私の友だちはむしが好き   作:酉柄レイム

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2100円の犠牲の上に

「あー!また弾いた!」

 

 私の前で女の子が投げたボールを、ハッサムが叩き落とした。女の子が『また』と言ったように、ハッサムがこうしてボールを叩き落とした回数は既に10を超えている。

 

 女の子の名前は、ハク。自分の投げたボールを叩き落としているハッサムのトレーナーで、髪はホワイトカラーのギブソンタック。スポーツキャップむし、トラックジャケットむし、トラックパンツむしを身につけているむしポケモン大好き少女。私としてはせっかくのかわいい顔がむし一色のコーディネートで台無しになっているからもったいないと思うのだが、本人は幸せそうなので口を出すことでもない。はず。

 

 ハクとはつい最近あったジムチャレンジ開会式で出会い、「かわいい!なーなー、付き合ってくれへん?」という軽いノリから始まり、なぜか付きまとわれて一緒にジムチャレンジを回ることになってしまった。「私ジョウト出身でなー。ハッサムもおじーちゃんからもろてん。カッコええやろ?」と言っていたので、ボールを弾いているのは人からもらったポケモンで、更にレベルが高いからだろうな、とまたボールが弾かれたところを見ながらぼーっと考える。

 

「マリィ!ハッサムがまた弾いた!怒ったって!」

 

「いや、私ハッサムのトレーナーじゃないし……」

 

「うら……」

 

 私の足元にいるモルペコも「自分でなんとかしろ」と言っている。いつもかわいく笑っているモルペコですら呆れ顔だ。

 

「でも見てや!2000円!2000円弾かれたんやで!?あんなかぁいらしいイーブイもバチュルも逃がしてもうたし!」

 

「ハン」

 

「ハッサムは鼻で笑いよるし!カッコいいけど!」

 

 ちくしょー!と言いながら単身草むらに突っ込んでいくハクを見て、モルペコと一緒にため息。出会ってすぐボールを投げるならハッサムを出さなければいいのに、「せっかく一緒に旅するんやから、一緒におりたいやん?」と言ってボールに戻さないのだからどうしようもない。……一緒にいたいという気持ちはわからなくもないが。可愛かもんね。

 

「あんたも、も少し言うこと聞いてあげたら?」

 

「……」

 

 草むらでがさがさとポケモンを探しているハクをじーっと見ているハッサムに近寄り、ハクの味方をしてみる。このままではジムチャレンジをハッサム一体だけで挑むことになるし、いくら強いハッサムだとはいえそれは厳しいだろう。言うこと聞かないし戦わないことだってあり得る。

 

「あ、もしかしてハクが他のポケモンに目移りしてるのが気に入らないとか?」

 

「ッ!」

 

「え」

 

 こちらを向かないハッサムを下からのぞき込んで冗談を言ってみると、ハッサムは一瞬目を見開いた後そっぽを向き、とんでもない速さでハクのところに行ってまたボールを弾いた。「2100円目やん!またバチュル逃げたし!もー!」という騒がしい声を聞きながら、ハッサムの行動にきゅん、と胸を締め付けられる。

 

「……ハッサム、可愛かね」

 

「うらら」

 

 あんなカッコいい見た目をしていて嫉妬心バリバリはずるい。危うく私もむしポケモンが好きになるところだった。

 

 「ボールなくなったー」とハッサムの腕にぶら下がるハクを見るハッサムの顔は、どこか満足気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ターフタウン。4番道路の先にある1つ目のジムがあるところ。結局4番道路ではハクがボールを21個無駄にし、私がモルペコを鍛えただけで終わった。そのボールを21個無駄にしたハクは今ハッサムの背中に張り付いているので、実質私はハッサムの隣を歩いている。

 

「ほえー、緑!って感じ!綺麗やね!ね!」

 

「そうだね。むしポケモンいないかなーってうずうずしながら緑に飛び込もうとしてるハクがいなければもっと」

 

