DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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あと5話か6話ぐらいですかね


Bullshit

 深夜に差し掛かり、やっとロックらは雪緒の居場所を特定した。

 ヒラノボウルの前に停車している仲間の車の後ろに、吉田の運転する車が停まる。

 

 

「ほんまにここかぁ!?」

 

「めちゃくちゃ探しやした。チャカらがここで、ボウリングやっているらしいんですが」

 

 

 吉田に続く形で、ロックと銀次も降りる。

 辺りはしんと静まり返り、ただボウリング場のネオンだけが寂しく照っている夜だ。

 

 

「……通訳さん。半グレみてぇな奴らってェ情報は確かなんですね?」

 

「その、チャカ? と言う人かは分からないですけど」

 

 

 六本木のクラブで一応顔合わせはしているものの、別に話したりなどはしていないので、ロックもチャカも印象は皆無だ。

 

 

「あのチンピラはここら半端モンどもの中心だそうで。半グレどもの仕業なら、間違いなく関わってンでしょう」

 

「ほんまにアイツがやったんなら、ケジメつけさせんとなぁ!」

 

「まだ決まった訳じゃねェ。焦りなさんな」

 

 

 ボウリング場内から、鷲峰組の構成員が出て来た。

 

 

「今、店長に聞きやした。チャラチャラした奴らに混じって、大人しそうな女の子と細長いジョン・マクレーンみたいな外人がおったそうですわ」

 

「……今、決まりやしたな」

 

「細長いマクレーンさん????」

 

 

 ロックの頭の中では、マクレーンの写真が縦に伸ばされている映像が流れた。

 

 そんな彼を放っておき、銀次は殺気立つ吉田と構成員らに対し命令をする。

 

 

「俺が先陣切りやしょう。他は入り口と裏口を固めてくだせェ」

 

「おい銀の字ィ! ふざけんじゃねぇッ! お嬢ぉ、(さろ)うた外道どもやぞッ!? わしらも行かせんかい!」

 

「今、この場所で……鷲峰が騒ぐのはマズイ。弾一発で、どこの組のモンか分かっちまう昨今……銃は使っちゃァいけねェ」

 

「サツが恐ろしくてヤクザやれるかいッ!!」

 

「そうじゃねェ、吉田」

 

 

 激昂する彼を嗜める為、銀次は半歩近寄る。

 その前に近くにいた構成員に耳打ちし、ロックを二人から離させた。

 

 ぞんざいに突き押され、当惑するロックを確認した後、銀次は吉田にしか聞こえないような声で話す。

 

 

「……今、警察にガサ入れられちゃァ困る。鷲峰が動けなくなりゃ、香砂やロシアどものさばらせるだけだ」

 

「……!」

 

「聞け。お嬢を助け、チャカって野郎だけ捕まえりゃァ良い。そうすりゃ他の裏切りモンは芋蔓だ。なるだけ静かに済まさないけねェ」

 

「せやかて……!」

 

「……若頭が戻らねェ以上、てめぇ勝手にドンパチは駄目だ……今は」

 

 

 目を逸らし、複雑な思いを表情に出す吉田。

 銀次は彼の肩に、右手を置いた。

 

 

「……安心しろ、吉田」

 

 

 顔を上げた吉田には、白鞘を見せつける彼の左手が見えた。

 力強く握られ、ブルブルと震えている事が分かる。

 

 

「……白刃の具合じゃあ、特定なんざ出来ねェ」

 

 

 怯えではない、怒りだ。

 銀次は怒りを押し殺し、冷静に打算を立てていた。

 

 

 

 

「……俺ァ、一旦『人斬り銀次』に戻る──お嬢の為に」

 

 

 一度だけ肩をぽんと叩いてから、コートの裾を翻しボウリング場の出入り口へと歩み出した。

 

 白鞘担いだ背を向け、一言だけ残して。

 

 

 

「……容赦はしねェ」

 

 

