DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread. 作:明暮10番
「凛として時雨」の楽曲。
2018年発売「#5」に収録されている。
衝撃的なハイトーンボイスに、予測不能でハイカロリーな進行、そして邦楽界随一のプレイヤーで固められたハイレベルな奏者たちによる規格外バンド。
ドラマーのピエール中野と言えば、同じドラマーを志している者なら知らぬ人はいないハズ。
フロントマンのTKによるソロプロジェクトが進む中で、バンドとして2年ぶりに発表したシングル曲。アルバムに関しては5年ぶり。
初期の代表曲でもある「Telecastic fake show」を彷彿とさせるイントロから始まり、歪んだサウンドが突き崩すようにかき鳴らされる。
タイトルから察せる通り、ダイ・ハードを彷彿とさせる歌詞が満載。
MVは、これまで彼らの演奏シーンのみを映したシンプルな構図がセオリーだったのに対し、一定のストーリー性とバンド以外の役者も登場する、ある意味で時雨らしからぬ内容となっている。
なんと我らがジョン・マクレーン(のモノマネ芸人)も出演している。
天を仰ぎ、
海を漂い、
雪を受け、
血を流す。
暴力と陰謀の夜を生きた男は、
遠い異国で愛の為に駆けた。
狂っていて、同情の余地もない所業と行動の数々であったが、
仁義と愛を胸に駆け抜けた事で生まれた希望もある。
鷲峰組だけではなく、ホテル・モスクワと三合会、俺にさえも。
彼は歩く死人だ。
ロアナプラの有象無象と同じ、歩く死人だ。
それは最後まで変わらなかったと思う。
だが、目覚めていた。
間違いなく、彼は死人のまま目覚めていた。
生きる事に執着した。
その身体は、死に近かったと言うのに────
「……違うな」
生物である以上、肉体は終わりへと向かっている。
寿命がすぐか先かの違いで、自分たちは日々、死を認めて生きている。
毎日の一秒一秒の瞬間が誰かの誕生日であり、命日だ。
世界のどこかで誰かが死んでいる。
年齢なんて関係ない。死ぬ時こそ、死ぬんだ。
裏の人間は、それを感覚的に理解しているのだろう。
一生と言うものをダイナミックで考えているようだ。
あまりにも壮大だから、彼らは命を軽んじた。
太陽だって最後は死ぬんだ。俺たちだっていつ死んでもおかしくないさ。
納得出来るような、理解し難いような。
ロアナプラの連中は皆、生に対して特異な価値観を共有している。
故に、命を軽んじていられる────
空港にロビーに座っていると、トイレを済ませたレヴィが寄って来た。
「お互い、大した怪我なくて良かったな」
「良い事だよ。俺もこれ以上の怪我は勘弁したかったからさ……」
肋骨の辺りをさする。レヴィは呆れたように眉を上げた。
「んなモン、怪我の内に入らねぇっての。てかもう治ってんだろ……」
「帰ったら医者に聞いてみるさ」
飛行機の時刻が迫る。
二人は顔を見合わせ、席から立ち上がった。
「……なぁ、ロックよぉ」
搭乗口へと歩きながら、レヴィは聞く。
「……死ぬ瞬間に笑う奴ってよ。なに考えてんだろな」
ロックは驚いた顔で反応する。
目は合わせず、前方をジッと見据える彼女の横顔は、気怠げではあった。
何か、解せないと言いたげな雰囲気だ。
少し考え、答えてやろうと口を開いた。
途端、「ようこそ日本へ」と表示された液晶が目に入る。
他に富士山の前に桜が茂る、見事な情景を添えていた。
口を止め、呆然とそれを見やる。
彼の変化に気付き、レヴィが顔を向けた。
「どうしたロック?」
「…………いや」
微笑んでいるのか、悲しんでいるのか。曖昧な表情を彼女に見せる。
「……帰ろうか、レヴィ。俺たちの場所へ」
そう言って、液晶に背を向けた。
────ロアナプラの連中は皆、生に対して特異な価値観を共有している。
故に、命を軽んじていられる。
そんな奴らと、シェブ・チェリオスの違いはなんだ。
それは死を受け入れながらも生きていると言う、矛盾を逆転させた点だろう。
彼は、生きる為に死んだ。
死ぬついでに生きている、歩く死人とは違う。
味わえなかった生の幸福を、死によって実感し、味わえた。
だから彼は最後に、笑えたんだ。
BONUS TRACK……!?
