サーヴァント夏休みSSまとめ   作:いざかひと

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 2023年に書いたものです。
 他の夏休みSSとは関係ありません。 

 雨の国の魔女と記憶喪失君の出会いから始まるSSです。
 投稿日によっては、登場人物が違うことがあります。
 【】は場所名や登場人物の説明。
 ◆は物語中の動きの説明。
 『』は他者の台詞の繰り返し、または固有の単語。
 「」は記憶喪失君や他キャラクターの台詞です。


夏休み特異点 雨の国の魔女ルート

投稿日 8/2  

【場面 森】

 

目が覚めましたか? 貴方は森の中で倒れていたんですよ。

いかにこの辺りが雨の氏族治める土地とは言え、ああもスヤスヤと無防備に寝ているのは……。

ごめんなさいっ、自己紹介がまだでしたね!

私は雨の氏族が王の養い子、トネリコ。

王妃と王、氏族の方の庇護を受け、魔女としての修行に励んでいる……半人前、です。

 

ところで貴方はどこから来たのですか? 

近隣のエディンバラ? それともティンタジェル?

今、オークニーの國は夏期休暇のお祭り準備の最中で、沢山のお客さんが来ているから……。

 

……『記憶がない』? 『名前も分からない』?

ひどい妖精にいたずらでもされたのかな、可愛そうに。

では、貴方を王妃の子であるトネリコが保護しましょう!

そして記憶や知人を探してあげます!

大丈夫! 今のオークニーには沢山の妖精が集まっていますから、絶対に誰かは貴方を知っているはずです!

 

さぁお城に帰りましょう、私の手を取って。

……自分が人間であることは、内緒にしておいてくださいね。

私がお城をこっそり抜け出たことも、王妃と王には内緒にしてください、ね?

 

それにしても、記憶喪失の人間とばったり出会うなんて……おとぎ話みたい……。

私、昼日中に夢を見ているのかも……。

 

 

投稿日 8/2  

【場面 森→オークニーの城】

お母様とお父樣が貴方を受け入れてくれて良かった!

話の流れで貴方を保護した場所が森ではなく、城の端になりましたが、許してくださいごめんなさい。

城を抜け出したことが知られれば、お説教の時間が長引き……『なぜ貴方はそうなのですか、トネリコ!』と言われて、ううう……。

 

でも、貴方を知る妖精がたくさん城に訪れてきたことは良いことでしたね!

ちょっと酔っぱらってる人もいましたが、皆さん好意的に貴方と接してくれましたし。

……あれ本当に妖精だったのかな。

 

後程、この國の姫君にも貴方を紹介しますね。

気高く責任感のある妖精、貴方もきっと好きになりますよ。

友達、にもなれるかも。

 

私? 私が姫様と友達なんてとんでもない!

拾われっ子で、妖精のくせに魔術を学んでいる……。

はみ出し者、他の妖精と自分は違うと分かっています。

だから! 早く立派な魔女になって雨の國を守りたい。

お母様やお父様、姫様、生きる民を守りたい。

いや、この國だけじゃない。

私は──妖精達を救いたい。

 

……ごめんなさい、私ばかり話してしまって。

何かを調べたい時は図書館です、図書館に行きましょう!

灰色の空とお祭り準備の喧騒、雨打つ音を聞きながら、本を読みましょう。

貴方の記憶、早く元通りになると良いですね。

 

 

投稿日 8/2  

【場面 オークニーの城 図書館】

記憶喪失君! 記憶喪失君!

読書にも休憩が必要ですよ、お茶とお菓子はいかが?

読んだ物語に覚えはありましたか? 

もしあれば、各地の図書館の蔵書記録から、貴方の住んでいた場所を割り出せます。

 

……いつまでもこの呼び方だと失礼かな。

でも他に良い呼び名も思い付かなくて、しかし私ほど力のある妖精だと迂闊に着名するわけにも……ってあれ、寝てる。

 

机の上には本がたくさん、一所懸命に調べたのですね。

おとぎ話、童話、詩に歴史書……すごい、こんなに難しい本でも読めちゃうんだ。

ひょっとして高位の妖精と暮らしていた?

だとしたら捜索届けが出されているかも、後でお母様に調べてもらわなきゃ。

 

お茶とキャロットケーキ、起きた時に食べられるよう準備しておきますね、よいしょ。

私は隣で先にいただいています、ふふふっ。

 

雨垂れの音の中での読書も好きですが、人の寝息を聞きながらページを手繰るのも良いものですね。

好き……です、静かで、自分自身に向き合うような時間が。

この穏やかな時が永遠に続けば良いのに。

 

記憶喪失君、寝る前に何を読んでいたのかな。

星見の本? 不思議なものを読んでいるんだなぁ。

でも、星見の本なんて図書館にあった……?

 

 

【場面 オークニーの城 大広間】

【記憶喪失の人間に会いに来た妖精?】

 

ああご主人! 記憶喪失になるとは情けない!

などと言いつつ颯爽登場デリバリーワンダー。

貴方のりょうさ……台所タマモキャットだワン!

しかしご主人エゴがぺらいぞ、えご(新潟県の郷土食、ぷるぷるもちもち、詳しくは調べよ)にでもなってしまったか?

 

おお、そちらに居られるのは雨の氏族が養女トネリコ殿。

滅相もございません……キャットはニンジンを愛する獣の氏族が一翅。

カロテン含む道のりを進み縁側にてまどろみ、平和を愛するもふもふの命。

ご主人を傷つけるつもりは無く……ははーっ。

 

……ご主人、ご主人はキャットのご主人なのだぞ?

