DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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World of Pain 2

 まだ気絶している男を、車の荷台に詰める。

 一安心したように息を吐くロックに、駆け付けたダッチマンブラザーズの兄貴が不機嫌そうにぼやく。

 

 

「死体かと思ったら、生きてる人間だーよ! ヤパンナー、あんたオラたちの使い方間違えてる!」

 

「すっ裸にして、海岸にでも寝かせていたら良いよ。追い剥ぎのせいに見せてやったら御の字だ」

 

「金は貰うかんな!」

 

 

 ロックから金を受け取り、弟のエフェリンを連れて二人は帰って行く。

 車内で兄のヤーコブは、オランダ語で話し出した。

 

 

「この街はもう駄目だな。エフェリン、オランダ帰るぞ」

 

「…………にいちゃんが言うなら」

 

「その為には金が必要だ。一気に儲ける方法はないもんかね」

 

 

 車で走り去って行くダッチマンブラザーズを見送った後に、ロックは急いで事務所に戻る。

 

 

 中ではダッチとベニーが寛いでいた。

 一仕事終え、退屈なのだろう。

 

 

「なんだ、遅かったな? どこ行ってた?」

 

「タバコ買いに。ほら、二人の分も」

 

 

 ちゃんと理由付けも用意している。

 ポケットからタバコを取り出し、二人に投げ渡す。銘柄も、それぞれの好みの物だ。

 

 

「ありがたい、タイムリーだよロック。暇過ぎて吸い尽くすところだったんだ」

 

「後で払ってくれよ。奢りじゃないんだ」

 

「ははは……現金だな君は」

 

 

 様子もいつも通りを演じてみせた。

 お陰でダッチにもベニーにも、勘付かれる事はなかった。

 お得意様を刑事に売ったなんて知られたら、南シナ海の名もなき無人島に流されてしまうだろうか。

 

 

「レヴィは戻らないか?」

 

「下宿に戻ってねぇな。どうせバオの所でベロベロなんだろ。そんな状態のあいつを見に行く勇気はねぇな」

 

「僕も勘弁したいよ。こうやって、ぼんやり雑誌を読むのが一番さ」

 

 

 ソファに寝っ転がり、くだらない三流雑誌を眺め続ける。

 その内にダッチは船の点検に戻って行った。

 

 

 自分もとうとう、やる事はなくなったな。

 ロックも寛ごうかと、ベニーが淹れていたコーヒーをコップに注ぐ。

 

 

 

 

 その時に、事務所の電話が鳴る。

 ベニーが立ち上がろうとしたのを、ロックは止めた。

 

 

「俺が出るよ」

 

「悪いね」

 

 

 コーヒーを一口飲みながら、部屋の奥にある電話を取る。

 

 

「はい?」

 

 

 仕事だろうかと、相手の名乗りを待っていた。

 しかし完全に、その相手を予想しきれていなかったようだが。

 

 

『あー、ラグーン商会さん?』

 

「どちら様でしょうか?」

 

『オカジ……ロックに代わって欲しい』

 

「え? あの、僕ですけど」

 

 

 

 

 

 寂れたモーテルの前にある公衆電話から、男がかけていた。

 

 

「ならタイムリーだ! 俺だ、マクレーンだ!」

 

「あぁ、マク……ブゥッ!?」

 

 

 口に含んだコーヒーを吹き出しかける。

 例の一件以降、ラグーン商会でも畏怖の対象となっているマクレーンから、連絡が来たからだ。

 

 

「どうしたんだいロック? 誰から?」

 

 

 身体を起こしかけたベニーを、何とか留まらせた。

 

 

「な、なんでもない! 気管に入って、噎せただけ! えぇと、仕事の依頼!」

 

「……? そうか?」

 

 

 はぐらかし、息を吹いた後に声を落として訴える。

 

 

「なんですかマクレーンさん……! ここに連絡しちゃマズいですって……!」

 

「すぐに済む。それよりオカジマ。俺は今、例の通り魔が潜んでいる場所の前にいんだ!」

 

「……え!? き、聞き出せたんですか……!?」

 

「ちょっとドライブして、説得出来た」

 

 