「ばれてもた」

 

 気まずそうにあはは、と笑うハクはすごくわかりやすい子だ。感情表現豊かというか、喜怒哀楽がはっきりしている。だからちょっと見れば何がしたいのかがすぐわかる。付き合いが浅くてもわかるのだから相当なわかりやすさだ。将来が心配になる。なまじ顔が可愛いものだから悪い男に騙されたり……。

 

 ハッサムがいるから安心だろうけど。

 

「ふふ」

 

「んー?どしたんマリィ」

 

「なにも。ね、ハッサム?」

 

「……」

 

 少し前なら怖かったであろうハッサムの鋭い眼光も、今じゃ可愛らしく思える。モルペコも「うらら!」とご機嫌な様子だ。はじめハクと出会った時にしたポケモンバトルでハッサムに一瞬で沈められてから警戒心丸出しだったが、さっきの出来事ですっかりなくなったらしい。

 

「うーん、まぁ笑ってるマリィ可愛いし、ハッサムはカッコええし、ええか!ポケモンセンターいこ、ポケモンセンター!ボール買いたいし!」

 

「そやね。おいで、モルペコ」

 

「うらら!」

 

 ハクに賛成し、モルペコを抱き上げてポケモンセンターに向かう。モルペコも疲れているだろうから、しっかり休ませてあげないといけない。今日はしっかり休んで、明日ジムチャレンジした方がいいだろう。

 

「へい!ジョーイさん!ちゃちゃっと休ませてください!……と思ったけど、ハッサム疲れてる?私の投げたボール叩き落とす作業しかしてへんけど」

 

「……」

 

「そか!」

 

 首を傾げながら聞くハクに、ハッサムは静かに首を横に振って答えた。こういうところを見ると言うことを聞かないというのが信じられないくらい仲が良さそうなのだが、ポケモンとは奥が深い。完全にいじっぱりで言うことを聞いていない感じがする。

 

 二人、一人と一体のやりとりを見てジョーイさんはくすくす笑い、そのまま、

 

「なら、帽子の中のアブリーはどうします?」

 

「……?」

 

「え」

 

 と言って、私たちを驚かせにきた。まさか、そんな気づかないうちにアブリーが帽子の中にいるなんてありえない。そう思いながらハクの方を見ると、つぶらな瞳をしたアブリーが帽子から顔を出していた。

 

「ブリッ!」

 

「わ!アブリーや!鳴き声がギリギリ!」

 

「なんで気づかんかったと!?」

 

「わからん!あはは!」

 

 どうやら頭にアブリーを乗せておきながらそれに気づかなかった自分がツボだったらしい。とても幸せそうに笑っている。ハッサムの背中から降りてアブリーとともにくるくる回る姿は可愛らしく、誰がどう見ても自分の間抜けを笑う少女の姿だとは思わないだろう。

 

「そや!せっかくついてきてくれたんやからゲットせんと!アブリー、一緒にくる?」

 

「ブリッ!」

 

「あは!ギリギリや!オッケー!」

 

「そのギリギリって言うのそろそろやめない?」

 

「あ、私女の子やった!」

 

 おっちゃーん、モンスターボールちょーだい!と元気にモンスターボールを買いに行くハクを見て、その間にモルペコを預ける。そこまで傷も疲れもないらしく、すぐに帰ってくるらしい。

 

「ハッサム、いいの?アブリーゲットしちゃいそうだけど」

 

 どう当ててほしい?こうか?こうか?とアブリーにいろんな角度からボールを向けているハクを静かに見守っているハッサムに話しかけてみる。さっきまであんなにボールを弾いていたのに、今はおとなしい。ハッサムは私を一瞥した後、ふっ、と息を吐いた。まるで「わかっていないな」とでも言いたげに。

 

「今邪魔したら本気で怒られそうだから?」

 

「……」

 

 ハッサムがはがねタイプの本領を発揮するかのごとくかちん、と固まった。悟られまいと硬直から抜け出して首を横に振るが、もう遅い。ジョーイさんだって「あらあら」と笑っている。

