彩る葦   作:粗茶Returnees

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 ちびちび更新していくっス!(ディスガイアリリースされてテンション狂ってます)


1話

 

 ゴールドタワーに集められた少女の数は33人。うち32人が『防人』と呼ばれる存在になり、その防人たちのお目付け役として派遣された巫女が1人という内訳。32人の防人たちは、その巫女の隣に立つ大赦の神官に視線を集める。仮面によって顔を隠されているが、防人たちの中にはその神官たちと既に出会っている者もいる。その時も神官は仮面をつけていたが、声は同じなのだから同一人物だと考えて相違ない。

 防人たちの中でも内訳ができる。かつて大赦内で、勇者になるべく訓練を積んでいた者たち。そして、勇者になる可能性を持ち、一般の学校でその結果を待っていた者たち。

 前者が神官と出会っていた者たちであり、後者は初対面だ。仮面越しに会うことを対面したと言っていいかは分からないが。

 

「人類が隠してきた真実の歴史を語りましょう」

 

 モニターに映されているものは、神樹が作り出す結界の外側。星の数ほどいる白い生物たちが飛び回り、結界の外は炎に包まれていた。

 人類が隠してきた歴史とは、壁の外がこの状態であるということ。そして、人類の敵が絶望的な数ほど存在していることだ。壁の外はウイルスで汚染されており、人類が生息することはできないという教育を受ける。誰もそれを疑わず、それが真実だと思っていた。

 しかし現実は違う。ウイルスは存在せず、人類を滅ぼさんとするバーテックスが存在しているだけ。無数のバーテックスたちは、今では星屑と呼ばれている。現代でバーテックスという呼び名で表れているのは、黄道十二宮とも呼称される12体。その12体は神樹の壁を突破でき、それを迎え撃つのが神樹に選ばれた少女『勇者』だ。

 現在バーテックスの侵攻はなく、大赦はその間に計画を進めようとしていた。そのために呼ばれたのがこの場にいる32人の防人たち。

 世界の真実を知り、呼ばれた理由も知った上で、一人の少女が神官に質問をするために挙手した。

 それは世界に関する疑問でもなく、役目に関する疑問でもない。

 

「質問をどうぞ」

 

 そうとは思わず、神官は質問に許可を出した。

 

「あの、そちらの男性(・・)はどういった方なのでしょうか?」

 

 そういえばそうだった。そんな思いが防人たちの中で生まれ、視線が神官を挟んで巫女の反対にいる人物へと集まる。防人たちとは違う。当然巫女でもない。大赦の制服を着ていることから、大赦の人間であることは明白だ。まだ一言も話していない人物がなぜ男性だと分かったのか。 

 簡単なことで、当然のことだ。

 彼は仮面をつけていなかったのだから。

 彼の説明もしないといけない。そう思って神官も視線をそちらに向けたが、彼はそれを違う意図で受け取り、半歩前に出た。

 

「赤嶺和月(かづき)だ。なんでここに派遣されたかは俺にも分からん。上司に言われて来ただけだからな。たしか、期間はお前たちのお役目が終わるまでらしい。老ボケを始めた老人の何十倍かは物忘れ激しいけど、よろしくな」

 

 嘘は何一つ言っていない。

 和月の口から言われたことが全て本当なのだろうと皆が思った。そして、胡散臭いとも皆が思った。

 そう思われた理由は二つ。

 一つは、理由もなしに大赦が人を派遣するはずがないということ

 もう一つは、赤嶺家の人間が何も知らずに派遣されるとは到底思えないということ

 

「説明はされたはずですよ」

 

 神官が感情の篭ってない声で言う。

 そうだっけな、といった軽い調子で和月が頭を掻く。物忘れが激しいということの証明でもあるのだが、大赦の人間とは思えないほど調子が軽く、怪訝な表情で防人たちに見られた。

 スマホを取り出し、メモアプリを起動して今回の任務を確認し始める。物忘れは激しいようだが、メモを取る習慣はついているようだ。マイナスである評価が少し向上する。

 

「……この任務って本当なんすか?」

「自分のメモは信じているのでしょう? それは事実です」

 

 和月は苦虫を噛み潰したような顔で、自分のスマホを見つめた。あまりにも自分には合わない任務だと思ったから。それは口頭で通達された時と同じ表情である。和月の上司は呆れ半分、信用半分を思いつつ、愉しそうに決定事項だとダメ出ししたという。

 

「彼の仕事は、あなた達のケアをする事です。主に整体といったボディケア。あとは、何を言われてもたいてい忘れることをいい事に悪感情を吐き出せるというカウンセリングです」

「彼の扱い何気に酷くないですか?」

「扱いが難しいことが大赦の悩みです」

 

