アルジュナ(オルタ)夏休みSSまとめ   作:いざかひと

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(こちらの文章は通常の小説と同じ様式になっております)

『君が見た彼の星空』エンドの続きを読みますか?

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本当によろしいですか?

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夏休み特異点シーズン2アルジュナ(オルタ)ルート追加ディスク

私の名前はマシュ・キリエライト。

人理継続保証機関フィニス・カルデアに所属するスタッフで、デミ・サーヴァントで。

ある人の、後輩でした。

 

「おはようございます、マスター」

ガラス張りの部屋に足を踏み入れる。

 

「おはようございます、マシュ・キリエライト」

ベッドに座っている彼は私を見上げ、人なつこい笑みを浮かべた。

 

「コーヒーを入れますね」

「ありがとうございます」

電気ポッドを使い、湯を沸かし、インスタントコーヒーを作る。

真っ白なソーサーに乗せて、彼に手渡した。

 

「良い香りがします」

「お砂糖とミルクは?」

「初めは、ブラックで飲んでみます」

唇が白いカップに触れ、熱い液体が喉へ送られていく。

その動きのどこかにあの人を見い出したくて、じっと観察をした。

彼が、ソーサーにカップを置く。

 

「マシュがこの間貸してくださった……シャーロック・ホームズの物語、全て読んでしまいました」

「面白かったですか?」

「ええ。魔犬の正体が、あんな科学的なトリックだったとは……」

物語る彼を見つめる。

あの人の痕跡を、探す、探す、探す。

 

「私の顔に、何か……?」

「いいえ、違います……マスター」

純粋な疑問を顔に浮かべながら、彼は首を傾げる。

黒色ではない彼の光彩に、目の下に濃いくまを浮かべた私の顔が映っていた。

 

「カルデアのみなさんは優しいですね。

私のようなよく分からない存在にも、こんなに親身になって関わって下さる……」

彼は、私が貸したハードカバーの本を撫でる。

 

「早くこの部屋から出て、みなさんのお役に立ちたいです。

だって私は──」

彼は穏やかな笑みのまま、告げる。

 

「人類最後の、マスターなのですから」

心臓が鷲掴みにされたかのように痛んだ。

動悸が激しくなって、視界が明滅する。

 

「……マスター、次は、新しいご本を、持ってきますね」

「楽しみです、マシュ・キリエライト」

彼に体調不良を悟られない内に、部屋を退出した。

暗い廊下の冷たい壁に背中をつけたら、そのままずるずると崩れ落ちてしまった。

膝を抱え、涙を流しながらかたかたと震える。

 

「もう……先輩はいない……」

どうしてこんな事になってしまったのだろう。

真夏の特異点に迷い込んだ先輩の反応がロストして、その後に、入れ替わるように『彼』が現れた。

身長も体重も、何もかも先輩と違うのに、何回計算しても、結果は同じだった。

 

『彼は、人類最後のマスターと、同一の存在である』

誰もが絶句して、理解出来なかった。

 

「マシュ」

名を呼ばれて顔を上げる。

 

「Mr.ホームズ……」

パイプを手の内に持ったホームズさんが目の前に立っていた。

 

「彼は、感づいていると思うよ」

「……そう、なのですか」

「ああ」

ホームズさんはパイプに火をつけた。

 

「ここは禁煙です、怒られますよ」

「誰にだね?」

真っ白く濁った煙が吐き出される。

 

「聖杯探索に、出ようと思っています」

目を見ず、下に向けたまま会話を続ける。

 

「聖杯があれば、先輩を、取り戻せるかもしれない」

涙を拭ってから、顔を上げた。

 

「出発は明日です。多くのスタッフさんが協力してくれるそうです」

「そうか」

「Mr.ホームズは、どう……されますか」

ホームズさんはパイプを口から離し、天井へ登っていく煙を目で追う。

 

「今は、語るべき時ではない、かな」

煙の形はうつろい、消えていく。

 

「さようなら、Mr.ホームズ」

「いってらっしゃい、気をつけて」

両手を壁につけて、何とか立ち上がる。

出発は10時間後。睡眠薬で眠って、少しでもコンディションを整えなければ。

 

 

 

 

廊下の暗闇に足を踏み入れていくマシュの背中を見送り、ガラス張りの部屋へと入った。

 

「ごきげんよう、マスター」

「シャーロック・ホームズ。先ほどマシュ・キリエライトが来ていました」

椅子に腰をかけ、彼を観察する。

 

「君はこれから何をしたいかな?」

彼は口を開け、黒色ではない瞳の視線を泳がせた。

 

「自己の欲求が分からなくて……私が、発生したばかりだからでしょうか」

迷える彼に、紙の束を手渡す。

 

「これは?」

「カルデアで起こった出来事をまとめたものだ」

「ありがとうございます! わぁ……」

無邪気に喜んで、そのレポートをめくり、読み始めた。

 

「これを書いた方は、今どちらへ?」

「ふむ……」

口寂しいので、私は紅茶を入れることにした。

 

「さぁ、どこへ行ってしまったのだろうね……」

電気ポッドの湯が沸くまでの間、手を組んで、青空ではない天井を見上げた。


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