SPRIGGANーシャドーモセス事件ー   作:ニラ

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 アラスカ半島アリューシャン列島フォックス諸島沖の孤島、シャドーモセス。

 強烈なブリザードが吹雪き、天然の要塞に成っているこの場所にある米国基地を、一人の少年が眺めるようにして見ていた。

 

「……ったく、こんなに寒いってのに外に出ての歩哨とか……あの連中も良くやるよ」

 

 双眼鏡を片手に呟くように言ったのは、大槻達樹である。

 アーカムの任務を受けてから翌日、さっそく現地へと飛ばされた達樹は一路ウラナスカ島へと向かった。

 そこで御神苗と別れた達樹は約半日程その身体を休め、その後に凍った海を渡ってシャドーモセス島へと上陸を果たしたのである。

 

 達樹が敵に発見されること無く島に上陸出来たのは一重にブリザードのお陰とも取れるが、

 こうも強く吹雪っぱなしでは流石の達樹もヘコタレそうである。

 

「俺はこのAMスーツ(アーマード・マッスル・スーツ)を着てるからそれなりに平気だけど、御神苗さんは大丈夫なのかね?」

 

 達樹は自身の腕周りをポンっと叩くと、アンカレッジへ向かった御神苗を思い出して言った。

 

 さて、AMスーツとは何か?

 俗に精神感応金属(オリハルコン)と言われている特殊金属を使って造られた、特殊戦闘服のことである。

 通常の数十倍の力を発揮することが出来るうえ、防刃、防弾、防水、防火、防電、防寒性能を有する優れものである。

 達樹の着ている物はその新型であり、瞬発力を高めたタイプのものだ。

 

「……しかし」

 

 と、達樹は再び双眼鏡を覗きながら小さく口にする。

 どうやら、何らかの違和感を感じているらしい。

 彼の感じている違和感とは

 

「何で奴ら、アメリカ軍のくせにM16装備じゃないんだ? あれはフランスのFAMASライフルじゃないか」

 

 視界の向こう側で、歩哨をしている白服の兵達。

 彼等が持っている装備が、何故か揃いも揃って米軍の正式採用銃M16ではなく、別の銃であった。

 別にM16でなければ絶対におかしい……とは言わないが、達樹はその装備内容に違和感を感じずには居られなかった。

 

「これが潜入任務じゃなくて強襲任務だって言うなら、さっさと攻撃を仕掛けるんだけどな」

 

 物騒なことを平然と言う達樹だが、とは言え基地の詳細な規模や目的の物の有無も解らない状況では、

 大っぴらに行動に移るわけにも行かない。

 

「暫くは隠密行動ってわけだな……」

 

 達樹はそう言うと、自身の着込んでいるベストに双眼鏡を仕舞って立ち上がった。

 そして歩哨をしている者たちに意識を向けながら、物陰に隠れるように移動していくのだった。

 もしも外が吹雪いていなければ――こんな何も無い場所である、今回のような潜入方法では直ぐに見つかっていたかも知れない。

 だが今回は天候に恵まれ、視界はかなり悪い。

 たとえ眼を凝らしたとしても早々に見えるものではないだろう。

 

 基地をグルリと囲むように成っている壁に到着した達樹は、

 自身のアームガードに搭載されているワイヤーを壁の上部に向かって射出した。

 うまい具合に爪が壁に喰い込んだのを確認し、達樹は内蔵されているモーターを回して自身の身体を持ち上げていく。

 

 丁度頭半分が壁から覗けた辺りだろうか、不意に吹雪の中に幾つかの声が混じっているのを達樹は感じた。

 それと一緒にヘリのローター音もだ。

 達樹はローター音に当たりをつけ、そちらに視線を向けた。

 すると、そこには数人の白装束の兵隊と、それとは異なる服装の人物が3人居るのだった。

 

 一人は30前後ほどの男。

 

 金色のクセのある髪の毛を肩あたりまで伸ばしているが、

 その身体は鍛えられており、服の上からでも男が素人ではないことが一目で解る。

 ……ただ、とてつもなく寒そうな服装(袖切改造軍服)をしてはいたが。

 

