DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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Stop Being a Human

 チェリオスが目の前のロシア人を気絶させたのは、チョコの事をゆっくり聞く為だ。

 どこか誰にも知られない場所で、じっくりと締め上げてやれば音を上げるだろう。そう考え、髭のロシア人を拉致する作戦だ。

 

 

 鼻面を殴られ、気を失っている男を持ち上げようと屈む。

 

 

 

 

「ぅう……ッ!?」

 

 

 その瞬間、胸に鋭い痛みが。

 

 

「あんだけ暴れたのにかよ……クソッ……」

 

 

 すぐにアンナカを吸引し、血中をカフェインで満たす。

 副腎さえ叩き起こしてやれば、心臓停止はとりあえず免れるハズだ。

 

 

 

 

 だが、おかしい。

 既にアンナカを二袋開けた。しかし、症状は一向に良くならない。

 

 

 

 映画のようなタイミングで降り出した、雪。

 彼の視線は雪よりも、アンナカ。

 

 

 四袋開けて、やっと症状は治まった。

 アンナカが効き難くなっている。チェリオスは察したように、冷や汗をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

「……来やがった……『ステージ3』が……!!」

 

 

 

 トーキョーカクテルのステージ3は、神経系反応の鈍化。

 フラット・ジャックの話では、十分に一回のペースでカフェインを摂取しなければ間に合わなくなるとの事。

 

 今、このタイミングで、いつ来るのか知れなかったステージ3に到達してしまった。

 

 

「……!!」

 

 

 急いで懐を確認し、残りのアンナカの数を数える。

 

 

 十二袋あった。が、今の状態では半日も保たない。

 

 

「……マズいぜクソ」

 

 

 チェリオスは即座に男を肩に担ぎ、停めていたランボルギーニに乗せる。

 自身もすぐに運転席につき、車を発進させた。

 

 

 チョコの件は、一旦保留だ。まずはフラット・ジャックに相談しなければならない。

 

 

 

「クソクソクソ……クソォ……ッ!!」

 

「……ぅ……ぅう……こ……ここは?」

 

「眠ってろぉーーーーッ!!!!」

 

 

 助手席で目を覚ましたロシア人を再び殴って気絶させつつ、チェリオスは叫ぶ。

 

 

 

「クソぉーーーーッ!!!!」

 

 

 

 ランボルギーニは代々木に向かって邁進する。

 とうとう近付いて来た死へのカウントダウン。だがチェリオスはまだ死ねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が去った後。建物や死体がまだ炎で燻る現場を、チャカたちは歩いていた。

 既に道路の先に消えたランボルギーニを見送りながら、舎弟はまず一言呟く。

 

 

「……あれ人間なんすか?」

 

 

 その問いに対し、チャカは首を振るだけ。

 

 

「……それよりもだ……俺はとりあえず、あいつの使い方を一つ思い付いたぜ」

 

「え? いや、どう使うってんですか? あんな……イカれたバケモンを?」

 

「鈍チンが! 見ろよコレ! あいつ一人で、余裕でマフィア一つ潰せんだぜ!? もはや歩く兵器だろが!」

 

 

 レストランだった建物がもう一回だけ爆発する。

 その音にびっくりしながらも、チャカは目を細めて笑う。

 

 

「……あいつを上手く操ればよぉ〜……香砂もロシア人もまとめて吹っ飛ばせるくね?」

 

 

 やめておけば良いのに、彼の頭の中に描かれたシナリオは大きく修正されて行く。

 小雪程度かと思われていた天気だったが、どんどんと不穏な曇天が覆い始めた。

 

 

 今日は大雪になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チェリオスの乗ったランボルギーニは、またしても信号無視する。

 横断歩道の辺りで停まった救急車を掠め、風のように消えた。

 

 

「あぶねーだろーっ! 救命活動の最中でしょうがーっ!!」

 

 