テレビを観てきた吉田は、唖然とした顔で廊下を歩いていた。
「…………嘘やろアイツ……青山通りでカーセックスしとったで……」
香砂会を潰した事実よりも、そっちに意識が向く。
もはや笑いさえ出て来るようなチェリオスの所業に、脳が追い付いていない様子。
「……アレをお嬢に見せる訳にはイカンな……アカン。絶対見せたアカン」
そう決意し、彼女からどうチェリオスの事を忘れさせようかアレコレ思案する。
うんうん唸りながら歩いていると、坂東と鉢合わせた。
「おう、吉田。集中治療室はこっちやぞ」
「あ、兄貴。すいやせん、考え事しとって……」
「…………ふっ。兄貴か……おどれに言われたんは久しぶりやな」
「いえ、兄貴、そんな……」
二人はすれ違う。
五歩ぐらい歩いたところで違和感に気付き、目をカッと開いて振り返る。
「兄貴ッ!?!?!?」
彼は背を向けながら、楽しげに手をヒラヒラと振っていた。
実写版ルパン三世の次元大介に似た男と、ボルサリーノ2に似た男の双子が、仲良く集中治療室を出て行く。
担当医も焦った様子で二人を追いかけ出て行ったので、室内は雪緒と銀次と、通訳男しかいない。
銀次はチラリと、チェリオスが置いて行ったケースを見る。
「……お嬢。そいつぁ……」
「……見てみましょうか」
ケースを開けて、解放する。
液体の入った注射が数本あり、売却ルートを載せたメモも添えられていた。
チェリオスの言った通り、これこそが裏社会の誰もが欲しがる猛毒、トーキョーカクテルなのだろう。
激しくぶつけた様子ではあったが、中身に損害はなかった。
「……世界中の悪党が欲しがる、最強の毒……ですかい?」
「……銀さん、見てください、コレ……」
入っていたメモにある、コネクションの一覧を指で指し示す。
「……知らねぇ国の政治家まで欲しがってンのか……」
「毒物が体内から検出されないともあります」
「なるほど。こりゃぁ、どいつもこいつも欲しがるモンで……」
メモの下の方にあった注意書きを見て、銀次は目を細める。
「……馬と象専用とありやすが?」
「あぁ……インドの官僚さんの名前が多いのはそう言う……」
「だが、人間に使えば……証拠も何もなく、殺せるってモンだ……」
チラリと、注射を眺めている雪緒へと目配せする。
このような危険物に、関わって欲しくないと言うのが彼の本音だ。
「……これをどう、使うつもりで?」
「……チェリオスさんは、組を立て直す礎にしろと渡してくださりました」
「そうなンですが……俺ぁ、こんな外道なモンを……」
「………………」
雪緒は考え事をしながら、ケースを閉めた。
俯き、瞳を閉じ、あれこれ思案する。
「……ホテル・モスクワさえも黙らせられる。それだけではなく、鷲峰に身を置く方々を助ける物ともなる……」
「……お嬢」
「………………」
取手を両手で握り、彼女はケースを持つ。
納得させるように頷きながら、目を向けず銀次を呼ぶ。
「……銀さん」
「……へい」
この際だ。雪緒の命令なら、どんな事も受けてやろうと考えてはいた。
今は組の存続に関わる瀬戸際。誰にとっても難しい問題だと、諦めている。
複雑な心境の銀次を無視しつつ、雪緒は彼に命じた。
「……窓。開けて貰えませんか?」
「へい…………はい?」
予想外の言葉に、唖然となる銀次。
お嬢の望みならと、すぐ我に返って窓を開けてやる。
冷たい風が流れ込んだ。
外は雪が降り、アスファルトを白に染め上げていた。
ここは四階。遠くの景色まで、良く伺える。
「……開けましたが」
「ありがとうございます」
「お嬢……何をするんで?」
雪緒は天井を見上げ、息を吐いた。
その後、キッと顔を窓の方へ向け、ケースを持ったままカタカタと歩き始める。
「これはチェリオスさんが、私に託してくださった希望です。それを無下にするは、彼の矜持と覚悟に泥を塗る事となります」
「そうではありやすが……」
「次にこれを使えば、組の立て直しも可能です」
「…………可能、ですが……」
窓の前に立つ。
困惑気味に彼女を見ていた銀次だが、一旦踵を返し振り向いた雪緒を見て驚かされる事に。
ニッコリと、年相応の可愛らしい、満面の笑み。
その顔のまま彼女は、こう言った。
「でも案外、無くても大丈夫そうな気もしますね!」
瞬間彼女は、腰を捻ってケースを回し、窓から放り投げた。
「!?」
