「読めませんね‥」
「ああ。だがゴブリンの罠かもしれん。離れてろ。」
ゴブリンスレイヤーは剣を逆手に持ち、ゆっくりと足音を立てないように近づく。
そして!
グサッ!
思いっきりダンボールを突き刺した。
カキン!
刃は簡単にダンボールを貫通し、岩にあたる。
「どうやら中には何も入っていないようだな。」
「そうですね‥もしかしたら、ここにスネークさんが隠れてると思ったのですが‥」
「こんな薄い箱にまともな人間が隠れるはずがないだろう。それにこの道中で出くわしていないんだ。つまり‥」
「そこにいるのは誰だ。」カチャ。
ゴブリンスレイヤーは剣を向ける。
その向けた方向にはスネークがおり、ハンドガンとナイフを構えていた。
スネークとゴブリンスレイヤー、二人が睨み合う。
「スネークさん!生きてたんですね!」
「君は‥!どうやら無事に逃げて来られたようだな。」
神官が止めに入った事でスネークはようやく武器を降ろした。
「お前がスネークか。俺はゴブリンスレイヤー。」
「ああ、よろしく頼む。そして神官達を助けてくれてありがとう。」
「それについては礼に及ばん。それより、いくらお前が男でかつ、ゴブリンの匂いを漂わせているとはいえ、どうやってゴブリン達から逃れた?」
「俺はあの後、ここまで逃げてきたんだが、俺が出てきた横穴と、お前らが入ろうとした横穴からゴブリンが出てくるのが見えた。つまり挟み撃ちだ。それに気づいた俺は咄嗟にある場所に隠れた。すると奴らは俺に気づかずに素通りしていった。」
「それはいったい‥!」
神官がまるで、手に汗握るお話を聞いているかのごとく、ゴクリと唾を飲む。
ゴブリンスレイヤーも興味深い話なのか、真剣に聞いている。
この辺りには隠れる場所などない。だが、その話に出てきたゴブリンらしき死体もない。
「ダンボール箱だ。」
「ダンボール‥箱‥?もしかして、この箱ですか?」
神官は杖で突きながら聞き返す。
「ああ、それだ。」
「何故被ったんですか?」
「ああ、俺も人間相手にしかやったことはないが、ゴブリンでも騙せるか賭けに出た。そしたら見事に気づかれないものだ。更にダンボール箱はいいぞ。言葉では言い表せられないが、妙に落ち着くんだ。いるべきところにいるという安心感や、人間はこうあるべきだという確信に満ちた安らぎのようなものを感じるんだ。」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥分からないか?」
「分かりません。」
「意味が分からないが?」
「そうか、ならば一度被ってみればいい。」
「遠慮しておきます。」
ゴブリンスレイヤーは、こんな箱に何故そこまでのステルス性能があるのか不思議に思いながら、横穴に入って行った。
それに神官とスネークがつづく。
※突然ですが、挟み撃ちされた時のスネークの状況を回想します。
「はぁ‥はぁっ‥」
「こっちまで逃げてきたが、大丈夫か?」
一応、松明を反対方向に投げたからなんとかなったと思うが。
だが松明を捨てたせいで、少々洞窟内が見辛くなってしまった。ここからはナイトビジョンゴーグルに頼るとしよう。
そうして俺はゴーグルを装着した瞬間、目の前の穴からゴブリンが、こちらに歩いてきているのが、見えた。
すぐに離れようと後ろを向くと、後ろからも来ていた。
「挟まれたか。どうする。」
倒すか?いや、増援を呼ばれたら終わりだ。俺にはいいものがあるじゃないか。
俺はすぐにダンボール箱をかぶって身を潜めた。
※更にここからゴブリンの言葉を翻訳します。
「ギギッ?(いたか?)」
「ギィギ!(いや、いない。)」
「ギ?ギギッ?(これは何だ?)」
「ギィ?ギギッ!ギギギッ!(知らん。とりあえずあっちを探そう。)」
スネークはソロリと移動しようとしたが、運悪くゴブリンの一匹が振り向いてしまった。
「ギッ!?ギギッ!!!ギギギッ!!!(な!?おい!?この箱動いたぞ!)」
「ギッ?ギギッwギィギギィ!(は?何を馬鹿なこと言ってんだ。箱が動くわけないだろ。)」
「ギギッ‥(本当なのに‥)」
マズイな、気づかれてるか?スネークは一応ナイフを取り出す。
カサッ!
