DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread. 作:明暮10番
The Right City
『Life Is for Living』
『Life Is for Living』
『fe Is for Living』
『fe for Living』
『fe f Living』
『fe f in』
『CA fe f in』
『Caffe inE』
『Caffeine』
通り過ぎた人の顔も、たった一秒で忘れてしまうような雑踏。
ビルに付いた大型ビジョンが、アーティストや新作映画の紹介を延々流し続けている。
街の真ん中。
広告板が高みの見物をする、交差点の一角。
「……あぁ。お元気ですか、マクレーンさん」
そこに立てられた、少し汚れた電話ボックス。
通話者を囲むプラスチックの仕切りには、下品なシールがベタベタに貼り付けられていた。
「おぉ〜。オカジマかぁ?」
下宿屋に備え付けられた電話から受ける、マクレーン。
外を覗けば、変わらないロアナプラの昼下がりだ。
「二週間ほど、『里帰り』だってなぁ。バオから聞いたよ」
「イエロー・フラッグへの出禁、解除になったんですね」
「あぁ。ほら、この間の一件でよぉ。
「あの時はお世話になりましたよ」
「良いってこった……まぁ。CIAとの顔合わせは叶わなかったがなぁ」
ロックは困ったように笑い、仕切りに凭れた。
「またロアナプラに帰った時に、ちゃんとしたお礼をさせてください」
「いらねぇよぉ。てめぇには、三ヶ月前のデカい借りがある……おかげで双子を逃がせた」
「アレはマクレーンさんの腕あってのものでしたよ」
「いや。俺のワガママだ。付き合わしちまったしな。帰ったら俺の下宿に来い。朝まで飲むぞぉ?」
「あはは……お手柔らかに」
ロックは空を見上げる。
今日の空は、曇天。
街はどこか暗く、褪せているように見えた。
「……そういや、故郷だってな。折角の里帰りってのに、バラライカのお守り役とはなぁ」
「………………」
「……故郷なんだよな?」
辺りにある看板、標識、言語、光景。
全て、ロックにとって馴染みのある「日本」の街並みだった。
ここは新宿。
つまり東京。
ロックが────岡島禄郎が生まれ育った国で、その街。
マクレーンは電話越しで、窓辺に腰を下ろし、タバコを咥えた。
表情には何か、厳しさも混じっている。
「……こんな街にいんだ。どうせ、親御さんにはロクに話さず、居着いてんだろ」
「………………」
「……これからもこんな肥溜めにいるってんなら……会っとけ。俺はおめぇの親じゃねぇが……息子がどうなってんのか心配する程度の、父親の自覚はあるもんだ。だからてめぇの親の気持ちはまぁ、分かる」
電話ボックスの中で、ロックはぼんやりと虚空を見つめる。
ふと、昔の思い出がよぎったかのようだ。
「……まぁ。てめぇの自由か。悪いなぁ。説教臭くなった」
「いえ。大丈夫ですよ」
「そうか。まぁ、俺ぁそっちに行けねぇけどよぉ。何かありゃ、また連絡しろ。コレクトコールの代金も、ホテル・モスクワ持ちだろぉ? ガンガン使いまくって、酒好きのロシアンどもを医療用アルコールしか買えねぇにしてやろうぜぇ」
彼のジョークに、ロックは苦笑いをまず浮かべた。
次はマクレーンの陽気な笑い声に釣られるように、身体を震わし笑う。
少しの間を置き、ロックは突然マクレーンへ質問をする。
「……ずっと、聞こうかなって思っていたんです」
思い返したのは、三ヶ月前の事件。
ロアナプラを騒がし、結局誰もが取り逃がすと言う滑稽な幕切れを飾った、カーニバル。
ヘンゼルとグレーテルの事件だ。
「あの二人は、恐らく殺しをやめられないハズです……それは、例のビデオを見た時に、マクレーンさんも仰っていましたね」
「………………まぁな」
「街から逃がしても、また誰かを殺します。でも実は、双子が逃げる手はずを整えている時に、二人が言っていたんですが……」
「……なんと?」
「……『約束したから、殺さない』……そしてまた、マクレーンさんに会うって」
咥えていたタバコに火を着けるべく近付けたライターを、止めた。
