目次
その1~その10
舞台は、学生が多く住まう、日本の地方都市のような雰囲気の特異点。
主人公もサーヴァント達も、自らを学生や教師、その他の人物だと思い込み、あるものはなりきって夏休みを楽しんでいます。
男性主人公・女性主人公のどちらにも読めるよう、書いてあります。
読み方
台詞と選択肢を中心に物語は進んでいきます。
「」無し→基本はサーヴァントの台詞(今回の場合はアフロディーテ)や地の文です。
『』→プレイヤーの台詞ですが
『○○○』?、『○○○』!といった形の場合は、その『』の中身と同じ事を、サーヴァントが声で発しています。
また
→○○○
×××
といった形の場合、複数表示された選択肢の中から、左矢印がついているものが選ばれたという表現になります。
「」→文中に出てくるアイテム名や場所の名前を、強調したい場合のみ囲い、示しています。
また、他のキャラクターの台詞である場合もあります。
例 「サンオイル」(これはアイテム名)
「レストラン」(これは場所の名前)
「炭水化物ばかりの食生活が夏バテを招く!」(これは台詞)
【】→主人公がどのような行動をとったのか、相手からとられたのかを表現しています。
例 【先生と出会い、食事をした】
【先生を誘ったが、断られてしまった……】
また、ゲームらしさを出すため、システムからのメッセージは【】で囲ってあります。
──○○○→場面の名前、行動や時間経過を意味しています。
例 ──海水浴場
──着替え後
だいたいは上のルールにのっとり書いてありますが、例外もあります。
その1
2020/07/07
あら、なにかしら。この美と愛の女教師、アフロディーテに何かご用?
……先生にだって夏休みがあるし、こうして公園の喫煙所で黄昏たい時もあるの。年若いあなたにはまだ分からないかもしれないわね……。
なに、その目は……『相談に乗りましょうか?』ですって?! 夏休みに浮かれている学生風情が大きく出たものね!
……そうよ、誰も私に構ってくれないの!
旦那は『最近、有望な新人がやってきた』とか言って仕事仕事!
女友達のデメテルは、嫁ぎ先から帰省してきた娘のペルセポネにべったりで……ああもう!
男友達とはなぜか連絡がつかず、ご飯をひとりで作っても張り合いがないし、お洒落をしても、それを誰かに見てもらえなければ……なければ……。
ああ……苛つくわ……何もかもに……。ふぅ、自由奔放な私らしくもない……。
『ご飯、一緒に食べませんか』って?
このアフロディーテを人妻であり、他者の手本となるべき教師と知りながら誘っているのかしら、あなた。
ふふっ、そうよね遊びよね。良いわ、よくよく見れば、あなた結構おもしろい顔をして──。
『違う、そんなんじゃない』? 『寮のご飯が人を冥界に誘う味をしているから今日は外食したくて』……?
……学生には学生の、ヒトにはヒトそれぞれ苦労があるみたいね。
その2
2020/07/08
……ねぇ、あなた。異性と交際した経験はあって? もしくは、誰かと連れ立って歩いたりとか……。
無いでしょうね、だってそんな経験あったなら、女教師連れてファミレスなんて入らないもの。
初めてよ……『美の化身』とまで唄われた私を、こんな場所に連れ込むヒトなんて。
頼んだピザが来たわね、想っていたより美味しそう……ねぇ、私の話を聞いてる?
『でもここバイト先だし、安くて美味しいし……』
そんな理由で……って、ちょっと待ちなさい。あなたもしかして、私の分まで支払おうと考えていたの?
『先生を誘ったのは自分なので……』
呆れた。私、今日はあなたに呆れっぱなしよ。
……教え子に払わせる教師なんて美しくないわ、今日は私が支払いましょう。
全く……このヒトの子は。
『アフロディーテ先生、ありがとうございます』
だからと言って調子に乗り、頼みすぎたりしないことね。分かった?
