DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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I'm Still Standing 2

 壁、窓、コンクリート、セラミック。

 あらゆる全てを破壊した一つの爆発は、黒煙と木材に着いた火を残して終わる。

 

 しかし、一瞬の爆発が終わったとしても、祭りは延長された。

 

 

「ビルが吹き飛んだのか!?」

 

「大尉は無事だッ! それより双子はまだ生きているッ!! 裏口を固めろッ!!」

 

 

 防弾仕様の車両をバリケードにし、裏通りから表通りに行ける唯一の道を塞ぐ。

 その車の後方より、AK74を所持した兵士たちが待ち構える。

 

 

 辺りは吹き飛び、崩落したビルによる土煙がもうもうと立ち込めていた。

 また爆発の影響で電線まで破壊され、街灯の明かりすら消失している状態だ。あまりに視界が悪い。

 

 兵士たちは目を凝らし、一方通行でしかない裏通りを封鎖する。

 通るとすれば、この道のみ。じっと、標的を待つ。

 

 

「狙撃班、そちらから何か見えないか」

 

 

 無線を使い、ビルの屋上より現場を俯瞰する狙撃班に情報を求めた。

 

 

 

「煙が酷い。まるで見えない──いや、待て!」

 

 

 その時、土煙の隙間を走り抜ける、大きな影を発見した。

 

 

「車だ! 白のバンがそっちに向かっている!」

 

 

 バンと言えば、双子が二階から飛び降りる為に使った物だ。

 間違いなく、操縦しているのはヘンゼルとグレーテル。

 

 

 

 しかし、報告を聞いたバラライカはきな臭さを感じていた。

 

 

「バン? 双子は別の車を使っていると聞いたが……」

 

 

 煙立ち込める通りを抜けようと、彼女もボリスや他の部下を引き連れ、裏通りの方へ向かっていた。

 

 その報告を聞いた上でバラライカはすぐに、兵士たちへ指令を飛ばす。

 

 

 

 

「……総員、すぐに退避しろッ!」

 

 

 

 彼女の妙な命令に、兵士たちは多少の動揺を抱いたものの、すぐに従い裏通りから車を残して退避する。

 

 

「退避! 退避ーーッ!!」

 

 

 兵士たちが去った直後、煙から一台のバンが現れる。

 十キロほどのスピードだ。中途半端な速度で進むバンは、裏通りを塞ぐ車に衝突。

 

 

 

 

 

 バラライカの勘は的中だ。

 バンは車と衝突し、ワンテンポ置いた後に爆発する。

 車内には、残りのC4が詰められていたようだ。

 

 

 いかに防弾仕様の車と言えど、大量の爆弾には敵わない。

 

 車体を剥がされ、ガソリンに火が付き、爆発しながら宙を舞った。

 

 固めた裏通りは、結局ガラ空きとなる。

 

 

 

 そこを突っ切るように現れたのは、黒のセダン。

 

 双子が乗っていた車は、そっちの方だった。

 

 

「双子だッ!! 撃てッ!! 撃てッ!!」

 

 

 兵士たちは車に向け、一斉射撃を行う。

 しかしセダンは、破壊した車の残骸を跳ね飛ばして、彼らを牽制。

 

 その隙に急カーブをかけ、表通りに出てしまった。

 

 

「駄目だ、食い止められないッ!! 車両班を回してくれッ!!」

 

 

 ビルの爆発による余波から立ち直った、DShkを積ませたトラックが走り出す。

 しかしそれを邪魔するように、ロアナプラ署のパトカーが一斉に立ち塞がる。

 

 

「残念だったなぁ、バラライカ。八万ドルは俺らのモンになるな」

 

 

 ワトサップはバラライカにそれだけ告げ、自身も他の車両と共に追跡を開始。

 

 道路には取り残されたバラライカと、ボリスだけ。

 

 

 

 

「……大尉。これから、どうしますか?」

 

 

