次の日、スネークは起き出す。
自分にあてがわれた部屋から出て、井戸水で顔を洗う。
少し寝ぼけた顔がシャキッとするのを感じる。
フォークでガシガシと汚れを取り除き、新しい牧草を用意して、フォークをしまうと外に出た。
「おはよう。ゴブリンスレイヤー。」
「ああ。」
ゴブリンスレイヤーは相変わらずぶっきらぼうな挨拶を返してくる。
そういえば、こいつ‥兜を脱いでるところを見たことがないな。
「で?何をしてるんだ?」
「柵の補強だ。ここには牛や鶏などの家畜が大量にいる。それ目当てでゴブリンが襲撃してくる可能性がある。」
「なるほど。俺も手伝おう。」
二人で無言で柵の緩みを直したり、がたつきを直すなどの補強作業を進めていく。
どれくらい時間が経っただろうか。
「ご飯できたわよ!」
女性が呼びに来てくれた。
この人物は牛飼い娘。この世界に来て分かった事だが、この世界の人間で名前を呼んでいるところに出会ったことがない。
「何故なんだ‥?」
「どうしたんですか?スネークさん。」
「え?いや、なんでもない。」
それと不思議な事が起きた。
俺が使っているM1911とM16ライフルだが、マガジンは3つずつ入っていた。俺はあの洞窟でハンドガンは2つ、M16も2つ消費したはずだった。
だが寝る前に確認したら3つに戻っていた。
何故だ?何故増えている。いや、もちろん増えることに関しては逆に助かる。この世界に同じような弾丸を作る技術があるとは思えない。
だが不気味だ。
そして食卓に座り、朝食を食べ、牛飼い娘が荷車に畜産物を積み、ギルドへ運ぶ。俺たちはそれについて行く。
毎日この繰り返しだ。
今日こそ頼んでやる。
俺はギルド内の食堂に赴き、シェフを呼んでもらう。
すると髭を生やした初老の男性が出てきた。
「なんだい?」
「実はこれを美味しく食べる方法を探している。」
そう言って俺はゴブリンの腕を出した。
そう、ゴブリンの腕だ。前回は女神官に没収され、焼却処分されてしまった。更に万全を期すために今回はちゃんと水洗いをして匂いを飛ばしてきた。
今日こそだ!
「これなんだい?」
「これか?ゴブリンの腕だ。」
「はぁ!?お前イカれてんのか!出禁にされたくねえなら、さっさとそれ持って帰れ!」
「おい!塩撒いとけ!塩!」
追い出されてしまった。
「どうした?」
「ああ、ゴブリンが食べられるんじゃないかと思ってな?食堂に持ち込んだら追い出された。」
「ゴブリンをか?食べられるのか?」
「まだ分からん。最悪生で齧ってもいいが、それをやったら、二度と口をきかないと女神官に怒られてしまってな?」
「ふむ‥」
「ゴブリンを食用にする事が出来たら‥仮にそれが美味しかったら‥人間は希少な食材や素材の為に動植物を滅ぼしかけるものだ。ゴブリンを絶滅に追いやる足掛かりにもなるはずだ。」
「なるほどな。もし食べるなら水でよく洗って、血抜きをして‥」
「ああ、万人ウケするように臭みも消す必要がある。」
そう言いながら、俺たちは同意をもらおうと牛飼い娘を見る。
「協力しませんからね!」
そう言うと、帰って行ってしまった。
残念だ。
「ゴブリンスレイヤーさん!スネークさん!」
「なんだ?」
「どうした?」
「あなた方二人にしか出来ない依頼です。」
話を聞く限りでは、村娘がゴブリンに攫われた事で、義憤に駆られた女性4人組パーティがゴブリンの巣穴に朝早くに乗り込んだが、未だに帰ってこないらしい。
「‥わかった。引き受けよう。」
「ゴブリンスレイヤーさん。」
女神官だ。彼女はゴブリンスレイヤーの忠告通り、鎖帷子を着るようになっていた。
その女神官が杖を両手で持って聞いてくる。
「ゴブリンですか?」
「ああ。」
「そうだな。着いてくるか?」
「はい!行きます!」
「この辺りか。」
「そうですね。‥無事だといいのですが‥」
「捕虜もパーティも全滅してると考えた方がいいが、絶対とは限らないだろう。」
それから目的地に到着する。
「さて、洞窟を燃やすとしよう。」
「え‥?でも‥まだ生きてるかもしれないです!」
「ああ、一度侵入を許したんだ。奴らは殺気だってるはずだ。」
「でも、もし生きてる人がいるのに、したら‥」
「ああ、そいつらも死ぬだろう。」
「‥待ってくれ。」
行動を起こそうとしたゴブリンスレイヤーをスネークが止める。