『はーい』
……その、ありがとう。久しぶりに誰かと一緒に食事をとれたから、楽しかったわ。
『こちらこそ、ご馳走になっちゃって……』
細かいことを気にしないの。子どもは大人のすねを齧るくらい図々しい方が生きやすくてよ。
はいこれ、私の連絡先。あなたが暇なときにでもかけなさい、つきあってあげる。
『どんなことに?』
食事にショッピング、ああ、どこか観光地に出かけるのも悪くないわね。
『どうして自分を……』
決まっているじゃない。私、補習の授業も持ってないし暇なの。
あなたはこのアフロディーテの暇つぶしのデート相手に選ばれたのよ? 光栄に思いなさいな。
じゃあそろそろお別れしましょ。あなたと密会していたなんて、他の先生や学生にバレたら笑いのタネにされてしまうから。
……物欲しげな顔ね、別れの口づけでも頬にしてあげましょうか?
『!』
冗談に決まっているじゃない! ふふふ! おもしろい顔!
【アフロディーテ先生と出会い、食事をした】
連絡すれば暇つぶしにデート? してくれるようだ……。子どもだからと、からかわれているとしか思えない……。
その3
2020/07/13
はぁいこんにちは、数日ぶりね。急に連絡したから、驚かせちゃったかしら。
ふふ……でも、待ち合わせ時間はあなたが決めたのに、5分遅刻よ。
『バイトとか補習とか七不思議とかで忙しくて……』
バイト……は分かるけど、七不思議? いま生徒の間でそういうのが流行っているの?
いえ、怒っているわけじゃないの。ただ……そんな無茶なこと出来るの、学生だからかなと思って。
良いわね……友達との刺激的な大冒険!
そんなことを夜毎繰り返しているあなたに……私はどう? 刺激は足りる?
『ドレスコードが書いてあったので、指定通りの服を着てきましたけれど……』
……うん、合格。これから行く「レストラン」の雰囲気にぴったり。
『ドレスコードがあるお店に行くの、初めてだから不安で……』
私が付いているのよ? 何も心配ないわ!
さぁオープンカーに乗って。これを思い切り走らせるのは久しぶり……海辺を通って、楽しいドライブをしながら向かいましょう!
うーん……最高! お酒が欲しくなるけど、今日は我慢。
さぁあなたもどんどん食べて! 追加はどうしましょうか……。
『あの』
なぁに?
『ここ、レストランじゃないですよね』
そうよ? ここ、私の好きな焼き肉屋さん。特にホルモンが絶品の。
こんなに美味しくて安いのに、地元の人以外ほとんど知らないの。
えーっと、マルチョウ、牛タン、ミノ……店員さん、追加の注文これでお願いね。
鉄板から滴り落ちてる脂を貯めてる小皿があるでしょう? それ、シメのホルモン入り焼きうどんに使うから、とっておいてね。
こういった下町のお店で食べるの、私好きなの。周りの人の話を聞きながら、時には一緒に混ざって食事もして……楽しいものよ?
今? とっても楽しいわ! 可愛い教え子と秘密のレストランで食事しているのですもの……ふふふ。
指定した通りのドレスコード……「汚れてもいいラフな服」で来てくれたし。
焼き肉とっても美味しいけれど、肉と脂の臭いだけは困りものね。帰る前に温泉にでも入って、臭いを落としていく?
冗談なのに、そんなに赤くなって……本当に可愛いヒトね。
【アフロディーテ先生と焼き肉屋で食事をした!】
……どうやら自分は、暇つぶしの相手に使われているようだ。
その4
2020/07/15
……顔! 顔色悪いわよ! 真っ青じゃない……。
貧血か寝不足か夏バテか。原因なんて私には分からないけれど、デートの相手が具合悪そうなら流石の私も気にするわ。
はいUターン。ショッピングモールへのお出かけはまた今度。
寮まで送るわ。……『人目が気になる』って?
誰に見られたって良いじゃない、言い訳は考えてあげるから心配しないの。
ここが学生寮ね。私、縁が無かったから来るの初めて。
あら? 誰もいないじゃない。……まぁいいか、好都合。
ふらふらしてる……熱があるみたい、歩くのも辛そうね。
それなら……ふふ、お姫様抱っこしてあげる! ……意外と軽いわね、あなた。
はい、ベッドに大人しく横になってなさいな。
【体調不良なので、自室のベッドで休むことにした……】
『……良い香りがする』
目、覚めちゃった? ならちょうど良いわね。
ほら、お粥。卵とネギと生姜入り、作ってあげたから。
……デメテルに電話したら、薬だけじゃなくて何か食べさせた方がいいってアドバイスされたの。彼女に日本風の病人食の作り方聞いて、寮の台所と食材借りて、ちゃちゃっとね。
気分はどう? 食べられる?
