SPRIGGANーシャドーモセス事件ー   作:ニラ

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 日本、東京……

 

 オフィスビルが立ち並ぶ、アジアでも……いや、世界でも有数の大都市である。

 多くの人が外から入り、また外へと出て行く街であり、人の流れは留まることを知らないかのように絶えず動き続けている。

 

 そんな東京のとあるオフィス街。

 そこには、世界でも有数の大企業であるアーカム財団日本支部があった。

 

 アーカム財団

 第二のロックフェラーとも言われる巨大財閥で、小さな関連会社を合わせれば優に1000を超えるような巨大複合企業である。

 それこそ家庭用の生活必需品から軍御用達の兵器まで扱い、銀行、不動産、商工業と、あらゆる分野に根を張っている大資本だ。

 

 ……まぁもっとも、表向きはだが。

 

 そんなアーカム財団は裏では、現在から遥か過去に存在した超古代文明の数々が残したモノ――遺産(オーパーツ)を、あらゆる権力から守り、封印、破壊する事を目的とした活動を行う……といった顔を持っている。

 

 そんなアーカム財団に所属する特殊工作員の中でも、取り分け優れた能力を有する者達が居る。

 彼等は俗に遺跡の『護り手』、『森の妖精』――SPRIGGAN(スプリガン)と呼ばれた。

 

 今回はそんなSPRIGGANの中でも、チョットばかり新米のお話……

 

「今回の任務内容を説明するぞ――って、どうしたんだ大槻(おおつき)?」

 

 アーカム財団日本支部オフィスビル内にある、アーカム研究所所長室。

 その部屋の中央に、髪の毛は禿げ上がり、中年太り気味な小男――山本は居た。

 山本は一つの紙資料も持ちながら、所長室のソファーに『ムスッ』とした表情で座っている少年に視線を向けている。

 

 少年の名前は、大槻達樹(おおつきたつき)

 そう、彼は少年である。それも子供も子供……まだ高校生の少年だ。

 短く切られた茶色の髪の毛に、吊りがちな眼。

 

 全体的に強気を思わせる風貌をした少年だが、現在その表情は歪められ、不満を前面に押し出していた。

 達樹はこれ見よがしに大きな溜め息を吐くと、山本に対して首を左右に振る。

 

「いや、『どうした?』って……。入院から明けて、そのまま任務に行くのか――って思うと、ほんの少しだけ憂鬱になっただけですよ。はぁ……」

 

 言葉にすると同時に漏れるため息は、何とも年齢不相応の哀愁を感じさせる。

 現在、退院から1日後。

 それが今の達樹の状況だった。

 

 ほんの少し前の事である。

 彼の直接の上司であったグラハム・ブルートンが、古代遺跡の力を手に入れて世界征服――等といった、子供じみた夢を叶えようとしたため、達樹はその尻拭いとして遺跡の破壊と封印をするハメに成ったのだ。

 

 まぁ結果としてみればその任務は成功し、達樹はその功績を買われてA級工作員からS級工作員(SPRIGGAN)になれたのだが……。

 しかし、その代わりに身体はボロボロ。

 肋骨は折れるは、腕は折れるは、内臓は傷付くはで、とても手放しで喜べる状態ではなかった。

 だが治療に専念したお陰か、つい先日その時の怪我も癒え『じゃあ、久しぶりに学校に行こうかな』と登校したところ――

 

『待ってたぜ。大槻』

 

 と、笑みを浮かべる先輩工作員に捕まって拉致連行→そして現在に至るのである。

 

「大体、何だって俺なんです? 見ての通り、今の俺は退院明けなんですよ? 包帯だって、まだちゃんと取れてないのに」

 

 達樹は自身の頭に巻かれた包帯を指差し、見せつけるようにして言う。

 もっとも実際包帯の下には既に怪我など無く、これはただ巻いてあるだけだったりする。

 

 とは言え、その程度のことで仕事が楽になったりはしない。

 そんな事は言った本人である達樹も良く解っていることだ。

 

 現にその事に対して――

 

「情け無ぇ事言ってるんじゃねーよ。手前ぇも、今ではSPRIGGANの一人だろうが」

 

 と、部屋の壁に背を預けるようにして立っていた男、ジャン・ジャックモンドがツッコミを入れてくる。

 このジャンと言う男、見た目は唯のハンサムな男なのだが、その性格はひたすらに凶暴。

 一度キレると大の大人が数人がかりでも手が付けられないと言う、非常に困った奴である。

 

 とは言え、それでもアーカムに所属するS級工作員で、世界でもトップレベルの実力の持ち主だったりする。

 

