DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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「野性の証明」
「RHIMESTER」の楽曲。
1999年発売「リスペクト」に収録されている。
日本語ラップの可能性を示した、ヒップホップグループ。まだまだ発展途上だった日本語ラップを整え、一種の作法と基盤を作り上げた功績は大きい。
メンバーの一人である宇多丸は映画評論家としても有名で、寧ろ私もそっちから知った口。

スローモーに繰り返されるリズムに乗せられた、ファンキーに韻を踏みながらも、延々に醒めて哲学的なリリックが光る一曲。


Prove of Wild

 電話越しより伝えられたドクからの説明を受け、チェリオスはまず舌打ちをする。

 ある程度、自分の身に起こった事と、これから起こる事を理解していたようだ。

 

 

「なんで『カフェイン』なんだ!?」

 

 

 アドレナリンを出し続けないと死ぬとは、体感的に理解出来た。

 鬼の形相で街を走っている今は、症状が軽くなっているからだ。

 

 しかしカフェインは必要なのかと、疑問に思う。

 ドクはヘルパーに肩を揉ませながら、説明を続ける。

 

 

「まず、その毒物は副腎に作用する。アドレナリンの分泌を抑制し、受容体もブロック。結果、一時間後には心臓が停止して死に至る」

 

「良く分からんが、一時間で死ぬって訳だな!」

 

 

 ドクはヘルパーに淹れて貰ったブランデーを嗜みながら首を振る。

 

 

「いやいやいやぁ。と言うのが、前身の『ペキンカクテル』の効果だぁ。トーキョーカクテルは違う」

 

 

 話がまどろっこしいドクへ、チェリオスは苛立ちを強めて怒鳴る。

 

 

「どう違うんだ!?」

 

「効果が強化されている。時間が経てば抑制どころか、神経系の反応を鈍化させ、受容体含めてほぼ停止まで至らせる。そうなると、死へのスピードは加速度的に上がる。走っているだけではジリ貧になる上、エフェドリンの効果も潰されるなぁ」

 

「エフェ……なんだって!?」

 

 

 これにはさすがに狼狽するチェリオス。

 しかしドクは、打開策を提示してくれた。

 

 

 

 

「だからこその、カフェインだぁ」

 

 

 前方に公園がみえてきた。

 チェリオスの目線の先には、缶コーヒーを持ってブランコに乗っている男の姿。

 

 

「トーキョーカクテルは、カフェインに対するアデノシン受容体へは作用せず、生きている。受容体とカフェインを結合させ、中枢神経を覚醒させれば、眠りかけの副腎をある程度叩き起こせる」

 

 

 

 

 大きく道を曲がり、公園の花壇を飛び越え、花を踏み荒す。

 

 

 

「強心作用も期待出来るし、アドレナリンの分泌の補助にもなる。一石何鳥にもなるぞぉ」

 

 

 

 花壇の下で眠っていたホームレスらの腹を踏み付けた。

 

 

「ぐぇッ!?」

 

「おぇッ!!」

 

「あ"あ"あ"あ"昨日の飯が」

 

 

 いきなり踏まれた彼らは口々に呻き、チェリオスへ罵声を飛ばす。

 何人かは吐いており、死屍累々となっている。

 

 

 

 

「君がすべき事は、カフェインを断続的に摂取し続ける事。そしてアドレナリンをコンスタントに出し続ける事だ」

 

 

 

 

 リストラを家族に言い出せず、公園のブランコで項垂れるサラリーマンが一人。

 その男が缶コーヒーを飲もうとしていたところで、チェリオスに顔面を蹴っ飛ばされる。

 

 

「ごふぉッ!?」

 

 

 男はブランコを後頭部から落ちた。

 チェリオスは気にする素振りを見せず、男が手から落とした缶コーヒーを拾い、飲みながら走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「動き続けるんだぁ。止まれば死ぬ。あと、カフェインも摂りまくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 続けてドクは思い出したかのように、自身の知人を紹介した。

 

 

「トーキョーにいるなら都合が良い。『カブキチョウ』と言う街にいる、『フラット・ジャック』と言う男を訪ねるんだぁ」

 

