DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread. 作:明暮10番
すぐに引き金に指をかけ、照門の先にいる両角目掛けて引く。
撃鉄が雷管を叩き、.44マグナム弾が発射される。
「うぉ……!?」
両角はしゃがみ込む事で、寸前で回避。
流れた弾は、背後にいた駆け落ち失敗男の胸に着弾した。
「人妻になっても愛してるーーッ!!」
彼の断末魔の叫びを合図に、愚連隊と三合会は、動揺から一手遅れた香砂会の構成員らへと照準を合わせる。
「始めようぜッ!!」
チャカの何とも楽しげな声と共に、両陣営一斉に発砲。
H&K MP5、USSRトカレフ、S&W M39、GM M3、PPS43、玉石混交とした銃器が弾を吐く。
ツギオン君はソードオフの水平二連式ショットガンを撃ち放ち、彪はH&K G3を乱射。
立ち籠る硝煙に、鳴り止まない銃声と悲鳴、そして罵声。
飛び散るは鮮血と銃弾、マズルフラッシュに空の薬莢。
その中でチャカは、ニューナンブを使っていた。
数発撃つと、弾が切れる。
「弾がねぇッ!! 弾がねぇッ!?」
慌てる彼の前で、生き残った香砂会の構成員も反撃に移ろうとする。
銃口を向け、引き金に指をかける。
照準はチャカに合わせられた。
ハッと彼が気付いた頃には遅く、銃声が響いた後だった。
「ぐぅふぅぇえーーッ!?」
「ッ!?」
チェリオスは叫びを聞き、彼の方へ振り向く。
五発の凶弾がチャカを貫いていた。
血を吐き、膝から崩れ落ちる彼を、チェリオスは目の当たりにする。
「──チャカぁーーーーッ!!??」
彼がやられたと知ると、ツギオン君が愚連隊のメンバーへ檄を飛ばす。
「仇ィ取りに行くぞッ!! 突っ込めーーッ!!」
硝煙を掻き分けるように、発破をかけられた愚連隊は駆け出す。
雄叫びをあげ、撃ち続け、仇を討たんと突撃だ。
チェリオスは彼らとすれ違いに、倒れ伏すチャカの元へ駆け寄った。
血を吐き、目が虚ろな彼に語りかける。
「クソ……! 見直したぜ俺は……! お前は、最高の相棒だ……ッ!!」
「ふ……ふざけんな……返せよ……俺の、ルガー…………」
「血が止まんねぇ……!! オイ!! しっかりしやがれッ!!」
「クソが……やっぱ……殺しときゃ」
「チャカーーーーッ!!」
「黙れ……」
彼のか細い呪詛は、銃声が全て掻き消していた。
苦しげに咳き込むと、一際ドス黒い血を吐く。
呼吸が浅くなり、最後は目を閉じガクリと首を落とす。
それっきり、目は覚まさなかった。
大乱闘の中、先輩警官が大慌てでニューナンブを取り出す。
「え、ええと……まずはッ! 威嚇射撃ッ!!」
立ち止まってから銃口を足下に向け、威嚇射撃を一発。
「たぶッ!?」
「先輩!?」
そんな事をしている内に、流れ弾が首筋に着弾してノックアウト。
勢い良く後ろに転び、入って来た窓を転げ落ち、雪降る庭へと倒れた。
先輩がやられた事を確認した後輩は、復讐に燃える目で手錠とニューナンブを両手に持つ。
「……おのれぇ……! 社会のクズどもめぇ……! 粛正してやる……!!」
彼の目は、大慌てで政巳を抱き起こす両角へと向けられている。
両角は銃弾を避けるべく身を屈めながら、政巳と共に逃げ出そうと行動していた。政巳はトーキョーカクテルの入ったケースを、大事そうに守っている。
腰からスタームルガー・P85を抜き、両角も応戦。
「
「何なんだコイツらァッ!? いつの間にッ!?」
「ここは引きやしょうッ!! 関東和平会に協力を仰ぐんでさッ!!」
数人の構成員に守らせ、政巳と共に脱出を図る。
戦場は熾烈を極め、守護に当たらせた構成員らも一人、また一人と脱落した。
廊下に出ようもする両角ら。
すると隅から現れた者に、両角は手錠を左手にかけられる。
「あアッ!?」
「ヒャホホホホホッ!!!! 殺すぜぇーー!?」
「何だコイツッ!?」
奇声をあげてニューナンブを構える、後輩警官。
両角の真横に立ち、引き金に指をかけた。目が狂気に歪んでいる。