 もう一人はその男とは違って長いコートを着込んでいた。

 と言っても、趣味の良いトレンチコート等ではなく、軍等で支給される官給品。

 緑色の素材を使ったものであり、街中ではきっと目立ってしまうものだろう。

 もっとも――

 

「アイツ……機械化小隊(マシンナーズプラトゥーン)?」

 

 達樹は男の手足に目が行き、思わず言葉が漏れてしまう。

 

 遠目で良くは解らないが、男の手足は人のそれとは明らかに違う。

 固く頑強な金属の手足は鈍色の光沢を放ち、血の代わりにオイルが流れる鉄の身体。

 

 米国が遺跡発掘によって獲得した技術で造り上げた、人造の戦闘兵士である。

 

「確かに此処はアメリカの基地だからな、連中が居てもおかしくはないか。とは言え――」

 

(仕事がやり難そうだな)

 

 達樹はそう心で呟くのだった。

 

 さて、そんな前述の二人と比べると、明らかに場違いのような人物が最後の一人だった。見るからに華奢な体、身長も恐らくは160程度しか無いのではないか? と言うほどに小柄である。

 色素の薄い髪の毛に、身体を覆うように羽織ったコート。

 その人物はどう見ても

 

「女? それも子供か? あれは」

 

 そう、子供にしか見えなかった。

 とは言え、それも遠目からの確認であって顔の形などで判断した訳ではない。

 近づいてみれば、実は随分年上だった――なんて事も有るかも知れない。

 

 達樹はヘリポートへ続く壁を上り、今度はワイヤーを使ってゆっくりと下に降りていくのだった。

 そして息を殺し、気配を殺して物陰に潜んで、ある程度の距離まで近づいていく。

 

 距離にして10m程。

 残念ながら立ち位置的に先程の女(?)の顔を確認することは出来ないが、そこまで近づいた達樹は、雪が積もっているコンテナの影に隠れて聞き耳を立て始めた。

 

「――さて、本当にこんな吹雪の中を出撃するつもりなのか?」

「するしかあるまい。この基地には、他に航空戦力など無いのだからな」

「吹雪の中でハインドを駆り、迫ってくるF15とドックファイトか……正気の沙汰ではないな」

「ふん。だがそれも、俺なら出来る」

 

 機械化兵の言葉に、男は自信たっぷりで言い返した。

 風速10m以上の風の中、ヘリを使って戦闘機と空中戦……。

 達樹は『本気でそんな事を言っているのか?』と、眉間に皺を寄せる。

 

 これは言葉で言うほど簡単なことではないからだ。

 ヘリはメインローターで機体の上昇と下降、そして前進等を行う。

 そして後部に付いているサブローターは機体の制御。

 だがその操縦はシビアで、横殴りの風などがあるとそれだけで機体の制御は困難になる。

 

 しかも今は雪が一緒に舞い視界も悪く、その中で戦闘機と戦う。

 

 少なくとも達樹の中での常識では、そんな事をするのは有り得ない――非常識だと成っているのだ。

 だが、少なくとも男はそうは思っていないらしい。

 その自信に満ちた表情が、それを物語っていた。

 

「ホワイトハウスの連中が、こう動くことは予測済みだ。俺達の事も、『メタルギア』の事も、連中は表には出したくないだろうからな」

「フフフ、それはそうだろう。もしこんなモノが造られている事が、世間に知られれば、アメリカの威信は地に落ちるだろうからな。国家間の関係は兎も角、間違いなく世論は黙ってはいないだろう」

 

(なんだ? ホワイトハウス? それにメタルギアって)

 

 聞こえてくる二人の会話に、達樹は首を傾げて頭の中で呟いた。

 恐らくは『狂戦士』を元に造ったという二足歩行型戦車の事だろう……と達樹にも予想がついたが、『鉄の歯車』といった呼び名に何とも嫌な感じを受けるのだった。

 