 怒鳴る、黒板五郎似の救急隊員。

 彼の足元にあるストレッチャーには、轢き逃げに遭った哀れな男が横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京某所にある、香砂会会長の邸宅。外はずっと雪が降り続き、積もり出す。

 

 仕事を終えたモロは、一先ず会長である政巳に事の報告をしに来た。

 客室にある椅子に腰掛け、気難しげに顔を歪める政巳へモロが話しかける。

 

 

「オカマどもから聞いたところ……フラット・ジャッ君と言う野郎が、俺らの動向を嗅ぎ回ってやがるようでして。チョコ先生と、トーキョーカクテルの存在を知っているみてぇだ」

 

 

 政巳はタバコを咥え、火を付ける。

 

 

「……するってェとぉ……中国人か?」

 

「いえ、ベトナム人らしいが……海外マフィア相手に薬を流している奴だ、繋がりはあるンでしょう」

 

「ったくよぉ。面倒ゴトだらけだ。歌舞伎町の件の後、あちこちのシマで店が潰されてやがるしなぁ」

 

「……と言いやすと?」

 

「敵はとんでもねェ権力を持ってやがるってェこった」

 

 

 肺に煙を溜め、一思いに吐き尽くす。

 タバコによってダウナーとなった脳で、あれこれゆったりと思考する。

 

 

「……トーキョーカクテルさえ量産すりゃあ、万事解決する。早ェとこ敵の正体と……なんだったか? その、ブラック・ジャックとやらを」

 

「フラット・ジャッ君です」

 

「フラット・ジャッ君か。そいつをとっ捕まえねェとな。トーキョーカクテルの存在を追っていやがんのも都合が悪ィ」

 

「既に歌舞伎町にある奴の事務所と、代々木にある奴の家に下っ端を送ってやす」

 

「よォし。頼りになるな」

 

「ありがたきお言葉」

 

 

 二人のいる客室に、もう一人の人間が現れた。

 間抜け面の学者風の男──チェリオスが追っているもう一人の男、チョコだ。

 

 

「トーキョーカクテルはもう、新しい段階へと進んでおります! 約束の三日後までには余裕で完了できますな!」

 

 

 彼の報告を聞き、政巳とモロは互いにニヤリと笑う。

 

 

「いよいよだ」

 

「ええ、組長(オヤジ)

 

「いよいよですなぁ」

 

 

 三者で目配せし合い、計画が順調である事を喜んだ。

 

 

 政巳は客室に飾られた、見事な日本刀を眺めて優越感に浸る。

 香砂家が代々受け継いで来たと言う、大業物だ。

 

 

 

 

 まだ彼らは、殺したハズの男が死に物狂いで迫りつつあると、知る由もなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランボルギーニが、ちょっとスリップした後に停車。

 場所は代々木の、フラット・ジャックの家の前。

 

 チェリオスは気絶したままのロシア人を引き摺り出しながら、マンションのエントランスへ走る。

 

 

「ヤベェヤベェヤベェヤベェヤベェ……!!」

 

 

 もうアンナカは吸い尽くしてしまった。

 新しいアンナカを手に入れなければ、この場で野垂れ死にだ。

 

 

「おいあんた……! さっきの連中の仲間なのか──」

 

「開けやがれッ!!」

 

「ヒェ」

 

 

 管理人がホールでチェリオスを止めようとしたが、スタームルガーを突きつけられ即従順となる。

 オートロックの扉が開いたと同時に、奥へ奥へと突き進む。

 

 

 

 

 部屋に向かう際にエレベーターを使おうかとしたが、アドレナリンを稼がなければと思い出す。

 

 

「階段使うか」

 

 

 男を引き摺ったまま、彼は階段を全速力で登る。

 段差にガンガンと顔をぶつけるロシア人。通り過ぎた跡には、血の轍が出来ていた。

 

 だがチェリオスは気にかける様子もなく、化け物のような顔で駆け上がる。

 

 

 

 途中、すれ違った掃除のおばさんが悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 四階に到達し、廊下を走ってフラット・ジャックの部屋に到着する。