愕然とする銀次に向かって、にやりと悪い笑み。
「スッキリしました!」
「お、お嬢……あの、チェリオスとの約束とかは……」
「あの人も約束を破ってますし、おあいこですよ! これで世界中の悪い人たちは大慌てでしょうね!」
何ともしたたかで、根に持つ少女なのだろう。
釣られて銀次も、笑ってしまう。
ケースはロックされていなかった。
空中で開き、中身の注射をばら撒きながら、下へ下へと落ちて行く。
雪と並んで、風を切り抜け、重力に従い、固く広がるアスファルトへと。
四階から三階、二階、一階と、羽根の折れた鳥のように。
病院の前で、自転車を立てながら電話をする男がいた。
「母ちゃん、心配すんじゃねぇべ! オラぁ、東京でも上手くやってるって! こないだ外人を自転車で轢いちまったが、別に訴訟とか無かったべさ!」
故郷の母と電話越しに談話する彼の隣に、ケースとトーキョーカクテルが地面に叩きつけられた。
びっくりした彼は自転車に乗って、その場から逃げる。
「ぎゃーーッ!? 東京は怖ェェェェーーッ!!」
ぶち撒けられ、破壊された注射の中から、トーキョーカクテルがトクトクと流れる。
アスファルトに吸い込まれ、雪解けの水に混ざりながら、消えて行く。
一本だけ、奇跡的に生き延びた注射があった。
それはやって来た救急車にタイヤで押し潰されて、破壊される。
病院前で救急車は停まると、すぐに車内からストレッチャーで患者を運び出された。
「
運ばれながら、患者の男は弱々しい声でぼやく。
「あの……ハゲ……殺す…………返せよ……俺の……スタームルガー……ブラックホーク……」
「はい静かにッ!! 黙って生き延びて刑務所にぶち込まれ
患者は言葉のキツイ救急隊員と共に、院内に消えた。
トーキョーカクテルは、レシピを知る者も含めて、永遠に葬り去られた訳だ。
次に東京湾を航行するボート。
マイルズと彪を乗せたそれは、ある場所へと向かっていた。
「ドクター!! この辺なんだなッ!?」
マイルズは手元にある、GPSの追跡装置を睨みながら頷く。
「この辺で消えた! 近くにいるハズなんだが……」
「あッ!? いたッ!!!!」
「いたのかぁ!?」
寂れた港の桟橋近く、プカリと仰向けに流れるチェリオスの姿を発見。
左胸から血を流していた。
「おい寄せろ寄せろッ!!」
「あれはもう、死んでるなぁ」
「諦めるなッ!! 俺の進退がかかってんだッ!!」
叫ぶ彪の指示を受けながら、ボートはチェリオスの傍で停泊。
乗組員がすぐに彼を引き上げた。
「生きてるかッ!?」
「いや死んでいるだろう」
乗組員が脈を確認すると、信じられないと言いたげに目を剥きつつ二人に話す。
「……生きてます」
「生きてるのかぁ!? ハッハーーッ!!」
諦めムードだったマイルズもはしゃぐほどの奇跡。
しかし胸を撃たれているのに、なぜ死んでいないのかと誰しもが疑問に思う。
彪はまさかと思い、チェリオスの撃たれた箇所を見やる。
そこは胸ポケットの位置だ。
ポケットを開け、中から何かを取り出す。
GPSの発信機が、壊れた状態で見つかった。
『部屋に入って来た彪が、チェリオスに「スーツを投げ渡す」。
彼の持つバッグには、大量のカフェイン飲料とアンナカが入っていた。
「裏切り者に情報が流れたらマズい……ギリギリまで、仲間には伝えられない。あんたが香砂会に突入してからが俺たちの本番だ」
ペンシルストライプのシャツの上に、フロントブレイクタイプのショルダーホルスターを付ける。
次にそれらを隠すように、漆黒のジャケットを着た。』
あの時、彪はチェリオスのスーツの胸ポケットに、GPSの発信機を仕込んでいた。
元々はフラット・ジャックのランボルギーニにあった物だ。マイルズに命じられ、拝借した。
発信機だけで銃弾は止められてはいないが、勢いをある程度殺していた。
なので銃弾は着弾したにせよ、心臓への直撃を免れていたようだ。
しかも不幸中の幸いか、その一発による痛みがアドレナリンを生み、彼の生存に一役買っていた訳だ。
「悪運の強い奴だ……!」
「しかしぃシェビーは、誰に撃たれたんだぁ?」
「そんな事はもう良い! ほら、早くあんたの手で延命させてくれ!」
マイルズは乗組員に目配せし、輸血袋や生命維持装置を運び込ませた。
様々な機会やチューブがチェリオスに繋がれる。マイルズは器具を使い、銃創の手当てを始めた。
