DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread. 作:明暮10番
「ッ……!!」
身体を逸らし、銀次の放った一撃を避ける。
チェリオスの眼前に銀色の光線が通ったが、それが真剣の残像だと気付いたのはワンテンポ遅れてからだ。
斬り払い、避けられたと知った銀次は刃先を立て、突きに入る。
刃渡りは七十センチ超。到達はあっという間だ。
「舐めんなッ!!」
瞬時に軌道を見極め、刀の峰を叩き、突きによる一点攻撃をズラす。
勢いそのままに突っ込んだ彼の懐へ、チェリオスは自動的に入った。
構えていた銃口が、ゼロ距離で銀次の胸に触れる。
だが引き金は引けなかった。
指をかける前に、攻撃の失敗を察した銀次が、チェリオスを蹴り飛ばしたからだ。
「ぶげぐ……ッ!?」
大股で三、四歩ほどノックバック。
そのまま後方にあった、投げたボールが戻って来るパワーリフト……ボールリターンと言う名称の機械だが、それに腰をぶつける。
ボールリターン上には、三つほどボールが残っていた。
完全に態勢を崩した彼を待つほど、甘い男ではない。
銀次は刃を立て、チェリオスの脳天をかち割らんと振り上げた。
一歩、二歩、三歩で飛びかかり、彼の禿げ上がった頭目掛けて白刃を下ろす。
ヒラノボウルの裏口で張り込む、四人の鷲峰組構成員。
持参したカイロで指先を温めながら、暫しその時を待つ。
亡くなった組長、その一人娘が窮地にある。誰一人として雑談をする者はいない。
ダストボックスの影で身を潜め、さながらジッと我慢の子であった。
途端、裏口の扉からドタバタと音が響く。
構成員らが注目すると、扉が勢い良く開き、数人の若者が大急ぎで出て行った。
「愚連隊の奴らだ、間違いねェ……!」
「チャカの野郎……! 藤島がムショ食らった時に追い出しときゃ良かったンだ……!」
「あいつらは見逃せ。銃撃戦なったら、お嬢が危ない」
「チャカはいるンか!? お嬢は……!?」
懐から拳銃を抜き、チャカと雪緒が出て来たか確認する。
しかし出て来た者は彼の舎弟ばかりで、二人の姿はない。
「出て来てない! 吉田さんらの方行ったか……!?」
「タカさん、どないしましょ?」
「いや待て。まだ誰か……」
最後にまた扉が開き、よたよたと汚れたシャツ姿の外国人男が飛び出す。
顔はボコボコに腫れ、目付きばかりが殺意に溢れている。
「外人が出て来たぞ……鼻が高いからアメリカか?」
「ありゃ、イタリア人だろ。髭生えてスケベぽかったからな」
「オーストラリア人だと思うぜ。オーストラリア人の英語はイギリスのモンと近いて、知ってっか?」
「どこの奴かどうでも良いだろがッ!……ンだが、また外人だァ? 妙だなオイ……」
きな臭さを感じた、四人の纏め役でもあるタカは、いきなりダストボックス裏から出た。
「お前らァ、ここで張っとけ! 俺が見て来る!」
「た、タカさん!? 吉田さんにシバかれますよ!?」
「シバかれでも指詰めでもやったらァ! お嬢の為だァ!」
それだけ言い残し、タカは意気揚々とヒラノボウル内へ突入する。
──── 一歩、二歩、三歩で飛びかかり、彼の禿げ上がった頭目掛けて白刃を下ろす。
チェリオスの頭部は真っ二つになって、そのまま死ぬだろう。
だが彼は、ボールリターンに残されていた十七ポンドのボールを取り、盾にする。
刃はボールを砕き、斬ってやった。しかしチェリオスまで到達はせず。
「ッ!?」
チェリオスは即座にスタームルガーを構え、暫し膠着状態となった銀次に目掛けて撃ち放つ。
弾丸は銀次を外した。
寸前で彼はチェリオスの腕を蹴り、射線をずらしてやったからだ。
「DAMNッ!!」
悔しがるチェリオスの声を無視し、銀次は身体を横へ落とした。
全体重をかけて上半身を落とした事で、刀はボールから抜けた。
追撃が来ると察したチェリオスは、照準を合わせるよりも危機回避が優先だと即判断。
案の定、抜けた途端に横から斬りかかる銀次。
チェリオスはボールを手放し、その場でカエルのように平伏す。