 マクレーンはチラリと、隣に停めてある車の中を見る。

 助手席には血塗れで意識朦朧のモレッティがいた。

 

 

「いいか、オカジマ。俺ぁてめぇを、とりあえず信頼する。場所は西の街外れにあるモーテルだ」

 

「西の街外れ……あぁ、なるほど。確かにヴェロッキオ・ファミリーの息がかかった地域ですよ」

 

「決して誰にも言うなよ。俺がわざわざ連絡したのは、もしかしたら犯人らと殺し合いになってくたばるかもしれないからだ。一時間経っても連絡がなかったら、仕方ねえ。通り魔の正体とイタリアどもとの関係を暴露してやれ!」

 

 

 電話を切ろうとするマクレーン。

 しかし急いで、ロックはそれを止めた。

 

 

「ま、マクレーンさん! 報告の連絡はここじゃなくて、イエロー・フラッグにかけてください。レヴィを見に行く(てい)で、これから向かいますから。ダッチやベニーに電話を取られたらマズい」

 

「あぁ……そうか? ならそうするが……」

 

 

 備え付けられていた電話帳を開き、イエロー・フラッグの連絡先を探す。

 その間、ロックは神妙な顔付きでもう一つだけ尋ねた。

 ずっと聞いていた事だ。

 

 

 

「そろそろ教えてください……通り魔は、どんな見た目なんですか? 多分、若い人物なんですよね?」

 

 

 彼が求めているのは、最初から通り魔の正体だ。マクレーンも話してやる事を約束していた。

 

 頭を掻き、眉間に皺を寄せ、少しだけ迷った挙句に話してやる。

 

 

 

 

「……双子だ。ヘンゼルとグレーテルって名乗っていた。殺しを遊びか何かだと考えている……恐らく十代前半の子どもだ」

 

 

 電話口で絶句している内に、マクレーンは「切るぞ」と言って受話器を置いた。

 残されたロックは呆然と、通り魔の正体を頭の中で繰り返す。

 

 

「……本当かよ……」

 

 

 確かに子どもだとは予想していたが、そこまでだとは思っていなかった。

 双子で、サイコパスじみた存在。何があったら、そんな人間が出来上がるのか。

 

 

「ロック?」

 

 

 心配そうに、ベニーが聞いて来る。

 何とか頭を上げ、愛想笑いを作ってみせられた。

 

 

「……ヨーロッパまで行けるのかって。さすがに無理だと言っといたよ」

 

「僕らにバスコ・ダ・ガマと同じ事をさせるつもりだったのかぁ? もう海よりも空を考えるべきだよ、それは」

 

 

 イエロー・フラッグに行く準備をしなければ。

 マクレーンがくたばらない事を、願いつつ。

 

 

「……やっぱりあの人は、ジョン・マクレーンだ。思った通りの人で良かった」

 

 

 少しだけ、彼がそのヘンゼルとグレーテルに執着する理由が、知れた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクレーンは上着にしていたアロハシャツを脱ぎ、ベレッタを構えたままモーテルへ入って行く。

 緊張感と興奮で、手汗が驚くほど流れ出る。

 

 

「落ち着けマクレーン……お前なら、やれる……!」

 

 

 ずっと言い聞かせながら、入り口を開けた。

 

 

 

 

 

 残されていたモレッティ。

 彼は頭部の怪我を押さえながら、意識を取り戻す。

 

 

「イッテェ……アア、クソォッ……!! あの、イカれポンチがッ……!!」

 

 

 マクレーンへの怒りが、極限にまで達する。

 車からヨタヨタ降りると、自分の今いる場所を把握した。

 

 

「……あいつらにやられちまう前に、俺がぶっ殺してやる……ッ!!」

 

 

 ドアを開けて後部座席に入り、肘掛けに這い寄る。

 この車は、後部座席のコンソールにもボックスが付いていた。

 そこを開けると、一挺のリボルバー。

 

 シリンダーを開けば横から垂れ下がるように飛び出るのではなく、なんと照星の前まで上がる変わった機構のリボルバーだった。

 一緒に入っていた弾を込めながら、殺意に満ちた目でモーテルを睨む。

 

 

