タリス王に俺はなる   作:翔々

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明けましておめでとうございます。
今回はだいぶ短め、かつ明るめで進みます。最近が暗すぎたんじゃ。


24.家族が増えるよ

アカネイア暦540年 モスティン 11歳(h)

 

 昨日までいたはずの人間がごっそりいなくなり、その穴を埋めるように大勢の他人がやってくる。

 

 いくら交流のある相手でも、今日から一緒に暮らしましょうねといわれてスムーズにいくわけはない。ましてやこちらは海の民で、向こうは山と森に生きる民である。生活サイクルに適応するまでそれなりの時間がかかる。

 

 それを少しでも埋めるためにどうするかといったら、お互いの組織のトップが仲良く生活するのが手っ取り早い。というか、あちらは親に続いて兄と祖父を失い、たったひとり残された4歳の女の子である。祖父同士で縁があったこともあり、うちで養育しようと決まった。

 

 ……あの襲撃の後、俺の家はひっそりと静かになった。穏やかに過ごす父と母、ふたりの姿が消えた家は寒々しいほど広くなり、寂しさすら覚えたものだ。息子夫婦を失った爺の落ち込みもあって、俺も心細かったのかもしれない。新しい家族が欲しかったのだろう。無性に誰かの存在が恋しくなったから、タームの妹を迎えるのに抵抗はなかった。

 

 集落の引っ越しを終えた夜。我が家の一員となった少女は、自分も家族を失った悲しみを見せることなく、ぺこりと頭を下げてから、笑ってこういうのである。

 

「ミナ、です。モスティンさんのことは、あにさまからたくさんおしえられました。これからよろしくおねがいします」

 

 めっちゃしっかりしてる。

 

 俺が4歳のときってこんなだったっけ? 爺のアカネイアの話にふーんといいながら鼻をほじってた気がする。少なくともこの子ほど人間が出来てなかったのは間違いない。よほどターム達が大事に育てたんだろう。

 

 こうしてミナを加えた3人の生活が始まったのだが。

 

 なんというか、その、うん。

 

 人生が変わった。

 

「モスティンさんは、すごいひとなんですね」

「あにさまがいってました。モスティンにまけたくない、ぜったいならんでやるんだって。でも、わらってたんです。あいつとともだちになれたのがうれしいって、いつもじまんしてたんですよ?」

「モスティンさんは、がんばりすぎです。みんながあなたをたよってます。でも、モスティンさんは、ひとりしかいません。たおれてしまいます」

「だから、ミナといるときぐらい、やすんでください。いっしょにおはなをさがしたり、つりをおしえてください。そうしたら、もっとやすめますよね?」

 

 なんだこの子、天使か。

 

 よくよく考えたら、俺の家は女っ気こそあっても華がなかった。亡くなった母は肝っ玉母ちゃんで、お手伝いさんも花より団子の丸い人。こんなに小さな女の子とか来たことあっただろうか。無いわ。これっぽっちもない。

 

 なるほどなぁ、我が家には潤いが足りなかったのか。納得しながら仕事を終えて帰ると、奥からててて、と迎えに来てくれる。

 

「モスティンさん、きょうもおそくまでおつかれさまです。いいこ、いいこ」

 

 精一杯背伸びしても腰ぐらいしか届きません。黙っていると悲しそうな目で見つめてくるので、膝をついてしゃがんであげる。そうすると、パァッと笑って俺の頭に手を置いてくるのだ。

 

 かわいい。

 

 むっちゃかわいい。

 

 決めたわ。いや誓うわ。なんだったらリフの信じてる神様に宣言してもいい。俺はこの子の兄になる。タームの分まで愛情を注いでやる。こんな良い子が天涯孤独の身なんて許されん。絶対に面倒見てやるからな。

 

 ところで爺、なんでそんな哀れんだような目で俺を見るの?

 

「兄と妹で済むとは思えんのじゃが……政治的にまるっと収まるし……おそらく、お前の思う通りにはいかんぞ?」

 

 ははは、なにを馬鹿なことを。俺とミナなら仲良くなれるに決まってる。そう思うだろ、お茶を飲みにきたマックス君にフィットマン君。おい、なんで目をそらす? そんなに信用ないか俺?

 

「だいじょうぶです。モスティンさんには、ミナがずっとついていてあげます」

 

 うん、ありがとうね。お兄ちゃん、ミナのために頑張るからね。お前もあの世から見守ってくれよ、ターム。この子がこれ以上不幸な目に遭わないように、俺が絶対に守ってやるから――――!

 

「ああっ、さっきまで元気に飛んでいた海鳥が!?」

「落ちたな」

 

 タームが天国から送ってくれたプレゼントに違いない。今夜は鳥鍋にしようかね。実験で作ってた魚醤がようやく完成したから、ワサビも足して良い感じにしてやろう。次に来るトワイス商会の船に乗ってワーレンに行ったら、ありったけのネタを提供してロイヤリティを確保しないといけない。

 

 金が足りんのだよ、金が。せっかくこさえた自前の船が燃やされた上に、高い金を払って雇った傭兵も半数が戦死。村では作れない鉄製品もおしゃかになった。このままでは防衛もおぼつかない。村を離れるのは正直不安だが、総責任者である俺が直接出向いて交渉しなくては、回るものも回らなくなる。

 

「モスティンさん、どうしましたか?」

「味付けは何がいい?」

「おいしいものがたべたい、です」

「よろしい。素直な子が好きだよ、俺は」

 

 君にもワーレンを見せてやりたいよ、ミナ。亡くなったみんなの分まで、生きることの楽しさを味わってほしい。別れの辛さだけじゃない、出会いの喜びだってあるんだから。

 

「タコワサがいちばんすきです! コリコリして、ツーンときて、すっごい!」

 

 あっ、この子将来ウワバミになるわ。村の酒を全部飲まれるかもしれん。ジョンソンには近づけないようにしよう。

 


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