に、きらりと輝く一番星が見えた。
マスター、私の顔に、何か……?
彼の声と、耳の横を通る冷たい風の音、星の煌めき以外何も聞こえない。
どうしますか?
コマンド?
目を閉じる
プレゼントを渡す←
何を贈る?
海の塩入りブルーアイスバー←
……アイスを渡した。
マスター、ありがとうございます。
でも、だめなんです。味も、食感も、温度も、分からない。
…………しかし、思い出すことは出来る。
あの時くれたアイスの舌触り、冷たさ、「あたり」の文字が出てきたときの嬉しさ。
どうか、マスターが食べてください。
見ているだけで、あの頃に戻れたような気がしますから……。
アルジュナ(オルタ)の代わりにアイスを食べた。
……見つめられながら食べるのは何だか緊張する。
甘くて、しょっぱい味。
食べていると、黒い地平線の果てが、うっすらと夕焼けのように赤くなった気がした。
アイスの棒は、当たっていた。
『帰って、引き換えにいかないと』
……そうですね、帰って、引き換えに。
彼はこちらを一心に見つめながら話す。
…………こんな深いところまで、あなたは落ちてきてしまった。
あなたを救いたくとも、私にはその手だてがない。
………………このまま二人、星の底で溶けてしまおうか……。
アルジュナ(オルタ)は石に腰をかけて座っている。
群青の尾は、ゆっくりと左右に揺られていた。
どうしますか?
コマンド?
目を閉じる
プレゼントを渡す←
何を贈る?
『白の彼岸花』←
立ち上がり、『白の彼岸花』を渡した。
……セーブが完了しました
アイスの当たり棒
三回連続で当たってしまった。帰ったらインドマートへ引き換えに行こう。
『白の彼岸花』
贈る相手も、受け取る相手も、ずっと前から決まっていた。
目を閉じた場合
目を閉じる←
彼の隣で目を閉じた。
……風が吹き抜けていく音、星の声。聞こえてくるのは美しい音ばかりだ。
頬を冷たい風が撫でる。
……マスター。
アルジュナ(オルタ)の手が、令呪の消えた右の手に重ねられたのが分かった。
痛く……無いですか?触覚を失ったせいで、力加減が分からなくて……。
『痛くないよ』
……ここにいれば、いずれ私もあなたも「黒」に溶け込んで、一部となります。
それは……私にも想像がつかない、全く新しい存在になる、ということです。
『疑似サーヴァントみたいなもの?』
分かりません……あなたの精神か私の精神か、新しく構築された精神が主軸となるのか……本当に、予測がつかないのです。
『みんなびっくりするかな』
……するでしょうね。
『悪いことしたな』
……はい。
『一緒にあやまりに行こう』
ええ。
重ねられた彼の手が、溶けるように滑り落ちた。
『アルジュナ?』
返事は無い。
目を開ける。
隣には、誰かがいた名残だけがあった。
『アルジュナ!』
座っていた石が崩れる。
足が、片腕が、体が、黒々とした闇に飲み込まれていく。
……自己が溶けていくはずなのに、恐怖はなく、どこか安心感を覚えてしまった。
人間性そのものである「黒」は、灯火のように温かく。
これが、彼の魂の温度なのかと考えながら、最後まで遠い星空を見つめていた。
エンド
『君が見た彼の星空』
夜明けは後少し。
でも、あなたは満点の夜空を選んだ。
星と風と、彼と君。
この先に待つ者を、まだ世界の誰も知らない。
その34
2019/08/05
夏休み特異点(アルジュナオルタルート)
立ち上がり、『白の彼岸花』を渡した。
アルジュナ(オルタ)は星空の狭間にある石に座ったまま、白い花を受け取ってくれた。
これは……私の心の内側の花ではなく、切り落とされた、私の世界の花……。
…………マスター、私は確かに、あの世界で死にました。
カルナに、マシュに、あなたに。打ち倒され、塵となって消えました。
……記憶はある、けれど、私と、私には連続性がない。
倒され消滅した私と、カルデアで召喚された私は、限りなく同一であるが、別の……。
……消滅したはずの私が、あなたにこれを渡してくれたのですね。
きっと、ずっと見守ってもくれたのでしょう。
あなたと再び出会った私が、切り落とされた枝と同じ道を辿らぬように。
…………全てを手に入れるということは、全てを失うのと同義なのです、マスター。
だって、自分とそれ以外の区別が、無いのですから。
『彼岸花の花言葉は?』
知っています。私の世界では産まれなかった言葉。
『また会う日を、楽しみに』。
……会えた時、私、きっと、嬉しかった。
負けて、消える瞬間……ああ……まだ「頑張れることがある」って。
まだ、自分にも手の届かないことが、挑戦できることがあるんだって、分かった瞬間……すごく悔しかったのに……。
──笑みが、こぼれた。
塵になって、世界を吹き抜けていく風に飛ばされたとしても、その時感じた想いは、永遠……。
きっと、消えない。
死は0では、終わりではなかった。分かっていたのに、忘れていたのですね。
だから、あんなに恐ろしかったんだ……。
でも、今は怖くありません……さぁ、どうします?