「どうした?」
「俺だけでも行かせてくれないか?」
「どう言う事だ?」
「女神官はまだ洞窟に生存者がいるかもしれないと言ってる訳だ。そんな状態で作戦を決行しても彼女は納得しないし、俺達の心の中にも、あの時生存者の確認をしてた方が良かったのではないか‥?といった疑問が残り続ける。なら俺が一人で行ってくる。」
「危険だぞ。」
「そうです!いくらスネークさんでも!」
「まあ、ノーアラートとはいかないが、大丈夫だ。それでも信用できないなら20分だ。20分経っても俺が帰って来なかったら遠慮なくやってくれ。それでどうだ?」
「そんな!ダメです!」
「‥‥いいだろう。」
「ゴブリンスレイヤーさん!?」
「分かった。行ってこよう。」
こうしてスネークの単独潜入ミッションが今幕を開けた。
「流石、元エルフの要塞だ。罠が多いな。何個かは解除されてるが。」
ナイトビジョンゴーグルをつけたスネークが罠を回避しながら進んでいく。
おそらく帰ってこないパーティが解除していったものだろう。
「ギギッ!」
突然声がしたため、しゃがみこむ。
ゆっくり顔を上げるとゴブリンが目の前をあくびをしながら歩いていた。
どうやら1匹のようだ。
ゆっくりとハンドガンを構えて引き金を引いた。
パスッ!
ゴブリンの頭にヒットし、沈黙させる。
スネークはゆっくりと動き出し、辺りの安全を確認するとゴブリンの腹を裂き、血や臓物を全身に塗りたくり、自身の匂いを消した。
これは本来女性が行う事だが、念には念を入れての行動だ。
石を投げたりレーザーサイトの光を岩肌に照射するなどの陽動をしつつ、どんどん奥まで進んでいく。
すると見つけた。
スネークは辺りを確認して危険がない事が分かると村娘の顔を確認しにいく。兵士の中には捕まえた相手の体に手榴弾を括り付け、体を動かしただけでピンが抜けるようにする罠もある。ゴブリンもしないとは限らない。
その為、ゆっくりと顔をこちらに向けた。頬にはうっすらと涙の跡があり、舌を噛み切ったのか口下には血の跡がある。
可哀想にな。スネークは見開かれたままの遺体の目を閉じさせ、手を胸の前で組ませた。
更に奥に進むと、酷いものだった。
的にされていたのか、柱にくくりつけられ、矢が体に刺さったままの遺体に、仰向けに寝かされ開脚したままの遺体、近づくまで分からなかったが、燃やされたのか黒く炭と化している遺体を見つけた。もらった紙に書いてある似顔絵と見比べると潜入したパーティだということが分かった。焼死体の身元が分からないが、恐らくここのパーティメンバーだろう。
だがあと一人が分からない。
うん?あれは‥
俺は中途半端に裸にされた女性を見つける。
遠目から双眼鏡で確認すると、まだ生きている事がわかった。
生存者、発見。
動き出そうとしたが、奥からゴブリンがこちらに歩いてきているのが分かった。
俺はすぐにダンボール箱をかぶり、様子をうかがう。
状況から見るに‥彼女は最後まで‥何故かは分からないが彼女は意図的に最後まで生かされていたようだ。
「あ‥ああ‥」
「ギギッ!」
ゴブリンがその女性の周りをグルグルと回る。
俺はダンボールを被ったまま、奴が俺の死角に入る度に近づいていく。
そして意を決したかのようにそのゴブリンは女性に組み付いた。
俺は瞬時にダンボール箱から飛び出し、ゴブリンを後ろからホールドした。
「ギ‥!」
ゴブリンは俺には捕まった事に気づき、抵抗しようとジタバタ動くが、もう遅い。
俺は腕でゴブリンの首を絞め上げる。
すると、頭に酸素が上らなくなってきたのか、ゴブリンの抵抗が弱まっていき、クテッと落ちた。
俺はそのまま捻って首を折ると、その女性の顔を確認する。
間違いない、彼女は貴族令嬢だ。
俺はその女性を背負い、他の3人の遺品らしき物を拾い集め、洞窟を後にしようと立ち上がり、後ろを向いた。
だが、そこに立っていたゴブリンと目が合ってしまった。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
お互いに静かに見つめ合う。
「俺に気づかれずに後ろを取るとは‥‥いいセンスだ。」
そう言い、俺はゆっくりと下がった。
その瞬間だった。ゴブリンは手に持っていた銅鑼を思いっきり叩き始めた。
しまった、増援か!