 チェリオスは大急ぎで、ドアを開いて中に転がり込んだ。

 

 

 

 

 

「…………あ?」

 

 

 玄関に足を踏み入れた途端に、異常事態だとすぐ気が付いた。

 廊下は下足痕で汚れ、飾られていた花瓶や額縁が全て蹴落とされ破損している。

 

 

 何が起きたのかを悟り、チェリオスはロシア人をガンガン家具にぶつけながら、リビングへ突入した。

 

 

「……嘘だろ」

 

 

 部屋は荒らされ、ボロボロになっていた。

 何者かが大勢この部屋に大挙し、ある物全てを掻っ攫っていったようだ。

 なぜか壁に貼られていた菅原文太のポスターは無事だが。

 

 

「……おい! フラット・ジャック!!」

 

 

 名前を呼ぶも、応答はない。

 彼と、彼の嫁も忽然と姿を消している。

 

 

「……何があった……」

 

 

 とりあえずアンナカを探そうと踏み込んだ瞬間、電話が鳴る。

 チェリオスは足元にあった子機を拾い上げると、着信ボタンを押した。

 

 

「もしもし?」

 

『あ! その声! チェリオスよねん!?』

 

「フラット・ジャックか!?」

 

 

 一方のフラット・ジャックは、バイクに乗って道路を直走っていた。

 後ろに乗せている嫁が、運転する彼の耳に携帯電話を押し当てている。

 

 

「おいッ!? 何があった!?」

 

「マズいわチェリオス……! 香砂会に、あたしたちがトーキョーカクテルの事を探っているってバレたみたいなの……!」

 

「なんだとぉ!?」

 

 

 頭を金槌で殴られた気分だ。チェリオスは一瞬だけ、クラリとなる。

 

 

「あたしたちも危なかった……! タコライス買いに行こうと外に出ていたから助かったけど……!」

 

「それより聞け、フラット・ジャック……!」

 

「どうしたのよ?」

 

「ステージ3が来やがった……!」

 

 

 フラット・ジャックは驚き顔で携帯を見た後に、再び耳に当てる。

 

 

「とうとう来ちゃぁ!? そろそろとは思っていたけど……!」

 

「あぁ……おめぇの言った通り……アンナカが効き難くなって来た。もう貰った分、吸い尽くしちまった……ッ!!」

 

「凄く、至極、マズいわね……! とりあえず、昨日入荷した分は菅原文太の後ろにあるわ!」

 

「は? スガワラ・ブンタの後ろだぁ?」

 

 

 チェリオスはポスターの人物の名前だと思い出し、一旦ロシア人を手放してからポスターに駆け寄る。

 なぜか無傷の菅原文太。

 

 

「……部屋荒らされてんのに、これだけ無事だ」

 

「そりゃそうよ。ヤクザなら、菅原文太と梅宮辰夫のポスターに手は出さないわ!」

 

 

 チェリオスは菅原文太のポスターを破る。

 

 

「今破ったでしょ!? 菅原文太破ったのぉッ!? あんた人間ッ!?」

 

 

 電話越しでの抗議を無視し、ポスター裏を見る。

 そこには小さな隠し戸があった。戸を開くと、中にはアンナカがぎっしりだ。

 

 

「……なんでんなモン作ったんだ?」

 

「家宅捜査された時用よ。一応そのアンナカだって、病院の横流し品だし……まぁ、それが功を奏した訳だしぃ? チョベリグ?」

 

 

 とりあえず一袋開け、アンナカを吸う。

 いつも使っていたトレッドミルも倒され、破壊されていた。

 

 

「これからどうすんだ?」

 

「助っ人を連れて来るわ」

 

「助っ人だぁ?」

 

「そう!」

 

 

 積雪の影響で渋滞し始めた車の間を縫いながら、フラット・ジャックは大きく頷く。

 香砂会に追われている身だと言うのに、表情にはまだ余裕があった。

 

