DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread. 作:明暮10番
草木も眠るとは言うが、ロアナプラが眠る事は決してない。
例えば夜道で喚く、この三人のように。
「足と腕がやられたクソぉぉぉおッ!!」
「俺は鼻やられた」
「あのクソ女め! 頭の後ろにコブが出来たぞ!!」
ロベルタに言い寄ったばかりに、彼女とマクレーンによって成敗された男たちだ。
足を撃たれた一人を両脇から二人が抱え、逆恨みを拗らせながら歩いている。
彼らが目を覚ましたのは、一分前。
フラフラと、大通りの方に停めている車を目指す。
「殺す殺す!! まずあのクソを殺すッ! 殺す前に女をオモチャにしている様を見せつけて殺すッ!! 殺したら車に繋げて、市中引き摺り回しにして見せつけてやるッ!!」
「あのポール・カージーのパクり野郎を殺さねぇと気が済まねぇ!!」
「どこにいやがる、クソッタレめ!」
三人は停めていた車に乗る。
マクレーンに撃たれた男は、とりあえず怪我を布で縛って塞ぎ、後部座席に寝かされた。
「病院行くか?」
「夜中に開いてんのか?」
「知らねー。急患だって言えばいいだろ」
銃床で殴られた男が運転手のようだ。
ハンドルを握り、エンジンをかける。
後方から見える破壊されたイエロー・フラッグからの黒煙も気付かない。
その時、車が道の真ん中を全速力で走り、三人の車のサイドミラーを掠った。
「おいッ!! クソッタレ!! 殺してやるぞッ!!」
助手席の、ロベルタにケースで殴られた男が窓から顔を出し、怒鳴りつける。
後ろから響く、盛大なエンジン音。
何事かと振り返った時に、さっきの車を追うようにして走る、改造を施された車が通る。
その車は何の問題もなく三人を通り過ぎて行ったが、助手席の男は目を見開いて驚いていた。
「おい! 見えたぜクソッ! あの女だ、間違いねぇッ!!」
「なに?」
「あんな目立つ服着てりゃ、一瞬でも分かるぜッ!! さっきの車に乗ってやがった!!」
「なんだって!?」
彼が報告を終えたそのすぐには、ザッと十台ほどの車が更に走り去って行った。
「おい! 追われてんじゃねぇのか?」
「いいぜ! 俺たちも追おうぜ! 殺そうぜッ!!」
後部座席の男が拳銃を片手に、のっそりと座る。
失血して青い顔をしていたのに、今は目をギラギラ光らせ、怒りで真っ赤だ。
「撃ってやるぜぇ〜ッ!! 俺がぶっ殺してやるぜぇ〜ッ!!」
「その意気だッ!! 俺たちはロアナプラいちの殺し屋になる男たちなんだッ!!」
二人に触発され、運転手もカッと目をこじ開け、狂った笑い声をあげながらアクセルを踏んだ。
「YEEEEAAAAAHッ!! リアルなマッドマックスを見せてやるぜぇえええッ!!!!」
「俺がナイトライダーってかぁあああッ!? 最高だぜぇぇFooooooooooッッ!!!!」
「殺してやるぅうぜえッ!! 俺が、俺が撃って殺してやるHAAAAHAHAHAッ!!!!」
三人のイカれた男たちは復讐の為、深夜のカーチェイスへの参戦を決めた。
爆音を吹かし、身体が持ち上がるほどの急発進をかまして颯爽と追跡を始める。
必死にハンドルを握るベニーは、震え声で呟く。
「ダッチ……これは悪い夢なんだろ? 多分僕は、こないだ浴びるほど飲んだ時から、ずっと眠ってんだろ?」
「俺もそうである事を願ってるぜ。じゃなきゃこれはベトナム帰り特有のPTSDだ、クソッタレ」
「僕はベトナム行ってないよ」
「じゃあ夢だ。夢だと願っておこう」
レヴィが後部の窓を肘打ちで割り、後方に銃を向けた。
「これが夢だろうがなんだろーが上等だクソォッ!! 二人まとめて殺してやる殺してやるッ!! クソポリは心臓に、アバズレには脳みそだゴラァッ!!」
ロックはガルシアを庇ったまま、横の車窓から顔を出し、後ろを見やる。
「……なんてこった。これじゃ、まるで……」
運転席にマクレーン、助手席にロベルタを乗せた車が追跡していた。
そしてその更に後方には、カルテルや殺し屋の車が数台、マクレーンらを追っかけている。
