RELEASE OF SCULLMAN   作:ダグライダー

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 こんにちは、ダグライダーです。
やっとこさカタチになりましたリリスカ、いやはや一人称視点は難しいですね……。
 今回はタイトルにありますワード、見覚えがある方もいらっしゃるでしょう。あの漫画のネタが元になっています。
 いやぁ、あの漫画の設定とか結構好きでして、スカルマン寄りなら行けるかなと思い組み込んでみました。



不可視の9番

 ──誰だってなりたくて悪党になったワケじゃない。

ただ、そうしなければ生き抜く事が出来ないから。或いは、好奇心を突き詰めていった先がそうであったから。或いは、訳も解らず身の内から溢れる衝動に従ってしまったから。

 

 ──或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは、或いは──

 

 気付いた時には遅すぎた、戻る事すら難しい、振り替えれば屍山血河。

 いっそ狂ってしまおうか…、開き直って楽しもうか…。

 引き返せぬならば、とくと御覧あれ、咲かせてみせよう惡の華。正義如きが容易く枯れさせられると思わぬ事だ──

 

 

 

 宵深い闇夜から朝陽昇る迄の僅かの時、空崎と隣接するとある街のとあるビルの一室にてそれは起きた。

 

 ボウボウォと炎が鉄筋コンクリートのビルの中を渦巻く、そこかしこに転がる人、人、人、人、ひと、ヒトであった黒い塊。

 下は最早炎の壁に覆われ、逃げ場は上に進むのみ。

 「ヒィッ!?…待て!待ってくれェ!何故なんだ?!我々は其方の要望に出来うる限り応えた筈、だと言うのに何故だ??!」

 悲鳴混じりの男の疑問に返ってくるのは炎の音と重たい足音、そして何かに遮られてくぐもって聴こえる声。

 『……コホー命令…シューだから、それに…燃やさなきゃシュコー……暖まらない』

 言葉の合間に挟まる規則的な呼吸の音と共に炎を割って現れた人物、その姿を一目見て表すならば宇宙服だろう。分厚い合成繊維で編まれた恰幅の良い上下の繋がった服に背中に背負った可燃性ガスが詰まったであろうボンベ、金魚鉢のようなヘルメット、知らぬ者が見れば誰もが驚き目を見張るであろう容姿である。

 「わ、分かった!?金だな!金を出そう!!私が貴様を雇う…!だから私を助けてくれ!?」

 男が宇宙服の人物に尚も命乞いをする、しかしスモーク硝子のヘルメットからは表情を読み取る事は出来ない。

 『…シュホーお金は……いらない、オレ、居場所…シュー……アソコしか無い…シュコー、だからオマエの言うこと……シュー…聞かない…コホー……』

 「そ、そんなっ!!」

無慈悲な返答に男は絶望を顕にする、目の前には巨大な炎が迫り彼を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、妙な奴に遭遇した。

何言ってんだと思うかもしれない、でも事実だ。

 そして更に変な事が一つ。これまた最近、源のヤツがおかしい。

 教室で見掛ける度、やたらと草臥れているような……?いや、俺には関係ないことだ。それより、石川の視線が気になる……。何だ?俺が何かしたのか?

 そういえば、こいつと八千代は源と仲が良かったな…まさか、この間の呟きについて源から相談でも受けたのか………?

 別に源の事はどうでもいいが、石川から見詰められるのは悪く無い。石川五恵、同い年の女子よりは背が高く、スタイルも悪く無い…いや、八千代も源もスタイルは良いんだが、石川には及ぶまい。

 何よりあの垂れ下がったつり目と黒く長い髪、自信無さげに見えて、しっかり芯の部分が分かるタイプと俺は診ている。つまりは目茶苦茶好みの女なワケだが……ん?前にも言った気がする…。

 それはまぁ兎も角、問題は放課後にあの女と会わなきゃならん事だが、ハァ…気が重い。

 

 

 放課後が……来てしまったか…………。

バックレるか?いや、あの手の輩は異様にしつこい。ここは大人しく向かって、奴さんのペースに乗らない様に会話を進める。それで聞くもん聞いて目的を果たしたらサヨナラ!よし、完璧。