 ボリスの問い掛けに、彼女は眉間を押さえながら、思案を巡らせる。

 無線機を口元に近付け、現場の全員に指令を送った。

 

 

「車両班はそのまま追跡。狙撃班、誘導班はやむを得ない、退却だ……同志軍曹、張らに連絡を。あの方角なら、三合会の事務所がある。標的の足止めが出来るかもしれん」

 

 

 予想外かつ、作戦は失敗となったにも関わらず、バラライカは一切取り乱す事はしなかった。

 そのまま指令を伝え、無線機を切り、息を吹く。

 

 

 

 張への連絡を頼まれたボリスは、その場を少し離れる。

 近くに兵士たちがいるとは言え、少しの間一人だ。

 

 

「……久しぶりだな。こんなに上手く行かなかったのは」

 

 

 懐からタバコを取り出し、口に咥え、ライターで火を灯す。

 

 傍らで燻り続けるビルの残骸を横目に、疲れたように紫煙を吐いた。

 

 

 

 

 その時、背後で何かが落ちる音が聞こえた。

 

 クルリと振り返れば、警察官を満載していたバスが見えた。

 今は乗っていた警官は現場に立ち会っている為、もぬけの殻となっている。

 

 

 

 そのバスの上から飛び降りた、二人の人物。

 

 血と埃で汚れ、ヨタヨタのボロボロになった服装の、怪我まみれの男たち。

 

 

 飛び降りたと同時に彼らは、アスファルト上にコテンッと倒れた。

 

 

「あぁ〜……ッ! どうなってんだぁ、こりゃぁよぉ……生きてるぜ。なぁ、生きてるよなぁ?」

 

「俺、もう、無理だ……動け、ねぇ…………ひぃっ」

 

「お〜お〜、休んでろぉ……うぇっとぉ……!!」

 

 

 一方はどうやら、気絶してしまったらしい。

 

 だがもう一方はすぐに、呻き声を上げながらフラフラと立ち上がってみせた。

 

 

 

「……本当に生きているとはな……ジョン・マクレーン……」

 

 

 さすがのバラライカと言えども、彼の存在には驚いたらしい。

 目を開き、一瞬だけ身体が固まっていた。だが微かに、口角は上がっている。

 

 

 彼女と目が合う、マクレーン。

 対して彼が見せた表情は、余裕のない笑みだった。

 

 

「そっちに行くって言ったのによぉ! そっちから来るたぁ、良い心掛けじゃねぇかぁ!?」

 

 

 勝ち誇ったように叫ぶマクレーンだったが、すぐに表情は真剣なものとなる。

 

 彼は辺りを見渡した時に、乗り捨てられた警察用のバイクに目を付けた。

 

 

 フラフラと右足を引き摺りがちに走り、そのバイクを起こすと、すぐにギアを入れる。

 彼もまた、双子を追うつもりだ。

 

 

 

 

「ジョン・マクレーン!」

 

 

 バラライカはタバコを捨て、即座に彼へ呼びかける。

 マクレーンはエンジンを蒸かしながら、顔を上げた。

 

 

「何がお前を駆り立てるッ! お前は何をしたいッ!」

 

 

 舞い上がる炎を横目に、問い掛けは続く。

 

 

「選民的な偽善を振り回すのかッ! 薄汚れたハンターどもになるのかッ!」

 

「………………」

 

「二つに一つだッ! 正義など存在しないぞッ! ジョン・マクレーンッ!」

 

 

 彼女の問い掛けに、マクレーンは応じなかった。

 

 アクセルを踏み、バイクで走り出す。

 

 

 

 バラライカとすれ違い、遠目に見えるパトカーの集団の方へ行ってしまった。

 

 

 残された彼女は振り返る事もせず、薄笑いを浮かべながらぽつりと呟くだけ。

 

 

 

 

「……なるほど。自分でも分かっちゃいないまま追うんだな。本当にとんだ奴だ」

 

