走る、走る、走る、
そう、それは、恐ろしいアレから逃げるため。
なんなんだ、アレは! 一体どうしてこうなった!!
いつも通りだった筈だ。ノコノコと根城に入ってきた輩を倒し、男は喰らい、女は犯し、いつもと変わらない。そうだった筈なのに!!
アレが来た。たったそれだけで全てが壊された。配下の
逃げ出す
かくて、統率者の首に凶刃が放たれた。
あなたが小鬼の追跡を始めておよそ数分、小鬼が逃げていく先にある根城だと思われる洞窟をあなたは見つけた。見張りなのだろうか、一匹の小鬼が眠たげな表情で突っ立っている。先に小鬼が血相を変えて逃げ込んだであろうに、全く警戒するそぶりも見せず、唯々突っ立っている。
気付かれるのも一興か、とあなたは考えるが、洞窟の中で何があるのか分かったものではないため、あなたはポーチの中から加速のポーションを取り出し、呷る。そして素早く武器を替える。洞窟の中ではリーチの長い★《斬鉄剣》は振るえないため、
大きな欠伸をあげた瞬間の出来事であったため、小鬼は全く反応ができず、気付いた時には喉が裂かれ、己の血が吹き出ているところであり、眼前にはそれをなしたであろうあなたが立っていた。
あなたは崩れ落ちる小鬼の脳天に短剣を突き立て、完全に絶命させる。絶命したのを確認するとあなたは洞窟の中に入っていく。洞窟の中は生臭く、何とも言い難い臭いが充満していた。あなたは僅かに顔を歪ませると、香る臭気に耐えながら進んでいく。
洞窟の中は薄暗く、何も持たずに進むと全く身動きが取れないほど暗かったが、ダンジョンに潜っていたあなたにはなんて事はなかったようだ。洞窟の中を進むにつれ、疎らではあるが小鬼の数も増えてくる。その一匹一匹を虱潰しに且つ静かに殺していく。
臭気がだんだんと強くなり、その発生源と思わしき場所にたどり着くと、そこは小鬼達の肥溜めとなっているようだった。そんな中に、小鬼には不釣り合いな鎧の残骸があり、いくつかの人骨と思わしき残骸が散乱していた。あなたはそんな中から
あなたは何かの組織の物なのであろうそれをしまい込むと、洞窟の中に幽かではあるが、小鬼とは違う声が響いたのを聞き取った。まだ生きている奴がいるのかと、あなたは最深部を目指す。
肥溜めから更に進むと、前方から明かりが漏れているのにあなたは気付く。そして、声の発生源がそこであることもわかる。あなたは壁に寄り、気付かれないように中を窺う。
中は一寸した広間となっており、いくつかの松明が明かりとして灯されている。その中に小鬼達が様々に声をあげていた。中央部には他の小鬼達よりも身体の大きな個体や手に木の棒を持ち奇妙な面をかぶった個体がいた。
「嫌ぁ……も………ぁ」
「ァ………ゥァ……」
そして小鬼達の中に女が二人。何れも服を剥かれ、身体の至る所に傷を作りながら、小鬼達の慰み者となっていた。女達は酷く憔悴しきっていたが、生きてはいるようだった。
あなたは、松明の位置、ゴブリン共の配置等を確認すると、そこらに落ちている小石をいくつか拾い、目を閉じる。目を再び暗闇にならすと、小石を松明に向かって投げ付けた。
「GOBBB!?」
「GOA!?」
小鬼共が困惑する声を上げるのを確認すると、あなたは別の短剣を取り出し、両手に持つと、広間に飛び込んでいった。
覚悟は、していたつもりだった。それでも、こんなことになるなんて。
森で何の変化もなく暮らしていくのに飽き飽きして、森を飛び出し、
侮っていた、驕っていた。たかが小鬼であると。巣の洞窟に入り、一番最初に男斥候がやられた。陰に隠れていた田舎者の小鬼に棍棒で脳天からかち割られていた。男戦士が田舎者の相手をしているうちに、後ろから小鬼の増援が迫ってきた。女神官が戦士の援護に私が弓と短剣で相手している間に戦士が抜かれ、私と女神官は小鬼達に飲み込まれた。
「ぅぁ……だ、れか………」
普段は全然信じてなどいないこの世の外から見ているといわれている居るかも判らない神々に祈ってしまう。普段なら全く下らないモノと思っていた神に縋ってしまう。そんな都合いい展開など起こりはしないのに、それでもと
しかして、それは、気まぐれに――――
「GOBBB!?」
「GOA!?」
突如として飛来した何かによって、松明の明かりが掻き消される。私たちを犯していた小鬼達が怯み、何事かとあわただしく叫んでいる中、何かを裂く音と小鬼の悲鳴が響き渡る。
「GAAA!?」
「GUGI!??」
瞬間に広まっていく猛烈な血の匂い。木霊する小鬼達の悲鳴。何が起こっているのかわからない小鬼達は為すすべなく倒されていく。そんな中、呪術師が《火球》の魔法を無差別に放つ。幾つかが小鬼達に当たり、炎が辺りを照らすと、周囲には小鬼達の残骸と田舎者の死体が転がっていた。
そして、それ等を成したであろう人物が、呪術師の前に立っていた。全身を鎧で包み、両手に形の違う短剣を持っているその人物を。小鬼の血飛沫を全く付けていない鎧姿とその風格はまるで、王に仕える近衛騎士のようであった。