 彼の醸す覇気に当てられ、吉田は思わず黙り込んでしまった。

 気を取り直した頃には、銀次は一人ヒラノボウルの中へ消えて行った頃だ。

 

 

「………………」

 

「吉田さん。どうしましょか?」

 

「……おどれら、なにやっとんねん」

 

 

 呆気に取られていた構成員の頭を、吉田ははたく。

 

 

「銀の字の言うた通りせんかいッ! わしらァ、入り口固めるから、残りは裏口に行けッ!!」

 

「へ、へい!」

 

「捕まえんのはチャカだけや! 他は逃してもええ……あ、あと、お嬢は絶対に助けるんやぞッ! チャカ捕まえてお嬢助けられんかったら、おどれらシバくじゃすまんからなぁッ!?」

 

「ウッス!」

 

 

 命令通りに行動を開始する構成員ら。

 集まった数は六人ばかしと少人数だが、もしもの時の為に拳銃は全員持たせてある。立ち回り次第で十分な人数だろう。

 

 せかせかと裏口へ行く四人を見送った後、自身らも入り口で張り込みをしようかと歩き出す。

 

 

 

 

「……あの〜……」

 

 

 途端、控えていたロックがぴょこりと手を上げた。

 

 

「僕は、どうしたら……」

 

「……わしらの目の届くとこおらんかいッ!!」

 

「ですよね」

 

 

 ロックも吉田らのグループに付いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、レヴィは一人で酒盛りを始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度か通話を試みるチャカだが、一向に相手側からの応答はない。

 

 

「……ふっざけんなよ、全然出ねぇべ。大物のヤクザまでなりゃ、夜はきっちり寝んの? 健康志向かオイ」

 

 

 香砂会に何度かかけているものの、深夜帯でみんな眠っているせいで電話番がいないようだ。

 それから三回ほどかけ直したが、すぐに留守電のアナウンスが入った為にとうとう諦めた。

 

 

「駄目だ、全然出ねぇわ。まぁ、こんだけしつこくかけてりゃ、朝方折り返しで来るっしょ」

 

「おめぇ、とことん策士に向いてねぇなボケ」

 

 

 楽観的なチャカに呆れ、チェリオスは再びレーンに戻る。

 相変わらず他のメンバーはボウリングを続けていたが、雪緒はさすがに疲れ果ててしまい、席でうつらうつらと船を漕いでいた。

 

 チェリオスは上着を着ていなかったので、殴られて気絶していたラプチェフの高そうなジャケットを奪い、それを雪緒にかけてやる。

 

 

 

 

「……話しがつきゃあ、ユキオは解放だ。後は上手く立ち回るしかねぇ」

 

 

 ちゃっかり雪緒の隣に座り、アンナカとコーヒーをひたすら補給。

 チャカもまた自販機で買ったコーラを飲みながら、チェリオスに話しかける。

 

 

 

 

「そういやオメェよ?」

 

「あ?」

 

「そもそもなんで、チョコって奴探してんだ? やっぱアレか? 依頼人がいて〜、みてぇな?」

 

「……大当たりだ。三合会が俺のバックにいるってのは言ったろが」

 

「ならよぉ! 三合会が協力してるって感じがねぇのはおかしいべ? 三合会が助っ人っての、マジじゃねーんだろぉ?」

 

 

 アンナカを鼻から噴き出しながら、チェリオスはチャカに対し、初めて関心したような表情を見せる。

 

 

「いきなりIQ上げやがってこの馬鹿がぁ」

 

「薄々気付いてたっつーの」

 

「だとすりゃなんだ? 後ろ盾のない俺を……ここで俺を殺すか?」

 

「……いやぁ〜、まぁ〜……」

 

 

 

 

 実は一度か二度、舎弟に襲わせたりホテル・モスクワの支部にけしかけ殺そうともした……が、これは口が裂けても言えない。

 これらの行動も一応は、「チェリオスにバックはいない」と言う確信の下で、チャカは行ってはいた。

 