この肉球とエプロンを見ても心によぎるものは無し?

ネバーエンディングなストーリー?

君たちはどう生きるか?

 

ふーむ素晴らしく厄介の予感、相手が相手なのだから当然か。

 

どうやらご主人はキャットのご主人では無き模様。

勘違い、だったのだワン。

 

トネリコ殿、城への出入りを許してくださり恐悦至極。

私も此度のオークニーの祭りに花を添えたく思います、城下での屋台出展の許可をいただけないでしょうか。

……ただの妖精である私に許可をくださり、ありがとうございます。

この身、料理の腕には覚えあり。

祭りに集う人々の舌を喜ばせることを、トネリコ殿と雨の氏族の方々に約束しましょう。

 

うー……ではご主人、しばしの別れ。

これは助言するまででも無いことだが、異界で出された物は食べてはダメだぞ?

例え人に勧められようと、美味しそうであっても、な。

 

 

【場面 オークニーの城 大広間】

【記憶喪失の人間に会いに来た妖精?】

うっぷ……ようやっと吐き気が落ち着いたき。

 

マスター! わしじゃ岡田以蔵じゃ!

おまんの護衛らしく助けに来たぜよ!

なんじゃあ鳩が豆喰ったような顔して……ん?

『知らない』? 『見たこともない』?!

何を言うちょる、マスターはマスターじゃ!

吐いたわしに水飲ましたのも、金をわしに貸したのも忘れたがかえ?!

 

……嘘はついちゃあせん顔じゃな。

記憶喪失っちゅう噂は真か。

 

どうやらおまんはわしのマスターでは無いようじゃ。

馴れ馴れしくしてすまんかったの。

 

……國をあげての祭りの最中、どこでも酒が飲めるのはええき。

ほんならな、そっくりさん。

わしはこれから酒屋を飲み歩きじゃ、会いとうなったら探せ。

 

 

投稿日 8/3  

【場面 オークニーの城 図書館】

……喪失君! 記憶喪失君!

起きて! 起きないと死んでしまう!

っ、ああ良かった、目を覚ましたのですね。

記憶喪失君、読書の最中に図書館で眠り込んでいたのですが……。

突然顔が険しくなってブルブルと震え、今にも自分の舌を噛んでしまいそうに見えて。

だから起こしました、ごめんなさい。

 

ちょっと体に触りますね、うん、まだ脈が乱れてる。

夢の内容は?

……『暗黒星の端末』、『翡翠の蜘蛛』、『膨張する黒い太陽』。

……『紙の月』、『破裂する人体』、『世界を壊す踊り』。

聞いたこともありません、後で私も調べてみますね。

 

どうぞ、温め直した濃い紅茶です、ケーキも。

飲んで食べて、見ていた夢から気を紛らわしてください。

 

『ケーキ美味しい』? ですか?

わぁ……ありがとうございます!

これは、すりおろしたニンジンとスパイスで作るキャロットケーキ! 

上にかかっている白いものはフロスティング、チーズとお砂糖から出来ているんですよ。

気に入ってくれたのなら嬉しい!

 

料理だって魔術のひとつなのです、だから修行中!

今度はもっとでっかくてすっごいの作りますね、ふふっ!

 

またうとうと、ですか?

でしたらはい、毛布と枕を持ってきました。

まだ記憶喪失君に差し上げるお部屋の掃除が済んでいなくて。

貴方のお昼寝の間に終わらせておきますから、眠ってください。

……安心して、ここは雨の氏族が治めるオークニー。

人と妖精が仲むつまじく暮らす國。

災いは遠く、炎は遠く、呪いは遥か先。

貴方を脅かすものは何もありません。

 

すぐ寝てしまいましたね。

記憶喪失君、夢を見るだけであんなに怯えて。

そこまで恐怖に紐付いた記憶なら……取り戻す必要なんてないのかも。

記憶喪失君、貴方の記憶がこのまま失われたら……お城で二人、暮らしませんか?

──永遠に永遠に、この雨垂れの音を聞きながら。

 

……お部屋のお掃除、やってこなくちゃ。

がんばれトネリコ、おー!

 

 

投稿日 8/4

【場面 オークニーの城 図書館→旧見張り塔】

記憶喪失君、どうですかこのお部屋!

昔は見張り台として使われていたのですが、新しい塔が立ったので捨て置かれていたのです。

なのでトネリコがお掃除しました。

シーツは洗い立て、のりも効いています。

ベッドも綿花でふかふかですよ! ふっかふか!

 

その……贈り物が、あります。

お母様とお父様に用立てていただいた望遠鏡です、どうぞ。

記憶喪失君、図書館で星の本を読んでいましたから、星が好きなのかと思って。

……えっと、迷惑なら持って帰ります。

 

「そんなことないよ、ありがとう」

……喜んでもらえたようで良かった。

 

ついでに持ってきてしまいました、夕食です。

私の手製ではなく、お城の妖精が調理してくれたもの。

人間が食べられるように野菜中心のメニューです。

私? その……『栄養が摂れれば良い』って思っているせいか、全部ぐつぐつに煮詰めてしまうんです。

あっ! でも栄養はありますよ! 

通常の食事に比べて倍以上です倍以上!

 

記憶喪失君、ひょっとしてお料理出来るんですか?

カレー、ドラゴンステーキ、チョコレート?

わぁ、すごいレパートリー! 

知らない料理もある! ドラゴン食べるなんておっかなーい!