 男は機械化兵の言葉に、「フン!」と軽く鼻を鳴らす。

 

「そんな事は『俺達』、FOX HOUNDにはどうでも良い事だ。重要なのは、連中が要件を受け入れること。そしてその先の目標である、『OUTERHAVEN』を実現させることだ。その為に――」

「解っているさ、リキッド。俺達は目処がつくまでは、お前達に協力をする。それが、今回の上からの命令だからな。だが……お前も、我々との約束を忘れるなよ?」

「約束は守る。そもそも、俺達にはあんな物が有ったとしても、何の役にも立たんからな」

 

 リキッドと呼ばれた男はそう言うと、近くに居た白服の兵に時間の確認をする。

 どうやらそれなりに時間が押しているらしい。

 

「では行ってくる。留守の間を頼む、バーンズ少佐」

「今の私はただのバーンズだ。既に少佐ではない」

「そうだったな」

 

 そこで会話を打ち切ると、リキッドはヘリに乗り込んでいった。

 ローターの回転数が上がり、風を切るローター音が大きくなっていく。

 ヘリはそのまま上昇を始め、そしてアッと言う間に飛び去っていってしまった。

 

 それを見送ると、白服の兵達はさっさと基地内に戻っていってしまう。

 その場に残ったのは機械化兵のバーンズと、そして一人の女だけだった。

 

「フン、リキッドめ……アウターヘブンだと? そんなモノを創れる等と本気で思っているのか? だとすれば、随分と愚かしいことだな」

 

 バーンズは空を見上げ、吐き捨てるようにそう言った。

 すると女のほうが、自然と立ち位置を変えて達樹の視界に入ってくる。

 

 一瞬、達樹はその女の顔に視線が釘つけに成った。

 まるで身体をハンマーで殴られたような衝撃が駆け巡る。

 一目惚れ? あるいはそうとも言えるかも知れない。もっとも、そんな良いものでは決して無いのだが。

 

「…………」

 

 不意に、女が無言のままに達樹の隠れているコンテナへと視線を向けた。

 咄嗟に顔を隠すことが出来た達樹だが、見つかっていた時のことを考えると心臓が激しく動く。

 

「どうした、オリヴィア?」

「……いえ、何でもありません」

 

 暫く視線を向けていた女――オリヴィアだが、バーンズの問に首を左右に振って答えた。

 バーンズは少しだけ考えるような素振りを見せたが、直ぐに「まぁいい」と口にする。

 そして「行くぞ」と言うと、踵を返して基地内へと戻って行った。

 

 それに続くように歩き出すオリヴィアだが、一瞬「――クス」と小さく笑みを浮かべて戻って行くのだった。

 表に出ていた者達が基地内に戻っていったのを確認した達樹は、コンテナの影から出てきて溜息を吐く。

 

「……気づかれたのかな?」

 

 達樹は小さく呟くようにそう言った。

 そして、『潜入して早々に妙な事を聞いたものだ』と、達樹は溜息と同時に思う。

 

 先程のバーンズとリキッドと言う二人の男の会話。

 これだけでも、アーカムの情報との齟齬がかなり出ていることが分かる内容だ。

 

 達樹は基地施設内への潜入の前に、今しがた手にした情報をロシナンテへ確認するべきだと思うのだった。

 

 

 第04話 ヘリポート~

 

 

《どうしたんだ大槻?》

 

 ヘッドパーツに内蔵されたスピーカーから、山本の声が聞こえてくる。

 達樹は基地の壁に寄り掛かるようにしながら、今回の指令所となっているロシナンテへ通信をしたのだ。

 

「山本さん? ……実は気になることがあって」

 

 通信機の向こう側に向かって、達樹は今しがたの出来事を伝えて言った。

 バーンズという機械化兵、そしてリキッドと言う男の会話内容。

 そしてFOX HOUNDという部隊のことだ。

 

《FOX HOUND? ……その男は、確かにそう言ったのか?》

「え、えぇ。聞き違いでなければ、確かにそう言ってましたよ」

 