 

「……う〜ん、まぁな? それはしね〜けどよ?」

 

 

 心中で中指立てながらしらばっくれる。

 そんな事など全く知りようもないチェリオスは、淡々と話を続けた。

 

 

「なら詮索すんのはよせ。テメェらは金と香砂会の命が欲しくて、俺ぁチョコとモロ・サンに用がある。利害が一致してんだ、これでもう良いよなぁ?」

 

「ちょっとは教えたって良いだろが?」

 

 

 チェリオスは缶コーヒーをグビッと飲み干し、空き缶を捨てる。

 

 

 

 

 

「この世界で生き残るにゃァ多くを語らねぇ事だ、チンピラ。俺たちの世界にあんのは……」

 

 

 光のない目でチェリオスは、チャカを上目遣いで睨む。

 その瞳から放たれる気迫には、さすがの彼でさえもたじろいでしまった。

 

 

「まずは金……次に信頼だ。分かるかぁ? 日本人」

 

「あ……あぁ……分かるぜ? おぉ! 俺たちもそうだ!」

 

「ふざけんじゃねぇ、全然違ぇだろがボケナス。見やがれ、おめーの舎弟らをよ」

 

 

 全員、ボウリングをやり続けていたり、品のない談話を続けていたりと寛いでいる。

 

 

「これからマフィア一つ潰すってのに、緊張感のカケラもねぇ。なんだありゃ? こいつら、流行りの映画でも観に行くのか? これからよぉ? えぇ?」

 

「おめぇも割と楽しんでなかったか?」

 

「俺は仕方ねぇだけだ」

 

 

 誰かが転がしたボールが、ピンを弾き飛ばした音が響く。

 

 

「忠誠と、意識ってのがねぇ。あれじゃ銃持たせたところで、仕方ねぇぞ。ビビって尻向けてトンズラこくに決まってる」

 

「そうはさせねぇ。ビビった奴は殺してやるって言っとくからよぉ〜」

 

「馬鹿野郎が。またIQ落ちたかてめぇ。こっちが殺して数減らしちまえば同じだろが。それに脅しは土壇場じゃ意味ねぇボケ」

 

「んだとゴラ? てめーこそカフェインで脳細胞死んだんじゃねーか?」

 

「聞きやがれドチンピラぁ」

 

 

 キレて詰め寄ったチャカを、チェリオスは立ち上がって自ら詰めてやる。

 思わず彼は、チェリオスの空気に飲まれて黙ってしまった。

 

 

 

「脅しはなぁ? 考えがある奴が奥の手で使うからこそ効く。奥の手であって、常套手段じゃねぇ」

 

「意味分かんねーし」

 

「てめぇはなんだァ? チンケなクラブ経営して、副業でこれまたチンケなガキども集めて、コルレオーネと間違えてファシストごっこしてるだけだろが? へ?」

 

「てめぇ……」

 

「ガキ振り回して楽しんでんのは勝手だが、これは『戦争』で『仕事』だ。遊びじゃねぇぞ」

 

 

 チャカのすぐ目の前でアンナカを吸う。

 微かに舞う白粉の中から覗く彼の蘭々とした目が、射貫くようにチャカを睨む。

 

 チェリオスは愚連隊らを指差し、彼に命じた。

 

 

「あんな薄ノロどもはいらねぇ。きっちり仕事をこなせる、プロを集めやがれ。それが無理だとしてもな? 最後まで引き金を引ける肝の据わった奴を連れて来い」

 

「今からか!?」

 

「無理なら何とか、あいつらその気にさせろ。脅しじゃなくてなぁ? 正確な計画、それから終わった後の事と、特に金の分配……ビジョンだ。それで意識を変えさせろ。降りる奴は見逃せ。ただし裏切りだけは許すんじゃねぇぞ」

 

 

 肩を強く突き飛ばし、チェリオスは詰めていた距離を離させた。

 

 

 

 

 

 

