DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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Bring Back Our Love!!

「ッ……!!」

 

 

 身体を逸らし、銀次の放った一撃を避ける。

 チェリオスの眼前に銀色の光線が通ったが、それが真剣の残像だと気付いたのはワンテンポ遅れてからだ。

 

 

 斬り払い、避けられたと知った銀次は刃先を立て、突きに入る。

 刃渡りは七十センチ超。到達はあっという間だ。

 

 

 

 

「舐めんなッ!!」

 

 

 瞬時に軌道を見極め、刀の峰を叩き、突きによる一点攻撃をズラす。

 勢いそのままに突っ込んだ彼の懐へ、チェリオスは自動的に入った。

 

 構えていた銃口が、ゼロ距離で銀次の胸に触れる。

 

 

 

 

 だが引き金は引けなかった。

 指をかける前に、攻撃の失敗を察した銀次が、チェリオスを蹴り飛ばしたからだ。

 

 

「ぶげぐ……ッ!?」

 

 

 大股で三、四歩ほどノックバック。

 そのまま後方にあった、投げたボールが戻って来るパワーリフト……ボールリターンと言う名称の機械だが、それに腰をぶつける。

 ボールリターン上には、三つほどボールが残っていた。

 

 

 

 

 完全に態勢を崩した彼を待つほど、甘い男ではない。

 銀次は刃を立て、チェリオスの脳天をかち割らんと振り上げた。

 

 

 一歩、二歩、三歩で飛びかかり、彼の禿げ上がった頭目掛けて白刃を下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒラノボウルの裏口で張り込む、四人の鷲峰組構成員。

 持参したカイロで指先を温めながら、暫しその時を待つ。

 

 亡くなった組長、その一人娘が窮地にある。誰一人として雑談をする者はいない。

 ダストボックスの影で身を潜め、さながらジッと我慢の子であった。

 

 

 

 途端、裏口の扉からドタバタと音が響く。

 構成員らが注目すると、扉が勢い良く開き、数人の若者が大急ぎで出て行った。

 

 

「愚連隊の奴らだ、間違いねェ……!」

 

「チャカの野郎……! 藤島がムショ食らった時に追い出しときゃ良かったンだ……!」

 

「あいつらは見逃せ。銃撃戦なったら、お嬢が危ない」

 

「チャカはいるンか!? お嬢は……!?」

 

 

 懐から拳銃を抜き、チャカと雪緒が出て来たか確認する。

 しかし出て来た者は彼の舎弟ばかりで、二人の姿はない。

 

 

「出て来てない! 吉田さんらの方行ったか……!?」

 

「タカさん、どないしましょ?」

 

「いや待て。まだ誰か……」

 

 

 最後にまた扉が開き、よたよたと汚れたシャツ姿の外国人男が飛び出す。

 顔はボコボコに腫れ、目付きばかりが殺意に溢れている。

 

 

「外人が出て来たぞ……鼻が高いからアメリカか?」

 

「ありゃ、イタリア人だろ。髭生えてスケベぽかったからな」

 

「オーストラリア人だと思うぜ。オーストラリア人の英語はイギリスのモンと近いて、知ってっか?」

 

「どこの奴かどうでも良いだろがッ!……ンだが、また外人だァ? 妙だなオイ……」

 

 

 きな臭さを感じた、四人の纏め役でもあるタカは、いきなりダストボックス裏から出た。

 

 

「お前らァ、ここで張っとけ! 俺が見て来る!」

 

「た、タカさん!? 吉田さんにシバかれますよ!?」

 

「シバかれでも指詰めでもやったらァ! お嬢の為だァ!」

 

 

 それだけ言い残し、タカは意気揚々とヒラノボウル内へ突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──── 一歩、二歩、三歩で飛びかかり、彼の禿げ上がった頭目掛けて白刃を下ろす。

 チェリオスの頭部は真っ二つになって、そのまま死ぬだろう。

 

 

 だが彼は、ボールリターンに残されていた十七ポンドのボールを取り、盾にする。

 

 刃はボールを砕き、斬ってやった。しかしチェリオスまで到達はせず。

 

 

「ッ!?」

 

 