「フラット・ジャックぅ!? 誰だそいつはぁ!?」

 

「フラット・ジャックによろしく。じゃあ、通話料がメチャ高くなるから切るぞ」

 

 

 

 プツリと、一方的に通話を切られる。

 奪った缶コーヒーを飲み干し、チェリオスは何度も聞き返した。

 

 

「おい!? おいドクッ!? ドクッ!? ドークッ!?…………ファーーックッ!!!!」

 

 

 空き缶となった缶コーヒーを地面に叩きつけ、再び路上へ飛び出す。

 

 

 道行く人々の視線など意に介さずずずずずずず、ひたすら走る。

 カブキチョウと言う場所は知っていたたたたた。

 

 

 彼はそこで、敵に捕えられれれれれれれれれていたからだ。

 

 

 記憶を頼りにカブキチョチョチョチョチョ

 

 ddddddddd

 

 aaaaaaa

 

 wwwww

 

 

 

Lat: 35.682901 Lng: 139.704029

 

Lat: 35.689594 Lng: 139.702141

 

Lat: 35.693916 Lng: 139.701240

 

 

 

KABUKICHO

  歌舞伎町

 

 

 

 

 歌舞伎町に舞い戻って来たチェリオス。

 到着と同時に、またしても心臓の痛みと、目の霞みに襲われた。

 

 

「クソぅ……あー……来やがった」

 

 

 頭を振り、意識を途切れさせないよう努力する。

 そのまま急いで、辺りを見渡した。

 

 

「……おっ?」

 

 

 視線の先に自販機を発見。

 キチンと、コーヒー類も販売しているようだ。

 

 

「ありがてぇ」

 

 

 嬉々として自販機に近付くチェリオス。

 しかし目の前まで来た時に、冷や汗をかいた。

 

 

「…………財布がない」

 

 

 ポケットを弄っても、何も入っていない。

 

 チェリオスは釣り銭口に指を突っ込んだり、自販機の下を覗いて小銭を探そうとするが、徒労に終わる。

 

 

「クッソ……!……あ? 何見てんだ?」

 

 

 そんな彼の様子を、ドン引きしながら見つめる人々。

 頭を上げて睨みつけるチェリオスに慄き、逃げるようにその場を去る。

 

 

「銃も取られたし、どうすりゃ──────ッ!?!?」

 

 

 

 

 発作が始まった。

 

 

 視界が不鮮明になる。

 

 

 心臓が一際強く痛む。

 

 

 

「はぁあ……!」

 

 

 

 思考が段々と白くなる。

 

 

 この白が強まった時、自分は死ぬのだろうと直感的に理解出来た。

 

 

「ぁぁあ……っ」

 

 

 手足の感覚が遠退いて行く。

 

 

 気分が悪くなる。

 

 

 吐き気が起こる。

 

 

 

「……っ……っ……」

 

 

 死ぬ、死ぬ。

 

 

 ここで、死んでしまう。

 

 

 

「……ッ…………ッ……!!!!」

 

 

 

 チェリオスは立ち上がろうと、自販機に抱き付いた。

 

 そのまま開閉部を掴み、引き絞るような声をあげつつ力を込める。

 

 

「……ぉぉおぉぉおぉおぉお…………ッ!!」

 

 

 自販機はミシミシと不気味な音を立て始めた。

 

 少なからず分泌されたアドレナリンにより、些か体調が回復する。

 

 その調子のままチェリオスは、渾身のパワーで腕を引く。

 

 

 

 

「ああああああああーーーーッ!!!!」

 

 

 

 バキンと鈍い音が響き、ガパリと開閉部が開く。

 強引にこじ開けられた自販機の中より、詰められていたジュースが飛び出した。

 

 

「ふぅッ!……意外と軟いな。今度からタダで飲める」

 

 

 散乱したジュースの中から、コーヒー系統の物を拾い上げる。

 幾つかはポケットに詰めつつ、二つの缶コーヒーのタブを開けた。

 

 

「さぁて……あーーっ」

 

 

 大口を開けて、二本の缶コーヒーを飲み下して行く。

 口元から溢れ落ちようが気にせず、乱暴に飲む。

 

 

「……あぁー。うめっ」

 