 

 ふと足元を、見下ろした。

 

 

 

 火の粉が散る中。

 そこには焼け焦げ、頭だけとなった、大きめの人形が落ちていた。

 

 暫し、それを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 双子の乗った車を追跡する、ロアナプラ警察。

 十台を超えるパトカーを引き連れ、夜道を盛大なエンジン音と共に突き進む。

 

 

「街からは逃げられねぇぞ。ロアナプラの周囲には、ハイエナがウヨウヨだ」

 

 

 ワトサップは助手席に座りながら、獲物を追い詰めるハンターのような気分で笑う。

 

 運転するセーンサックもまた、そんな表情だった。

 バックミラーを覗くまでは。

 

 

「……大尉。俺ぁ、信じらんねぇもんを見ちまったんすが」

 

「あ? どうした中尉?」

 

「……窓から顔出して、後ろ見てくだせぇ」

 

 

 言われるがままに車窓を開き、風で帽子が飛ばないよう押さえながら後ろを見る。

 

 数多のパトカーが大挙していた。

 だがその横を抜けるように、猛スピードでどんどんと近付いて来る一台のバイクに気付く。

 

 

「ウチの署で配備しているバイクじゃねぇか…………いや待て。おい、嘘だろ!?」

 

 

 バイクは早々に、ワトサップらの車両の横まで到達する。

 

 上半身を前屈みにさせ、鬼の形相で前を見据えるドライバーの男。

 やけにボロボロの姿だが、間違いなくマクレーンだった。

 

 

「ジョン・マクレーン!?」

 

「おーう、ワトサップよぉ! タヌキな見た目の癖に、ハイエナ気取りかぁ!?」

 

「うるせぇ! 何があったか知らんが、そんな終盤のランボーみてぇな怪我じゃ双子に敵わねぇぞ! とっとと失せろッ!」

 

「ハッハッハッ!! 俺の今の目的は双子じゃねぇんだ!」

 

「なに!? んじゃあ、なんだ!?」

 

「良い子に、少し早めのクリスマスプレゼントって訳だぁ!」

 

 

 マクレーンは不敵な笑みを浮かべたまま、ジーンズの隙間から左手で何か取り出した。

 

 その何かを見たワトサップは、愕然とする。

 

 

 

 

「しぃ〜んふぃ〜♪ は〜びん♪ わんだほクリスマスタぁ〜イム♪」

 

 

 

 

 取り出した物は、ペンキで色を塗られた、三つの手榴弾。

 

 モレッティに着せられていた物を、拝借して来たようだ。

 

 

 手榴弾に気付いたワトサップは、大慌てでセーンサックに命じる。

 

 

「グレネードだぁッ!? おいおいセーンサックッ! こいつから離れろッ!?」

 

「道が他の車でギュウギュウ詰めなんですッ!!」

 

「停めろッ!?」

 

「馬鹿言わんでくだせぇッ!! 後ろに追突されるぞッ!!」

 

 

 車内で揉めている隙に、マクレーンは更に加速しパトカー群の前へ躍り出る。

 

 

 そのまま、ピンを抜いた手榴弾を、一個一個辺りに投げてやった。

 

 

「爆破より追突の方がマシだろッ!?」

 

「クソッタレ……! ボーナス貰えるんすよねぇ!?」

 

 

 ワトサップとセーンサックは着用していなかったシートベルトを締め、すぐに急ブレーキ。

 

 

 反応出来なかった後続車が、まんまとバックより衝突する。

 合わせて更にその後続車が、そのまた後続車がと、酷い有り様だ。

 

 一瞬で道路は、走行不能になったパトカーで埋め尽くされた。

 

 

 

 そんな折に起爆する、三つの手榴弾。

 

 発生した爆発で吹き飛ばされた車は無かった。

 しかし一つがヤシの木の根元で起爆し、ポキリと折れたそれが道路へ倒れる。

 

 