「!?? G――――」
そして、呪術師が次の詠唱を口ずさむ前に短剣が振られ、呪術師の首が刎ねられる。呆気なく、決着はついた。
群れの長であった統率者はその惨状を見て逃げ出したが、広間から出る寸前で放たれた矢に頭を吹き飛ばされ、倒れ伏した。それを行ったであろう人物は、いつの間にか取り出した
「……あ……」
その人が、弓を背負いこちらにやってくる。生きているか? そう聞かれた時、安堵からか疲労からか、私は意識を暗闇の中へ落した。
意識を失った耳長の女性の息が落ち着いているのに、あなたは安堵する。せっかく助けたのに死んでもらっては困る。そう思いながらあなたは布きれとお湯を取り出し、二人の身体を拭き清める。流石に小鬼共の汚濁で穢されたままでは酷だろうとあなたは思う。粗方拭き清めると、あなたは偶々売り忘れていた布製の法衣を二つ取り出し、彼女らに着せる。広間に落ちていた先程と同じ認識票を拾い上げると、二人の女性を抱え、外へと出る。
外に出ると日が陰り始めていた。早めにこの森を抜けねばと思ったあなたの目の前に荷車がぽつんと置かれていた。それはあなたがあちらの世界で使っていたものであった。
――――その位しか、支援できないけど……頑張ってね……
突如飛来した
あなたが森を抜けた頃には辺りは暗くなっており、今日は野営するかとあなたは思う。荷車を止め、荷台からたき火と鍋を取り出して、地面に設置する。たき火に火を灯し、鍋に祝福された水とイーモとグリーンピースを入れ、火に翳す。ゆっくり、火を通すと鍋の中にイーモとグリーンピースのスープ(創作)が出来上がる。
「………ぅ…………ここ、は………」
そうこうしている内に先程の耳長の女が目を覚ます。荷台からゆっくりと顔を出す彼女に、大事はないか、とあなたは問う。
「貴方は……そう、だったわね…助けてくれて、ありがとう」
あなたを見て、ビクリと身を竦ませたが、あなたの姿に安堵したのだろう、感謝の言葉を述べた。しかし、彼女の瞳は暗いままだった。簡単だが食事を用意したのでどうだ、とあなたが問うと彼女は荷台から降り、たき火に寄ってきた。
「ありがとう…頂くわ」
スープを注いだ椀と匙をあなたから受け取ると、ゆっくりと食べ始めた。彼女が食べ始めたのにならい、あなたもスープを食べ始める。イーモの優しい甘さとグリーンピースの甘さが少し入れた塩により更に引き立つ。
まあ、有り合わせで短時間で作ったものであるし、こんなものだろうと、あなたが思っていると、彼女の瞳からポロポロと雫が落ちる。それでも、彼女はスープを口に運ぶ。
矮小な小鬼共に凌辱の限りを尽くされたのだ、無理もない、とあなたは思う。だが、
彼女の涙に気付かない振りをして、食事の時間は過ぎていく。
「…ご馳走さま、美味しかったわ」
そう言って差し出された椀を受け取る時には、彼女の表情はほんの少しではあるが和らいでいた。アイラインが赤くなっているが、気にしないようにする。
「あなたは…冒険者、じゃ…ない、のよね」
彼女の言葉にそうだ、とあなたは首肯する。あなたは自分が旅の者であると言い、ここより遥か彼方から来た者である、と言った。貴方達を助けたのも、森を抜けるときに、偶然発見したからである、とも言った。
「そう……何度も言うようだけれど…ありがとう、本当に助かったわ………他の、皆は…」
わかっている筈なのに聞かずにはいられない。そう言う彼女にあなたは静かに首を降る。あの場で生きて助け出せたのは、貴方達二人だけだった、とあなたは取り出した二つの認識票を見せながら言う。
判りきっていた事だった。そう思いながらも、彼等の認識票を彼から受け取ると、涙が溢れてきた。
「…皆で、旅をしよう、って…言ってた、のに……色んな、未知に挑もう、って言ってたのに……ッ」
枯れた筈の涙が、止めどなく溢れる。流しきった筈なのに、それでも涙は止まらない。彼はそんな私に気を使ったのか、なにも言わず、ただ静かに受け止めてくれていた。
空に輝く無数の星々の瞬きと二つの月だけが、ただ静かに彼らを見つめていた。
・☆《○○○》
一般的なアーティファクト。大体は名前がおかしい。物によっては
・
異形の森のロミアスが序盤で所持しているアーティファクト。彼でなくとも、ランダムでドロップするが、あなたは序盤で手に入れた。つまり、そういうこと。
・電波
この四方世界では啓示と呼ばれている。しかし、貴方の世界ではよく流れている。
「うっみゅーうみゅうみゅ」
「もっと!もっと!」
「死んじゃったよ!たよ!」
「逝け!逝け!フハハハッ!」
「フハハハ!」
「フハーン!」
・荷車
物を乗せられる。補強が可能であなたの荷車は結構な重量を耐えることが出来る。しかし、それをあなたが引いているのか馬にでも引かせているのかは、全くの謎。
初手、わが家とても危険な爆弾は常識、はっきりわかんだね。
ラーネイレ「…(巻き添え)」