暗い夜道が、スポットライトとテールライトで煌々と照らされていた。
ガルシアを追い、カルテルに追われ。
狭間にいながらも、明確な敵意と意志を持ってエンジンを噴かすマクレーンとロベルタ。
はっきり言って、正気の沙汰ではない。
「……ターミネーターとマックスのドリームタッグだ」
「シュワルツェネッガーとメル・ギブソンじゃねぇだけか。ロアナプラじゃなくてハリウッドでやれ」
ダッチは愛銃、「S&W M29」を取り出し、レヴィと同じく後方へ構えた。
撃たれた肩を何とか持ち上げ、両手でハンドルを握るマクレーン。
右手の助手席にいるロベルタが器用に彼の肩へ包帯を巻いてはくれていたが、痛いものは痛い。
「クソッタレ、あんの中華女……!」
「弾は貫通しております」
「あぁ、悪い……しかし参ったなこりゃ」
バックミラーとサイドミラーを交互に覗く。
カルテルと殺し屋が、二人を追跡していた。
「カーチェイスのご経験は?」
「五年前に。その前はスノーモービルでやったっけな。仕事では意外と無い」
ロベルタは隣で、殺した男たちから奪ったサブマシンガン「Wz63」を確かめていた。
弾倉を抜いて弾数を見たり、安全装置は解除されているかの確認が済むと、突然フロントガラスを撃って破壊する。
「うわぁああ!?」
ストックでガシガシと殴り、残ったガラスを外しはじめる。
剥き出しの運転席に容赦なく風が入り込む。
「なにしやがんだッ!?」
「邪魔でしたので」
「せめて一言かけやがれッ!」
「申し訳ありません」
そう言いながらも、淡々と奪った拳銃や弾倉を手際良く装備して行くロベルタを見て、マクレーンはついつい失笑してしまう。
「やっぱり元軍人か?」
「………………」
「なんでそこで黙るんだ……まぁ良い。一つ気になっていた事聞くぞぉ」
「何でしょうか?」
「お前、やけに俺に信頼置いてるな。そりゃ、どして?」
ロベルタは左手にインベル・モデル911、右手にWz63を持ち、座席の上で膝立ちになる。
「……マクレーン様のご活躍は、ベネズエラでも有名です。単身で二度もテロ事件を解決なさった、その手腕を見込み──」
「違う違う。パッとしねぇんだ。嬢ちゃんの装備と腕なら多分一人でやれたろうし、寧ろ仲間は足手まといだと思っても良いハズだ」
「………………」
「確かに俺は巻き込まれたし、奴らに敵と思われた。でも、そこまでだ。別に俺を引き込む理由も守る義理もなかった。ここは警察だって腐敗しまくりだ、撹乱の必要もねぇ。そうだろ?」
「……それは」
「だから思ったんだ。あんた、もしや俺を──」
銃声が響き、車の壁に弾が当たる。
追跡するカルテルと殺し屋が、車窓から身体を出して射撃して来た。
アクセルを踏み込み、何とか距離を離す。
「……話は後にするかぁ。お互い、生きてたらなぁ」
「……そうして頂けますと、助かります」
「ついでに残念なお知らせだ。俺ぁさっき、後ろのあいつを撃った一発で、残弾尽きた。レミントンは撃たれた時に落とした。運転しか出来ねぇからな」
後部座席には、白目を剥いて首から血を流す死体が鎮座している。
その膝の上に、ロベルタが持って来たあのトランクケースが乗っていた。
「あのケースに何が入ってんだぁ? まぁ、着替えは大事か」
「ミニミ軽機関銃とグレネードランチャーを仕込んでおります」
「………………爆撃のせいで、耳がやられたようだ。なんつった?」
「持ち手の所にあります、赤い引き金を引くとミニミ軽機関銃が、青い引き金はテストンブリントンMP37が作動するように改造しておりますわ。持ち手側を上面として、側面上部にある穴から5.56mm×45 NATO弾、反対下部の穴から37mm弾が発射されます」
マクレーンは頭を振りながら呆れ返る。
「……お前最初、爆弾入ったトランクケースで殴ってたのか?」
「あの程度の衝撃では誤爆いたしません」
「……本当に俺は必要だったか、これ?」
大通りを走り抜け、市街の方を目指すダッチたち。
何とか追い付こうとエンジンを駆動させ続けるが、先にカルテルの連中が隣に着いてしまった。