「そうすりゃ信頼も信用も、後から付いて来る。そう言うもんだ」

 

 

 

 

 

 

 言い切り、また鼻からアンナカを噴く。

 呆然と立つチャカを無視して、また席に戻ろうと背を向けた。

 

 

 投げたボールが、ピンを盛大に弾く。

 軽快な音が響き、天井に据え付けられたスコア用のテレビには「ストライク」の文字が浮き出る。

 

 

 途端、それらを吹き飛ばすような轟音が現れた。

 

 場にいた者たちが目を向けた先は、ロビーに繋がる扉だ。

 

 

 

 

 

 

 

「──虎の尾ォ、踏んじまったばっかしに」

 

 

 

 扉を蹴破った男は一歩、ボウリング場に入る。

 

 

「別れ路の淵瀬(ふちせ)へお立ちなすった、三太郎(さんたろう)は──」

 

 

 

 音に驚き、雪緒がハッと目を覚ます。

 

 

「──お前さん方でやしょう?」

 

 

 

 

 チェリオスも踵を返し、振り返った。

 

 

 

 

 立っていた者は、短髪と髭の巨漢。

 コートを靡かせ、ぺたぺたとサンダルを鳴らす。

 

 瞳は伺えない。代わりにサングラスが、男たちを真っ黒に写した。

 だがその向こうにある怒りが、殺意が、執念が……漏れ出し、辺りを飲み込んではいた。

 

 

 片手に下げた白鞘の先が、かつんと床を叩く。

 

 

 

 

「銀さん……!?」

 

 

 驚きの声は、雪緒のもの。すぐにサングラスは男たちから、彼女の方に向く。

 ライトの光がそれをギラリと、光らせた。

 

 

 

 

「……見参いたしやした、お嬢」

 

 

 

 

 雪緒の前に立ち、視界を遮った者はチェリオス。

 彼は真正面から、銀次の前に立ちはだかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロックたちは、入り口前で腰掛けて待機していた。

 寒い東京の深夜。皆、白い息を然りに吐き、手を擦って暖を取ろうとする。

 

 

 その間電話をしていた一人の構成員が、ホッとした様子で吉田に報告した。

 

 

「若頭の手術が終わりやした!」

 

「おぉ!? ホンマか!?」

 

 

 ここまでずっと厳しい顔付きだった吉田だったが、やっと綻びを見せた。

 

 

「ただ、まだ意識は戻らんようでさ。全身包帯塗れで安静にしとるそうで」

 

「生きとったらええわッ! いや、ホンマに良かった……!!」

 

「マジ良かったッス……!」

 

 

 吉田と構成員らは涙ぐみ、そのまま抱き合って男泣きを始めた。

 ロックは横で「スクール☆ウォーズ」のワンシーンみたいだなと思いながら、「あっ!」と声を上げて電話を取り出す。

 

 

「……レヴィに連絡忘れてた……怒ってるだろうなぁ……」

 

 

 かけようかと思ったが、「今は寝ている頃だろうか」と予想し、彼女の安眠の為にやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロックの予想は外れてはいた。

 

 その頃レヴィは酔った勢いと、帰って来ない相棒へのモヤモヤから一人で────これを描写すると上映禁止にされかねないので、割愛する。(監督のコメンタリーより)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだかんだ身内に優しいレヴィだ。後から適当に言い訳すれば良いと考え直す。

 電話をしまうと、北風がロックに流れ込む。

 

 寒さに当てられ、尿意を催してしまった。

 

 

「……あの〜」

 

「おんおんおんおん……おぉ!? なんやワレェッ!?」

 

 

 おんおん泣いていた吉田が、ロックに食ってかかる。

 申し訳なさそうに頭を下げながら、ボウリング場内を指差す。

 

 

「……お手洗いに、行ってもよろしいでしょーか……?」

 

「今か!? 我慢出来ひんのか!?」

 

「コーヒー飲んじゃいまして……」

 