 

それなら、今度お料理を教えてください!

新しい調理法を学べば、将来訪れるかもしれない食料危機に対応できるかもしれないし!

えへへ、二人でお料理修行ですね!

 

……記憶喪失君、こちら食後の薬です。

気持ちを落ち着かせ、悪夢を遠ざける効能があります。

悪夢を見た場合、それを脳から取り出し、こちらの水晶に保管。

保管したものは後から見返せますし、魔術的分析にかけることも可能です。

ね? 便利でしょ?

はい、飲んで飲んで……うん、偉い。

 

それではお休みなさい、記憶喪失君。

明日も……その、一緒に記憶探し、しましょうね。

 

 

【場面 森】

【記憶喪失の人間に会いに来た妖精?】

──座れよ、疲れているんだろう?

皆まで言うな、事情は分かっている。

記憶喪失、妖精國、そしてお前は魔女にべったりと来たもんだ、互いにな。

気配遮断スキルで出てきてやったがね、森でなければ相手に知られていたぞ。

 

確かにこちらの扱う領域の問題ではあるが、派手にやられると目が眩むのも事実。

さて……どうしたもんか。

強引に話を終わらせるならアステカ流に限る。

宝具を使い全てを喰らい全てに死をもたらそう。

このジャガーの爪でな?

 

それが嫌だと言うのなら──足掻け。

思考を停止させるな安寧にまどろむな、今日と変わらぬ永遠の明日を否定しろ。

そして星を探せ、お前を探している星をだ。

望遠鏡は魔女から隠しておけよ、相手も相当に聡いからな。

 

ン、なんだ。

『ものすごくツッコミたい』、『キャラが違う』、だとぉ?!

 

……はい、だいせいかーい!

どうも、金輪際現れない一番虎の生まれ変わりことジャガーマンでっす、Death!

えへへ、可愛いお姉さんの登場、嬉しいでしょー。

兄貴? 来るかニャ……来ないかニャ……。

来たら200%くらい特攻付くけど、色々台無しになるのよね。

ここがミクトランパ妖精國支店になっておしまい、というか。

んー? 『何を言っているのかさっぱり』と。

分かる、昨日冷やし中華食べちゃったもの私。

 

私はメッセンジャ"ガ"ーなんで、先の言葉はだいたい兄貴の原文ままです、ジャガーエキスは入れたけど。

心配しないで、エキスを注入されたとしてもジャガーマンと同じ思考になるだけだから。

 

ジャガーマンは密林の戦士、妖精國の森の中とはいえ、その特性は失われていないわ。

よって魔女にも知られず隠密行動が可能!

こっそりやるなら森のなかですぜ、旦那!

 

……というわけで、貴方にとってのラストリゾートとしてジャガーは良い出番を待つのであった。

欲しいときは呼んでねー!

 

 

投稿日 8/5

【場面 オークニーの城 図書館】

おはようございます、記憶喪失君。

よいしょ……っと。

この水晶は、ここ数日で採取した記憶喪失君の夢、それを保管したものです。

私が魔術をかければ映像が再生されます。

二人で見て、貴方の記憶を取り戻しましょう。

大丈夫、怖い部分があったら一時停止して、怖くなくなるまで側にいますから!

 

えっと、これは火事の記録かな。

次は骸骨、竜の骨で出来た使い魔、ワイバーンとか色々。

あとはひたすら戦いの記憶、歩いたりの記憶。

うわっ、危ない! 頭から地面に落ちる……寸前に助けてもらってなんとか五体満足、と。

 

ハロウィン、ハロウィン、ハロウィン、ハロウィ……ハロウィンだらけ! ハロウィンってなんなんですか?!

しかも登場人物が膨大! ちょっと早送りしますね!

 

クリスマス、ボックス……ガチャ?

ひたすらぐるぐる……えーっと、何をしているんです?

 

可愛い! 猪の子どもだ! 

うりぼうって言うんですよねこういうの!

……作るものは可愛くないですね。

 

うーん、映像が不鮮明になって来た。

盾、かな。それを持つ女の子が戦って、傷、血だらけになって。

そして……あれ、消えた。

水晶が記憶しきずに壊れちゃったのかな。

 

次の水晶をセット、再生開始。

……ますます映像が乱れてる。

銀の髪、氷を操る女の子の姿がなんとか見えるくらいで。

 

雪景色、綺麗だなぁ。

次も雪景色……だけど、ほとんど何も見えない。

水晶を取り替えますね、何か分かると良いですけど。

 

光で出来た巨人に船みたいなものが壊されている。

記憶喪失君そこから落ちて……見えなくなっちゃった。

 

これが一番情報を蓄えている水晶かな、再生しますね。

盾を持つ女の子、その戦っている姿、笑っている顔、お料理をしている所。

もう! 記憶喪失君の変態!

女の子のことばかり夢見て──あれ……泣いているのですか?

 

ハンカチ、どうぞ。それとお水を。

泣きすぎると水分が不足して頭が痛くなると、人間用の医術の本に書いてありました。

 

悲しいのですか? 

「ううん、違う」

では……。

「きっと、この記憶は大切だったんだ」

 

怖い記憶、ばかりなのに?

「そうだったとしても、記憶の積み重ねが自分になる。

 "覚えていたい"と選んだ意志まで自分なんだ」

……そう、ですか。

 

記憶の再生はここまでにして、お城の中庭に行きませんか。

ガラス温室の植物園があり、妖精國中の花が植えられていて華やかなんですよ。

ほら立って歩いて、図書館から出かけましょう!