その音に混じって奥からドドドド!!!!と音がする。
俺は片手で銃の引き金をひき、そのうるさいゴブリンを沈める。
だが、徐々にゴブリン達の足音が近づいてくる。
俺は一か八かの賭けで出口へ向かって走る。
行きの道で、罠の場所は全て把握している。
スネークは軽快に回避し、後ろから追いかけてきているゴブリン達は罠にかかり、数を減らしながら追いかけてくる。
ようやく前方に明かりが見え始め、ナイトビジョンゴーグルを外す。
間違いない!出口だ!
俺は駆け抜け、外に出る。
「スネークさん!」
「俺の事はいい!早く!」
「はい!」
《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください》
「聖壁(プロテクション)!」
洞窟の入り口全てを塞ぐように壁が現れ、スネークを追いかけていたゴブリン達は一斉に激突していく。
今回の作戦はこうだ。
洞窟の入り口に燃える水、つまり油を入れた瓶を設置し、囮を追いかけてきたゴブリン達を聖壁で閉じ込め、安全地帯から瓶を火矢で割り、洞窟内を火の海にする。というものだ。
その後はゴブリン達が燃え出すのを確認し、ゴブリンスレイヤーの話では、こういうところは抜け穴があるとのことなので、それを一個ずつ潰して回り、俺たちは帰還した。
「そうですか。捕まってた村娘は自殺、パーティも一人を除いて全員生還ではありませんでしたか‥」
俺とゴブリンスレイヤーの話を聞いた受付嬢が暗い顔をする。
因みに女神官は助け出された貴族令嬢を別室で落ち着かせている。
「それで、あの子はどうなるんだ?」
「ええ、普通は‥修道院に入る事になりますね。」
「そうか。」
その後、俺たちは女神官と別れて帰ろうとする。
「あの‥」
俺たちは振り返る。
それは、あの日俺が助けた女武闘家だった。
「あの‥えっと‥これを‥」
そう言って女武闘家が差し出したのは俺の上着だった。
あの日、着せたまま、服が返って来なかった為、俺はずっとゴブリンスレイヤーの提案でレザーメイルを着せられていた。
「ああ、返しにきてくれたんだな。ありがとう。」
「それで、この後なんですがお話しする事は‥」
「ああ、それは‥」
俺はちらっとゴブリンスレイヤーを見た。
「気にするな。」
「すまないな。先に帰っててくれ。それと夕飯は先に食べててくれないか?」
「分かった。」
そう言うとゴブリンスレイヤーは帰って行った。
「あの‥すいません‥」
「いや、いいんだ。それより飯でも食いながら話そう。腹が減った。」
俺たちはギルド内の食堂エリアに入る。
俺を見てシェフの目が見開いたが、俺が両手を上に上げると、作業に戻った。
「どうしたのですか?」
「いや‥なんでもない。」
俺たちは適当に二人がけのテーブルにつく。
「そうだ、剣士と魔法使いがいただろ?どうしてる?」
「ええ、アイツ‥いえ剣士の方は今回の事で冒険者をやめてしまって村で畑仕事してます。女魔法使いさんは修行が足りなかったと学院に戻ってしまいました。」
「そうか、どんな形であれ、無事なら何よりだ。君は?」
「はい、私は‥冒険者を諦められずに、今は簡単な植物の採取や弱い魔物の討伐をしています。」
「そうか。で?他の要件はなんだ?」
「要件ですか?」
「ああ、まさか俺の上着返して、ただ近況を話しに来ただけじゃないだろう。」
そう言いながら葉巻を咥え、火をつける。
「‥‥お見通しなんですね。」
「ああ。」
「私に、武術を教えてくださいませんか?」
「武術?」
「はい、女神官さんに聞きました。あなたは水のように流れる動きで、ゴブリンを素手で倒していったと。私もそうなりたい。」
そう言うと立ち上がり、床に土下座をして頼み込んだ。
「な!?おい!」
「お願いします!私を弟子にしてください!」
それを見ていた周りがザワザワし始めてしまう。
「ねえ、あれ何かしら?」
「おいおい、アイツ女を土下座させてるぞ!」
「なんて野郎だ!」