「どっか、駐車場の見えへんとこでせぇや!」

 

「立ちションはちょっと……」

 

 

 吉田はガシガシと自慢のパンチパーマを掻いた後に、煩わしそうに呻いてからロックを睨む。

 

 

「あーもうッ! 行ってこんかいッ!! 静かにやでッ!? バレたら、東京湾沈めたるからなぁッ!?」

 

「は、はい。静かに行きますので……」

 

「四十秒で済ませッ!!」

 

 

 そう言ってペコペコ頭を下げながら、彼もボウリング場へと入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀次を確認し、安心した様子で立ち上がる雪緒。

 だがチャカが彼女を引き止め、前に立つチェリオスが銀次を隠してしまった。

 

 

 チェリオスはぎろりと、銀次を睨む。

 この空間に於いて、彼の放つ覇気をまともに受けられたのは、チェリオスしかいない。他のメンバーは多少、慄きを見せている。

 

 

「……なんだァ? この(あん)ちゃん。ターミネーターのコスプレか? 日本人がやると間抜けに見えるからやめろって、奴に通訳しやがれ」

 

「……そちらさんも外人雇った訳ですかい。良くねェ眼だな……お前さん方にゃァ勿体ねェほど、良くねェ眼だ」

 

「こいつも英語話せねェのかァ? てか、まずこいつ誰だオイ?」

 

「兄さんが何者か知らねェが、日本でいンなら、日本語話すンが礼儀でやしょ?」

 

 

 拘束されながらも、必死に雪緒は弁明してやろうとする。

 

 

「ま、待って銀さ──んんっ!?」

 

 

 それをチャカが、口を押さえて必死に黙らせた。

 

 

「いやぁ〜、まさかまさか、アンタがさぁ、ここに来ちゃうなんてね〜? もうさ、ヤクザやめて、探偵すりゃ良くね?」

 

 

 怒りを抑え込むように、銀次は深く鼻から息を吐く。

 ぎりぎりと、鞘を握る手の力が強まった。

 

 

 

 

「……お嬢からその、汚ねェ手を離しやがれ」

 

「オイッ!! ユキオがかわいそうだろッ!!」

 

 

 途端チェリオスも、雪緒を抱き竦めるチャカに振り向いて怒鳴り付けた。

 ガクッと、ずっこけかけるチャカ。

 

 

「……おめーはどっちの味方なんだよ!?」

 

「ユキオの味方だ」

 

「マジでブレねぇなお前」

 

 

 気を取り直すように、溜め息を吐く。

 チャカは薄ら笑いを浮かべながら、及び腰な愚連隊のメンバーに告げた。

 

 

「おいおい! ビビってんじゃねーぞゴラッ! あっち一人で、俺たちの方が多いじゃん? しかもあっち、刀だぜ刀ッ!!」

 

 

 メンバーらは彼の言葉を聞いて、ざわつき始めた。

 確かにこっちの方が数的に有利ではある。銀次の醸す覇気に、完全に飲まれていた。

 

 

「囲ってリンチすりゃあよぉ、一発だぜ? しかもこっちにゃ、秘密兵器のミスター『アホ』クリスマスも付いてんだ!」

 

 

 日本語が分からない彼に、これとなしに「アホ」を付け加える。

 チェリオスは分からないなりにも、なぜか直感的にカチンと来た。

 

 

「ほらほらビビんじゃねぇッ! 全員さっさと武器構えろィ!!」

 

「あの」

 

「ほら、とっととしやがれ!」

 

「あの、チャカさん」

 

「だから早く……あ? なんだ?」

 

 

 おずおずとメンバーの一人が、チャカに耳打ち。

 

 

 

 

 

「……武器、無いッス」

 

 

 

 

 少しだけ思考停止し、辺りを見渡す。

 愚連隊は銀次を囲むどころか、いつの間にか雪緒より後ろの方へ移動していた。

 

 

 全員、確かに武器の類は持っていない。

 