 何せあの女、見た目の割りに得体が知れない、昔施設に来てた連中と同じヤバい感じがあの時一瞬だけ感じた。

 そうと決まればさっさと行くか。やっぱり帰りたい……。

 重くなりそうな足と気分を押さえ付け、無理矢理にでも前に進む、…………ってか、美術準備室かよ、そこは普通資料室かどこかの第二教室辺りだろ。

 微妙な気分のまま、扉のノブに手をかける。さて、長丁場は避けたいところだな。

 

 

 「待ちかねたよー!!」

扉を開けると同時に両手を大きく広げ、ハグの体制で飛びかかる…が俺はそれをあっさりと避けた。

 「べぶっ?!何故美少女の包容を避けるのさ!?」

 「あんたが嫌いだから……だとしたら?」

 「しくしくしく……なんて酷い男でしょう」

床に思いっきり顔を擦り付けたこの女は俺に批難まじりの文句をほざき啜り泣く。勿論どう見ても嘘泣きである。

「ぶちょー大丈夫デスカ?」 「部長なら大丈夫でしょ」

 準備室の奥から聞こえてくる二つの声、片方はカタコト混じりの少女、もう片方は淡々とした男のモノであった。

 「冷たい!冷たいよ!風見くん?!そして心配ありがと~ジーナ!!」

 男の方は風見と呼ばれ溜め息をつき、ジーナと呼ばれ少女はこのバカと抱き合う。

 「茶番はいい、それより他に人が居るなんて聞いてないぞ」

 「言ってないからね!」

 ……これはあれか?俺を苛つかせたいのか?

「流石、クソ部長。他人のコトはお構い無し、その上更に説明不足とか……その人が可哀想」

 風見某に同情の視線を向けられた、少々言い回しが癪に障るが…恐らくコイツが一番マトモだな。

「コーイチ!せんぱいにはケーキをはらうヨ」

 ジーナとやらはカタコトな上日本語があやしい、ケーキじゃなく敬意だろうよ。

「それを言うなら敬意ですユーリア先輩」

 どうやら風見の下の名はこういち、ジーナの姓はユーリアと言うらしい。

「オォ、ケーイ!コーイチは物識りダネ、ベンキョーになるヨ」

 「あれぇ、無視かなぁ?わたし部長だよぁ~、おーい?」

 コイツは部員からの扱いも雑らしい。

「そんなワケでウチのアホがご迷惑をお掛けして申し訳ないです。ユーリア先輩、僕らはお暇しましょう。では…ごゆっくり」

「ドーユー訳なの?コーイチ教えてヨ、コーイチ!あ!オイトマします。ゴユックリ!!」

 そんな台詞を最後に残して教室から出ていく二人、有難い事だ、風見某は見たところ一年のようだし、今度何か礼としてドリンクくらい奢ってやろう。そしてユーリアとやらはアホの子なんじゃないか?カタコトでやたらと他人の言うことを真似てら……さて、邪魔は居なくなった。

 「さっさと用件済ませようじゃないか、ええ?先輩」

 

 「わぁ……目茶コワーイ…」

 

 

 まず呼び出しといて他人が居る事を黙ってやがった事を説教する事10分、ついで、黒戸が言い訳とどうでもいい話に30分……長ぇ。

 「むむ?おっと、失礼失礼…つい長くなっちゃってね♪それじゃ本題だね」

 やっとか、このアマ。

 「先ずはこれ、夜な夜な現れる謎の正義の集団から」

焦らしてくれる……こちらの本命が骸骨男と知った上でこれだ…。やっぱり油断は出来ないな。

 「そう言えば、その集団が美少女だとか言ってたな、どうして分かる?」

 「デジカメには全く写んないけど、アナログはバカに出来ないよぉ~」

 随分とまぁ、用意がいい。所謂、レフカメラって奴なんだろうが、バズーカみたいなデカさだ…偶然持ってたなんてレベルじゃねぇな、ずっと前から張ってた訳か。

 「苦労したにゃあ~、何せウワサは在れども目撃者や証言は無いもんだから、自分で一から足を使わなきゃいけないしね」

 その結果が結実しているんだから恐ろしい。

 「んで、現像した写真を…まぁ素人鑑定だけど、昔から何人か被写体にしてるからね、体格からしておんにゃのこかなってさ!」

 後半半分セクハラだろ……、しかし、正義の集団ねぇ?物好きを通り越して異じょ…奇人だな。

 「?もしやキミって正義の味方とか嫌い系?」

 「別に……嫌いなワケじゃない、ただ…いや何でもない」

 「ふーん?まぁ、キミが知りたいのはどちらかと言えば()()()だよね?」

 そう言って黒戸が次に出した写真、今度はデジカメで撮ったモノだろう夜の漆黒より尚黒い黒衣の男、後ろ姿だが僅かに見える白い頭が俺が夢に見たあの骸骨男であることは間違いない。