 チェリオスは即座にスタームルガーを構え、暫し膠着状態となった銀次に目掛けて撃ち放つ。

 

 

 

 

 弾丸は銀次を外した。

 寸前で彼はチェリオスの腕を蹴り、射線をずらしてやったからだ。

 

 

「DAMNッ!!」

 

 

 悔しがるチェリオスの声を無視し、銀次は身体を横へ落とした。

 全体重をかけて上半身を落とした事で、刀はボールから抜けた。

 

 

 追撃が来ると察したチェリオスは、照準を合わせるよりも危機回避が優先だと即判断。

 案の定、抜けた途端に横から斬りかかる銀次。

 

 チェリオスはボールを手放し、その場でカエルのように平伏す。

 すぐ真上を、閃く白刃が通った。

 

 

 

 

「避けやがった……ッ!」

 

 

 チェリオスは曲げていた手足をバネに、瞬時に立つ。

 後ろへ引こうとする銀次の顔面へ、銃を握ったまま手の甲を使って目打ち。

 

 

「ぐぅ……ッ!?」

 

「危ねぇだろがッ!!」

 

 

 怯みを見せた彼へ、間合いを詰めたチェリオスは逆の手でエイプを放つ。

 攻撃は銀次の横アゴに直撃。

 

 

「な……ッ!?」

 

 

 だが、まるで痛みなど無視したかのように、チェリオスの攻撃を真正面から見据えた上で彼の腕を掴む。

 それを捻り上げ、逆にチェリオスを拘束。

 

 

 

 チェリオスは大急ぎで照準を合わせ、撃ち抜こうとした。

 それすらも銀次は、白刃の峰を当てて外してやる。

 

 

 このままでは膠着状態に持ち込まれると踏んだチェリオスは、彼の腹を蹴り飛ばす。

 両者、やっと間合いが離れる。

 

 

 チェリオスはすぐにスタームルガーを向け、撃つ。

 

 

 

 対して銀次は身体を屈めて左右に素早く動き、諸手で柄を握ったまま迫った。

 逆袈裟斬りで放たれた彼の一撃は、チェリオスが身体を逸らす事で回避される。

 

 

 

 

 だがその形から彼は、追撃が可能だった。

 逆袈裟が避けられたならば、また峰と刃とを持ち変え横斬り。

 

 チェリオスは刃の進行方向へ倒れ込みながら、銀次の鳩尾合わせて銃を撃つ。

 今度は銀次が横に倒れ込み、弾を回避。

 

 

 

 

 両者、アプローチスポットにばたんと倒れる。

 

 刹那両者、床に手を付き態勢を整え、立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 チェリオスは照準を合わせ、銀次は白刃を上段構えで突っ込んだ。

 

 引き金を引こうとした時には、彼は射線を外れてすぐ目の前まで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 銃器と近接武器。感じで見れば、銃の方が遠・中距離から攻撃出来るので、有利かと思われる。

 

 しかし、そうとも限らない。

 敵を視認し、構えて、照準を合わせる──発砲までには、様々な準備がある。それは訓練された兵士でも、なかなか一瞬で行えるものではない。

 しかも相手は動いている為、当てにくいと来た。

 

 

 その隙に近接武器を持つ者は、一気に距離を詰めて懐に入り込める。撃たれる前に迫ると言うのは、実は簡単な事だ。

 銀次は修羅場を超えて来た経験から、それを理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対するチェリオスもまた、近接武器を持つ相手との戦いを経験していた。

 彼は姿勢を低くし、敢えて銀次の胴体目掛けてタックル。

 

 

「うッ……!?」

 

「OUCHッ!!」

 

 

 斬られる前にぶつかられ、銀次は後ろへふらつく。

 チェリオスもまた、突進して来た者に突進したのだから、エネルギーの中和で同じくダメージを負う。

 

 

 しかし相手へ隙を作ってやった。

 ふらつきながらもチェリオスは銃口を向け、倒れそうな銀次へと発砲する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀次との相手をチェリオスにおっ被らせたチャカは、舎弟らと共にボウリング場を脱出するべく走っていた。

 数人は裏口へ向かって逃げているが、チャカと雪緒ともう二人は表から出ようとしている。

 