「あの二人が殺しをやめるなんて、よっぽどの事を約束しなきゃ無理ですよね」
「………………」
「……ずっと、引っかかっていたんです。なんて、約束したんですか?」
止めたライターをようやく動かした。
しかしタバコに火を着ける為ではなく、蓋を閉めて火を消す為。
「…………なぁ、オカジマ」
「え?」
マクレーンから発せられたのは返答ではなく、切ない問い掛けだった。
「……あの二人と俺は、また会えると思うか? そんでその時には、あの子らは…………」
「普通の人間となっているのだろうか」
そう言いかけた口を、閉じた。
「……マクレーンさん?」
「……いや。何でもねぇ……あの子らは変わらねぇよな。俺だってそうだ……その時が来たら、まずはご褒美をだな」
「…………あの……」
「すまねぇ、オカジマ。約束については、おめぇには言えねぇ。ただ、俺は納得して、二人も納得してくれた。それだけだ」
それっきり、二人は暫し、黙ってしまった。
電話ボックスの仕切りに、何かがひらりと張り付く。
張り付いたそれは、水滴となった。
曇天の隙間より、雪が降る。
関東は今、寒空の下にあった。
「……こっちは、雪が降って来ましたよ」
「あぁ、そうか。北半球じゃ、冬だったか……ニューヨークも今頃、酷い雪だろうなぁ」
「……マクレーンさんも、帰れると良いですね」
ロックのその言葉に少し驚いた後、タバコを口から離して微笑んだ。
「……そうだな。帰ったらまた、家族に会ってみようと思っている……復縁は無理だろうが、せめて子どもたちと話しはしてみてぇ」
「……マクレーンさんは良いですね。帰る場所があって」
「お前にだってあるさ」
「僕は…………」
外からコンコンと、仕切りを叩く音。
振り返ると、レヴィが背を向けて立っていた。
彼女はロックの護衛と言う立ち位置で、一緒に来日していた。
ロアナプラでのいつもの服装とは違い、厚手のジャケットとニット帽、スカートと言う、熱帯のタイではまず見られないであろう服装だ。
「……そろそろ、時間みたいです。すいません、突然、電話しちゃって」
「気にすんな。この街でマトモに話せる奴は少ねぇ。そっちには行けねぇが、困ったら連絡しろ。アドバイスぐれぇはしてやるぜぇ」
「ははは……マクレーンさんが日本に来たら、今頃大騒ぎになっていたハズでしょうに」
「そんくれぇ人気なのか……」
「えぇ。大人気ですよ」
もう一言だけかけてから電話を切ろうと思い、電話機の前に立つ。
「……ほんと。マクレーンさんに、日本を案内したか────」
ガンッ。
ロックの眼前に、ボックスにへばり付く何者か。
悪夢に出そうな強面を、更に悪夢に出そうな形相に変化させている。
「──ヒィッ!?」
受話器を驚きから手放し、後ろへ飛び上がって背中をぶつける。
「ぐえっ!?」
その先にいたレヴィが衝撃で押されて、ずっこける。
無精髭の、薄禿げの男。
濃い顔付きと逞しい身体をした、恐らく外国人の男。
その男が、目を爛々と光らせ、仕切り越しにロックを睨む。
「──────ッ!!」
何かを叫んでいる。
言語は日本語ではなく、流暢な英語だった。
「まだかぁ!? 野郎がヒス女みてぇな長電話しやがってッ!! とっとと出やがれぇバぁカタレがぁッ!! クソォーーーーッ!!」
男は仕切りをガンガンと殴りりりりりりりりりりり
だだだだだだだだだだだだ
rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
宙をぶら下がる受話器から、マクレーンの声が響く。
『おぉーい!? オカジマぁ!? どうしたぁ!? 何があった!?』
当の本人はプラスチック板に張り付く変人を前に、萎縮していた。
「おふッ!?」
へばり付き凝視して来るその変人を、レヴィが横からぶん殴って倒した。
「てめぇ、誰だゴラァッ!?」
思い切り頰を殴られた男。
路上に転がり、通行人から驚きの声があがる。
レヴィは電話ボックス内のロックを守るかのように、立ち塞がった。
殴られた男は、今度は歩道にへばり付きながら、ヨロヨロと身体を起こす。
雪も降れば息も白くなる寒さの中だと言うのに、男はワイシャツとズボンだけだった。