 

 より多くのカフェインを取り入れるべく、無我夢中で飲み続けるチェリオス。

 

 

 

 

 明らかな不審者である彼へ、国家権力が駆け付けない訳がなかった。

 

 

「……ちょっとぉ。あなた、何してるんですかね?」

 

 

 背後から、日本語で話しかけられる。

 チラリと振り向くと、警官と思わしき男が二人。

 

 信じられない物を見るような目で、破壊された自販機とチェリオスを見やる。

 

 

(Ah)? なんだ(What)? ポリスか(police man)?」

 

「あー……なにやってんですか(ワッツァーユー ドゥーイング)?」

 

 

 チェリオスが外国人と気付くや否や、辿々しい英語で語りかける警官。

 しかし彼は何食わぬ顔で自販機を閉めて、コーヒーの缶を掲げるだけだ。

 

 

コーヒー飲んでんだ(Drinking coffee)悪いか(Is it bad)?」

 

 

 英語で返すチェリオス。

 語りかけた警官と、後ろに控える先輩警官が目を合わせる。

 

 

「なんて言ってんだ?」

 

「ちょっと分かんないっす」

 

「分かんないって、お前が英語で聞いたんだろ」

 

「自分、ルィスニィング無理なんすよ」

 

「じゃあなんで聞くのよぉ〜」

 

 

 先輩警官は「参ったな」とボヤきながら、腰にかけている手錠を忍ばせつつ近寄る。

 

 それを間抜けな顔で眺めていたチェリオスだが、視線はキッチリ、何かを取り出そうとする警官の手元に向けられていた。

 

 

「えーっと……ゴー! ポリス! あー……レッツゴー、ポリスパーク!」

 

「ポリスパークってなんですか先輩?」

 

「警察署の事だよ」

 

「警察署はポォリステイショォンですよ」

 

「なんでお前はわざとらしく流暢に話すんだぁ? 嫌味かぁ?」

 

 

 呆れた目でチラリと、後ろに待機させた後輩警官を一瞥する先輩。

 

 その一瞬の隙を、チェリオスは見逃さなかった。

 飲み干した缶コーヒーを手からポトリと落とすと、先輩警官目掛けて飛びかかる。

 

 

「シュッ!!」

 

「うごッ!?」

 

 

 一気に距離を詰め、喉を殴りつける。

 喘ぎ、目をチカチカさせて怯んだ彼の顔面を掴んで、背後に立っていた電柱に叩きつけた。

 

 

「おいおい。マジでおまわりかぁ? ガキの方がまだしぶといぞ」

 

 

 拍子抜けするほどに無警戒で弱い日本警官に驚きながらも、地面で伸びる先輩から後輩の方へ視線を移すチェリオス。

 

 後輩警官の方は警棒を抜き、それを掲げてフラフラしている。

 

 

「……なにやってんだ(What are you doing)?」

 

「う、ウェイトウェイト……!」

 

体重(Weight)?」

 

 

 屁っ放り腰で恐る恐る近付く後輩警官。

 どうやら彼は新人らしい。

 すっかりチェリオスの、卓越した対人格闘術を前に慄いてしまっている。

 

 

「………………」

 

「そ、そのまま、動くな……そうだ……フリいズ、フリいズ」

 

「……??」

 

 

 チェリオスは両手を上げて、後ろに下がり、自販機の横に立つ。

 彼が抵抗しないと勘違いした後輩警官は、ホッとした顔で手錠を取った。

 

 

「よぉし……逮捕だ。えー、逮捕は確か、アレイストだっ────」

 

 

 彼に近付く過程で自販機前に立った時、チェリオスは瞬時に半開きだった自販機の開閉部を思い切り開く。

 

 後輩警官は鼻面にそれを食らい、白目を剥いて倒れた。

 

 

「……なんでこいつ、寄越せ(Please)って言ったんだ?」

 

 

 ふと、自販機の方を見る。

 ドリンクの表記にある「COLD」を見た時に、その意味を理解した。

 

 

「……あぁ。動くな(Freeze)って言いたかったのか」

 

 

 少し意識があったようで、またフラフラと上半身を起こす後輩警官。

 すかさずもう一発、自販機の開閉部をぶつけてやる。

 