 そんなジャンに対して別の人間――達樹と同様に空いたソファーに腰掛けている男が反応をした。

 

「おいジャン、そう目くじら立てんなよ。達樹の奴も、別に本気で言ってる訳じゃないんだからさ」

「んだよ、御神苗? 過保護にすんじゃねーよ。こういうのはな、最初の内にビシッとしとかねーと、後々になって――」

「ビシッとしてないお前にそんな事言われたら、達樹だって困るだろうが」

「んだと手前ぇ!」

 

 ジャンと言葉の掛け合いをしている男の名前は、御神苗優(おみなえゆう)

 前述のジャン・ジャックモンドと同様にS級特殊工作員……SPRIGGANの一人で、やはり世界でもトップレベルの実力者である。

 

 二人がじゃれ合うように口論を続けていると、それを聞かされていた達樹は不意に一言

 

「SPRIGGANか……そうなんですよね。俺、SPRIGGANになったんですよね」

 

 と呟いた。

 その言葉に御神苗とジャンの其々の動きが止まる。

 

「俺、確かにSPRIGGANを目指してたんですけど、何だか実感沸かないんです」

 

 達樹は「はぁー……」と溜息を吐くと、気のない表情を御神苗やジャンへと向けた。

 するとジャンは眉間に皺を寄せ、不機嫌さを顕にしながら達樹に詰め寄ってくる。

 

「あのなぁ小僧、んなもんに実感とかそんなのは関係無ぇんだよ。重要なのは、手前ぇが力を持っていて、それを使う立場にあるって事だけだ。あんまし下らねーことばっか考えてっと、その内に必ず痛い目みるぜ?」

「ジャンさん……」

 

 自分を気遣ってくれている。その事が達樹には良く解った。

 達樹自身にとって先輩SPRIGGANである、ジャン・ジャックモンド。

 普段の態度や気性から、達樹は自分勝手で他人を労ることなどしないような自己中人間だと思っていたのだが、どうやらそれは達樹の思い込みであったようだ。

 こうして、落ち込みを見せる達樹に苦言を呈してくれるのだから。

 

 達樹は少しばかり、それが嬉しかったのだが……

 

「っていうか、あんましグダグダ言ってるようなら俺がシメるぞ」

「あっ、今本気でそう思ってますね?」

「――手前ぇ、人の心の中を読むんじゃねーよ!!」

 

 『本気でシメると思っている』ジャンに、この人は単に俺の態度に怒ってるだけでは? と思うのだった。

 とは言えその考えも、ジャンにヘッドロックのように首を締められて遠のく意識の前では、実際どうでも良いような事なのかも知れない。

 

「ジャ、ジャンさ……ギブ、ギブです」

「あぁ? 聞こえねーぞ」

「――あー、良いか? そろそろ任務内容の話を進めたいんだが?」

「オイお前ら、あんまり山本さんを困らせるんじゃねーよ」

 

 達樹のタッチを無視するように、ギリギリと首を締めていたジャンだったが、山本と御神苗に横から言われて「チッ」と舌打ちをして達樹を解放するのだった。

 

 解き放たれた達樹は、「ぜはーぜはー……」と大きく息をしている。

 

「大丈夫か達樹?」

「い、一応は、生きてますから」

 

 心配そうに尋ねる御神苗に、達樹は首もとに手をやって返事をした。

 一応は手加減をして締めていたのだろうか、ジャンは『並の人間とは違う』のだ。

 向こうが軽くのつもりでも、達樹にとっては死活問題である。

 

「悪いな。アイツは馬――」

「――ああッ! その、山本さん説明をお願いします!!」

 

 続けざまに何かを言おうとした御神苗だったが、達樹はその言葉を察して無理やりに遮った。

 御神苗の言葉を全部言わせた場合、ジャンがどんな反応をするのかが解っていたからだ。

 

 達樹の慌てように山本は軽く苦笑を浮かべると、「じゃあ、始めるぞ」と前置きをして手元の資料に目を移すのだった。

 

「今回の任務は少し面倒なんだが……。主な任務地はアラスカの周辺だ」

「アラスカ?」

「アメリカの領土かよ」

 

 任務地の説明に、ジャンや御神苗は其々反応を示した。

 とは言え、それもそうだろう。

 アラスカはアメリカの領土の一つであり、そしてアメリカと言う国は遺跡の争奪戦において、アーカムと良くブツかる――いわば犬猿の仲とも言える関係なのだから。

 

「山本さん、質問なんですが。アラスカ周辺……というのはどういう事ですか?」

 