やられると思ったその時、後輩警官は横から頭を撃たれ、白目を剥いて絶命。
弾が飛んで来た方を見ると、SIGザウエル P220を握ったラプチェフの姿があった。
「クソッ!! こうなるんなら、最初からバラライカらのいるホテルに押し入れば良かったッ!!」
ロシア語で愚痴ってから、通訳もいないのに英語で政巳に話しかける。
「俺の部下の別働隊が港にいるッ!! そこまで行くぞッ!!」
「……何言ってんだ?」
「
カモンだけは聞き取れた。
二人は顔を見合わせてから、先導するラプチェフにおずおず付いて行く。
両角は左手に片方だけかかった手錠を見て、うんざりした表情だ。
彪は仲間と共に、構成員らと応戦中だ。
壁を盾にしてH&K G3を乱射し、建物ごと敵を蜂の巣にして行く。
「クソクソクソッ!! 大兄は何考えてんだーーッ!?」
「おい彪ッ!!」
ブラックホークを撃ちながら、チェリオスが彼の元に寄る。
彼の持つ銃はシングルアクションの為、一発撃つ度に撃鉄を手動で起こす必要があった。排莢も自分で一発一発手ずからせねばならない。連発出来ない事が煩わしそうだ。
「コーサのボスはッ!? 硝煙と騒ぎで見失っちまったッ!!」
「トーキョーカクテルはッ!?」
「それも奴らがッ!!」
「クソ……! アッ!? いたぞチェリオスッ!!」
彪が指差した先には、ケースを持った政巳が両角と共に廊下へ出て行く姿が。
視界に捉えたチェリオスは、何も言わずに戦場へと飛び込む。
「死ねーーーーッ!!」
ナイフを片手に突っ込む、香砂会の構成員。
チェリオスは即座に彼の手を掴む。
そのまま一息の内に背負い投げを繰り出し、床に倒す。
最後はバズンッ、と顔面に撃ち込んだ。
「うおおおおおおーーーーッ!!」
別の構成員が銃を向け、チェリオスに発砲。
気配を察知していた彼は、身体を逸らして弾を回避。
撃鉄を起こし、反撃する。
銃弾は構成員の胸に大穴を開け、伏せさせた。
またしても硝煙の中から、GM M3を向ける構成員が繰り出した。
彼はチェリオスのみならず、愚連隊や三合会目掛けて.45ACP弾を食らわせる。
チェリオスは直線コースを諦め、大回りで逃げる。
銃弾は物や壁を打ち砕きつつ、敵を一掃した。
「うわああああーーッ!!??」
景山は床に蹲り、叫ぶだけ。高級スーツが、煤で台無しになっている。
血を吐き倒れる愚連隊、崩れ落ちる三合会。
死体の間を縫って姿を現したチェリオスは、横に飛びながら引き金を引く。
弾は顔面に命中。
やっと銃声が止まった。
「うぐっ!」
チェリオスは重力に従い、床に倒れる。
すぐさま立ち上がろうとした時、激しい胸痛に襲われた。
自動輸注器は取られた。カフェインが足りない。
心臓が止まろうとしている。
「あぁあ……あ、アンナカ……!!」
ポケットから取り出し、袋を切って吸おうとする。
必死に出したアンナカは、流れ弾が破って散らせた。
「〜〜〜〜〜ッ!! GODDAMNッ!!」
ぐずぐずしていては両角らを取り逃す。
気を揉んだチェリオスは覚悟を決め、袋を投げ捨ててから勢い良く立ち上がる。
乱闘は続く。
「ぬはぁーっ!!??」
通りをランニングしていた中年男が、壁抜けの流れ弾を受けて死んだ。
広間を抜けて廊下を走り、外を目指す政巳たち。
追いかけて来る敵は構成員らに対処させ、弾丸が飛び交う中を無我夢中で突き進む。
この先を行けば玄関だ。
必死な彼らを追うは、シェブ・チェリオス。
杉フローリングの床を滑って角を曲がり、政巳たちの後方に躍り出た。
「覚悟ぉおぉおおおおーーーーーーッ!!!!」
叫びながら、スタームルガー・ブラックホークを撃つ。
彼に気付き、応戦しようとする構成員たち。
だが卓越した射撃スキルを持つ彼に対抗出来ず、一人やられた。
撃鉄を起こし、発砲。また起こし、発砲。
反動を物ともしない姿勢で、立て続けに撃ちまくり。
護衛の構成員が一人、また一人、またまた一人やられて行く。
仲間の鮮血を浴びながら、殺意に満ちた目で両角は振り返る。
「────舐めやがってぇえーーーーッ!!」
