DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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双子編終了までお付き合いください
その後は時遭し編を、完結させます


Return of the Giant Hogweed 2

 マクレーンが受話器を投げ付け、バラライカとの通話を終わらせた直後。

 彼は捕らえた構成員一人を人質に取り、殺されないよう身を守った。

 

 

「てめぇ、どういうつもりだぁ……?」

 

 

 ヴェロッキオはこれまでにないほどに怒り狂っていた。

 目を剥き、口角を上げてひくつかせ、拳銃を持つ手がわなわなと震えている。

 

 マクレーンは自身に向けられる十挺ほどの銃口を前に、ベレッタを人質に押し当てながら弁明してみた。

 

 

「俺の焦りっぷりは見ただろ? 俺だってバラライカに遊ばれてんだよ。バラしちゃなかった」

 

「うるせぇ。てめぇが嗅ぎ回ったせいだ。バラしてんのと変わんねぇだろが」

 

「これにゃぁ俺に責任がある。バラライカとも話をつけてやるから、とりあえず銃を降ろし──」

 

 

 

 

 人質を取った以上、攻撃は受けないかと思っていた。

 例えマフィアやギャングと言えど、一定の人情と仲間意識は持っているハズだ。

 

 

「ふ、ざ、ける、なよぉ……!!」

 

 

 その認識が甘かった。

 ヴェロッキオは銃口をスッと、人質の身体に向ける。

 

 

「ま、ま、待ってくれ、ボ──」

 

 

 人質の男の乞いさえ無視し、二発撃ち込んだ。

 

 

「ぁが……ッ!?」

 

「おおお!?」

 

 

 ズシリと重くなった身体に、マクレーンは支え切れなくなる。

 まさか撃つとはと、さすがの事態に動揺する構成員らだったが、ヴェロッキオは容赦せずに叫ぶ。

 

 

 

 

「コイツだけは殺せぇえぇーーーーッ!!!!」

 

 

 彼の叫びに呼応する形で、男たちは本格的に照準をマクレーンに合わせる。

 

 

「あぁ、生き残れるのかこれは……」

 

 

 絶命し、立たせられなくなった人質を放棄して、マクレーンは背を向けて逃げた。

 前方には、隣の部屋とを隔てる、ガラス窓のついた仕切り。

 

 

 

 

 直後、一斉に弾丸が発射された。

 

 

「クソッタレどもがぁぁあーーーーッ!!!!」

 

 

 後ろから飛んでくる銃弾を、身を低くして回避しながら、自身もベレッタの引き金を引く。

 ガラスに穴を開けて脆弱性を高め、そのまま一気に飛び込む。

 

 

「うひぃいーーッ!?」

 

 

 ガラス片と銃弾と共に、命からがら隣の部屋に逃げ込んだ。

 手を切ったのはこの際無視。

 すぐに近くにあった大型のソファに隠れる。

 

 

「絶対に殺せぇぇーーッ!!」

 

 

 マクレーンに襲いかかる、9mm弾の雨。

 事務所の備品を破壊しながら、一人の男の命を奪わんと撃ち込まれ続ける。

 

 

「クソッタレ……! 俺は一回、平和的に行こうとしたぜこの野郎……ッ!!」

 

 

 不利な状況にいるマクレーンだが、彼もまたヴェロッキオ以上の怒りを迸らせていた。

 

 

 一人の構成員が割れた窓より身を乗り出し、銃口を向ける。

 

 

「もう容赦しねぇーーッ!!」

 

 

 マクレーンはサッとソファから身体を晒し、彼へ発砲。

 三発の銃弾を受けた彼は、仰け反るように倒れた。

 

 

「返り討ちにしてやるッ!! トマト祭りの開幕だぁあーーーーッ!!!!」

 

 

 扉を蹴破り、二人組が部屋に入る。

 横回りし、ガラ空きの横腹から仕留めるつもりだ。

 

 

 それをマクレーンは勘付き、床に倒れ込んで二人に向けて照準を合わせる。

 一人に撃ち、次にもう一人に狙いを変えて撃ち、まだ立っていられている最初の一人にもう一回撃ち込んだ。

 

 