殺してやる(ティ・アンマッゾ)……ッ! 舐めやがって、絶対に俺が殺してやる……!! あのクソの双子(ジェメッリ)も怖かねぇ、皆殺しにしてやるぜ……ッ!!」

 

 

 彼はふらつきながら、入り口を目指す。

 持っている銃は、「マテバ 2006M」だった。

 

 

「イタリアの味を覚えさせてやる……!」

 

 

 マクレーンに続く形で、モレッティも扉をくぐる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下は暗がりにあり、電灯一つも点いていない。

 マクレーンは外からの日光を頼りに、ゆっくりと、ゆっくりと進む。

 

 

 緊張からか、涎が分泌せず、口内はカラカラだ。

 その癖、汗だけは異様に噴き出る。

 

 

 不意を打てば、勝機はある。

 俺なら引き金を引ける。

 やれるぜ、ジョン・マクレーン。

 延々と頭の中で、言って聞かせた。

 

 

 

 部屋が多く、どこに潜んでいるのかが分からない。

 

 だが、その問題はすぐに解決した。

 一つの部屋の扉だけ、半開きだったからだ。

 

 

 

 

「……そこか?」

 

 

 

 

 小さく呟き、浅い呼吸を繰り返す。

 

 扉の前で一旦、深呼吸し、目を閉じて覚悟を決めた。

 

 ベレッタを撫で、引き金に指を回す。

 

 

「……よしッ!」

 

 

 カッと目を開き、扉を蹴って開く。

 銃を構え、一気に突撃した。

 

 

 

 

 部屋は風呂付きのワンルーム。

 ブラインドカーテンで窓を遮った、薄暗い部屋の中。

 

 

 ジメついた空気の中にある、不愉快な臭い。

 

 

 部屋の真ん中には、切り取られた人間の腕と、見覚えのある血だらけの手錠が転がっていた。

 そして脱ぎ散らかされた、あの変わったタキシードとドレス。

 

 風呂場を覗くと、床や壁が湿っていた。そんなに入浴後からの時間は経っていない証拠だ。

 

 

 間違いない、ここに二人はいた。

 

 

 

「……なんだ? いねぇじゃねぇか」

 

 

 しかし、今はいない。

 もぬけの殻だ。

 

 マクレーンは銃を下げ、拍子抜けしたように息を吐いた。

 

 

「……他の部屋か? それとも、二階か? どっかに隠れてやがんのか……!?」

 

 

 困惑し、混乱するマクレーン。

 

 

 

 突然、静まり返った室内でカチャリと、撃鉄を起こす音が響く。

 背後から聞こえたその音に、すぐに反応しようとした。

 

 

「銃を捨てやがれ、クソ野郎」

 

 

 マクレーンは振り返り、迎撃しようとするのをやめた。

 向こうは既に、準備を整えている。動けば、すぐに撃たれるだろう。

 

 双子にばかり神経を使っていただけに、完全に油断していた。

 目を閉じ、後悔するように頭を振る。

 

 

「……てめぇ、起きたのか? どこに隠していやがった?」

 

「後部座席にだ。いつも仕舞っていた、お気に入りなんだ。詰めが甘かったなぁ、ドグサレが」

 

 

 マクレーンは両手をあげ、持っていたベレッタを足元に落とし、後ろにいるモレッティの方へ蹴飛ばした。

 

 

「もう一挺持ってやがんじゃねぇか。それも捨てやがれ」

 

 

 ロックから貰った、ルガーのようでルガーではない銃。

 上着を捨てて、ホルスターを晒してしまった事を後悔する。

 銃を抜こうとしながら、チラリとモレッティを横目で見やった。

 

 

 

 血だらけで、折れた歯を見せ付けながら、勝ち誇ったように笑っている。

 

 持っている銃を見た。

 リボルバーのようだが、妙にノッペリとした銃身。

 それよりも目に付いたのは、銃口が普通の物よりもやけに下に付いている事だ。

 

 変わったその銃を見て、マクレーンは笑う。

 

 

「おかしな銃かと思ったら、悪評高いマテバ様じゃねぇか」

 

「うるせぇ。俺はマテバが好きなんだ。確かてめぇ、イタリアの銃が好きなんだろ? 良かったなぁ、最後の晩餐に食わせてやれるぜぇ」

 

