「よっし!アブリボン、頼んだで!」
「ブリィ!」
「いこうか、ヒメンカ!」
ハクの頭の上に乗っていたアブリボンが意気揚々とフィールドに躍り出る。対するヤローさんはヒメンカを繰り出した。
ここはターフタウンのジムスタジアム。今ハクがジムチャレンジャーとしてジムリーダーであるヤローさんに挑戦しているところだ。ちなみに私は先ほどヤローさんに勝利し、ジムバッジを手に入れている。そこから観戦許可をもらって、ハクのジムチャレンジを観戦しているというわけだ。
色々心配だし、現にスタジアムへくるまでに結構時間がかかっていた。頭が悪いわけではないので、ただ単に遊んでいただけなのだろう。
「アブリボン、あまいかおり!」
「ぶーぶー」
アブリボンはひらひらと舞いながらあまいかおりでヒメンカを誘う。あのアブリボンのあまいかおりは強烈で、一種のフェロモンのような、ともすればドラゴンタイプだって逃れられないあまいかおりだと思う。アブリーの頃はまだましだったんだけど、4番道路での特訓の末に進化したアブリボンのあまいかおりはとんでもない。
「ヒメンカ!こうそくスピンで振り払え!」
「メッ、メー……」
「ヒメンカ!?」
証拠に、ヤローさんのヒメンカはふらふらしながらあまいかおりにつられている。ジムリーダーのポケモンなのだから生半可な鍛え方はしていないはずだが、それでもあぁなってしまうのだから恐ろしい。……ハクのオーラを吸ってるからあんなあまいかおりが出せるとか?
「よーし、そのままムーンフォース!」
「ブー、リィ!」
ムーンフォースは幻想的な攻撃だ。まるで月かと思わせる見た目のフェアリータイプらしいピンク色のエネルギーをためたアブリボンは、それをあまいかおりでふらふらしているヒメンカに向かって放つ。ムーンフォースはその名の通り月の力を借りるらしく、その威力は絶大。
「ヒメッ!?」
「ヒメンカ!」
ヤローさんの指示を聞ける状態ではなかったヒメンカは、ムーンフォースをまともにくらってしまった。あまいかおりにつられてやってきたらとてつもないエネルギーをぶつけられたのだから、ヒメンカもたまったものではないだろう。何度かハクのアブリボンとバトルしたが、それがトラウマになってモルペコがあまいかおりに対して耐性を持ってしまったのはいいことなのか悪いことなのか。
「あちゃー、強いな!ハクさんのアブリボン!」
「ありがとうございます!」
「ぶりぃ!」
ノックダウンしたヒメンカをボールに戻しながらアブリボンを褒めるヤローさん。実際あのアブリボンは強いと思う。もしかしたらハッサムもアブリボンの強さを見抜いて認め、ゲットすることを許したのかもしれないし。そう思っておいてあげた方がハッサムのためでもあるだろう。
「ちゃんと鍛えてきとるな!こりゃぼくもダイマックス使わねば!いけ!ワタシラガ!」
「ワタッ!」
ヤローさんが次に出したのはヒメンカの進化系。頭に大きな白い綿を持つくさタイプのポケモン。
「ポケモンの交代は?」
「うーん、どうせハッサム言うこと聞かんし、そのままで!」
「……」
遠目でよくわからないが、ハッサムが悲しそうな目をしている気がした。普段の行いが悪い。
「よし、ワタシラガ!ダイマックスだ!」
ダイマックス。それはポケモンが巨大化するという特殊な現象で、ガラル地方でのみ確認されている。モンスターボールにエネルギーが集まり、モンスターボールが巨大化するとヤローさんはそれを自分の背後に投げつけた。
「フワァァアアア!」
そして現れたのは、巨大なワタシラガ。大きくなっても可愛いが、見た目で油断してはいけない。ダイマックスすると時間制限はあるが体力が増し、更に技も強力になる。
となると自然。
「んー、ほなアブリボンもダイマックスしよか?」
「ぶ、りぃ!?」
「おわ、ハッサム?」
「……」
アブリボンもダイマックスするだろう、と思いきやハッサムが割り込んできた。意気揚々とダイマックスしようとしていたアブリボンは不満気にハッサムの周りを飛び回っているが、ハッサムはハクの顔をじーっと見つめるのみ。
「えーっと、うん?よーわからんけど、ダイマックスしたいん?」
「……」
ハクの問いかけにハッサムは小さく頷き、アブリボンをハサミでどけて前に立つ。……初めてのダイマックスだから自分がやりたい、とか?