 

(記憶喪失君に見せなかった水晶、こっそり確認したけど──あんな出来事が、ひとりの人間に降りかかっていたなんてぞっとする。

 記憶喪失君をこのまま元の場所に返して良いの?

 本人が望んでいたとして、私はそれを許せるの?

 ……悪夢を水晶に閉じ込めているなんて、ひどい嘘を付いた。

 寝る前に飲ませている薬は、記憶を固形にして宝石へ閉じ込めるもの。禁術。

 こんなことをしてしまうなんて……私は悪い魔女、ですね)

 

 

【場面 オークニーの城 外壁】

【力無く倒れている妖精】

◆人間は駆け寄ると妖精を助け起こした。

 

ああ……ありがとう、ございます。

でも、バーヴァン・シーに構わないで……。

私はずっと死んでいる……ここで、ずっと、ずっと……。

お母様を助けられなかった報いなの、力の無い妖精に相応しい末路なの……。

だから、バーヴァン・シーに構わないで……。

 

けれど……ようやく死ねて、安心、してる。

安心して……しまったっ……!!

お母様があんな目にあったのに……あったのに、あったのにあったのにあったのにあったのにあったのにあったのにあったのにあったのにぃぃぃぃ!!!!

 

お水をくださるの? ありがとう……。

私、何か言っていた? 無いはずの喉が痛くて……。

見知らぬ貴方、私のお母様を見なかった……?

とても素敵で、星みたいに輝いている妖精なの。

この國で一番優しい魔女様なの……。

ねぇ……お母様、どこ……?

同じ場所に行けると思って落ちたのに……どこにいらっしゃるの……?

 

 

投稿日 8/6

……だめ、だめだよ記憶喪失君!

確かにすごく嬉しい……けど、こんなところ誰かに見られたら叱られる!

わっ! 手を引っ張らないで……きゃあ!

どうしよう……私、悪い子になっちゃったかも。

 

【場面 オークニーの城→城下町】

 

城下町……お母様やお父様、姫様の供として表通りを歩いた経験はあるけど、こんな風に護衛も連れずに来たことは無くて。

胸がドキドキ、ばくばく、体が破裂しそうだよ!

 

記憶喪失君は慣れているんだね、おでかけ。

じゃあやっぱり、貴方は自由な人間だったんだ。

どこに行くのも何をするのも許されていて。

まるでこの國を駆け抜ける風みたい。

 

裏通りはこんな感じなのですね。

お祭り目前だからかな、ここにまで屋台が出てる。

あっ……。

「どうしたの?」

アクセサリーが売っています。

川や海岸で採取した宝石を加工して、首飾りとかにしているみたい。

こんにちは店主さん、商品を見てもよろしいですか?

……うん、うん、良かった、厄介な呪いとかはかけられてない、全て安全な商品だ。

 

記憶喪失君、私の頭に何を当てているんですか?

「この髪飾り、トネリコに似合うと思って」

髪飾り……素敵な深い赤、サンゴかな。

でもお金を持ってないから買えません、諦めましょう。

え? 『働いて稼ぐ』ぅ?!

なに言っちゃってるんですか! 

私も貴方も城下に知り合いはいないのに!

ちょっと待って! どこ行くんですー!

店主さんごめんなさい、見ていた商品お返しますね!

 

 

【場面 城下町裏通り→城下町 酒屋】

マイクさん、と言いましたね。

突如現れた私達を雇ってくださり、ありがとうございます。

今日一日だけですが頑張って働きますね!

 

えっと……三番テーブル、リンゴクレープの注文です!

小麦粉無くなっちゃった、倉庫へ取りに行こう。

忙しい忙しい……きゃああああ!!!!

 

「! トネリコ!」

……記憶喪失君。

あれ、あれ見てください……倉庫の隅に恐ろしいものが!

「芋虫だ、アゲハチョウの幼虫に似てる」

そうですキャタピラー! 

意志が通じない目をしていて、全身むにむに、しかも触れればおぞましい臭いを……!

「外に逃がしてあげたよ」

……ありがとうございます。

 

 

【場面 城下町 酒屋 まもなく夜】

お仕事も一段落。

働いた後の果実水がこんなに美味しいなんて、知らなかったな。

 

私、恵まれていたんですね。

働かなくても家があって食事が出てきて。

でも他の妖精は働き、賃金を得て、日々を暮らしている。

記憶喪失君にお城の外に連れ出してもらわなかったら、こんな当たり前のことにも気がつけなかったかも。

 

「でもトネリコだって将来働くんでしょ?」

はい……はい、そうなのです。

私は私が何になるか知っています。

このお祭りは、私が『それ』になることへのお祝いなのです。

ああ良かった……これなら良い『それ』になれそう。

 

「髪飾り買いに行こう!」

……はい。

 

【場面 城下町裏通り】

二人のお金を合わせて買えましたね。

どうでしょう、似合っていますか?

「とても」

良かった、貴方が喜んでくれることが嬉しいのです。

 

記憶喪失君に今日は助けられてばかり。

私、思ったんです。

互いに互いの不足を補う……これって、人の営みに似ているなって。

本で読んだのですが、人間というのは一人二組でつがい、生活を助け合うそうです。

その仕組みを『夫婦』と呼ぶのだとか。

今日の私達まるで夫婦みたいでしたね! ふふっ!