すぐ真上を、閃く白刃が通った。
「避けやがった……ッ!」
チェリオスは曲げていた手足をバネに、瞬時に立つ。
後ろへ引こうとする銀次の顔面へ、銃を握ったまま手の甲を使って目打ち。
「ぐぅ……ッ!?」
「危ねぇだろがッ!!」
怯みを見せた彼へ、間合いを詰めたチェリオスは逆の手でエイプを放つ。
攻撃は銀次の横アゴに直撃。
「な……ッ!?」
だが、まるで痛みなど無視したかのように、チェリオスの攻撃を真正面から見据えた上で彼の腕を掴む。
それを捻り上げ、逆にチェリオスを拘束。
チェリオスは大急ぎで照準を合わせ、撃ち抜こうとした。
それすらも銀次は、白刃の峰を当てて外してやる。
このままでは膠着状態に持ち込まれると踏んだチェリオスは、彼の腹を蹴り飛ばす。
両者、やっと間合いが離れる。
チェリオスはすぐにスタームルガーを向け、撃つ。
対して銀次は身体を屈めて左右に素早く動き、諸手で柄を握ったまま迫った。
逆袈裟斬りで放たれた彼の一撃は、チェリオスが身体を逸らす事で回避される。
だがその形から彼は、追撃が可能だった。
逆袈裟が避けられたならば、また峰と刃とを持ち変え横斬り。
チェリオスは刃の進行方向へ倒れ込みながら、銀次の鳩尾合わせて銃を撃つ。
今度は銀次が横に倒れ込み、弾を回避。
両者、アプローチスポットにばたんと倒れる。
刹那両者、床に手を付き態勢を整え、立ち上がる。
チェリオスは照準を合わせ、銀次は白刃を上段構えで突っ込んだ。
引き金を引こうとした時には、彼は射線を外れてすぐ目の前まで迫っていた。
銃器と近接武器。感じで見れば、銃の方が遠・中距離から攻撃出来るので、有利かと思われる。
しかし、そうとも限らない。
敵を視認し、構えて、照準を合わせる──発砲までには、様々な準備がある。それは訓練された兵士でも、なかなか一瞬で行えるものではない。
しかも相手は動いている為、当てにくいと来た。
その隙に近接武器を持つ者は、一気に距離を詰めて懐に入り込める。撃たれる前に迫ると言うのは、実は簡単な事だ。
銀次は修羅場を超えて来た経験から、それを理解していた。
対するチェリオスもまた、近接武器を持つ相手との戦いを経験していた。
彼は姿勢を低くし、敢えて銀次の胴体目掛けてタックル。
「うッ……!?」
「OUCHッ!!」
斬られる前にぶつかられ、銀次は後ろへふらつく。
チェリオスもまた、突進して来た者に突進したのだから、エネルギーの中和で同じくダメージを負う。
しかし相手へ隙を作ってやった。
ふらつきながらもチェリオスは銃口を向け、倒れそうな銀次へと発砲する。
銀次との相手をチェリオスにおっ被らせたチャカは、舎弟らと共にボウリング場を脱出するべく走っていた。
数人は裏口へ向かって逃げているが、チャカと雪緒ともう二人は表から出ようとしている。
「チャカさん! 俺らも裏から逃げません!? 鷲峰の奴らが張ってるかも……」
「馬鹿野郎ッ! 車置いてんの、表の駐車場だろぉ!? ゆっきー人質にすりゃ大丈夫だ!!」
ニューナンブを雪緒のコメカミに当てる。
ガチッとそれをぶつけられた彼女は顔を顰めた。
「いた……!」
「おうおう、ゆっきーよぉ! 俺はあのハゲと違って、優しくねぇからよぉ〜?」
「チャカさん、それはちょっと可哀想じゃないっすかね?」
「……オメェらハゲに感化されてんじゃねぇボケッ!!」
様子を見に来たヒラノボウルの支配人を突き飛ばし、ロビーを横断して走るチャカたち。
「……ふぅ」
その時、ハンカチで手を拭きながら、トイレから出て来た青年と鉢合わせる。
彼の顔を見た瞬間、チャカは足を止めて「あっ!?」と声をあげた。
ただし、声をあげたのは、雪緒も青年もだ。
「オメェ!? あん時の通訳かァ!?」
「岡島さん!!……え!? 岡島さん!? どうして!?」
「……は!? え!? 雪緒ちゃん!? ここで!?」
青年とは、ロックの事だ。
ニューナンブを雪緒に突きつけ、チャカは怒鳴る。
「動くんじゃねぇッ!! ゆっきー撃つぞッ!!」
「岡島さん逃げてください!!」