生き残りの護衛を押し除け、左手にかかった手錠がじゃらりと揺れる。スタームルガーP85を構えた。
チェリオスも撃鉄を起こし、立ち止まって照準を合わせる。
「安い銃を俺に向けんじゃねぇ貧乏ヤクザがぁぁあああーーーーッ!!!!」
「死に腐れドサンピンがぁぁああーーーーッ!!!!」
両者、同時に発砲。
9mmパラベラム弾がチェリオスへ、.44マグナム弾が両角へと放たれる。
結果から言えば、弾はどちらも外れた。
両角からの攻撃は、チェリオスが射線から身体を外した事で回避される。
チェリオスからの攻撃は、政巳の持っていたケースに塞がれた。
「クソぉーーッ!!」
両角の持つP85はオートマチックだ。シングルアクションのブラックホークとは、連射性の差でかなり優位だ。そのままもう一発撃とうとする両角。
撃鉄を起こすまで、チェリオスは回避しようと動き出した。
「────うぅッ……!?」
心臓に激痛。鋭い目眩と倦怠感、そして息苦しさ。
膝が笑い、立てなくなり、ガクリと膝を突く。
膝立ちになったお陰で運良く、両角の撃った弾は頭上を掠めて外れた。
だが、次を止める余裕はない。
ブラックホークも、持ち上げられないほどに腕が動かないからだ。
身体ももう、動かせない。
「はぁあ……ッ!!」
苦しむ彼の様子を見て、両角は銃口を上に向けてから、察したようにほくそ笑む。
「ハッハッハ!! なんだ、毒が効いてンじゃねェか!!」
「モロッ!! さっさと殺せッ!!」
政巳に命じられ、再び照準を合わせる。
護衛らに手出しさせぬよう一瞥してから、引き金に指をかけた。
膝立ちのまま、死に行く目で睨むだけのチェリオス。
その眉間を、照星が示した。
勝ち誇った笑みを浮かべ、指に力を入れる。
引き金が押されて、一ミリ動く。
瞬間、廊下の窓が割られて、何者かが飛び込んだ。
ガラス片を浴びながら、そっちの方を向く。
肉切り包丁を掲げた、見知った人物が窓から床に着地する。
「チェェェェェリオォォォォォ────ッ!!!!」
怒りのフラット・ジャックだ。
彼は着地と同時に駆け出し、チェリオスの前に立とうとする。
両角は、引き金を引いた。
全てを察したチェリオスは、渾身の力を込めて叫んだ。
「やめろぉぉぉーーーーッ!!」
「え? なにが──」
放たれたパラベラム弾。
それはチェリオスの前に立ち、彼の盾となったフラット・ジャックの背中に着弾。
「あはんッ!?」
身体を仰け反らせ、肉包丁を落とし、血を吐くフラット・ジャック。
絶望し、愕然とするチェリオスは何とか立ち上がり、倒れようとする彼を抱き止めた。
「なんだそいつッ!?」
攻撃が失敗したと気付くや否や、護衛たちが代わりにアキュ・テックで発砲する。
矢継ぎ早に撃たれた.380ACP弾を、チェリオスは抱き止めたフラット・ジャックを盾にして防御。
「おぼぉぉおおおーーッ!?!?」
代わりに撃たれる彼の悲鳴を聞きながら、脇から顔を出したチェリオスがブラックホークで撃ちまくる。
応戦する護衛。しかし肉壁を手に入れた彼に敵わず、全滅する。
残った者は政巳と両角、ラプチェフのみ。
彼らは追撃を諦め、玄関を目指し撤退してしまう。
シリンダーは空薬莢だけしかない。チェリオスも追撃を諦める。
それよりも自分を守った(と、チェリオスは思っている)、フラット・ジャックだ。
チェリオスの腕の中で彼は、背中と口から血を吐き、死にかけていた。
「なんでだ、フラット……ッ!! なんで俺を……守ったんだ……ッ!!」
「ち……ちが……」
「俺にも……こんな俺にも……守ってくれる奴がいるなんて……ッ!!」
「ころ……殺じでやる……」
「あぁッ!! 仇は討ってやるッ!! だから、お前は……もう、休め……ッ!!」
「ふざけ……」
「お前の嫁……良かったぜ……ッ!!」
「──────」
何か言いたそうな顔のまま、フラット・ジャックはそこで事切れる。
チェリオスは涙で潤んだ目を拭いながら、彼を床に寝かせた。
両角らへ追いつこうとする。
だが身体はもう限界に近い。カフェインが、足りない。