 

「チャカさん! 俺らも裏から逃げません!? 鷲峰の奴らが張ってるかも……」

 

「馬鹿野郎ッ! 車置いてんの、表の駐車場だろぉ!? ゆっきー人質にすりゃ大丈夫だ!!」

 

 

 ニューナンブを雪緒のコメカミに当てる。

 ガチッとそれをぶつけられた彼女は顔を顰めた。

 

 

「いた……!」

 

「おうおう、ゆっきーよぉ! 俺はあのハゲと違って、優しくねぇからよぉ〜?」

 

「チャカさん、それはちょっと可哀想じゃないっすかね?」

 

「……オメェらハゲに感化されてんじゃねぇボケッ!!」

 

 

 様子を見に来たヒラノボウルの支配人を突き飛ばし、ロビーを横断して走るチャカたち。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 その時、ハンカチで手を拭きながら、トイレから出て来た青年と鉢合わせる。

 彼の顔を見た瞬間、チャカは足を止めて「あっ!?」と声をあげた。

 ただし、声をあげたのは、雪緒も青年もだ。

 

 

 

「オメェ!? あん時の通訳かァ!?」

 

「岡島さん!!……え!? 岡島さん!? どうして!?」

 

「……は!? え!? 雪緒ちゃん!? ここで!?」

 

 

 青年とは、ロックの事だ。

 ニューナンブを雪緒に突きつけ、チャカは怒鳴る。

 

 

「動くんじゃねぇッ!! ゆっきー撃つぞッ!!」

 

「岡島さん逃げてください!!」

 

「わーわーわー!! お、落ち着け!! 落ち着いて彼女を解放するんだ!! 彼女の代わりに、僕が人質になるから!!」

 

 

 三者が一斉に喚き合う。

 

 

「交渉人の決まり文句は良いんだよォッ!! まずテメェから撃つかぁッ!? おおッ!?」

 

「わ、私は大丈夫ですから!! 逃げてっ!!」

 

「わわわ分かったッ!! 撃ちたきゃ撃てッ!! そうなったら、ホテル・モスクワは君を許さないッ!!」

 

「撃つぞぉ!? 撃つかんなぁッ!?」

 

「え? ホテル・モスクワって?」

 

 

 混沌とする三者を見ながら、他の舎弟二人はどうすべきか顔を見合わせている。

 故に背後から近付いていた、もう一人の存在に気付く事はなかった。

 

 

「後悔するぞッ!! 撃てば必ず……ッ!!」

 

「うっせぇうっせぇッ!! まずてめぇから殺し──」

 

「おいチャカ」

 

 

 

 

 

 

 その人物はチャカの背後に立つと、一言呼びかけた。

 

 

「は?──グエッ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 

 素っ頓狂な声をあげたチャカ目掛け、彼は銃床で殴る。

 ガツンと頭部を強く殴られたチャカは、雪緒を解放してその場で伸びた。

 

 

 

 

 

 不意打ちをかました人物とは、裏口から侵入したタカだった。

 

 

「通訳の兄ちゃん、やるじゃねェか。良く時間稼いでくれたもんだ」

 

「僕も助かりました……あと一秒くらいで撃たれてましたけどね」

 

 

 そのままタカは、呆然と立ち尽くしていた舎弟二人を睨む。

 二人は身体を震わした後、チャカを置いて逃げ去ってしまった。

 

 

 解放された雪緒は丸い目をしたまま、交互にロックとタカを見つめる。

 ハッと、助けて貰った事を思い出し、深々と頭を下げた。

 

 

「あ、ありがとうございます! 助かりました!!」

 

「やめてくだせェ、お嬢! 寧ろお嬢をみすみす攫わせちまって、申し訳ねェでさッ!!」

 

「雪緒ちゃん、怪我はないかい?」

 

 

 心配するロックに対し、雪緒は戸惑いを含ませた微笑みを浮かべる。

 なぜか着せられていた、高そうなコートのお陰で寒さはない。

 

 

「怪我とかは大丈夫なのですが……」

 

「良かったです、お嬢……! もうあっし、お嬢に何かあったら腹を切るつもりで……!!」

 