「……カァ〜……ッ。女に殴られるたぁ……どうも駄目だぁ。ここは縁起が悪いッ!」
切った口元を拭いつつ、レヴィを一回睨み付けながら、彼は信号を無視して道路を走る。
「あぁ!? どこ行きやがんだぁッ!? 何がしたかったんだよぉッ!?」
「待って待ってレヴィ!? 喧嘩はダメッ!? 喧嘩はダメッ!?!?」
少なくない交通量の道路を、歩道のように走る男。
突然飛び出した彼に驚き、急ブレーキを踏むドライバーたち。
窓から顔を出し、男へ罵声を飛ばす。
「あぶねぇーだろぉーーッ!!」
「標識も読めねぇのかボケーーッ!!」
しかし日本語なので、男には分からない。
怒れるドライバーらを一瞥し、英語でぼやく。
「何言ってんだ? 英語で喋れ、日本人ども」
悪態つきながらま道路を駆ける男。
その道路に近付く、一台の高級車。
運転手の後ろで中年の男が、携帯電話で連絡を取っていた。
彼は日本人ではあったが、電話の向こうは海外らしい。英語で会話をしていた。
「……えぇ。事前に送りました計画書の通りに、輸出します……えぇ。核開発の────」
その車の前に飛び出した外国人。
急な出来事の為、ボンネットと男が軽く衝突してしまった。
「おごぅっ!?」
腰からぶつかり、バタンと倒れる男。
フロントガラスから、姿を消してしまった。
「ぶ、部長……! ひ、轢いてしまいました……!」
「……少々、失礼────今のはどう見ても、向こうの信号無視だ、我々に非はない。とりあえず介抱し、救急車を呼んでやれば問題は────」
後部座席のドアを開ける、轢かれたハズの外国人。
電話をしていた中年男はギョッと、飛び上がる。
「な、な、なんだね、君は!?」
とりあえず英語で話す中年男。
彼が英語を話せると気付くと、男は目を細めた。
「……やっと英語が分かる奴に当たったぜ。おいオッさん、電話中か?」
「み、見たら分かるだろ。早くどかなければ、警察に────」
「めんどくせぇ……ウシャァーーッ!!」
「うわ!? なにをする!?」
突然、男は車に飛び込んだ。
後続の車からクラクションを鳴らされながら、車は左右に大きく揺れる。
それを見たドライバーは、訝しげにぼやく。
「カーセックスか?」
次には物騒な破壊音と悲鳴が響き、窓が割れる。
ドライバーは思わず、生唾を飲む。
「…………激しいな」
瞬間、ボロボロになった中年男が、ドアから道路へ蹴飛ばされる。
そしてその後から、薄禿げで強面の外国人が出て来た。
ギロッと、こちらを睨む。
ドライバーは漏らす。
後続車は無視し、そのまま彼は中年男から携帯電話を強奪。
それを持って去ろうとする彼を、中年男は必死に這って食いつく。
「ま、待てッ! その電話だけは勘弁してく──」
頭を蹴って黙らせる。
道路を歩きながら、着信中の携帯電話を耳に当てた。
電話の向こうは、英語圏らしい。
『……ミスターカゲヤマ? どうした? 核開発の資材について、まだ──』
男は代わって、答えてあげた。
「うるせー。勝手に作ってろ。そんでそんまま、チェルノブイリかヒロシマになってろタコがぁ」
相手が絶句している内に、電話を切る。
次に彼は、コレクトコールの番号をかけた。
繋がった先は、ロサンゼルスのとある場所。
気の抜けた着信音を聞き、出張ヘルパーのマッサージを受けている男が、受話器に手を伸ばす。
「オーッ! アーッ! 最高だぁ……あー。なんて良い時に……はい? もしもしぃ?」
『コレクトコールです』
「コレクトコール? 一体、誰だぁ……」
発信者の名前を聞き、彼はマッサージはされたまますぐに、電話を繋いで貰った。
「おー。『チェリオス』か。久しぶりだ……アーッ!!」
「いきなり変な声を出すんじゃねぇッ!『ドク』ッ!!」
チェリオスと呼ばれた男は、通行人を押し退けながら道を走っていた。
小さな悲鳴が、ドクと呼ばれる男の耳にも入る。
「なんだぁ。人混みの中かぁ? コレクトコールでかけるなんて、一体どこにいる……オーッ!! 良いねぇ〜ッ!!」
「ドク。俺が今いる場所聞いて驚くなよ」
「別に君がどこにいようが驚か……おぅーーッ!!」
「マッサージやめろッ!! 話しにくいッ!!」