「フゥーーッ!! トマト祭りだーーッ!!」

 

 

 彼の叫びを聞いた構成員が、壁に隠れながらぼやく。

 

 

「あの親父……! とことんイタリアを理解していねぇ……!」

 

 

 隣で撃っていた仲間が、頭部に銃弾を食らって絶命。

 それをほぼ合図に、壁から身を出す。

 

 

 

 

トマト祭り(トマッティーナ)はスペインの祭りだボケェッ!!」

 

 

 彼の放った怒りの銃弾は、マクレーンの隠れていたソファを貫いた。

 そろそろ遮蔽物にするには限界なほど、破壊されてしまったようだ。

 

 

「うぅ!? やべぇ!?」

 

 

 その一発を境に、数多の弾丸を撃ち込まれたソファはバキバキ音を立てて破損。

 危険だと判断したマクレーンは、部屋の奥へと走る。

 

 

 途中、横回りした構成員らをベレッタで狙い撃つ。

 二人を倒して牽制しつつ、新たな遮蔽物を目指す。

 

 

「ふぅうう死んじゃう死んじゃう死ぬ死ぬ……!!」

 

 

 アロハシャツをボロボロに汚しながら、奥にあった机の裏に隠れる。

 その後ろは、裏口の方面を向く壁だ。

 

 壁に付いた窓の下で、マクレーンはベレッタの弾倉を入れ替えた。

 

 

「あークソッ! 何度も言うが、珍しく俺は平和に行こうとしたぞッ!?」

 

 

 容赦なく浴びせられる銃弾。

 壁や窓を破壊し、それらの破片がマクレーンに降り注ぐ。

 

 

「クソッタレ……! 慣れたモンだ……!」

 

 

 どうにか窓から飛び降りれないかと、無惨に割られた窓より下を覗く。

 勿論、ベレッタを撃って牽制しながらの行動だ。

 

 

 確認をして、僅かに首を振った。

 下にクッションもなければ、骨を折るで済まないほどの高さだ。

 

 飛び降りは諦めようかと決めて、前に向き直ろうとする。

 

 

 

「…………あ?」

 

 

 しかし、気になるものが目に付いた。

 飛んで来る銃弾に気を付けながら、サッとそれらを視認する。

 

 

「あんな車、さっきまで無かったぞ」

 

 

 大きなバンと、黒塗りの車が一台。

 

 その、黒い車を視認した時にマクレーンは目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 今朝の記憶が蘇る。

 

 

「また会いたいな。お仕事が終わったらどこまでも追っかけようよ、姉様」

 

「ええ、兄様。絶対にまた会いましょ」

 

「心臓を見てみたい」

 

「どんな脳をしているのかしら」

 

 

 双子が交わし合う狂った会話に戦慄しながらも、二人の乗り込んだ車を確認していた。

 マクレーンはしゃがみ込み、隠れている車の下からナンバープレートを覗く。

 

 

「……ナンバーは覚えたぞ……ありゃ、日本車のセダンか? 良いモン乗りやがって」

 

 

 刑事であるマクレーンが、車種とナンバーを確認出来ない訳がなかった。

 

 彼は意図して、バラライカにこの情報を漏らさずにいた。

 

 この時から既にマクレーンは、誰よりも先に双子を追おうと決意していたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、階下に停まっている車こそ、その日本車のセダン。

 偶然とは思えなかった。

 

 マクレーンはサァッと、血の気が引く思いをする。

 

 

 

 

「……来やがった」

 

 

 

 

 姦しい銃声に掻き消された、慎ましいドアの開閉音。

 

 

「クソッタレッ!! この、ドグサレのアメポリがぁぁーーッ!!」

 

 

 罵声を吐きながら銃を撃ち続けるヴェロッキオ。

 あまりに興奮し、後ろの状態を気付けずにいた。

 

 

 背後に控えていた構成員が、膝から崩れ落ちる。

 その死体はヴェロッキオの足元に転がった。

 

 

「…………あ?」

 

 

 頭を割られて、死んでいた。

 

 

 ヴェロッキオはやっと察したが、遅い。

 振り返った先に、ソレはいた。

 

 

 

 

「二人で話し合って決めたんだ」

 