 

もう星が見える時間帯、ですね。

お城にひっそりこっそり帰りましょう。

また手を繋いでください、一人だと出来ないことばかりだから。

 

(ああ……記憶喪失君には言えないな。

 もうすぐお祭り、その日を迎えたら私は……。

 オークニーの王ではなく、妖精國の女王になる、なってしまう。

 でも女王になったら今の生活は……。

 

 星、綺麗だな。

 働くの、楽しかったな。

 髪飾り、私には勿体ないほどピカピカで……。

 今日のこと、ずっと覚えていられますように)

 

 

【場面 城下町】

【ばったり出会った妖精】

ふぃー、忙しい忙しい。

なんと言ったって納期は数日後!

それまでに花嫁衣装を……って、君、ここでなにをしている!

どうしてこんな……底の底まで来たんだい!

マシュはどうした! まさか一緒にいるってことは──。

 

……大きな声を出してごめんよ、その反応を見るに君はボクを知らないみたいだ。

ボクはハベトロット。

全ての花嫁の味方、裁縫好きの翅の妖精、いつも愉快なハベにゃんさ。

 

忙しそうにしていた理由? 決まってるよ仕事が詰まってる!

お祭りの日までに、今手掛けている花嫁衣装を完璧に仕上げなくちゃいけないから大忙しなんだわ。

ただ手は動いても気持ちがノらなくて、だって衣装を着てもあの子は……。

 

「誰か結婚するの?」

うん、雨の氏族の養い子がお祭りの日に結婚する。

箱の中にたくさんの贈り物を入れて、この國で一番綺麗な衣装を着て、一番悲しい結婚をするんだ。

「!」

 

……君、ここがどこで何か知ってる?

「妖精國、オークニー」

情報は合ってるよ、でも認識を間違えている。

今日の夜、古い塔の上、星をただひたすらに見てごらん。

星は星でも夜空に輝く『それ』ではないと分かるはず。

 

あと少し話したかったんだけど、行ってしまったか。

……君はきっと、もうひとつにも気がつくはず。

雨の氏族の養い子が、トネリコそのものではないことも。

 

命ある者はお帰りを。

ここは底なる女王のお庭。

 

【場面 オークニーの城 旧見張り塔】

【記憶喪失の人間の元に訪れた人間】

……少年の頃、地球儀に指を置き、その国に行った父さんの話を聞くのが好きだった。

父さんは素晴らしいフィールドワーカーで、本当にたくさんの発見をしたそうだ。

その成果は今でも時計塔に残っている。

成果だけ、だが。

 

望遠鏡の整備が終わった。

これでおまえの見たいものが見られるようになる。

角度は合わせた、レンズも取り替えた。

ここで星を見ることが出来る時間は5分だけだ。

……魔女に気取られることはない、オレのせいで。

 

「星が光っているのが見える」

そうか。

「星の声も──」

 

『マスター!』

『例え一部だろうと取りこぼすわけにはいかない!』

『かくなる上は私がレイシフト……!

 いや、責任者である私の反応までロストしたらカルデアは終わりではないかね?!』

『先輩! 応答してください!』

『ちょっと後輩、そんな大それた事、お前には早いわよ』

 

「……」

星におまえの姿が見えた。

おまえも星を観測した。

ブラックホールの如く超密度の暗黒で覆われていたこの世界だが、互いに観測が成ったなら干渉が可能になる。

時を置かずして、カルデアはおまえに手を伸ばすだろう。

 

道は二つある。

カルデアの元へ帰るか。

このまま底なる國にて女王と添い遂げるか。

望遠鏡の部品を一揃い置いておく、それとこの地球儀も。

 

「真っ白な地球儀だ」

これではどこに何の国があるか分からないな。

……それでもオレは地球儀が好きだよ。

想いを寄せて回せば、少年の日の事を思い出せるから。

 

この世界の星空は人型生命体を感傷的にさせる効果があるようだ、喋りすぎた。

いくつか記憶すべき悪性情報がある、その回収だけは行っておく。

道は二つ。

おまえはどうする、カルデアのマスター……いや。

 

カルデアのマスター、その"死の情報"。

数多の英霊が覆してきた結末。

異なる欲心、アルターエゴ。

 

 

投稿日 8/7

【場面 オークニーの城 旧見張り塔】

記憶喪失君、また星を見ていたんですか?

夜が明けるまで望遠鏡でずっと?

途中、姿が見えなくなりました、誰に隠されていたのです?

その前は夜にお城の外に出て妖精と会っていましたよね、名前はトリスタンでしたっけ。

………………何のために?

 

どうして様々な妖精が貴方に会いに来るのです?

親しげに振る舞うのです?

貴方の苦しみの全てを知らないのに?

 

隠さないで、偽らないで、逃げないで。

私は目は妖精眼、嘘をついたら分かります。

へぇ……そうなんだ。

記憶喪失君、他の妖精の前ではそんな顔をするんだぁ。

嬉しそうに笑ったり戸惑ったりもして。

なぜでしょう、それを知ったら私……いらいらするなぁ。

 

望遠鏡を贈るべきではありませんでした、返してください。

星なんか見るから里心が湧いて、記憶を取り戻したくなってしまうのです。

返して。

私のものだ。

かえせ。

 

望遠鏡なんて……星なんて……見る必要ない! 

見えるから辛くなるんだ! 見えるから勘違いするんだ!

私の元にもいつか、素敵な星の光が届くんじゃないかって!

こんなもの、もう要らない……!

 

◆トネリコの杖の一撃によって、望遠鏡は中程から割れてしまった。

 

はぁ……はぁ……。

まだだ、まだ貴方の瞳に星の光が残ってる。

いやだ、その目で私を見ないで……。

その眼差しだって……いらなっ……!!