助手席から一人、後部座席からもう一人が拳銃を二人に向けて撃ちまくる。
「クソッタレ。押して駄目なら、何とやら」
マクレーンは一度減速し、敵車両の後方まで下がる。
そのまま思い切りハンドルを切り、フロントをぶつけてやった。
前輪と後輪とのバランスを大きく崩され、コントロールを失った車はグルリとアスファルト上に弧を描く。
マクレーンらの車のフロントを撫でるようにスピンし、端に停められていた車と激突した。
「ケツにつけられた!」
別の敵車両が、二人の車を後方からぶつける。
そのまま車窓から、銃を乱射してきた。
「片付けて来ますわ」
ロベルタはドアを開け、右手一本でしがみ付きながら一緒に車外へ飛び出し、そのまま後方の車に目掛けて拳銃を撃つ。
弾は的確に運転手と助手席の狙撃手を殺害し、車はスピン。
後ろに並んでいた仲間の車を巻き込んでクラッシュした。
「そんまま右のも片付けてくれいッ!!」
ロベルタ側に並ぶ、殺し屋の車。
彼女は瞬時に左足を窓枠に引っ掛けてから右手を離す。
足だけで宙ぶらりんになりながら、サブマシンガンを乱射。
乗っていた者が全員やられ、脇に並ぶ雑貨屋に突っ込んで沈黙した。
次は左、運転席側から刺客。
マクレーンは頭を下げて銃弾を避けながら、車体を思い切りぶつける。
押された敵車両は、街灯に衝突。一気に五台を片付けた。
ぶつけた際の衝撃でドアはまた閉まり、ロベルタは車内に戻る。
「感謝いたしますわ」
「最高だろ? マクレーンタクシーは」
忍び笑いを浮かべながら、前方を見やる。
「目的地は目の前だぜぇ」
ガルシアを乗せた車は、もう三メートルほどの距離だ。
一方、ラグーン商会らの車。
どんどん距離を詰めるマクレーンとロベルタを前に、戦闘準備に入る。
「ガキがいる! 無闇には撃ってこねぇッ!!」
「関係ねぇよぶっ殺すッ!!」
レヴィは「ソード・カトラス」と名付けられた、ベレッタM92Fのカスタムモデルを構えた。
そして照準を瞬時に合わせ、二人目掛けて引き金を引く。
助手席より半身を出し、ダッチもリボルバーで援護する。
「うおっと!?」
マクレーンもロベルタも姿勢を低くし、回避。
ビシバシとフロントや、頭のあった座席の上部に弾痕が出来る。
「おっかねぇーッ! 確か、レヴィって奴か!? あいつは相当、腕が立つぞ!」
「若様に当てたくはありません」
「どうすんだ!?」
ロベルタは射撃の合間を狙って身体を現し、インベルを撃つ。
危険を察知したレヴィは身体を引っ込め、座席に戻った。
直後、リアガラスを抜けた弾丸が椅子の間を縫って、フロントガラスから抜けた。
「当てないように、撃ちます」
「…………もう俺はなにも言わねぇよぉ〜……」
先ほどの驚異的な射撃スキルを見たダッチは、レヴィに警告した。
「前言撤回するぜクソッタレ! 奴はガキを避けて撃てるようだぜッ!!」
「上等じゃねぇか……おいロック!!」
「なんだよ!?」
「助手席の下にもう一挺、拳銃がある! それ寄越せッ!! さっさと渡さねぇとオメェから殺すぞッ!!」
「物騒過ぎるだろ……!」
一瞬だけ躊躇したものの、状況はやるかやられるかだ。
ロックは頭を下げて助手席に潜り、紐で固定されていたベレッタを抜き取り、レヴィに放り投げた。
彼女は上手くキャッチし、「
「あぁ、物騒だろ……もっと恐ろしいモン見してやるぜ……!」
完全に火の付いたレヴィは、一回の呼吸の後に窓へ飛び出し、片足をトランクに出すほどにまで身体を出した。
そのままマクレーンとロベルタへ、間髪なしに拳銃を撃ちまくる。
「クソッ!! やべぇえーーッ!?」
「スピードは出来るだけ落とさず、蛇行運転を」
マクレーンは頭を下げながらもハンドルに縋り付く。
ロベルタは回避してばかりでは勝てないと踏んだのか、何とレヴィ同様、フロントに片足を出すほど姿を晒し、応戦した。
車を左右に操作し、出来るだけ被弾率を下げてやる。
それでもロベルタはバランスを崩す事なく姿勢を保ったまま、自前のインベルで撃つ。
「