「わーわーわー!! お、落ち着け!! 落ち着いて彼女を解放するんだ!! 彼女の代わりに、僕が人質になるから!!」
三者が一斉に喚き合う。
「交渉人の決まり文句は良いんだよォッ!! まずテメェから撃つかぁッ!? おおッ!?」
「わ、私は大丈夫ですから!! 逃げてっ!!」
「わわわ分かったッ!! 撃ちたきゃ撃てッ!! そうなったら、ホテル・モスクワは君を許さないッ!!」
「撃つぞぉ!? 撃つかんなぁッ!?」
「え? ホテル・モスクワって?」
混沌とする三者を見ながら、他の舎弟二人はどうすべきか顔を見合わせている。
故に背後から近付いていた、もう一人の存在に気付く事はなかった。
「後悔するぞッ!! 撃てば必ず……ッ!!」
「うっせぇうっせぇッ!! まずてめぇから殺し──」
「おいチャカ」
その人物はチャカの背後に立つと、一言呼びかけた。
「は?──グエッ!!」
「きゃっ!?」
素っ頓狂な声をあげたチャカ目掛け、彼は銃床で殴る。
ガツンと頭部を強く殴られたチャカは、雪緒を解放してその場で伸びた。
不意打ちをかました人物とは、裏口から侵入したタカだった。
「通訳の兄ちゃん、やるじゃねェか。良く時間稼いでくれたもんだ」
「僕も助かりました……あと一秒くらいで撃たれてましたけどね」
そのままタカは、呆然と立ち尽くしていた舎弟二人を睨む。
二人は身体を震わした後、チャカを置いて逃げ去ってしまった。
解放された雪緒は丸い目をしたまま、交互にロックとタカを見つめる。
ハッと、助けて貰った事を思い出し、深々と頭を下げた。
「あ、ありがとうございます! 助かりました!!」
「やめてくだせェ、お嬢! 寧ろお嬢をみすみす攫わせちまって、申し訳ねェでさッ!!」
「雪緒ちゃん、怪我はないかい?」
心配するロックに対し、雪緒は戸惑いを含ませた微笑みを浮かべる。
なぜか着せられていた、高そうなコートのお陰で寒さはない。
「怪我とかは大丈夫なのですが……」
「良かったです、お嬢……! もうあっし、お嬢に何かあったら腹を切るつもりで……!!」
「それより岡島さんも……どうやってここが?」
ロックとタカはここまでの経緯を話してやった。
懐から、彼女の携帯電話を返す。
「君の落とした携帯電話で、銀次さんや鷲峰組の人たちに伝えたんだ」
「そンでして、兄ちゃんが言ってたチンピラ風の奴らを洗ってみりゃァ、チャカらが妙な動きをしていたって聞きやして」
「後はその人が良く集会を開いているボウリング場に行って、ケ・セラ・セラ……ってね」
「初動が良かったンですわ。あとコイツらが馬鹿って事ぐれェでしょうな」
気絶状態の彼をタカは、無理やり引き摺り立たせる。
次には携帯電話を使い、表にいる吉田らへ連絡。これでもう、雪緒の身の安全は保証された。
「本当にありがとうございます……連れ去られた時、本当に恐ろしくて恐ろしくて……」
「もう大丈夫。後は吉田さんと、銀次さんが……」
銀次の名前を出した時、「あっ」と雪緒は思い出す。
「銀さん!? そうだった!! あ、あ、あの! 付いて来てください!!」
ロックの手を引き、来た道を戻ろうとする。今度は彼が困惑する番だ。
「え? ちょ、ちょっと待って!? どうしたの!?」
「銀さんと、クリスマスさんを止めないと!」
「クリスマスさん……? 誰だそれ……って、待って待って!? 携帯落としてるから!!」
雪緒に手を引かれた時に落としてしまったのだろう。
一旦彼女を落ち着かせ、床にあった携帯電話を拾い上げた。
そのタイミングで、吉田らが二人の元へやって来る。
────ふらつきながらもチェリオスは銃口を向け、倒れそうな銀次へと発砲する。
だが引き金を引き、撃鉄が銃弾の雷管を叩くまで、そのたった一瞬。
銀次は倒れそうになりながらも、刀を振るった。
距離が離れていた為、刃の先しか届かなかった。
それでも刃先は銃の先端に直撃し、射線をズラす。
「う……ッ!?」
チェリオスに、心臓の痛みも襲いかかる。
銃を握る手の力が緩まってしまった。
銀次の刃で叩かれたスタームルガーは、チェリオスの手から離れて飛ぶ。
