ドキドキな私の気持ち   作:一才

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第1話

帰り支度をしている私に近づく小さな影。

角としっぽの生えた小さな女の子が私に近づいてくる。

「あっ桃!買い物があるので先に帰っててくださいね」

それだけ告げると教室を去っていく。

 

小さなまぞく、シャドウミストレス優子、略してシャミ子は、私がしばらくの間学校を休んでいたころからよく家に来るようになった。

休んでいた原因はシャミ子によるものなので、罪悪感からか私の身の回りのことを手伝ってもらっていた。

しかし治った後もシャミ子は私の家に来るようになった。

 

きっかけは私の食生活である。

 

休みの期間中、いやそれよりも前から、私は食事を粗食で済ませていた。

主にパン、スナック菓子、ジャンクフード、ウインナーだ。

元々学校でも弁当を持ってこず、菓子パンなどで済ませることがほとんどだ。

食事に興味のない私は、これで構わないと思っていた。

しかしシャミ子は違ったようで、体もほとんど回復してきたころ。

 

「シャミ子、今日も修行お疲れ」

「ふへーもう足がパンパンです…」

 

体力づくりとリハビリの一環で、ランニングしながら学校から私の家まで競争をしていた。

負けたほうが今日の料理を作るという罰ゲーム付きである。

最初こそ頑張ってついてきたが、終盤は完全に体力が切れ、フラフラしながらついてきていた。

部屋に入るなり疲れ果てたのか、テーブルに突っ伏してくたびれている。

 

「じゃあ罰ゲームはシャミ子だけど…今日はいいや」

「む?なぜです?桃」

「シャミ子疲れてるでしょ、別に食事なんてなんでもいいし、今日は帰っていいよ」

 

するとシャミ子は頬を膨らませ、むっとした表情に切り替わる。

 

「桃、前々から思っていたのですが…桃は変わらなければなりません!」

「え?」

「健康な精神は健全な食事で備わります!ちゃんとしたごはんで元気になれる。桃!これからごはんをしっかり食べるのだ!」

 

体を起こし語気を強めて語ったが、疲れがあるためか、生まれたての小鹿のような足取りでキッチンに向かっていった。

 

意外と頑なな部分のあるシャミ子、心配してくれているのか、それからシャミ子は頻繁に家へ食事を作りにやってくるようになった。

 

その純真な気持ちに少し心がドキドキする。

 

最近私が感じている感情だ。

 

正体不明のドキドキ、主にシャミ子がかかわると発生する病気?だ。

体がだるいとかそういうのはないけれど、その病気は顔に熱を送り、心臓の鼓動が早まり、シャミ子のことをついつい考えている。

 

そんな病気だ。

 

いけないいけない、またシャミ子のことを考えてる。

そそくさとプリントを机に詰め込み、買い物から帰るまでに掃除を終わらせておこう、そう考え自分の家の帰路をたどった。

 

 

 

 

一通り掃除を終え、ソファーに座るとチャイムが鳴る。

ご丁寧にシャミ子は必ず一度チャイムを鳴らして家に入ってくる。

「敵地に赴くときは必ず名乗りが必要ですから」

なんていつの時代の戦国武将か、良ちゃんの口添えかわからないが、そんなこんなで必ず名乗りを上げ家に入ってくる。

 

「シャドウミストレス優子参上!さて今日は何にしようかな~」

 

買ってきた食材を冷蔵庫に詰めていく、最近の我が家の冷蔵庫はシャミ子の買ってきた商品でいっぱいだ。

ウインナーぐらいしか入ってなかった冷蔵庫は、作り置きのシャミ子のごはんと食材で埋め尽くされてる。

 

「桃~うどんがまだ残っているので、今日はうどんでいいですか?」

「うん、シャミ子の料理はどれもおいしいから嬉しい」

「なっ!そんなこと言ったって何も出ませんよ!しかたないのでお肉1.3倍増し増しです!」

 

シャミ子は手際よく調理の支度を始めた。

 

料理が出来上がるまで手持ち無沙汰になったので、ソファーに座りテレビをつける。

テレビには最近のニュース、後ろではカチャカチャと食器や調理の音が響く。

あぁ、なんかいいなぁとふと昔を思い出す。

姉がいたころはそういえばこんな音がしていたなぁと目を閉じそっと音に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

「桃?どうしました?」

「え…あっ…」

 

目を開くとシャミ子が私の顔を覗き込んでくる。

後ろのテーブルには出来上がったうどんが二人分。

寝てしまった?私の顔をじっと見つめる表情を見るとふいに心がドキドキしてくる。

無意識に私はシャミ子の腰に手を回していた。

 

「ふなななっあぁ!?桃!?」

「ごめんシャミ子、すこしだけいいかな?……体の筋肉量を確認させてもらうよ」

 

つい口に出た言い訳だが、納得したのかシャミ子は私に体を預ける。

抱きかかえるような形でシャミ子の体を私の体に密着させる。

 

「どうですどうです?」

「んーちょっとたくましくなったかな?」

「そうでしょうそうでしょう!この前はお米の3kgを持ち帰ることができたんですよ!」

 

やわらかな胸部、細い腰つき、柔らかな髪、ちょっと力を入れたら壊れそうな体。

私よりふんわりした身体は、筋肉がほとんど感じられない非力な肉付きだ。

 

「桃?」

 

体の小さなシャミ子は、私の胸元から目線を合わせるので、自ずと上目遣いになる。

特徴的な角よりも私の眼を奪われるのは、大きく丸い瞳、ふわふわとした髪の毛、ちょっとだけ生えている牙、薄いけれど血色のいい唇。

 

やっぱりよく見るとシャミ子って…

 

いやこれ以上はあまりよくない、なにか間違っている気がする。

急速的に心臓が高鳴り、ドキドキした気分が高揚してくる。

「う、うん、だいだいわかったかな」

冷静を装い、シャミ子を開放する。

 

「どうでしたか?前よりは強くなったでしょう!」

「んーまだまだかな、今度はバーベルを持てるように頑張ろうね」

「ぐぬぬ…これで勝ったと思うなよ!」

捨て台詞を吐くシャミ子は私の向かいに座った。

 

最近はよく目にするこの光景。

なぜか姉の姿を投影してしまう。

シャミ子の姿は似てないけど、ついつい姉の姿が重なって見えてしまう。

今は昔よりも…辛くはないかな。

 

「それではいただきます。桃も早く食べないと冷めちゃいますよ?」

「あぁうんいただきます」

湯気立ち、ちょっとだけシャミ子より多いお肉、シャミ子は

「別に特別なレシピじゃないんですけどね?」

なんて言うけれど、私のために作ってくれた料理は、なんだか特別で、いつも美味しく感じる。

 

ドキドキの正体はわからないけど、きっとこの気持ちがわかる日が来るんじゃないかと、私の好物になったうどんをシャミ子と頂く私であった。




その2に続きます。
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