 

 血濡れの斧をぶら下げたヘンゼル。

 

 

「最初はマカロニから、ね?」

 

 

 重厚なライフルを構えたグレーテル。

 

 

 

 

「「────さよなら(ラ・レヴェデレ)♪」」

 

 

 銃口は、自分に向けられている。

 

 

 

 

「……クソッタレ(ヴァッファンクーロ)

 

 

 

 

 対応するには、遅過ぎた。

 グレーテルは躊躇なく、引き金を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バラライカらと入れ違いに、ベニーとダッチが事務所に入る。

 

 立ち尽くしたままのロックに対し、ベニーは話しかけた。

 

 

「無事なようだね。君がジョン・マクレーンに入れ込んでいるのは知っていたけど、まさか組んでいたなんて」

 

「……別に、俺が誰とツルもうが勝手じゃないか」

 

「そうじゃねぇロック」

 

 

 ダッチが前に立ちはだかる。

 口調はいつもの通りだが、言葉遣いに荒々しさが宿っていた。

 

 

「てめぇが誰とツルもうがシケこもうが勝手だ。女とパナマへ駆け落ちしようが、俺は何も言わねぇ。だがな、てめぇは『クライアント』を売ったな?」

 

 

 息を吸い込み、目を伏せた。

 勘の良いダッチの事だ。今朝の荷物の受け渡しの時にロックがいた事を、偶然と捉えていないようだ。

 

 

「朝早くジョン・マクレーンと警察署から出て、夕方にローワンの店に行くまで何もしてねぇ訳がねぇだろ。それとも二人仲良く海岸でハイキングしてたか?」

 

「………………」

 

「その間に何かやって、ビデオとやらに辿り着いたんだろ。んなら、荷物を受け取りに来たイタリア人に対応してたてめぇが何もしてねぇ訳もねぇ」

 

「………ダッチ、すまな──」

 

 

 彼の拳が、ロックの顔面にぶつけられる。

 鼻先からやられた為、間抜けな鼻血を滴らせながら床に倒れた。

 

 

「日本人らしい安っぽい『あいむ、そぉ〜りぃ〜』が聞こえた気がしたな。まさかてめぇが言ったんじゃねぇよな、ロック?」

 

「ぐふ……!」

 

「良いか、よく聞け」

 

 

 ダッチはしゃがみ込み、彼の髪を掴んで引き寄せた。

 目と目を無理やり合わせ、囁くような声で続ける。

 

 

「ここはてめぇのいた日本と違う。サシミもサラリーマンもねぇし、銃も持ち放題で、気に食わねぇ奴は撃ち放題だ」

 

「………………」

 

「だがな、パーフェクトな自由なんかじゃねぇ。『人間』がいる以上はどこも変わんねぇんだ。やり方が違うだけで、赤ん坊だろうが寝た切りの老人だろうが『信頼』を求めてる。賢いてめぇなら分かるな?」

 

 

 髪から手を離し、彼の首を楽にさせてやる。

 

 

「金だろうが仕事だろうが、全部は信頼の一言で括れる。自由の中でも、そいつだけは手放せねぇよな。今回の件でヴェロッキオらはおしめぇだろうが、それでももしてめぇのした事が漏れたらどうなる? 俺らの信頼は? 金は? 仕事は? 自由は? え? 危うくパーになるところだ、そうだろ?」

 

 

 彼の言う通りだ。

 ロックは謝罪もせず、何も言わず、首肯してみせる。

 ダッチにとっては、それで溜飲は下げられたようだった。

 

 

「相手がどうとか、どうなるかじゃねぇ。売った事実は変わらねぇし、ウチのクライアントは後ろめたい奴らしかいねぇ。売られて不都合なモンばかりだ。足りねぇ二セントを貸してやるようなお気楽感でされちゃあ、困るんだ。分かったな?」

 

 

 それだけ言い残し、ダッチはのっそりと立ち上がった。

 倒れたままのロックに手を貸す事なく、踵を返す。

 

 

「言っても、てめぇには何度か助けられてんのも事実だ。この話は今後一切しねぇって事で、チャラにするぜ。仲良くしてぇんなら、ジョン・マクレーンとツルんでな」

 