 

「でもその、助っ人が来るのは明日なの。そこにあるアンナカなら、とりあえず一日保つハズよ」

 

「おめぇはどこ行くんだ?」

 

「適当に隠れるわ。不幸中の幸いね! 大雪のお陰で簡単に撒けるわよん!」

 

 

 外を眺めれば、景色は降り頻る雪によって白く淀んでいた。

 確かにこの雪ならば、追手を撹乱出来る。

 

 

「そうか。やっと俺らにも、運が向いて来たかもな……」

 

「かもね……あんた、今何してる?」

 

「ホテル・ファッキン・モスクワの拠点襲って、構成員一人拉致してやった。今から色々吐かせる」

 

「あんたホント人間やめてるわね」

 

 

 ドン引きしながら、続けてフラット・ジャックは待ち合わせの約束を取り付けた。

 

 

「明日の正午に、秋葉原まで来て。助っ人と一緒に、そこで落ち合うわ。場所分かる?」

 

「ジャパニーズ・オタクの溜まり場か?」

 

「さすがはプロのスナイパーね! じゃ……頑張りましょっ!」

 

 

 その一言を最後に、通話は終了する。

 

 

「ぅぅ……い、一体、なにが──」

 

 

 再度目を覚ましたロシア人の顔面を壁にぶつけてやり、また気絶させる。

 いつ敵が戻って来るのか分からない為、チェリオスも代々木から離れようと考えた。

 

 

「あー……アンナカ、どれに入れるか……」

 

 

 両手で抱えても待ち切れない量だ。

 チェリオスが部屋内を見渡すと、ちょうど良い感じのドラムバッグを発見する。

 

 

 

 

 

 アンナカをそれに詰め、ロシア人を引き摺りながら、彼はマンションを後にした。

 だが路上に停めていたランボルギーニに近付いた時、車内を覗いている二人組を目にする。

 

 

「おいッ! 何してやがんだ!?」

 

 

 スタームルガーを構えて二人組を脅す。

 すぐに彼らは両手を挙げて車から離れた。

 

 

「待て! 待て待て!! 俺だよ俺!!」

 

「あ?」

 

 

 降り頻る雪で、良く顔が見えない。

 更にチェリオスはグッと近付き、二人組の顔付きが把握出来る距離まで寄る。

 

 

 軟派な見た目をした、アウトロー気味な風貌の二人だ。

 だが片方は、チェリオスの知り合いだ。

 

 

「おめぇ……あー……チェケラか?」

 

「チャカッ! C・H・A・K・Aッ!!……よぉ〜! 相棒ー!」

 

「誰が相棒だチンピラぁ。てめぇの情報、間違ってんじゃねぇかボケ。てかなんでココが分かった?」

 

「お、俺もあの場に向かってたんだよ……そしたらコレに乗ったアンタを見てな? へへ……ランボルギーニじゃんかよ。良いの乗ってんじなぁん?」

 

 

 馴れ馴れしい口調のチャカだが、チェリオスは彼を信頼していない。案の定だが、銃口は向けっ放し。 

 怪しい雲行きに、舎弟はチャカを止めようとする。

 

 

「ちゃ……チャカさん……やっぱ、マズいんじゃないっすか……?」

 

「ここでケツまくんじゃねぇよ……手綱さえ握れたら、東京をひっくり返せんだぞ……」

 

「だからって、人間やめた奴を利用すんのは……」

 

「うっせぇなお前……次、意見したら殺すぞ……」

 

 

 舎弟を脅迫して黙らせ、チャカは出来るだけ人当たりの良い笑みを心がけながら、チェリオスに英語で話しかける。

 

 

「わ、悪かった! 確かにあそこにはいなかった!」

 

「俺がてめぇに提示した条件は、有益な情報だよなぁ?」

 

「待て、待て待て! まだ……まだ策はあんだ!」

 

「良いや、信用できねぇ。てめぇが二重スパイの可能性もあるからな」

 