 確認するように聞いてくる山本の声に、達樹は頷いて返した。

 

《…………》

「あの、山本さん?」

 

 急に言葉を詰まらせる山本に、達樹は怪訝そうに名前を呼んだ。

 

 『FOX HOUND』と言う名前を達樹は知らないが、どうやら山本はその部隊のことを知っているようである。

 そしてその雰囲気から、恐らく自分達にとって都合の悪い相手なのだろう。

 

 FOX HOUND

 アメリカが抱えているハイテク特殊部隊で、特殊技能を有する少数精鋭の部隊である。

 設立当初はスパイ・エージェントの能力と、高い戦闘遂行能力を有する兵士といった人員が求められたのだが、現在では前述の『特殊技能』を有する者達で構成されている。

 

 もっとも、達樹がそれを知らないのも無理はない。

 

 FOX HOUNDという部隊は、現在から数年前にザンジバーランドで起きた事件の影響で、殆んど壊滅に近い状態に成っていたからだ。

 

《実はな大槻、少し前から此方でも得ていた情報なんだが……裏が取れずにいた事があったんだ。エルメンドルフ空軍基地に向かった優からの情報でな、基地から2機の戦闘機が飛びだったと言うことだ》

「アラスカから? それって……」

《時間的考えると、お前の居るシャドーモセスに向かったんだろう》

 

 ハインドで出て行ったリキッドという男。

 山本が言うにはその出撃理由が、アラスカの空軍基地から飛び立った戦闘機だと言う。

 達樹は『成程、そういう事が……』と思うが、だが同時に『何故?』と思うことがある。

 

「でも、どうして同じ米軍の基地を襲撃するなんて」

 

 常識的に考えれば、FOX HOUNDもアメリカの身内である。

 それにも係わらず、何故アラスカにスクランブルが掛かるのか?

 

《それに関しても情報はある。数時間前、ホワイトハウスに一通の声明が届いたらしい》

「声明ですか? ……なんだか、嫌な予感がしますけど」

《その予感は当たっているぞ。内容は、アメリカの一部隊が蜂起して核搭載戦車を奪取した――というものだ。その部隊はアメリカ政府に対し、24時間以内に現金10億ドルと『ビッグボス』の遺体の引渡しを要求したらしい。……でなければ核攻撃を行うとな》

 

 『アメリカの一部隊』というのは、話の流れからしてFOX HOUNDの事なのだろうが、達樹は核を撃つなどといった物騒な話に頭を抱えてしまう。

 どうしてテロをやろうといった人間は、こうも思考が単純なのだろうか? と。

 

「現金は解るとして……ビッグボスって?」

《お前は知らないかもしれないが、アメリカの軍内では伝説的な英雄だった男だ。もっとも、表沙汰に出来ない話が殆んどだがな。数年前に中東で死亡したと聞いていたが……》

「遺体なんか残しておいて、アメリカは何考えてるんだよ」

《さぁな。兎も角、その声明の発信場所がシャドーモセスであり、それを行った部隊が――》

「――FOX HOUND」

《そういう事だ。エルメンドルフからのスクランブルは、シャドーモセスへの攻撃の為に行われたのだろう》

「そういう事なら、御神苗さんの方はハズレでコッチが本命って事ですかね?」

《そうとも言い切れないが……可能性は高いな。優には一先ず、ひと通り調べるように言ってある。新しいことが解ったらコッチからも連絡しよう》

 

 達樹は内心「やれやれ」と言った風に息を吐いた。

 米国内で勝手に無茶をやって、その皺寄せがこうして来ているのだ。そんな時に自分の出動が重なるとは、運が悪いとしか言いようが無いだろう。

 

《大槻、FOX HOUNDは一筋縄では行かない奴らだ。十分に気をつけろ。それから――自分の任務を忘れるなよ? お前の任務は遺産の破壊と封印だ……解ったな》

「了解」

 

 念を押すような山本の言葉に、達樹は短く返答をすると通信を切るのであった。

 

 

 

 

 

 

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