覚束無い足取りで、廊下を進むチェリオス。
途端、背後からドタドタと音が聞こえた。
振り向くと、広間から来た香砂会の連中がやって来ていた。
銃を構え、彼目掛けて撃つ。
何とか止まりかけの思考を回転させ、すぐ隣にあった部屋に飛び込む。
銃弾は回避したが、部屋は袋小路だ。
ブラックホークも弾切れで、再装填する余裕はない。
「客室に逃げたぞ!! 追え追え追えッ!!」
構成員らは勿論、チェリオスを追う。
死に物狂いで扉を閉め、鍵をかけた。
だが一時凌ぎでしかない。奴らは扉を蹴破り、中に雪崩れ込む。
そうなれば、チェリオスにもう勝ち目はない。
「あ……あ……」
カフェインが切れ、アドレナリンが滞る。
心拍数が緩やかになり、血圧が落ちる。
「あ………………」
扉を蹴破らんとする、衝撃音が響く。
だが反撃する力はもう、残っていない。
「────────」
ここまでか。
チェリオスは瞳の力を抜き、闇の世界に堕ちようもする。
もう何も、考えられない。
視界がブラックアウトする間際。
自分のいる部屋に飾られた、業物の日本刀が目に入った。
『Queen of KABUKICHO』
「鼻からアンナカ吸うなら、粘膜摂取ですぐ効果が出るかもでしょうね。でも、コーヒーとかでカフェインを補給する時は気を付けてねん」
「なんでだ?」
「カフェインを経口摂取した場合、最初は胃で、残りは小腸で吸収されるわ。そのプロセスを経て、カフェインが血中に満ちるまでが大体、十五分から四十分よ」
『Guts the Way!!』
「……うぉ、なんだこの茶ぁ? やけに苦いな……」
「それ『玉露』よ! 高いお茶なんだから、気安く飲まないでよ!」
「うるせぇ。命は金に換えられねぇんだ」
「他人の命で稼いでる男が言う?」
『I Want to Make Love to You』
一人……いや。景山と残されたチェリオスは、まずはパチクリ瞬きをする。
水筒を開き、中身のお茶を飲み干す。
かなり渋く、奥深い味わいだ。
空になった水筒を捨てると、自分の股間を揉む。
「……人生最後の相手が男……男と、ヤっちまった……嘘だろ……これから、死ぬのにか?……嘘だろ……えぇ……?」
香砂邸に乗り込んで、二十分経った。
血中のカフェイン値が、やっと上がる。
シェブ・チェリオス、今際の際から目を覚ます。
一回、二回、三回と蹴られ、とうとう鍵が破壊される。
激しい音を響かせ、チェリオスを守っていた扉が開かれた。
客室に突入する、構成員たち。
そこに広がる光景を見て、思わず立ち尽くしてしまった。
部屋の中央で、正座をするチェリオス。
手には日本刀が握られていた。
閉じていた瞳を、ゆっくりと開く。
鞘に収まった刃を、晒してやった。
きぃんと、澄んだ音が響く。
刃を立て、チェリオスは切先から切羽までを眺めた。
美しい刀だ。
波立つ刃文が、彼をくっきりと映していた。
柄も手に馴染む。
切先を下ろし、構える。
蹲居の姿勢となり、左足、右足の順番で立ち上がる。
そして、脇構えの姿勢を取った。
「な、な……なに? なんで?」
困惑する構成員。
チェリオスは一度目を閉じ、呼吸を整える。
次の瞬間、開眼した彼はその構成員へ突っ込み、銃を構えたその両手を切断してやった。
シェブ・チェリオス。
ここに来て、高みに到達してしまう。
ありがとう、悲しみよ。
「TAKE ME HIGHER」
「V6」の楽曲。
1996年発売のシングル。翌年には作曲者の「デイブ・ロジャース」が歌詞を変更し、所々をアレンジしたセルフカバーバージョンとして発売している。
V6と言えば、ミレニアル世代にとっては「学校へ行こう!」でのイメージが強いハズ
そしてこの曲もご存知、「ウルトラマンティガ」の主題歌として有名。
日本でまだまだ人気だったユーロビートを基盤としつつ、中盤でストレングスによる壮麗な演奏と、熱のこもったギターソロを加えた、一つ交響曲のような一曲。
私個人は「うたかたの…」での使われ方が印象深いですけど、どなたご理解いただけますかね。