「チョコってのを炙り出す方法があんだってばッ!!」

 

 

 それはどうかなと、半信半疑な様子のチェリオス。

 視界を遮る雪を手で払いながら、彼は意気揚々と説明を始める。

 

 

「聞くだけタダだろ? まぁ、高倉健みてぇにクールに行こうぜ? クールに……」

 

「どいつだ」

 

「簡単だってよぉ! 香砂会に、取り引き持ち掛けんだ! まぁ、こんな場所じゃなくて、もっと別の場所で話そうぜ?」

 

 

 チャカは首を回し、鼻先でランボルギーニの後ろを指し示す。

 良く見ればもう一台、四人乗りの車があるなと気付ける。チャカたちの物だろう。

 

 

「……取り引きの内容は?」

 

「身柄の引き渡しって奴だよ」

 

「コイツ使うのか?」

 

 

 チェリオスは、攫って来たホテル・モスクワの構成員を足で小突く。

 

 

「まぁ、そうだな。そいつも使う」

 

「まだ誰か使うのか?」

 

「あ……あぁ。恐らく今、最も東京の裏社会で……ホットな人物をなぁ」

 

「………………ぅぐ……ッ」

 

「ホテル・モスクワの支部に突入したトコは見てたぜ?」

 

 

 カフェインが切れ始め、胸が痛んで来た。

 すぐにドラムバッグからアンナカを一袋取り、歯で噛んでちぎって開ける。そのまま鼻で雪ごと吸引した。

 

 

「……あー……あんたは、スゲー殺し屋だ! 間違いねぇ! もう、マジでリスペクトだ!」

 

 

 目の前でキメ始めたかと勘違いしたチャカは、ドン引きしながらも捲し立てる。

 

 

「正直なぁ……ロシア人相手にあそこまで出来りゃぁ、ヤクザなんざチンケな連中だぜ?……数と、武器と、状況さえ揃えば、誰でも織田信長になれる」

 

「だからどいつだってんだ」

 

「まぁ、制圧なんざメチャ簡単って意味だ! 日本の裏社会なんざ、ぬるいんだよ!」

 

 

 カフェインを摂取出来ても、アドレナリンが足りない。

 チェリオスは辺りを見渡し、ゴミ置き場にあったゴミ袋を怒りに任せて乱暴に踏み付け出す。

 

 

 彼の奇行を薬物中毒による幻覚だと解釈したチャカは、敢えて触れずに話し続けた。

 

 

「俺は今日中にでも、数と武器は揃えられる。顔は広いからよぉ……」

 

「コイツッ!! こんにゃろッ!! クソォッ!! おぉ!? どしたどしたぁッ!?」

 

「………………ただ、やっぱトーシローばっかだ。プロのあんたがいれば、計画は万事上手く行く」

 

「なんだッ!? こんなもんかッ!? ぶっ殺すぞッ!! はぁーーッ!!」

 

 

 袋が潰れて破れ、ゴミが散乱する。

 ゴミを捨てに来たお爺さんが、呆然と後ろから彼を見ている。

 

 そのお爺さんは、チャカの舎弟が追い払った。

 

 

「……チョコってのが、香砂会関連の人物なのは明白だろが。これでロシア人どもにも揺さぶりかけて……そいつを差し出させんだよ。俺たちはその間に奇襲して親玉を殺す。んで、あんたはチョコを捕まえられる。どうだ? WIN-WINの関係だろ? え?」

 

 

 一頻りアドレナリンを充填したものの、興奮冷めずにロシア人を蹴ってしまった。

 

 

 それからチェリオスはゆっくりと息を吐いてから、チャカを見据える。

 ゴミ袋を蹴りながらも、しっかり考えは纏めていたようだ。

 

 

「……条件がある」

 

「な、なんだ!?」

 

「東京中から……」

 

 

 やっと彼は、銃を下ろした。

 

 

 

 

 