『……いただきます』
【手作りのお粥を食べ、風邪薬を飲んだ。……体調が少し回復した!】
あなたの体調について、寮母と話をしてきたわ。寮姉と一緒に看病してくれるって! 良かったわね! ……寮姉ってなにかしら。
……今日のお出かけは残念だったけど、夏休みはまだまだ長いのよ? 機会はいくらでもある。
また連絡してね。私の秘密の……生徒さん。
【アフロディーテ先生に看病してもらった】
先生なりに、自分を大切にしてくれているようだ……彼女なりの愛情を感じることが出来た。
体調が回復したら、また連絡をとってみよう。
その5
2020/07/21
この間テレビを見ていたらね、「そうめんやうどんなどの、炭水化物ばかりの食生活が夏バテを招く!」とか言っていて。
あなたの食生活はどうかしら? どうせ、そうめんやバイト先のまかないですませているんじゃない?
そんな生活続けていたら、お肌はぼろぼろ、髪の毛ぱさぱさになってしまうわよ。
私? ご心配なく。だってあなたと焼き肉も食べにいったし、ビタミンやミネラルのことも考えて野菜も摂っているし、体はジムで絞って──。
? どうしたの? またぼーっとしているような……。
『……お店を予約したんです』
……ふぅん、それで? なぁに?
『今から、行きませんか』
……かわいい顔しているのに、緊張で眉間にそんなシワ寄せちゃだめよ、私の生徒さん。
美味しい! 日本の鰻料理ってこんなに美味しいの?!
鰻重も、お吸い物も……うん、このふんわりとお酒の風味まとったお漬け物も絶品!
大満足! 連れてきてくれてありがとうね。
『支払いは……自分が……』
あら、学生さんの懐事情は厳しいのではなくて?
『バイトとか色々、がんばったので』
……グレーなお金は嫌よ、私。
『そんなんじゃありません』
なら、いいけど。
……それにしても、まさか生徒に奢られちゃうなんて、教師人生で初めてよ! あの人に言ったらどんな顔するかしら……。
『あの人?』
ヘファイストス、私の旦那様のこと。カチカチの仕事人間。
結婚生活はそれなりに長いけど……なんだか、結婚した気がしないほど、お互いに好き勝手に生きてるの。
『……寂しい?』
そんなんじゃない。ただ……あの人のこと、私、何にも知らないなって。
この間も……って、子どものあなたにする話じゃなかったわね、ごめんなさい。
『この後予定、ありますか』
……あなたとのデートしか入ってないわ、生徒さん。
行く場所はもう決めちゃった! ショッピングモール! この間行けなかったあの場所に行きましょ?
『はい!』
【アフロディーテ先生に鰻料理をご馳走した! 喜んでくれたようだ!】
……出費は、痛かったが。
【二人前、20000QPを支払いました】
この後はショッピングモールへお出かけだ!
先生もどうやら悩みを抱えているようだ。
何回もデート? に誘えば、彼女の心を解すことが出来るかもしれない……。
その6
2020/07/28
ショッピングモールでのお買い物、楽しかったわね~!
特にあなたが教えてくれたお店、「ドルポンドファッション」はオーダーメイド水着まで注文できたし! 水着が出来上がって、天候が良くなったら海へ遊びに行ってしまおうかしら。
……生徒が制服で接客していた件については、学園へは連絡しないから安心してちょうだい。
ネイルにサンダル、お洋服、ピアスに水泳の道具、かさばるものばかり買ったから運ぶのも一苦労ね。
あなたにも少し持たせてしまってごめんなさい。大丈夫?
『だい……じょうぶ……です……』
……モール内のコインロッカーへ荷物を預けて、小休止としましょうか。
ここの黒蜜抹茶パフェ、彩りも盛り付けも綺麗だし、とても美味しい!