「トネリコ!」

 

……あ……あぁ……私、最低だ。

望遠鏡だけじゃなく貴方まで傷つけようとするなんて。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

もう二度と、貴方の前には現れないから。

もう二度と、貴方を呼び止めようとなんてしないから。

もう二度と、ひとりぼっちになるのが嫌なんて思わないから。

う、ううああぁぁ……!!!!

「行かないで! トネリコ!」

 

(これで良いんだ、これで良い。

 私はあの人間に関わるべきじゃなかった。

 なのに……私、寂しかったからあの人を助けてしまった。

 名前を与えず居場所を与え、手元に置いた。

 手を繋ぎ、思い出を作ってしまった……。

 

 本当は私、分かってたんだ。

 オークニーの國にお祭りなんて無い。

 國を開いて他の氏族を招いた事実も無い。

 だってオークニーは……他の氏族の手で滅ぼされたのだから……!

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!

 思い出した、思い出してしまった!

 ここは妖精國じゃない、私はトネリコじゃない!

 ここは……ここは……。

 

 ──妖精冥國、死した妖精の情報が積もる先。

 妖精國が滅びた結果、世に必要となり産み出された國。

 

 私は明日、この妖精冥國と結婚をする。

 岩の祭祀場に立ち、宝石の輝く副葬品を身につけて、血の通わない結婚式を上げる、私は女王となるんだ。

 永遠に永遠に……妖精の悪性情報が地上に漏れ出ないための、冷たい石の蓋になる。

 そのために私は作られた。

 二体のアヴァロン・ル・フェ、彼女らの死したる情報を元にして。

 

 明日はお祭り、お祀りの日。

 みんなに求められ、歓迎されて私は女王になる。

 ──そしてこれまでの記憶は全て消える。

 だってそうでしょう? 悪意を感じる心を持ったままでは、冬の如き石の女王にはなれないんですもの。

 

 出会った喜びも繋いだ手の感触も消える。

 ……共に笑った声は思い出せなくなる。

 それで良いんだ、全て暗黒の空に溶けてしまえ。

 

 天の星は人類史に輝く英雄達。

 貴方を助けようと瞬く仲間達。

 それが光る夜空なんて、この國には必要ない。

 だって、救われるべき命はひとつも無いのだから。

 

 私は星を塞ぐ蓋になりましょう。

 

 誰にもここが見えないように。

 可愛そうな子がたどり着かないように。

 

 さようなら、記憶喪失君。

 カルデアのマスターの……"死の情報"。

 貴方だけは持ち主の元に返して上げないと。

 ……けれど、髪飾りは貰っていくね。

 思い出は駄目でも物くらいは……許してください……)

 

 

【場面 オークニーの城 玉座】

自分の正体を悟ったようですね、記憶喪失君。

初めまして、私はトネリコ。

かつて雨の國オークニーで育ち、命絶えたトネリコ。

彼女の死の情報です。

女王モルガンの砕け散った心、その一部と言ってもいいでしょう。

 

時間がありません、手短に説明を。

ここは、妖精國で亡くなった者を迎え入れるために新しく出来た冥界です。

『廃棄孔』と呼ぶものもいるかもしれませんね。

 

妖精國で絶えた命、死の情報はどこにも行けず消えるはずでした。

だって、次代を発生させることでサイクルを回していた妖精國に冥界はなく、生きた人間も全うな命ではなかったから。

けれど、カルデアのマスターが身の内に持つ『廃棄孔』を寄る辺としてしまった。

そのままにしておけば淀み、悪性情報や肉を喰らう呪いとして動き始めたことでしょう。

だから……切り離された、貴方本体の"死の情報"と共に。

 

カルデアのマスターは旅の途中で幾度も死にかけた。

もし死んだ事があれば、どこかの誰かが必死になってその『未来』を否定した。

それでも死の情報、キャッシュは貯まります。

運命力は削れます、どうしようも無いことに。

 

記憶喪失君、貴方は貯まったキャッシュ、本体の写し身なのです。

本体の記憶を持っていますが、死の可能性に至るものばかりを抱えている。

産まれながらに死んでいる人間。

 

私と同じ顔をしていたあの子は、アヴァロン・ル・フェの写し身なのです。

妖精が、あの國で生きた人間が死の後を望み、情報が淀み固まり産まれた。

産まれながらに死んでいる妖精。

 

全ての妖精であり全ての人間でもありますが、女王にするべく、パーソナリティーは救世主トネリコが雛型となった。

……トネリコがかつて顔を押し付けた妖精、でもあるのでしょう。

 

彼女は蓋となるため走り出し、最後には感情と記憶を燃やしきって冥界の女王となる妖精。

春、夏、秋、冬、どれでもない。

地下にて永遠の孤独を抱え横たわる、石の女王。

 

運命を変えることは出来ません、貴方には不可能です。

だって──死んでいるから。

死者は何も変えられず、冥界の女王には逆らえない。

 

記憶喪失君、貴方の英雄達がこの世界に来ています。

ちょっとおかしな男もいたみたいですね、翡翠の残骸を引きずって、もう遠くに行ってしまったけど。

南米からの視察かな?

 

まだこの世界は冥界に成りきっていない、だから英雄達も侵入が出来た。

彼ら彼女らと共に、本体の元へ戻りなさい。

 

妖精冥國からさようなら、お客様。

どうかこの風景が、瞬く間に貴方の記憶から消え去りますように。

 

……ちょっと、どこ行くの?