 手を上げるようにして達樹は山本の説明に質問をした。

 それに便乗するように御神苗も口を開く。

 

「そうだな。此処が任務地だって説明なら分かるけどよ、幾ら何でも『周辺』なんて説明じゃアバウトすぎるぜ」

「それに付いても今から説明をする」

 

 御神苗と達樹の質問に山本は新しい資料を3部程取り出すと、その資料を御神苗達に1部ずつ手渡していった。

 そこには一枚の写真が添付されており、奇妙な粘土板が写されている。

 

「事の始まりは今から数年前に遡る。アメリカ陸軍が自国内のインディアン達から、一枚の粘土板を手に入れたことが始まりだったようだ」

「粘土板?」

「前にあった『YAMA(ヤーマ)』とか、その類じゃねーだろうな?」

 

 山本の説明に添付されている写真を興味深そうに見つめるジャン。

 だがそれとは別に、御神苗などは顔を顰めている。

 

 御神苗の口にした『YAMA』とは何か?

 簡単に言えば、超古代文明が組み立てた一種の思考型プログラムだ。

 インダス川上流で発見された遺跡の壁面に刻まれていた紋様が元だが、それを解析していたアーカム財団の保有するスーパーコンピューター『アース』を乗っ取り、一時は世界崩壊にまで成りかけた事もあったのだ。

 

 御神苗は当時その事件を担当したSPRIGGANであり、もしそうなら面倒だと思ったのである。

 因みにその事件は達樹も知っているらしく、御神苗が『YAMA』を口にしたことで「ゲッ!?」と口にしてカナリ微妙な表情を浮かべていた。

 

「いや、それとは違うが。だが考えようによってはそれ以上に厄介なものだと言える」

 

 山本は御神苗の問に首を左右に振って答える。

 3人は『YAMA』以上に厄介だという仕事の内容に、表情をキッと締まらせた。

 

「……優、大槻。お前たちはかつて、『狂戦士(バーサーカー)』と闘ったことがあったな?」

「あ? あぁ。確かにヤッたことがあるけど――って、まさか!?」

「バーサーカーに関係が!」

「その通りだ」

 

 重苦しい口調で言う山本の言葉。

 それに対して、御神苗と達樹は揃って口を半開きにしてしまう。

 

「なぁ、なんだよバーサーカーってのは?」

 

 だがそんな二人とは違い、ジャンは二人に聞いてきた。

 御神苗と達樹とは違い、狂戦士と対峙したことがないからだろう。

 

「『狂戦士(バーサーカー)』ってのは、超古代文明の創りだした戦闘ロボットだ。昔アーカムの研究所でも一回大暴れして、周辺諸共巻き込んで自爆してる」

「その上、目茶苦茶硬いは強いはで、かなり面倒な相手でしたよ」

「ヘンリー・ガーナムの事件で南極に行ったときに、動く巨人像を見ただろ? アレの兵器搭載型劣化版だと思え」

 

 御神苗と達樹の説明に、ジャンは「あぁ、成程。アレね」と軽く頷いて返した。

 だがその表情を見る限り、厄介な奴だと認識したのだろう。

 

 ジャンへの説明を終え、いざ再び山本の説明を聞こうとした御神苗だったが、ふと頭に嫌な考え思い浮かんでしまう。

 

「……山本さん、何だか嫌な予感がするんだけどさ。連中が手に入れたのは粘土板なんだよな?」

「そうだ」

「そして、その粘土板は狂戦士に関係がする物……なんだよな?」

「そうなるな」

 

 そこまで聞くと、御神苗は「マジかよ」と言って大仰に顔を俯かせてしまった。

 

「どうしたんですか、御神苗さん?」

「達樹、ちょっと考えてみろよ。多分、直ぐに俺の考えてることが解ると思うぜ」

「そういう風に前置きされると、寧ろ考えたくなく成るんですが?」

 

 御神苗の言いように、達樹は心底嫌そうな顔でそう言って返す。

 とは言え、その顔は内心では意味が解っているのだろう。

 山本は言葉を繋ぐように間に入ると

 

「詰まりだ。連中の手に入れた粘土板の正体は、狂戦士の製造方法に関わる記述だったことが判明したんだ」

 

 達樹にとって考えたくなかったことを言うのだった。

 すると達樹は、先程の御神苗同様に「マジかよ……」と口にした。

 