あなた、良い店知っているのね。お昼のお店の事といい頼もしいわ。
『喜んでほしくて』
可愛い顔で可愛いこと言うのね、このこのっ。
【おでこを優しく指でつつかれた……】
お代は私に支払わせてね。あんなに美味しい鰻をご馳走になったのですもの、これは、それに対してのほんの少しのお礼……。
【コインロッカー内の荷物を取り出した!】
後は車に運ぶだけ。ふぅ……重たぁい、楽しくてついつい買いすぎちゃった。
誰かと一緒にショッピングするのがこんなに心躍ることだなんて、私、忘れていたかも。
……思い出させてくれてありがと、私の生徒さん。
【アフロディーテ先生とショッピングモールで買い物デート? をした】
……先生とだいぶ親密になってきた気がする。
その7
2020/8/1
…………私って結構、重い女かしら。
『そんなことないですよ』
そう? ありがと。
……心を許し合っている仲とはいえ、近いわよ、少し離れて。
『あっごめんなさい』
ふぅ……肝が冷えるってこういうこと言うのね。
自宅の階段から足を踏み外して落ちるなんて……あなたに抱き留めてもらわなければ……私、どうなっていたことか。
でも、あなたのおかげで怪我もなし。
本当にありがとう……何回もお礼を言うと、言葉の意味が薄まってしまうかしら。
『怪我がなくて良かったです』
あなたも怪我は……してないみたいね、ああ良かった……。
ホームパーティの手伝いまでさせて、命の危機まで救ってもらっちゃって……私、今日はだいぶ抜けているわね。
『お疲れなのかも』
言われてみれば……今日は朝から家を掃除したりテーブルを出したりで動きっぱなし。ふぅ……準備はいったん止めて、休憩しましょ。
パーティに出す料理の味見もしなきゃいけないし、それを食べながら休憩ね。
『並んでいるこの料理、全部アフロディーテ先生が作ったんですか?』
違うわよ! 贔屓にしているケータリングのお店があるから、届けてもらったの!
ん……このチキンのオレンジとハーブ焼き、すごく美味しい……。
ベトナム風生春巻きも本格的な味わいね、サラダも、ローストした蕪とクルミが入っていて風味が斬新だわ。
あなたも今のうちに食べておきなさい。
夕方になったらお客様も来るし、あなたには、約束すっぽぬかしたバイトの代わりに、給仕役をやってもらわないといけないんだから!
お料理、どれも美味しいけれど……1品くらい私も作った方がいいかしら?
どんなものがいいかしら……簡単で短時間で作れるもので、ええと……。
【どの料理をすすめようか?】
→海鮮塩焼きそば
ローストビーフ
スモークサーモンのサラダ
海鮮塩焼きそば……ああ、海の家で話題になっているあれのことね!
確かに、材料は家にあるものばかりだし、短い時間で出来そう。
家の地下の冷凍庫から食材を取ってこないと……でも、地下って昔から苦手なのよね。誰かに見られているというか……どこかにつながっているというか、とにかく不気味に感じてしまうの。
地下へ降りるの、ひとりじゃ心細いわ。ついてきてくれる? 私の生徒さん?
【アフロディーテ先生の家で、ホームパーティの準備と給仕役のアルバイトをした!】
30000QPを貰った!
「アフロディーテ先生の家」と、「地下室」へ行けるようになった!
……地下室は、ただ静かにそこにあり、あなたを待っている。
その8
2020/8/5
体育館倉庫裏、午前5時。時間ぴったりよ、あなた。
この時が、とうとう来てしまったのね。
…………なに神妙な顔をしてるのよ! 海! 今日海に行く約束だったでしょ!
準備はしていた? 道具は揃ってる? ……ふふ、大丈夫みたいね!
それじゃあ、私のオープンカーに乗ってレッツラゴーよ!
なぁに?
『レッツラゴーは少し古いのでは?』
そんなこと無い! ……無いわよね? ねぇったら!
──海水浴場
3時間ほどのドライブだったけど、酔ったりしなかった?
『大丈夫です』
良かった、ちょっと心配してたの。
それにしても……途中で食事したあのお店のパン、美味しかったわね、帰りも寄ってしまおうかしら?
……っと、いけないいけない。今から遊ぶのに、帰りの話をするなんてナンセンスだったわね。
さて、ここまで学校から離れた場所の海水浴場なら、他の先生や生徒に会うことも無いでしょう!
更衣室で着替えて来るわ。後であなたの水着も見せてね!