しかし、その動きでダンボールが動いてしまった。
「ギッ!?ギギギ!ギィギィ!!(おい!?まただ!また動いてる!)」
「ギィ‥ギギッ!(はあ‥真面目にやれ。)」ポカっ!
ダンボールの穴から見るとこちらに気づいているゴブリンが、もう1匹のゴブリンに頭を殴られている。
「ギギッ!ギィギ!ギギッギギッ!!(やめろ!俺は大真面目だ!確かに動いたし、絶対何かがいる!)」
「ギィ‥ギギッ。ギギギ。(そうか‥わかった。威嚇攻撃でもやってみろ。)」
信じていないゴブリンが呆れたように言うと、騒いでるゴブリンが俺のダンボールに石を投げつけ始める。
ゴスッ!ゴスッ!
デカイ石が何個かぶつかり、ダンボールが少しヘコむ。
「ギギッ?(どうだった?)」
「ギギッ‥ギギギ‥(反応なしだ‥捜索に戻ろう‥)」
「ギ。ギギィ、ギギッ!(そうか。お前今日は休め。)」
そうしてゴブリン達は横穴に入って行った。
※回想終了です。
少し入ったところで、ゴブリンが5匹たむろしていた。
こいつら、警備をサボった組か。
スネークは呆れながらも、チャンスだと思った。
まあ、先程のダンボールのくだりの時の2体もいるが。
「さて、ここは‥」
ゴブリンスレイヤーが剣を抜こうとした。
「待て、俺がやる。」
スネークが止める。
「‥やれるのか?」
「任せろ。あと危なくなったら、援護を頼む。」
スネークはコソッと動き、ゴブリン近くの岩陰に隠れ、様子を伺う。
ゴブリン達がスネークに気がついている様子はない。
スネークは一気に走り出した。
それに気がついたゴブリン達は武器を拾い、スネークに襲いかかる。
スネークは1匹を一本背負いで地面に叩きつけ、更に2匹目の武器を持っていない左腕を両手で掴み、浮かせながら引き寄せると、右手はそのままで、自身の左手でゴブリンの首を掴み、地面に叩きつける。
3匹目の後頭部に左手を回し、足を刈るとゴブリンの体を丸めて地面に叩きつけ、4匹目が背後に立ったため、すぐに振り向き両手で左腕を抱え込み、引き寄せると地面に投げるように叩き落とす。
これがスネークの十八番の連続CQCである。
最後のゴブリンは慎重に棍棒を構えて、殴りかかってくるが、スネークはワンツーとパンチを繰り出し、怯んだゴブリンから棍棒を奪い取ると、思いっきり振り下ろした。
グチャ!っと音がして、ゴブリンの頭が弾けて、地面に沈んだ。
「やるな。動きもスムーズで無駄がない。それと見たことがないな。」
「俺の亡き師と共に作り上げたものだ。おいそれと真似できるものじゃない。」
スネークはおもむろに、ゴブリンの腕を切り取ると、切断面をライターで炙って焦がし、血が流れてこないようにする。
「先を急ぐぞ。」
ゴブリンスレイヤーが進んで行ったため、またそれにつづく。
「ゴブリンのこと、私少しなめてました‥あなたが来ていなかったら私たちは‥」
「礼はいい。それと敵に対して油断はするな。追い詰められた狐はジャッカルより危険だというだろ?」
「え?なんですか、それ?」
「え?知らないならいい。それよりゴブリンか‥」
「ええ、危険ですよね。私が射られた矢にも毒が塗られてたみたいで‥助かりましたけど。彼らの糞尿と薬草で作られた毒らしいです。そんな毒を作れる素材を生み出すなんて‥」
神官はため息をつきそうになる。
「で、味は?」
「は?」
「味‥‥」
「聞いてなかったのですか?ゴブリンは‥」
神官は驚く。この人はゴブリンを食べようとしているのだ。ゴブリンを食べた人間は聞いたことがない。