「しまった……ッ!!」
やってしまったと動揺し、顔中に痛みが走る。
今から銃は拾いに行けない。それに心臓も止まりかけていた。
銀次としても、まさか彼が得物を手放すとは思っていなかった。
故にこれは好機だと悟り、チェリオスとの間合いを一足で詰める。
諸手で握り、振りかぶり、渾身の力を込めて下ろす。
だがチェリオスは膝立ちになりつつ、下ろし切る前の彼の手を取り、鼻先までで止めた。
「……ッ!? なんつゥ馬鹿力……ッ!!」
「うぅ……ッ!! 心臓が……ッ!!」
とは言え、このままでは銀次に押し負けてしまう。
その前にチェリオスは彼の腕を横へずらし、力を流してやる。
刀はぐっさりと床に刺さってしまった。
「ッ!!」
チェリオスはポケットからアンナカの入った袋を取り出す。
彼の刀で袋を切ると、粉を空中にばら撒いた。
振りそそぐアンナカの白粉を、チェリオスは目一杯鼻から吸引。
次第に次第に、胸の痛みは無くなって行く。
アドレナリンが分泌され、血中に満ち満ちる。
「筋金入りのヤク中が……ッ!!」
「うおおおおおおおッ!!!!」
「んッ!?」
間髪入れず彼の服の襟を掴み、全体重をかけてレーン側へ倒れ込む。
刀を引き抜こうとするも、これによって振るう事は出来なかった。
「なん……ッ!?」
「おおおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!!!!」
銀次の巨体が持ち上がる。
宙に浮き、気付いた頃には、ボウリングのレーンへ投げ飛ばされていた。
投げ飛ばすまでのその所作は、柔道の「体落とし」のフォームだ。
尤もチェリオスは意識してやった訳ではない為、床に倒す前に手放しているが。
「──うぐッ!?」
四メートルばかし飛び、レーン上に着地。
受け身を取るも、塗られているワックスのせいで失敗してしまう。
ツルツルと滑って行き、ガツンとピンを全て弾き飛ばす。
荒い呼吸で見据えるチェリオス。
頭上にあるテレビのスコアが、「ストライク」の文字を映した。
「───イカれてやがンな……!」
即座に起き上がる銀次。
だが握っていた刀が無くなっていると気付き、辺りを見渡す。
刀は二つ向こうのレーンにある、ガターの中に埋まっていた。投げ飛ばされた時に離してしまったようだ。
チェリオスはさっと、隣のレーンを見る。
そこには自身も手放してしまったスタームルガーが落ちていた。
場所は、ピンの前。
手から離れ、ワックスを滑ったようだ。
丁度、銀次の刀とそのスタームルガーは、真逆の位置にある。
まず、二人は互いに目配せした。
「……ッ!!」
「ッ!!」
一斉に自身の武器を取り戻さんと、動き出す。
銀次はワックスを踏まないよう、ガターを足場に必死に跳ぶ。
チェリオスは助走をつけ、レーン上に腹から滑り込んだ。
レーンを跳ぶ銀次、滑るチェリオス。
チェリオスがスタームルガーを手に取り、ピンを全て身体で弾いた時、銀次も刀を取り戻した。
だが、足場が不安定なレーン上で、満足に刀を振るえるものか。
チェリオスは銃口を向け、引き金に指をかけ、
「SUSHI, and────TENPURA」
意味不明な掛け声と共に、引いた。
爆音と共に発射された、.44マグナム弾。
真っ直ぐ真っ直ぐ、空気の海を螺旋状に裂いて飛び、銀次の心臓を狙う。
もはや避けられまい。やっと手に取れた真剣を手に、ボウリングのレーン上で、ワックスに塗れて死ぬのだ。
そう思われた。
銀次が刀を構えて勢い良く斬り、弾丸を明後日の方向へ弾き飛ばしてしまうまで。
「──んッ!?」
動揺をバネに、もう一発。
その一発もまた、銀次の一閃で弾かれてしまう。
「ターミネーターでもしねぇぞ、んなの」
呆然としている内に、銀次はチェリオスのいるレーンへ向けて跳ぶ。
「クソッ……来やがれ……ッ!!」
銃口から立ち上る硝煙を薙ぎ払うよう、照準を合わせ直す。
また迫り来る銀次へ、チェリオスは真正面から立ち向かう。
両者が再度ぶつかり合うまで、残り五メートル。
刀を構え、引き金に指をかける二人。