 

 ルガーを抜き取る。

 そう言えばロックから貰った時に、装填は済ましていたなと思い出す。

 

 

「……なんですぐ撃たねぇ?」

 

「てめぇのその、舐めきったムカつく顔にぶち込んでやる為だよ。銃を捨てたら、こっち向きやがれ」

 

 

 モレッティは命中率を上げる為、マクレーンのベレッタを踏み越えて一歩近付く。

 

 

「散々、イカれたドライブに付き合わせやがって。脳がシェイクされて、ドロッドロになる寸前だった。今度は俺が、ありったけの弾丸をてめぇの頭ん中にぶち込んで、シェイクにしてやる番だ」

 

「双子はいねぇぞ。さっきまでいたようだがなぁ」

 

「クソッタレ。どこ消えやがった……たまに二人だけで、『ルーマニア語』で内緒の話しやがって」

 

 

 彼のその言葉を聞き、ピクリとマクレーンは目を細めた。

 

 

「……ルーマニア語? あの双子は、ルーマニア人か?」

 

「あぁ。クソ以下の『チャウシェスクの落とし子』どもだ。とっとと死ねば良かったんだよ、あいつらは」

 

「チャウシェ……なんだそりゃ?」

 

「うるせぇてめぇッ!!」

 

 

 銃床で、頭部を殴る。

 痛みと目眩で、マクレーンは苦悶の表情のまま、跪く。

 

 

「あー……クソッタレ。今のは効いたぞぉ……」

 

「ほら、立ち上がれ! 銃を捨てたら、こっちを向けッ!! 折れた歯の数と同じだけ、ぶん殴ってやるッ!!」

 

 

 側頭部から流血させつつ、何とか立ち上がる。

 そのままスッと、ルガーを掲げた。

 

 

「なんだてめぇ。ドイツじゃねぇか? 弾数と威力さえあれば無敵とか思ってやがる、勘違いどもの銃かよ」

 

「そこはちょっと同意してやるが、ドイツの銃は良いぞぉ?」

 

「あ?」

 

 

 引き金に指を入れたまま持ち上げ、銃口を窓の方に向けた。

 

 

 

「弾だけが武器にならねぇからな」

 

 

 手首に全く力を入れていない状態で、引き金を引く。

 

 

 

 まるで爆発音のような銃声が響き、発射された弾丸がブラインドカーテンと窓を盛大に破壊。

 

 それよりも驚きなのは、反動だ。

 

 しっかりと構えられていない改造ルガーは、まるでロケットのようにマクレーンの後ろへ吹っ飛んだ。

 

 

 油断し、近付いていたモレッティの顔面に当たる。

 

 

「うぐぉあッ!?」

 

 

 視界を奪い、不意をついてやった。

 すかさずマクレーンは振り返り、モレッティに襲いかかる。

 

 

「この、クソ()()()野郎ぉッ!! 本当にシェイクしてやるぅうッ!!」

 

 

 彼のマテバを握る手を掴み上げ、顔面を殴る。

 怯み、指の力が抜けたところで腕を掴んで、壁に叩きつけてやった。

 

 マテバが落ちる。

 これでお互い、丸腰だ。

 

 

「……やりやがったなヤンキーがぁッ!!」

 

 

 完全にブチギレたモレッティ。

 マクレーンの腕を掴んで、押し返す。

 それで体勢を崩してやった隙に懐へ潜り込み、鼻っ面へ一撃加えた。

 

 

「おぐぅッ!?」

 

「このイカれやろぉッ!! パスタはイタリア語で『ケーキ』なんだよぉおッ!!」

 

 

 背中を何度も殴りつける。

 とうとう膝を突くマクレーンだが、目の前にあったモレッティの股間を思いっきり鷲掴み。

 

 

「おぉおぉおおーーッ!?」

 

「勉強になったぜぇーーッ!!」

 

 

 モレッティの拘束を抜け、すかさず顎にアッパー。

 

 

「これは受講料だッ!! ピザにしてやるぅうーーーーッ!!」

 

 

 壁に背中からぶつかるモレッティ。

 目の焦点が合っていない彼へ、マクレーンは襟元を掴んで何度も殴ってやった。

 