 和月の仕事の説明を聞き、思わず楠芽吹は口を出してしまった。勇者に選ばれなかったこと、それでいながら必要な時に呼び出された今回。腸が煮えくり返るほど怒りを感じていたが、道具のように扱われている和月には少なからず共通するものがあると感じたようだ。

 神官の返しにも噛みつきたくなった。物忘れが激しいとはいえ、扱いが難しいと言って、雑に扱っていいはずがないからだ。和月がサラッと言った上司とやらにも一言言ってやりたい。

 だが、芽吹が何よりも怒っているのは、その扱いに何とも思っていない和月本人だ。与えられた役割を受け入れているのならまだしも、露骨に嫌そうにしながらも何も言わないことが芽吹には引っかかる。そんな芽吹を観察していた和月は、小さくため息をついて神官に愚痴ってみる。

 

「心身両方の面倒を見るとか、俺に一番向いてなくね?」

「あなたは人の身体への知識と理解が深い。どの状態が正常であり、どうすればそれに戻せるのか。医師と遜色ないほどに知っている」

「どこまでやれば壊れるのかを覚えたら、自然とそうなっただけだ。医者とは違う。それに、カウンセリングとか分かんねぇよ」

「それでもあなたは選ばれた。あなたの上司も推した。それが全て」

「思考が緩くなってるんじゃねぇの」

 

 やれやれと首を振った和月だが、それ以上は何も言わなかった。決まったことを覆す気もなく、上司が一枚かんでいる仕事とあっては、モチベーションが上がらなくてもこなそうと思っているから。

 和月は上司を尊敬している。信頼はしていない。信用はしている。そして、上司として尊敬したことはない。ただ、その人の姿を尊敬しているのだ。容姿ではなく性格面を。

 だから、忘れていたことであっても、心底面倒に感じることであっても、上司がかんでいて送り出したのなら、それに応えようとは思うのだ。

 

「そんな扱いを受けて、それでも受け入れるの?」

 

 説明が終わり、任務に就くにあたって訓練が始まることとなった。勇者としての訓練ではなく、防人としての訓練。今までの経験がそこに活かされる人は、誰一人としていなかった。

 その訓練が開始されるまでの僅かな時間。芽吹は和月に声をかけた。普段の芽吹なら考えられない行動。大赦内で特異だと分かった赤嶺和月という存在が、適当に扱われていることに引っかかりを感じていた。だから直接聞いてみることにした。

 芽吹は和月を知らない。和月も芽吹を知らない。今回の仕事のために、防人たちの資料に目を通したことはあるのだが、和月は生憎と全て忘れている。

 それはそれで良かった。仕事の内容を考えれば何一つ良くないのだが、どちらも何も知らない初対面同士という構図は、マイナスに働くことはないのだから。特に、大赦に良い印象を抱かない芽吹が相手となると、和月の物忘れはファインプレーにもなる。

 

「納得がいくかは別。それはお前も同じだろう? えっと……」

「楠芽吹よ。赤嶺和月さん」

「楠ね。覚えられるかは分からんが、よろしくな」

 

 とりあえず和月は、メモに芽吹の名前と容姿の特徴を素早く書き込んだ。覚える気がないわけではなく、本当に忘れることが日常茶飯事らしい。防ぐ手立てがないのなら、せめて抵抗とリカバリーを用意する。和月のその姿勢は、芽吹に悪い印象は与えなかった。

 

「で、仕事に関してだったか。……向いてない仕事だと思うし、無理に俺に仕事をさせる必要もない。大赦は常に全力を尽しているから、こういう事をさせる余裕もない気がする」

「……それで?」

 

 大赦を肯定的に捉えている和月の話は、大赦を否定的に捉えている芽吹にとって癪に障る。しかし、自分から話しかけた手前、芽吹は話を続けさせるしかない。

 

「俺にこうさせる事情があるんだろ。それが何かは知らないが、俺は命じられたことをするだけだ」

「そこに赤嶺くんの意志はあるとは思えないわ」

「だろうな。俺もそう思う。ただ──」

 

 歯を食いしばり、和月を睨みつける芽吹に、和月はなんともない様子で話を続けていく。

 

「──上司が俺にこうさせているのなら、俺にもこれをやる意義は生まれる」

「どういうこと?」

「あいつの考えは知らんが、あいつのことを疑う気もない。納得はできないが、きっと必要なことなんだろ」

「信じているってことかしら?」

「そうでもない」

 

 何を言っているんだこいつは。正直ちょっと面倒くさい。そんな風に思った芽吹だが、これには和月なりの理由がある。芽吹には……いや、誰であっても理解はできない和月なりの理由が。

 

「記憶が曖昧な俺が、どうやって人を信じれる?」

「っ!」

 

 人が人を信じられるのは、相手のことを覚えているからだ。信じることの根拠は、相手の人格や言動ではない。自分が相手のことをそういう人物だと記憶しているかだ。「知らない人について行ってはいけない」というのも、相手のことを知らず、信じられないからだ。