次で勝負が決すると思われた刹那、扉が乱暴に開かれた音が響く。
その頃、チャカは構成員三人に引き摺られ、連行されようとしていた。
「このダボがッ!! 指詰めるですまさんからなッ!!」
「離せやゴラァッ!? ざけんじゃねぇクソがッ!?」
「暴れんなッ!! オイ! 縛れ縛れッ!!」
駐車場で喚き、抵抗するチャカを必死に押さえている。
このまま乗って来た車に乗せて、どこかひと気のない場所でケジメを付けさせるだけだ。チャカの人生の幕引きは近い。
だが彼は、悪運が強かった。
突然、チャカたちの前方から、一台の車がヘッドライトを浴びせてきた。
「な、なんだァ!?」
「うおお!? おい、テメェの仲間かぁッ!?」
「ケータイ落としたから助けも呼べねぇよッ!?」
甲高いエンジン音を鳴らし、なんと彼ら目掛けて突っ込んだ。
運転していた人物は、ロシア人──こと、ボコボコ顔のラプチェフ。
裏口から逃げた彼が、愚連隊から車を奪い、四人に突進して来た。狙いはチャカだが、鷲峰組の構成員も巻き添えだ。
「轢き殺してやるぅぅーーーーッ!!!! ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
エンジン音さえかけ消すような怒号を、ロシア語で喚きつつアクセル全開。
これには筋金入りのヤクザたちも、肝を冷やした。
「ロシア人が突っ込んで来たぞッ!!??」
チャカの叫びと同時に、四人は散り散りに飛んで回避。
「うおおおおお!?」
「危ねぇーーッ!?」
「何すんだッ!?」
時速一二◯キロは出ていた車は、さっきまで四人がいた場所を通過する。
激しいスキール音を響かせ、車は上手い具合にドリフト。
再度ボンネットを男たちへ向け、また突っ込んだ。彼は誰か轢くまでやめないつもりらしい。
「KGBの怒りを喰らえッ!! 震えて死ねイエローモンキーッ!! ypaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
構成員らも、もう堪らないと銃を取り出し、ラプチェフ目掛けて発砲する。
それでもブレーキを踏まないラプチェフの車は、また男たちに突っ込む。
「うぎゃーーッ!?!?」
「おおおおおーーッ!?!?」
今度は構成員二人が避け損ない、一人は左腕をぶつけられ、もう一人は爪先をタイヤで踏まれた。
即座に残りの一人が銃を撃ちまくり、カバーをする。
その甲斐あってか、ラプチェフは追撃を取りやめて轢き逃げる。
テールライトの赤い残像を残し、夜道を去ってしまった。
残るは轢かれた者たちの阿鼻叫喚。
「腕がぁあぁあーーッ!!」
「足がぁぁーーーーッ!!」
「お、おい大丈夫か!? 大丈夫じゃねぇなぁッ!?」
二人の元へ駆け寄った構成員は、ハッと気付く。
いつの間にか、チャカも消えていたからだ。
「あッ!?!? チャカ坊が消えたッ!?」
辺りを見渡すが、もうチャカの姿や痕跡さえ残っていなかった。
──扉が開かれ、次には少女の叫び声。
「ストォーーーーップッ!!」
その声を合図に、二人はピタリと止まった。
暫く視線を合わし、お互いに武器を下ろす。
それからくるりと、声のした方を見やる。
「ゼェ、ゼェ……ま、間に合った……!」
高そうなコートを羽織った雪緒が、息を乱して立っていた。
男らは素っ頓狂な表情を見せて固まる。
「……お嬢?」
「ユキオ!!」
二人が同時に彼女を呼んだ途端、ぞろぞろとロックや吉田、数名の構成員が後に続く。
チェリオスと銀次の喧嘩は、引き分けに終わったようだ。
「愛を取り戻せ!!」
「クリスタルキング」の楽曲。
1984年発売のシングル曲。ご存知、アニメ「北斗の拳」の主題歌。
ボーカルの一人である田中昌之と言えば、特撮ファンならば「ウルトラマンガイア!!」「仮面ライダークウガ!!」を歌っている人と言えば通じる。びっくりマーク好きなんですね。
低音高音の両方で放たれる熱量に満ちたツインボーカルと、無骨なリリックにメロディー。そして全編サビのような進行は、聞く人を奮い立たせる。