もうこの國は冥界に成るのです、今の内に帰らないと──ああ! 行っちゃった!

 

……一所懸命な女の子は見捨てられないとこ、本体とそっくりなんだから、はぁ。

こんなことならアルトリア・キャスターとでも名乗れば……だめだめ、それはズルだぞ。

けれど、何を聞いても絶対に走り出す人だもんね……。

 

 

 投稿日 8/8

【場面 オークニーの城のオークニーのオークニーのオークニーでオークニーのお祭りお祀りお祭りの日】

◆先程まで昼だったというのに、時間が急速に進み太陽が落ちて昇り、世界は強引にお祭りの日となった。

 城の外から女王を讃える歌が聞こえる……。

 

命あるものはお帰りを。

ここは底なる女王のお庭。

 

望みはずっと欠けたまま。

僕らはみんな死んだのさ。

 

だからここらにやってくる。

石の女王がやってくる。

 

塞げ塞げ、石のように玉のように。

僕らの嘆きを瓦礫に敷いて、死者の王の道を作れ。

 

現れたるは冷たい女王、血染めの冠、被った王さ。

 

◆大通りに妖精と人間、いや死者があふれだしている。

 皆、傷だらけの体を引きずって、うねうねと動いている。

 その混みようがひどくて前に進めない。

 

「マスター! こちらです!」

◆上を見れば、トリスタンが跳躍し、自分を抱き抱えて屋根に移動してくれた。

 

「事態の全てを把握なされたようですね。

 ええ、この國は冥界です、間も無く現世との往来は難しくなるでしょう。

 他のサーヴァントとは合流できました、後は貴方が脱出するだけです」

「トリスタン……ごめん、帰れなくなった!」

 

◆そのまま駆け出そうとしたが、優しく止められてしまう。

 

「自分は、本当のカルデアのマスターでないことを知った」

「確かに貴方は我らがマスターの一部、感情の現れです。

 されど欠片だからとて、ここに残してはおけません」

「……それと同じなんだ。

 あのトネリコはトネリコの一部、そのものじゃない」

「……」

「だからこそ! 俺/私はあの子を助けたい!

 永遠にひとりぼっちで蓋になることが、正しいなんて思えない!」

 

「おおマスター、私は……嬉しい。

 やはり貴方は心優しい人間なのだと分かりましたから」

「トリスタン……」

「共に参ります。

 窮地に陥った子女を助けに行くなど、騎士道冥利に尽きますからね」

 

◆トリスタンが自分を抱え、屋根づたいに移動していく。

 祭りの熱気は増していく。

 

「トネリコ殿はどちらへ?」

「町の外だ! あの……瓦礫の道の先にいる!」

「マスター、ここからは走りましょう。

 おお……私はがたつく!

 なんと安定感に欠ける道……羽が欲しいところです」

「羽は無くともヒヒン、足はここにありますよ」

「!」

「なんの因果か底に落ち、猫と縁側でニンジンを味わっていたレッドラ・ビットです。

 妖精國随一のスピードスターの足並み、今なら初乗り料金……」

「乗せてください!」

 

◆走り出す、瓦礫を越えて。

 走って走ってその先に……大きな岩屋が見えた。

 

「到着です、料金はハッピーエンドでお願いしますよ」

「ありがとう!」

「マスター、岩屋の奥から色濃い死の気配を感じます。

 まるで私が死の間際に見たような……」

 

「トリスタン、この記憶入り水晶をカルデアの俺/私に届けて」

「……本当に、冥界に残られるのですね」

「うん、だって俺/私というアルターエゴはこの國で産まれたんだから。

 ……あの子と同じように」

「では、この貴方とは永久の別れになると」

「大丈夫。

 みんなとの思い出がある、寂しくないよ」

 

「そんな風に微笑んでいられるのなら、過剰に心配する必要もないのでしょう。

 ならば私がやるべきは貴方の背を押すこと。

 ……トネリコ殿を助けに、行ってらっしゃい」

「行ってきます、トリスタン、みんな!」

 

「ああ、白い帆船が遠ざかっていく……。

 カルデアに戻った時、私はひどく叱られそうですね」

 

◆丘にある岩屋は固く閉ざされていた。

 指をかけ、力を込めて開けていく。

 中にいる彼女の存在、この世界の秘密を暴くかのように。

 

「来たよ、君の元に」

記憶喪失君、どうして……。

貴方には、帰る場所も待つ人もいるのに……。

 

◆トネリコがとても綺麗な服を着て横たわっている。

 頭には真っ赤に染まった冠が。

 肌に血の気はなく、体は腐り出し骨が見えていた。

 有機物から無機物、『石の女王』に変じる途中。

 

その顔、全部知った癖にここに来たんだ。

訳分かんない、理解不能です。

……私は貴方の大切なものを壊した。

記憶を取り出した、望遠鏡を砕いた。

体を傷つけようとした、瞳だって奪おうと……。

 

もう分かったでしょう? 私の心の奥には悪意があるんです。

……他の妖精や人間よりも大きな悪意が。

悪意がある存在なんて救われるべきじゃない、報われるべきじゃない。

よって、全てを捧げて蓋になります、それが罪人に相応しい終わり方。

帰ってください……帰って!

「トネリコ!」

助けようとなんて思わないで!

 

…………本当のことを言ってあげましょうか。

私、貴方が嫌いなんです、心の底から大嫌い。

色々と親切にしたのだって、こうして裏切った時のショックを受けた顔が見たかったから。

私はずーっと、貴方をオモチャとしか見ていなかったのです。

嫌い、嫌い……だいっきらい!!!!