……全てを覚悟してから、よどみなく言葉を口にした。
『一緒に、食べよう』
分かりました、一緒に。
……どうぞ。
彼から、あなたへ渡された物を、私が受け取り、もう一度、あなたに。
神から人に贈る愛です。少し不格好かもしれないけれど……。
右手に彼の手がそっと重ねられ、それが退けられると……白の彼岸花があった。
『半分になった彼岸花』 を手に入れた
……地平線がほんのりと明るくなり始める。
どうする?
『半分になった彼岸花』 を食べる←
彼岸花を口に含んだ。
……強い鈍痛が舌に走り、喉は、飲み込んだ花弁で焼けただれた。
頭は金づちで殴られたかのようにずきずきする。
右手で髪を触ると、青い角がぽろりと取れて落ちた。
痛みと痺れで、立っていられない。
星が沈んでいる地面へ仰向けに寝転がろうとすると、アルジュナ(オルタ)に手を取られ、頭を膝に乗せた状態で体を横にさせられた。…………膝枕だ。
彼は神にすら通ずる猛毒にさいなまれながら、寝ているこちらの顔を黒い瞳で真っ直ぐに見つめてくれた。
ああ、痛くて、痺れて、ぱさぱさしていて……本当に、ひどい、味が、する……。
マスター、ごめんなさい、こんな、苦しい思いを、させて……。
顔に彼の涙の粒が、ぽたりぽたりと落ちてくる。
──空が見えた。
銀河の雲と星の輝く深い青に、薄い赤が混じっていく……眩いばかりの、夜明けの空だ。
マスター……。
次に目を開けた時……。
あなたが……側で……皆と、一緒に……。
『みんなで盆踊りをしよう』
痺れる舌で言った。
『彼岸花も、見に行こう』
痛む頭で、約束を告げた。
はい、約束、します。
もう、二度と、その約束を、手放したりしません。
『一緒に……』
はい、いつか、一緒に……。
……。
……。
……セーブ、必要ですか?
うん
もう大丈夫←
………………ああ、分かったよ。
角
彼岸花のおかげできれいに取れた。さよならナイスでイケてる角。
『半分になった彼岸花』
神の手により分けられた白の彼岸花。
人とは違う、神の愛の形。
混ざってしまった境界を分ける力を持つ。
神は「あちら」の世界へ。
人は「こちら」の世界へ。
住む世界は違えど、お互い寄り添いあい、生きていく。
ずっと昔から、神も人もそうやって生き、死んでいったのだろう。
死は終わりではないことを、誰もが知っている。
想いは永遠。失われず、色褪せることもない。
例え死が二人を裂き、離れ離れになったとしても、心から想い続けることは出来る。
人理焼却、人理再編……全てが終わった後、輝く星と天に旅立った人を見上げながら、美しい神は懐かしい思い出を何度もなぞった。
ただ一度だけの大冒険、常に傍らに居てくれた、あの、人の笑顔を。
その35
2019/08/06
夏休み特異点(アルジュナオルタルート)
遠い場所から、柔らかい声が聞こえる……。
カルデアのマスター。
彼に、夜明けを見せてくれたのですね。
もう大丈夫。
…………彼の語った通り、私と彼は同じ記憶を保持しているが、連続性はない。
連続性のない個体を同一人物と呼べるかどうかは……あなたの認識に任せることにしましょう。
彼は、まだ全てを
どうか、側にいてあげてください。それが、散った私と彼の確かな違いとなるのですから。
……そのような顔をなさらないで。
見ているだけで救われる、という事もあるのです。
さようならカルデアのマスター。
世界の果て、時の終わる場所より、何時も見守っています。
あと、いつかリベンジに行くかもしれないので体を温めておいてください。
具体的に言いますと来年のメモリアルクエスト……とか?
通常攻撃が三回攻撃で全体攻撃でクリティカル率高め、前座にはあのアルターエゴを置く……かもしれません。
カルナとキャスターを優先的に攻撃する思考やも……。
おや、少し笑いましたね?
……ふふっ、神はその、人の笑顔をもう一度見たかったのかもしれない……。
私はあなたを観た。そして今、別れを告げる……。
……………………では、今度こそさようなら。
また……どこかで。
畳の井草の香りが鼻をくすぐる。
廊下をぺたぺたと素足で歩く音がする。
布団の中で美しい夢の名残を惜しんでいると、ふすまがするすると開いた。
おはようございます、マスター。朝ですよ。
『おはよう』
今日は夏祭りの日です。
私も皆さんとご飯をいただいたら、インドマートに戻り祭りの準備をします。
マスターはどうされますか?