 

「上司のことはわりと覚えてる方なんだけどな。それでも何個か忘れることもある。そんな状態だが、俺はあいつを認めてるってことは覚えてる。だから、意義があるんだと思える」

 

 まだ納得はできないが、それもしばらくすれば分かるだろ。そう言って話を締めた和月を、芽吹は判断しかねていた。和月は大赦の人間だ。芽吹を勇者に選ばなかった大赦の。しかし、神官が言っていた「扱いが難しい」という話。そして和月の扱われ方。そういった要因からして、和月は勇者の件に関わっていないと考える方が自然だ。人類の存亡がかかった重要な仕事は、一部であっても「忘れた」では済まされないのだから。

 そこは分かっているが、処理が追いつかない。道具のように扱われているというのに、そこに何とも思わないことは腹立たしい。理由を聞いても、だ。

 

(認めた人が関わっているから構わない?)

 

 そんな話があってたまるか。

 認めた相手であるのなら、なおさら道具のように扱われることに思うことがあるだろう。それなのに、和月は一切そこに触れない。だから芽吹は和月を好きになれない。

 最終結論はそうなった。

 和月の感覚は、今の芽吹には受け止める余裕がなかった。違いを認める余裕が。

 和月の言う『認める』は、他の人の言う『尊敬する』に相当する。絶対にそんな事を口にしないため、『認める』という言い方になるだけ。

 そして、それは普通なら相手を『信じている』ことの証なのだが、忘れっぽい和月は人を完全に信じることはできない。

 

「訓練も始まるんじゃないか? 着替える必要があると思うが」

「……そうね。時間を取ってしまってごめんなさい」

「気にするな。一応たぶんこれも仕事の内だろ」

 

 和月と別れた芽吹は、一度自室に移動して服を着替える。時間も少ないことから、着替えたらすぐに訓練場へ。

 今の芽吹は、大赦に自分のことを認めさせることを目的としていた。今でもなお、勇者に選ばれなかったことに納得できていない。

 誰よりも訓練した。

 どれだけ苦しくても耐え抜いた。

 勇者に選ばれた三好夏凜に引けを取らない成績を叩き出していた。

 それなのに選ばれなかった。努力を否定された気分だった。目眩がした。実際吐いた。一般の学校に戻っても無気力だった。勇者候補として訓練していた間は、勇者になることしか考えていなかった。だから話題にもついていけない。

 全て失ったようだった。

 だが今がある。大赦から与えられたこの任務で、あの判断は間違っていたのだと思わせるほどの実績を上げればいい。勇者に相応しいのは自分だと思い込ませる。勇者になる。その目的が今の芽吹を駆り立てる原動力だ。

 

「鬼気迫るものを感じますねー。何かあるんですかね?」

「……資料は?」

「見て捨てて忘れました」

 

 仮面の下で神官が呆れる。神官が和月の上司から聞いていた話と変わらない、というのも理由に含まれる。上司曰く、和月は優先度をつけて記憶しているということ。そして、渡された資料の優先度は下げるだろうから、どうせ忘れるだろうとのこと。

 実際そうなった。それでも困らないような仕事内容に一応している。資料は、防人たちのこれまでの大まかな経緯や事情が書かれていただけ。カウンセリングを任せることを考えれば、それは大切な情報なのだが、カウンセリングというよりもサンドバッグになれ、という仕事内容だ。覚える必要もないのかもしれない。

 

「仕事内容に含まれていないことを、今やらされそうなんですが?」

「彼女たちの生存率を上げるには、効率的なことかと」

「俺がそこを気にするとでも?」

「あなたは気にしないでしょう」

「……大人って嫌らしい」

 

 和月がここに送り込まれたことに、上司が多少関わっているということは、防人たちの任務に関しても報告が上がるということ。それで死者が出たという報告を聞けば、きっと心を痛める。和月はそうさせるわけにはいかない。上司との契約に反するから。

 基礎体力の訓練が終われば、武器を取り扱った訓練に移行する。防人たちの武器は銃剣か盾だ。どちらかしか扱えない。そして、どちらも経験者はいない。和月がここに送り込まれた理由にも、そんな事情があるのだろう。

 

「まずは銃剣の方からにするか」

 

 和月は多種多様な武器の扱いを心得ている。今時そんな古臭いものは扱わないだろう、という武器であっても教えこまれている。そんな武器たちの中には、防人たちの武器になる銃剣も含まれていた。

 

「銃剣を持った奴らは前に出てこい。初めだし、とりあえず基本だけ叩き込む」

 

 かくして、防人たちの任務が始まるまでの和月による訓練が始まったわけだが、後に彼女たちは口々に言う。

 あれは基本だけとは言わない、と。

 

 

 

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