「それより岡島さんも……どうやってここが?」

 

 

 

 

 

 ロックとタカはここまでの経緯を話してやった。

 懐から、彼女の携帯電話を返す。

 

 

「君の落とした携帯電話で、銀次さんや鷲峰組の人たちに伝えたんだ」

 

「そンでして、兄ちゃんが言ってたチンピラ風の奴らを洗ってみりゃァ、チャカらが妙な動きをしていたって聞きやして」

 

「後はその人が良く集会を開いているボウリング場に行って、ケ・セラ・セラ……ってね」

 

「初動が良かったンですわ。あとコイツらが馬鹿って事ぐれェでしょうな」

 

 

 気絶状態の彼をタカは、無理やり引き摺り立たせる。

 次には携帯電話を使い、表にいる吉田らへ連絡。これでもう、雪緒の身の安全は保証された。

 

 

「本当にありがとうございます……連れ去られた時、本当に恐ろしくて恐ろしくて……」

 

「もう大丈夫。後は吉田さんと、銀次さんが……」

 

 

 銀次の名前を出した時、「あっ」と雪緒は思い出す。

 

 

「銀さん!? そうだった!! あ、あ、あの! 付いて来てください!!」

 

 

 ロックの手を引き、来た道を戻ろうとする。今度は彼が困惑する番だ。

 

 

「え? ちょ、ちょっと待って!? どうしたの!?」

 

「銀さんと、クリスマスさんを止めないと!」

 

「クリスマスさん……? 誰だそれ……って、待って待って!? 携帯落としてるから!!」

 

 

 雪緒に手を引かれた時に落としてしまったのだろう。

 一旦彼女を落ち着かせ、床にあった携帯電話を拾い上げた。

 

 そのタイミングで、吉田らが二人の元へやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ふらつきながらもチェリオスは銃口を向け、倒れそうな銀次へと発砲する。

 

 

 だが引き金を引き、撃鉄が銃弾の雷管を叩くまで、そのたった一瞬。

 

 

 

 銀次は倒れそうになりながらも、刀を振るった。

 距離が離れていた為、刃の先しか届かなかった。

 

 それでも刃先は銃の先端に直撃し、射線をズラす。

 

 

 

「う……ッ!?」

 

 

 チェリオスに、心臓の痛みも襲いかかる。

 銃を握る手の力が緩まってしまった。

 

 

 

 銀次の刃で叩かれたスタームルガーは、チェリオスの手から離れて飛ぶ。

 

 

「しまった……ッ!!」

 

 

 やってしまったと動揺し、顔中に痛みが走る。

 今から銃は拾いに行けない。それに心臓も止まりかけていた。

 

 

 

 

 

 銀次としても、まさか彼が得物を手放すとは思っていなかった。

 故にこれは好機だと悟り、チェリオスとの間合いを一足で詰める。

 

 

 

 

 諸手で握り、振りかぶり、渾身の力を込めて下ろす。

 だがチェリオスは膝立ちになりつつ、下ろし切る前の彼の手を取り、鼻先までで止めた。

 

 

 

「……ッ!? なんつゥ馬鹿力……ッ!!」

 

「うぅ……ッ!! 心臓が……ッ!!」

 

 

 とは言え、このままでは銀次に押し負けてしまう。

 

 

 

 その前にチェリオスは彼の腕を横へずらし、力を流してやる。

 刀はぐっさりと床に刺さってしまった。

 

 

「ッ!!」

 

 

 チェリオスはポケットからアンナカの入った袋を取り出す。

 

 

 彼の刀で袋を切ると、粉を空中にばら撒いた。

 

 

 振りそそぐアンナカの白粉を、チェリオスは目一杯鼻から吸引。

 次第に次第に、胸の痛みは無くなって行く。

 

 

 

 アドレナリンが分泌され、血中に満ち満ちる。

 

 

「筋金入りのヤク中が……ッ!!」

 

「うおおおおおおおッ!!!!」

 

「んッ!?」

 

 

 間髪入れず彼の服の襟を掴み、全体重をかけてレーン側へ倒れ込む。

 刀を引き抜こうとするも、これによって振るう事は出来なかった。

 