 上手い具合に、折れた木が最前列のパトカーの上にのしかかる。

 そのまま道路を塞いでしまった。

 

 

 

 

 間抜けな警察たちを見ながら、マクレーンはしてやったり顔で笑う。

 

 

「へへっ。ざまぁ見やがれってんだ、クソポリどもぉ!」

 

 

 すぐに前へ向き直り、双子の車を追い続ける。

 

 

 

 

 

 

 マクレーンの妨害で追跡不能にされた、ワトサップとセーンサック。

 エアバッグに顔を埋めながら、ごもごもと喋る。

 

 

「……アメポリめ……何を考えてんだアイツ」

 

「イカれ野郎の頭を推察したって意味ねぇっすよ、イカれてんだから。クソッタレが」

 

 

 同時にエアバッグから身体を上げ、天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 邪魔者を消したマクレーンは、一人双子のセダンを追い続ける。

 

 車間距離はかなり離れてはいるが、すぐに付けられるだけだ。

 

 

「市内に戻ったら、他のハンターの餌食だぞ。どこ行く気だ?」

 

 

 車は街に向かわず、ある三叉路にて北の方へハンドルを切った。

 街外れへ行こうとしている。

 

 

 

 ロアナプラは既に、双子を狙うフリーの殺し屋たちによる包囲網が出来ている。

 

 陸ではまず、抜ける隙はない。仮に街から出たとしても、次はタイから出られないだろう。

 

 

 それなら街にまだ、留まるつもりなのだろうか。

 だとすれば、どこへ行くのか。

 

 

 

 

「…………おい、どうした。スピードが出ねぇぞ」

 

 

 既にここは、街灯の少ない、殺風景な道路。

 聞こえるのは自分のバイクの走行音と、双子の車のエンジン音。

 

 

 しかし段々と、そのエンジン音の方が遠去かって行く。

 

 

「おい……俺が後ろにいんだぞ……気付いて、停まりやがれ……」

 

 

 ここは街灯が少ない。

 距離もなかなか離れている為、マクレーンだと気付かれていないのだろうか。

 

 

「なぁどうした…………ガソリンはまだ、あるぞ………………」

 

 

 速度がどんどんと落ち、とうとう遅鈍としたものとなる。

 

 

 エンジントラブルか、アクセルの故障か。

 だが自身の手を眺めてすぐにマクレーンは、機械的なものではないと気付く。

 

 

 原因は、自分だ。

 

 手足がブルブルと震え、力が抜けて行く。

 

 思えば視界も、霞んでいた。

 

 

 身体が限界を迎えたようだ。

 

 

「嘘だろおい……うぉおッ!?」

 

 

 体重すら支えられなくなっている。

 マクレーンのバイクは横転し、路上に彼は放り出されてしまった。

 

 

「あ、イッテェ〜…………うぅっぐう…………クソ……クソ、クソ……ッ……!」

 

 

 地面を這い、それでも前を向く。

 

 

 視界が霞んでいるせいではない。

 双子の車はもう、見えなくなっていた。

 

 

「クソッ、クソッ……」

 

 

 身体を駆動させていた腕さえ、力がなくなる。

 

 再び頭を、アスファルトに擦る。

 肘までは立てられたが、曲げてから伸ばすまでが出来なかった。

 

 

 限界だ。

 

 

「…………チクショぉ……ッ!!」

 

 

 視界が暗がりに落ち、思考も回らなくなった。

 

 

 

 マクレーンは、自身が気付くよりも先に、気絶した。

 

 悔しさを滲ませるように、両手を握り締めながら。

 

 

 

 

 

 

 暫くして、倒れた彼の近くに、通りかかった車が停まる。

 

 ヘッドライトがマクレーンを無様に照らし、その様を運転席より眺めていた。

 

 

 運転手は少しだけ考え込む仕草を取った後、勢い良くドアを開けた。

 

 

「……まーさか、こんな感じで初対面とは」

 