──着替え後
……何も言わなくても良いの。
私のオーダーメイド水着が、私の体をこの上なく美しく際だたせていることは、わざわざ言葉にして補強するまでもない真実ですもの。
絶対的な美に対し、仰ぎ見る以上のことが必要かしら?
『はい』
なーんか反応薄いわね。
まぁいいわ。では、あなたの水着をファッションチェック……。
無難、実に無難ね。
あなたの肌の色と髪色に良く似合っているけど、全体的にまとまりすぎてて、遊びがない感じ。
いっそのこと、今着ている水着と正反対の色の小物やサンダルを付ければ、夏らしい活力あるファッションになるかも?
『分かったような……分からないような……』
同性や異性の友人を頼ってショッピング行けば、世代にあったアドバイス貰えるでしょう。あとファッション雑誌も買って勉強すること。
分かった?
『はい……』
はい、テンション取り戻して、思いっきり遊ぶわよー!
何をして遊ぶ? どこかのグループに混ざるのも楽しそうね。
【何をして遊ぼうか?】
ビーチバレー
遠泳
BBQ
フライボード
サーフィン
→バナナボート
『バナナボートに挑戦してみましょう』
良いわね! すっごく楽しそう!
……私が落ちそうになったら、どうか手を握って、離さないでね。
【アフロディーテ先生と海で様々な遊びを楽しんだ!】
バナナボートの途中、先生が落ちそうになったのでとっさに手を掴んでしまった。
……その後少しだけぎくしゃくした時間が流れたが、おおむね楽しく遊ぶことが出来た!
夏ももう半ばを迎えようとしている……何かに呼ばれている気がする……。
その9
2020/8/6
どうしたの? こんな土砂降りの中、私の家を訪ねてくるなんて……。
まぁ理由なんてどうでも良いわ。傘もささずにやってきたお馬鹿さんのために、バスタオル取ってきてあげるから玄関で待ってなさい。
『……』
黙りこくっちゃって……なんだか今日のあなた、幽霊みたい。
実はあなたはもう死んでいて、大好きな私に合いたくて、ひゅーどろどろってやってきたの? お盆も近いし?
……冗談よ。タオル、持ってくるわね。
──アフロディーテ宅、リビング
全身氷みたいに冷たくなってたし、お風呂と着替え用意したけど、どうやら正解だったみたい。
湯船に浸かって、ちゃんと体の芯まで温まった? 前の時みたいに、体調崩されたら気にしちゃうし……。
シャンプーは私のやつと旦那のやつ、どっち使ったのかしらね。ふふ、匂いで分かるけど……。
どうしたの? 優しい大先生にお礼の言葉も無し?
『……』
もうなんなのよ! 調子狂うじゃない! ……ねぇ、何か話してよ、怖いわ。
『あなたを』
ハーブティー入れたけど……ん? なぁに?
『殺す、夢を見た』
……外、雷まで鳴ってきたわね。
『あなたを殺す夢を見たんです!』
──そう。
『何か、言わないんですか?』
奇遇だなとは思っていてよ。
私は……あなたに殺される夢を見たのだから。
ハーブティー、どうぞ。
『……いただきます』
……昨日の深夜、心霊番組見ていたの。
霊が映り込んだ写真とか、地縛霊とか、そんな話が流れてた。
それでね、幽霊の研究者が言うには、自分が死んだことに気が付いてない幽霊は、どこにも行けず、死んだ場所をうろうろとしているんですって。
あっ、また雷……。
『……』
見ていてね、ふと思ってしまったの。
ひょっとしたら自分はもう死んでいて、それに気が付かず、生きているようにうろうろしている幽霊なんじゃないかって。
そしたら……あなたに殺される、ううん、殺された夢を見たのだもの。
なんだか、色々なことに納得がいってしまった。
こんな夏休みを、私のような女は過ごす可能性など持っていなかった……はず……なのに。
『……ハーブティー、ごちそうさまでした』
お代わりいる? ザクロのフレーバーの物がまだあるの。
でも、茶葉が無くなってしまったから……地下室へ取りに行かないと。
【……どうするべきか?】
このままアフロディーテ宅を去る
→アフロディーテと共に、地下室へ向かう
『一緒について行きます、アフロディーテ先生』
……ありがとう。自分の家の地下室なのに、あの場所苦手で、一人ではとても降りていけないの。