ボートを再び動かす前に、彪は手術中の彼に聞く。
「どうしてチェリオスの身体が必要なんだ!?」
「三合会からの依頼だよ。理由は私にも知らされていない。張よりも上の人間かららしいぞぉ」
「なぁ、教えてくれ! 三合会の……『伝説的人物』って……!?」
「それは私も知らん。私はドン・キムから託されたに過ぎん」
「ドン・キムぅ? ロサンゼルス支部のか?」
「彼のお陰で、私は薬物や機材を日本に持ち込めたのだよ。引き換えに詮索しないよう言い渡されたがな」
彼は鮮やかな手並みで銃弾を取り出し、傷口を縫う。
一通りの仕事を終えてから、彼は彪と顔を合わせて話した。
「私はシェビーを救えるならと、引き受けた。それだけだ。彼の身体を何に使うのか、聞かねばならないなぁ」
「なんだよ……アンタも三合会に雇われていたのか?」
「一端の闇医者が、トーキョーカクテルの効果に詳しいとは、おかしいと思わなかったのかね?」
その言葉を聞いた途端、彪は察したように目を剥く。
「じゃあアンタが、もしかして、トーキョーの前の、ペキンの……!?」
「
手術が終わったと分かると、運転手に命じてボートを起動させた。
ボートはどこかへ向かおうとし始める。行き先はマイルズも知らない。
「ここからはどうするんだぁ?」
「三合会が所有する、医療用ヘリが待ってる! そこまで行けば、俺もアンタも任務完了だ!」
「シェビーはどこに運ばれるんだぁ?」
彪はその先の行き先を乗組員から聞いた後、エンジン音に負けない声量で答えた。
「ロアナプラだッ!!」
カーテンから漏れる陽光を浴び、男が目を覚ます。
気怠そうに息を吐き、ベッドの上で上半身をむっくり起こした。
気持ちの良い目覚めとは言えない。頭痛に、焼けつくような胃痛を伴う最悪の朝だ。
「……あぁ、朝かよクソッタレ……あー、二日酔いだクソ」
起き抜けに見た、枕元に立てて置かれた未開封のビール瓶を手に取る。
迎え酒は良くないと知ってはいるが、この際良いやと開き直った。
立ち上がり、ふらふら歩きながら、テーブルの角で栓を抜く。
そのまま瓶ごと、ラッパ飲みをした。
「……アアー。朝から飲む酒は格別だねぇ、ダメ人間よぉ」
シャツの下に手を入れ、腹を掻く。
靴の踵を潰して吐き、トイレへと歩いた。
途中、壁にかかったカレンダーを見る。
日数は、八月だ。
「……もう一年近いな。あと半年か……へっ、長ぇ」
ぼやきながらまた、歩き始める。
トイレは風呂場と同居している為、風呂場のドアを開いた。
その時、玄関の方に目が向く。
扉の下から差し込まれた、一枚の紙に気付いた。
「………………あ?」
何事だと気になった彼は、トイレを取り止めてその紙を拾う。
手紙のようだ。封筒で包まれ、ご丁寧に封蝋まで施されている。
「……この街の人間とは思えねぇ丁重さだなオイ……パーティーの招待状か? ホストはグレート・ギャツビーってか?」
この約一年ほど街を調べた。該当する紋章のマフィア、ギャング、金持ちはいない。
街の外から来た人間だろうか。
気になった彼は手紙を持ったまま、ベッドの方へ引き返す。
そこに腰掛け、膝の上に置いた手紙の封蝋を、片手で取る。
封筒を開き、便箋を出す。
ビールを飲みながら、中を読んだ。
始めは、箱の中を好奇心で覗くような気分だった。
一行目を読み、二行目へと行く。
段々と行を追う毎に、酔った目付きは鬼気迫るものへと変わる。
「……嘘だろ……!?」
最後の行を読み終えた時、彼は握っていたビール瓶を手放した。
床に倒れ、中身をぶち撒ける。
だが彼は構う事なくビール溜まりを踏み付け、窓の方へと走った。
カーテンを開き、外を見渡す。
誰かを探すかのように、ガラスにへばり付きながら瞳を左右させる。
汗が滲む。蒸し暑さのせいではない。
喉が渇く。酒の飲み過ぎによるものではない。
息が荒い。空気が薄いからでもない。
朝日を浴び、すっかり冴えた頭で思考を繰り返す。
なぜだ、なぜだと言い聞かせ、「見つかってくれ」と心中で祈った。
玄関に背を向け、外を見る男。
突然響いた、ドアを叩く音に驚き、振り返る。
「ふッ……!?」
男──ジョン・マクレーンの受難は、終わりそうにない。
ひきつづき
を お楽しみください!
NEXT SEQUENCE
『This Side of Forever』
1983年公開の映画「ダーティハリー4」の主題歌