 「これは何処で?」

 「コッチはホントに偶々撮れたんだけどね?さっきの集団を追っている内に遭遇したんだよ」

 また随分と危険な事を……今更か、さっきの集団然り、夜のこの街はえらく物騒だな。

 そしてそれを難なくカメラに抑えたコイツも只者じゃない。

 「凄かったよ!相手は人間じゃないみたいでね!?それを骸骨男が──」

 思えば、もう少し訊ね方ってもんがあったのかもしれない……黒戸のヤツは骸骨男の話をえらく興奮した様子で語り始めた。それがまた長かった…ホントに長かった……気が付けば日が暮れ、警邏巡回の教師に追い出されるまで永遠かと思うばかりの語りであった。

 流石にヤツもやり過ぎた自覚があるのか、別れ際に俺に丁度良いバイトがあると喫茶店のバイトの話を持って来た。ふん、まぁ有り難く受け取っておいてやろう。知りたい事は大体知れたしな。

 

 

 

 

 

 ━━sideout━━

 

 

 それは新聞部にて隼人が音々子を尋問している頃、空崎のモールに列なる様々な店、その中にあって本格的なカレーを提供する店Wasabi、その店内の更に奥、否、その地下深くにて──

 「工場から持ち帰ったデータが一部解読出来ました」

武家屋敷を彷彿とさせる内装に近未来的な装置の数々が置かれている此処は、私設諜報機関ツキカゲの所謂秘密基地である。

 そんな秘密基地のある一室にてブリーフィングが行われていた。

 「これは…花?」

先の青葉初芽の言葉と共にモニターに表示されたのは巨大な花のモニュメント。その存在に相模楓と石川五恵は疑問を呈したり、首を傾げている。

 「建造物の設計図のですが、具体的な所はまだ不明です」

 彼女達の質問に答えるように初芽はデータより解った事を説明する。と言っても未だ大した事は分かっていないのだが…。

 「モウリョウ絡みの疑いがある工場って事で侵入してみたけど、でっかいネタ掴めたねぇ~」

 少しばかり茶化す様に相槌を返すのは八千代命。

 「モウリョウは何企んでるんだろう…」

楓が視線をモニターから反らし、思案する様に顎に手を充てる。

 そんな弟子の様子を横目に見ながら命が初芽に更に訊ねる。

 「他に何かデータ入ってた?」

 その質問に対する返答は否定、そしてモニターに表示されている【GEKKAKO】の文字だけが現状の手掛かりであった。

 「いえ……これくらいですね。それでは次に例の骸骨男についてなんですが」

 骸骨男の話を皮切りに対モウリョウ会議を一先ず切り上げる初芽、そして骸骨男の話題が出た途端に他のメンバーにも緊張が走る。

 「実はここ何件か、空崎以外での活動もしているようでして、つい先日なども目撃証言があるようなんです」

 「その割には、本拠地らしきところは見付からないよね?」

 初芽の言う通り、骸骨男の目撃証言は多々あるものの、命が指摘した通り彼女達の様な組織が足取りを追って尚、未だ拠点らしきモノは見付かっていない。

 「本当に何者なんでしょう?」

楓がモニターに映し出された骸骨男を睨みながら返ってくることの無い誰何を口にする。

 「分かりません、男性である事は確かですが、敵なのか味方なのか、それ以外の事は何も……」

 「モウリョウに続いて手掛かりらしい手掛かりはなしかぁ…」

 命が溜め息混じりにやれやれと言わんばかりに首を振る。

 「……あの、師匠…。」

 その時、五恵がおずおずと初芽に向かって手をあげる。

 「五恵ちゃん、どうかしましたか?」

 「骸骨男さんは…悪い人じゃない気がします」

五恵のこの発言には三人も驚いた、彼女が優しい事は知っていたがまさか正体不明の存在に肩を持つとは思わなかったものだから。

 「何でそう思うのさ?」

命がなんとなしに理由を訊ねると五恵は自信が無いのか伏し目がちに言葉を探す。

 「そんなに難しく考えなくても、五恵ちゃんが思った通りの事を言って下さい」

 そんな五恵を見かね優しく諭す初芽、初芽の配慮に僅かに紅潮し喜ぶ五恵。