顔も見たくない! ここから去れ!!!!

 

どう? 私を嫌いになったでしょ? 

私のことなんか消えてしまえと思うでしょ?

 

……なってよ……お願いだから……。

 

「トネリコ!」

違う、それは私の名前じゃない……。

私、私……誰なんだろう? 分からない、名前がないの!

でも、みんなが苦しんでいたことだけは分かっている!

『死ぬのは怖い』『消えるのは嫌だ』『誰か手を繋いで』って声がした!

だから……『助けてあげたい』と……思って……。

馬鹿だなぁ私、どう見たって貧乏クジなのにね。

 

「君に秘密にしていたことがあるんだ」

え……?

「俺/私は──人を殺した。

 目の前で大切な人が死んで、その原因を作った存在を許せなくて……殺してしまった。

 悪意なら、ほら、俺/私の中にもちゃんとある。

 君と同じ、お揃いだ。

 大切なのは、悪意を持っていることを忘れないこと」

 

帰ってください、もう取り返しはつかないんです。

私は蓋になる、望遠鏡はずっと壊れたままで……!

「直したよ。部品を一揃い、親切な人から貰ったんだ」

……。

「壊れた物は直そう、出来ないことは二人でやればいい。

 ひとりで王をやるなんて言わないで、一緒にやろうよ」

あ……ああ……。

 

「救世主が夢見たように。

 女王がそうしたように。

 この冥界に新しい物語を作ろう。

 ──罪と悪意を持った人でも、物語を紡ぐことは出来る。

 ──白い地球儀を回して、想いを馳せることは出来る。

 君と……最後まで一緒にいたい」

 

◆岩屋の中に踏み込む。

 前方から凄まじい風が吹き、自分を押し出そうとした。

 石の欠片が体に当たり、服を肉を切り裂く。

 それでも前に進む、"君"の元に進む。

 

嬉しい……すごく嬉しい……けど駄目だよ!

そんなことしたら、貴方は石になっちゃう!

記憶も感情もない石、ただの蓋に──。

「なったって良い、君をひとりぼっちにさせないためなら」

記憶……喪失……君……ああ、ううああぁぁ!!

 

◆"君"の前まで来た。

 傷だらけの手を広げる、そこに握り込んでいたのは小さな石の欠片。

 

「この水晶は俺/私の殺人の記憶。

 他者から奪い、傷つけた証明、忘れちゃいけないもの。

 カルデアの本体だって、ずっと覚えているもの」

記憶……喪失……君……。

「君と手を繋ぎたい、君と同じ場所に立ちたい」

私……。

「大丈夫、きっと良い國になるよ。

 良い國に、しよう」

……。

「側にいる、手を離さない。

 だって、君に見つけてもらった時、手が触れ合った時。

 ──本当に心の底から嬉しかったんだ」

ああ……しょうがないなぁ、私の負け、根負け。

貴方と手を繋いで、ひとりにならない覚悟を決めました。

自分達が罪と悪意を持つことを忘れず、ここに石の王國を築きましょう。

貴方と──二人で──。

 

◆オークニーの國が崩れていく、妖精國の形が崩れていく。

 地が割れて炎が吹き出し、瓦礫が全てを埋めていく。

 そのただ中において、丘の上の岩屋は内側から光輝くと大きな城へ姿を変えて、そして……。

 

 

 

 

◆できたてほやほや、何もかもまっさら真っ白。

 新品な冥界に、ある二人が住んでいます。

 不思議なことに、二人は石にはなりませんでした。

 

妖精の歴史、情報を本にまとめて……っと。

あっいけない、もうこんな時間!

整理整頓に気を取られて、ごはん食べるの忘れてた!

 

◆ひとりは、眼鏡をかけた綺麗な女王様と。

 

「お疲れ様、今日はこれを作ったよ!」

もしかして……カレーって食べ物?

いただきます! うん、小麦粉!

「スパイスが手に入らなくて……」

美味しいですよ? 炒めた小麦粉と玉ねぎ、なんか葉っぱ。

「ううん……いや……うん……!」

 

◆元人間である王様。

 二人は仲むつまじく國を治めています。

 

この地球儀は真っ白ですね、私達の冥界とおんなじ。

色を着けたいな、設備だってズンドコ建てなくちゃ!

他の冥界では……ふむふむ、シュメルに閻魔亭、ミクトランパ……。

温泉欲しい、源泉かけ長し温泉欲しいですよね?!

「現世にも色が戻ると良いね」

ええ! 私もそう願っています!

だから地球儀を回しましょう、祈りと想いを込めて。

 

◆時に死者の無念を聞き、時に歴史の中で消えた物語を書き留めながら、とても仲良く、仲良し。

 

記憶喪失君……じゃなく。

新しい名前を二人で決めたのですものね。

でもそう呼ぶの、まだくすぐったい。

「一緒に言ってみようよ」

それでは、ふふっ、私の大切な──。

「俺/私の大切な──」

 

◆物語は続いていく。

 罪と悪意を抱いたまま、それでも優しい未来を描いて。

 

 私達は静かに貴方の到来を待つ。

 いつか全ての戦いを終え、横たわり……死の安息を得た『カルデアのマスター』を。

 『お疲れ様』『貴方の物語を聞かせて?』とせがむ日を。

 

 ここで産まれ、死んでいるけれど。

 ──ああ、私達はどうやって生きていこうか?

 ──どんな物語を紡いでいこうか?

 それを思うと……とっても胸が踊るのでした。

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