「かわいかぁ……」
「うららぁ……」
よーし、いくよー!という元気な掛け声とともにダイマックスしたハッサムを見て、カッコいいとか強そうとかよりもかわいいという感想が先に出てしまう。どこまで私とモルペコをきゅんきゅんさせれば気がすむのだろうか。あと待ってくれてるヤローさんがいい人過ぎる。
「結局交代ってことでいいんかな?」
「はい!ハッサムがやる気みたいです!」
「いいことだ!それじゃ仕切り直しにワタシラガ!ダイアタッ、」
「ゼァア!」
一瞬。ヤローさんのワタシラガが行動に移る前に、ハッサムは目にも止まらぬ速さでワタシラガに肉薄し、一瞬で沈めた。まさに一瞬の出来事。それだけでワタシラガのダイマックスは切れ、戦闘不能になってしまった。
「わー!何したん!?すごっ!カッコよ!」
「……」
満足気な表情で小さくなっていくハッサムを見ながら、そういえばあのハッサムめちゃくちゃ強かったということを思い出し、モルペコは初めて会った時に叩きのめされたことを思い出して身震いしていた。
「もらった!」
「よかったね」
ヤローさんにもらったバッジを嬉しそうに見せてわいわいはしゃぐハクに苦笑い。結局あの後、変な感じで終わってしまったバトルにヤローさんも戸惑っていたが、負けは負けだとハクはバッジを貰っていた。好き勝手かき回したハッサムは「どうだ」と言わんばかりにふんぞり返っていたので、「あんな勝手、だめばい。ね?」と言うと気まずそうに目を逸らされた。自覚はあったようだ。
なぜ私がハッサムに怒らないとだめなのだろうか。
「あんたのせい」
「ふへ?」
しっかりしろ、という意味もこめて頬をつついてやると、間抜けな声を出して間抜けな表情をしながらこちらを見てきた。そのまま頬をぷくーっとさせて私の指を動かして遊び始めたハクに、思わず笑ってしまう。
「ふふ。変な顔」
「なんやて!可愛いやろ!マリィには負けるけど」
「うん。私には負ける」
「負けてへんわ!」
「どっちと?」
多分、「そんなことないよ」と言われると思っていたのだろう。私はハクの方が可愛いと思っているが、調子に乗らせるのも癪だ。ハッサムを怒ったのだからこれくらいはいいだろう。
「ふん。私には可愛いアブリボンとカッコいいハッサムおるからええもん。なー?」
「ぶー?」
「……」
「私にはモルペコがいるし」
「うらら!」
確かにアブリボンは可愛いしハッサムはカッコいいが、モルペコには負ける。これは譲れない。トレーナー100人に聞いてそのうち80人がモルペコの方が可愛いと答える自信がある。むしポケ好きに聞かなければそういう結果になるだろう。
「確かに!モルペコ可愛がってるマリィ可愛いし、可愛がられてるモルペコ可愛いし、永久機関?ってやつ?ん?わからん!5番道路いこ!」
「……」
ハクが男の子だったら危なかったかもしれない。あぁいう天然で人を褒めることができて、どこか放っておけないタイプは女をたぶらかすに決まっている。私はそうじゃないけど?
「うら」
「違うけんね」
何か言いたげなモルペコを抱えて、走っていったハクの後を追う。
5番道路を抜けるとバウタウンにつく。バウタウンにもジムがあり、みずタイプのジムリーダーであるルリナさんがいる。モルペコは相性的に有利だけど、やっぱり油断せずに育てておきたい。
なんだかんだハクとのバトルは負け越してるし、いつかぎゃふんと言わせてやる。
「むしポケむしポケ……」
「また探してる」
ハクに追いつくと、目を輝かせながらむしポケモンを探していた。本当に好きなんだなと呆れを通り越して尊敬すらする。どうせ捕まえようとしてもハッサムに邪魔されるんだろうけど。
「あ、チラーミィ!可愛い!」
「ほんとだ」
今しがたハクの声にびっくりして逃げて行ってしまったが。
「そういえばむしポケモン以外は捕まえんと?4番道路でイーブイ捕まえようとしとったけど」
「んー、できればむしタイプだけがええけど……タイプというか、むしっぽいというか?」
「イーブイは違うけど」
「イーブイはほら!むしタイプに進化するかもせんし!」
かわいいと思うねんなぁ。とむしタイプのイーブイを想像するハクは本当に幸せそうで、涎まで垂らしていた。はしたないのでハンカチで涎を拭き取ると、もごもごしながら「ありぁと」と言ってくる。いちいち母性をくすぐってくる子だ。
「そんでな、決めてん。いくらボール投げてもハッサムが弾くから、ついてきてくれる子をゲットしよって!」
「アブリーだけになるんやなか?」
「そんなことにはならへん……はず……」
尻すぼみに声が小さくなっていくハクに、頭の上に乗っているアブリボンは首を傾げていた。本当にアブリーがたくさん寄ってきそうだから困る。
「うーん、おらんかなぁ。ちょこちょこーっとついてきてくれる可愛らしいむしポケモン」
「どうかな。ハッサム怖いし」
「……」
「ハッサムはカッコいいし、ちょっと可愛いとこあるんやで?」
「ゼァ」
満足気に頷くハッサムがむかついたので、ハクが見ていないときに蹴ってやった。そうやって甘やかすからいつまでたっても言うこと聞かないしボールを弾くのに。
私の憤りをよそに、ハクはうきうきしながらむしポケモンを探し続けた。このままだと5番道路でキャンプなんてことになりかねないので早く見つけてほしいものである。どうせ捕まえられないけど。