 

「あのアブリー、手持ちポケモンじゃなかったんですね」

 

「そうなんです。すみません、騒がしくしちゃって」

 

「いえいえ。そういえば知ってます?アブリーって花に似たオーラを持つ人の頭の上に集まるらしいんですよ」

 

「花に……」

 

 言われて、今しがたアブリーをゲットしたハクを見る。「出ておいで!」とアブリーを出して頭に乗せているハクの表情は確かに、花が咲いたように明るく綺麗で、可愛らしい笑顔だった。

 

「……」

 

「なんね?」

 

 ハクとアブリーを見て微笑んでいると、ハッサムが何か言いたげにこちらを見ていた。まるで自分のトレーナーを自慢するかのような眼差しに、「すごい人やね」と答えると、ハッサムは満足気。いちいち可愛い。保護者のようで子どもっぽく、それでいてカッコいい。そして可愛い。さらに強い。とんでもないポケモンを連れているな、とアブリーを連れてこちらにくるハクを見て戦慄した。

 

 そんなハクはアブリーを頭に乗せたまま今にも飛び跳ねそうなテンションで外を指した。

 

「アブリー!育てる!」

 

「ん。もうちょっと待って。モルペコ預けてるから」

 

「なら技確認しとこ!えーっと……むしのていこう、あまいかおり、ドレインキッス……ムーンフォース!すごい!ムーンフォース使えるんや!」

 

「ブリィッ!」

 

「えっへんってしてる!可愛い!」

 

「ムーンフォース使えるのってすごいの?」

 

 アブリーは確かむし・フェアリータイプだからムーンフォースを覚えても不思議じゃないと思うんだけど、と思いながら聞いてみるとハクは笑顔のままぐりん、とこちらを向いた。その迫力に一歩下がってしまうが、ハクは構わず話し始めた。

 

「あのな、おじーちゃんが言うにはアブリーは普通に育ててもムーンフォースは覚えんみたいで!なんか、ムーンフォースを覚えたポケモンとタマゴ産んだらその子がムーンフォースを覚えてる?みたいな!つまりこの子はすごい!」

 

「物知りなんだね」

 

「おじーちゃんも私もむしポケモン大好きやし!な!ハッサム!」

 

「ゼァ」

 

 ハッサムは同意するように深く頷いた。元々はハクのおじいさんのポケモンだから、そのハッサムが頷いているのならハクの言うことは本当なのだろう。ハクがこんな感じだから、おじいさんはものすごくハッスルな感じなんだろうな、と勝手に想像する。

 

「はい!お待たせしました!モルペコ、元気になりましたよ!」

 

「うらら!」

 

「ありがとうございます」

 

 ジョーイさんの言葉にカウンターへ近寄ると、ボールから出てきたモルペコが私に向かって飛びついてきた。慌ててキャッチしてジョーイさんにお礼を言って、アブリーを頭に乗せているハクと並び、

 

「おまたせ。いこっか?」

 

「よし!いくよ、アブリー!ハッサム!」

 

「ブリー!」

 

「……」

 

 こうして、私と花に似たオーラを持つらしいハクはまた4番道路へ向かっていった。




ポケモンにハマりました。なので書きました。あと方言の女の子二人ってかわいくない?という浅い考えの下ジョウト出身にし、その設定を生かすためにハッサムを投入。ガラル地方になぜいない。


ハッサム ♂ いじっぱりな子

元々はハクの祖父のポケモンだったが、ハクがジョウトから引っ越すときに渡され、ハクのポケモンに。今はレベルが高すぎて言うことを聞かないが、幼い頃から遊んでいたため信頼関係はある。

アブリー ♀ むじゃきな子

ハクのオーラにつられ、帽子の中に侵入。そのままゲットされる。実は4番道路にいる野生ポケモンの中ではかなり強い方。鳴き声が特徴的。
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