一緒に、行きましょうね。私の手、握っていてね。
【怖い夢を見て、思わずアフロディーテ先生の元を訪ねてしまった】
地下室に呼ばれている気がしたので、彼女と一緒に降りていくことにした。
何が待っているのだろうか……。
家の外は、泣き叫ぶような豪雨と雷が続いている。
その10
2020/8/9
──アフロディーテ宅、地下室
……湿っぽいでしょ、ここ。
ほらみて、コンクリートむき出しの天井に結露が付いてる。
それに寒いわね……真夏だってのに、吐く息が白く……。
あなたの手は温かい。いえ、私の手が冷え切っているのか……。
地下室への階段、こんなに長かったかしら。それとも、私がたどり着きたく無いから、長く感じているだけなのかしら。
ねぇあなた、何か話をしてちょうだい。無音だとなぜか……足がすくんでしまって。
『昔、オルフェウスという男が、死した妻のために冥界へ降りたそうです』
……その話、初めて聞く昔話だわ。
『恐ろしい女神も番犬も、男が奏でる竪琴の音色には心打たれて、道を譲ってしまったとか』
ふぅん……それで? オルフェウスは冥王ハデスの元までたどり着いたっての?
『竪琴を聴いた冥妃ペルセポネの取りなしで、オルフェウスは妻を取り戻しました。けれどハデスにこう釘を刺されます。
「地上に戻るまで、決して後ろを、妻の顔を見てはならぬ」と』
でも、そういう話って大概、タブーを破ってしまうものでしょ?
『オルフェウスは愛した妻の顔を見たいと不安になって、振り返ってしまい、そこには……』
腐った女の顔があった。違う?
……私、そんなに見ていられない姿をしている?
確かに、あちこち部品が取れて内部はむき出しだし、カルデアの兵器に撃ち抜かれた衝撃で体は黒く焦げているけど……それでも、美の女神は美しいのよ。
……それ以外の在り方なんて、許されるはずがないの。
私は知性体の教導を司るもの。だから、この特異点で教師なんて役割を当てはめられたのでしょう。
けれど、神々が人へ与える教育と、人が人へ与える教育は何もかも違って……私、教師としてはダメダメだったかも。
……あなたと降りられるのはここまで。階段が水没してる。
生と死の線引きを行う冷たい水……ここから先は死者の世界なの。
だから手を……手を離してちょうだい。
『……』
私は、あなた達カルデアに敗れた。
私の愛した世界は、あなた達の世界に負けた。
私は死者、死したものが生きているように振る舞うことは許されない。
でも不思議ね。死者は生者に触れられないはずなのに、あなたと私、こうして手を繋いでる。
ひょっとして、あなたも本当は幽霊さん?
だって、ひどい顔してるもの。常勝の者とは思えないくらい青白くて、今にも倒れそうで……。
『……自分は』
ああでも、やっぱりあなたは生きている。
どんなに倒れそうでも、吐きそうでも、自分の力でこの場に立っている。
なら、これ以上あなたを迷わせないよう、死んだものは死んだままでいないと。
さようなら、私の生徒さん。
『さようなら、アフロディーテ』
あなた、ただのちっぽけな人間なのだから、あまり無理なことはしないように。
……いつか、あなたが死んで、冥界へ来たときには……私の知らない話を聞かせて。
だからたくさん勉強しておくように。良い?
『……はい』
最後の最後に、教師というか役割らしいことが出来たわね。
さようなら、カルデアの者。
さようなら、一時の夢をくれた、ただの人間……。
【アフロディーテルートをクリアしました】
【アフロディーテ宅が空き家となりました】
【果実茶(ザクロ)】を手に入れました
アイテム説明
【果実茶(ザクロ)】
アフロディーテ宅の地下室で手に入れたフレーバーティー。
乾燥ザクロがたっぷりと入った、香りの良い一品。
ザクロは伝説の多い果物。ギリシャの女神の一柱であるペルセポネは、冥界のザクロを食べ、冥界の住人となってしまった。
けれど、このお茶を飲んだところで冥界の住人になれるわけではない。
死者と生者は触れ合えぬ、混じり会えぬ。──奇跡が起きない限りは。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。