ドクはヘルパーを止めて、半裸姿のまま寝そべっていた手術台に腰掛ける。
「それでぇ? どこにいるかってぇ?」
「日本だ」
「……なにぃ? 黄金の国ジパングかぁ?」
「黄金の国だぁ?」
辺りを見渡す。
灰色のコンクリートジャングルだ。
「……どっからどう見てもコンクリの国だ」
「まぁ、それは良い。それでぇ、わざわざ日本から電話をかけているのはなぜだぃ?」
「つい五分前の事だが────ッ!?!?」
途端に、霞む視界。
痛む心臓。
不鮮明になる思考。
「チェリオス?」
鼓膜が固まった。
身体が動かなくなる。
「シェビ〜?」
呼吸がしづらくなる。
頭痛がする。
なのに身体の感覚が無くなって行く。
死ぬ、死ぬ、死ぬ。
死ぬ……死ぬ…………
「シェビ……オーーッ!! アーーーッッ!!!」
「おぅッ!?!?」
いきなり全身に鋭い痛み。
気が付けば自分は、地面に倒れていた。
顔を上げると、自分の他に倒れていた日本人と自転車。
どうやら、彼の操縦する自転車に轢かれたようだ。
「いつつつ……あの、大じょ────」
チェリオスはバッと立ち上がり、何事も無かったかのように走り出す。
彼の後ろ姿をポカーンと、眺めるしかなかった。
内心、驚いているのはチェリオスもだった。
轢かれて痛いのに、気分は妙に爽快だからだ。
さっきまでの不調が、嘘みたいに消えている。
「ノーーッ!! ウォーーンッ!! あッ!? そんなトコまでッ!?」
「マッサージやめろって言ってんだろッ!!」
「オゥ……まだ電話してたのかぁシェビー?」
「ずっと通話中だッ!!」
「突然、声がしなくなったんだ。切れたと思ったよぉ」
「あぁ……突然、頭がぼんやりして、胸が痛んだんだ。電話どころじゃなかった」
再びヘルパーを止めて、彼の症状を訝しむドク。
「病気か?」
「病気じゃねぇ……盛られたんだよぉッ!! クソヤクザに毒をッ!!」
「毒だとぉ?…………待て。確か今、日本だと言ったなぁ? 場所は東京か?」
チェリオスは走りながら、辺りを見渡す。
看板にある英語表記に、「TOKYO」の文字がある事を確認した。
「あぁ、東京だ! 良く分かったな!」
「……なるほど。それで聞くが、今はどんな感じだ?」
「あーー……タールの海を泳いでいるみてぇに、身体がやたら重い!」
「目は霞むか?」
「あぁ!」
「心臓の痛みは?」
「少し!」
「さっき頭がぼんやりだの言っていたがぁ、どうやって症状を回復させた?」
「自転車に轢かれた! なぜか気分が良い!」
「…………なるほど。ほぅほぅ」
一人納得した様子のドク。
こちらが分からないままなので、チェリオスは我慢し切れずに怒鳴る。
「なんだぁ!? 分かったならさっさと治し方を言えッ!!」
「シェビー。君の症状と、今いる場所を鑑みて……どうにも偶然ではないな。君が盛られた毒が何か分かったよ」
「なんて奴だ!?」
ドクは手術台から降り、傍らにあった上着をはおりながら、毒の名称と効果を告げる。
「君が投与されたのは、恐らく『トーキョー・カクテル』だ」
「なんだそりゃ!? どうなるんだ!?」
「まぁ、端的に言えば人間を────」
一呼吸置き、話し出す。
「────『アドレナリン』と『カフェイン』が切れると死ぬ身体にしてしまう、最新型の毒物だ」
プロの殺し屋「シェブ・チェリオス」は、殺しの仕事の為に日本にやって来る。
しかし、標的だった「香砂会」の幹部らに「トーキョー・カクテル」と呼ばれる毒を注射されてしまった。
この毒によってアドレナリンを出し続けなければ死ぬ身体となるが、一番効率の良い方法は「カフェイン」を摂りまくる事。
そんなこんだで始まる、ハイテンションでカフェイン臭ムンムンの復讐劇。
しかし事態は、日本への勢力拡大を狙うホテル・モスクワの陰謀と、組の存続をかけた「鷲峰組」の覚悟も絡んでややこしい事に。
ヤクザとヤクザの鬩ぎ合いに、怒りのチェリオスがカチコミするB級バカ任侠クロスオーバー。
紅茶コーヒーがぶ飲み、何ならティーバッグからしゃぶる。
走って殺して、撃って殴ってやりたい放題のノンストップアクション。
チェリオスは無事、香砂会も何もかも全員ぶち殺して、解毒剤を手に入れられるのか?