この人‥大丈夫かしら?と考えていた。
神官が失礼なことを考えているとは、つゆも知らないスネークは聞き返す。
「聞いてたさ。だが食ったらウマいかもしれんだろ?」
「‥‥勝手にしてください。」
神官はやっぱり、この人は‥と思いながら前を歩くゴブリンスレイヤーについて行く。
奥で更に一本の穴を見つけ、ここがゴブリンの巣だということが分かる。
「ホブゴブリン‥あのデカイやつをおびき寄せる。だが厄介なシャーマンを先に殺す必要がある。そこで目くらましができる神官と俺で中に入る。」
「わかった。だったら俺はここで、後続が来ないか見ておこう。」
「頼む。それと、これを仕掛けてくれ。」
ゴブリンスレイヤーが渡してきたのは小さな木二つにロープを巻きつけたものだ。
「‥本当にこれで引っかかるのか?」
半信半疑な態度で聞くスネーク。
「大丈夫だ。仮に失敗しても策はある。」
そう言うと中に入っていった。
それから10分後。
ゴブリンスレイヤーと神官が走ってきた。
二人ともロープを飛び越える。だがホブゴブリンは獲物に夢中になりすぎて足下を見ていなかった。
ロープにつまづき、盛大に転ぶ。
待ってたとばかりにスネークがナイフでホブゴブリンの心臓を一突きで仕留め、黒い液体をかける。
なるほど、そういうことか。
そして持ってた松明を投げつけた。
それによりホブゴブリンは悶え苦しみながら炎上し、まだ燃えていない腹を蹴り飛ばして倒し、後ろにいたゴブリンたちを巻き込んで炎上させた。
その後、スネーク達は未だに燃えるホブゴブリンを尻目に村娘達の救出に向かう。
そこでは裸に剥かれた女性達が横たわっていた。
悲惨な目にあった女性達を見て、流石のスネークも顔をしかめた。
神官は「もう、大丈夫です‥大丈夫ですよ‥」と倒れている一人を優しい声で慰めながら抱きしめていた。
「‥ここか。」
ゴブリンスレイヤーにとっては、まだ終わっていなかったのか、人骨でできた椅子を蹴り倒し、その椅子に隠されるような形になっていた扉をこじ開けた。
ゴブリンスレイヤーが覗き込んだ為、スネークも一緒に覗き込んだ。
中には、まだ子供のゴブリンが身を寄せ合って震えていた。
横ではゴブリンスレイヤーが血に染まったナイフを構えだした。
そうだな。
スネークは一瞬甘い考えに陥りそうになったが、頭を左右にブンブンと振ると、同じようにナイフを構えた。
「待ってください。」
いつのまにか、神官が立っており、スネーク達がしようとしている事を止めた。
「この子たちは何もしていない子供です。たとえゴブリンでもいいゴブリンになるかもしれません。」
「中にはいるかもしれないな。……だが、姿を見せないやつだけが良いゴブリンだ。」
「すまんな、それに関してはゴブリンスレイヤーと同意見だ。」
そう言い、ナイフで一匹一匹刺し殺していく。
「ひどい‥あんまりです‥」
とうとう、神官は泣き崩れてしまった。
こうして俺たちはゴブリン退治を完遂した。
その後、剣士達が呼んだであろう冒険者達と捕まっていた村娘達を救出する。
「スネークさん、ゴブリンスレイヤーさんありがとうございました。」
「ああ。」
「気にするな。」
「ところで、スネークさんは行くあては‥」
「無いな。」
「そうですか‥」
「俺の所に来い。」
「お前の家か?」
「厳密には俺の家では無いが、一人くらいならなんかなるだろう。掛け合ってやる。」
「すまないな。」