 

 楽しげに首を振りながら、かけていたサングラスをを弄りつつマクレーンに近寄る。

 

 

 金髪をはためかせた、涼しげな格好の白人女性だった。

 

 右腕には、十字架のタトゥーが彫り込まれている。

 

 

「おぉーい、おっさん。生きてるかー?」

 

「………………」

 

「死んでるなこりゃ」

 

 

 死んではいない。彼女なりの、聞き手のいないジョークだ。

 しゃがみ込み、遊ぶように彼の頭をコンコンと叩く。

 

 そしてまた立ち上がった彼女は、溜め息と共にマルボロの紙箱を取り出した。

 

 

 一本、開け口から口で咥え出し、火を付ける。

 

 考え事をする時に一服するのは、スモーカーの普遍的な癖だ。

 

 

「…………いいや。助けてやるか」

 

 

 タバコを咥えたまま、倒れたマクレーンの元に再度近付き、肩を担いで抱き起こす。

 

 

「だーッ! 重い!! 脂肪か筋肉か分かんねぇよ!!」

 

 

 ゼイゼイ言いながら、何とかマクレーンを後部座席に寝かせた。

 息を乱しながらも、打撲と擦り傷だらけの彼の姿を俯瞰し、また笑う。

 

 

 

 

「本国の英雄様だ。ぞんざいに扱りゃ、主もお冠だわ」

 

 

 ドアに手をかける。

 

 

「雄飛した地球の裏側で死ぬンは、本意じゃないだろ。立ち上がって貰わにゃ」

 

 

 そしてドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 23:01

 

 

 事務所にいてから、もう三時間経つ。

 ロックは山積みになった吸い殻を見下げながら、最後の一本をその中に押し込む。

 

 

「……終わったのか?」

 

 

 時間的にも、決着がついた頃だろう。

 ほとぼりが冷めた後に、と考えると少し罪悪感が出てくるが、ロックは現場に行ってみようと思い立つ。

 

 

 事務所の出入り口に手をかけた。

 

 だが扉は自動で、勝手に開く。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 その向こうに立っていた人物を見て、冷や汗が流れてしまった。

 

 

 レヴィだ。

 

 怒っているとも楽しんでいるとも違う、暗い目をした彼女が立っていた。

 

 

「……おう、ロック」

 

「レヴィ……その、さっきは」

 

「もうさっきのは良い。解決した」

 

「……なんだって?」

 

 

 やけに疲れ切った表情だ。

 彼女がロックの隣を抜けた時に、微かに硝煙の匂いがした。

 

 誰かと撃ち合って来たのか。

 即座に嫌な予感がした。

 

 

「……お前もしかして、行ったのか?」

 

「…………ホントに勘が良いよなぁ、おめぇ」

 

「行って来たんだな!? ヴェロッキオらの事務所に!?」

 

 

 レヴィはグタリと、さっきまでロックが座っていたソファに寝そべる。

 

 彼女は騒動の帰りらしい。

 まさかと、嘘だろが頭の中に羅列され、思わず奥歯を噛み締めていた。

 

 

「ど、どうなった……!?」

 

 

 やっと吐けた質問は、事後について。

 過程を聞くのが、怖かったからだ。

 

 

 

 

「……先に言っておくぜ、ロック」

 

 

 レヴィは目を腕で隠し、明かりから逃げようとする。

 そのまま気怠そうに話しかけた。

 

 

「……あたしは、おめぇを気に入ってんだ。こっち側に来た、てめぇをな」

 

「いきなり、なんだよ……」

 

「……さぁな。酒が残って、怪気炎とやらが上がったのかもしんねぇ。でもまぁ、聞いてくれ。あたしはてめぇを信頼してる方だ。まぁ、撃ち合いで背中は任せたくねぇが、おめぇの言う事は正しいと信じてる」

 

 

 ポケットを弄り、舌打ちをする。

 タバコが切れていたようだ。

 