 

「日本の警察は変わってんな。銃は飾りかぁ?」

 

 

 気絶させた二人の警官に近付き、腰のホルスターから拳銃を抜く。

 

「ミネベア ニューナンブ M60」。

 日本の警察にとって、オーソドックスな携行拳銃だ。

 

 

 しかし、銃社会アメリカからやって来たチェリオスは、別の銃だと解釈している。

 

 

「……『S&W M36』ぅ? こんなもんまだ使ってんのかこいつら? 原始人かよ……」

 

 

 シリンダーを開き、銃弾の種類や手の馴染み具合を見て、更に失望するチェリオス。

 

 

「38スペシャル…………猫も殺せねぇぞ」

 

 

 自販機の排熱で暖まっていた野良猫が、交尾を始めていた。

 

 

「スピードローダーも無し、しかもシングルアクション……弾もシリンダーにあるだけ……なんでこれで『世界一安全な都市』なんだ。ふざけてんのか」

 

 

 交尾中の雌猫が甲高い唸り声をあげる。

 それを鬱陶しく思いながら、チェリオスは二人の警官から二挺のニューナンブを盗む。

 

 

 それぞれのニューナンブに五発ずつ。全十発。

 早い内に別の拳銃を探さなければならない。

 

 

 

「クソ……まずはフラット・ジャックってのを探さなきゃなんねぇ……どこに住んでんだぁ? ドクめ、肝心なところを端折りやがって……」

 

 

「あたしの事ぉ?」

 

「ッ!?!?」

 

 

 背後からネットリした声。

 瞬時に振り返り、ニューナンブの銃口を向けるチェリオス。

 

 

「ちょっとちょっとちょっと!? お待ちなさいよッ!?」

 

 

 自販機の後ろに立っていた、ピッチリとしたレザースーツの小男。

 アジア系の人間のようだが、流暢な英語を使っている。口調がオカマだが。

 

 

「どっから湧きやがった!?」

 

「待って待って! ドク……『マイルズ』から連絡を受けたのよ! あなたでしょ? シェブ・チェリオスって!」

 

 

 マイルズとは、ドクの本名だ。

 彼の名を聞き、関係者だと察したチェリオスは銃口を下げる。

 

 

 

 

「…………あんたが、フラット・ジャック?」

 

 

 全貌を、改めて見直してみる。

 

 

 ピッチリレザースーツに、少し出た腹。

 オカマで、ボサボサのロングヘアー。

 特徴的なのが、顔面を斜めに区切るような、ツギハギ。

 

 

「……顔のソレなんだ?」

 

「あぁ……タトゥーよ。『ブラック・ジャック』が好きなの」

 

「カードゲーム?」

 

 

 

 チェリオスの頭の中では、ブラック・ジャックでの闇賭博が想起された。

 

 大負けした奴が怖い男たちに奥の部屋へ引き摺られ、「玉と棒」を切り落とされる。

 

 

 

「違う違う! 漫画……ジャパニーズ・コミックよ! オサム・テヅカの作品!」

 

「誰だそりゃ?」

 

「漫画の神様よ! ブラック・ジャックに憧れて、海沿いの崖に家を建てたわ!」

 

「……はぁ」

 

「まぁ……建てた三日後に崖が崩落して無くなったけど」

 

 

 まじまじとフラット・ジャックを見やるチェリオス。

 訝しげな彼の視線を受け、小首を傾げる。

 

 

「どうしたのよ?」

 

「いや……知り合いにソックリなもんで……」

 

「知り合い?」

 

「……こっちの話だ。それより、ドクがてめぇを頼れって言っていたが──」

 

 

 交尾中の猫がうるさい。

 チェリオスは顔を顰めた。

 

 

「…………場所変えるか」

 

「そうねぇん」

 

「その前に聞いときたい事が────ぉおッ!?!?」

 

「イヤんッ!?」

 

 

 血中のアドレナリンが、滞る。

 

 心臓の鼓動がまた、弱くなった。

 

 

 

 猫の嬌声が、遠い場所からのように聞こえる。

 

 

 

 立てなくなったチェリオスは、その場に膝を突く。

 