 

「このやろぉッ!! イタリアに帰りやがれッ!!」

 

 

 五発ほど殴られたモレッティだが、六発目を入れたマクレーンの拳を、頭を逸らして避ける。

 壁を殴り、動揺を見せた彼の顔面に頭突きをかます。

 

 

「おうっ!?」

 

 

 仰け反り襟元を離した瞬間、モレッティは水を得た魚のように襲いかかる。

 身体を大きく動かし、荒削りなパンチを何度も何度もマクレーンに浴びせた。

 

 

「バカ野郎めぇーッ!! 四十路が若い奴に敵う訳ねぇんだよぉおッ!!」

 

 

 すっかり腫れ上がったマクレーンの顔。

 容赦なしにモレッティの追撃は続く。

 

 

「ぶっふぅッ!?」

 

「ミンチにして、ハンバーグにしてやるぅッ!!」

 

 

 渾身の力を込めて殴った一発が、マクレーンを吹き飛ばす。

 目の前をチカチカさせて、部屋の真ん中で大の字で倒れた。

 

 

「殺してやるぅ……!」

 

 

 彼の足元に、落としたマテバが。

 身体を横にし、立ち上がろうとするマクレーンより先に、それを拾い上げようと走る。

 

 

「殺してやるぜ薄らボケェーーッ!!」

 

 

 飛び込んでマテバを取り、ゼロ距離で頭を撃ってやろうと銃口を向けるモレッティ。

 

 

 だが、背を向けていたマクレーンが突然振り向いたと同時に、顔の側面に強い衝撃が。

 

 

「おぉう!?」

 

 

 脳を揺らすほど一撃。

 何で殴られたのかと顔を上げれば、死体の腕をバットのように担いだマクレーンの姿。

 

 

 

 

「また死体を使っちまったぜクソッタレッ!!」

 

 

 足を振り上げ、再びモレッティが銃口を向けるよりも先に、ゴルフスタイルで死体の拳を叩きつけてやった。

 

 

「ォッ──」

 

 

 鼻に一発、強力な物を食らった彼は真後ろに吹っ飛び、倒れる。

 ダメージが許容量を超えたのか、とうとう彼は気絶した。

 

 

「ゼェ……ゼェ……かぁー、イテェ〜よぉ〜……!」

 

 

 何十発も殴られた顔を触ろうとすると、冷たい感触と腐った臭いがする。

 

 持っていた死体の腕を、顔に付けてしまった。

 

 

 

 

「……ウェッ!」

 

 

 すぐに捨てる。

 

 

 マクレーンは一緒に落ちていた手錠を拾うと、モレッティの手首にかけて、戸棚の引き手と繋げてやる。

 勿論、落としたベレッタとルガーも回収済み。

 

 

「ボコボコだクソが……! あぁ〜、イテェ〜……!」

 

 

 彼のマテバは、破壊した窓の外に捨ててやる。

 これで手錠を破壊して逃げると言った事も出来なくなった。

 

 

「……どこ行きやがった……」

 

 

 一旦、風呂場に入り、シャワーで顔の血を洗い流す。

 軽く流したら、すぐに出て行くつもりだった。

 

 

 当たり前だが、こんな場所でイタリアンマフィアとボクシングをする事が目的な訳がない。

 双子がいないのなら、長居は無用だ。

 

 再び廊下に出て、覚束ない足取りでモーテルを後にしようとする。

 双子の様子を見に、組織の人間が来るかもしれない。

 

 

「……くたびれ損じゃねぇか」

 

 

 薄暗いモーテルから、明るい日の下へ。

 相変わらず暑い気温と、晴れ渡った空。少し太陽が西に傾いている。

 

 

 結果、何も得られなかった。

 双子はいなかったし、モレッティの様子からして聞き出す以前に居場所を知っていないのだろう。

 ここで追跡は終わりか。

 

 

「……いいや。まだ、可能性はある」

 

 

 フラフラ歩きながら、少しぼんやりとする頭でモレッティの話を思い出す。

 

 

「……双子はルーマニア人。あと、チャウシェスク……だっけか?」

 

 

 手掛かりはまだある。

 とりあえず、ロックに相談だ。


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