「……助かるよ」

 

「ただ、俺は一度言った事はもう言いたくねぇ主義でな。今日と同じデジャブを感じたら、鼻を殴るで済むかは分からねぇ。ベーブ・ルース超えの一発をお見舞いするかもな」

 

 

 事務所を出て行く。その背中をただ、呆然と見ているだけだった。

 

 暫くして、ベニーが彼を起こしてやる。

 

 

「大丈夫かい?」

 

「……初対面で既に、ダッチに殴られているんだ。慣れたもんさ」

 

「あれだけやらかして、まだそう言えるのかい? ホントに豪胆なんだなぁ、君って」

 

 

 呆れながらも感心したように、彼は笑う。

 

 しかしその笑みも、一瞬だった。

 フラつきながら立ち上がるロックに、ベニーは突然耳打ちした。

 一転して、深刻な顔つき。

 

 

「……ところで、レヴィの件だ。かなり気が立っている」

 

「……あいつはどこにいる?」

 

「どっか行ったよ……それより、ダッチは許していたけど、本格的に彼女の前でマクレーンと歩かない方が良い」

 

「……そう言えばずっとあいつ、マクレーンさんを目の敵にしていたな。確かにあいつの嫌いな刑事だけど──」

 

「ロック、違う」

 

 

 ベニーは首を振る。

 

 

 

 

 

「……レヴィはここに来る以前に、『ジョン・マクレーンと会っていた』かもしれないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞き覚えのある、連続した射撃音が轟く。

 マクレーンは驚き、机から飛び出し部屋を横断するように逃げる。

 

 

 

 

 壁、ガラス、机、ソファ、そして人を貫いて薙ぎ払う、7.62mm弾。

 

 舞い散る破片と、吹き飛ぶように倒れる構成員らの姿は、今朝も見た光景だった。

 

 すぐ後ろを抜け、どんどんと背中に迫る弾丸を、紙一重で逃げ続けるマクレーン。

 

 

「うひぃいーー!?」

 

 

 堪らず、床に飛び込んだ。

 

 銃弾の嵐は自分の頭を抜けて行き、どこかへ行く。

 

 けたたましい轟音と、空気を切る音が場を一気に支配していた。

 

 

 

 

「てめぇら、なんで……!?」

 

 

 辛うじて生き残った構成員が、グレーテルに銃口を向ける。

 

 

 だが、自分の腹の前まで迫っていたヘンゼルに気付かない。

 

 ズバッと、両手に持った斧でばつ印を作ってあげた。

 

 

 臓物を晒し、男は絶命する。

 

 飛び散ったその血を、ヘンゼルは気持ち良さそうに浴びた。

 

 

 

「……はぁ。あぁ、これだけなんだ。僕たちが求めているものは」

 

 

 

 恍惚の表情のまま、チラリと横を向く。

 

 

「……お、おうっと……!?」

 

 

 隣室で、地面に伏せている男の姿。

 

 瞬間、彼の表情はパアッと明るくなる。

 

 

 

 

「……あぁ、姉様……!」

 

 

 彼に呼ばれ、グレーテルは引き金から指を離した。

 しかし既に、彼女も視認していた。破壊された隔壁から見える、同じ男の姿を。

 

 

「えぇ……兄様、見えているわ……!」

 

 

 二人の視線を感じ取った彼は、恐る恐る身を上げ始めた。

 グリグリと狂気で塗り潰されたような瞳を受けながら、固唾を呑む。

 

 

「これは運命なんだ。神様が引き合わしてくれたんだよ」

 

「まさかまた会えるなんて。もう会えないと思っていたわ」

 

 

 マクレーンはチラリと、横目で見る。

 少し走った所に、隣の部屋への扉があった。

 

 

「ねぇねぇ……マクレーンおじさん。あはっ、名前で呼んじゃった」

 

 

 呼び掛けながらこちらの部屋に入ろうとするヘンゼルに、応答はしない。

 

 覚悟はしていた事だが、双子を前にしたマクレーンは、やはり動揺してしまう。

 

 頭の中に、スナッフ・ビデオの映像がチラついて消えない。

 