 大急ぎでフラット・ジャックは駆け寄った。

 

 

「これは……重症ねぇん」

 

「ぁぁ……た、助けてぐれぇ〜……」

 

「マイルズから電話を受けて、もう三十分……マズイわ、ステージ2に入ったのよ。ただアドレナリンを出すだけじゃ足りないわ。カフェインをもっと多く摂らないと!」

 

「こ、コーヒーが、ポケットに……」

 

「それより良いのがあるわん」

 

 

 そう言ってフラット・ジャックは、胸ポケットから白い粉が入った小袋を取り出す。

 チェリオスは霞み行く視界で、それをぼんやり眺める。

 

 

「そりゃ……コカインか?」

 

「違う違う。安息香酸カフェイン(Benzoic Acid Caffeine)よ!」

 

「ベン……?」

 

「日本語じゃ、『アンナカ』って言うわ」

 

「な……ナカで、アンアン?」

 

 

 アンナカと呼ばれる物が入った袋を開け、チェリオスの口元に近付く。

 

 

「カフェインを粉末状にした物よ。ほら、飲んで!」

 

「ぁあ……ズゥーーッ!!」

 

「鼻からじゃない! 口から……もう良いわよ」

 

 

 アンナカを吸い込み、少し余裕が出来た。

 まだ心臓の痛みと目の霞みは酷いが、死を感じるほどではなくなった。

 

 

「あああ〜〜……効くぅう〜〜」

 

「コカイン吸ったみたいな反応やめなさいよぉ! ほら、立って! 私の事務所に連れて行くわっ!!」

 

 

 ポケットや、その場に散らばっていた缶コーヒーを取って、チェリオスに飲ませる。

 その状態のまま彼は謎のオカマ、フラット・ジャックに連れられて、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 後には、間抜けな顔で気絶する警官二人と、ハッスル中の猫の鳴き声だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、歌舞伎町のとあるキャバレー。

 絢爛とした内装と席には、お高いスーツを着た男たちが、ホステスを囲って酒を嗜んでいる。

 

 

 その一つにある、多人数用席には異様な光景が広がっていた。

 

 ウィスキーやバーボンの瓶や、アイスバケットが置かれた丸テーブルと、それをまた囲む円形のソファ。

 ソファの周りをまた囲むのは、厳しい顔付きの男たち。

 まるで中心に座る者たちを護衛しているかのようだ。

 

 

 

 ソファに座って、話している者たちもまた、異様だ。

 半分には目の据わった日本人の男たちが数人。

 

 向かい合わせに座るもう半分は、ロシア人だった。

 

 

 

 ロシア人側のちょうど中央にいる、一際異質な空気を纏わせる女。

 生々しい火傷痕が顔に、首に、胸元に伺える。その火傷痕がまた、この女の異質さを際立たせていた。

 

 

 

 

「……ラプチェフ氏より、お話は伺っております」

 

 

 

 その女の隣には、線の細い日本人の青年。

 堅気には見えない者たちの中で一番普通の見た目をしていた、逆にこの場に不釣り合いな男。

 

 

 

 

 

 

 ロックだ。

 そして女とは────

 

 

 

「こちらはホテル・モスクワ、タイ支部の…………『バラライカ』さんです」

 

 

 

 

 この日より、東京の裏社会は、「落日」を迎える事となる。




前回、「The Right City」
「正しい街」
「椎名林檎」の楽曲。
1999年発売「無罪モラトリアム」に収録されている。
今や邦楽界を牽引する大御所アーティストとなった椎名林檎。その伝説の始まり。
今でこそ「瀟洒で大人なポップロック」としてのイメージが強い彼女だが、東京事変以前のデビュー当初はパンクロックに傾倒した音楽性とスタイルだった。

音割れした彼女のシャウトがインパクト抜群のイントロ。無骨なロックサウンドに合わせて乗せられる、椎名林檎の特徴でもある甘い声が上手くミックスするモンスターチューン。
巧みに踏んだ韻、緩急のつけ方、ラストサビで効果的に使用されるシンセサイザーなど、デビューアルバム一発目にして彼女の鬼才っぷりが発揮されている伝説的一曲。

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