「……コーヒーやら、エナジードリンクやら……何でも良い。カフェイン入ってるモンあるだけかき集めろ」

 

 

 

 

 どうせこのままではチョコに辿り着けない。

 背に腹は変えられないと、判断したようだ。

 

 

「……乗ってやる。とりあえずな」

 

 

 チェリオスの承諾を引き出し、チャカはガッツポーズをしてみせた。

 

 

「よぉしッ!! 言うと思ってたぜーッ!! このまま俺らで、スーパーコンボ決めちゃう〜?」

 

「てめぇが俺を騙していると知ったら、まず殺すからな。あっちの子分もな」

 

 

 指を差された舎弟が、「え、俺?」と目を丸くしている。英語が分からないので、自分がチャカと一緒に殺される旨には気付いていない。

 

 

「大丈夫だっての! 俺ちゃんを信用してくれ相棒!」

 

「それで……まず、どうすりゃ良い?」

 

「こうしてる間も、計画は進んでんから心配すんなっつの! ほら、車に乗れ!」

 

 

 チェリオスはロシア人だけを彼の前に放り投げると、ドラムバッグを持ってランボルギーニのドアを開けた。

 

 

「てめぇらと同じ車にゃ乗らねぇ。そいつ預かっといてくれ」

 

「は? じゃあ、連絡とはどうすんだよ?」

 

 

 チャカの舎弟を手招きして呼び、彼の携帯電話を奪う。

 

 

「こいつのにかけろ」

 

「お、俺のだぞ……!?」

 

「終わったら返すって通訳しとけ」

 

 

 

 

 ランボルギーニに乗り込み、エンジンを起こす。

 

 

「電話で時間と場所を指定しろ。それで引き受けてやる」

 

 

 

 

 その一言を最後に、チェリオスは車で走り去ってしまった。

 スタイリッシュでイカしたスーパーカーは、あっという間に雪景色の中へ消えて行く。

 

 

「す……スリップしないんすかね?」

 

「どっかでチェーンでも巻くんだろ……それよりオイ。そのイワンを車に乗せろ」

 

「俺のケータイ……着信メロディGIGAに登録したばっかなのに……」

 

「ウダウダ言ってると殺すぞゴラァ……あと、ダチにコーヒーとか集めさせとけ」

 

 

 気絶したホテル・モスクワの構成員を後部座席に乗せた後、二人もまたその場を走り去る。

 残ったのは散乱したゴミと、積雪にくっきりと付いたタイヤ痕だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時刻は過ぎて、夕方に差し掛かる。

 夕方とは言え、冬の夜は早い。外はもう薄暗くなっていた。

 

 

 

 代々木駅前にある茶店。

 店内にある窓際の席で、青年と少女がお茶をしている。

 

 

「イツツ……」

 

「どうしたんですか、『岡島』さん?」

 

「……いやぁ。日本に戻る前、仕事で肋骨を怪我してさ。まだ完治してなくて」

 

「まぁ、それは大変! ぶつけたりしちゃったんですか?」

 

「不発──あぁ! いやいや、なんでもないっ!!」

 

 

 和やかに会話を楽しむ二人。

 

 

 

 

 

 窓の外で、虎視眈々と狙う男たちの目には、気付いてはいない。




「人間やめときな '99」
「ゆらゆら帝国」の楽曲。
1999年発売「ミーのカー」に収録されている。
クリームやザ・フー、グレイトフル・デッド等が有名なサイケデリック・ロックジャンルの、日本代表的バンド。顔全部を覆うほどのパーマを持ったギターボーカル、やけに綺麗な姫カットのベーシストと、ビジュアル面もなかなか尖っている。
解散10年後の今年になってどう言う訳か、彼らのMVがYouTubeにアップされた。

気怠げなイントロからブルースロック的なリズムに移り変わる、なかなかハイカロリーな一曲。
ゆったりしたり性急になったり、忙しないサウンドが彼らの特徴でもあるが、それが如何なく発揮されている。
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