 

「……なんで持ってねぇんだよ? おい銃とか入れた鞄は?」

 

「車の中ッス……」

 

「は?」

 

「いや、だってチャカさん……」

 

 

 男はチェリオスを指差した。

 

 

 

 

 

 

「……あのミスタークリスマスが、ゆっきーが怯えるからって……」

 

 

 

 

 瞬時に数時間前の記憶が蘇る。

 ボウリングやりまくったインパクトが強過ぎて、失念していた。

 

 

 

 チェリオスが、武器全てを車に戻すように言い、渋々チャカが命じたのだった。

 今この場に、刀持った大男に立ち向かえる物は何も無い。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 自分の懐をチラリと見る。

 

 ニューナンブしか持っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「相棒ッ!! あいつ、ゆっきーの『婚約相手』だッ!!」

 

「!?!?!?!?」

 

「よし、信じた。アホだ。逃げよう」

 

 

 そう嘘を吐いた後、雪緒を連れてメンバーらと逃げた。

 即座に銀次は彼らを追おうとするが、立ちはだかる一人の男に阻止される。

 

 

 

 

 

「……!……どいてくれやせんか?」

 

 

 立ちはだかる男とは、チェリオスだ。彼はチャカの嘘を間に受けている様子。

 わなわなと震え、血走った目で銀次を睨む。

 

 

 

「おいテメェ……!? ユキオの、婚約相手だァ……ッ!? おっさんじゃねぇか……!?」

 

 

 アンナカの袋を口で破り、彼の目の前で吸い込む。

 その様を冷めた目で眺めている銀次。

 

 

「だからシャブは売るなと……」

 

「政略結婚って奴か……!? かわいそうに……ッ!! 許せねェクソ……ふざけんじゃねぇ……ッ!!」

 

「兄さん、ちょいと横にはけてくれ」

 

 

 チェリオスはズボンの隙間に挟んでいた、スタームルガーを見せ付ける。

 

 

 銃を視認した銀次は、ゆっくりと柄を握る。

 

 

「……やるってんですかい」

 

 

 チャカらは雪緒を連れて、ロビーの方へと消えて行ってしまった。

 落ち着いているが、もう銀次も我慢の限界に達する。

 

 

 

 

 握った柄を、少しずつ引き上げた。

 ぎらりと、白刃が鈍く光る。

 

 

「ドグサれニセターミネーターがァ……気に食わねェ……一目見た時から気に食わねェんだ、てめぇ……」

 

「……そんなに俺の刀が見てェか……」

 

「しかもユキオの婚や……いいや、認めねェクソ野郎……ッ!! 見た目変態じゃねぇか!?」

 

「………………」

 

「…………クソが」

 

 

 

 

 チェリオスは、ルガーのストックを握る。

 

 銀次は、刀を白鞘から抜いた。

 

 

 

 開戦の合図は、まさにそれだ。

 派手な銃身と、飾りのない白刃が光る時、二人の怪物が相見える。

 

 

 

 

 

 チェリオスが銃口を向けた瞬間、銀次はもう刀を構えて眼前まで飛びかかっていた。




「ふざけるんじゃねぇよ」
「頭脳警察」の楽曲
1972年発売「頭脳警察3」に収録されている。
色んな意味で伝説のパンクバンド。全共闘による学生運動が激化した最中で当時の情勢を汲んだ過激な曲を作り、ファースト、セカンドアルバムに関しては発売禁止(ファーストアルバムは2000年に再販された)。因みになんと、現在も活動中。
彼らのファンで有名なのは内田裕也で、彼の映画作品である「コミック雑誌なんかいらない!」は頭脳警察の曲のタイトルから取った。

シンプルなサウンド、抑制に対する怒りなど「まさにパンク」な一曲。
一切のオブラートも無しに吐き出される「クソッタレ、馬鹿野郎!」「動物じゃないんだ!」と言う過激な魂の叫びが妙に響く。
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