『浴衣』
はい、約束ですものね。
昼頃に休憩をとれる予定です。その時に買いに行きましょう。
『盆踊り』
開始には間に合いませんが、数十分でしたら踊れるかと。
『彼岸花』
浴衣を買いに行くルートの一つに、小川沿いの道がありました。
行きすがら、一緒に見ましょうね。
『アルジュナ』
はい。
『今、幸せ?』
いつも通りの彼に、いつも通りの声で言葉をかける。
問いかけに、あどけない少年の笑顔を浮かべながら彼は答えた。
はい。とても。
私…………幸せです。
その笑顔の意味を深く感じ取ってから、両腕を使い起き上がる。
頭を左手で撫で、寝癖を直す。
布団を片づけるのは後にして、彼と一緒に、朝ご飯を食べに食堂へ行くことにした。
ふすまを後ろ手にぱたんと閉め、板張りの廊下を二人並んで歩いていく。
……部屋の中には、誰もいなくなった。
山から吹き抜けてきた風が開け放たれた窓から入り、小さな花瓶に入った白い彼岸花を揺らして、黒いガラスの風鈴は涼しげな音をちりちりと鳴らす。
合唱を繰り返す蝉の声、雲一つ無い晴れた空。
──二度とこないありふれた夏の日が、始まろうとしていた。
……アルジュナオルタルートをクリアしました
セーブ、しますか?
もう大丈夫
ありがとう←
……感謝の言葉を贈った。
……………………俺という「黒」の存在が、こんな所で役に立つとは。
数百年も前に必要とされなくなったと思っていたが、なかなかどうして……。
カルデアのマスター、そんな顔をするな。
特異点でのアルジュナの記憶、機能ともに修復完了している。
思い出、感情、感覚に破損はない。
俺が途中から奪っていた……マスターのセーブやロード機能は、元の所有者へ返した。
……ふっ、神は神のまま、人は人のまま……か。そうだ、その通り。
流石はアルジュナだ、最後には必ず正答にたどり着く……まったく……誇らしいよ。
俺の役目は全て終わった……では、さらばだ、カルデアのマスター。
星の下、白き玉座、約束した場所でいつか巡り会おう。
アルジュナと同じ形をした真っ黒な人型は、幕を降ろすかのように外套をひるがえすと、星煌めく水面に小さな波紋を幾つも立たせながら、暁の星昇る方へ去っていった。
『君が選んだ彼の浴衣』
柄に好みはないと言っていた彼の代わりに選んだ浴衣。
落ち着いた色合いで、長身と角によくマッチしている。
尻尾は……帯との兼ね合いに苦労したが、何とかした!
盆踊りの腕はめきめき上がり、そのうちカルデア盆踊り名人の認定証を授かる日も近いだろう……。
穏やかな笑みを浮かべながら、提灯の灯りに照らされて踊る彼の姿は、見ているこちらまで楽しくなってくるほどだ。
『神が観た彼の夢』
世界の果て、時の終わる場所にて。
神は石に座ると、顔を上げそれを眺めた。
自分ではない自分の日常、幸福、冒険を。
全てを得た(失った)神は微笑むと、手の届かぬ星のようなその夢を胸の奥に仕舞い、眠りについた。
閉じたまぶたの裏に浮かぶのは、在りし日の、まだ英雄であった時の正しい姿。
愛を忘れていなかった頃の、自分だった。
時は戻らず、落ちた枝の花は二度と咲くことはない。
それでも、「もしも……」と、生まれるはずの無かった未来を、人も神も夢みてしまう。
夢は巡り、いつかきっと、世界へ現れるはず。
死んだ命が長い時を経て、再び生まれてくるはず。
……そんな希望の夢すら、描かずにはいられない。
その想いは、どことなく祈りに似ていた。
おかえりなさい。
〔ファイル5〕にセーブします、よろしいですか?
はい←
いいえ
セーブしています……
セーブが完了しました。
お疲れ様でした。電源をお切りください。
夏はまだまだ始まったばかり!沢山のサーヴァントと色んな思い出を作ろう!
『彼の深淵』
深くて遠く、温かい暗闇。
誰もが持っているものであり、善や悪などで分けられないもの。
かつて英雄はこれを友と同じ名前で呼び、時には傍らにまるでいるかのように振る舞った。
数千年の時が経ち、人の形を忘れたが、ずっと英雄を支えていた。
……いつか再び、彼とあなたの前に現れるかもしれない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。