 

「もうっ、駄目よ兄様。ステーキは最後だったでしょ?」

 

 

 グレーテルもBARを持ち上げながら、破壊された仕切りを抜けようとする。

 

 彼女は犬の散歩に使うリールを、手首に回していた。

 

 その先にある首輪に繋げられていたのは、両手を手錠で縛られたモレッティの姿。

 

 

「おい、てめぇら……!? 脅すだけじゃなかったのかよ!?」

 

 

 喚き散らすモレッティを無視し、双子は続けた。

 

 もうその目には、マクレーンしか映っていない。

 

 

 

「遊びのルールは変えるものさ」

 

「まぁ、それなら仕方ないわ」

 

「仕方ないよ。だってご馳走が目の前にあるんだ」

 

「まだまだ動けそうな羊さんが一匹」

 

「あぁ、姉様。僕もう我慢が出来ないよ」

 

「えぇ、兄様。私ももう平らげたくて仕方ないの」

 

 

 マクレーンは脳裏の映像を、振り払った。

 

 すぐ下に落としていたベレッタを掴み直し、走り出す。

 

 

 

 

 

「マクレーンおじさぁん」

 

 

 甘ったるい、グレーテルの声。

 

 

 

 

「遊ぼうよ」

 

 

 部屋に飛び込む、ヘンゼルの姿。

 

 

「あぁ、クソッ! クソッ! クソッ!!」

 

 

 ベレッタを構えるマクレーン。

 

 迫り来るヘンゼルは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「僕らを『いっぱい』にしてよっ!!」

 

 

 

 斧の刃先は、マクレーンの目の前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レヴィは、車の中にいた。

 そこは急いで捕まえた、知り合いの殺し屋の車だった。

 彼女の他に、行きずりの殺し屋二人も乗り込んでいる。

 

 更に後方には、もう一台の車も付いて来ていた。乗車している者は、言わずもがな。

 

 

「なぁ、レヴィ。その情報マジか?」

 

「あぁ。バラライカの姉御が言っていた。火元はヴェロッキオらだ」

 

「だとしても、このまま奴さんの所に行ったって仕方ねぇだろ。例の双子も来るとは限らねぇ……なぁ知ってっか? 懸賞金、五万から八万ドルに上がったってよぉ!」

 

 

 この話をすると喜ぶかと思っていたレヴィが、存外にクールだ。

 それを妙に思いながらも、男は運転を続ける。

 

 

 

「……双子がいたなら、双子も殺すぜ」

 

 

 ホルスターから、二挺のベレッタを抜き取った。

 

 

 

 

「……それよりもあの、『ダーティハリーもどき』をぶっ殺してやりてぇんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、ロアナプラ警察署。

 署長室のワトサップの元に、資料を持ったセーンサックの姿。

 

 

「見つけやしたぜ。何とか、システムの履歴ってのを掻き出してやったぜ」

 

「……どうだった」

 

 

 その資料とは、マクレーンが見つけていた物と同じデータだ。

 イタリア語で判読は出来ないが、イタリア語である事を確認したらもう必要はない。

 

 

「……恐らく、ヴェロッキオ・ファミリーか?」

 

「間違いねぇな。ここら辺、あのハリー・キャラハンごっこ野郎に感謝っすね」

 

「バラライカの奴め。マクレーンの事を教えてやったのに、返して来やがらねぇ。今に見てやがれ」

 

 

 ワトサップはやっと、重い腰を上げた。

 

 

「……事情聴取に行こうじゃねぇか。令状不要で、全現行犯だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、この瞬間。

 

 マクレーンらのいる戦場には、様々な勢力が向かいつつあった。

 

 殺し屋、警察、マフィア、遊撃隊(ヴィソトニキ)の分隊。

 

 双子を狙う者と、マクレーンを狙う者が大挙する。

 

 

 ロアナプラのお祭りは、とうとうハイボルテージを迎えようとしていた。

 

 

 

 ただ事務所で待つだけとなったロックは、タバコを吸いながら祈るのみ。

 

 

 

 

「……マクレーンさん。早く、『結論を出す』んだ……」

 

 

 時刻は既に────

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 20:20


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