「現在、アメリカ軍とアームズ・テック社による共同開発で、狂戦士の技術を使った兵器が開発されているらしい」

「アームズ・テック社って……確か最近では落ち目の軍事兵器開発会社だろ?」

「あーそういや、アメリカの次期主力戦闘機の競争入札でグラバーズ重工に負けたとか……って聞いたな」

「確か……ステルス技術だけが無駄に高い企業ですよね?」

 

 思い出したように言うジャンと御神苗。

 それに併せて、達樹は結構ひどい事を口にする。

 

 アームズ・テック社

 シアトルに本社を持つ軍事兵器開発会社。通称、AT社。

 軍需産業最盛期であった冷戦時代に急成長し、業界2位までのし上がった……いわゆる死の商人である。

 とは言え、現在はジャンや御神苗の言うとおり余りパッとせず、ズルズルとその業績を下降させている状況にあった。

 

「でも、何だってそんな所が狂戦士の技術を使った兵器なんて」

「むしろ、そんな所だからだな。アームズ・テック社は伸び悩む自社の売上を何とか挽回しようと、新しい構想の兵器開発を軍に持ちかけたらしい」

「新しい構想?」

 

 すると山本は、3人に資料を捲るように言う。

 

「二足歩行型核搭載戦車だ」

「なッ!?」

「核だと!」

「ふーん、馬鹿さ加減ではよく聞く話だな」

 

 資料にはただ文字が羅列してあるだけだが、彼等の手にしている資料に、その兵器の概要が記されていた。

 

「アームズ・テック社は、自走能力を持ち世界中どこでも核発射が可能な兵器……として売り込んだらしい。かつて冷戦の時代、アメリカやソ連等はこの手の兵器を何度か制作していたらしいがな。とは言え、アームズ・テック社のその話に軍も乗った。開発される機体に、狂戦士の技術を使ってはどうかと思ったんだろう」

「思ったんだろう……って、それって詰まり――」

「あぁ、ほぼ完成してしまっている」

 

 山本の言葉に思わず絶句をする達樹であった。

 狂戦士と言うだけで厄介だと思っていた任務だというのに、これでまた一段階面倒になったと思ったのだ。

 

「冷戦終結からこっち、ソ連の崩壊もあって世界の軍事バランスは崩れていると言ってもいい。だがそんな中、この兵器の存在は有ってはならない物だと言うのが我々アーカムの判断だ。今回お前たちに与えられた任務は二つ、粘土板の奪取又は破壊、そして開発された二足歩行型戦車の破壊だ」

 

 言うと山本は、部屋の電気を落としてプロジェクターを操作した。

 するとスクリーンにアラスカ半島の地図が映しだされる。

 

「作戦ポイントは2ヶ所。アラスカ州アンカレッジにあるエルメンドルフ空軍基地と、アラスカ半島アリューシャン列島、フォックス諸島沖の孤島……シャドーモセス島だ」

「何だそりゃ? 2ヶ所で開発されてるってことかよ?」

「いや、それがな……」

 

 ジャンの言葉に、言い辛そうに言葉を濁す山本。

 なにやら言い難いことがあるのだろう。

 とは言え、それを言わずに放っておく訳にも行かない。

 

「――正確には、何方にあるのか解らないって方が正しい」

「「「はぁ!?」」」

「現地の連絡員も、その事を伝える前に音信不通になってしまってな。

 だが、大型のなんらかの物資が其々の基地に運び込まれている事は確かだ。 それに我々アーカムとしては、古代文明の遺産を野放しにしておく訳にはいかない」

「怪しい所を調査しましょう――ってことか」

 

 なんとも行き当たりばったりな任務だな……とは、ここに居る誰もが思ったことだが、口に出したりはしなかった。

 喩え口に出したとしても状況が変わるまで待つことは出来ないだろうし、無駄だと思っているからだ。

 

 3人の中、御神苗は「まぁ、しゃーねーな」と口にすると、頭をガシガシと掻いた。

 

「山本さん、それぞれの基地の規模は?」

「元々シャドーモセス島の方は核兵器廃棄処理施設としての役割が強く、エルメンドルフ空軍基地の方が巨大ではあるが……とは言え、それも衛星写真の結果だ。内部構造までは解らないと言うのが本音だな」

 

 軍が動いていると言うのなら、完成した兵器のその後の運び出しも考えればアンカレッジが有力……と言うことだろう。

 

「なぁ、山本さんよ。基地が2つで、呼ばれたのは3人ってのはどういう事だよ。まさか、一ヶ所は2人派遣するとかって言うんじゃねーだろうな? 嫌だぜ、俺はそんなの」

「幾らアーカムでも、余程の事がなければSPRIGGANを同じ場所に何人も配置したりはしないさ。今は人手不足だからな」

 