 

「……だからな、ムカつくんだ。いきなりコソコソと、あたしが今一番殺したかった奴とツルんでた事にな。しかもあたしが持って来たルガーも渡してんだからな」

 

 

 今のレヴィの発言で、確信に至る。

 彼女が、自分がマクレーンに「ルガーを渡した事は知らない」ハズだ。

 

 つまり、マクレーンに会って来た証拠だ。

 

 ロックはズドンと、撃たれたかのように打ちのめされる。

 

 

「…………質問に答えろよ。どうなった?」

 

「お前はちと、あいつへの憧れが強過ぎただけだよな。もう、こっち側なんだよな」

 

「答えろよレヴィッ!!」

 

「吹き飛んだよ」

 

 

 あっさり、言った。

 

 

「仕留められないまま、ビルと一緒にKABOOM(ドッカーン)。温め過ぎたブリトーより、悲惨な事になってんだろな。まぁ寧ろ、あたしが行くまで生きていたってのが運の尽きだったんだ」

 

 

 狼狽し、目を見開くロック。

 

 そのままフラフラと、ヘタリ込むように床に座った。

 

 

「……あぁ、クソッ!……俺が、マクレーンさんを誘わなきゃこんな事には……!」

 

「会っても会わなくても変わんねぇよ。結局、あいつも死ぬか、双子だけが死ぬかだったんだ」

 

「………………」

 

「あたしの弾が一発も当たらなかったのが地味にショックだわ。あー、クソ。ドタマぶち込んで殺したかったぜ。八万ドルも逃しちまうしよ……まぁ、街からは出られねぇんだ。親殺した時点で、デッド・エンド確定なんだよ」

 

 

 暫し、嘆きに入っていた。

 だが途端に、ベニーの言葉を思い出し、ふと質問をする。

 

 

「……なぁ、レヴィ」

 

「あん?」

 

 

 腕の隙間から覗かせた、彼女の目と目が合う。

 

 

「……お前、マクレーンさんと会った事あるのか? ここに来る以前に……」

 

 

 レヴィはまた、目を腕で隠す。

 まだそこまで、答える気はないようだ。

 

 問い詰めても仕方ない。彼女の頑固な性格を、ロックは良く知っている。

 

 

「…………もう良いよ」

 

 

 ロックはフラリと立ち上がり、事務所から出ようとする。

 背後からレヴィが、呼び止めた。

 

 

「どこ行くんだ?」

 

「……タバコを買いに。まだギリギリ、店は開いてるだろ」

 

「ならあたしのも頼むわ」

 

 

 空になった、ラッキーストライクの箱を投げ付ける。

 ポトリと、ロックの足元に落ちた。

 

 

「あたしはもう立てねぇ、疲れた」

 

 

 それだけ言い残し、何も喋らなくなる。

 眠ったのか、思慮に耽っているのかは分からない。

 

 

「…………運の尽き、か」

 

 

 事務所から再度、出ようとする。

 

 

 レヴィには迷惑をかけた事もまた事実だ。

 タバコを買って来てやろうと、振り返って彼女の投げた箱を見た。

 

 

 

 

 

 ラッキーストライクのソフト。

 

 その紙箱を見た時に、ふっと思い出した。

 

 

「…………レヴィ、すまない。今日は戻って来れそうにない」

 

 

 扉を閉め、外に出る。

 しっかりとした足取りで、車に乗った。

 

 

 行き先は決まっている。

 そして彼もまた、運に縋る事にした。

 

 

「……お前が俺を信じるように、俺もまた信じてみるよ」

 

 

 エンジンをかける。

 

 

 

 

「……ジョン・マクレーンは、くたばりやしない。結論を聞きたいんだ」

 

 

 

 

 深夜へと向かおうとする、ロアナプラ。

 ロックはどこかへ走り出した。




残り5話の予定です
広江先生の真似しますけど、ついてきてください

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