マクレーンは必死に車の舵を切りながら、それでもスピードだけは落とさないように努力した。
だが近付けば近付くほど、被弾のリスクは高まる。
近付いてどうするのかと疑問に思っている内に、もうラグーン商会の車は目と鼻の先。
「あの女から殺しますわ」
「あの女ぶっ殺してやる」
二人の銃口が、各々の眉間を捉えた。
その瞬間、マクレーンの車は大きくバランスを崩した。
ロベルタもそれには耐えきれられず、フロントに掴まって姿勢を乱した。
「クソッタレぇッ!!」
レヴィの放った弾丸は、アスファルトに落ちる。
「追い付いたぜぇ〜〜〜!?!?」
あの、三人の男たちだ。
ニトロブーストを使用しているのか、異常な馬力で運転席側から車体をぶつける。
「あいつら、あん時の……ッ!!」
後少しと言う距離なのに、思わぬ邪魔が入ってしまった。
無表情なロベルタだったが、その時に初めて、悔しげに歪められた。
「……そのまま、真っ直ぐ突っ込んでください」
「はぁ!? 正気かお前!?」
「黙ってその通りにしてください」
ロベルタは一瞬だけ車内に潜ると、後部座席からトランクケースを持ってまた、フロントに出た。
ケース自体も防弾仕様なのか、レヴィの弾丸を防ぐ盾になっている。
「おいおい、ホプリタイのつもりかてめぇ!?」
ますます接近するロベルタへ、何発もの銃弾を浴びせる。
ケースで防ぎつつ撃ち返すロベルタ。
その内、三人の男たちの車は、マクレーンらの車の後方まで下がる。
スピンさせるつもりだ。
「ロベルタッ!! 駄目だッ!! 戻れッ!!」
彼女を引き摺り入れようと、マクレーンは手を伸ばした。
「女を車から落としてやるぜええええええッ!!!!」
勢いを付け、車へ突撃した。
ロベルタを掴もうとしたマクレーン。
代わりに掴んだ物は、投げられたトランクケースだった。
車がスピンする刹那、何とロベルタはフロントを走り、ラグーン商会の車へ飛んだ。
拳銃を撃ちながら、ゆっくりゆっくりと、トランクの方へ落ちる。
ロベルタがレヴィの腕を掴んだ。
トランクに叩きつけられた。
コントロールを失ったマクレーンの車が電話ボックスへ突っ込んだ時には、彼女はラグーン商会の車への乗り込みに成功していた。
「乗りやがったよダッチぃッ!?!?」
「何とか振り落とせッ!!」
ベニーは車体を振り、ロベルタを落とそうと試みた。
だが彼女はレヴィを掴んでおり、簡単には落ちない。
「てめッ……!!」
もう片方の銃で撃とうとするも、瞬時にロベルタはもう片方の手で組み伏せ、阻止する。
レヴィは踠いて腕を外すが、ロベルタは既に銃を向けており、引き金を引いた。
大きく身体を揺さぶって、回避するレヴィ。
至近距離過ぎるが故に、互いに照準が定められにくい状況と化していた。
一人置いて行かれたマクレーン。
カルテルらの車が通り過ぎる最中、一台の車が停まる。
「奴はどうする?」
「無視だ、無視ッ!! あのメイドを殺せば、遊んで暮らせる金が手に入るらしいぞ!!」
「マジかよ!! そりゃ行かねぇとなぁ!!」
クラッシュしたマクレーンの車を無視し、他の四台を追って、ロベルタを追いに行く。
そのすぐ後に、傷だらけの身体でマクレーンは車から這い出した。
「だああぁ……! 死ぬかと思った……!」
エンジンの確認をするが、この車は頑丈に改造されており、まだ走れるようだ。
その時に、ハンドル下にあるレバーに気付いた。
「……ニトロ使えるのかぁ? そりゃ良い、すぐに追い付いて……」
追い付いて、どうする。
カルテルや殺し屋の車が五台、イカれた奴らの車が一台、ガルシアを奪われないよう必死のラグーン商会。
武器もない、手負いの自分に何が出来る。
しかしこのままでは、ロベルタはおろか、ガルシアも危険だ。
「……クソッ!! 何か、何かねぇか……!?」
縋る気持ちで武器を探そうとするマクレーンだが、車内にある物を見つけて、歓喜する。
一気に全てがどうにかなる、一つの方法を思いついた。
「……ハッハーッ!! 俺もイカれてるぜ全く!!」