 

「なん……ッ!?」

 

「おおおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!!!!」

 

 

 銀次の巨体が持ち上がる。

 宙に浮き、気付いた頃には、ボウリングのレーンへ投げ飛ばされていた。

 

 投げ飛ばすまでのその所作は、柔道の「体落とし」のフォームだ。

 尤もチェリオスは意識してやった訳ではない為、床に倒す前に手放しているが。

 

 

 

 

 

「──うぐッ!?」

 

 

 四メートルばかし飛び、レーン上に着地。

 受け身を取るも、塗られているワックスのせいで失敗してしまう。

 

 

 ツルツルと滑って行き、ガツンとピンを全て弾き飛ばす。

 

 

 

 

 

 荒い呼吸で見据えるチェリオス。

 頭上にあるテレビのスコアが、「ストライク」の文字を映した。

 

 

 

「───イカれてやがンな……!」

 

 

 即座に起き上がる銀次。

 だが握っていた刀が無くなっていると気付き、辺りを見渡す。

 

 

 刀は二つ向こうのレーンにある、ガターの中に埋まっていた。投げ飛ばされた時に離してしまったようだ。

 

 

 

 チェリオスはさっと、隣のレーンを見る。

 そこには自身も手放してしまったスタームルガーが落ちていた。

 

 場所は、ピンの前。

 手から離れ、ワックスを滑ったようだ。

 

 

 

 

 

 丁度、銀次の刀とそのスタームルガーは、真逆の位置にある。

 

 まず、二人は互いに目配せした。

 

 

「……ッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

 一斉に自身の武器を取り戻さんと、動き出す。

 

 

 銀次はワックスを踏まないよう、ガターを足場に必死に跳ぶ。

 チェリオスは助走をつけ、レーン上に腹から滑り込んだ。

 

 

 レーンを跳ぶ銀次、滑るチェリオス。

 チェリオスがスタームルガーを手に取り、ピンを全て身体で弾いた時、銀次も刀を取り戻した。

 

 

 

 

 

 だが、足場が不安定なレーン上で、満足に刀を振るえるものか。

 

 チェリオスは銃口を向け、引き金に指をかけ、

 

 

 

 

 

 

 

 

「SUSHI, and────TENPURA」

 

 

 意味不明な掛け声と共に、引いた。

 

 

 

 

 爆音と共に発射された、.44マグナム弾。

 真っ直ぐ真っ直ぐ、空気の海を螺旋状に裂いて飛び、銀次の心臓を狙う。

 

 もはや避けられまい。やっと手に取れた真剣を手に、ボウリングのレーン上で、ワックスに塗れて死ぬのだ。

 

 

 

 

 そう思われた。

 

 銀次が刀を構えて勢い良く斬り、弾丸を明後日の方向へ弾き飛ばしてしまうまで。

 

 

 

 

 

「──んッ!?」

 

 

 動揺をバネに、もう一発。

 その一発もまた、銀次の一閃で弾かれてしまう。

 

 

「ターミネーターでもしねぇぞ、んなの」

 

 

 呆然としている内に、銀次はチェリオスのいるレーンへ向けて跳ぶ。

 

 

 

 

「クソッ……来やがれ……ッ!!」

 

 

 銃口から立ち上る硝煙を薙ぎ払うよう、照準を合わせ直す。

 また迫り来る銀次へ、チェリオスは真正面から立ち向かう。

 

 

 

 両者が再度ぶつかり合うまで、残り五メートル。

 刀を構え、引き金に指をかける二人。

 

 次で勝負が決すると思われた刹那、扉が乱暴に開かれた音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、チャカは構成員三人に引き摺られ、連行されようとしていた。

 

 

「このダボがッ!! 指詰めるですまさんからなッ!!」

 

「離せやゴラァッ!? ざけんじゃねぇクソがッ!?」

 

「暴れんなッ!! オイ! 縛れ縛れッ!!」

 

 

 駐車場で喚き、抵抗するチャカを必死に押さえている。

 このまま乗って来た車に乗せて、どこかひと気のない場所でケジメを付けさせるだけだ。チャカの人生の幕引きは近い。

 