 ジャンの言いように、山本は苦笑して返した。

 現に今のアーカムには、それほど人的余裕が有るわけではない。

 数年前の、ヘンリ・ガーナムによって起こされた内乱。

 そしてやっと回復の兆しが見えたところでグラハム・プルートンによって起こされた騒ぎによって、今だ内部はゴタゴタしているのだ。

 A級エージェントもS級エージェントも揃って人員不足が続いている。

 

 SPRIGGANクラスの人間を大量に送り込むことが出来るのなら確かに任務も楽だろうが、世の中早々上手くは行かないのだ。

 そもそも最近SPRIGGANに昇進した達樹でさえ、アーカムとしては随分と久しぶりの人事だったのだから。

 

 山本は資料に視線を落とすと、自身の禿げ上がった頭部にシャーペンの端を擦るようにして当てた。

 

「一人はエルメンドルフ空軍基地……コレは優に行ってもらう。そして、シャドーモセスの方には大槻だ」

 

 御神苗と達樹は其々「了解」や「前は真空の宇宙で、今度は極寒かよ……」と言うのだった。

 

「俺はどうするんだよ?」

 

 ムスッとした風に、ジャンは山本に言った。

 それもそうだろう。

 ポイントは二つだと言っておきながら、その両方共自分以外の人物が行くというのだから。

 

「ジャンには、シアトルにあるアームズ・テック本社に潜入して粘土板のオリジナルを回収してもらいたい」

「粘土板だ? 軍が管理してるんじゃねーのか?」

「アーカムの調査によると、軍は粘土板の本格的な解析をアームズ・テック社に任せていて、現在は同社の研究施設に保管されているらしい。データとして残っているモノも有るかも知れないので、その辺りも注意して当たれとのことだ」

 

 自分の任務地に何か言いたげなジャンだったが、山本は続けて、

 

「こちらは場所が街中なだけに、ジャンの運動能力を買っての配置だ」

 

 と付け加えた。

 するとジャンの表情は緩み、

 

「了ー解」

 

 といって返事を返すのだった。

 

「ジャンは取り敢えず良いとしてさ、俺達は直接現地に行けるのか?」

「優が行くことになっているアンカレッジへはルートの確保は済んでいる。ただ問題は――」

「……俺ですか?」

 

 眉間に皺を寄せて言う達樹に、山本は頷いて答えた。

 

「シャドーモセスは元々人の住んでいない島だ。それに小さいとは言え軍の基地……ルートの確保は不可能だった」

「そ、それじゃあどうするんですか? ……まさか降下作戦とか?」

 

 高度何千mからのダイブ――。

 そんな光景を思い浮かべる達樹だった。

 

「今の時期は、ブリザードの影響で降下作戦など不可能だ。かと言って、其れが止むまで待っているつもりもない……」

「なら?」

「単純な方法だ。先ずは優と一緒にアーカムの船で移動してもらう。目的地はアリューシャン列島にあるフォックス諸島……ウラナスカだな。そこでお前は優と別れ、船はそのままアンカレッジへ向かう。優はアンカレッジで現地のアーカム職員と接触して行動してくれ」

「了解」

「で、大槻の方だが。ウラナスカで降りた後は、それ程面倒な事はない。そこからはスノーモービルを使って、凍った海を渡って行くんだ」

「…………は?」

 

 山本の説明に、思わずそんな返事を返してしまう達樹だった。

 とは言え、それはそれ程に厄介だと言える言葉だったのである。

 アラスカの……例えばアンカレッジを元に言えば、今の時季の平均気温は常に氷点下である。

 

『そんな中をスノーモービル?』

 

 となれば、恐らく大抵のの人間は同じような反応をするのではないだろうか?

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ山本さん!? 幾ら何でもそんな――」

「さっきも言ったと思うが、今の時期はブリザードが連日のように吹雪いている。だからむしろ、そういった単純な方法の方が安全だよ」

「…………」

「今回の作戦に当たって、お前と優には新型のレーダーシステムと通信機が支給されることに成っている。それさえ持っていれば、少なくとも目的地を見失うって事は無く成るだろう」

 

 山本の言い分に対し、色々と言ってやりたい気分になった達樹だった。潜入方法にしても、スノーモービルを使って現地に向かうなんて……普通じゃない。

 だが

 

「大槻、覚悟を決めろよ。SPRIGGANってのは、そういう無茶をしなくちゃいけない存在なんだからよ」

 

 と言う御神苗の言葉に、

 

「……了解」

 

 と肩を落として言う事しか出来ないのだった。

 

 

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