マクレーンはすぐに後部座席のドアを開き、ずっと座らせていた死体を車外に引き摺り出した。
「今に見てやがれ。フェスティバルのフィナーレを飾ってやる」
銃口を向けては逸らされ、を繰り返すレヴィとロベルタ。
その時にロベルタの足元へ、銃弾が当たる。
三人の男の狙撃手が、狙い撃っている。
「近付けぇぇえッ!! ファックしてやるぅぅぅううッ!!」
「なんか分からねぇが全員殺すぅぅうッ!!」
「ヤッハーーーーッ!! 死ねぇえええッ!!」
彼らには一欠片の理性もないようだ。
ブーストさせた車で小突いて来ながら、狙撃手の男は弾を入れ替えている。
「ダッチ、ダッチダッチ……! マズい事になってるぞ……!!」
ベニーは顔面蒼白で、サイドミラーを見やった。
カルテルや殺し屋の残りの車が、包囲するように並走していたからだ。
そのままロベルタもラグーン商会も無関係に、銃を撃ちまくる。
「あいつら、僕らも巻き込むつもりだぁ!? もう子どもは捨てるつもりか!?」
「狙いは彼女なのか……!?」
「伏せろッ!! 伏せるんだロックッ!!」
ダッチの叫びに合わせ、ロックはガルシアと一緒に屈む。
席の上部には、幾多もの銃弾が飛び交っていた。
「ああ、聖母マリア様……!」
ガルシアは祈るしかない。この地獄のど真ん中で。
しかしそれでも、顔を上げた。
依然としてレヴィと組み合う、ロベルタの姿だ。
いつも笑顔で自分と接し、遊んでくれたあのロベルタ。
今は鋭く、憎しみに満ちた眼差しで、人を殺そうとしている。
こんな彼女の姿は、見たくなかった。
だからこそ自分は一緒に逃げ出した。
逃げ出した先がこの惨状だった訳だ。
最初から抵抗せずに受け入れ、遠い国に行けば良かったのか。
悪漢を蹴散らす彼女に安堵の息をすれば良かったのか。
バーの時にて彼女の胸に飛び込めば良かったのか。
「……どうしてだよぉ……!」
ただただ、月だけ綺麗な最悪な夜を、呪うだけだった。
「素敵な夜だぜ、コロンビアンどもぉ」
車の群へ、猛スピードで向かって来る一台の車。
ニトロブーストによって、まるでジェットのように火を噴く車の後方。
運転席には、あの死体が座っていた。
死体の腕でハンドルを固定させ、アクセルを踏みっぱなしにさせる。
真っ直ぐだけだが、これで車を自動的に走らせられた。
では、マクレーンはどこなのか。
彼はフロントに堂々と座っていた。
ロベルタの、「トランクケース」を構えて。
火を噴いて爆音を響かせ迫るその一台の車は、全ての車のミラーに映った。
楽しげに笑う、マクレーンの姿も。
「
赤い引き金を、引いた。
次の瞬間、連続的な射撃音が響く。
発射された徹甲弾は、簡単にカルテルや殺し屋の車を蜂の巣にして行く。
薄い鉄板を突き抜け、中にある人間はただの肉塊と化して行く。
三台が盛大にクラッシュした。
命からがら生き残った二台が、マクレーンを止めようと急停車する。
そのまま彼はケースを返し、今度は青い引き金を引く。
ボンッとくぐもった音が響き、発射されたグレネード弾が二台の車の足元に落ちた。
次の瞬間、夜空に車が舞い上がった。
爆発、炎上し、夜を激しい光で包む。
破壊された車と、立ち昇る炎と煙の隙間を、車は走り抜ける。
ジョン・マクレーンはたった一分で、五台の車を葬った。
騒動を聞き、ロベルタは振り返る。
愕然とする三人の男たちの車の後ろに並ぶ、一台の車。
フロントに座るマクレーンはケースを下ろし、高々に腕を掲げた。
「見たかヤク中どもぉッ!! 死者の日の最後を飾ってやったぜぇッ!!」
輝く月と、赤々と燃え盛る炎を背景に、マクレーンは叫ぶ。
その様を、割れた眼鏡越しにロベルタは見つめていた。
車窓から顔を出した、ガルシアとロックは見ていた。
「Wonderful Tonight」
「エリック・クラプトン」の楽曲。
1977年発売「Slowhand」に収録されている。
言わずと知れた、ギターの神様。
甘く情緒豊かで官能的な音色は必聴。
「ポール・カージーのパクり」とか言ってたけど、「狼よさらば」のリメイクでブルースはマジにポール・カージーになっております