 

 

 

 

 だが彼は、悪運が強かった。

 

 突然、チャカたちの前方から、一台の車がヘッドライトを浴びせてきた。

 

 

「な、なんだァ!?」

 

「うおお!? おい、テメェの仲間かぁッ!?」

 

「ケータイ落としたから助けも呼べねぇよッ!?」

 

 

 甲高いエンジン音を鳴らし、なんと彼ら目掛けて突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 運転していた人物は、ロシア人──こと、ボコボコ顔のラプチェフ。

 裏口から逃げた彼が、愚連隊から車を奪い、四人に突進して来た。狙いはチャカだが、鷲峰組の構成員も巻き添えだ。

 

 

 

 

 

 

「轢き殺してやるぅぅーーーーッ!!!! ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

 

 エンジン音さえかけ消すような怒号を、ロシア語で喚きつつアクセル全開。

 これには筋金入りのヤクザたちも、肝を冷やした。

 

 

「ロシア人が突っ込んで来たぞッ!!??」

 

 

 チャカの叫びと同時に、四人は散り散りに飛んで回避。

 

 

「うおおおおお!?」

 

「危ねぇーーッ!?」

 

「何すんだッ!?」

 

 

 時速一二◯キロは出ていた車は、さっきまで四人がいた場所を通過する。

 

 

 

 激しいスキール音を響かせ、車は上手い具合にドリフト。

 再度ボンネットを男たちへ向け、また突っ込んだ。彼は誰か轢くまでやめないつもりらしい。

 

 

 

 

「KGBの怒りを喰らえッ!! 震えて死ねイエローモンキーッ!! ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

 

 構成員らも、もう堪らないと銃を取り出し、ラプチェフ目掛けて発砲する。

 それでもブレーキを踏まないラプチェフの車は、また男たちに突っ込む。

 

 

「うぎゃーーッ!?!?」

 

「おおおおおーーッ!?!?」

 

 

 今度は構成員二人が避け損ない、一人は左腕をぶつけられ、もう一人は爪先をタイヤで踏まれた。

 即座に残りの一人が銃を撃ちまくり、カバーをする。

 

 

 その甲斐あってか、ラプチェフは追撃を取りやめて轢き逃げる。

 テールライトの赤い残像を残し、夜道を去ってしまった。

 

 

 

 残るは轢かれた者たちの阿鼻叫喚。

 

 

 

「腕がぁあぁあーーッ!!」

 

「足がぁぁーーーーッ!!」

 

「お、おい大丈夫か!? 大丈夫じゃねぇなぁッ!?」

 

 

 二人の元へ駆け寄った構成員は、ハッと気付く。

 

 いつの間にか、チャカも消えていたからだ。

 

 

「あッ!?!? チャカ坊が消えたッ!?」

 

 

 辺りを見渡すが、もうチャカの姿や痕跡さえ残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──扉が開かれ、次には少女の叫び声。

 

 

「ストォーーーーップッ!!」

 

 

 その声を合図に、二人はピタリと止まった。

 

 

 暫く視線を合わし、お互いに武器を下ろす。

 それからくるりと、声のした方を見やる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼェ、ゼェ……ま、間に合った……!」

 

 

 

 高そうなコートを羽織った雪緒が、息を乱して立っていた。

 男らは素っ頓狂な表情を見せて固まる。

 

 

「……お嬢?」

 

「ユキオ!!」

 

 

 二人が同時に彼女を呼んだ途端、ぞろぞろとロックや吉田、数名の構成員が後に続く。

 チェリオスと銀次の喧嘩は、引き分けに終わったようだ。




「愛を取り戻せ!!」
「クリスタルキング」の楽曲。
1984年発売のシングル曲。ご存知、アニメ「北斗の拳」の主題歌。
ボーカルの一人である田中昌之と言えば、特撮ファンならば「ウルトラマンガイア!!」「仮面ライダークウガ!!」を歌っている人と言えば通じる。びっくりマーク好きなんですね。

低音高音の両方で放たれる熱量に満ちたツインボーカルと、無骨なリリックにメロディー。そして全編サビのような進行は、聞く人を奮い立たせる。
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