 「ありがとうございます師匠。それで…骸骨男さんの事……ですけど、正直よく分かりません、ただ何となく…そう思って……ごめんなさい」

 初芽に対する礼の後に続いた言葉は、完全な勘からの感覚的なモノ、その為最後は尻すぼみになり謝罪する。

 「大丈夫ですよ五恵ちゃん、そういう感覚も私たちには大事です。そうですね、次に彼に会えたならその辺り聞いてみましょう!」

 どうやらツキカゲの骸骨男に対するスタンスは決まったようだ。

 しかし、彼女達は知らない、知ることは無い。

 夜に虚ろう髑髏に刻まれているのは決して正義などでは無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の高速を掛ける一台の車、それはモウリョウの幹部である文鳥の女の物、彼女の車にはドライバーである彼女以外に三人の同乗者が居る。

 「月下香はどうなっている?」

文鳥の女が進捗を確認する。その問いに答えたのは真後ろに座る褐色の少女であった。

 「ベトナムで製造中です。夏には仕上がります」

 「ならばよし」

 「こちらに寝返ったツキカゲのスパイから連絡はありましたか?」

 「細々としたものはな。どれも本当のネタであったようだが……見返りは金だそうだ」

 「まだまだ信用は出来ませんね…。奴等も含めて」

褐色の少女がそう言って思い浮かべたのは、つい最近モウリョウのスポンサーより宛がわれた不気味な集団。

 「連中の方は心配はいらんさ、あれで中々に優秀なようだ。つい先日も派手にやったようだしな」

 文鳥の女の言う派手にやった事とは、モウリョウに協力している企業で反意のあるモノを粛正し、同様の意思を持つ者達に対する見せしめの事、そして見事にその企業を文字通り火達磨にしたのだ。

 そしてそれだけ派手に動いたにも関わらず、新聞やニュースでは悪魔でもガス栓の閉め忘れによる管理不行き届き。企業に属していた全ての人間が焼死、他に証拠は無く、警察も最低限の捜査に済ませる……これ等は全て銀の車輪──引いてはその裏側に居る亡霊の仕業であった。

 「銀の車輪ですか…あの様な存在がいるとは…」

 「良いじゃないか、例のビルの奴は何だったかな……ああ、そうそう、908HTTだったか?アレらに関しては人扱いはしなくても良いそうだ」

 文鳥の女はそう言って嗤う。すると先程からの会話を退屈に感じたのか、褐色の少女の隣に座る小学生くらいのアジア系の少女が文句を垂れ暴れる。

 「何難しい事さっきから話てんだ!負け知らずの白虎さまだぞ!早く仕事させろ~!!」

 その様を不快と見たか文鳥の隣──助手席に座る筋肉質の巨漢の女性が、白虎と名乗った少女に文句を言う。

 「うるさいチビだな、この美しいワタシのようにドカッと構えろ!」

 「ああっ?!」

チビと言われ腹が立ったのか巨漢を睨む白虎、そこへ嗜めるように文鳥の女が言葉を掛ける。

 「お前の出番は近い、まずは協力者との会談だ」

文鳥の女が示す通り、彼女達を乗せた車が向かう先はツキカゲを裏切ったスパイの元、4人の魑魅魍魎はそうして夜の帳の中に消えるのだった。

 

 

 

 

 

 908HTTと呼ばれた例の宇宙服──防火服、そして彼を含む銀の車輪からの尖兵、不可視の9番(インヴィジブルナイン)。彼等こそは嘗てとある国で推進された存在しない死の部隊、倫理や人道など二の次、目的は如何にして強力な敵兵や兵器を倒すか、それだけを追及した存在。

 故に彼等も又亡霊。

彼等を知る者はおらず、彼等を認める者もいない、最早彼等に残された道は、与えられた命に従い殺す事のみ。

 此は戦争に在らず、此は正義に在らず。

 帰る家など当に無く、引き返す事は不可能。

 ならば残るは殺戮だけ………。




 では今回はこの辺りで、また暫く時間が掛かりますが完結はさせますので宜しくお願いします。
 それまではとじダグとシンデレラ百剣で回していきます。

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