スネークに非難の目が集まり出した為、スネークは慌てて言う。
「分かった!分かったから顔を上げてくれ。視線が痛い。」
「と、言う事は!」
「ああ、教える。だが生半可な覚悟ではついて来れないぞ。」
「承知の上です。」
俺達は飯を食うと、受付嬢に頼んで牧場へ今夜は帰れないと伝えてもらい、ギルド内の訓練所にやってきた。
「さて、まず俺が使っているのはCQCという。」
「これは近接戦闘に特化したものだ。お前が考えている通り接近を許さなければ剣よりは弓などの方が強いだろう。だが‥まあ説明するより見せた方が早いだろう。」
スネークはナイフを抜くと、女武闘家に持たせる。
「それで俺に攻撃してこい。」
「え?」
「いいから。俺を刺すつもりで来い。刺さなくとも斬ってもいいぞ。」
「分かりました。」
女武闘家は答えるとナイフでスネークの胸の辺りを刺そうとする。
だがスネークは後ろに下がりながら両手でナイフを持つ右手を腕ごと掴み、その腕を捻る。
「うっ!」
女武闘家はその痛みでナイフを取り落としてしまう。
そこをスネークは右足で女武闘家の両足を刈ると地面に倒してしまった。
「イタタタ‥」
「これがCQCだ。」
「初日は意味が分からないだろうから、ぶつかってこい。受け止めてやる。」
「分かりました!はぁっ!」
1時間後‥
「はぁ‥はぁ‥」
女武闘家は訓練所で大の字になって荒い呼吸をしていた。
「体中が痛い‥」
「だろうな。いくら倒しても向かってくるからつい本気を出してしまった。」
「今日分かった事だが‥そのままで良いから聞いてくれ。」
スネークのその言葉に、正座をしようと起き上がり出した為、スネークは止める。
「まずお前の攻撃は大振りだ。それでは素人なら騙せるが、俺クラスになると格好の餌食だ。更にお前の攻撃だがパンチとキックだけだったな。それだけだと避けられたり掴まれた時にカウンターを食らう。だがどれだけ倒されても俺に向かってくるガッツと、1発1発の攻撃の速さは見事だった。」
「いいセンスだ。」
「いい‥センス‥?」
「ああ、ほら立てるか?」
スネークは手を差し出す。
女武闘家は手を掴み、立ち上がる。
「ほら、回復薬だ。」
「ありがとうございます。」
そう言い、ゴクゴクと飲んでいく。
こうしてスネークは異世界にて弟子を持つことになってしまったのであった。
そこから少し時は戻り、ある村では‥
「小鬼殺しの鋭き致命の一撃が小鬼王の首を宙に討つ〜♪」
ある吟遊詩人が歌っていた。
その歌に人々は足を止め、聞き入る。
どうやらゴブリンスレイヤーの歌らしい。
「かくして小鬼王の野望も終には潰え、救われし美姫は勇者の腕に身を寄せる〜♪」
「しかれど彼こそは小鬼殺し 彷徨を誓いし身傍に侍う事は許されぬ〜♪」
そして歌が終わる。
「辺境勇士 小鬼殺しの物語より山砦炎上の段 まずはこれまで」
被っていた帽子を掲げ、お辞儀をすると人々は拍手をし、その歌に応えるようにお捻りを落としていった。
その男は片付けを終えると、稼いだ金を数える。
(やはり損得抜きで人々を助ける勇者の話は受けが良いな。)
(俺にとっても白金の勇者様だよな!)
稼いだ金から一枚硬貨を取り出し、見ていると急に声をかけられる。
「ねぇ、今歌ってた冒険者のことだけど実在するの?」
「え?ああ、もちろんだとも!(まあ、俺は会ったことねえけどな。)」
「そうだな、こっから西の辺境へ2〜3日ばかし行ったとこの街にいるって話だ。大きなギルドもあるし、そこで聞いてみたらどうだい?」
「街?放浪してるんじゃないの?」
「あ‥いやそれは‥はは‥あ!そうだ!これはお客さんにだけですよ。」
「最近その小鬼殺しの仲間にめっぽう強いのが入ったそうで。その人物も近々歌に入れるつもりなんですよ。」
「へぇ〜街にいるのね。」
スッとフードを外すと普通の人間にはない長い耳が現れる。
「おお‥」
その男は先ほどまで話していた女性がエルフで、しかもかなりの美形なのに感動し顔を赤くする。
「‥‥小鬼殺し(オルクボルグ)」